※この作品はR-18です。

魔法少女まどか☆マギカR‐18   作:七音

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【呉】スピンアウト編・下の1【キリカ】

 

 

 他人の不幸は蜜の味。

 他人の幸福は毒の味。

 だったらきっと、わたしは毒蜂。

 周囲に蜜を撒き散らし、お腹の中に毒を溜め込む。

 

 あぁ。なんて甘くて、苦いトロトロ。

 もっともっと味わいたいの。

 わたしだけが味わいたいの。

 

 だから。

 みんな、みぃんな、不幸になぁれ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 カン、カン、カン――と、アパートの階段を上る音が響く。

 コンビニの袋を片手に携帯で時間を確認すれば、時刻は午後二時。

 休日とはいえ、昼食には少々遅いかも知れない。むしろオヤツか。

 そう言えば、ここ最近は自分で紅茶を用意していない。

 少し前までは、ちょっとでもあの子に近づこうと、オヤツまで買って毎日のように飲んでいたのに。

 

 ……まぁ、どうでもいいか。

 

 鼻で笑い、自宅のドアを開ける。

 一応、ただいま、と声をかけるが、答えは返らない。小さくため息をつき、靴を脱ぐ。

 奥へ進むと、綺麗に片付けられた室内が目に入った。

 ちょっと前までゴミだらけだったのが嘘のようだ。今となっては、乱雑な部屋が懐かしい。

 

 

「ん……ふふっ……すぅ……」

 

 

 ……ごほん。

 

 目を閉じれば、あの頃がすぐに思い出せる。

 あの子に負けないよう勉強を頑張ったり、弟達と一緒に服を買いに行ったり。

 この部屋で過ごした一夜の事も、鮮明に思い出せる。

 

 

「うふふ……ん~……やぁ、です……」

 

 

 …………うう゛ん。

 

 あの時、胸へ刻まれたものは、決して忘れられないだろう。

 彼女の体温。彼女の声。彼女の感触。彼女の想い。

 何一つとして、忘れていいものは無い。

 

 

「あ……ゃん……そこ、だめ……せんせぇ……」

 

 

 ………………はあぁ。

 

 大きな溜め息。もう呆れるしかない。

 ちゃんと起きなよ、と声をかけて出かけたというのに、この子は一体どんなエロい夢を見てるんだよ……。

 意図して視界から排除していたソファーベッドを横目で見やると、そこにはこんもりした布団の蓑虫が鎮座していた。

 中には間違いなく、真面目な空気をぶち壊しにした張本人が隠れている。

 

 いい加減に――起きんかぁい!!

 

 

「ん、ぁ……? もう、朝ですか……?」

 

 

 布団を強引に引っぺがすと、なんとも現代的なかぐや姫が姿を現した。

 可愛らしさを考えれば、ぺか~っ、と画面効果が入ってもおかしくないのだが、とにかく俺は物申さずにはいられなかった。

 

 もう昼だよ。この不健康優良児。

 

 

「……むっ。それは違います先生! 私、不健康なんかじゃありません! 心も身体もすこぶる健康です!」

 

 

 皮肉も通じないの? もうやだこの天然……。

 

 目を擦った後、元気一杯に反論するのは、なんともアンバランスな少女。

 寝起きの筈なのに全くむくんだりしておらず、化粧の必要性など欠片も感じられない、美しく整った顔立ち。

 それと比例するように、女性から見てもきっと羨望の的であろう、モデルの如く絶妙なバランスの肢体を包んでいるのは、俺が着古してくったくたになったジャージだった。

 

 美国織莉子。

 

 ちゃんと着飾れば、何処に出しても――それこそ、政財界のパーティーのような、華やかな場所こそが相応しい舞台となるであろう美少女は、今。

 だらしなく着崩されたジャージから胸の谷間を見せつけ、「ふぁあ」なんて暢気にアクビをしている。

 誰得だよ。可愛いけどさ。あ、俺得か。

 

 

「ん、いい匂い。朝御飯、買って来てくださったんですね」

 

 

 だからもう昼だってば……ああちょっと。

 起き抜けにジュースとか、せめて口を濯ごうよ。

 

 

「でも、喉が渇いてしまって……」

 

 

 歩けばすぐそこに水道とコップあるじゃん……。

 

 ベッドを抜け出した途端、ビニール袋を漁る美少女を注意するも、返って来るのは言い訳ばかり。

 あぁ、何でこんな事に。

 出会った当初の、清楚で可憐で凛々しく慎ましい勤勉な織莉子ちゃんは何処へ行った。

 今もダラけてるだけで超可愛いけどもさ。

 

 なんて言うか、随分と一般庶民の生活に慣れたよね。織莉子ちゃんは。

 

 

「うぅ、すみません……。俗世に染まるのって、思いのほか心地良くて」

 

 

 この場合、それは堕落と呼ぶべきだと思うよ。はぁ……。

 

 シンクを指差す俺を見て、彼女は肩身を狭くする。

 一応、自覚はあるらしい。

 それでも立とうとしない辺り、本格的にダラつつある気もするが。

 

 

「せ、先生は、こんな私はお嫌い、ですか……?」

 

 

 どうしたもんか、と肩を落としていたら、今度は不安そうな上目遣い。

 ……全く。

 この子は、本当に卑怯だ。

 

 嫌いになれるわけ、無いだろ。

 

 

「あ……」

 

 

 隣へしゃがみ込み、頬に手を添える。

 不安の色は瞬く間に消えてしまい、緩やかに目が細められ、やがて完全に閉じられる。

 何を求められているかは一目瞭然。

 俺は彼女にゆっくり近づき、そして――

 

 

 

 

 

「ちょっと先生君! これはどういう事なのさ!?」

 

 んぁ?

「えっ?」

 

 

 

 

 

 ――背後からの怒声に、キスの中断を余儀なくされた。

 振り返れば、ユニットバスへ続くドアを開け放つ、ショートカットの少女。

 スタイリッシュな服装の印象を崩すのは、片手に握られたトイレ用洗剤だ。

 

 ……ええっと、ただいま?

 

 

「うん、おかえり。それよりもだよ先生君、この家の掃除はどうなってるのさ!? トイレの見えないとこに染みや黒ずみが一杯だったよ!?

 トイレだけじゃなくて浴室全体に細かいカビまで……。こんな場所で織莉子に用を足させてたなんてもう……。気合入れて掃除しちゃったじゃないか!」

 

 

 ドアの向こうを指差し、怒りながら彼女は言う。

 洗剤がチャポチャポ音を立てている事から、だいぶ減っているらしいのが分かった。

 

 つまりは、トイレ掃除と風呂掃除をしてくれた、と?

 

 

「まぁ、そういう事になるね」

 

 

 ……そうか。ありがとう。

 

 いい雰囲気だったところを邪魔されたのはムカついたが、胸を張るドヤ顔は誇らしげ。

 思わずお礼を言ってしまうと、鼻高々といった様子で腰に手を当てふんぞり返る。

 

 

「君に感謝されても嬉しかないが、貰える物は貰う主義なんでね。さぁ! もっと褒め称えるがいい!」

 

 

 調子に乗るなよ(くれ)

 絶対タイミング計ってただろ!?

 

 

「んー? 何の事やらー? 別にそんな意図は無かったけど、何かしようとしてたのかい?」

 

 

 ニヤニヤ、嫌味ったらしく少女は――呉キリカは嘲笑う。

 それを見て俺は確信する。コイツはやっぱり、敵だ!

 

 あのなぁ、俺と織莉子ちゃんは、こ……恋人同士なんだぞ!? なんで邪魔されなきゃいけないんだよ!

 

 

「それはそうかも知れないけど、君が織莉子に相応しいかは別問題だ!

 生半可な男に織莉子を任せられるわけ無いだろう!

 それとも君は、今の自分で織莉子を三次元世界で一番幸せに出来る自信があるとでも?」

 

 

 こんの、人が気にしてる事をぉ……!

 

 

「ふん、ほら見ろ。その程度で織莉子の恋人を名乗るとは情けない。

 というか、人をダシにしてお泊りさせるとか不届き億千万! ちょっとは自重しなよこのロリコン!」

 

「あ……ごめんなさい。やっぱり、迷惑だったわよね……」

 

「ううん、織莉子は何も悪くない。悪いのは常に先生君であって、君に悪い所なんか一ナノだってありはしないよ? ぜーんぶ彼のせいさ!」

 

 

 裏表が激し過ぎやしませんかねぇ呉さぁん!?

 

 華麗な滑り込みで俺を押しのけ、まるで騎士の様に恭しく姫の手を取る呉に叫ぶ。

 ってか、俺はロリコンじゃない! こんなナイスバディしてるんだからノーカンだ!

 

 

「あぁ、ワタシは心配でならないよ織莉子。君の選択を否定したりはしないけど、先生君はあまりに頼りない。

 ここはやはり、ワタシが君を守る盾となろう。そしていつの日にか、ワタシこそが、君を世界で一番愛してるんだと理解してく――」

 

 

 ちょっと待てぃ。

 

 ガッシと肩を掴み、三文芝居の幕を下ろさせる。

 今のは。

 流石に今のだけは看過しちゃいけない。

 

 

「何さ。気安く女の身体に触れないでくれるかい? セクハラだよ」

 

 

 んな事どうでもいい。

 それより、世界で一番に織莉子ちゃんを愛してるのは、間違いなくお前じゃない。

 

 

「……へぇ。喧嘩売ってるんだね。いいよ、買うよ。お代は君の命――」

 

 

 一番は久臣さん――彼女のお父さんと、亡くなったお母さんだ。違うか?

 

 

「――あ」

 

「先生……」

 

 

 見据えて言うと、呉はポカンと口を開き、バツが悪そうに顔を背ける。

 一方、織莉子ちゃんは柔らかい笑みを浮かべてくれていた。

 

 

「……そう、だね。お父様だけでなく、亡くなったお母様まで蔑ろにするだなんて、至らなかった。訂正するよ。きっと一番は、織莉子のご両し――」

 

 

 そして俺と奈々瀬さんも同率一位で、呉は都合五位以下だ。

 分かったか阿呆。

 

 

「――んんぉおおいっ!? ちょっと感銘を受けてたのに何さそれぇ!?」

 

 

 何って、十日やそこら前に知り合ったばかりの奴に負けるわけ無いだろう。

 俺だって長い訳じゃないけど、時間をかけて愛を育んだのには違いない。

 そこに男女のラヴ・パゥアーを加算すれば、これが妥当な順位なんですー。

 

 

「わ、ワタシの愛に時間なんて関係無い!

 いいや、時も場所も性別すら超越するプラトニック・ラヴだ!

 先生君なんかに絶対負けるもんかぁ!!」

 

 

 言ったなこのぉ!

 

 

「きしゃーっ!」

 

 

 尖った八重歯を剥き出しに威嚇する呉と、髪の毛が絡む距離で睨みあう。

 コイツと出会ったのは十日ほど前。

 一分一秒を惜しむように日々を過ごしていた俺と織莉子ちゃんは、その日もデートをしていた。

 デートと言っても、一目を忍んで街を歩き、隙あらば手を繋いで、キスをして……部屋で身体を重ねる、刹那的な時間だったが。

 遠くない未来に待ち受ける結末を忘れるよう快楽を重ね、そのための儀式として街中を歩いていた所へ、背後から声をかけてきたのだ。

 

 

 

 

 

『あ、ぁあぁあのっ! ゎ、わわゎわ、ワタシの事、ぅおぉおぶぉえで――うっ!? ――っ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 ――と、激しくどもりながら。

 凄まじい勢いで舌を噛んだのだろう。涙目になって口を押さえる呉へ二人で駆け寄り、そこで織莉子ちゃんよりも先に彼女の事を思い出した。

 この子は、あのコンビニデートの時に見かけた女の子だ、と。

 まぁコイツはふてぶてしくも、「君よりも彼女に思い出して欲しかったのにぃ」なんて言いやがったのだが。

 そりゃあ直後に自動ドアへ突っ込むなんて事をしでかせば忘れもするよ。

 ともかく、そんな出会いがあって交流するようになり、非常に積極的な彼女は、織莉子ちゃんとあっという間に仲良くなったのだけど……。

 

 毎度毎度、愛の営みを邪魔しやがって……。嫉妬も大概にしろ!

 

 

「はっ、嫉妬ね。いいかい先生君。嫉妬というのは誰かを羨む気持ちだ。自分より上だと認める行為だ。

 ワタシが君なんかにそんな感情を抱くはずが無いだろう。ワタシのはただの嫌がらせさ」

 

 

 あっ、開き直りやがった!?

 でもな、別に俺に対してだけならいいけど、織莉子ちゃんだって迷惑するんだぞ?

 そこら辺まで考えてんのかよっ!

 

 

「考えたに決まってるじゃないか。考えに考えて考え抜いて、それでもってどうしようもなく羨ましいからしてるんだよっ!」

 

 

 さっき羨ましく無いとかそういう旨の話をしてませんでした?

 

 

「うるさいうるさいうるさぁい! ワタシだって織莉子に構って欲しいんだよぅわぁあああんっ!」

 

「あ、ほら泣かないでキリカ。もう、駄目じゃないですか先生。女の子を泣かせたりしたらっ」

 

 

 え? 俺のせいなの?

 

 よよよ……と咽び泣く呉を抱きしめ、その背をポンポンしながら織莉子ちゃんは注意する。

 けどね。

 俺の目が確かなら、ソイツ手に目薬持ってやがるんですけど。

 君に見えない位置で「ドヤァ」って顔してやがるんですけど。

 全くコイツは……。

 

 ……ふ。ま、いいさ。せいぜい今の内に甘えるといい。

 

 

「……なんだい、気色悪い顔して。気でも触れた?」

 

 

 余裕を見せ付ける俺を、呉は嫌そうに――心の底から嫌そうに見る。

 ちょいっと胸が痛かったが、それでも不敵な笑みは絶やさない。

 

 どんな手を使って関心を引いても、織莉子ちゃんに一番(性的な意味で)愛されてるのは俺だからな。痛くも痒くも無いわ。

 

 

「な、なにぉお? そんなことある筈無い! 少なくとも君よりは上だ!」

 

 

 かかった……!

 対抗心からか、織莉子ちゃんに縋り付くのを止めて詰め寄る呉。

 期待通りの反応に俺は目を光らせ、口撃を仕掛ける。

 

 ……織莉子ちゃんと腕を組んだ経験は?

 

 

「うっ」

 

 

 膝枕をして貰った事は? 腕枕をしてあげた事は? ほっぺにでもキスされた事は?

 添い寝しながら「愛しています……」って囁かれたご経験はお有りですかぁ?

 

 

「ぐぬ、ぬぅ……」

 

「うわぁ。大人気ないです先生……」

 

 

 ニヤニヤニヤニヤ。

 目の前にあれば誰でも殴りたくなるウザい笑顔をワザと浮かべる。

 しかし、羨ましくて悔しいのだろう呉は、歯噛みしながら拳を握るだけ。

 そんな姿がいたく加虐心をくすぐり、俺は勝ち誇る(織莉子ちゃんの突っ込みは聞こえないふり)。

 

 ほらほら、どうしたんですか? 俺よりも自分の方が愛されておられるんでしょう?

 何とか言って下さいよ呉キリカさぁあん?

 

 

「む……ぐ……ぅ……」

 

「はぁ……。先生、いい加減にして下さい。お気持ちは分かりますけど、これじゃキリカが可哀相です」

 

 

 なでりなでり。俯く呉の頭を撫でながら呆れる織莉子ちゃん。

 けど、俺もすき好んでこんな嫌味を言ってる訳じゃない。

 

 だってさ……したかった、し。……キス。

 

 

「それは……私だって、そうですけど……。随分としてませんし……」

 

 

 今度は、両手を太ももに挟んでモジモジ。

 熱の篭もった視線が見上げ、自然と見つめ合う。なんだか唇がムズムズしてきた。

 呉さえ居なければ、このまま押し倒して強引に――って、駄目だ。

 あの人の事。ちょっとでもそういう事したら、どんなに厳重に隠しても警察犬の如く嗅ぎ付け、明日のアレがキツくなる。それだけは避けなければ。

 

 

「……ぅぅう」

 

 

 ――と、そんな時、呉の身体がビクリと跳ねる。

 漏れ聞こえた音には濡れる悲しみが漂っていた。

 もしかして今後はマジ泣きか? と少しだけ心配になり、顔を覗きこ――

 

 

「うがあぁぁあああっ!? この口だねっ!? さっきから妬ましい事ばっか言うのはこの口だねぇえっ!?」

 

 

 いへっ!? な、なにふんだ(くへぇ)!?

 

 ――んだら、いきなり飛びかって来たソイツに、思いっきり頬を抓られた。

 痛っ、洒落にならない位に痛ぇ! 全力で抓ってやがるな!?

 そっちがその気なら……!

 

 ほんにゃろぉ!

 

 

「いっふぁ!? なにふんのはへんへぇ君!?」

 

 

 ほれはこっちのへりふだ!

 

 お返しとばかりに、こちらも頬を抓る。

 女の子特有のきめ細かい肌を遠慮無く、しかも両方。

 すると呉も、もう片方の手を使い出し――

 

 

「いぎぎ……っ、お、女のほの肌を何らと思ってるのふぁ!?」

 

 

 女の子扱いはれたかったら、ひょっとは織莉子ちゃんみたいにひおらしくひろよ!

 

 

「言っはねぇ!? うがー!」

 

 

 ふーか、口裏合わへひてくれたんなら二人っきりにひろよ! しゃっしゃと帰れ!!

 

 

 「ぜったひにやらー!!」

 

 

 ――子供のような喧嘩が始まる。

 どちらが先に根を上げるかが、彼女への愛のバロメーターであるかのように。大岡裁きの逆バージョンだ。

 ついでに言えば、織莉子ちゃんが泊まる口実を用意してくれたのに、彼女にへばりついて一日この部屋に居座り続けたお邪魔虫への恨みも篭もっている。

 ずぇったいに負けて堪るか!

 

 

「……いいなぁ、キリカ」

 

 

 そんな風に意地を張り合っていると、予想外の呟きが外から投げられ、「はぁ?」と二人でハモる。思わず指も離れてしまった。

 俺達を見る織莉子ちゃんは、指を咥えて寂しげな表情で。

 

 

「えっと……何が? 君のいう事の意味が分からないなんて業腹だけど、流石に脈絡が……」

 

「だって、そんなに仲良く喧嘩して……。私、先生とはまだ取っ組み合いの喧嘩なんてしたこと無いのに……」

 

 いや、どこが仲良く――真似すんなよな――あ。

「いや、どこが仲良く――真似しないでよ――う」

 

 

 どうしてだか反論まで重なってしまい、なんともいえない顔付きがこちらを見る。

 きっと俺も同じ顔付きをしている事だろう。

 何でこんな時ばっかり息が合うんだよ……。

 

 

「ほらっ、やっぱり仲良しじゃないですか! もういいです、こうなったらやけ食いしちゃうんですからっ。はむ――ふぐぅ!?」

 

「えっ、織莉子? どうしたんだいっ?」

 

 

 プンプン怒り出した彼女は、温まったおにぎりを取り出してムシャリと頬張ったのだが、一口目から悶絶する。

 その有様は、砂漠を一昼夜かけて彷徨った旅人に、ほーら水だよーと騙くらかしながらシュールストレミングの漬け汁を一気飲みさせた様な感じだ。

 これは、多分……。

 

 

「まさか……毒!? 食中毒かい!? なんて事だ、早く救急車を!」

 

 

 んな訳あるか。

 俺用に買って来たワサビ漬けのおにぎり食べちゃったんだろ。

 たまーに辛いのが食べたくてさ。

 

 

「君のせいかっ! なんで分けておかないのさぁ!? 大丈夫かい織莉子ぉ!」

 

「み、水……水、をぉ……」

 

「水だね? ジュースでも大丈夫かい? 今ワタシが口移しで飲ませてあげるからねっ」

 

 

 またんかいコラ。

 口移しにする必要はないだろ。よしんばあったとしてもそれは恋人の役目だ。

 という訳でそのジュースをよこせぇ!

 

 

「あ、横槍入れるなー! この、このっ、あっち行けー!」

 

 

 ちょ、おま、スカートでキックするなパンツ見えてるって!

 

 

「きゃーーーっ!!!!!! 見るなこのへんたーい!!」

 

「みじゅ……もう、どっちでもいいですから、みじゅうぅ……うっ……」

 

 織莉子ちゃあんっ!?

「織莉子ぉぉおおお!?」

 

 

 悶絶しながら天に向かって腕を伸ばす織莉子ちゃんを横目に、呉と二人でペットボトルを奪い合う。

 やがて彼女の手は力尽きたかの如く地に落ち、それに気付いた俺達は、神に召されようとしている大切な人の名前を叫ぶ。

 

 この、騒がし過ぎる日常が。

 俺と愛しい人に残された、短い猶予期間(モラトリアム)だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――っせ」

 

 

 うぉわぁ!?

 

 突如として、天地がひっくり返った。

 背中から床に叩きつけられ、勢い余った下半身が、でんぐり返しの途中みたいな格好で止まる。

 なんとか受身は取れたけど、首が痛い……。

 胸への触れるような掌底、同時に踵を使った脚払い。その前に近付きながら全身を使ったフェイントも。

 それだけ分かっていたのに、避けられなかった。

 

 

「いつまで寝ているおつもりですか。早くお立ちになって下さい、先生様」

 

「頑張って下さい、先生! まだ十三回目ですよ~!」

 

「そーそー。中途半端に受身なんか取らないで、もっと派手に投げられなよー」

 

 

 気楽に言ってくれるね……。

 

 逆さまの視界で、黄色い声援を送る恋人とその友人に、俺は苦笑する。

 すぐ側には、涼しげな瞳でこちらを見下ろす忍者メイド――奈々瀬さんが立っていた。

 その出で立ちは、いつもと代わらぬクラシカルな給仕服。対して、こっちは汗だく柔道着。

 なんだってロングスカートであんな脚捌きが出来るんだ……。

 あと、応援する気が無いなら帰れ。くっちゃくっちゃガム噛んで風船作ってるスタイリッシュ不登校児。

 

 

「休憩は必要ですか?」

 

 

 冗談、まだまだっ!

 

 

「宜しい。では」

 

 

 ぃよっと。

 

 満足そうに頷き、奈々瀬さんは少し距離を取った。

 勢いをつけて起き上がれば、周囲の景色が目に映る。

 ここは、美国邸の地下にあるトレーニングジム。その一角――畳張りになっている部分で、俺達は向かい合っていた。

 久臣さんが若気の至りで増改築したらしいが、個人でこんな施設を持てるとか、金持ちって超凄い。

 

 

「今度は先生様からどうぞ」

 

 

 え、どうぞって……。

 

 

「もう要領はお分かりになっている筈。何をした所でわたくしには勝てないのですから、お好きなように。悪手であれば是正致しますので」

 

 

 本当に言ってくれますね。事実ですけど……。

 

 言いながら、左足を前、右脚を後ろに。

 この授業も今日で三回目。確かに掴みつつはある。まぁ、何をしたって通用しないという情けない事を、だが。

 俺の勝利条件は二つ。奈々瀬さんに手の平で触れる事。もしくは膝をつかせる事。

 どちらか一方でも達成すれば、御褒美タイムの獲得だ。諦めるわけにはいかない。

 小手先だけの技術は彼女には無意味。技を盗もうとしても高度過ぎて再現不能。

 なら、俺に出来る事は――

 

 行きますよっ。

 

 

「いつでもどうぞ――あらっ?」

 

 

 ――何も考えず、ぶちかます!

 かつて爺ちゃんと相撲をとった時の様に、ただ全力で走る。

 意外そうな顔をした奈々瀬さんは、サッと横へ身を逃がす。

 それを追いかけて俺も方向転換。夜道を一人歩きする女性に襲いかかる変態の如く、両腕を広げて迫る。

 

 

「ほっと。なかなか良い気迫です。が、邪な気配を感じるのは何故でしょうか」

 

 

 そりゃあ勿論、奈々瀬さんをメイド服着た織莉子ちゃんに見立てて、全力でハグするつもりですからね!

 

 

「……どうりで」

 

「先生。後でお話しましょうね」

 

「サイテーだね。織莉子、やっぱり先生君なんかじゃ駄目だよ。もっと別の人を探そうよ。例えばワタシとか」

 

 

 嘆息と、背後へ回ったはずなのにどうしてだか見える迫力の笑顔。

 まずい。正直に言うんじゃなかった。

 それとさりげなく自薦してんじゃねぇこのガチ百合娘。

 自らの失策を悟りながら、今さら止まる事も出来ず、俺はまた地面を蹴る。

 

 そぉい!

 

 

「おっと……。ふぅ、殿方に激しく求められるのは吝かでないのですが、残念ながら先生様はわたくしの好みでは御座いませんので。今日は早めに締めと参りましょう」

 

 

 ヒラリ、ヒラリ、と華麗にスカートを翻していた彼女は、ある一点でその動きを留める。

 真っ向勝負か。これは逃げられない。

 捕まえられる気はあんまりしないけど、今は少しでも早く、少しでも強く脚を踏み込むんだ。

 あの、織莉子ちゃんに比べると残念無念な絶壁に顔を埋める事だけを考え――あれ、なんか萎えるな。むしろ哀しく……。

 

 

「……何だか酷く不快な気分になったので、少し本気を出します。お覚悟を」

 

 

 うわ。奈々瀬さんの背中からなんか立ち昇ってる。

 急に逃げたくなってきた。

 

 あのー、やっぱここらで止めません? 突然ですがお腹がちょっと……。

 

 

「 い い か ら 来 な さ い 」

 

 

 いぇすまむっ。

 

 今にも泣きそうな気分で脚を踏み出す。

 が、踏み出してしまえば吹っ切れた。こうなったら自棄だ、やってやるっ!

 

 胸を……お借りします!

 

 

「生憎と」

 

 

 いざ、メイドさんを押し倒そうと、俺は走る。

 短距離加速のため小刻みに畳を蹴って、身体は前傾。

 白と濃紺が視界を占有。眼前まで迫り、細い腰を捕まえた。

 

 

「予約済みです」

 

 

 んがっ!?

 

 ――と思った瞬間、首を手刀(ギロチン)で落とされた。

 打ち付けられる顔と腹。

 直後、背中には柔らかい重さが。

 

 

「最後で及び腰になりましたね。減点です」

 

 

 か――はっ。

 

 首と頭の付け根を押さえる指。

 背筋に乗る感触から、腹ばいになった俺の上に座られているのが分かった。

 くそっ、またこれかっ。

 悔しいのに、最近ちょっと気持ち良くなって来てる自分が怖いっ。でもやっぱ苦しいぃ……。

 

 

「全く。不純な動機でやる気を出すのは殿方の習性ですが、もっと真面目に出来ないのですか?

 これではお嬢様との屋外デートなんて、夢のまた夢ですよ」

 

 

 ……っ……あ゛、の……。

 

 

「なんですか。仰りたい事があるのでしたら、もっとハッキリと」

 

 

 そ、そろそろ降りて貰えません、か? 流石に、重――。

 

 

「おおっと肘が滑りました」

 

 

 ――いぎぅ!?

 

 

「おおぉ、綺麗なフォーム。流石はメイドさん。やるなー」

 

「な、奈々瀬さんっ、今のは先生が悪いと思いますけど肘は、エルボーは不味いです!」

 

「あらあら。失礼致しました」

 

 

 脳天へエルボードロップをしっかりキメた後、ようやく奈々瀬さんは重――軽い腰を上げる。

 俺はと言えば、織莉子ちゃんに助け起こされ息も絶え絶え。

 

 ぅ、お、織莉子ちゃん、頭が痛い……。割れるように痛いよ……。

 

 

「大丈夫ですか? でも、さっきのは本当に先生が悪いです。撫でてあげますから、ちゃんと反省して下さいね」

 

 

 はーい……。

 

 

「む。う、羨ましい……。ね、ねぇ織莉子。ワタシにも……」

 

「駄目です。私の先生を“なんか”って言った罰よ」

 

「そんなぁ!? きょ、拒否られた……! 織莉子に、拒否られた……!!」

 

 

 久々の膝枕。頭を撫でられる心地良さ。

 ついでに、この世の終わりとばかりに絶望する呉の顔を堪能しながら、息を整える。

 脳を四分割したみたいな痛みさえなければ、このまま眠ってしまいたい位だ。うっかりすると永眠できそうなので寝ないけど。

 

 

「技術的には全く駄目ですが、身体の鈍りは取れたようですね。最初とは見違える粘りです」

 

 

 そりゃあ、こうして家庭教育の度にしこたま投げられて、毎日の様に監視付きランニングを強要されれば、動けるようにもなりますって……。

 

 

「まだ予定量の三分の一もこなせていないのですけどね。先生様強化計画も、先が思い遣られます」

 

 

 両手をお腹の前で組み、奈々瀬さんは「ほふぅ」と溜め息。

 先生様強化計画とは、一週間ほど前に発令された、俺・ビルドアップ・プランである。

 

 織莉子ちゃんと結ばれてからというもの、家庭教師としての時間以外も共に過ごすようになり、生活は一変。

 何もかもが、彼女と一緒に居る時間より後回しになった。

 俺はそれでも大丈夫だったのだが、不味かったのは織莉子ちゃんだ。

 今まで、規則正しく日々をこなして来た彼女が、突然、授業中に上の空になったり、生徒会の仕事を任せてさっさか帰ったりするように。

 これでバレない筈が無い。

 一週間も経たない内に勘付かれ、揃ってお説教(という名の言葉責め。もちろん俺に対してだけ)を受けたのだった。

 そして、その中で判明したのが――

 

 

「それにしても、こんなに急いで先生を鍛える必要なんて本当にあるの? 奈々瀬さん。無理をさせて身体を壊してしまうんじゃ……?」

 

「早い方が良いのです。こういった関係は秘密にしていた時間が長いほど言い出し辛くなるものですから。

 全く、わたくしと旦那様の会話を盗み聞きした挙句、ご自分の事と勘違いされて自ら傷物になるだなんて。旦那様が聞いたら卒倒してしまいます」

 

「いっそのことバラしちゃった方が早いとワタシは思うんだけどねー。ま、織莉子も駄目って言うから協力するけどさ」

 

 

 ――例のお見合い話は、織莉子ちゃんではなくその父、久臣さんの話だったという事だ。

 三十も年上の男ではなく、三十も年下な女の子が、ナイスミドルに恋焦がれていたらしい。

 そりゃ、十五の娘を持つ父親が、策略とはいえ子供と同い年の子とお見合いだなんて、どう話したものか悩んでしまうのも道理である。

 これを知った織莉子ちゃんは、笑えるくらい冷や汗をかきながら笑みを張りつけるばかり。

 仮にふきだしを付けるとしたら、「早まった……!」とか「ヤっちゃった……!?」なんていう台詞が書いてあっただろう。想像だけど。

 

 

「傷物だなんて、そんな言い方ないわ! 私達はただっ」

 

「どう言い繕おうと結果は同じです。お二方は悲劇に酔って愚かな行いを為さいました。

 間にある感情の是非とは関係無く、です。ご自分で良くお分かりでしょう」

 

「本当だよ。確認もせず先生君なん――に身を任せるなんて。ワタシならそんな事にはならなかったのに……。それでも悪いのは先生君だけども」

 

「う……」

 

 

 頭の中の笑顔と違い、現実の織莉子ちゃんは奈々瀬さんに食ってかかる。

 想い合った末の結果を傷物なんて言い方されれば、当然だ。

 しかし、奈々瀬さんatお説教モードと、便乗する呉の言い分も正しく、彼女の顔は悲しげに歪む。これも想像だが。

 だって、柔らかそうな二つの逆さピラミッドに遮られて見えないし。

 あぁ……久しく揉んでないなぁ……。顔を埋めて思いっきり深呼吸したいなぁ……。

 と、馬鹿な事を考えつつ、俺自身も奈々瀬さんに言いたい事があったので、軋む身体をなんとか起こす。

 

 確かに、馬鹿な事をしたかも知れませんね。俺達は。

 

 

「先生、そんな……っ」

 

 

 その言葉を聞き、今度こそ泣きそうになる織莉子ちゃんへ、でも、と付け加えて大きく笑う。

 

 後悔はしてませんよ。

 あの時、織莉子ちゃんと心を繋いでなかったら、こうして笑えてなかった筈です。

 例え勘違いだったって後で分かっても、あの時に動かなかったら、こんな関係にはなれなかった。

 だから、後悔だけはしません。絶対に。

 

 

「あ……」

 

「……はぁ。これだから男という生き物は、全く……」

 

「――チッ。妬ましい、羨ましい、口惜しいぃぃ」

 

 

 しっかりと手を繋ぎあう俺達を見て、奈々瀬さんは額を押さえながらまた溜め息。

 口元には、くっきり刻まれている感情があった。

 けれど、それが否定的な物でない事を、俺も、織莉子ちゃんも、知っている。

 酷い顔をしている呉は無視しよう。

 

 

「まぁ、気付けなかったわたくしにも一因はあるので、これ以上はとやかく言いませんが。

 そうまで仰るならノルマを増やすと致しましょう。明日からは予定の半分までです。お覚悟を、先生様」

 

 

 ……マジですか……。どうしよう、早速挫けそうだ……。

 近頃、変な噂まで流れてるしなぁ……。

 

 

「噂、ですか。どんな内容なんです? 先生」

 

 

 メイドさんに某軍曹並みの口汚い言葉で罵られながら、無理やり走らされてる不審な男が居るって噂。

 

 

「……な、奈々瀬さん?」

 

「前に映画を見て、一度やってみたかったのです。一回きりですし、時間も場所も選んだので人目にはついていないと思ったのですが……」

 

「あー、アレだよね? どっかで聞いたんだけどな。ええと確か……ハート○ャッチ軍曹! 戦場に咲く一輪の花! だっけ?」

 

 

 混ぜるな阿呆! 日本の子供達に朝から何を教える気だ!?

 ……とにかく、そのたった一回の印象が強烈過ぎたんですよっ。

 最近ランニング始めたし、近所の人から不審な目で見られてんですからね?

 

 

「む。まだ先生様が目立つのは不味いですね。然るべき対処をしませんと」

 

 

 頬に手を当て、奈々瀬さんは難しい顔。誰のせいだと思ってんだろうか。

 そして“然るべき対処”をする権限を持つメイドさんってどうなんだ。

 

 

「しかし、この程度で挫けそうになるとは。計画が何のためであるか、お忘れになったのですか?」

 

 

 いや、忘れる訳ないじゃないですか。そんな大事なこと。

 ちょっと愚痴が零れただけです。

 

 

「なら、確認も兼ねて仰ってみて下さい。目的意識を自覚できるかは重要ですので」

 

 

 身体の向きで奈々瀬さんが移動を示し、俺達もそれに続いて、部屋の隅にあるL字ベンチに腰を下ろす。

 そして、差し出されたスポーツドリンクで喉を潤しながら、問いかけの答えも口に。

 

 ふいぃ……。一つ目は、久臣さんに認められる人間になるため、ですね。

 なんだかんだで会えてないですけど、いざ会った時、織莉子ちゃんを任せて貰うには、今のままじゃ駄目だ。

 肉体的にも精神的にも鍛え直して、頼り甲斐のある人間にならないと。

 

 

「はい。旦那様は生まれや育ちで人を判断する方ではありませんが、お嬢様に関しては別。

 子煩悩な所がありますので、生半可な覚悟では投げ飛ばされて御終いです。せめて、それを回避できる位にはなって頂きます」

 

「でも、ぶっちゃけ才能無いよね先生君。前にワタシもメイドさんとやってみたけど、ワタシの方がもったし」

 

 

 うっさい。触れなかったんだから同じだろ。

 

 なんでも、久臣さんは政治家でありながら、柔道の有段者でもあるらしい。

 つまり、お嬢さんを僕にください、と挨拶したら、にっこり笑って大外刈りな可能性があるのだ。

 更に言うと、「私より弱い男に娘は預けられん!」なんて言われる可能性もある得る。

 強くなっておくに越した事は無いのだ。男としても、望む所。

 

 

「でも、やっぱり心配です。

 私のために頑張って頂けるのは嬉しいですけど、そのせいで先生に辛い思いをさせてしまうのは嫌ですから。

 どうか、無理だけはなさらないで下さいね」

 

 

 ん……ありがとう。

 

 労うように、織莉子ちゃんが汗を拭ってくれる。本当に出来た恋人だ。

 俺には勿体無い気もするが、しかし、それじゃあいけない。

 彼女にこそ俺が相応しいのだと、少なくとも久臣さんには認めて貰わなきゃいけないんだ。もっと努力しなくては。

 と言っても、本当に無理をしたら悲しませるだけだし、自分に合ったペースで、だけど。

 

 

「ご安心下さい、お嬢様。わたくし、こう見えてもインストラクターの資格を持っておりますので。無理なく効率的に鍛え上げましょう」

 

 

 そんな資格持ってたんすか。

 シゴキが堂に入ってる訳だ……。

 

 

「確か、他にも持っているのよね。どのくらいだったかしら」

 

「全部で一〇八の資格を所有しております。メイドの嗜みですから」

 

「ほんと、凄いよねー。ワタシは織莉子以外の事を頭に詰め込むなんて出来そうも無いよ」

 

 

 楚々とした仕草で言ってのける奈々瀬さん。

 煩悩と同じ数って、凄いってレベルじゃないぞ。なんだ? 美国家に関わる人間は万能超人じゃなきゃ駄目なのか?

 それに、呉が素直に人を褒めるのも珍しい。コイツなりに尊敬する心は持ってるって事か。

 

 ……話、続けますね。二つ目は、将来的に織莉子ちゃんと一緒に居られる確率を高めるため。

 家庭教師という立場は学生の間しか通用しない。それ以降も共に居るためには、もっと別な職業選択が必要です。

 その中で、俺が就ける確率の高い物が二つ。この家の使用人か、彼女の身辺警護。

 

 

「その通り。旦那様には特に敵が多う御座います。

 使用人は邸宅の警備も兼ねておりますので、共に最低限の身体能力と護身術は求められます故、鍛錬は必要です。

 仕事の上で誠実さをアピール出来れば、お認め頂けるやも知れませんし」

 

「ボディガード……。将来的には必要になると、お父様も仰っていました。

 ちょっと憧れますねっ。古い映画みたいに、先生に守られる私。想像するとドキドキします!」

 

 

 それだと俺、織莉子ちゃんと仲違いした上で狙撃から庇って撃たれなきゃいけないんだけど?

 

 ――という感想は、彼女には届かなかったようだ。頬を染め、妄想の世界に旅立っている。

 確かに俺も憧れるけど、そんな状況になる時点で警護としては大失敗だと思う。

 ちなみに呉は、「ワタシがいつでも守ってあげるのに……」と不貞腐れながら織莉子ちゃんを見つめていた。

 動きが俊敏なのは認めるけど、そのちっこい身体(呉の身長は織莉子ちゃんよりも頭一つ低いのだ)じゃ務まらんだろうに。

 

 

「まぁ、現実的に考えれば使用人でしょうね。

 長く勤め上げれば、わたくしの様な立場になる事も不可能ではありませんから。

 もちろん、有能である事が前提ですが」

 

「むぅ、ワタシもメイドの面接受けようかな……。家事はまだアレだけど、体力には自信あるし!」

 

「残念ながら、この世には労働基準法というものが御座いますので。十六歳になるまでお待ち下さい、呉様」

 

「くそっ、なんて時代だ!」

 

 

 そんな本気で悔しがらなくても……。ごっほん。んでもって、三つ目。

 俺と織莉子ちゃん。ひいては、久臣さん――美国家を守るため、ですよね。

 

 

「その心は」

 

 

 俺達の関係は、言ってしまえば久臣さんのスキャンダル。

 知られれば間違い無く悪意を持って利用されてしまう。けど、俺が一角の人物であるなら、ダメージは限りなくゼロに近くなる。それが狙いです。

 当然、今の時点で知られればそれも叶わないから、織莉子ちゃんとの関係は隠す必要がある、と。

 

 

「ご理解頂けている様でなにより。が、分かっているならご友人の家にお泊りだなんて嘘をつかないで頂きたかったのですが……」

 

「……えっ!? な、何でそれを!?」

 

 

 あー、やっぱりバレてましたか……と苦笑いすれば、奈々瀬さんは「当たり前です」と怒り肩。

 

 

「万が一に備え、先生様の周囲には草を――もとい、警護の者を配しておりますので、丸分かりです。

 休日に遊びにいく程度なら誤魔化しは利きますが、今後は宿泊等は許しません。そのおつもりで」

 

 

 はい確定した。今確定したよーこの人が忍者だって。

 草っていわゆるスパイじゃん。いまどきそんな言葉、役者か本業の人しか使わねぇよ。

 予想はしてたけど、私生活も既に監視付きか……。いや、その草の人もきっとメイドさんだ!

 お早うからお休みまで、暮らしをメイドさんに見守られていると考えればむしろ御褒美! そうとでも思わなきゃやってられるか!

 

 

「そんな……。もう、あのベッドでは眠れないなんて……」

 

 

 ――と、そんな妄想をしていたら、織莉子ちゃんは切なく顔を伏せ、己の身を抱き締める。

 漂う色香は正しく“女”そのものであり、生唾が喉を下った。

 必然的に彼女と過ごした夜の事も思い出してしまって、ちょっと股間が危ない。

 そんな艶めく少女を慰めるのは、隣に座る心配そうなもう一人。

 

 

「しょうがないよ、織莉子。君達の関係は割とヤバイんだから。君のお父様のためにも、ここは辛抱だ。

 代わりと言ってはアレだけど、ワタシの家ならいつだってウェルカムだからさ! 何だったら今日にでも!」

 

 

 ……違った。それは慰めではなく、我欲塗れなお誘いだった。

 

 お前みたいなガチ百合中学生に織莉子ちゃんを任せられる訳ないだろう。

 つーか、奈々瀬さん的には良いんですか? 呉の存在は。ぶっちゃけ怪しいと思うんですけど。

 

 

「なっ!? なんだいその言い方! ワタシのどこが不審だっていうのさ!?」

 

 

 言動の全てがだよ、この泥棒猫め。

 この際だから宣言するけど、織莉子ちゃんは絶対に渡さないからな?

 

 

「ぬぁにをぉうっ!?」

 

「あ、先生、そんな言い方は駄目です! 私にとっては大切な、初めての同性のお友達なんですからっ」

 

「……織莉子……! そこまでワタシの事を……!」

 

 

 うぐ、ごめん……。でも、タイミング的にさ……。

 

 珍しく眉を吊り上げる織莉子ちゃんへ謝るものの、疑念は残る。

 彼女と結ばれて間も無く知り合った少女。

 俺自身、一目惚れを経験した身。小銭を拾って貰ってベタ惚れしてもおかしいとは思わないが、どうにも怪しく感じてしまうのだ。

 こうやって相対していても、底が見えないというか、何というか……。

 

 

「呉様ですか。この方でしたら、なんら問題無いかと」

 

 

 ――が、そんな俺の訝りを、奈々瀬さんは軽く否定する。

 

 

「多少、素行に問題はあるようですが、お嬢様への親愛は確かな物かと。

 何度か直にお会いして、そう感じました。

 先生様が不埒な真似をしようとしたら連絡も頂けるお約束ですので、むしろ協力者ですね」

 

「やった、褒められた――んだよね? 微妙にディスられた気がしないでもないけど、とりあえずワタシは喜ぶよ!」

 

 

 お前、妙に奈々瀬さんと仲が良いと思ったらそういうことか! 裏切ったなぁ!?

 

 

「はっ。もともと信頼関係なんて無かったじゃないか。変な言い掛かりはよして欲しいな。

 長い目で見れば織莉子のためなんだ。例え恨まれようと、ワタシはワタシが、良いと、思う……事、を、ぉ……」

 

 

 想像して泣きそうになる位なら止めとけよ……。

 

 

「恨んだりはしないけど……。うーん、これからはキリカの目も掻い潜らなきゃいけないのね……」

 

「さっすが織莉子、君の心は空の如く高くて広大だね! でも、隠れてヤる気満々なのはどうなのかな!」

 

 

 ふてぶてしい顔に思わず怒りが込み上げたが、段々と尻すぼみになる声で、それも萎える。

 織莉子ちゃんにあんな事を言って貰えれば尚更だ。

 多分、お泊りの密告もコイツなんだろう。

 毎度毎度、邪魔ばっかりしやがって………………あれ、変だな。

 

 密告というか、連絡は間違い無くしたはず。

 なら、あの日のお泊りは無理やり中断させられた可能性もあったわけだ。

 しかし、お邪魔虫が居たとはいえ、織莉子ちゃんは俺の家に泊まっていった。

 もしかして、密告と同時に執り成してもくれた、とか?

 織莉子ちゃんを悲しませたくなかったというなら……。いや、奈々瀬さんが寛大な心で許してくれた可能性もある、か。

 どうにも、掴みきれないな……。

 

 

「まぁ、この協力関係も打算の上で、ですけれど。しっかり代償は要求されましたし」

 

「そりゃあね。織莉子の頼みなら、例え溶岩の中、永久凍土の中へだって行くけど、それ以外をタダでやるほどお人好しじゃないさ。

 あ、そうそう。この前の報酬、まだ貰って無いんだけど、どうなってるのメイドさん?」

 

「用意して御座います。どうぞ、お納め下さい」

 

「うん、どうも。……うっは~! 可愛い~! ラヴ!」

 

 

 悩んでいると、奈々瀬さん達の間でなにやらブツのやり取りが。

 写真らしきものを受け取った呉は、顔をだらしなく崩してそれを抱き締める。

 この反応、まさか……?

 

 な、なぁ呉? その写真って……。

 

 

「ん? もちろん織莉子の写真だっ。しかも幼女時代の激レア生写真さ! 超可愛いよ! どうだい、羨ましいだろう!」

 

 

 お、織莉子ちゃんの幼女時代、だと……?

 

 なんという、なんという危険で蠱惑的な響き。

 よく考えれば、携帯で今の織莉子ちゃんを撮ったことはあるけど、過去の写真を見たことは無い。

 う、羨ましい。心の底から羨ましいぞ……っ。

 

 ……そぉい!

 

 

「おぉっと、危ない危ない。何するのさ?」

 

 

 不意打ち気味に手元目掛けて飛びかかるが、呉は華麗に回避。

 優雅な動きで斜に構え、写真をペラペラ。

 

 何って、言わなくても分かってるだろう? ちょっとだけ! ちょっとだけだから、な!

 

 

「言動が完全にエロ親父だよ先生君。これはワタシが得た正当な報酬だ。君なんかに見せるわけ無いじゃないか。ほーら、取れるものなら取ってごらん?」

 

 

 あっ!? おま、それは!

 

 勿体ぶる呉は、なんとシャツの胸元――おそらくはブラの中へ写真を仕舞った。

 ばいん、と差し出される双丘からそれの端っこが飛び出ているが、そこは、男が無断で手出しできない聖域。

 

 くっ……卑怯だぞ呉ぇ!

 

 

「ふっはっは。負け犬が何か吼えてるねぇ。あぁぁ、地肌に触れる幼女な織莉子。なんと甘美な感触だろう! 最高だね!」

 

 

 変態チックに身を捩る呉だが、俺は歯軋りしながら見つめるしかなかった。

 ちっくしょう……。織莉子ちゃんの目の前で、他の女の胸元に手を突っ込むなんて出来ないし、それ以前に捕まえられるかも分からない。

 くそっ、どうする、どうすればロ莉子ちゃんを入手できるんだ……!?

 

 

「もう、先生ったら。そんなに悔しがらなくても、言って頂ければお見せしますよ? 終わったら、アルバムを一緒に見ましょう」

 

 

 すると織莉子ちゃんが、呆れた笑みを浮かべながらこう提案。

 先ほどまでの苦悩も忘れて、俺は隣に舞い戻る。

 

 お、良いの? 見る見る、見たい!

 

 

「あっ、そんなズルイ! ワタシも見たいー! ね、ね、良いよね織莉子?」

 

「キリカも? しょうがないんだから……。じゃあ、後でみんな一緒に、ね?」

 

 

 服の袖をツイと引っ張り、織莉子ちゃんに甘える呉。

 了承を得れば、「やたっ!」と諸手を挙げて万歳を。もう生写真を持っているというのに、強欲な奴だ。

 ……俺も何かすれば、奈々瀬さんに融通して貰えるかな……。

 あ、そう言えば。

 

 前から聞きたかったんですけど、どうして奈々瀬さんは協力してくれるんです?

 久臣さんにも秘密にしてくれて……。

 

 

「そう言えばそうか。この家のメイドなんだから、むしろ報告は義務?」

 

「あ、私も聞きたいわ。てっきり先生との事を知られたら、拉致して瀬戸内海に“沈”とかするって思っていたのに」

 

「お嬢様はわたくしの事をどう見ていらしたのですか。……別に、大した理由はありません。

 わたくしも女ですから。道ならぬ恋を応援したくなる事も御座います」

 

 

 奈々瀬さんは目を閉じ、少しだけ恥ずかしそうに言う。

 初めて見る表情だ。

 やけに親身な……何かを重ねているような響きも感じた。

 何となく織莉子ちゃんと顔を見合わせれば、柔らかい微笑みが向けられ、確信も無いまま笑い返す。

 

 

「……さて。先生様の意思も確認できましたし、休憩はここまでにしましょう。

 汗を流したらいつもの部屋へ。次は座学を、時間ギリギリまで学んで頂きます」

 

 

 え。も、もうですか?

 

 気を紛らわすように、奈々瀬さんは立ち上がってご無体なことを言い放つ。

 確かに早めに終わったけど、普段ならこの後シャワーを浴びて、織莉子ちゃんの淹れてくれた紅茶を楽しんで帰るだけなのに。

 それに散々身体を酷使させてから勉強って、順番を間違えて無いか?

 居眠りなんかしたら指揮棒で叩かれそうだ……。

 

 ええと……せ、せめて普通にお仕事させて貰えません?

 ここ最近、立場が逆転しちゃってますし、これでお給料を頂くのは……。

 

 

「前から半分遊んでいた分際でよく言いますね。

 勘違いしないで頂きたいのですが、これは旦那様方のためであって、先生様のためではありません。

 お嬢様を愛しておられるのなら、眠気と後ろめたさくらい我慢なさいませ」

 

 

 そこで織莉子ちゃんを引き合いに出すのはずっこいですよ……。

 はいはい、頑張らさせて頂きますー。

 

 

「“はい”は一回で宜しい」

 

 

 はーい……。

 

 ウンザリするも、今後のために気合を入れ直し、俺は腰を上げる。

 とりあえず、汗を流そう。乾いてきて気持ち悪いし。

 

 

「なぁんだ、今日はもう終わりかぁ。んー、先生君の醜態も見飽きたし、そろそろ帰ろっかな……。あ、でも、このままお泊りも捨てがたい……」

 

 

 厚かましいなお前……。

 って、あれ。どうかした? 織莉子ちゃん。

 

 悩みだす呉に突っ込むのだが、いつもなら着いて来てくれる人影が無いのに気付いて振り返る。

 

 

「いえ、ちょっと引っかかることがあって。う~ん……そうだわ、思い出した!」

 

 

 すると、思案していた彼女は、ポン、と手を打ち合わせて満面の笑み。

 

 

「さっきの奈々瀬さんっ。ああいうのを『ツンデレ』って呼ぶんですよね?

 先生からお借りした漫――学術書に載っていましたっ。まさか、こんな身近に居るだなんて、大発見です!」

 

「………………は?」

 

 

 同じく振り向いていた奈々瀬さんの纏う空気が変わる。

 目はうっすら細められ、俺より身長が低いはずなのに、明らかに見下されている感覚。

 口元には、左右対称な綺麗過ぎる微笑み。

 ああ、不味い。超絶怒ってる。

 

 

「全く。

 先生様は博識でいらっしゃいますねぇ(お嬢様に余計な事を吹き込みやがって)

 是非その知識を伝授して頂きたいものです(今からたっぷり頭脳労働させてやるからな)

 覚悟しろ」

 

 

 な、奈々瀬さん? 本心が透けて見えるっていうか最後くちに出ちゃってませんでした!?

 ――いだ、痛い、耳、耳が千切れるぅ!

 

 

「あ、先生、待って下さい! せめて、背中をお流ししますからっ」

 

「何ぃ!? それは聞き捨てならないぞぅ!? わ、ワタシも混ぜろー! というか二人っきりで洗いっこしよう!」

 

「駄目に決まっているでしょう!? 何を考えておられるのですか! 呉様も少しは自重なさいませ!」

 

 

 奈々瀬さんの怒声と共に、俺達は地下を後にする。

 シャワーを浴びている間、脱衣所の向こうにて、織莉子ちゃん&呉の性少女タッグVS奈々瀬さんの激しい攻防が繰り広げられたのは、音に聞こえたので間違いない。

 また、座学の最中にしばき倒された回数が二桁を越え、その度にアルバムを抱えた呉がケラケラ笑っていたのも、言うまでも無いだろう。

 

 

『愛する事を知った女は逞しくなり、愛される事を覚えた男は情けなくなる』

 

 

 爺ちゃんの言葉は、またしても正しかったらしい。

 ……仕事、変えようかなぁ……。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 毒で膨らむわたしのお腹。

 それが子供として生まれるなら、どんな子になるだろう。

 

 男の子? 女の子?

 優しい子? 意地悪な子?

 

 どんな事を教えてあげよう。どんな事を教えてくれるだろう。

 どんな物を好きになるだろう。どんな物を嫌いと言うだろう。

 どんな風に褒めてあげよう。どんな風に叱ってあげよう。

 

 ああ、だけど、わたしの蜜は。

 そんな毒の結晶ですら、綺麗に溶かしてしまうのでしょう。

 

 

 

 

 

 まだ来てないんですけどね。わたし。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「――でさぁ」

 

「えぇ、そうなの? じゃあ――」

 

 

 隣をすれ違う、恋人らしき男女。仲睦まじいその後姿を遠目に見ながら、深い溜め息をつく。

 平日の真っ昼間。

 早めに大学の講義を切り上げ、駅前通りを歩く俺の身体は、酷い倦怠感に包まれていた。

 先の二人が羨ましいのもそうだが、大元は別。

 ショーウィンドウに映った自分の顔を見れば、明らかにゲンナリとしている。

 三時間。午前中のたった三時間でこれ。

 ただでさえ強化計画の疲れが抜け切っていないのに、とんだ災難だ。何であの人はその気も無い癖に絡んでくるんだろうか……。

 

 はぁ、しんどい……。

 

 

「溜め息をつくと幸せが逃げるって言うよ、先生君」

 

 

 んぁ?

 

 思わず下を向いた視線を戻すと、ガラスに映り込む見知った少女が居た。

 妙にスタイリッシュな左右非対称の私服姿に、織莉子ちゃんと一緒に居る時とは別人みたいな気だるい表情。

 

 ……呉?

 

 

「そうだよ、呉キリカ。何さ、そんな意外そうな顔して」

 

 

 いや、学校どうしたんだよ。また自主休校か?

 

 

「失礼な。世間一般的には平日でも、ワタシにとっては休日さ。今日は創立記念日なんだよ」

 

 

 あ、そうなのか。

 でも本当に意外だな。呉が声をかけてくるなんて。

 基本的に織莉子ちゃん以外はアウトオブ眼中じゃん。

 

 

「よく分かってるじゃないか。単なる暇潰しに、だよ。

 知った顔がお金に困って今にも強盗しそうなくら~い表情してたら、気にもなるしね」

 

 

 振り向きながら返すと、呉は極僅かに口角を上げた。

 そんなに酷い顔をしてたのか……。

 顔をペタペタ触ってみるが、若干油が乗ってるぐらいなんだけど。顔洗いたくなってきたな。

 あと、強盗なんて誰がするか。これ以上余罪が増えたら堪らんわ。

 

 

「で、どうしたのさ。本当に、ほんっとうに暇だから、聞くだけ聞いてあげよう。つまんなかったら即行で帰るけど」

 

 

 腕を頭の後ろで組み、爪先をトントンさせながらのそっけない言葉。

 珍しい事もあるもんだ。口振りはどうあれ、呉が俺の事を心配してくれるだなんて。

 実際、話も聞いて貰った方が良いのかも知れない。

 あの人もいい所はあるんだけど、今日は心底……もう……。うん、やっぱり聞いて貰おう。

 このまま暗い顔してたら、次に織莉子ちゃんと会った時、間違いなく慰めてくれるだろう彼女を感極まって押し倒しちゃいそうだし。

 

 なら、せっかくだし話させてもらうか。実はな――。

 

 

「ところでさ先生君」

 

 

 ――っておい、聞いてくれるんじゃないのかよっ。

 

 

「いや聞くよ。聞くけどもその前に。何だか甘い匂いがしないかい?」

 

 

 は? そう言えば……。

 

 確かに、ほんの少しだけど甘い匂いが漂っていた。

 生クリームみたいなミルクっぽいのと、フルーツっぽいのに、何かが焼けるような……。

 クレープか? この匂い。

 

 

「そうだよね。ヤッパリするよね。あぁ、気になるなぁ。この美味しそうな匂い。

 ひょっとしたら、春の新作か何かが売られているのかも知れない。

 織莉子と今度デートする時に寄れるレベルかどうか、調査しておきたいなぁー」

 

 

 大きく手を振りかぶり、くるくる回って大仰な動作。

 無駄にキレがあるせいか、さながら演劇の如く様になっており、それが逆に呆れを誘う。

 

 ……呉。お前、最初からそれが狙いだったな?

 

 

「さぁ何の事やら。でも、もしこの匂いの元凶を辿ることが出来たなら、ワタシの海の様に広い心は、慈悲深~く先生君の悩みを受け入れてあげる事だろう。さ、奢れ?」

 

 

 どこまでも欲望に忠実だな、ホント……。

 まぁいいけどさ……。

 

 

「うむ。善きに計らえ」

 

 

 むふー、とふんぞり返ってご満悦な呉。

 殿か。それとも姫か。話を聞いてもらうんだから我慢するが、傍若無人にも程がある。

 つっても、見た目はそう言い張っても変じゃないんだよな。着てる服もお洒落だし。

 なんか、織莉子ちゃんと出会ってから周囲の女性密度が高くなってる気がする。

 しかもその中にリアルメイドさんが居るとか、弟に知られたら血の涙を流されそうだ。

 

 と、そうこうしている間に匂いの元へ到着。

 やはりクレープ屋さんであり、苺フェアをやっているらしい。

 運良く人が途切れていたので、手早く二人分のクレープを入手し、呉に手渡す。

 

 

「ん、どうも。むぐ……ん~、味はまぁまぁかな。甘さが足りないよ、甘さが」

 

 

 品評する呉に続き、俺もクレープを口にする。

 苺の酸味と生クリームの程好い甘みに、シナモンが香った。

 まぁまぁどころか、かなり美味しいと思うのだが。これ以上甘かったら頭痛がしそうだ。

 

 

「それで、一体なにがあったのさ。だいぶ疲れた顔してたけど」

 

 

 適当なベンチに腰を下ろすと、早速本題に。

 一先ず、口の端についたクリームを無言で示しながら、俺は言葉を選ぶ。

 

 えっとだな。俺、入学当初から大学で世話をしてる先輩が居るんだけどさ。

 

 

「うん。……うん? なんか引っかかるけど、まぁいいや。続けて」

 

 

 ああ。その先輩がな――。

 

 

「うんうん。ぁむ」

 

 

 ――ウザいんだ。

 

 

「ふーん。………………え? それだけ?」

 

 

 目をクリッとさせ、驚いたような顔。

 一言で先輩を表現するとどうしてもこうなるのだが、やっぱり伝わらなかったみたいだ。

 

 それだけって言うなよ……。本当にウザいんだぞ……。

 教えてないのに朝から匂いを嗅ぎ付けて引っ付いて回るし。

 別にそれはいいんだ? 毎度の事だから。

 

 

「毎度の事なんだ……」

 

 

 流石にアレだと思ったのか、今度は軽く頬をヒクつかせる。

 が、まだまだ、こんなものではないのだ。

 

 その先輩な、「後輩君から非童貞の匂いがする!」って騒ぎ立てやがるんだよ……。

 しかも、講義中まで横から「相手はどんな女?」とか「この裏切り者!」とか言われるし……。

 おかげ様で今日は見知らぬ人からオメデトウって生暖かい祝福されて……もう大学辞めたい……。

 

 

「ひどうてい……? ……っ!? な、なっ、ひ、ひど、ひどっ!?」

 

 

 ようやく先輩の迷惑さが伝わったのか、立ち上がり、クレープを握り潰す彼女。

 その顔は真っ赤で、とても怒ってくれているのが分かった。

 

 そうだろ、酷いだろ? 確かに最良の相手で男にはなったけどさ? あんな風に騒がれたら恥ずかしいよ……。

 

 

「いいぃいや、そ、そうじゃな、や、そうだけどそうじゃ――うんがぁああっ!? このセクハラ魔人ー!!」

 

 

 ……あれ。何か違う。

 先輩に怒ってるのかと思いきや、呉は耳まで赤くして俺を責め立てる。

 なんでこっちが怒られなきゃ……あ、そういうことか。

 

 いつも織莉子ちゃんの事を好き好きって言ってる割に、意外と純情だよな、呉って。

 

 

「当たり前だっ! ワタシはまだ十五だよ!? 先生君みたいに性欲に塗れた脳みそしてなぁい!!」

 

 

 性欲塗れって酷いな……(つべ)たっ。

 

 羞恥に染まる彼女は、潰れたクレープを一呑みにして、持ち手の紙をペシッと投げつける。

 ふむ、近頃の中学生にしては珍しい。この年頃の女の子って、かなり激しく猥談を繰り広げてるって先輩に聞いたんだけど。やっぱり当てにならんな。

 しかし、織莉子ちゃんだってまぁ……エロいんだけどなぁ?

 なんて思いながら首を捻っていると、ぜぃぜぃ息をする呉は、微妙に距離を置いてベンチに戻る。

 

 

「はぁ……。要するに、その先輩はGUY・KITTIYさんってことだろう? ただの似た者同士じゃないか。馬鹿馬鹿しい」

 

 

 おいコラやめろ。

 なんで毎回そう変な例えばっかするんだよ。

 首から下だけ壮絶マッチョなキ○ィちゃん想像しちゃったじゃねぇか。

 

 

「いい気味さ。そのまま筋肉に溺れるがいいよ」

 

 

 ワセリンで窒息死とか御免被る。あー、気色悪い……。

 

 クレープの甘さで、輪になってポージングする猫頭人間を追い出そうとするが、なかなか上手く行かなかった。

 《ムキッ》てやってるぞ《ムキッ》て。

 

 

「ところで、先生君は何でそんな人をいつまでも相手してるんだい? 迷惑ならキッパリ関わるなって言えばいいじゃないか」

 

 

 ――と、指に残った生クリームを舐めながら、呉が一言。

 組まれた脚がやや色っぽくも見えるが、嫌いなら縁を切ればいいというその意見は、やはりまだ子供っぽい。

 

 そんな簡単に割り切れるもんじゃないんだよ、人間関係ってのは。いい所だってあるんだからさ。

 

 

「いい所ねぇ。例えば?」

 

 

 あ~……家族思い、とか。

 最近、お兄さんが病院から退院したらしいんだけど、変に落ち込んじゃってるって心配してたよ。

 んで、励ますために今度の日曜、一緒にご飯食べに行くんだってさ。

 

 

「ふーん……。でもさ、その人って先生君に織莉子の家庭教師を押し付けた人なんだよね? なーんかさぁ……」

 

 

 完全に口には出さないが、顔を見れば言いたいことは分かった。

 自分の仕事をホッポリ出す人間をいい人だと説明されたって、信じられないに決まってる。

 でも、これにだって一応の理由はあったのだ。

 

 俺も最近知ったんだけど、先輩、職場でセクハラされてたらしいんだよ。

 それで、織莉子ちゃんの前に担当した子で辞める筈だったんだけど、かなり強引に引き止められて。

 んで、駄目なら信頼できる人を紹介しろって話になって、俺に白羽の矢が立ったみたいだ。

 

 

「あれ、女の人だったんだ。んん……ねぇ先生君。セクハラは気の毒に思うんだけど、家庭教師って、そんな“なあなあ”な人事で派遣先決めるの?」

 

 

 俺もよくは知らん。けど、先輩って家庭教師としてはかなり才能あったらしくてさ。

 生徒達からの信頼も篤くて、その勧めなら……って事じゃないか?

 さもなきゃ、俺が失敗するだろうと見越して、先輩を呼び戻そうとしてたけど……とか。

 

 

「なーる。……でも、見事に裏切っちゃったよね、その先輩からの信頼。生徒に手なんか出しちゃって。あーやだやだ。穢らわしい」

 

 

 急所を突かれ、うっ、と呻く。

 織莉子ちゃんとの騒動があったから深く考えてこなかったけど、確かに裏切ってしまっている。

 放っておくと面倒事になりかねないしな、あの処女ビッチ。後でそれとなくお詫びをする方法を考えなきゃ……。

 

 

「………………」

 

 

 それきり、気まずいような空気が広がった。

 しかし、二人きりで会うのは初めてだけど、変な感じだ。

 織莉子ちゃんの前では表情豊かな元気少女なのに、今の彼女はニヒルな表情しか浮かべないダウナー系の入った少女。

 セクハラへの過剰反応では普段通りだったけど、やっぱり猫かぶりしてたってことか?

 ……いい機会だし、もっと話してみるべきかな。

 あんま認めたくないけど、織莉子ちゃんにとっては大事な友達なんだし。

 

 さっきから俺ばっか話してたけど、呉の方はどうなんだよ。

 いつもと様子が違う風に感じるんだけど、何かあったのか?

 

 

「……何かあったか、だって? 大有りに決まってるじゃないか!」

 

 

 ――と、何の気無しに心配してみたら、予想外に大きな反応が返って来る。

 ニヒリズムもすっ飛んだ。な、なんか薮蛇だったか?

 

 

「ワタシは君と違って織莉子とデートでも何でも出来る立場なのに、義務教育なんてつまらない制度のせいでその時間がガリガリ削られてるんだよ!? あーーーもーーー! ウサギは寂しいと死んじゃうんだゾーーー!?」

 

 

 頭を抱えて悔しそうに天を仰ぎ、スラリと伸びた脚がジタバタ。

 どこがウサギっぽいのかは定かじゃないけど、本当に織莉子ちゃんの事が好きなんだなぁ、コイツ。

 ま、不本意ながら気持ちは痛いほど理解できた。俺だって、大好きな人と一緒に居たいのは同じなのだから。

 

 なるほどね。それで不貞腐れて、学校サボってる訳か。

 

 

「不貞腐れてなんか無いさっ。単に価値を見出せないんだ。学生生活って奴にね。

 将来役に立つとは思えない勉強。下らない人付き合い。上滑りな会話の応酬。

 そんな事をしてるくらいなら、大切な織莉子と愛を語らう方がよっぽど充実した時間さ! そうだろう?」

 

 

 またもや立ち上がり、芝居がかった主張が繰り広げられる。

 なんともはや、実に中学生らしいこと。見ていて微笑ましくなるくらいだ。

 似た経験もあるし、これも理解できなくは無いのだが、それよりも先に指摘しなければならない事があった。

 

 はいはい、そうですねー。

 創立記念日ってのはやっぱり嘘だったんだな?

 

 

「あ」

 

 

 呆気にとられた後、「しまった」という顔付きになり、最後には言い訳するか逃げるか迷う素振り。

 全く、つまらない嘘なんかつかなきゃいいのに。

 

 そんな顔しなくても、説教なんてするつもりは無いよ。

 

 

「へ?」

 

 

 ん? ……何だよ、意外そうな顔して。

 

 

「や、だって……。絶対、変な正義感振りかざして説教すると思ってたから……。織莉子だったらされそうだし。あ、それならむしろ御褒美だね!」

 

 

 少し前にされた問いかけをオウム返しすると、相変わらずな返答が。

 それに苦笑いしながら、俺は昔を振り返る。

 

 俺も似たようなもんだったからな。偉そうなことは言えないんだよ。

 

 

「……それって」

 

 

 言いよどむ呉へ、確かに頷く。

 

 そ。いわゆる、保健室登校だったんだよ。中学時代は。

 真面目に行ったのは……一年の二学期までで、それ以降はずっと不登校だった。

 まぁ、保健室に通ったのもほんの数ヶ月だけど。

 

 

「先生君が? 苛められっ子だった、とか」

 

 

 いいや、友達だって居たし、勉強も嫌いじゃなかった。部活だってやってたし。

 でも、ある日突然、何もかもが面倒臭くなった。

 今でも理由は分からない。本当に突然だったんだ。

 

 

「……まさか……や、なんでもない。続けて?」

 

 

 続けてって言われても、面白くなんかないぞ?

 

 

「面白いかどうかはワタシが決めることさ。いいから話しなよ」

 

 

 不意に何かを呟きかけた呉は、頭を振ってベンチに戻る。

 間にあった距離は、いつの間にか縮まっていた。

 

 ……ぶっちゃけ、あんまり覚えて無いんだ。あの頃はただ、生きてただけだったし。

 

 

「生きてた、だけ」

 

 

 飯は食ってたし、トイレも行って風呂も入ってたけど、それだけ。

 生きるのに必要なこと以外は何もして無かったみたいで、全部、朧気なんだ。

 二年くらい、記憶にポッカリ穴が開いてるんだよ。

 卒業間近にはなんとか元に戻ったんだけど、理由は結局。

 

 

「………………」

 

 

 いつに無く真剣な表情で、彼女は沈黙を守る。

 その代わりなのか、俺も普段より饒舌に。

 

 まぁ、高校に上がってからは健康そのものだし、二年間遊んでたと思えば何てこと無いんだけど。

 でも一つだけ、後悔してることがある。

 

 

「後、悔」

 

 

 想い出が無いんだよ。

 ずっと待ってくれていた友達が、家族が、その間に積み上げたもの。それが俺にだけ無いんだ。

 あの二年間、俺は家族ぐらいにしか認識されてなかった。世界から消えそうになっていた。死んでいたのと、何も変わらない。

 だからさ、呉はそのままで良いんじゃないか。

 

 

「え?」

 

 

 不思議そうに首を傾げる呉へ向き合う。

 顔には、自信家な彼女らしく無い――年頃の少女らしい、困惑が見えた。

 

 あの頃の俺と違って、呉は生き生きしてる。ちゃんと想い出を積み重ねてる。

 学校なんか行かなくたって、誰かと笑い合えてる記憶さえあれば、それで良いって思うんだよ。

 俺は、だけどな?

 

 

「……そのまま、か……」

 

 

 おそらく、自分自身に向けたのだろう。

 囁きは風に乗って消えて行く。

 物憂げなそれが、あまりにも切なく聞こえて。

 慰めた方のがいいかと、声を掛けようとすれば――

 

 

「ふっ。先生君が先生っぽいことしてるなんて。似合わないったらないね?」

 

 

 ――普段通りの、放胆な声が返って来た。

 本当に何時も通りで、少しだけホッとする。

 

 似合わなくて悪かったな。どうせ俺は似非教師ですよ。

 

 

「“せ”を“ろ”に変えた方がしっくり来るんじゃないかい? ……さてっと」

 

 

 誰がエロ教師だ! と言い返そうとしたのだが、その前に呉はベンチを立ち、クルッと回ってこちらを覗きこむ。

 

 

「先生君、お腹空かない? ワタシは空いた。食べに行こう」

 

 

 は? そりゃあ昼時だけど、さっきクレープ食べたばっかじゃないか。

 

 

「仕方ないんだよ。先生君のつまんない自分語りを聞かされて脳が疲弊してるんだ。カロリーを求めているんだっ。

 本当は織莉子と家族にメイドさん以外と二人っきりでご飯なんてノーセンキューだけど、今日の所は君で我慢してあげる。さ、奢れ!」

 

 

 腰を上げながら、何でそうなる!? と勢い良く突っ込む。

 給料のおかげでまだ余裕はあるとはいえ、流石にそう何度も奢ってたら財布が空っぽだっ。

 

 一緒に行くのはまだしも、ここは割り勘だろ普通は! せめて三分の一くらいは!

 

 

「おや? いいのかい? 織莉子に比べればアフロディーテとヘカトンケイルだけど、その他大勢となら勝てる自信がある。

 一人寂しく食べるお昼と、可愛い可愛い女の子と一緒に食べるお昼。先生君はどっちを選ぶのかな?」

 

 

 不意に、胸が高鳴る。

 自信満々、猫の様に笑う彼女は、なぜだか輝いて。

 そんな風に感じてしまったのを認めたくなくて、俺はお札の枚数を数えることでなんとか誤魔化す。

 

 ……分かったよ。じゃあ、牛丼でいいよな? 安いし。

 

 

「よーし先生君にデートに誘われたって織莉子へメールしよーっと」

 

 

 回転寿司とか如何でしょーかー!?

 

 ボタン操作しながらズンズン進む背中に、慌てて追い縋る。

 横へ並ぶと、その小悪魔は満足そうに一つ頷き、携帯をパチンと閉じた。

 見事にやられてしまったのが面白くない俺は、これってデートじゃないよな……? なんてことを考えながら、彼女の少し先を歩くのだった。

 

 

 

 

 

「本当に、似合わない、よ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 わたしの瞳に花が映る。

 周囲に毒を撒き散らし、蜜を溜め込む名も無き花。

 

 なんて見苦しい(羨ましい)のだろう。

 なんて汚らしい(綺麗な)んだろう。

 

 刈り取らなくちゃ。

 摘ままなくちゃ。

 汚さなくちゃ。

 

 我慢なんてする必要は無い。

 遠慮なんてする必要も無い。

 

 だって、それがわたしの存在意義なのだから。

 だって、それがわたしの祈りなのだから。

 

 だから、わたしは。

 あんたを不幸にしてみせる。

 

 この、魂にかけて。

 

 

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