「セーンセ、おっ帰り~!」
ごめんなさい何でもしますから締め出すのだけは勘弁して下さい。
「……は? なにその反応」
……へ?
玄関のドアを開けた途端に向けられた、輝かんばかりの笑顔。
それが怖くて反射的に頭を下げてしまったのだが、次に向けられたのはつまらなそうな半眼だった。
しかし、この反応だってもっともであると思う。
一週間近く前。不興をかって窒息死させられそうになったのを受け、自分は昨日、とあるプレゼントを用意してみた。
安物のクマのぬいぐるみ。
うっかり持ち帰ってしまった神名のプリント下着繋がりである。
可愛いもの好きな彼女であれば気に入って貰えると思ったのだが、しかし返ってきたのはかんばしい反応ではなく、彼女はそれを凝視した後、無言のまま片手にぶら下げて帰ってしまい、今日、学校で会うまで音沙汰もなかった。
しかも、こんな風に満面の笑みを浮かべるのは「これからイジメるぞ」という合図みたいなもの。どうしても警戒してしまう。
「せっかく美少女が出迎えてあげたっていうのに、ノリ悪いなー。ほら、早くこっち」
あ、うん……。
手を引っ張られ、乱雑に靴を脱いで部屋の奥へ。そのまま敷きっ放しの布団に座らされて、神名も隣に。
どうやらイジめられる訳ではない、らしい? 顔を見る限り不機嫌そうでもなく……というより、かつてなく上機嫌に見えてやっぱり怖い。
なんで彼女はこんな笑みを浮かべているのだろうか。何も知らなければ、思いっきり抱きしめたいくらい可愛いのに。
あー、と。なんだか機嫌がいいみたい、ですけど。何か、ありました?
「ん? 別にないけど。っていうか敬語やめてよ。そんな怖がることないでしょ? これ、命令だから」
その気になれば一瞬で命を奪われると実感させられたのに、変わらず接することが出来る人間は少ないと思うんですが。
しかし、ここで従わなければ本当に機嫌を損ねる。まだ怖いけれど、なんとか今まで通りにしよう。
……じゃあ、お言葉に甘えて。それで、どうしてこっちの部屋に?
「えっとさ。もう、わたしとセンセーが出会って半年過ぎてるじゃない? そろそろ次のステップに進んでもいいんじゃないかなー、って」
……なに、その健全な出会い方とお付き合いをして来たけど、いい加減に我慢できなくなった彼女の方から勇気を振り絞ってモーションかける時みたいな言い方?
自分と神名はそういう微笑ましい関係じゃないし、帰って来たばかりで疲れてるからまずは休ませて欲し痛いですごめんなさい!!
「人が雰囲気出そうと演技してんだから合わせろ童貞。そんなんだから未だに童貞なのよ。ちょっとは成長しなさいこの童貞」
さっきは敬語やめろって言ったのに……。
涙目になりながら、全力でつねられた手の甲をさする。
なにもこの短い間に三回も童貞って連呼することないじゃないか。別に童貞だっていいじゃないか。
おかげで病気とは無縁なんだし。
「調子に乗れとまでは言ってないっつーの。ほら、やり直し。センセーはしたくないの?
……それとも、初めてがわたしとじゃ、いや? こんな汚れた身体じゃ、だめ?」
あ、そこら辺は事実を反映するんですね。
う~ん……。神名のお遊びに付き合うのはいいんだけど、これはどういう風の吹き回しなんだろう。こんなのは初めてだ。
……考えても意味無いか。どうせ気まぐれに決まってる。
自分に出来るのは、彼女の望む役割を演じることだけ。そうしなければ身を守れないんだから。
そんなわけ、ない。自分だって、出来るものならしたいよ。
でも犯罪だし、なにより君は嫌じゃないのか? ……男に、そんな風に触られるの。
「センセーなら、いい。触って欲しい。この唇も、おっぱいも、大事なとこも。全部、センセーので上書きして欲しいの……」
あぐらをかくこちらの膝に手を置き、彼女は間近から上目遣いを。
ふわふわと揺れる前髪から、かすかな花の香り。
どうしよう。演技だと分かっているのに、グッときてしまった。
「……センセー」
か、んな……。
まぶたが伏せられ、徐々に、徐々に近付いてくる。
あぁ、そうか分かった。
ここで本気になって目を閉じたら、顔に拳か膝がめり込むんだ。その手には乗らな……かったらどうなるんだろう。
また魔法で罰ゲームを強制させられるのだろうか。恥ずかしいのは勘弁して欲しい。でも痛いのだって嫌だし――
「ん、ん」
――あれ?
すぐ目の前に、あどけない顔。
まつげがクルンとカールしている。
鼻息が掛かってくすぐったい。
唇には溶けかかったマシュマロが。
「んぁ、ちゅ、ん、ぅ、ふ」
小さく、熱い何かが、口内へ侵入してくる。
ハチミツのように甘い。
反射的に舐め取ろうとすれば、今まで感じたことのない感覚が背筋を上ってきた。
なんでだ。なんで、本当にキスしてるんだ、自分達は。
「……っはぁ……ふふっ。センセーびっくりし過ぎ」
唖然としている間に、終わってしまった。
しなだれかかる神名の耳が胸へ押し当てられ、鼓動の早さを知られてしまう。
どうして……。いつもの、冗談じゃ?
「あ、失礼しちゃう。女がその気かどうかくらい見抜きなさいよ……って、センセーには無理か」
また人をけなしながら、今度は股座へ腰を下ろし、横向きにもたれて来る。
これほど身体を密着させるのは葬儀以来で、心臓はなおさら。
あまりに小さく、抱きしめてしまえばスッポリ隠せてしまえそうで。
でも、そうしていいのかどうかも分からず、硬直。
「しいて言えば、飴をあげたくなったから、かな」
飴?
「さっきの答え。この間はやり過ぎちゃったって、反省してたんだよ? だからそのお詫び的な。
使わないとクモの巣はっちゃいそうだし。それとも、本当にしたくないの? さっきの言葉は、全部うそ?」
乳首をくすぐるようにのの字を書いて、いじらしく問う神名。
嘘なわけがない。
正直に言えば、あの日からずっと。手で、足で、言葉で玩ばれていた時からずっとしてみたかった。キスしただけでもうガチガチだ。
おまけに彼女がそれをお尻でこするものだから、気持ちよくて仕方ない。
だが、やはり恐ろしい部分もある。
最後までしてしまったら、自分はどうなる? きっと幼い身体に溺れ、教師としても人としても、最悪の結末を迎えてしまうのではないか。
「……ねぇ、センセー。なに考えてるのか知らないけど、細かいことは忘れようよ。今はわたしのことだけを見て」
こちらの首へ腕を回す彼女の言葉に、妙な違和感を感じた。
けれど、その正体を見極める時間もないまま――
「センセ。あそぼ」
――決定的な一言が、囁かれた。
もう一度。今度は自分から唇を重ねる。
「んむ、んっ、ふ、そ、もっと、舌からませて……んちゅ」
やっぱり、甘い。
もっと生々しい味を想像していたのに。
これではまるで、少女マンガのワンシーンだ。
「っんぁ、は、ね、こっちも。キスだけじゃなくて、こっちも、センセー」
担当児童とのいかがわしい口付けに夢中になっていると、神名が少し身体を離し、着ていたシャツをキャミソールごとめくり上げる。
あばらの浮く、魔法で傷一つなくなった肌を裾がすべり、膨らみきらない柔らかさが姿を現す。
その頭頂部は、恥ずかしげに頭を隠していて。
「ちょっと、恥ずかしいかも……。センセーと同じで隠れちゃってるし……あん!」
可愛らしくて、許可も待たずにしゃぶりつく。
わずかな汗の味と、清潔な匂い。前もってシャワーでも浴びてくれていたのか。
少し残念だ。神名のなら、今はなんだって嬉しいのに。
「んぁ、ふ、ぅ……んは、やっぱ男って、おっぱい、好きなんだね? っ、そんな必死にならなくても、ぁ、逃げない、のにぃ」
優しく頭を撫でながらの、赤ん坊をあやすように穏やかな声。
また夢中になりつつ、しかし、苛立ちが芽生えた。
独占欲。
自分以外にこの少女の味を知っている人間が居る――居たのが腹立たしい。
そんな気分を紛らわそうと、隠れているものを舌でほじくり出し、吸いついて甘える。
「んは! はっ、ぁ、セン、セ……ぅ、ふ」
もどかしさを堪える、聞いたことのない声音。
自然と押し倒す形になり、神名の手によって、もう片方の膨らみに指が導かれた。
驚くほど柔らかい。固まりかけのゼリーみたいな感じだ。なのに、しっかりと形は保って指を跳ね返す。
「あ、センセー待って」
――と、不意に神名は素の声を上げる。
普段通り過ぎて、どうかした? と思わずこちらも興奮を忘れて問い返してしまう。
「シワになっちゃうし、汚れちゃうから。ちゃんと脱ぐ」
言うが早いか、彼女は腕の中を抜け出し、一枚ずつ衣服を脱いでいく。
シャツ、キャミソール、ズボン、パンツ。
きちんとシワにならないよう畳み、四つん這いになって布団の脇へ。
普段は傍若無人なのに、こういう細かいところは妙にしつけが行き届いていて、感心してしまう。
「……ひゃ!? ちょ、センセ……ひっ!」
――が、可愛いお尻を向けられては、我慢など出来なかった。
小振りな肉を左右へ押し開き、間に見える縦線を舐める。
「こ、こらっ、ちょっと待ちなさ――いぃ!? あっ!」
本当にここへ男を受け入れた事があるのか。
そう疑いたくなるくらい、綺麗で、美味しかった。
こういう感想が正しいのか分からないが、とにかく美味しいという他にない。
嗅覚で体臭を感じ、舌を躍らせて味覚を楽しませ、ヒクヒク収縮する、色素の定着していないお尻の穴を観察する。
あの日触れられなかった分、余計に興奮していた。
「う、ぃ! や、やだ、は、くぅぅ!」
しかし何故だろう。反応がやけに大きい。
あまり上手に出来ている自信は無いのに。
まさか、初めてなのか? クンニされるの。いや、そんなことは……。
「や、め……ろっつーのぉ!」
うごっ!?
――と、そんな事を考えつつ、溢れ出る愛液をすすり続けていたら、いつかと同じように腹を蹴飛ばされた。
けれども、どうしてか痛みはほとんど感じず。
首を捻っていると、神名が赤い顔でツバを飛ばしてきた。
「わたし責められるのはキライなの! 察しなさいよこのヘンタイ!」
……あ。そうか、そうだ、よね……ごめん……。
よく考えれば、彼女はレイプ被害者なのだ。
男に好き勝手もてあそばれることにトラウマを抱えていて当然。
なんで気付けないんだ、自分は。いつも自分の事ばかりを優先して。
だから救えなかったって、分かっているはずなのに。
「そ、そんなショボくれないでよ……。びっくりしただけ、だし……。ほら、それよりセンセーも脱いでっ」
……あ、うん、分かった。
後悔の念にうつむいていたら、神名が布団を這い、シャツのボタンを外してくれる。
上半身が裸になるまであっという間だ。次いでベルトも外され、彼女と同じく全裸に。
改めて見比べてみると、児童買春の犯行現場にしか見えなかった。
顔立ちはもとより、第二次性徴期に入ったばかりの身体は細く、膨らみかけの胸はとんがって、普通にしていてもあばらが見える。体毛も薄い。陰毛に至っては生えてすら。
対する自分にはだらしなく脂肪が付きまとい、へその上まで剛毛が茂っている。筋肉はそれなりについているはずだが、やはり腹が出ていてみっともない。
「うわー、もうカチカチ。じゃあ今度はわたしの番」
しかし、彼女には気になることでもないようで、そのまま脚の間へ身を横たえる。
分身の横に少女の顔がある視覚効果もあって、硬度はかつてないほどに。
……って、え? あの、もしかして口で、してくれる?
「他にどんな選択肢があるのよ。して欲しかったくせに」
クスクスと、見慣れた意地悪さで息を吹きかける神名。
刺激と期待で、竿が跳ねた。
「んー、見事なカセーホーケー。それじゃ、するよ?」
確かめるように視線を上げた後、大きく口を開けて、舌をギリギリまで伸ばす。
熱が近付いてくるのを感じる。
ゆっくり、ゆっくり、焦らされる。
そして――
「んっ」
――ツン、と触れた。
覚悟していたよりか、幾分、刺激は弱く思えた。大したことない。これなら耐えられるかも……。
「ん~……れろぇろ……ん、剥けちゃった。はぅむ」
うぁ、ちょ、おぁ、く……!
――と思ったのだが、しかしそれは思いあがりであった。
先端の皮に舌が入り込み、くるくる舐めながら押し下げていく。
ただ触れるだけなら我慢できたのに、声が漏れてしまう。
それだけでなく、ぱっくり咥えられて熱に覆われてしまった。
「ん、ぐ、んむぅ、っふ、ふ」
『どう、センセー。気持ちいい? 気持ちいいでしょ?』
苦しげな息遣いと共に、頭へ直接声が響く。
これは多分、テレパシーだ。喋れないからその代わりだろう。
なにせ神名の舌は今、先端をこれでもかと撫で回し、唇も竿を上下に行ったり来たりしているんだから。
き、気持ちいい、気持ちいいけど、もうちょっと加減を……っ、これじゃ、すぐ……っ」
「んぷ、ぁ、はふ、んぐぅ、ぅんっ」
『あはは、しょーがくせーのお口で気持ちよくなっちゃうんだ、センセーなのに。どうしようもないね? でも素直さんだったから、もっと凄いことしてあげる』
もっと、凄いこと?
もう射精しそうなのに、これ以上刺激されたら。
まだ、この中に居たいのに。舐めていて欲しいのに。
そう思って、動き続ける頭を止めようと、手を添える。
「う゛っん゛」
――が、その瞬間、全て飲み込まれた。ぐぽん、と根元まで。
いや、何か……穴に入った? まさか喉に?
神名、っ、ぁ!?
「ぶむ゛……っ、っ……っん゛」
堪らず、出してしまった。
凄まじい快感と射精感。激しい勢いを、少女の喉へ直接に流す。
先端が窮屈さに締め上げられ、舌が脈を助ける。吸い出される。
筆舌に尽くしがたい、未知の感覚だった。
「……ぉご……かふっ、ごほっ……。はぁ、すっごい量。溺れちゃうかと思った」
やがて、射精が終わってへたり始めると、喉奥から竿が吐き出される。
数回に分けて、たっぷり十秒は発射したと思うが、全部飲んでくれたらしい。
ご、ごめん、神名。勝手に、その……。
「なんで謝るの? そのためにしてるんだから、気にしなくて良いのに。夢、一つ叶ったでしょ?」
う、ん。そうなんだけど……。
確かに、夢にまで見ていた行為だけど、どうしちゃったんだこの子は。
今までが今までだったし、サービス良過ぎな気が……。
しかもこれから本番もある……? やっぱり自分、殺されるんだろうか。
「さぁて、これで終わりじゃないよねセンセー? あむ……ほぁ、ふぇんひになっへ?」
言い知れぬ不安を感じていたら今度は浅くしゃぶられ、うっ、と短く喘ぐ。
ワザとだろう、口に含んだまま喋り出し、声の振動で硬さは瞬く間に復活した。
「んふ、さっすが童貞。はい、さっさと横になる。いよいよだよー?」
逆らえるわけもなく、横になり枕へ頭を乗せる。
竿が天井を向いて反り返り、神名はその上へガニ股になって腰を近づけていく。
そして、微妙に位置がズレている先端を握り、自らの恥部へと導き、軽く深呼吸。
「はぁ……。久しぶりだと、緊張する。……言っててもしょうがないか。行くよ? センセーの童貞、わたしが奪ってあげる。……ん」
つぷん、と先っぽがめり込む。
こちらの胸板に手を置いて、彼女が徐々に下へ。
「くぅ……ぃ、あ゛」
ずいぶんとキツい。
久しぶりと言っていたし、あの男達が死んでしばらく。指以外は入っていないのだろう。
でもそれにしたって、とてつもない圧力。未使用の肉を引き裂いているようだ。
現に、何かが引っ掛かっているみたいな感覚がある。
「ぐ、ぅう゛――ぎっ!?」
――と、勘違いだったのか、それは間もなく破れ、八割がた侵入した。
喉奥に入った時と似ているようで、全く違う圧迫感。
根元近くまで隈なく絞られる。奪われて、しまった。
……っていうか、今の感触って。
か、神名? 今なんか、突き破った気がしたんだけど?
「く、はっ……は? そりゃ、そーでしょ。魔法で膜、再生してたんだ、もん。うぅ、やっぱ、太……。なに? 嬉しくないの?」
嬉しいに決まってます。
でも、こんなに血が……痛みは……?
「即答しないでよこのロリコン。痛いわよ。太過ぎなの、童貞のくせに。カセーホーケーのくせに。一回出してなかったら、入れただけでイっちゃいそうな、早漏のくせにっ」
いだ、痛いっ、腹毛むしらないで!?
慌てて、腹いせに毛を引っこ抜く神名の手を握り、環境破壊を食い止める。
それにしても、魔法って凄い。処女膜まで再生できるのか。かなりキツくて痛気持ちいいし、本当に嬉しいけど、理由はやっぱり……。
また失ってしまって、よかったのだろうか。彼女の中ではもう、その程度の価値しかないという事なのか。
「ん……ほら、いつまでも感動してないで。動くからね。……くぁ」
思案に耽るこちらを余所に、神名は指を絡ませ、騎乗位の体勢で摩擦を開始。
吐息が弾み、同時に竿へ初体験の感覚が。
気持ちいい。気持ちいいけど、気持ちよ過ぎて何が何だか分からない。
「はっ、あ゛、うぐぅ、う、い゛」
あまりにも狭く、ピッタリくっついていて、境目が判然としなかった。
擦れているのに、刺激が強すぎて集中できず、まるで溶け合ってしまっているよう。
「んぐ、ふっ、ふっ、ん゛ぁ」
息つく暇もない快楽。
しかし、恍惚とする脳に響く、気になる音。
痛みを。苦しみを耐える、少女の声。
あの、神名? 無理をしない方が……。
「っく、う゛……は、ぁ? なら、さっさ、と、っ、イきなさい、よ……ん゛」
そうじゃなく、て……。
どうせなら、君にも気持ちよくなって、欲しいし……。
「……? なに言ってるの? わたしが気持ちよくなれるわけないし、なったってしょうがないじゃない」
キョトンとした顔で、首を傾げる神名。
少し、ゾクッ、とした。
本気で分かっていない。この行為が、本来は互いに快感を得られるものであると、彼女は知らないのだ。
知る前に。知ってはいけない内に。
傷付けられ、踏みにじられ、蹂躙された。
「あっ。……センセー?」
抱きしめていた。
こんな事を思う資格など、こうしている自分には無い。
けれど。それでもただ――憐れだと。
「どうしたの? あ、こういうのの方が好き? なら、そっちでもいいよ。今日だけ特別、だからね?」
おそらく、読まれてはいないのだろう。
こんな風に考えていると知られたら、その瞬間、自分は殺される。この子はそういう子だ。
だから、彼女の勘違いを真実にするため、身体の位置を逆にし、神名を布団へ寝かせる。
「ん……あ……」
押し潰さないように、しかし離れないように。
肌を密着させて、腰を動かす。
「は……うっ……っ……ふ……」
じわり、じわり。
竿に愛液を染み込ませながら、窮屈な壁を脱出。
くびれまでを引き抜くと、倍の時間をかけてまた奥へ。
苦しめないため最奥は突かず、馴染ませる事だけに努める。
「く、ぁ……はっ……はぁぁ……」
何度もそれを繰り返し、些細な変化も見逃さぬよう、注意を払う。
見たところ先ほどまでよりはマシなようだ。が、今度はこちらが苦しむ番だった。
自分の思う通りに動くと、彼女の内側がどれだけ狭いのか、熱いのか、深く感じてしまえる。
意識が遠くなるくらい、気持ちいい。
っ、神名、まだ、気持ちよくは……?
「だ、から、気持ちよくなったって、意味無いし、なれるわけないでしょ。
ついさっきまで童貞だった、くせに、調子乗りすぎ。動きも、単調だし。
どうせわたしをイかせられるはず、無いんだから。もっと激しく突いて、さっさと終わらせあんっ!」
話に気を取られ、ついうっかり奥を擦ってしまったその時、呆れ顔が色欲に染まった。
……あの。
なんか、可愛い声が。
「気のせい。センセーの勘違い。声なんか出してない。あとわたしは可愛くなんてない」
横を向き、手の平で必死に顔を隠す、照れた少女。
どうしよう。
めちゃくちゃカワイイ。
「ひぁ!? せ、センセー待って、ぅあ! こん、な、んぃ!」
試しに奥だけを狙ってグリグリ押し上げてみれば、クンニした時と同じく、大きな反応が変える。
思ったとおり、経験豊富とはいっても、その内容には著しい偏りがあるようだ。
こんな風にされたの、もしかして初めて? さっき舐めた時も……。
「……し、しょうがないでしょ!? あいつら早いし細いし短いし、好き勝手にわたしを使ってくだけだったんだから……。あ、あそこ舐められたのも初めてだったの! 悪い!?」
悪いどころか、嬉しくて堪らない。
この可愛らしい声を引き出したのは、自分が初めて。
どうしようもなく、興奮する。
「んっ! ぁ、はん! やだ、これ、ぅ! やだぁ! センセ、ゃあぁ!」
押し潰し、擦り上げ、こね、突く。気付けば、思いつく限りの手段を使って、最奥を抉っていた。
涙目になって、真っ赤な顔で、神名は首をふる。
魔法で無理やり止めるという選択が思いつかないほど、切羽詰っているらしい。
そんな彼女の頬を撫でながら、自分は言う。
大丈夫。ここに居るから。ずっと側に居るから。
だから、もっと一緒に、気持ちよくなろう。
「……ほんと、に?」
対する返事は、小さな声と、大粒の涙。
「ほんとに、側に居てくれる、の? お父さんみたいに、捨てたりしない? お母さんみたいに、置いてったりしない?」
瞳は零れそうな雫をたたえ、手と手が重なる。
衣服を纏っていないせいか、むき出しの言葉が胸に痛い。
親指で涙を拭って、大きく頷き返せば、彼女の顔がほころび――
「うそつき」
――まばたきの間に、反転した。
ゾブリ、と。
その無表情に、刃を突き立てられた気がした。
「男ってほんと単純。安いエサと涙にコロッと騙されちゃって」
か、神名? 一体、何を言って……。
「まぁだトボけるんだ。ま、そうだよね。わたしの魔法に引っ掛からないくらい慎重に準備したんだもんね。でも」
仄暗い笑みでクスクス笑いながら、神名は枕の下から何かを取り出す。
「隠すならもっと厳重にしなきゃ、ね? あ、でもそれだと意識に残っちゃうのか。ほんとに、どうやって書いたんだか」
それは、何も書かれていない封筒。
覚えがある。
この手で書いた、退職願だ。
たしかに、自分の書いたものだった。
「わたしから逃げるつもりだったんでしょう。あんなこと言ったくせに。
何もかも捨てて居なくなるつもりだったんでしょう。残念、バレちゃった」
中身をひらひらさせ、嗤う。
それは、死刑を宣告されたようなもの。
自らの意思に従わない存在を、裏切り者を、彼女は許さない。
……普通に考えれば。
「何か言い訳ある? 特別に、聞くだけ聞いてあげる。面白かったら助かるかもよ? しょーがくせーの身体に酔って、平気で嘘つく、セ・ン・セ?」
……神名。
「うん。なぁに?」
それ、日付までちゃんと見た?
「……へ? 日付? えっと………………ん?」
予想外の言葉だったのか、せせら笑う目付きを訝しそうにパチクリ。紙面へ目を凝らす。
そして、ある一点に注目し、今度は眉間にシワを。
「あ、れぇ? なんか、だいぶ、前……」
うん。それ、あの三人の苦情に参ってた時、発作的に書いた奴なんだ。
処分するの忘れてただけで、出すつもり無い。
出したとしても、日付と年号を間違ってるから恥ずかしい思いをすると思うよ。
「………………」
沈黙。
優越感に浸っていた顔が、みるみる汗ばんでいく。
視線は縦横無尽に泳ぎまくり、唇が波打つ。ほっぺたも紅潮し、プルプル震える肩。
やがて、彼女はクシャリと退職願を握り潰し――
「……き、記憶を失えー!!!!!!」
あだっ!? ちょ、神名、やめ、やめてっ!?
――そのままボコスカ殴りつけてきた。
わりと本気らしく、眼鏡がズレる。
「なに? 今までの仕返しなのこんな悪質なトラップしかけて!? わたしに恥をかかせるのがそんなに楽しい!? ばかばかばかばかばかばかぁぁあああぁああっ!!!!!!」
いやトラップって君が勝手に先走っただけ……あぁ、とにかく落ち着いてっ。
「はーなーせー! このヘンタイ、ロリコン、性犯罪者ー!」
暴れる神名をなだめるようと強引に抱きしめたのだが、それでも四肢をバタつかせ続ける。
しかも、身体を動かすという事は筋肉を使うという事であり、筋肉というものは単独で動作する事もなく、然るによって――
あ、ごめん出る。
「え、えっ? ……んぁ!? なに勝手に、ぅ! ふぐ……あ……あ~ぁもう……」
――膣内射精してしまった。
最奥へグイグイ押し付けて、キツさの中で爆発させる。
一人では絶対に味わうことの出来ない充足感。
諦めたように力を抜く内側は、しかし巧みに精をすすって蠕動してくれた。
こんなに長く射精できるなんて、初めて知った。人間とは不思議なものだ。
「この、早漏。こんなグダグダなの初めて……」
すみません。気持ちよくて我慢できませんでした。
なんて謝りながら、疑問に思う。
どうして神名は、魔法を使おうとしないんだろう。
嫌なら強制すればいい。たった一言を口にすればいいのだから。
記憶だって本当に消せるし、過去に遡って深く読んでおけばこんな事態にならなかったはず。
理由は定かでないけれど、でも、分かっている事が一つだけ。
この心を読んでくれないのなら、口にする必要がある。言葉にして伝える必要があるのだ。
嘘じゃないよ。
「……は? ……なにが、よ」
自分の命は、もう神名の物なんだ。君の許可なくどこかへ行ったりしない。
君が
今度こそ、守るよ。
「……センセー?」
身体が少し離れ、視線が重なり合う。
こちらを見るそれは、まるで驚いているようにも見えて。
神名は、どれだけの言葉を胸に抱えているのだろう。この言葉を口にするのに、どれだけの想いが必要だったのだろう。
発端は思い違いからだとしても、さっきの涙。嘘だとは思えなかった。あれはきっと、この子がずっと抱え込んできたもの。
不幸に慣れすぎて形に出来なかった、本当の願い。
半年前は自分のことで手一杯だと、誤魔化してしまった。そのせいでこの子は余計に傷ついた。
償わなくちゃいけない。たとえ、玩具みたいな扱いを受けようとも、自分だけは味方でいなくちゃ。
引き返すことなんて、出来ないんだから。
「……そっか。センセーはもう、とっくに……」
かすれた声で、何かが呟かれる。
聞き取れないまでも、拒絶の響きは感じず。
ただじっと、悟ったようにまぶたを伏せる神名を見つめた。
「続き、してよ」
やがて、つぶらな瞳がそれを捉え、柔らかい笑みが浮かぶ。
「わたし、まだイってない。センセーはわたしのおもちゃなんでしょ? ならもっと、わたしを悦ばせなさい」
一見すれば、静かに愛を告げるような表情。
だが、実際に口から飛び出したのは、女王の如き不遜な勅令だった。
なのに、どうしてだか嬉しく思えてしまった自分は、彼女の中でしぼんでいた分身を復活させる。
「ん……ぁ、は。これ、おもしろい、かも。中でおっきくなって……」
抜けてしまわぬよう、揺らす範囲は最小限。
わずかな刺激でも、ヌメリと体温があるだけで、感じ方が全く違った。
すぐさま硬度を取り戻し、奥を小突いてしまう。
「はぁ……あ……あ、ぅん……ふっ」
緩やかな抽送。
ピストン運動にも、今度は感じ入っているようだ。
薄く目を閉じ、未発達な膨らみが揺れる。
「もっと……奥だけじゃ、なくて……横っ側、も……」
すると、もどかしそうに上体をくねらせ。小さな声が。
緩んだ口元からは、確かなメスの欲望が垣間見えた。
求められたのがまた嬉しくて、挿入したまま神名を横向きにさせ、太ももを抱えて、側位で腰を突き出す。
「あっ、ぁん! なに、これ……ぅ! いつもより、ピリピリ、するぅ……ふぁ!」
斜めに擦り上げると、合わせて甲高い音が響く。
竿へも正常位とは違った快感が走る。
ほんの少し向きを変えただけで、こうも変わるなんて。……もっと、知りたい。
そんな衝動に駆られ、次は腰を持ち上げて後背位に。
「ひいっ! ぃや、変なとこ、擦れて……はっ! うしろ、や、だぁ!」
もともと浅い内側だったけれど、こうすると神名の小ささがよく分かる。
身体を構成するパーツが全体的に細く、弱々しい。それでいて、竿を突き立てれば震えて悦を示す。
彼女を無理やり犯した男達も知らないだろう、十二歳が男で悦ぶ、艶姿。
……滾る。
「ぁひ! や、だ、だめ、ら、め――んんん~~~!!」
我武者羅に腰を振ると、ただでさえ狭かった中が強烈に収縮し、見下ろす背中が弧を描いた。
枕に顔を押し付けているのか、くぐもった声も聞こえて。
もしかして、イってくれたのだろうか。うん、間違いない。この震え方、教室で見せ合った時と同じだ。
「ぁ……あ……うく……ふ……」
鼻に抜ける声と共に、ヌルリ、と竿が吐き出される。
感じるのは、射精したときとはまた違う感覚。これは、優越感、か。なるほど。これは癖になる。もっとしてみたい。
とは思っても、いかんせん初体験。使い慣れない筋肉を酷使したせいか、疲労も感じていた。
少し休みたくて神名の隣へ横たわると、彼女は恨めしそうな呟きを。
「イかされた……。よりにもよってセンセーに、わたしだけ、イかされるなんて……。屈辱……」
どうやら、一人先に達してしまったのが気に喰わないらしい。
ぷくー、と頬を膨らませ、不満顔。
それがまた可愛くて、思わず笑顔になってしまったのだが、彼女は「む」と目を細め、また仰向けになっていたこちらの上に。
え、神名? まだ休んでた方が。
「やだ。やられっ放しなんて性に合わないし。攻守交替。枯れるまで絞ってあげる」
どこまでも強気な笑みで、柔らかくなりかけていたモノを掴み、強引に挿入。
子供が遊ぶように動く。
ぅ、あ……! ちょっと、待っ……ぅくっ。
「ほら、ほらぁ、ぁ、さっきの勢いは、どこいったの? 女の子みたいな、ん、声、出しちゃって」
上下に跳ねて、左右に揺れる。
気持ちよさで喘ぎながら観察すれば、グロテスクな肉塊を、幼い恥部がしゃぶり尽くしていた。
もう出血は見られず、溢れ出るのは、精液と混じり合って濁った愛液。
「ぅん! ぁはっ、すごい、さっきは苦しい、だけだった、のに、全然違う……あふ」
貪欲に快楽を貪る少女は、淫らに表情を溶かしている。
明らかに楽しんでいた。
彼女にとって汚らわしいはずの行為を、積極的に。
そうさせたのは、彼女を教導する立場――教師である、自分で。
無視していた背徳感が、唸りを上げて神経を駆け巡る。我慢なんて、出来ない。
神名、もう……!
「えー、もうイっちゃうの? せっかく良くなってきたのに……。ってそうだ。さっき勝手にナカダシしたよね。妊娠したらどうするつもり?」
いやあれは、体勢的に仕方なく……もしかして……?
「来てないけど、だからって、ん、中に出していいわけないじゃん。それとも、しょーがくせーに自分の子を産ませたいの?」
にやり、そんな擬音がぴったりの笑いを浮かべ、彼女が言う。
流石にそんな事を望むほど鬼畜ではなく、まさかそんな、と反論するのだが、それを聞くと「ふーん」なんて気のない返事で半眼に。
そして、いつかと同じように身体の上へ寝そべって――
「おねがぃ。せーえき、中にちょうだい? センセーの赤ちゃん、産みたいの」
――などと、明々白々・嘘八百な猿芝居をかました。
が、そうだと分かっているのに、潤んだ瞳が、切なげな眉が、瑞々しい唇が、オスを昂らせる。
「んふふ、やっぱうそつきだ。……ぁはん!」
強くなった圧迫感。それにこちらの欲を悟ったのか、神名は手弱女の衣を脱ぎ捨てる。
腰を振るのは、人の精をすすって生きる、淫魔の如き美少女。
「出しちゃえヘンタイ、出しちゃいなさいこのロリコン! あんたの薄汚いえーえきで、しょーがくせーを孕ませてみなさい!」
づぷ、づぷん、と激しく音が立つ。
爆発寸前だった滾りも、そんな事をされては留まれるわけがなく。
あすみ、出る……!
「んっ! んん~~~~~~っ!!!!!!」
少女の胎へ、容赦なく白濁液を放出する。
一拍、二拍、三拍、四拍――何度も脈打ち、染め上げる。
こんなに出して死にはしないかと、自分で心配になるくらいだった。
「――っはぁ、はぁぁ、は……気持ち、いぃ……」
受け止める彼女も軽く達したのだろう。くて、と胸板に頭を乗せ、呼吸を整えていた。
背中を撫でてやると、じっとり汗ばんだ肌が吸いつく。硬さを失い始めた竿が、ダラリ、抜け落ちる。
これが、セックス。女と身体を重ねる行為。
どうして興味を持たなかったんだろう。今までの人生、大いに損をした気分だ。
「はぁ。さて、もう一回っと」
はい?
聞き違い、だろうか。
感動に浸っていたところへ、信じられない発言が届いた。
もう一回? もう三回出してるんですけど? もうそろそろ弾切れしそうなんですけども?
あ、あのせめて十分だけでも休憩――ぅを!?
「ふ、ぅんっ」
底なしの性欲へ戦慄し、せめて休憩をと懇願したのだが、またしても強引に、押し込むようにして飲み込まれた。
……あれ、なんか感触が違う。
さっきまでは、狭くても柔らかい、蕩ける感触だったのに、今居るそこは、熱いのは同じでも、輪ゴムで縛られてしまったみたいな……。
「ふっふっふ、どこに入ってると思う?」
身を起こし、不敵に笑う。
その下腹部を確かめてみれば、さっきと微妙に位置が違う。
本来竿が納まるべき場所が、空いているように見えた。けれど、肉で包まれる感触はある。
ということは。
ちょ、ちょっと、生でお尻は、病気とか……っ!
「だいじょーぶ、ちゃんと綺麗にしといたから。それに、枯れるまで絞ってあげるって言ったでしょ。
腹上死寸前までするから、覚悟してよね。エッチが気持ちいいって教えた、センセーの自業自得。
つーかさっき人のこと呼び捨てにしたよねぇ? 一回しただけで思い上がるな。自分の立場ってものを再教育してや、るっ!」
お、う!?
ギチリ、と、痛いほどの締め付け。膣のふんわりしたそれとは、雲泥の差。
しかし、潤滑液は出ないはすなのに動きは滑らかで、引き千切られそうな快感に意識が飲まれる。
そんな姿を見下して、彼女は。
あすみは、無邪気に。意地悪に、輝いてみせるのだった。
「空っぽになるまで出し尽くして。
その隙間に、わたしの存在を刻みつけてあげる。
例えこの先なにがあっても、センセーはわたしのモノなんだから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――年は度重なるストーカー行為によって何度も通報されていました。父親の――」
聴覚が女性の声を察知し、眠りの気配が遠ざかる。
……テレビ。ニュース。消し忘れたのだろうか。
とりあえず朝っぽい。時間を確認しなければ。
っぐぁいだぁ!?
――と、そう思って身体をひねった瞬間、腰へ凄まじい痛みが。
なんだこれ……!? めちゃくちゃ痛い……! き、筋肉痛?
っていうか全裸だ、身体がベタベタする、布団が湿ってる上に生臭い!
どうしてこんな状況になってるんだ!?
「――不明な供述を繰り返し、自分達が精神鑑定を――」
テレビからは、相変わらず女性アナの声。
なんとか枕元の眼鏡ケースをたぐり、テレビに表示されている時間を確認すると、まだ時間があった。
これなら学校へ出勤する前にシャワーを浴びられそうだ。
それにしたって、この状況はおかしい。
全裸で寝る習慣はないし、筋肉痛になるほど腰を使った覚えもない。
布団だって週に一回は干してるんだから――いやこの濡れ具合はおねしょと言っても間違いじゃ……この歳で?
いやいやいやそれこそあり得ない。昨日は……ダメだ思い出せない。帰ってきてそれから、どうしたんだっけ。
酒でも飲んだ? でも家で深酒するほど飲まないし、飲んだならなんで二日酔いしてないんだ。どうなってる……?
「――てはお天気です。今日は――」
腰を庇いながら部屋を見回す。
と、すぐ脇に折りたたまれた服が置いてあった。せめてトランクスくらいは穿いておこうと手に取り、気付く。
これ、自分の畳み方じゃない。自分はもっと雑で、こんな綺麗に畳んだりしない。
寒気がした。
まさか、誰かがこの家に侵入した? こそ泥? でもそれなら部屋が荒れていなくちゃ……。
それにこんな悪戯染みたことをして何の得になるっていうんだ? けど他に可能性なんて……ん?
机の上に、妙な物があった。
趣味に合わず、とても場違いな物。
小さな、クマのぬいぐるみ。
何となく手に取れば、ようやく確かな記憶が蘇った。
これは神名に貰ったものだ。
昨日、突然彼女の父親から連絡が来て、親子一緒に暮らす事がとんとん拍子に決まり、転校する事となった。
即日転校なんて本来はあり得ないこと(事実、住民票の移動や在学証明書の提出、転入学通知書などの交付はまだ……のはずだ。記憶にない)だが、置かれていた環境と、本人たっての希望もあり、既にこの街を離れている。
短い間ではあったが、何かと接する機会が多くなった自分達は自然と仲良くなっていて、別れ際、彼女が大事にしていたこのぬいぐるみを渡されたのだ。
『わたしのこと、忘れないで』
――と。そう言われて。
ずっと辛い生活を強いられてきた神名。
今更のこのこ現れた父親に腹が立たないわけでもなかったけれど、これからは彼が守ってくれる。
血の繋がった親子なんだから、一緒に居られるのならそっちの方がいいに決まってる。
……決まってる。
なのに、どうしてだろう。
とても大切な事を、忘れているような気がした。
心細い。
繋いだ手を振り払われたような。
隣に居た誰かが消えてしまったような。
心が、軽くなってしまったような。
そんな気がした。
頭が痛い。
脳幹から延髄を下り、胸の辺りで冷たく膨張する。
不意に、甘い匂い。
発生源は、手の中にある小さなぬいぐるみ。
あぁ、そうだ。これは多分。
――ハチミツの、匂い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ~あ~、困ってる困ってる。飼い主が居なくなったからって、いい大人がそんな顔しちゃダメでしょ」
おおよそ百数十メートル離れた場所にあるアパート。
その窓から見える男性を、金網越しに強化した視力で観察していたあすみが呆れて笑う。
背にはリュックサックがあり、朝方、低めの駅ビル屋上に居る人物としては、いささか若い。
「本当に良かったのかい。彼の記憶まで操作してしまって」
その後姿に向けられる、淡々とした声。
金網が軋んだ。
「どういう意味」
「言葉通りの意味さ。この街を出るというのなら、最低限――三人くらい操作すれば済む。
彼の記憶までいじってしまうのは、無駄な気がしてね。
そもそも、こんなに早く準備を整えるだなんて君らしくもない。織莉子達に負けたのが堪えたのかい」
「あんた見送りに来たの。それともバカにしに来たの」
ようやくあすみが振り返り、少し離れた位置で座る小動物――キュゥべえを睨む。
しかし、彼(?)のいう事はもっともであった。
必要以上の波風を立てぬように街を離れるには、学校関係者――特に、転校の事実を把握していなければならない、校長と教頭。この二人と財産管理人である弁護士へ記憶の植え付けを行えば問題ないのである。
手続きが後手後手になり、不審がられることはあっても、よほどの酔狂か暇な人間でない限り、首を突っ込まない。それが日本人の美点であり、欠点なのだから。
だが、例の彼はあすみの事情を全て知っているのだから、記憶を操作する必要などない。口頭で説明すれば済む。
なのに彼女は、上記の三人を、前もって設定していたワードを使って呼び出し五分で記憶を植えつけた時と違い、何時間もかける丁寧さで、自分との記憶を捏造したのだ。
織莉子から話を聞き、その行動をつぶさに観察していたキュゥべえにとって、無駄としか思えない行為であった。
「善は急げって言うでしょ。あんな連中が居る街に長居したくないだけ。それに、センセーの記憶いじったのにだって、理由はあるんだから」
「どんな理由だい。今後の参考までに、聞かせて貰えると助かるんだけれど」
「あんたに教える義理はない……って言いたいとこだけど、気分がいいから教えてあげる。その方がセンセーを不幸に出来るからよ」
「不幸に……。意外だね。君にとって彼は、唯一と言っていい、心を許しているように見えた人物だったのに」
実に可愛らしい動作で、キュゥべえは首をかしげた。
見ていた限りでは、あすみが彼と同じように接する人物は他にいなかった。魔法少女の事実を知る人物もまた同じである。
その上、彼女は身体を許した。
レイプを受けた女性が再び性交渉を行えるようになるまでかかる時間は相当な物。中には、男であれば肉親にすら触れることも出来なくなる女性だっている。
極々まれに、そういった行為へ偏った願望を持つ女性もいるが、あすみはそれに当てはまらない。
そんな彼女が自ら身体を重ねた。信頼している何よりの証拠であるはずだった。
「はっ。わたしの行動目的は、あんたと契約した時から変わってないの。わたしは、わたしを知った周囲の人間を不幸にし続ける。より長く、苦しむように」
悪辣に胸を張り、あすみがキュゥべえを見下す。
その視線は、人間以上に悪意を醸造する樽として相応しいものは無いと、そう思わせる代物。
「わたしが植えつけた性癖とはいえ、念願が叶ったのにその記憶を奪われた。それであのザマ。かわいそーじゃない?
それに、わたし以外じゃ勃たないようにしちゃったから、もう二度とすることも出来ない。男にとって最悪でしょ」
「そういうものかい」
「そういうもんなの」
相槌を打ちながらも、やはりキュゥべえは疑問に思う。
確かに彼女の行いは悪意に満ちたものであるのだろうが、それは記憶を留めていないと効果が薄いようにも考えられる。
人の精神は快楽に弱い。
しかし、味わったことのない快楽を追及しようとする強欲な人間は。実際に追及できる人間はあまり多くない。おそらく彼は“出来ない”側に当てはまると思われた。
生殖機能を阻害させられたことが一番の痛手であろうけれど、そもそも繁殖対象として特別に優れている点が見られない上、もはや彼にはそういった欲そのものが発生し得ない。苦にすら感じないだろう。
つまるところ、不幸にするといっている割に、やっていることがチグハグなのだ。
「これはあくまで僕の意見だけど、契約時の祈りにこだわる必要はないと思うよ。
魔法少女であることを辞めることは出来ないけれど、力の振るい方は君の自由だ。
必要だと感じたのなら、生き方を変えることだって可能なはずさ」
「……で、それでどうしろって言うの。センセーと一緒に幸せにでもなれって? 冗談やめてよ。
あんな奴わたしの趣味じゃないし。……そうよ。あんな中途半端に壊れたおもちゃ、必要ない。いらない。いらないんだから」
まるで自分へ言い聞かせるように、あすみは繰り返す。
己が左手を見つめ、そして、ダラリと。
「わたしは不幸に生かされる。誰かの不幸のため生きる。それだけが、証。だから、半端なわたしも、ここに置いていく」
一瞬だけ、彼女は後ろを振り返る。
視線の先に今は何があったのか、キュゥべえの位置からは分からない。
しかし、さして意味のない物だったのだろう。「ふん」と鼻を鳴らして、前を向く。
「さぁってと、行きますか。次の街にはどんな獲物が居るかなーっと」
抜けるような青空。
清々しい空気を肺に吸い込み、あすみは伸びをする。
が、その頬に一粒、雫が落ちてきた。
雲一つない空から。
降るはずのない雨が、たった一滴だけ、落ちてきていた。
「サヨナラ……って、言ったもの勝ち、だよね。……センセー」
「……という訳で本当はわたし、ちえみちゃんのお姉さんじゃなくてお母さんなの。ついでに、貴方が密かに想いを寄せていた花壇のセンセーは、血の繋がったお父さんなのでした! 理解できた?」
「訳が分からないです」
目の前で仁王立ち、小首をかしげる私そっくりな姉へ向かって、ベッドに腰掛けたまま言い返します。
本当に訳が分かりません。
お姉ちゃんが死んじゃったはずのママ? 学校のセンセーが、同じく死んだと聞かされていたパパ?
これなんて韓ドラ? ドロッドロってレベルじゃないです。あんまりな事実に、理解が追いつきません。
「いや~、生理来てるの把握してなかったわたしも悪いけど、一発で当たるとか童貞の執念は凄いよね。苦労したわ~」
「ええっと、ご苦労様でした……?」
十二歳での妊娠出産。
事実であれば、それはもうとてもじゃないけど大変な事態。とりあえず労うべきかと声をかけます。
するとお姉ちゃんは、薄い胸(とても二十四歳とは思えません)を張ってふんぞり返りました。
「ホントホント。最初は太っただけかな~と思ってたのに、日に日にお腹が大きくなってさ? 人目につくし気になるから派手な戦闘も出来なくなって、センセーを呪ったよ。
あんなに早く子供を作るつもりなんてなかったし、産んだところでキチンと育てられる自信も全くなかったもん。悩んで、悩んで……自殺も考えた」
「え?」
予想外の言葉に、驚いてしまいます。
誰に対しても歯に衣着せぬスタンスを崩さず、天上天下唯我独尊を地で行くお姉ちゃんが、そんな弱気なことを考えるだなんて。
しかし、そんな私へ「でもね」と付け加え、彼女は微笑みを。
「その度に、ちえみちゃんに止められた。つわりだったり、お腹を蹴られたり。まだ産まれてもいないあなたが、必死に、生きたいって。ちゃんと産まれたいって。何度も、何度も。
意味もなく泣けてきて……死ぬに死ねなくなっちゃった。なんでか分からないけど、あなただけは何をしても産まなきゃいけないって、そう思ったの。
そっからはプライド捨てて努力したよ~? この子が産まれるまで匿って下さいって、拡声器持ったまま美国家の前で正座したり、グリーフシード取ってきてもらったり」
「グリーフシードっていうのが何かは分からないですけど、それは悪質な脅迫じゃないでしょうか」
ときどき遊びに来てくれる私には優しい織莉子さん(すっごく大きな会社の社長さん。独身です)と、会う度にチクチク嫌味を言い合っているのはそれが原因ですよね絶対に。
どんな繋がりで喧嘩友達になったのか定かじゃありませんでしたけど、こんな理由とは……。
政治家の家の前で、小学生妊婦が今にも叫びださんと拡声器を構える。
誰かに見られたら一発で政治生命終了ですよ。迷惑この上ないです。
織莉子さんの引きつった顔が目に浮かぶ……。今度ひたすら謝りましょう……。
「とにかく、わたしがこうして生きていられるのは、あなたのおかげ。
あの時、ちえみちゃんがここに宿ってくれなかったら、半年もしないうちに死んじゃってた。
感謝してる。あなたのおかげで、わたしは自分と折り合いをつけて生きる術を見つけられた。
だから、ちえみちゃんはわたしの、一番大切な宝物なんだよ」
「お姉ちゃん……」
どこまでも澄んだ声で。
お姉ちゃんは、お腹を撫でながら語ります。
いつも、「ちえみちゃんはわたしの宝物」って言ってくれてましたが、こんな深い意味があったのだと初めて知りました。
……でも。
「全裸でそんなこと言われたってこれっぽっちも感動できないです」
「あっはっは。だよねー」
笑って誤魔化そうとしてるみたいですが、流石に無理があります。
まっぱでお股から、その……だ、男性のアレを垂らしながら言われてもぜんっぜん心に響きません。
私がこの家に帰ってきてからの出来事を、簡潔に表しましょう。
幼馴染の家へ遊びにいった帰り。
玄関のドアを開けたら、気を失っているらしいセンセーの上で、お姉ちゃんが積極的に腰を振っていました。
思わず三度見してからゆっくりドアを閉めて、コンビニでチャン○オンでも立ち読みしてこようかにゃーなんて考えましたよ。あ、ちなみに今日は日曜日です。
まぁその後すぐ、内側からお姉ちゃんが顔だけ出して、「センセー運ぶから手伝って」と言われ、仕方なくビンッビンなアレから必死に目をそらしつつ寝室に運搬。
ベッドに腰掛け、ことの説明を受けていたわけです。背後には下半身丸出しのセンセーが仰向けに寝てます。ときどき痙攣してます。
改めて整理するとヒドい。何ですかこの状況? もうホントに訳が分からない……。
あ、まだ聞いてないこともありました。
「……で、それがなんでセンセーとセッ……エッ……まぐわってた事に繋がるんですか?」
「あ~、それはね。ちえみちゃん美化委員でしょ。センセーがその顧問をしてるのは分かってたから、学校行事とかでは会わないように気をつけてたの。
けどそしたら近所のスーパーで鉢合わせしちゃって。げっそり痩せて別人みたくなってたから一瞬分かんなかった。強制オナ禁ダイエットって本出せば売れるかも」
ということは、センセーはかつて太っていたんですか。今の姿しか知らない私には想像しづらいです。
他のクラスの女子にもけっこう人気あるんですよ? 邪な視線を一切感じないから安心できるって。
おかげで苦労してますけど。私的に。
「んで、顔合わした途端、十二年分の性欲が襲ってきたみたいで、鼻血噴いて倒れちゃったのよ。しかもフル勃起状態で。
人目があったから、とりあえず集団催眠かけて逃げ出して、車で休ませてたんだけど……。センセーの剛直を見てたら、ムラムラしちゃって……♪」
頬を赤らめてんじゃねーですこの淫☆乱医療事務。
今まで男の人に興味なんか全く示さなかったどころか、寄ってくる側から心をへし折ってたのにどういう事ですか。
ムラッとしたからお持ち帰りして玄関開けたら即って。鍵もかかってなかったし、誰かに見られたらどうするつもりだったんですか本当に。
とゆーかまたさらっと非常識な事を……。
「まぁ、センセーがこの場に居る経緯は千歩譲って“あり”としましょう。でも、集団催眠とか魔法少女とか、本当なんですか?
単語だけでもありえないのに、二十歳過ぎでなんて無理無茶無謀です、誰得ですか?」
「あ、そんな言い方ひど~い。世の中には四捨五入すると三十なのにノリノリで新人教育までやってる人も居るんだから、わりと普通なのに。
……ん~。やっぱりちえみちゃん不機嫌? ま、大好きなセンセーのこんな姿を見ちゃったら、しょうがないけど……」
「だ、誰がセンセーの事を好きで好きで大好きで堪らないんですか。私は別に……」
「そこまでは言ってないんだけど。でもね、ちえみちゃんのことは魔法を使わなくたって分かっちゃうんだよ? 半分はわたしなんだから。ごめんね、驚かせちゃって」
ニッコリ、お姉ちゃんは微笑みます。
平静を装っていましたが、内心であわあわしていたのもバレているようです。
何だかそれが悔しくて。
でも、同時にバカバカしくなってきて、「はぁ」と溜め息が。
「なら、証拠でも出してみてください。私がセンセーをこの世の誰よりも愛おしく想っているという確かな証拠を」
「いやだからそこまでは……。全く強情なんだから。夜中にトイレで『せんせぇ』って言いながらオナニーしてたくせに」
「おっ!? なっ!? にょわぁ!?」
んななななななななにを破廉恥なことをっ!? 聞こえないよう注意してたのになんでバレてるんですかっ!?
「ちえみちゃん、そりゃあんだけ長くトイレに篭もってたら誰でも分かるよ。もうちょっと回数を自重した方がいいと思うなぁ。うち一つしかないんだし」
「お姉ちゃんに言われた……! 意識のない人に跨って腰振る人に言われました……!」
両手をブンブン振り回す私を、お姉ちゃんは生温かい瞳で見つめます。
ひっじょーに恥ずかしくて、思わずベッドへ泣き崩れるのですが、次に彼女は真剣な声を向けました。
「さて。説明が済んだところで、真面目な話をしよっか。裸じゃアレだし……ほっ」
視界の外で、まぶたの上からでも分かる光が生まれたのを感じました。顔を上げるとそこには、見慣れぬ衣装を着るお姉ちゃんが。
なんて言いましょうか……。黒い花嫁さん? スカートが長くて、フリル一杯で、薄い上品なヴェールを頭に載せています。
目を離したのなんてたった数秒。こんなに早く着替えるのは、無理。
呆気にとられながらも、その美しさに閉口してしまいました。
「ちえみちゃん。キツいことを言うようだけど、あなたのその気持ちは、恋じゃないの」
「……は?」
――が、見惚れていた私への言葉は、とても冷たいもの。
カチンと来ました。
「どうしてそんなことが言い切れるんですか。お姉ちゃんに私の何が分かると?」
「言ったでしょう。この人はあなたのお父さん。無意識にそれを感じて父性を求め、憧れを勘違いしちゃってるだけ。
センセーだって、特別ちえみちゃんを気にかけてくれるのは、あなたに過去のわたしを見ているから。あなたの想いは、報われない」
さっきと同じ、澄んだ声で。しかし冷酷に、彼女は告げます。
私の胸にある感情が、ただの憧れである、と。
……痛い。
「ち、がい、ます」
口が勝手に、その言葉を否定していました。
拳を握りしめ、キュッと歯を食いしばって。
私は、目の前にいる“女”を睨みます。
「センセーは、センセーはちゃんと私を見てくれてますっ。
宿題を見てくれたり、頭を撫でてくれたり、子供扱いされてばっかりですけど、ちゃんと見てくれてます!
……例え、最初はお姉ちゃんを求めてたんだったとしても、今は違う。
お姉ちゃんは私に嫉妬してるだけですっ、自分が過ごせなかった日々を楽しんでいる、私に!」
確信がありました。
女の子としては見られてなくても、神名ちえみという個人として、キチンと認識され、向かい合ってくれている自信が。
だって、そうでなくては、こんなに胸が苦しくなるはずがありません。
触れてくれる手が嬉しくて、でも、子供扱いが悔しくて、切なくなるはずがありません。
お姉ちゃんはそれが羨ましいんだ。羨ましいから、こんなヒドいことを言うんだ……!
「……そう。そうかもね……。だとしても、この人と血の繋がりは否定できない。検査で証明だって出来る。
あなたを娘だと知ったら、今まで通りに接してくれると思う? それでも愛して、道を踏み外してくれると思う?」
「それ、は……!」
悲しそうな問いに、今度は答えられません。
この事実をセンセーが知ったなら。
きっと驚くことでしょう。そして、大急ぎで私という存在の責任を取ろうとするはずです。
今ならお姉ちゃんと結ばれるのも合法。戸籍とかがどうなっているのか分かりませんが、きっと私達は家族になる。家族になってしまう。
彼は、私を見て微笑んで。でも、そこに込められる感情は。
「関係、ない……関係ないもんっ!!」
そんなのは、嫌。嫌だったから。
私は立ち上がり、声も張り上げます。
「今更そんなこと言われたって、知らない! 出会った時は他人だったのに……こんな後出し、卑怯だよ……。
関係ないもん……っ……学校のセンセーとか、血の繋がりだとか、どうでもいい!
わた、しはっ、この人が好き、だもん……絶対に、憧れなんか、じゃ、なぃ……大好き、なんだもん……っ」
本当は、分かっています。
こんなの、子供のワガママだって。この想いが、遂げられてはいけないものだって。
だてにお姉ちゃんと二人、支え合ってきたわけじゃありません。世間一般の常識くらい、理解できてます。お姉ちゃんがこんな嘘をつかないことくらい、知ってます。
だけど、大切なんです。初めて心に触れて欲しいと思えたんです。こんな形で終わらせたくない……!
そんな気持ちが止めどなく涙を溢れさせ、部屋には嗚咽だけが響きました。
「うん! さっすがわたしの娘! 泣きながらでも自分の意見は曲げないとか頑固にも程がある! 合格合格!」
「はぇ?」
しかし、不意に人の気配が近付いてきて、バッシンバッシン、私の肩が叩かれます。
もちろんそれはお姉ちゃんで、彼女は満面の笑みを浮かべていました。
ついでに抱きしめられたと思ったら、今度は無理やり身体を一回転、ベッドへ向き直させられて。
必然的にセンセーのイチモツが視界に入り、「ぅわわ」と目を覆ってしまいます。
というか、今までのやり取りの背景にはずっとアレがあったんですね。まだまだ元気です。シュールだぁ……。
そう思いつつ、指の間からひっそり覗いていると、お姉ちゃんは耳元でとんでもないことを囁きます。
「ね。センセーとエッチ、してみたくない?」
「………………はぁ!?」
とうとう脳みそに虫がわいたんでしょうか。この変態黒花嫁。
そりゃあ想像してましたよ? センセーとそんな関係になること。ええ認めましょう。毎晩そのネタで自分を慰めてましたとも。
でもだからって一足飛びに最後までしちゃうのはちょっと……。もっと段階を踏んで、手を繋いだり、キスをしてからが……。
というか親子なんですよね? 好きな気持ちはまだ変わりませんけど、流石に近親相姦はマズいですっ。赤ちゃんに悪影響がっ。
「んっふっふ。ちえみちゃん、興味深々だったでしょう? ほら、ここも、ここも。こんなにしちゃって」
「ひゃう!? ちょ、や! お姉ちゃんどこ触って――あっ!」
突然、身体を電撃が襲います。
胸と下腹部を這う指。
穿いていた短パンがストンと落ち、シャツはめくられ、下着の中へ暖かさが進入してきました。
「おね、ちゃ、ん! ゃだ、だ、めぇ……んくぅ!」
スポーツブラの半分がむかれ、硬くなりかけていた先っぽがいじられます。同時に、木綿のパンツの上から割れ目をスリスリされて。
自分の指でないというだけで、想像を絶する気持ちよさ。
しかも、白目を剥いているとはいえ、焦がれている人の前で肌を晒してしまっている事実が、熱くさせました。
「にゅふふ。口ではなんて言おうとも、身体は正直よのう。ほら、場所変えるよー」
「は、あ、ふぇ? ……あっ!? 待って、やめ、やめてくださいぃ!!」
なんか悪代官っぽいセリフが聞こえたと思ったら、ひょい、と持ち上げられてベッドの上へ。
しかもセンセーのびんびん様の真上に腰が。
あの細腕のどこにこんな力が? これならセンセーも一人で運べたんじゃ……いえそれよりもっ、このまま降ろされたら入っちゃう……!?
「ダメです、無理です、入るわけありませんっ! 私の腕くらい太いんですよっ?
っていうか男の人ってこんなに大きくなるんですかっ? 昴君のはあんなに小さくて可愛かったのに……」
「……なるほど、察したわ。あの日スバルちゃんが泣いてたのはそのせいか。
ちえみちゃん。いくら幼馴染でもそういうこと言っちゃだめだよ? あの子、ただでさえトラウマ持ってるんだから」
「は、はぁ……? 気をつけます……?」
どういう事でしょうか。
少し前、一緒にお風呂入った時に見えちゃって、その時の素直な感想なんですけど。
ちなみに昴君というのは、小学一年の頃からの幼馴染です。
私にとっては弟みたいな存在で、今でもよく遊んでいますし、お泊りしたりもします。女の子みたいに線が細くて、どっちかっていうと妹みたいな感じかもしれません。
……って、話が逸れちゃってますよ私っ。
「とにかく無理です、絶対痛くて泣いちゃいますから! それに私もう来てるんですよ?
お姉ちゃんみたく一発妊娠しちゃったらそれこそ畜生の如き有様じゃないですか!? センセー首くくっちゃいますぅ!!」
「相変わらず小六のくせに時代がかった言葉を使うこと……。でも大丈夫、暗示で痛みは快感になるし。
もし出来ちゃっても、飛鳥さんに治療魔法をかけてもらえば絶対健康に生まれるから♪」
「いや社会的に問だ、ぃ――ぅえええっ!? ユウリさんも魔法少女なんですかぁ!?」
昴君の親代わりな人までヘンテコな存在とかどういうことですか!?
まさかこの街の住人、大半が魔法少女だったりしませんよねぇ!?
「まさか、そこまではいかないって。近いとはいえ見滝原じゃないんだから。せいぜい三割くらいだよ。それよりほら、センセーのおちんちん、すっごく苦しそう。もっと出したいってビクビクしてる」
「へ? 私、声になんて出してない……あっ、だからダメ――ぁんっ」
驚いている間に、お姉ちゃんが私の身体を下げていきます。
下着もズラされ、入り口へセンセーのがくっつきました。
熱い。
焼きごてを押し付けられたみたい、です。
「ね? こんなに熱くてパンパン。辛そうでしょ? ちえみちゃんが気持ちよくしてあげれば、きっと悦んでくれる。
それに、ちえみちゃんもとっても気持ちよくなれるんだよ? これでジュポジュポされると、何も考えられなくなるくらい、気持ちいいの」
「あ、う、っ」
お姉ちゃんの指が、センセーをしごきます。
その度に、ピクン、ピクン、と入り口に擦れてしまい、背筋がゾクゾク。
……ダメだ。このままじゃ、流されちゃう。どうにかしてお姉ちゃんを止めないと……!
「ぉ、お姉ちゃんは嫌じゃないんですか? 私とセンセーが……するの。
それが嫌だから、さっきあんなことを言ったんですよね。
私を気遣ってくれる気持ちも分かりましたけど、それだけじゃないですよね。だったら――」
「え、違うよ。むしろ逆?」
「んえ? ぎ、逆……なんで?」
ど、どういうことですか逆って。
私が人としての道を踏み外さないよう、悪役を買って出てくれたんじゃないんですか?
昔街を出たのだって、センセーに幸せになって欲しかったからじゃ……って、それだとこの言動の説明がつきませんでした。
一旦は想いを否定しておいて、次にむしろ「ヤれ」と言わんばかりの後押し。もーどーしたらいーんですかぁ……。
頭を抱えたくなりましたが、そんな私を見て、お姉ちゃんはまたまた満面の笑み。
「そんなの決まってるじゃない。ちえみちゃんとエッチしてる最中に魔法で起こして、知らぬ間に教え子の処女を奪ってしまったかと思いきや実はその子は自分の娘で、驚愕と罪悪感に苛まれながらも、気持ちよさに負けて膣内射精しちゃうセンセーの快楽堕ちが見たいからだよ?」
「極悪な理由でした!?」
その行動は人としてどうかと思います!
自分の欲望を満たすために娘の処女を散らすって、この鬼! 外道! 悪魔超人!
「うん、そうだよ。お母さんは外道なの。もう取り返しのつかないくらいにね」
――と、声に出さない叫びにまた反応する彼女は、己の左手を何度も握り、呟きます。
「さっき話したけど、わたしは三人の人を手にかけた。
そのこと自体は後悔なんてしてない。あのままだったら殺されてたのはわたしだったし、他にも犠牲者が出てたはず。
むしろ誇ったっていい。あれはわたしの人生で、唯一の善行だって」
……確かに、そう言えるかも知れません。
聞いているだけで虫唾が走りましたし、そんな人間、死んだところで同情なんて絶対しません。胸がスカッとしたくらいですから。
身を守ってくれない社会的道徳観念なんてクソ喰らえです。近親相姦はやっぱり別ですよ? 赤ちゃんの将来が掛かってますし。
「だけど、この世界はどこかで必ず天秤が釣り合うように出来てるの。
わたしが奪った三人分。いつか必ず、この手からすり抜けていく日が来る。それが、怖い。
ちえみちゃんを育ててる間は、もう大変で。あなたのために自分を犠牲にしてるって考えれば誤魔化せた。
けど、センセーと再会しちゃったら無理。意識せずにはいられない。わたしがもう、幸せに慣れてしまっていることを」
まるで、とても大きな罪を犯しているような。そんな声音で、お姉ちゃんは告白します。
幸せでいることが許されないだなんて、そんなのおかしい。
私はそう思いましたが、これは何も知らない子供の意見。人の命を奪った重みは、本人にしか分からないのでしょう。
「失われるのがわたしの命ならいい。でもそれがちえみちゃんだったら。センセーだったら。……想像しただけで、辛くて……」
ぎゅう、と抱きしめられました。縋るように巻きつく腕は、やはり細くて。
頭一つくらいしか違わない小さな身体も、震えているみたい。
いつも元気で、お仕事の苦労なんかも笑い飛ばしていたのに、心の奥では苦しみを抱えていた。
気付いてあげられなかったのが、悔しいです。
「わたしは嫌なの。いつかくる不幸に怯えて生きるなんて。そんな生き方をするくらいなら、幸せになんてならなければよかったって、そう思うくらい。
でも、気付いたのよ。待っているのが嫌なら、自分からぶつかって行けばいいって。
自分の手で幸せを積み上げ、壊し、報いを受けちゃえばいいって。……どうせわたしは、不幸の上にしか生きられないんだから」
肩越しに見えたのは、諦めにも似た、儚い表情。
けれど、なぜか弱々しさがまるで感じられず。
たくましくすら思える微笑みにそれを消して、お姉ちゃんは――
「だから。センセーと、わたしと、ちえみちゃん。親子三人で気持ちよく、トロトロに、不幸になろう? さぁ、Let's 背徳!」
「Let's じゃなぁあぁぁあああいっ!! 変な哲学に私とセンセーを巻き込まないで……ぁ、だめ、だめだめだめだめだめ――ひぐぅ!?」
――握り拳の人差し指と中指の間へ親指を挟むという変なハンドサインをした後、容赦なく、肩を押し下げます。
ずぷん、と。お腹の肉を抉られました。一気に、奥まで。
ヤっちゃった。ヤっちまいました。
神名ちえみは人間から犬畜生にランクダウン合体しましたよあっはっは。
……あれ? この感覚……?
「あは、奥まで入っちゃった。捧げちゃったね、親子揃って。同じ年で。どう、痛くない?」
「め、めちゃくちゃ痛いに、決まってるじゃないですか……っ。苦しくて、口から内臓出そう、です、うっ。それ、それよりも、何かお腹に、出されてるっぽいんです、けどっ」
「ん? あホントだ。ビックンビックンしてる。十二年溜めると七回しても早いねー」
「やっぱりぃ!?」
なーんか痛いのとは違う熱さを感じるなぁって思ってたんですよねー! どうしてくれるんですかもぉぉおおおっ!!
このままじゃ親子揃って同じ年で孕んじゃいますっ、子供だか孫だか分かんない子を身籠っちゃいますよぉ!?
早く、早く抜かないとっ!
「は、はっ……う゛ぃ、い゛だ、い゛ぃぃ!」
――とは思うのですが、痛くて腰を動かせません。
男性の象徴は、返しでもついてるみたいに中で引っかかり、激しい痛みをもたらします。
あんまり痛すぎて、またポロポロと涙が。
「あぁ、無理しちゃダメ。今おまじないかけてあげるから。ゆっくり息をして……。
女の子はね、《本当に好きな人とのエッチなら、すぐに気持ちよくなれる》んだよ」
「な゛、な゛にを、バカな゛こと――を? ――え、ふあ、へ?」
慰めるみたいにパンパンなお腹を撫でられた瞬間、痛みが消え始めました。
痛みという感覚が、根本から塗りかえられて行きます。
骨まで溶かす、快感へ。
「っは、あ、あひっ! お、おか、しい、おかひぃ、です、なんれ、こんら……!?」
「呂律が回らないほど気持ちいいんだ? 本当に好きなんだね~、自分から動いちゃって。ちえみちゃんのエッチ」
「ち、ちがっ!? これは、抜こうとひて――んあっ」
そう、これは抜こうとしてるだけ、なんです。
抜こうとしても力が入らないから、腰が落ちちゃうだけで。
そしたら、お腹が押し上げられて苦しくて、誤魔化すのに前後へゆすっちゃうだけ、で。
私は、エッチなんて、してませ、ん。
「……う゛……あ゛……」
「っ!? せ、センセー!?」
「お、目が覚めそう。きっと愛娘の中が気持ちよすぎるんだね。ほらほらどうするの? やめるんだったら早く抜かないとぉ」
ふと、センセーが呻き声を上げました。
わずかに身じろぎして、意識を取り戻しつつあることを示します。
ニヤつくお姉ちゃんにはイラっとしますが、言う通りにしないととってもマズいことにっ。
だけど――
「ぁ……う、くぅ、ん……ゃあ、あ、い、ぃぃ……」
――どうしても、腰を浮かせません。
むしろ、もっと奥へ押しつけて、今の状態で出されたらって、想像して。
こんなに気持ちいいのは、生まれて初めて、でした。
男の人って、気持ちいい。
センセーのおちんちん、気持ちいい。
パパのおちんちん、気持ちいい。
私、こんなエッチな子だったんですか? こんなイヤらしい子だったんですか? そんなのって……。
「安心して。女の子はみんな、大好きな人の前ではそうなっちゃうの。センセーだって最初は驚くだろうけど、最終的にはガンガン膣内射精してくれるから。ね?」
「なん、の、慰め、にも、なりませ、んっ、よぉ……あんっ!」
湧き上がる動物的衝動へは、人として軽蔑を禁じえません。
けれど、お姉ちゃんが肯定してくれる肉欲へは抗えませんでした。
現に、覚醒に合わせて跳ねるおちんちんで、私は喘いでしまいます。
やがてセンセーのまぶたが薄っすら開き、こちらの姿を捉えて。
「おはよ、センセー。十二年ぶりだね。さ、感動の親子の対面だよー?」
「お、はよう、ございますぅ……。ぁの、これは、ですねぇ……」
私と、お姉ちゃんは。
つぼみが開くような笑みと、どう言い訳したものかと引きつった苦笑い。
正反対の笑顔で、未だおぼろげな視線に向け、笑いかけるのでした。
「………………なんじゃこりゃあ」
親子丼 かくも卑猥な 料理かな
――あすみん、センセーと共に説教されながらの句。
という訳で、釣りキャラ番外編、神名あすみ編でした。
頂いたご感想への返事で近親相姦はアレだなんだと言いましたが、本当は大好きです。変態でごめんなさい。
考えてあるネタは残すところ後一つ。おりっち最後の変身(濡れ場)でございます。
あらゆる意味でハードモードな描写をする予定ですので、御留意下さい。
それでは、失礼致します。