おとしあなから、そのあとの 作: 池田
カーテンの隙間から、光が差し込んでいる。
寝ぼけ眼で時計を見ると、時刻は午前七時を指していた。
「そうか、あのまま寝てしまったのか……」
私はベッドから立ち上がり、カーテンを開けた。
薄暗い部屋が、一気に朝日で包まれる。
少しまぶしい。
空を見ると、青い背景に白い雲がまばらに浮かんでいた。
今日も、快晴だ。
こんな天気のいい日に学校へ行くのは、なんだかもったいない気もする。
「ほら、起きろ。学校だぞ」
「ん……」
そんなことを思いながら、私はベッドの上のやすなに声をかけた。
着替えて家を出る。
やすなも後ろについてきた。
少しだけ、距離をとって私たちは歩く。
お互い言葉は交わさずに、ただひたすら歩く。
「……む」
背後に、気配。
私は咄嗟に身を翻して、それを回避した。
「ぅおっとぉっ!」
勢い余ったやすなが私を追い越し、前方に出る。
恐らく、いきなり抱きつこうとでもしたのだろう。
私を捉えようと大きく振りかぶった手が、虚しく空を切った。
「……いきなり近づくなっていつも言ってるだろ」
「うぅ、くそぅ!なんで避けるのー!」
「あのな、人前でそういう事されて平気な奴いるか?」
「いいじゃんちょっとくらい!」
「いやだ」
こいつは……。
公衆の面前だろうが、お構いなしに私に絡んでくる。
そのあたり、もう少しだけ考えてくれないものだろうか。
私が拒否の姿勢を示すと、やすなは諦めたのか大人しく私の後ろをついてきた。
まったく、昨日散々抱き合ったろうに。
それでもまだ足りないとでも言うのか、欲張りめ。
しばらくして。
私は授業を聞くやすなの横顔を見つめていた。
同時に、おかしな事になったなとか。
そんな事を考える。
きっかけは、なんだったろう。
いつから、こんな生活をしているのだろう。
ここ最近、私たちはずっと一緒だ。
それも言葉通りの意味で。
学校へ行くときも。
帰る時も。
どこかで道草を食う時も。
寝ても、醒めても。
ずっと、一緒。
「……はぁ」
あの時落とし穴から、やすなを引っ張りあげてから。
彼女は何かと理由をつけては、私の家に出入りするようになった。
おかげで最近じゃ、半分同棲しているような状態だ。
私の部屋は、もはや私とやすなの部屋と化していた。
そして、ついにこの間。
私たちは一線を超えたのだった。
ソーニャちゃん。
今でも目を閉じると、あの時のやすなの声が。
私の頭のなかで跳ねまわる。
ソーニャちゃん。
切なそうに、寂しそうに。
そんな風に私を呼ぶな。
ソーニャちゃん。
やめてくれ。
「ソーニャちゃん?」
「……あ?」
その声で、私は現実に引き戻された。
「どうしたの?さっきからこっち向いて……」
「いや、別に……」
「変なの」
「……うるさい」
私は彼女から視線を逸らす。
そう言えば、私だっておかしいじゃないか。
こんな時に上の空で。
頭の中じゃやすな、やすなって。
……私もこいつに当てられたのか?
まさか。
私は、こいつに付き合ってやっているだけ。
そう、仕方なく。
「……ねぇ、ソーニャちゃん」
「どうした」
「その……」
「なんだよ」
「えっと……」
「早く言え」
「……ちょっと、我慢できなくて」
「はぁ?」
そう言う彼女の姿を、再度確認する。
右手は、スカートの裾を抑えている。
顔は紅潮して、少し呼吸も荒い。
潤んだ目。
物欲しそうな表情。
ははぁ、そういう事か。
「……お前は、全く」
「……仕方ないじゃん、授業中ソーニャちゃんがずっとこっち向いてるから」
「私のせいかよ……」
「……だめ?」
「……いつ私がそんな事言った。ほら、行くぞ」
「うん」
私はやすなを連れて、教室を出る。
向かった先は、学校の端にある古びた女子トイレ。
場所の関係で普段は人なんかほとんど訪れない。
扉を開けて、やすなを先に中に入れた。
「……誰もいないな」
私は周りを見渡してから、その後に続いた。
ぎぃ、と扉が軋みながら閉まる。
これで私たちはここに二人きりだ。
そしてこれから起こることも。
全部、二人だけのもの。
「……ソーニャちゃん」
「わかってるから、そう慌てるな」
私はやすなの後ろに回りこんで、彼女を抱きしめる。
「さぁ、どうして欲しいんだ?」
「わかってるくせに……」
「何のことだか」
「いじわるぅ……」
私は背後から手を回して、彼女の服を剥いていく。
ブレザー、シャツ、下着……。
一枚ずつ、丁寧に。
そんな私達の姿が、鏡の端にちらちらと映った。
彼女の体を、私の手がなぞっていく。
どこを触っても、やすなは気持ちよさそうに吐息を漏らす。
どこを触っても温かいけど。
やっぱり、皮膚同士が直接触れている部分が一番熱を持っているように感じた。
「ふぁっ……ん、ソーニャちゃんっ……」
あぁ、またか。
だからそんな声で私を呼ぶなって、言ってるだろ。
ぐずぐずな私の頭が、わけもわからないうちにやすなで埋めつくされていく。
まるでタチの悪い呪いのようだ。
やすなが私をそうやって呼ぶたびに。
私の心はそうやって、動きを止めてしまうのだ。
後のことは、もう考えられない。
目の前が、私の全てだ。
「ソーニャちゃん……今日は、随分焦らすんだね」
「そうかな」
「そうだよ」
吐息の合間に、言葉を交わす。
「……授業中、ずっとこんな事考えてたのか」
「……うん」
「本当に仕方が無いやつだ」
片手で、彼女のスカートをたくし上げる。
パンツは既に、彼女の愛液で濡れていた。
同時に、言い表しようのない彼女の匂いが室内に広がった気がした。
「こんなに濡れてるし」
「いちいち言わないでよ……んぅっ……」
パンツの中に手を突っ込む。
生暖かい生地と少ししっとりした彼女の肌が私の手を挟み込んだ。
私は更に、その先へと手を進めていく。
指先から感じる、淫靡な感覚。
やすなの熱。
そっと割れ目に触れると、ぬるっとした液体が私の指にまとわりついた。
「ひゃ……」
「すごいな」
「何が……んっ」
膣中に、指を入り込ませる。
人差し指と中指で、やすなの中をかき混ぜた。
ゆっくりと、そしてだんだん激しくして。
くちゅ、くちゅと小さな音が響く。
「んっ、あぁっ……あんっ……ぅ……」
「……まだ溢れてくる」
「や、ぁっ……ソーニャちゃん……」
「……ほら、見てみろよ」
「え、なに……」
私は、顎で鏡に映る私達を示した。
するとやすなは、一層顔を赤くさせる。
「あ……」
「すごい格好だな、お前」
はだけた服、その間から見える白い肌。
私の腕に抱かれたやすなが、鏡の中にもう一人。
鏡を挟んで、二人の視線が交差した。
「い、いちいち言わなくたって……」
やすなはそう言って恥ずかしがる。
しかし、それと反対に彼女の中は更に温度をあげた。
体は正直……って奴なのだろうか。
そのまま私は、彼女の中をかき混ぜ続ける。
指に伝わる温度。
室内に充満する匂い。
全てが、私達の神経を過敏にさせる。
「はぁっ……ぅ……あぁ……」
そのせいなのか、彼女の小さく抑えられた声が。
やたらと大きくはっきりと、私の耳の中に飛び込んでくる。
それが私の頭のなかで。
弾けて、混ざって、溶けて。
私の頭も、どんどんおかしな方向へ。
「ひゃっ!」
「んむ……」
目の前にあったやすなの耳に、舌を這わせてみる。
少し触れただけなのに、やすなの体が跳ね上がった。
そうか、こいつ耳も弱いのか。
「ソーニャちゃ、そこはぁっ……」
「ん……お前、耳弱いんだな」
「くすぐったいよ……っ」
「……そろそろ切り上げるか」
パンツから手を引く抜く。
見ると、指は汗と愛液に塗れていた。
そのまま彼女の胸に触れる。
彼女の愛液を、乳首に塗りたくって。
私は指を、胸の上で踊らせた。
「んんっ、あっ!は、ぁっ!」
彼女に寄りかかりながら、私は乳首を責め続ける。
やすなは面白いほどに、指の動きに反応した。
「やぁ……っ、こんな、だめになっちゃうよぉっ……!」
「……もうとっくになってるだろ、私達」
指先で、彼女の乳首が跳ねているのがわかる。
柔らかいけど、硬い。
人間の体って、不思議だ。
「ソーニャ、ちゃんっ……!」
やすながまた、私の名前を呼ぶ。
「……あんまり声出すな、人が来るぞ?」
「そんなこと言われても……んっ」
もちろん、やすなが必死に声を抑えようとしているのはわかっている。
わかっていて、私はやすなにそう言うんだ。
こういう時くらい、いつもの仕返しをしてやらないと。
それに、その方が興奮するんだろ?
なぁ、やすな。
そんな私の考えに応えるように。
彼女の胸の小さな突起は、更に充血して硬くなる。
「……ほんと、変態かよ」
「え、な、何……ひゃんっ!」
胸を絞るように指で扱くと、もはや彼女は声を抑えることすらしなくなった。
彼女の体の奥から。
甘く激しい声が、発せられる。
「ソーニャちゃんっ……!」
私は黙って、彼女の表情を見つめながら。
ただ、彼女の胸を弄んだ。
彼女の体が緊張を弛緩を繰り返しながら、私の腕の中で踊っている。
「それぇ、っ!すごいっ……!」
体を弓のように反らせて、やすなは全身で快感を受け止めているようだった。
そろそろ、終わりにしようか。
「ほら、イっちまえっ」
「ん、ふうっ、んううううううう~~っ………!」
彼女の乳首を、乱暴に押しつぶすと。
やすなは歯を食いしばりながら、達したのであった。
「はぁ、はぁ。はぁっ……」
「おい、しっかり立てよ」
「む、無理だよぉ……」
達した後、やすなが私にもたれかかってくる。
私は、バランスを崩して少しよろめくが、彼女の体をしっかり支えてやった。
やすなは、私の腕の中でぐったりとしながら緩んだ顔をこっちへ向けた。
「えへ……乳首でイッちゃった、私……」
「……本当に、お前弱いよな」
「ソーニャちゃんが上手なんだもん」
「ふん……言ってろ」
涙と唾液と、その他諸々で汚れた体を、洗面台で洗って。
私たちは、何食わぬ顔でトイレを後にした。
「もうすっかり夕方だね、ソーニャちゃん」
そう語りかけてくる彼女の顔は、本当に何事も無かったように。
さっきまで二人で乱れていた事なんて、微塵も感じさせない表情だ。
本当に、夢か幻なんじゃないかと思い込んでしまうような。
「……あぁ」
「……今日も、泊まって良い?」
けど、やっぱり。
そう聞いてくる彼女を見ると、私達がそういう関係である事を思い出してしまう。
彼女が、私の家に入り浸って一週間。
これが良いことなのか、悪いことなのか。
私が判断することは出来ない。
いや、したくない、と言ったほうが正しいのだろうか。
だから、私は。
「……好きにしろ」
こう言う風に答える事しか出来ないのだ。
私の家に着く頃には、もうほとんど日は沈んでしまっていた。
部屋に入ると、淀んだ空気の臭いが鼻を刺激する。
「空気が悪いな……おい、窓開けてくれ。換気だ」
「うん」
ベッドの上に鞄を放って、私は部屋の電気をつけた。
蛍光灯の明かりが、わずかに残っていた夕日を追い出すようにして部屋に広がる。
「えーと……一応食べるものはまだあるな……」
キッチンの冷蔵庫を覗いて、中の食材を確認した。
と言っても、ほとんどが冷凍食品の類であるが。
一応、今日の夜と明日の朝食べる分は残っているようだ。
部屋に戻ると、やすながベッドの上で足をぶらぶらさせている。
見るからに暇そうだ。
「なぁ、夕飯にするか、それとも先に風呂にするか?」
「え、そうだなぁ……ソーニャちゃんが良い!」
「つまらない冗談言ってないで……どっちにするんだ」
「んー、じゃあご飯にしよっか」
「わかった、少し待ってろ」
「ソーニャちゃんの手料理とかワクワクしちゃうなー」
「また冷凍食品だけどな」
「えー!」
私が料理出来ないのわかってるくせに、やすなはそうやって毎回そんな事を言う。
このやり取りも、もう何度目だろうか。
お湯を沸かし、電子レンジに食べ物を放り込み、あとはフライパンで軽く熱したり。
そんな単純作業でも、しっかりとした物が用意できるのだから冷凍食品と言うものはありがたい。
やすなは少し不満なようだけど。
出来上がった夕飯をお盆に乗せ、リビングへ運ぶ。
私は小さなテーブルに一つずつ皿を並べていく。
二人の食事で机が占領されていった。
「ソーニャちゃんは料理とかしないの?」
温めただけの唐揚げを頬張りながら、やすなは私にそう聞いた。
「しない。これで十分だし、なにより苦手だ」
「ダメだよ!こんなのばっかりじゃ体悪くするよ」
「そんな事言われてもな……」
適当な会話を交わしながら。
交互に箸で、夕飯を口へ運んでいく。
二十分もすると、机の上の皿からは料理が綺麗に消えていた。
私の座る向こう側には、満足そうにお腹をさするやすな。
彼女の様子を見ると、やはり本気で今日も泊まるつもりでいるらしい。
まぁそんな事は最初からわかっていたようなものだけど……。
「……シャワー浴びてくる。片付け頼んだ」
「えー、もう動けない……」
「いいだろ、少しくらい働け」
「はーい……」
しぶしぶ、皿をまとめ始めた彼女を見届けて、私は浴室へ。
脱衣所で服を脱いで、リボンを解いた。
まとめていた髪が、重力によってばさりと背中にかかる。
浴室の戸を閉めて蛇口をひねると、シャワーから温水が降り注いで湯気が立ち上る。
少し熱めのお湯が、私の体を滑り降りていった。
水が髪にまとわりついて、重くなる。
少し鬱陶しい。
この際だから、思い切ってばっさり切ってしまおうか。
やすなくらいが、ちょうどいいのか?
「ソーニャちゃん?」
「や、やすな?」
背後から、不意にやすなの声がする。
「片付け、終わったのか?」
「うん」
「そうか。すぐ出るから少し待ってて……」
そこまで言いかけた時、やすなが私の言葉を遮った。
「……一緒に入っちゃダメ?」
「はぁ?」
「もう、脱いじゃったしさ」
「お前何を」
私の返答を待たずに、扉が開かれた。
湯気と入れ替わるように、外気が浴室に入り込んでくる。
少し曇った鏡越しに見えた彼女は、一糸纏わぬ姿なのがわかった。
狭い浴室。
二人の距離は、十数センチ。
やすなの吐息が、肩にかかる。
「……背中、洗おうか?」
わかってるくせに。
やすなはそう、おずおずと聞いてくる。
「……好きにしろよ」
だから、私はこうやって。
決まった通りの答えを返すのだ。
「じゃ、いくよ」
ボディソープをとったやすなの手が、私の背中に密着した。
ぬるぬるとした彼女の指が、背中を滑っていく。
くすぐったい。
「ソーニャちゃんって肌きれいだよねー」
「……そうか?」
「そうだよ」
そして背中をなぞっていた手のひらが、他の部分へ向かっていく。
腹、足、へそ。
私の体が、だんだんとボディソープの白で埋めつくされていく。
そして、ついに。
「……んっ」
「ソーニャちゃんのおっぱい、柔らかい」
彼女の指先が、私の胸に到達した。
手のひら全体で、包むように。
やすなの手が、私の胸を揉みしだく。
「でも、ちっちゃい」
「……お前も大して変わんないだろ」
「まさかぁ、ソーニャちゃんよりは……」
なんでもないような会話をしながら。
やすなは私の体の感触を楽しむように、指を体全体に這わせている。
「……はい!終わり!」
「は?」
「流すよー」
また、私の答えを待たずして。
やすなはシャワーで、私の体を洗い流した。
体にまとわり付いていた白の模様が流れ落ちて、その下にある私の肌が鏡写る。
「じゃ、次はソーニャちゃんの番!」
「あ、あぁ……」
そう言って、今度は彼女が後ろを向いた。
てっきり、あの流れからするのかと思っていたのだが。
少し、考えすぎだったのかもしれない。
私もボディソープを手にとって、彼女の体に指を這わせた。
腕も、足も、胴体も。
彼女の体は、全て柔らかくて。
すべすべしていて。
ずっと、触れていたいと思うような。
そんな魅力に溢れていた。
「……ソーニャちゃん?」
「ん……なんだ」
「そろそろ流してー」
「……わかった」
シャワーでお湯をかけてやると、さっきと同じようにボディソープが流れ落ちる。
石鹸の香りと彼女の匂いが混ざった空気が、私の鼻をくすぐった。
「はーっ、さっぱりした!」
まるで犬のように身震いをして、水を払い落とすやすな。
……どうでも良いが、本当に一緒にシャワーを浴びに来ただけなのか?
だとしたら、随分と恥ずかしい勘違いを私はしていたことになるが。
「それじゃ……」
だが、どうやら。
勘違いでは無いらしく、私は少しほっとした。
こちらに向き直った彼女が、私に手を伸ばしてくる。
「……しよっか?」
「……元からそのつもりだったろ」
「もしかして、期待してたり?」
「してない」
「もう、素直じゃないなぁ……」
そう膨れる彼女の唇が、だんだんと近づいてくる。
「ん……」
「ん、ふ……」
湯気で、視界が霞む。
周りの温度と、やすなの体温。
その二つに包まれて、私は私という枠を失って。
空気中へ溶けていきそうな気分。
「ぷぁ……」
「ん、ぁ……」
離れた唇をつなぐ、一筋の唾液。
重力に引かれて、すぐに落ちる。
「暑いね……」
彼女が髪をかき上げながら、そんな事を言う。
そして再び、キスをした。
「ん、む……ふぅ……」
「んっ……ん、ぅ……ん」
吐息と、かすかな声と。
二人が立てる唾液の音。
まるで面白がるように、それを浴室は反響させる。
「ん……やす、な……」
「ソーニャちゃん……ふぁっ!」
気が付くと私の手は、彼女の秘所へと伸びていた。
触れると、水でも、石鹸でもない。
彼女のから溢れでた蜜が、指先に絡みついた。
「……仕返しっ」
「あっ!?」
今度は、彼女の指が私の秘所に。
今、気がついたが、私のそこも濡れているようだった。
ぬるぬるした彼女の指が、わたしの中で上下動する。
「は、ぁっ……ん、ああぁっ!」
「あっ、は、ああ……っ!」
二人の嬌声が、これまたよく響く。
浴室っていうのは、変な場所だ。
いやらしい音の全てが、自分たちに跳ね返ってくる。
それに呼応して、私達の興奮も高まって。
「あっ、あああああっ……!」
「はぁっ、ああ、んううっ……!」
こんな簡単に、達してしまうのだった。
二人、向い合って床にへたり込む。
顔が近い。
「はぁ……今度は、ソーニャちゃんも一緒だったね……」
「あ、あぁ……そう、だな……はぁ……」
肩で息をしながら。
お互いを見つめ合う。
その後、もう一度キスをしてから。
私たちは、浴室を後にした。
電気の消えた部屋のなか。
月明かりだけが窓から差し込んでいる。
ベッドの上で、二人が背中合わせで寝転がる。
「……ねぇ、ソーニャちゃん?」
うとうとし始めた私の背中に、彼女が声をかけた。
「……起きてる?」
「……」
答えようと口を開いたが、声がうまく出ない。
そんな私をよそに、彼女は言葉を紡いでいく。
「……ソーニャちゃん」
不安そうな。
「……もう、いい加減にしないとね。私も」
寂しそうな。
「でもね……私、今も怖い」
切なそうな。
「こんなに近くにいるのに……ソーニャちゃんが、いつか、いきなり……消えちゃうんじゃないかって」
今にも、泣き出しそうな。
「……怖いよ」
そんな、彼女の声が。
「怖いよ、ソーニャちゃん……」
私の背中に、突き刺さる。
「……ごめんね、迷惑だよね。こんなの……」
「……おい」
「そ、ソーニャちゃんっ……!?」
やすなは、私が寝ているとすっかり思い込んでいたらしい。
私が言葉を返すと、わかりやすく驚いているのが背中越しでもわかった。
「さっきから聞いてれば、何を勝手なことを」
「……ごめん」
「だいたい、お前はバカの癖にいろいろ考え過ぎなんだ」
「な、なにおう!」
「……だから、いつも通り。いつも通り、バカみたいに笑ってればいいんだ」
バカみたいに笑って。
バカみたいな事をして。
そうやって、楽しく過ごしてればいいんだ。
「……それに、私がそう簡単にやられるように見えるのか?」
「……だってソーニャちゃん、ちょろいし」
「言ってろ、バーカ」
「へへ」
「……心配するな。突然居なくなったりなんて、絶対しないから」
「……うん、わかった」
「じゃあ、もう寝ろ」
「そうだね」
「明日は、ちゃんと家に帰れよ」
「わかってる」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
「……いい夢見ろよ」
「うん!」
さっきまでの神妙な雰囲気はどこへやら。
彼女の声は、すっかり明るさを取り戻したようで。
私もなんだか、ほっとした。
目を閉じると、睡魔が再びやって来た。
頭の中を、眠気ゆっくりと包んでいく。
私は、背中にやすなの温もりを感じながら。
こういうのも悪くないな、なんて柄にも無いことを考えつつ。
ゆっくりと、夜の闇に意識を沈めていったのだった。
おわり。