女神「突然ですが、貴方たちには対魔忍になってもらいます!!」「「「「「えっ!?」」」」」 作:ニゴリエース
さくらが書置きを残してカオス・アリーナに向かったため、俺は急ぎ本部へと戻った。書置きに記された日にちからすでに三日以上が経過し、それでもなんの音沙汰もないということはさくらも捕まったと考えられる。
結局これで人質が二人に増えただけという事態に俺は最早頭を抱える以外することができなかった。姉さん一人だけを救出するならまだ容易いがさくらも捕まったとなるとすでに原作の佳境に入っているかもしれない。ならもう一刻の猶予もない。俺は任務に向かった連中を除いて残っているサスケ、ハヤテ、ナギサに素早く指示を出し準備を開始した。
「こっちは準備完了…三人とも、こちらの声は聞こえているか」
『バッチリっすよ隊長、こっちも準備万端っす』
『センサー、システム共に感度良好です』
『隊長、いつでも大丈夫です』
すでに都心は闇に包まれ、仕事を終えて帰宅途中のサラリーマンなどが行きかっているのが見られているごく一般の風景がそこにはあった。だがその裏には下種共による欲望にまみれた闇の社会が広がっていることだろう。
俺はそれを見下ろしながら自分の装備を確認する。いつもの対魔忍スーツに外套と仮面ではなく、全身はライダースーツのようにぴったりとフィットする黒色の装束、手足には黄金に輝く装甲を身に着け、頭にはヘルメットのように顔全体を覆い隠す機械なマスクと完全な武装を施した状態である。
これは俺達霧の部隊が開発中の対魔忍スーツであり、まだ開発段階であるため腕と脚の装甲しかできていないが従来の対魔忍達の装備よりも遥かに近代化され、試験運用中も中々の性能を誇ったため実験を兼ねた実戦投入として使うことにしたのである。
今回の作戦は俺一人がカオス・アリーナに突入し、そこを仕切っている人物の抹殺と捕まっている姉さんとさくらを救出、他の三人は待機してこちらのバックアップに専念することになっている。つまるところ、今回は作戦もへったくれもない他の対魔忍と同様にぶっつけ本番の正面突破である。ははっ、俺が一番嫌ってるシンプルな作戦(?)だよ、死んだらさくらのこと一生祟ってやる。
「よし、それじゃこれより作戦を開始する。サスケ、頼むぞ」
『了解っす。それじゃあほいほいっと』
俺は遥か後方に待機してある大型のバンの中にいるサスケに指示を出し、作戦を開始することにした。
「あ~ぁ、今日もここで監視の仕事かよ。ったく、マダムも人使いが荒いっつうの」
カオス・アリーナの内部――――淫虐の限りを尽くすその施設にも当然のように監視カメラが存在し、それを見張る警備室が存在する。その部屋にはそれぞれアリーナ中央や観客席、内部の廊下や闘士の待機室に監禁室など様々な場所の映像が記録されている。
それを見張っているのは闇の住人である一匹のオークである。このオークはノマドの所属であり、アリーナの支配者である朧の指示で今日一日の監視を任されているのである。しかしオークはやたらと不満たらたらの様子であり、面倒くさそうにモニターを眺めている。
「アリーナに侵入してくる奴なんているわけもないのに、マダムは本当に心配性だぜ。あ~ぁ、今日はビッグなイベントがあると聞いてたのによぉ」
今回は従来のカオス・アリーナのように試合の敗者へ淫らな罰を与えるものではなく、互いにどちらかが死ぬまで続けられるデスマッチ―――しかもあの高名な対魔忍とその妹が戦い合うというのだから、いつもとは違い殺せ殺せと叫び声が上がるほど観客席もすでに沸き立っているのがモニターを通じて分かる。
「まっ、どっちが勝っても結局はアリーナから出られねぇけどな。それにマダムも太っ腹だぜ、勝った方は俺達で自由に犯していいって話だからな、げへへっ」
オークは支配人であるマダムにこの試合で勝った方を自由に犯しても良いという話を貰い、すでにモニターに映っている美しい容姿をした二人の女性を眺め、そのどちらかをこれから犯せるということに妄想を膨らませ、股の男根を大きくする。
しかし彼の下卑た妄想はそこまでであった。突然彼の目の前にあったすべてのモニターがまるでテレビの電源を切ったかのように黒く染まった。オークはそのことに驚きを浮かべ、制御盤をいじり再起動させようとするがどれも無反応である。
「な、なにが起こってやがる?!」
オークは混乱し、警備室に備えてある警報システムを作動させようとするがそれもまた無反応であった。それどころか通信システムまで切られたかのように施設内への緊急放送も外部への連絡も不可能になっていた。すると彼の後ろにあった一台のモニターが映りだし、カタカタとテンキーをうつかのような音が聞こえ始める。やがて画面には文字が打ち込まれ、ある一文が完成する。
「ひっ!?」
頭の悪いオークでも、その簡単な言葉の意味を理解して小さく悲鳴を上げる。その文章は短く、ただこう書かれていた。
『
『ようし、乗っ取り成功しました。今監視カメラの映像をそっちに転送しますね』
「相変わらずこういう仕事は早いな、流石はサスケ」
『へへっ、お褒めに預かり光栄です♪』
『調子に乗るなサスケ、こういうことでしか活躍できないんだから黙って仕事をしろ』
『先輩の言葉が辛辣過ぎっ!!?』
『ちっ…!!』
『ちょっ、ナギサ先輩はなんでそんなにこっち睨むんすか!!?』
「おーいお前ら、あんまり騒ぐなよ」
サスケから役目を終えた報告を受け、俺が被ってあるマスクの内側にカオス・アリーナの内部の映像が映し出される。サスケは戦闘面においては下忍よりも少し強いぐらいしか実力はないが、コンピューター系に詳しい。任務中は敵の施設をハッキングしそれを乗っ取り、あらゆる情報を抜き取り内側から警備システムそのものを破壊するという荒業を簡単にやってのけることができる。生まれや性格が対魔忍のものでなければそれこそサイバー犯罪の神様にでもなれただろう。いやぁうちの部隊の連中ってどうしてこうも有能なやつばっかりなんだろう、俺の心労が軽くなる。戦闘しか頭にない他の連中も見習ってほしいわぁ~。
俺は内部の映像が完全に転送されたのを確認すると、カオス・アリーナへの入口へと向かう。正面には武器を持った武装兵士らしき二人組がいたが、どうやら内部からの通信に不具合が生じていることに気づき、なにやら話し合っている姿が見られた。そんな殺してくださいと言わんばかりの隙だらけの姿を俺が黙って見ているわけがなく、すぐに
しかし今回は剣を飛ばすのではなく、中から近代兵器の代表である銃火器を取り出した。それも拳銃のような小さなものではなく6本の銃身を持ち、その威力から無痛ガンと呼ばれヘリコプターにも搭載されている機銃『ミニガン』である。これは毎秒100発の弾を連射可能であり、これを食らって平気な奴はまずいない。
俺がトリガーを引くとミニガンの銃身がゆっくりと回転し、だんだんとその回転を速めていく。そしてすさまじい音を立てて銃弾が発射され、アリーナの入口を警備兵ごと撃ち抜く。悲鳴のようなものが聞こえるがすぐに銃声によってかき消され、警備兵の体はまるでぼろ雑巾のようになっていった。
扉が完全に破壊されたのを確認し、俺はミニガンをしまって新たにUZIと呼ばれる短機関銃を二丁取り出してエレベーターに乗り込む。外部からサスケがエレベーターを操作し、地下へと進めていく。監視カメラを確認すると中の連中はまったく気づいていない様子である。当然だ、中の警報も通信も全てこちらが掌握しているのだから。
エレベーターが到着すると、ちょうど目の前に談笑しているリーマンスーツを着た男たちやだらけた姿の若者たちがおり、俺の姿を見つけるや否や驚いて目を見開いている。
「観客の皆さまこんにちは、カオス・アリーナへようこそ♪」
俺はマスクの下でにっこりと笑いながら軽い口調で語り掛け、UZIを片手に一丁ずつ持ってそれを構える。男たちは事態を察したのか怯えた様子になっている。どうやらこいつらは本当にただの一般人でありアリーナの見世物を見るため客としてここに来ているらしい。普通の闇の勢力の人間ならなにかしら自衛の手段を持ち、俺の姿を見ただけで事態を把握しこちらを攻撃してくるはずだからだ。
対魔忍は魔を狩る正道を歩む者であり、一般人には絶対に関わらないし危害を加えない。普通の対魔忍だったら彼らを攻撃するのをためらっただろう。だが俺には関係ない、自分から進んで闇の一部に関わったのだ。死んでも自業自得だ。
「そしてさようなら…」
俺は自分でも驚くほど冷たくそう言うと、容赦なくトリガーを引いた。銃身から火を噴き、銃弾が何十発も発射されて彼らの体を貫いて血を吹き出させ、廊下を血染めにしていく。何人かは逃げ出したが一人も逃すつもりはない。俺は逃げ出した連中にも銃を向けて何発も撃ち込む。そしてそれは物言わぬ肉塊へと変貌した。
『隊長、今日は一段と不機嫌っすね。一般人をこうもあっさりと殺すなんて』
「本当ならこんなゴミ共を殺す予定なんてなかったのに作戦を台無しにされたんだ、恨むならさくら様を恨んでほしい」
『それは単純に八つ当たりです隊長』
「いいじゃねぇか、別に死んだって誰も困らねぇだろ」
サスケが俺の機嫌が悪いことを察し、ハヤテは俺のやっていることがただの八つ当たりであることを指摘するが俺は短く返事を返して切り捨てる。散々アリーナで苦しめられた人たちを見て笑い、時には自ら辱めに参加するような連中なのだ。死んだって文句の言われようはない。
『隊長、お話し中申し訳ありませんが警備区域から兵士がそちらに向かっているのがみられます』
俺達が軽口をたたき合う中、ナギサは冷静に騒ぎを聞きつけたのか警備兵の何人かがこちらに駆けよって来ていることを報告する。俺は弾が空になったUZIを投げ捨て新しく軽機関銃――PKを蔵から取り出し、兵士が姿を見せた瞬間にトリガーを引く。すると兵士の防弾チョッキをやすやすと貫き、先ほどの連中と同じく肉塊へと変わり血の海に沈んだ。監視カメラを乗っ取り、敵の動きはこちらが全部把握してあるから、簡単に対処できる。あぁ~部下が優秀だと楽でいいわぁ~……。
サスケとハヤテ、ナギサによるサポートを受けながら兵士や一般人を一人一人始末してアリーナの中央へと進んでいく。目指すは闘技場―――そこにはおそらく朧がいる。奴さえ始末してしまえば姉さんやさくらにかかっている催眠刻印は消え失せ、救出は楽になるだろう。すでに俺の頭に沢木恭介を助けるという思考はない。こうなっては最早二人を救助しながら彼を救うことはできないだろう。
おそらく朧を始末すれば、俺は沢木恭介を殺したとして祖父と同じように姉さんに恨まれることになるだろう。だがそれでも良い、姉さんにはすでに嫌われているのだ。ならもう恨まれるだけ恨まれよう。そんなことを考えていた俺に突然慌てた様子のナギサの声が聞こえた。
『っ!?隊長止まってください!』
「…どうした、なにがあった」
『っ…隊長、扉の先の通路に厄介なものがいます』
「厄介な…?」
俺はその場に立ち止り、ハヤテが伝えてきた厄介な物を確認するため監視カメラの映像を確かめた。そしてそれを確認し、俺は盛大にため息をついた。
「まじか…なんであいつがここにいるんだよ」
俺はそうつぶやいてしまう。監視カメラの映像には扉を隔てた先にある一人の人物が立っていた。赤い外套を身に纏い、金色の瞳を持つ褐色肌の絶世の美女がそこにいた。だが身に纏う雰囲気は映像越しでも感じるほど鋭く、まるで傍によるだけで斬られてしまうような危険さをうかがわせている。
そいつの名は『イングリッド』―――ノマドの大幹部でありあの不死の王の腹心であるとされている。その実力は姉さんにも匹敵し、魔界騎士と称されるほどの剣技を持つ。少なくとも原作ではこんな早い段階では登場しないはずなんだけどねぇ~…これもバタフライエフェクトってか…?。
「はぁ~…本当に俺を心労で殺す気か神様……俺をこんな目に合わせる神様いつかぶち殺す」
俺は独り言ち、銃をしまって代わりのものを取り出して構える。ぐちぐちも言っても仕方ないから、早めにご対面といきましょう。こんな武闘派の堅物を相手する算段はとっくのに昔にできてるのだから。
イングリッドはカオス・アリーナの廊下に仁王立ちし、目の前の扉をただ注視する。騒ぎはすでに奥まで伝わっているが彼女はまったく慌てず、ただ静かに敵が来るのを待っている。
やがて、彼女の目の前にあった扉が轟音と共にはじけ飛び、熱風と共に煙が彼女の肌をなでつける。イングリッドは少しだけ目を鋭くし、じっと目の前を睨み付ける。すると煙の中からゆらゆらと黒い影が見え、やがてそれは姿を現した。
黄金の装甲を手足に纏い、マスクで素顔を隠したその人物は平らな胸元が露わになっていることから辛うじて男であることが伺える。その手には黒く太い、身の丈ほど長い筒のようなものを携えている。それはスティンガーと呼ばれ、本来敵の航空兵器を破壊するために使う兵器なのだが、男はただ扉を破壊するために使ったところを見ると派手好きなのか、もしくは扉越しの敵を警戒してのどちらかだろう。
「おやおや、こんな悪趣味な場所にかの魔界騎士様がいるとはどういう風の吹き回しかな?」
「ふん、その喋り方からして貴様が件の下賤な対魔忍か…ここを取り仕切っている者が随分と世話になったらしいな」
男は軽い口調でイングリッドに語り掛けるが、彼女はまるで表情を変えずに男を睨み付ける。
「あぁ、あのババアのこと?勝手に絡んできたから適当に相手しただけだよ…正直あんなドSに迫られても嬉しくもなんともないけどねぇ~」
「だが奴を退けたのは事実だ。それにここについても何者かがこそこそと嗅ぎまわっていることを聞きつけ、我が主はお前がここに来ると踏んで私を寄越したのだ。どうやらあの方の読みは当たったようだな」
「あらら、それはどうもご苦労さんです。あのババアにも言ったけどこんな矮小な存在にわざわざすみませんねぇ」
「………軽口を叩くやつだ、こんな男にしてやられたとはあの女も底が知れるな」
イングリッドは目の前にいる男の口調があまりにも緊張感に欠け、自分を知っていながら警戒の一つも抱いていない様子から危機感のない男―――とるに足らない敵の一人として見下している。こんな男に幹部であるあの女がやられたとは、とてもじゃないが信じられなかった。性格は最低の一言に尽き、互いに相容れない関係ではあったがそれでもその実力には一目置いていた。だからこそこんな軽い男に負けたとは、とんだ恥さらしだ。
そのイングリッドの考えを感じ取ったのか、男は短く笑い体を震わせている。その様子を見たイングリッドは僅かに訝しむ。
「……くくくっ」
「―――――何が可笑しい」
「可笑しい…?これが笑わずにいられるかよ」
男は心底可笑しいと言わんばかりに声を弾ませ、イングリッドを嘲っているのが彼女には感じられた。
「まったくどうしようもない連中だよお前らは…下手に力がある分脳みそがおめでたくできてんのかねぇ」
「どういう意味だっ…」
「分からねぇのか…お前らはそうやって他人を見下し、まるで自分は他の奴等よりも優れていると言わんばかりに威張り散らしてやがる。その姿が俺にとっちゃあ道化にも勝るほど滑稽にうつっているのさ」
男はスティンガーをその場に捨てやれやれとため息をつく。その姿が腹立たしく、イングリッドはつい口調を強くしてしまう。だが男は気にせずに言葉を続けていく。
「お前らは強いさ、それこそ人間が蟻んこに思えるほど…そこは認めるさ。だがあんたらは力が強けりゃ負けないと勘違いしてる。今ここで、身体を改造されて淫らに凌辱されているアサギ様のように、どれだけ力があろうとお前らのような恐るべき馬鹿共も一皮むけば雌豚と変わらねぇってことさ」
「貴様っ―――!」
自身を雌豚と称し、見下していることに僅かにイングリッドの中で殺意が湧き彼女が持つ黄金の刀身を持つ魔剣ダークフレイムを抜き放った。そして彼女から溢れ出る気配は膨れ上がり、並のものであればその場で卒倒したであろう。しかし男はまったく動じていなかった。
「雌豚呼ばわりで怒ったか?心が狭いねぇ……ノマドの大幹部?魔界騎士?俺にとっちゃてめぇもただの女と変わんねぇさ」
男は背中から巨大な何かを取り出す。それは刀のような形をしてあり、中心から半分に折りたたまれている。男はそれを二度ほど振るうと刃が回転し、カチリと音を立てて巨大な刀へと変貌する。これは男が装着している対魔忍スーツと同様試作段階の装備である。
『長大対魔刀-プロトタイプ』―――重装甲の相手に対して強力な一撃を与えることができる刀であり、これもまた初めて実戦に投入することになった逸品である。男は刀が展開されるのを確認しながらそれを構え、黄金の波紋から新しく銃を取り出す。
「さぁ行くぞ、歌い踊れ魔界騎士イングリッド――――――豚のような悲鳴をあげろ」
男はそう言ってイングリッドに襲い掛かっていった。
男はその巨大な対魔刀を上段から振るいイングリッドに叩きつける。イングリッドはそれをいなし反撃にダークフレイムを男の首目掛けて振るう。
「甘い甘い!!」
「ちっ!」
「躱して見せな!!」
男は刀を反し振り回してダークフレイムをはじき返す。そして左手にある銃―――9mm機関拳銃を乱射するが、イングリッドは素早く身を翻し銃弾を剣で斬り払い叩き落とす。斬られた銃弾はすべて真っ二つになり全てが炎に包まれ灰となって崩れ落ちる。これがイングリッドの能力―――切り裂いた対象を黒炎で焼き尽くす。生物が一太刀でも浴びれば炎によって燃え散らされる。男はそれを警戒し、距離が離れたのを見て新しく黄金の波紋を生み出し、中から筒状のものを取り出すとそれを彼女目掛けて蹴りぬく。そして同時にそれを銃弾で正確に撃ち抜いた。
「そらよっ!」
「くっ…!」
筒は弾け飛び、辺り一帯を煙が包み込む。視界は遮られ、男は煙の中へと消えていく。イングリッドはその場で立ち止まり、静かに剣を構える。そして彼女は煙の影から振るわれる刀を弾き、銃弾を切り払っていく。
「おいおいまじかよっ、こんな中でも見えてんのか」
「ふんっ、こんな小賢しいもので私をどうかできると思うな!」
男は感心したようにつぶやき、イングリッドは気配をたどってダークフレイムを振るい続ける。男はそれを同様に弾き返すが巨大な対魔刀を片手で振るい続けており筋力に負荷がかかっている為かその動きは段々と散漫になってきている。
「そこかっ!」
「がっ!?」
イングリッドの剣はついに男を捉え、男はなんとか左手の装甲を盾にして防ぐが勢いを殺しきれず壁へと叩きつけられた。そんな隙を見逃すイングリッドではなく彼の首へとダークフレイムを突きつける。
「っ!」
「どうやらここまでのようだな、未熟ではあるが随分と粘ったな。だが所詮はこの程度だ」
男は首に剣を突きつけられながらイングリッドに視線を向ける。仮面の下の表情は伺えないが、この状況において怯えを見せない人間はそうはいない。イングリッドはそう思い余裕の態度を取り戻した。
「言葉はともかくあの女を破った実力は本物のようだ。しかしここまでだ―――その首、我が主の捧げ物としてやろう」
「――――くくっ」
イングリッドが剣を振るい男の首を両断しようと構える。しかしそんな状況においても男はなお笑った。その余裕の態度にイングリッドは僅かに疑問を抱いた。
「なんだ、死を前にして気が狂ったか?」
「―――いや、ただやっぱりお前って馬鹿だよなって思っただけさ」
「なにっ?」
「言ったよな……お前ら恐るべき馬鹿共も
男がやけに馬鹿にした口調で言ったためイングリッドは眉をひそめる。しかしその瞬間にイングリッドに異変が起こった。
「―――なぁっ!?はぐぅっ!!?」
「やっと効いてきたか」
イングリッドの視界が歪み、身体が急激に火照って心臓が早鐘を打ち鳴らす。そして剣を持っていることができないほど体から力が抜け、びくびくと体を震わせる。そして股からははしたなく液体が零れ落ち床に水たまりを作り出した。
男は手を振るうと四方八方に黄金の波紋が生まれ、中からいくつもの鎖が飛び出しイングリッドの手足を縛る。そして鎖によって手足を広げられ張りつけのような状態にされてしまう。
「きっ、貴様…私に、なにをしたっ!!」
「…お前さ、俺がただ単純に目くらましのために煙をばら撒いたと思ってたわけ?」
イングリッドは男を睨み何をしたのか問いただすと、男は嘲りの様子を保ったままもったいぶるように言葉をかける。
「この煙にはな、アミダハラの魔術師に頼んで作ってもらった媚薬が仕込まれてんのさ。効果は短めだけど強力な、ね」
「媚薬っ…!!」
男が最初に煙を発生させたとき、男はわざと煙に紛れてイングリッドと戦っていた。彼女もまた彼を追い煙の中に入ったがそれが間違いだった。この煙には、男がアミダハラで手に入れた魔法具の中から媚薬―――それもかなり強烈な物を薄めて混ぜており、男はマスクによって防毒されているが目くらまし程度にしか考えられなかったイングリッドはその煙をもろに吸い込んでしまったため、身体中に媚薬が回ってしまい致命的な隙を作りだしてしまったのだ。
「あぁ安心しな。俺は馬鹿共や下種共のように敵を凌辱する趣味はないから。媚薬もあんたに隙を作り出すための武器にしかすぎないんだから」
「くっ…」
男は悠々と立ち上がると対魔刀を拾い上げ彼女を縛りつけたまま距離を取る。イングリッドは体が鎖によって縛り上げるため彼を睨み付けることしかできない。
「ただあんたには実験に付き合ってもらう」
「実験、だと…」
「そう、ただのくだらない普通の実験……
「っ!!?」
男がそう言って対魔刀を構えると、それは起こった。彼の周りから凄まじい風が起こり、それはやがて目視できるほど巨大なうねりとなる。
対魔の力は対魔粒子と仮称される粒子の力が元となっていると噂されている。粒子を収束させることで魔族に対して有効な一撃を与えるだけでなく、忍術の源ともなる。男はこれを予め知り、ならばこれを技に使うことはできないかと考えた。術を使う動作を応用し己の能力の元となる人物が持つ一撃を再現できないか、そう考えて試してみれば彼の思惑通り集中すれば粒子を操ることができた。
男はその粒子を三層に分けて剣に纏わせ、回転させる。粒子は紅い風となって周囲を巻き込み圧縮させる。そしてそれが暴風の断層が生み出され、圧倒的な破壊力を纏わせていく。剣に纏った暴風は壁や地面を削っていく。それを見たイングリッドは僅かに表情を強張らせる。四肢は鎖で拘束され逃げることはできない。
「喜べ、お前はこの技の犠牲者第一号だ」
「…っ!!」
「さぁ、死に物狂いで耐えろよ魔界騎士!!!」
男は紅い風を纏った剣を突き出す。そしてその風は一気に爆ぜ、台風のようにうねりながら周囲を破壊し、飲み込んでいき、暴虐の限りを尽くしながらイングリッドにも襲い掛かっていった。
「…ふぅ、こんなもんか」
俺の目の前に広がっているのは壮絶な光景であった。自分で使っておいてなんだが、やり過ぎた。壁や天井、地面は螺旋状に抉り取られ、瓦礫も残らないほど消し飛ばされている。しかも無駄に威力が強すぎたのか長大対魔刀がボロボロになっている。この技に耐えられるような構造をしてなかったからだろう。まだまだ調整が必要だ。ふと、地面を見てみるとそこにいたのは外套をボロボロにし、血に塗れた状態で倒れているイングリッドだった。ダメージを負いながら尚立ち上がろうとして身体をプルプルさせているのはまるで産まれたばかりの小鹿だ。
「まだ立ち上がれるのかよ、正真正銘化け物だな」
「―――くっ、殺せ」
「…いらねぇよてめぇの命なんざ。死にたきゃ勝手に一人で首つって死ね」
肩で息をしながらこちらを睨み付けるイングリッド。敗北を悟り、命乞いもしないあたり流石は誇りだのなんだのほざく魔界騎士様といったところか…。だが正直興味もないし時間も掛けられないため俺はその瀕死なイングリッドを放っておくことにし、さっさとこの場を後にしようとした。しかし自然とその場で足を止めてしまうことになる。
「――――ふむっ、まさかイングリッドを退けるとはな」
「……っ!!!」
その男はいつの間にかその場にいた。纏っている雰囲気はイングリッドよりも強くしかし禍々しい。スーツを身に纏い、余裕たっぷりの表情でこちらをみる姿はまるで王者の風格すら漂わせてくる。俺はこの男を知っていた。初めて出会うが、俺はこの男を今生において最も恐れていた。
「エドウィン・ブラック…」
「ほう、私の名前を知っているようだね若き対魔忍君」
強烈な気を放つ男―――不死の王、吸血鬼の始祖、魔王などと称されるその男は無敵の吸血エドウィン・ブラックであった。こうして対峙するのは初めてだが、なるほど生で見ると本当にやばい。こいつクラスの存在は俺もあったことはあるがここまで強大な邪気を纏った奴はいない。昔戦ったことのある吸血鬼なんかただのノミに感じてしまう。
「…ブラック、様…申し訳、ありません」
「良いイングリッドよ、今は体を休めよ」
ブラックはイングリッドを立たせて体を支える。そして依然としてこちらを見つめてくる。その眼はまるで面白いおもちゃでも見つけたかのようだ。
「それで、君はここに何の用で来たのかね?」
「……アサギ様とさくら様がここにいるはずです。お二人を返してくれるんだったらすぐにでも消えますよ」
言葉の一つ一つに圧力がかかったような重みを感じ、思わず敬語で話してしまう。内心ビビりまくって全細胞が逃げろと叫んでいるがここで逃げたら姉さんたちがどうなるか分からない。絶対に退くわけにはいかない。ブラックはふっと笑い、後ろを指し示す。
「彼女たちならすぐそこだ。早く迎えに行くと良い」
「…やけにあっさりと通してしてくれますね」
「あぁ、もう終わったようだからね」
ブラックはそう言ったため、俺は奴のすぐ横を通り抜ける。イングリッドは依然として俺を睨み付けてくるが気にはしない。というかラスボスの前じゃどうしても彼女の存在はかすんでしまうからだ。
「……ふふっ、興味深いな君は」
「……」
「―――捻じれ狂い、ボロボロになりながらも君の魂は輝きを失っていない。まるで彼女にそっくりだ」
「……」
「また近いうちに会おう、その時に君の名を聞くことにしよう」
奴の傍を通りかかる瞬間に、そんな言葉を残してブラックは姿を消した。そして俺の身を襲っていた恐怖感と重みは消え去る。
「……またボス級のフラグが増えた、死にたい」
どうやら俺は不死の王にも目を付けられてしまったようだ。嫌だわ~~~、また心労が大きくなっていく~~~…。
そんなことを嘆きながら俺はアリーナに向けて歩を進めていった。
俺の目の前に広がっていたのは死だった。あちらこちらに広がっている血の海と元は人間であっただろう肉の塊。そして中央に立っているのは見間違うはずがない二人の女性―――井河アサギと井河さくらであった。
「どうやら終わったようですね」
「っ!!?」
「―――その声、ウツロね」
突然現れた俺に対してさくらはびっくりしているが、姉さんに関しては特に驚きもせずこちらを睨み付けてくる。俺はすぐに彼女に跪く。
「救出が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでしたアサギ様。あなたが御無事でなによりでございます」
「白々しいわね。ここに囚われて何日が過ぎていると思う?本当に私やさくらが無事に見えるかしら」
姉さんの足元には全身を切り刻まれ、血の海に沈んでいる朧の死体があった。姉さんの目元は僅かに赤く腫れており、物語は原作通り姉さんが朧を始末する正史ルートへと進んだようだ。結局俺は姉さんに沢木恭介を殺させるという咎を背負わせてしまったようだ。
「…申し訳ございません」
「謝ることしかできないのかしら。オークでももっとまともな弁解ができるわよ」
「お、お姉ちゃん!うっ君を責めないで!!うっ君は本気でお姉ちゃんを助けようと―――」
「さくら様、良いのです」
「―――でも、うっ君」
「今は話せる状況ではないですね。外に車を用意してあります」
「分かったわ、案内してちょうだい」
姉さんはそう言うとこちらに一瞥もせずさくらを連れて出口に歩いていく。さくらは所在なさげにこちらを見つめるが、すぐに姉さんの後を追っていく。二人の姿が見えなくなるまで見送った後、俺はどこかやるせなさを感じつつ待機しているメンバーに報告を開始した。
「…任務完了、皆ご苦労だった」
『隊長、八津九郎から通信が入っています』
「―――繋げてくれ」
俺が任務完了の有無を伝えるとハヤテが九郎さんから通信がきていることが伝えられ、俺はすぐに連絡を取るため回線をつなぐ。
『よっ、そっちはどうだ?』
「任務は滞りなく完了したよ。我らが隊長は無事、ってわけでもないが命に別条はなさそうだ」
『そうか、それを聞けて安心したよ。隊長が死んだとあっちゃ俺も紫もじっとしちゃいられないからな』
「ははっ、確かにね…」
俺はこちらに対して比較的明るく語り掛ける九郎さんの声に僅かに荷が軽くなったのように感じ、仮面の下で小さく笑みを浮かべた。だが、次の瞬間俺は地獄へと叩き落とされる。
『あ~、それと纏の件についてなんだが……』
「――――今度は、なにをしたんだあの阿呆は」
『すまん……流石にやり過ぎだと思ったが俺でも止められなかった』
九郎さんの話では、不知火さんと合流し潜入先に到着していざ開始しようとした矢先に予想通り、というより通例のごとく彼の弟が暴走し、入り口正面からダイナミック入場して大暴れ――――――死傷者は多数で施設は半壊、組織は頭をつぶされて壊滅状態になっているとのことだ。取るべき情報も取らず、ただ敵を殲滅するという本来の任務とは真逆の結果が九郎さんから報告された。
「………」
『あ~っ、あいつには俺からよく言っとくし、始末書も手伝う。だから―――』
「ぐばぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」
『『『隊長ぉぉおおおおおおおおっ!!?』』』
『――――すまん、本当にすまんとしか言いようがないな』
俺は仮面の下で盛大に吐血し血の海に沈んだ。正直に言おう…敵よりも味方の方が俺を心労で殺しに来てる……死にてぇぇえええええええっ!!!
今回はここまでです、いやぁ~ようやくアサギ1編が終了間近です。ちょっとペース早い気もするけど……。今回登場した対魔忍スーツは3のアサギの新装備の完全色違い版です。でも未完成です。だって胸元あんなにガバーって広げて防御もくそもなくないっすよね。
長大対魔刀もプロトタイプということからスライド式ではなく折り畳み式にしています。
あと、対魔忍といったらやっぱ媚薬は必須アイテムですよね~、主人公にとっては拷問用具でも籠絡用のアイテムでもなく単純に武器の一つとして使っています。だって集中力も散漫になって力が入らなくなるなら完全にイングリッドみたいな相手に対して確実に隙を作れるんだから使わない手はないですよ。
そして不死の王様からもロックオンされた井河弟君です。もう彼に敵のタグが集中しすぎて同情の余地もないほどです。おまけに味方は辛辣、馬鹿、諸突猛進と心労が後を絶たないため、というより最早味方からのダメージがでかいですはい。
さて、今回は登場した対魔殺法についてはネタ分かる人には分かると思いますけど、分からない人はFateでウィキって見てください。まんまAUOの技ですハイ。ただオリジナルほど威力はないです。だってあれもはや星が敵に向かっておちてくるとかもはや絶望しか感じない。そこまで弟君をチートにする気はないです。まぁこれからまた強化するかもしれないし、不死の王様の方がよっぽどチートだけどね!!!
最後におまけとして、主人公が米連・魔族所属だった場合のショートストーリーで終わりにします。
【米連所属編】
井河弟「あぁ~、今日も任務大変だったぁ~…気苦労が絶えないわぁ~」
兵士1「隊長!またDSOからの始末書が届きましたぁ!!」
井河弟「…またかぁぁああああっ!!!あの鉄くず死神女また俺の仕事増やしやがってぇぇぇええええっ!!!」
兵士2「隊長!なんか賢者の石を使って異界の門開こうとしてた連中がいたみたいで、そこが暴走して吸血鬼の井河アサギが出てきたみたいです!!」
井河弟「ぎゃぁぁぁぁああああ姉さんが二人に増えたとか心労がマッハを超えるぅぅぅううっ!!胃がねじ切れるぅぅぅぅうううううっ!!?余計なことしやがってぇぇぇえええええっ!!!」
兵士3「隊長!ふうま弾正がまたやらかしましたぁぁぁああああっ!!」
井河弟「あのジジイぃぃぃぃぃいいいいいいいっ!!本当に自重しろぉぉぉおおおおおおっ!!!」
【魔族所属】
井河弟「家族とか全部捨ててきたのにボスの吸血鬼が支配するだけ支配して運営はそのままこっちにぶん投げてくるから心労が変わらない…死にたい」
オーク1「兄貴!マダムがまた勝手に行動してるみたいです!!」
井河弟「あのババア!毎回毎回負けてるくせになんにも学んでねぇのかぁぁぁああっ!!今すぐ連れ戻してこい!!!」
オーク2「兄貴!!また魔界騎士がふうまに捕まったみたいです!!」
井河弟「もういっそふうまに所属しろぉぉぉおおおおおおっ!!毎回捕まりにいきやがってあのドMぅぅぅうううううっ!!」
オーク3「兄貴!また魔科医のジジイとふたなり蛇女が尋ねてきました!!」
井河弟「今すぐ追い返せぇぇぇええええええええっ!!!ついでに尻を隠すものも持って来いぃぃいいっ!!!」
どこにいようと弟君の心労は減らない、絶対だ(確信