千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話 【完結】 作:ミキマル
綾瀬夕映はこの2−Aのクラスで比較的常識人の分類に含まれる。
それは彼女の一歩下がったスタンスが起因となっており、図書館探検部という麻帆良特有の常識外な部活動に所属する身でありながら哲学者と言う祖父の影響で鋭い洞察力を持ち合わせいるのが大きな要因となっているのだろう。
しかしながら千雨みたいに認知阻害をレジストする能力を持ち合わせてる訳ではない。あくまで2−A、いや麻帆良の中でという制限は付く。
そんな彼女であるがこの日は教室の一番後ろの席で、一人机の上に突っ伏してグッタリとしていた。
「うぅぅ…昨日は遅くまで起きてたのが仇となったのです…。本を読むのが止まらないでオール、キツいです…」
「ユエ、大丈夫…?」
「授業中に眠れば問題ない…はず…」
「ほら、まだHRも始まってないんだから起きて」
そう言いながらうつらうつらと船を漕ぐ夕映の肩を揺らし、必死に起こそうとする宮崎のどか。その2人の様子を隣で早乙女ハルナが苦笑いで見ていた。
「大分参ってる様子だね。そんなに面白かった?」
「それはもう…ハイデガーの『存在と時間』で存在しゃg…」
「もう、眠っちゃだめですって!」
「あははは…」
クラスメイトが各自で輪となり和気藹々と話に花を咲かせる。
他のクラスと比べ比較的テンションの高い2-AはHRそして授業にと、このテンションが維持されながら学校生活が続いて行くのだがそれは何時もの日常であり、他のクラスでも悪い意味で噂になる程であった。
そうして暫くすると教室の前方の扉が開き、このクラスの担任であるタカミチが出席簿片手に現れる。彼は教卓に立つとパンパンと出席簿を叩きながら生徒達に声を掛けた。
「はい、静かに。出席を取るから皆席に付いてね、HRを始めるよ」
「ほら、高畑先生来たよ。ちゃんと起きて」
「シャキッとしないと!」
「わ、わかってるのです…」
片目を開け教卓に目を向ける夕映。そんな彼女を心配しながらのどかとハルナは自分たちの席に戻る。なんとか必死に眼を開く彼女。しかしながら彼女は眠気に勝つことが出来ず、自分の番が過ぎると意識半分と離してしまった。
なんとか自分の番で返事が出来たので十分であろう。一安心と安堵を感じながら眠る姿勢になる為、机の上で腕を組む。
「んっ? エヴァは来てないのかな?」
「スミマセン。マスターは寝坊で遅れてやって来ます」
「あっ、茶々丸君ありがとう。そうか、学校に来てくれるだけでも良かった」
そう言いながら出席欄に遅刻というキーワードを書き込もうとした矢先、教室が妙に騒がしくなってるのにタカミチは気付く。
教室の窓際の席の子らが外を覗き込んでいるのだ。
一体どうしたものか?
出席簿を閉じ窓際に向かうタカミチは窓越しから外を覗き見る。
学校の正門口に繋がる大きな石畳に両脇の等間隔に並んだ葉桜。
そして奥の方から全速疾走で石畳を駆け抜けるオオカミに乗ったエヴァが振り落とされないよう必死にしがみ付いてるのが目に入る。
オオカミは徐々にスピードを上げ、校舎前の階段に差し掛かると更に加速し、まるで階段をスキーのジャンプ台の様に使いおもいっきり飛び跳ねた。
「ま、まさか…」
タカミチの背中は冷たい汗が。
空を滑空するエヴァらはそのまま教室の一番後ろの開かれた窓から教室に飛び入る。途端、部屋中に駆け巡る突風。
教室に入って直ぐ急ブレーキを掛けたオオカミはバランスを崩さない様に姿勢を低くし、安定した型で爪を床に掛け、火花を散らしながら向かい側の教室の後ろの扉前で止まる。
そして背中に乗ったエヴァが一言。
「どうだタカミチ! 間に合っただろ!」
「「「……」」」
「…一体どう言う状況ですか?」
静かになった教室で目を点にし、先程まで夢の世界に旅立だとうとした夕映の呟きが、一人虚しく流れていったのであった。
それは今日の朝、エヴァ宅での出来事であった。
「マスター、時間です。起きて下さい。今日は高畑先生がおらっしゃいます。このままだと間に合いません」
「んっ…あと五分…なんなら先に行ってていいぞ…。猫の餌やりもあるだろ…っ…」
「そんな事言われましても。ホント、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ…いざとなったら最終手段を使う…」
「それでは私は先に行きます。ちゃんと来て下さい」
前日の夜更かしが集って寝不足のエヴァは登校時間になってもベットに丸まり、そこからじっと動けずにいた。
何とかマスターを学校に連れ出そうとする茶々丸であったが彼女は何時もの日課である猫の餌やりをしなくてはならず、人より先に早く学校に向かわなくてはならない。
マスターであるエヴァの言うことに逆らえない彼女は最終手段という言葉に疑問を持ちながら、彼女を置いて先に学校へ向かったのであった。
そして部屋には二度寝するエヴァとベットの横で丸くなる千雨。
普段はリビングに居るはずの千雨であるが今日この日は二階のエヴァの部屋におり、2人の会話を耳をピクピク立てながら盗み聞きする。
そしてしばらく時が経つが一向に目が覚める気配のないエヴァ。
2人の会話で半分目を覚ましてた千雨はのっそり起き上がると湿ってる鼻をエヴァの頬に付けた。ひんやりとした感覚がエヴァの顔全体に回る。なんとか目が覚める彼女。
うつらうつらと頭を揺らしながら時計を覗く、時間はHRの10分前。
「うぉお! ヤバい!! 二度寝した! 茶々ぅ…って先に行ったんだった!」
時間がなくパニックになるエヴァを片目に背中を伸ばす千雨。前脚を伸ばし弧を描く形で起きたての凝った身体をほぐしてゆく。
ブルブルと首を振って完全に目を覚ますとその視線の先には制服に着替えるエヴァが必死にリボンタイを結んでいた。
千雨は一匹ゆっくり茶々丸の用意した朝食を食べようと階段を降りる。
その時である、エヴァが大声で千雨にこう言った。
「おいちう! 学校まで乗せろ!」
「…ガウッ?」(…はぁ?)
「その背中に私を乗せて麻帆良学園中等部まで送ってくれ。これは主従契約だいいな」
「ハウーッ…」(はぁー、分かったよ…)
呆れながら千雨は先に玄関先へ向かい、エヴァが来るのを待つ。
そして暫くすると廊下の先から道具を無造作にカバンへ詰め、もう片手に手綱を持ったエヴァがバタバタとパンを口に咥えながらやって来る。
生憎、口轡を付けてない千雨にはエヴァ自身が落ちない為のリードにしかならず、千雨の首輪に付けるしかない。
と言っても元人間なので当たり前であるが千雨は人並みの知能を持ち合わせており、エヴァの口先一つで指示出来るので必要なかったりする。命令を守るかは千雨次第であるが。
「準備よし。学校の場所分かるか?」
当たり前だと言わんばかりに頷く千雨。エヴァを乗せた千雨は小川に沿って徐々にスピードを速める。
すると学校のある方角から始業のチャイムが微かに聞こえて来た。
「よしちう。全速力で向かえ! お前の本気わぉぉぉおおおお!!!」
千雨はエヴァが言い終わる前にギアを最大に回す。瞬時に掛かるGに押し潰されるエヴァは必死に手綱を腰に回し、千雨の首の毛を掴んだ。
「あっばばばば」
(…吸血鬼だから大丈夫だよな)
今の千雨の速度は地力で瞬動レベルの速度である。おそらく彼女のフルスペック、気など超常的な力を駆使するととんでもない速度になるが彼女と彼女のお腹の子に掛かる負荷を考えるとセーブするしかない。しかしながら今の速度でも十分スポーツカーとタメを張れる速度であった。
そうしてるうちに麻帆良学園中等部の正門が見える。目的地に近づいた千雨は徐々にスピードを緩めるがなんとここでエヴァが無茶な要求を仕出かした。
「そ、そのまま教室に飛び乗れ!」
「はぁあ!?」
「いいからこの先真っ直ぐの建物の二階、窓が開いてるあそこに突っ込め! ってかお前今喋っただろ!」
「ガゥ」(き、気のせいだし…)
そう言いながら千雨とエヴァは正面玄関前の階段に差し掛かる。千雨は意を決し再度スピードを上げ加速、階段を登りきるとそのまま後脚に屈折させ、思いっきり地面を蹴って2人は空を掛けたのであった。
こうしてエヴァはHRが終了する前のギリギリの時間に登校する事が出来たのである。しかしこの後2人はクラス中の視線の的になる失態を犯すのだが、遅刻し慌ててたエヴァはそこまで頭が回らなかったのであった。
(なんですかこの居心地の悪さ…なんでまだ後ろにオオカミが居るんですか…。そして斜め右隣から禍々しいオーラが!?)
一限目は英語、このクラスの担任であるタカミチの授業である。
エヴァが大きなオオカミに乗って颯爽と現れた時、クラス中は大騒ぎになったのだがHRの途中だとタカミチと委員長が何とか騒ぎを鎮めその時は事なきを得た。
しかしながらそれはつかの間の瞬間。
HRが終わった途端にクラスメイトはエヴァに茶々丸、そして教室の後ろで顔を伏せて丸くなってるオオカミの3つの集団に別れる。
エヴァは普段から醸し出される雰囲気とのギャップが災いとなり多数のクラスメイトに押し寄せれれるが
「あれは私の順従なるペットだ」
と言うと机に突っ伏して周りの話を拒否する。
そんな中委員長が一人エヴァに注意するのだが聞く耳を持たないエヴァには馬の耳に念仏。しばらくするとタカミチに廊下へ呼び出され、トボトボと連行されて行った。
そこで他のクラスメイトらは仕方なく茶々丸がエヴァの代わりに質疑応答に答える形になる。
そして大きなオオカミ、千雨に近づくのは超と葉加瀬。
2人は千雨に何か話しかけながら彼女の至る所を触り、診察。ボードに挟まれたカルテにチェックを入れる。2人はこの間に妊婦の千雨に身体検査をしており、少し遠くから桜咲と龍宮また別に一人席に座ったままのザジがその様子を静かに観察していた。
その様子をエヴァ同等に机に突っ伏しながら眺めていた夕映。そんな彼女に付いてたのどかはフラっと超と葉加瀬の居る千雨の所に向かう。
「うわ〜おおきいです〜」
「のどか、気をつけるのですよ。もしかしたらパクっと…」
「ヒィ!」
「ハハハ、大丈夫ネ。ちうサンは大人しいから何もしないヨ」
そういいながら千雨の背中をバシバシ叩く超。ちうと呼ばれた千雨は顰めっ面になりながら知らんぷりをするが垂れた耳が立ち、ピクピクと動いているのが分かる。
「2人はエヴァンジェリンさんのペットと知っていたのですか?」
「前に私とかえでサン、鳴滝姉妹は超包子で会ってるネ。それでその時彼女が妊娠してると分かって私達が定期的に見てるヨ」
「私はロボット工学一筋ですが超さんは何でも出来ますからね。専門外とあって私も楽しみながら学ばせて貰ってます」
「へー、赤ちゃんが居るんですね」
そう言いながら好奇心旺盛な夕映も千雨の事が気になり席を立つ。そのまま彼女も顔を伏せてる千雨の前に座り込むと、頭を撫でながら超に質問を投げかけた。
「この犬はなんて品種ですか? 犬にしては幾分大き過ぎると思うのですが」
「あー、ちうサンは多分オオカミネ。品種までは分からないヨ」
咄嗟に後ろに下がる夕映とのどか。犬と思った先がまさかのオオカミである。
一般的に馴染みなく、人類の敵と見なされ、創作界きっての嫌われ者。
本をよく読む2人にとって、そのステレオイメージが強く咄嗟に拒絶してしまう。その2人の対応をよく思わなかったのかオオカミは静かに眼を開けると睨みを効かせ「グルル…」と威嚇する。2人は互いに身を寄せ合った。
「あらら、ちうサンを怒らせてしまったネ。目の前で態度を変えられるとそりゃ怒るヨ」
「ナナナ…なんてモノをペットにしてるんですか! 大人しいとかそう言う問題じゃないですよ。常識ですよ常識!」
途端、先程まで睨みを効かせていた千雨の目が点になる。そう、まるで信じられない言葉を聴いたようなそんな阿呆な顔である。
「常識と言われても…ほら、鳴滝姉妹は背中で遊んでるヨ」
「あはは、やっぱりゴワゴワ!」「チクチクです〜」
「二人共あまりはしゃいでは駄目でござるよ。負荷を掛けたら大変でござる」
「「はーい!!」」
「いや、それは多分麻帆良だからだと…」
颯爽と現れた忍者トリオを傍目に見ながらため息を吐く夕映。
すると先程まで威嚇していたオオカミの顔が横目で見える。そのオオカミはまるで夕映に同情し、全力で肯定するような温かい目。実際千雨は全力で夕映の発言に頷いていた。
「…なんか頷いてるんですけど」
「ちうサンは頭が良いからネ。多分言ってる内容理解しているヨ」
「えぇ…マジですか…」
そうしてるうちに一限の時間が迫る。
廊下でエヴァと話していたタカミチが教室に戻ると後ろのドアからトボトボとエヴァも戻り、その途端に授業開始のチャイム。
エヴァは千雨の所に向かいこの教室で暫く待つように耳打ちすると自分の席へ戻る。千雨はそのまま教室の後ろで再度丸くなるとそのままクラスメイトと同様に授業を聞き始めたのであった。
『やべぇ…恥ずかしかった…』
『あはは、ドンマイです。私も窓から現れた時はびっくりしましたよ』
『バレてないから問題ないけど…やっぱりこの姿は見られたくないな…』
教室の後ろで念話を駆使し会話する千雨。
話し相手はつい最近出会ったばかりのクラスメイト、相坂さよ。幽霊である彼女は千雨と一緒に教室の後ろで授業を聞きながらお喋りしていた。
さよは念話を使うことが出来ないが、喋った所で誰もさよを見る事が出来ない為に声が千雨以外に聞こえる事がない。なので二人は教室の後ろと言う人の目に付く所であるが、安心してお喋りする事が出来る訳である。
『しかしどうですか久しぶりの授業は。理解できます? 私はもうバッチリです!』
『そりゃ60年も授業を受けてるのだから当たり前だろ…。ってか私はもう学校生活送ることはないから関係ないし…』
『ご、ごめんなさい千雨さん! 配慮のない会話を…』
『あぁ、大丈夫だよ。ある程度吹っ切れたし。しかし綾瀬の発言には驚いた…』
途端、教室に誰かが落としたペンの音が響く。しかしながら授業中も騒がしいこのクラスでは直ぐにかき消され誰も気にする事はない。
『そう言えば千雨さんの隣の席が綾瀬さんでしたね。2人はお友達なのですか?』
『綾瀬とは隣同士だったけど殆ど喋らなかったな。私も綾瀬もそこまで喋るタイプじゃないし。でも…もしかしたら仲良くなれたのかも』
『なんて言ったんです?』
今度は机におもいっきり頭をぶつける音。しかしこの音も直ぐにかき消された。
『いや…私はこの麻帆良の非常識が嫌いだったんだよ。周りはそれを自覚してないのが一番苦痛でさ、それで人付き合いも少なかったんだ』
『そんな事が…』
『だけどさ、綾瀬の奴はこれを「麻帆良」だからと割り切ってたんだ。非常識と認知しておきながら麻帆良だから常識。つまり常識と非常識という区別自体は付いてた訳だ。それに感激を受けてな、こんな身近に似たような考えを持った奴が居るって』
『なるほど。そう言う事でしたか』
『と言っても自分がこの非常識に割り切れるかは別だったけどな。それに今じゃこんな非常識の代名詞な姿になっちゃった訳だし』
そう言って千雨は目の前の、自分の座る場所であった一つの席をじっと見つめる。誰も座らない、千雨が座るはずだった席。その様子をさよは気の毒そうに見ていた。
『せっかく割り切ったのだから、もう一度チャンスは欲しいな…』
『千雨さん…』
教室の窓から流れる風が一人と一匹の間を吹き抜ける。後悔と叶わぬ願いに千雨は一人思い耽るのであった。
ここで相坂さよの話をしよう。
彼女は何十年も話せる人が居なかった。それは自分が幽霊であり、認知する人が居なかったから。なので初めて自分が見える人である千雨と出会った時は喜びで胸が一杯であったのである。
しかしここで着眼点を変えてみよう。
「彼女が見えていても関わるのが面倒くさい」
そんな理由で何年も見えないフリを貫いた人が居る。同じ人外であるからだろう。彼女は何年も前からさよが見えていたのである。
話を戻すが教室の後ろでさよと千雨は二人で喋っていた。
千雨は念話。さよは千雨以外聞こえないと思い、そのまま千雨に話す。しかしさよの話した内容だけは、その彼女も聞き取れるのである。
2人の会話の度にペンを落とし、机に頭をぶつける彼女。会話の一つ一つが彼女にとって衝撃の真実であり、複雑な感情を生み出し、顔を真っ赤にさせる。
千雨の飼い主であり、主人でもある真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
彼女はさよの発言を盗み聞き、一人ワナワナと震えながら禍々しいオーラを放つのであった。
エヴァンジェリン家の、修羅場は近い。
活動報告でも書きましたが第1話に挿絵がつきました。是非もう一度読み返してみてください!
今回はオオカミ状態での千雨とクラスメイトの顔合わせ回。「犯す」はミスを犯すの事でした。
TFの醍醐味はこの後の身バレだよね…。シーケンスも良いけど身バレも好きな作者です。
エヴァにゃん可哀想…まさかクラスメイトとあんな事やこんな事。つまりエヴァのベットの横で目を覚ました千雨って…あっ(察し)
今月のUQのラストに千雨が登場し、どうやら次回は千雨回になりそうな別マガ。内容次第では作者に多大なるダメージが降り掛かるのでモチベに影響しないか不安…どうなる事やらです。
感想、評価宜しくお願いします。