※この作品はR-18です。

千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話 【完結】   作:ミキマル

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最終回です。


千雨は再び非日常を手に入れ、超は千雨に想いを託す話

 出産後は改めて振り返ると、今までとはまた別に波乱万丈な3ヶ月であったと千雨は一人物思いにふける。

 

 6月の頭に千と雨という二人の子供に恵まれた千雨であるが、出産時にエヴァと彼女の二人で取り決めた通りに出産後は物事を進めて行った。

 まず千雨ら三人、いや三匹は子供二匹が親離れする年まで狼としてダイオラマ魔法球の中で過ごす。それは幼少期におけるアイデンティティ形成の為。

 千雨たちは今後どのような環境に放り込まれようとも『狼』であることは変わりないのだ。

 野を駆け、山を走り、野生動物、正確に表すならば箱庭の中で野生化した動物だがそれらを狩って生活するごく自然な動物としての生活。

 最初は懸命に乳に縋っていた子供たちも次第に大きくなり肉を喰らい付くようになる。群れが存在しない以上、千雨一人が狼の本能に沿って子供らに教えなくてはならない。これはエヴァら第三者がどうすることも出来ない事であった。

 そうして時が流れ、やがて親離れの時期がやって来る。ここで千雨は一つの篩いにかけた。

 それは野生の狼として生き続けるのか、それとも人間社会に紛れて生活するのか。このまま親の元を離れたら狼としてだけの生き方を否定するつもりはない。これが一つの分岐点。

 その問に関しての子供たちの答え、それは千雨に付いていく、人に紛れて生活すると言う選択肢であった。出産して二ヶ月、現実に換算するとたった3日後の出来事である。

 

 ここからは人として紛れて生活するための特訓、教育が始まる。狼の生後二ヶ月は人で言う3歳、この年から『人間』に付いて学ばなくてはならなかった。

 人に擬態する事を覚え、人との常識、言語などを覚える。麻帆良の街は魔を抑する結界が張ってあるため人前で狼の姿に戻ることはまずないが、気を緩めると耳と尻尾が出てくるかも知れない。子供たちには口酸っぱく人前では本性を表さない様に注意しなくてはならなかった。

 また『人』としての子育てにはエヴァやさよ達も参戦する。

 当初さよが子育てする予定は全く考えてなかったがエヴァが登校地獄で学校に必ず登校しなくてはならず、また茶々丸も家を空けてしまう為、四六時中暇なさよに白羽の矢が立ったのである。

 エヴァは教室でゆらゆらと一人寂しそうに漂ってるさよに声を掛け、新たに認知して貰える人物に出会えた喜びに嬉しさのあまり飛び掛かる彼女を軽やかに避けながら魔法球に無数に保存してあったエヴァの自動人形に憑依させる。

 そうする事によって、さよは浮遊霊から家政婦と言う新しい称号を手に入れたのであった。

 こうして千雨とさよ、時々エヴァと茶々丸の四人による育児、子育てが現実と魔法球の両方で行われる。

 人に化けるのはよいが立ち上がるという概念がなく両手両足を地に付け、城の中を駆け回る子供らに頭を悩ませたり、狼としての言葉、要はテレパシーの類を使用せずそれらの言語を日本語として説明し覚えさせたりなどなど、普通の子育てより一癖二癖も手に掛かる子供達に頭を悩ませながらもエヴァらの手を借り、何とか人の世に紛れて生活出来るレベル、幼稚園保育園に通える所まで育て上げる事が出来たのだ。

 ここまで現実で言うと三ヶ月。しかし千雨らは数年の歳月が過ぎてるのであった。

 

 子育てに奮闘する千雨であったが彼女の仕事はそれだけではなかった。

 彼女は育児の合間合間を縫ってエヴァの従者として魔法などを習い始めた。

 そう、千雨はエヴァ家に従者、そしてペットとして家族に迎えられたのである。首元のチョーカーはペットの証。手綱を握るエヴァに繋がった首輪である。

 何故千雨がエヴァの庇護下に迎えられたのか。それは関東魔法協会、関西呪術連合との交渉に大きく出る為である。

 千雨が狼に襲われた大きな原因、それは関西、関東の管理不足による責任なのは間違いない。千雨の特異体質と言うイレギュラーがあったとしてもだ。

 もしあの時千雨が襲われそのまま死ぬ、もしくはあの狼の眷属、つがいに成り果てていたならばそのまま隠蔽して終わりであったが今の千雨は神狼の類に昇格しており容易に無視できる存在ではない。

 ここで千雨がこっそりと人に化け麻帆良に社会復帰した所で見破られるのは時間の問題であり、社会的地位のない彼女は彼らの善意であろうがホイホイと関東の首輪付きの犬に成り果てるのは目に見える。

 彼らは被害者である千雨に悪いようにはしないだろう。しかし千雨は自分の事に付いて他人に主導権を握られるのは癪に障るのであった。

 そうなる前に関東の中でも独立し、ある程度力のあるエヴァの加護に入ることで関東、関西と同じテーブルに対等に並び今後の事で交渉することが出来るのだ。

 

 結果的に千雨は社会復帰が約束された。

 千雨は表向き海外留学なのは変わりない。しかしそれとは別に行方不明であったと知る魔法先生、生徒には別の説明がなされた。それは一つのカバーストーリー。

「魔法使いの犯罪者組織に攫われていた所を救出された」という安い話。

 しかしこの説明でなぜ千雨がエヴァと一緒に生活しているか、なぜ魔法を知っているのか、なぜ二人の子供たちが同居してるのかなど、それらを第三者が容易に想像させる事が出来るのだ。

 なんせあの20年前の大戦の黒幕である秘密結社も最近活動を活発化させている。これにより彼女が根掘り葉掘り追求される可能性が格段に下がったのであった。

 こうして千雨は「魔法の事を知っている一般人」と言う称号を手に入れ、関東の下に付くことなく今までどおり平和で退屈な生活が保証されたのである。

 では千雨が神狼と知るのは誰であるか、それは交渉の場に居た学園長とタカミチ、あとは関西トップである近衛詠春の三人。

 この件はMMには報告していない。あの組織に知れ渡った所で不幸になるのは組織のトップである彼ら以外にも千雨自身に魔の手が伸びる可能性は否めない。魔法先生に千雨の事を説明しないのはメガロからの魔法使いも在籍する為であった。

 決して悪人ではないが組織の上に立つ人物達。

 なので千雨との交渉も遅れを取らせては行けない。しかしながら前提として教え子であり、子を守る大人なのも間違いないのだ。

 なので学園側からとしての要望はとても簡単な物であり一般人に手を出さない事、自分たち学園と敵対しない事、そして出来ることならエヴァを支えてあげて欲しいと言う必要最低限の取り決め。首元のチョーカーはエヴァの管理下の証。これを見せることによって手綱を握られている証明には十分である。

 また別に、何かあったら龍宮同等に交渉と言う形で千雨を何かしらの依頼するという話も決まったのであった。

 

 そして最後の大仕事、それは神社の遷宮。

 三峰神社の一角に存在する千雨の神社は人も神も存在しない亡骸。土地神の任は千雨には負っておらず、纏めるべきオオカミ達は絶滅。狩猟文化から農耕文化に移ったご時世、神様は狼よりお狐様である。

 今の千雨は神を名乗る資格は持っているが信仰が貰えず三峰神社のお零れを貰うのみであった。

 そこで例の狼を祀っていた神社を龍宮神社の一角に遷宮し千雨を祀神として祀り直す算段である。

 結界が解かれている今、神社を放っておけばそのうち神力が廃れるのみ。ならば人に祀られる場所に移転し、新しくリニューアルすれば良いと言うとても単純な話。

 関西としては神の類をこのまま廃らせるのは色々問題である為、正式に関西、関東、エヴァら、時々超が顔を出し三者の極秘裏に行われる。

 こうして千雨を祀る神社が麻帆良の地に立ち、御神体として髪の毛の束を奉納。龍宮神社の一角に新しく千雨を祀神とした神社が完成したのであった。

 ちなみに超はこれを機に神社ビジネスを始め『理系に強い!』『有名人になれる!』など千雨のハッカーとしての技量やネットアイドルなどと掛けたご利益を謳い、お守りや御札が作られ、夢追う学生を中心に千雨の神社は知名度を上げる。

 信仰対象が増えるのもあって千雨は何も言わなかったが恋愛願望や男性関連などはあまり願ってほしくないと思う彼女であった。

 

 

 

 学生鞄を両手で持ち、横開きの扉に寄り掛かる。

 今は1限前の朝礼の時間帯、夏休みが明けて初めての学校。

 扉を隔てた先の2−Aの教室では個性豊かなクラスメイト達が夏休み明けである為か、普段より増して和気藹々とお喋りする声が聴こえてくる。そこに静かにするよう呼び掛けるタカミチ先生と委員長の声。

 千雨は新しく新調した伊達眼鏡を掛け直すと大きく深呼吸。そして両手を頭の上に置くとそのままお尻の方も触って今一度再確認する。

 尻尾や耳が出てたら一大事。

 恐らく一般生徒には麻帆良特有の変なファッション、それこそ仮装やコスプレと言うお気楽な理由で済まされるだろうが龍宮や桜咲などの魔法生徒に知られるのはマズい。なんせ彼女らは一度は拳を交えた者同士である。気まずいったらありゃしない。

 千雨の事情を知ってるのは協会側では学園長とタカミチ先生しかおらず、バレるのは彼女の精神を考えると得策ではないのであった。

 ちゃんと耳と尻尾が隠れてるのを確認しホッと一息。そのまま安堵の表情で顔を上げると目の前には廊下の窓ガラスに彼女自身の顔が映し出された。

 そこには何処か垢抜けた、大人の顔になった千雨。

 ダイオラマに居た際の歳月のせいなのか、はたまた経産婦で二児の母である為か、体格にあまり変化がなくとも中学1年生の頃と比べると何処か大人っぽい雰囲気を醸し出されており、例えるならまるで同級生の那波のヤツみたいに老けた感じだと自虐的に頬が緩んだ。

 途端に後ろの教室の壁越しから強烈な怒りのオーラ放出され、千雨の背中越しから威圧する。

 

「ち、ちづ姉が阿修羅の様な笑顔に!」

「夏美、大丈夫よ……」

 

 冷や汗をかきながら唾を飲み込む千雨。

 思えばうちの子ら、千と雨を彼女が保母のボランティアをする保育園に預ける際にもちゃんと事情を説明する様に無言のプレッシャーを放っていた事を思い出す。

 一般人向けのカバーストーリーは魔法使い達とまた別に用意していたが、那波から醸し出された空気を考えると何処か嘘を付いてると感潜られているかも知れない。

 そう思うとやはり末恐ろしい彼女である。スキがないとはこう言う事を言うのだろう。思わずハンカチを取り出し、冷や汗を拭う千雨。

 そうしてるうちに連絡を終えたタカミチ先生が教壇に出席簿を置き手を叩くと、大事なお知らせがあるとクラスメイトに話を切り出した。

 

「それから一つ、二年生になって海外留学していた長谷川千雨君が帰ってきました。千雨君、入って来なさい」

 

 千雨は「はい」と言うと扉に手を掛ける。

 その先ではさよを除くクラスメイト29人の顔が一斉に伊達眼鏡を通して彼女の方に向けられた。一瞬ヒヤッとしながらも彼女は教卓の前に立ち、数ヶ月振りの面子に帰省の報告と言う名のカバーストーリーと久々のご挨拶を述べる。

 中にはエヴァみたいに終始ニヤニヤした顔の奴がいたり、超みたいにニコニコ笑顔を浮かべていたり、窓越しからさよがふわふわと浮きながらこっそりと覗き込んでいたりしていたが、珍しく2-Aのクラスメイト全員が静かに千雨の話を聞いていたのであった。

 はて、一体どうしたのだろうか? このクラスの面子にしては珍しい。

 そんな事を思いながら話を終えると一年生の時と同じ、教室の一番後ろの席に座り隣の席の綾瀬に軽く会釈。綾瀬は小さな声で「お久しぶりです」と返すとそのまま教壇に居るタカミチ先生が朝礼を終わらせた。

 

 席を立ち、委員長の礼という号令で皆が一礼。

 なんだかよく分からない感情が渦巻く。

 クラスメイト皆、自分の事に微塵も興味ないのだろうか。あんなうるさいクラスメイト達が異様に静かにまるで業務連絡を受けた様に淡々と話を流された気分。

 確かに人付き合いは悪かったと思うが、此の様に誰も興味を示さないと思うと心に来るものがある。

 そんな事を考えながら頭を下げる。

 やはり戻ってくるべきじゃなかった、やり直そうと思わなきゃよかった…大人しく魔法球の中で引きこもり野生生活でもしておくべきだった……自分は…。千雨の心に曇りが。

 そして頭を上げた千雨。

 すると目の前にはクラスメイトが皆笑顔で手元を隠し千雨の方を向いていた。

 そのまま手に持ったパーティークラッカーを引くと一斉に紙吹雪が舞う。そしてクラスメイト一同が一斉に口を揃えてこう言ったのだ。

 

「「「千雨ちゃん、お帰りなさい!!!」」」

 

 あぁ、これでまた、賑やかなクラスメイトに囲まれながら退屈で非日常な日常が始まる。

 

 こうして彼女は人外と言う身に堕ちながらも『長谷川千雨』として沢山の祝福を受け、再び社会復帰いや人間社会に復帰したのであった。

 

 

 

「あのパーティーを企画したのは那波と委員長だ。意外だっただろ」

『いつも通りうるさくなるとは思ってたが祝賀会は予想外だったな。一体何があったんだ?』

「ほら、お前が子供達を預ける際に海外の親戚の子って嘘を話しただろ。

 その話を小耳に挟んだ美空のヤツが魔法生徒に説明した『犯罪者に襲われた』って部分と結びつけ、一人納得していた所を那波達に詰め寄られ魔法の部分を隠して勝手な解釈を説明した訳だ」

『あー、つまり私が海外で大変な苦労を追ったので励まそうって感じ…ってか美空って魔法使いなのか!?』

「そうだぞ、知らなかったのか。まぁ今から分かるんだがな」

『今から分かるって……もう一つツッコんでも良いか…?』

「いいぞ」

『なんで私が真夜中の麻帆良で狼姿に戻ってエヴァを乗せなきゃいけねーんだ!!!』

 

 真夜中の麻帆良。雲に隠れた満月が時々顔を覗かせる。

 そこには金髪碧眼の幼い少女を背中に乗せた大きな銀狼が世界樹の麓にある広場まで風を切りながら走っていた。

 幼い少女、エヴァは黒いマントに身を包み手綱の代わりに狼に繋がれたリードを握る。

 そのリードに繋がれた銀狼、千雨は建物の屋根を渡り歩きながらエヴァを振り落とさない様に夜の闇の中をぐんぐんと先へ進んで言った。

 

「何言ってんだ。お前は千雨じゃなくて私のペットである『ちう』だろ。これならジジイ達との約束は破ってないから一緒に夜の警備に参加出来る」

 

 そう言いながら懐から一枚のカードを取り出し見せつけるエヴァ。

 それは仮契約の証、パクティオーカード。そこには後ろ向き佇む凛々しい表情の獣人の姿が。そして下の方には『長谷川千雨』の文字。

 

『そのカード、人前で出すのはマジで辞めろよ。殆ど服着てねーじゃないか』

「大丈夫、モフモフの体毛に隠れて見えないし千雨の事は秘密だからな」

 

 仮契約のカードには出産時に姿をとった獣人の姿。

 銀色の体毛に足先や手に巻き付く包帯みたいな衣装。長いマズルと立て耳がピンと張っており、後ろ向きで振返っている姿勢であるが為大きな尻尾が目に付く。

 そして太ももにはホルダーが巻き付いており、そこには何故か魔法少女が使うステッキが納められているのであった。

 胸と局部はさらしの様に巻き付いた包帯がちゃんと大事な部分を隠しているが殆ど裸に近い姿であり、体毛に隠れる隠れていない関係なく、人型に近いため何度も見るたびに羞恥心に蝕まれる。

 狼の姿では裸であってもなんら問題ないが獣人の姿は一応服を着るべきであると言う千雨の常識であった。

 

『そう言えば七部衆はどうした?』

「お前の子供達の遊び相手じゃないか。逃げ惑うネズミを追いかけるのは狼にとって健全な遊びだろ、元気一杯な雨のヤツが目に浮かぶ」

『千はパソコンに興味持ってたからな…そう考えるとアイツらは教育玩具に最適かも知れない…』

 

 何処からか「ちう様ー、ぼくたちはおもちゃじゃありませんよー」と嘆きの声が聞こえる気がするが無視して足を進める。

 千雨のアーティファクト、力の王笏には七匹のネズミ型上位電子精霊がセットで付いており、カードに納めてる状態でも普段は常にフワフワと千雨の周りで待機しているが、千と雨が保育園など千雨が見えない所で人間社会に紛れて生活を初めてからはもっぱら子供達の遊び道具兼監視役に徹してるのであった。

 そうこうしてるうちに女子寮を屋根を走り抜け、石畳に着地。そのまま誰も居ない筈の桜通りを駆け抜ける。しかしそこで千雨達は寮と反対方向に向かって大きな段ボールを抱えて歩く、普段から見慣れた白衣姿の少女とすれ違った。

 

「おい超。どうしたんだ?」

「エヴァさん、丁度良い時に来たヨ。ちょっとこの荷物を運ぶのを手伝って欲しいんだガ…千雨サン、手伝ってくれないかネ?」

『そんなこと言われてもな。エヴァが……』

「…いいぞ千雨。終わったら世界樹の広場まで来るんだ」

 

 そう言ってエヴァは一人広場に向かって夜の闇の中に消えて行く。

 残されたのは一人の少女と一匹の狼。千雨は空中でくるっと一回転すると麻帆良の制服に身を包んだケモミミ尻尾の標準的な人の姿に戻った。

 

「あれ? 元の姿に戻るのかネ?」

「狼のままじゃ荷物持てねーだろ。ほら全部寄越せ」

 

 ぶっきらぼうに伝え、超の代わりに荷物を持つ千雨。そのまま二人は超の研究室がある麻帆良大学へ向かう。

 荷物を運ぶだけの簡単なお仕事。大学構内ではバレない様にちゃんと耳と尻尾を収めて荷物を研究室まで運び終える。そして二人は大学の隣にある小さな公園に赴くと超がお礼に自販機から温かい飲み物を手渡した。

 

 ベンチで横並びに座る二人に沈黙が流れる。

 聞こえるのは秋の夜風の音色のみ。残暑厳しい季節でありながら今日は比較的気温が低く、冷たい風が身を掠めて行った。

 思えば出産後のゴタゴタで超と二人っきりになったのは今日が久しい。もしかしたらエヴァは千雨に気を使って超と二人きりにさせたのかも知れないと千雨は考える。

 彼女は出産時から気になっていたあの話を切り出した。

 

「超、単刀直入に聞く。お前は何者だ?」

「…それは一体どういう事ネ?」

「私が出産の時に噛み付いただろ、あの時私はお前の血を舐めた」

「あの時はごめんネ。悪ふざけが過ぎたヨ」

「…その血には超、お前の私に関する記憶と私自身の血が混ざっていた」

「……!?」

「これは一体どういうことだ…?」

 

 

 空に浮かぶ満月が雲の裂け目から顔を出すとそのまま月明かりが二人を照らす。

 そこには予想外の出来事で驚きに満ち満ちた超と、冷静に事のあらましに付いて説明を求める千雨の真剣な表情が。

 二人の間には暫くの沈黙。そして超が切り出した。

 

「私が何者なのか、ネタばらしにはまだ早いネ」

「早いって何がだ! 超鈴音、ちゃんと説明しろ!」

「何故なら千雨サンはまだ知らない…」

 

 立ち上がり声を荒立てる千雨。

 この場に及んでシラを切ろうとする超に怒りが沸き、尻尾と耳が逆毛立つ。すると超も立ち上がりそのまま千雨に近づくと耳元に口を近づけこう言った。

 

「ごめんなさいネ、千雨お母様」

 

 そのまま超は千雨の横を通り過ぎる。

 彼女の衝撃的な言葉に暫く固まっていた千雨であるが言葉の意を理解すると超の方へ咄嗟に振り向いた。

 月明かりを遮る雲は流れ満月が顔を出し、二人の場所を幻想的な空間へ眩く染め上げる。

 その満月をバックに立つ超。

 しかし彼女のシルエットは千雨が知る彼女の姿ではない。

 頭の上の耳、そして尻尾。人間にはある筈のない二つのシルエット。

 千雨と同じ姿。強いて言えば毛の色が赤みにくすんだ銀色をしているぐらいの違いであろう。それらが満月をバックに照らし出されている。

 

「超…お前まさか……」

「フフフ、まだ答えは秘密ネ。何故なら千雨サンの物語はまだまだ始まったばかりだから」

 

 人差し指を口に付け、白衣をはためかせながら超は語る。

 

「千雨サン達2-Aはこれから波瀾万丈な人生を歩む事になるヨ。でもこの言葉だけは忘れないで欲しい」

《わずかな勇気が本当の魔法》

「どっかの誰かサンの受け売りだがこの世界の大事な言葉…」

 

 そして超は再び歩き出し千雨の横を通り過ぎるとベンチに置いていた飲み物を手に取り立ち止まった。

 満月は再び雲に隠れ、公園は夜の闇に包まれる。

 超の後ろ姿には先程の耳と尻尾は付いておらず、白衣の真っ白な背中のみ。

 

「その言葉は後にはこう続くヨ」

《少年少女よ大志を抱け その一歩が世界を変える》

「私も大志を抱いてこの地にやって来タ。だから千雨サン…」

 

 そして超は千雨の方を振り向くと最後に笑顔でこう言った。

 

 

 

「ちゃんと世界を救って、新しい幸せに見つけるのネ───!」

 

 

 

 超の言葉は何処か先の、千雨の未来を祝する言葉であった。

 

 

 

 

 




 これにて「千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話」は一応完結となります。

 しかしながら子どもたちの話や原作イベント、はたまたエッチな話などまだまだ書き足りない所も多く、今後は不定期ながらも一話読み切りの短編という形で投稿出来たら良いなと考えております。

 ここまでご覧頂き、ありがとうございました!
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