ドワーフを受け入れの為の準備を彼らの集落で行いながら、聖耶は悩んでいた。
ドワーフを全員受け入れてしまうと、鉱山から人手がいなくなる。そうなると鉱業の手が止まる。
鉱業は、出来れば続けておきたい技術であるので、ドワーフたちに幾人かは残って貰いたい。
が、彼らがそこに残ると言うことは人間対策の為の戦力も必要となるのだが、そこまで集落の庇護範囲を広げる程、聖耶たちに戦力的余裕はない。
街道を整備し、馬車を走らせるようになればその問題もある程度は緩和するのだろうが。
ドワーフの集落まではおおよそ35km前後ある。
街道が整備され、馬車なりを走らせれば四日かかった道のりも半減以上出来るだろう。
が、街道整備なんてものはかなりの大事業だ。まして聖耶たちは獣道かの如く道を歩み進んだのだから。
その大事業に裂かれる手間を考えると……と思っていたが、聖耶は目の前の現象に最早、その思考を銀河の彼方に飛ばしていた。
そう、まるでモーゼの海割りの如く木々がざぁ、と開け生い茂っていた草も道を譲るかの如くもぞもぞと動いていく。
正直言って気持ち悪い光景なのだが、何故こうなったのか、と言うと。
原因は聖耶にあった。
彼は、大地とか制御出来るんなら木々も退けて道作れるんじゃね!? と思い立ってしまったのだ。
結果としてはドンピシャ。出来ると思っていなかった聖耶もびっくりである。
「……物質生成設置ウィンドウ。オープン」
嫌な予感がしつつ、彼は物質生成の為のウィンドウを開く。
そこには彼の予感通りのものがあった。『街道』オブジェクトである。
「OH……チート過ぎる……」
この手のものを全部聖耶がやってしまうと、後々に非常に困ることになる。
公共事業の生み出す雇用効果と言うのは非常に大きいのだ。
だが、今そんなものをどうのこうの言ってられる地盤すらない。よって早々に設置してしまう。
こうしてドワーフの集落と聖耶の村は街道で繋がったのである。
獣避けと言う名のガードレールを設置することも忘れない。
「12時間後に出立すること伝えといてー」
「相変わらず無茶苦茶な魔法だな、使徒殿」
フィルとゴンは、彼の魔法を幾度と無く目にしているので驚くこともなかった。
リンとボルトスは初めて目にするものなのだが……。
「がっはっはっは!! 使徒殿はやることが豪快だな!! 俺ぁ気にいったぜ」
ドワーフのおっさんは気にもしてなかった。
リンの方は言葉も出ない様子で街道の方をまじまじと眺めていたが。
「あ、そうだ……ボルトスさん」
「おう!! なんだ、使徒殿!!」
「相談が……」
「いいぜ、使徒殿!! 立ち話もなんだから家に案内してやるぜ!!」
豪快に笑いながら、その樽の如きむきむきな腕でばしばし叩くのはドワーフのボルトス。
痛いのだが、あえて口に出さずに彼は家に招待されることとなった。
「確かにそうだなぁ」
ボルトスに、全員連れていくと鉱業が出来ないことと、鉱業を続けて欲しいことを伝えた聖耶。
それに頷きながらボルトスは腕組みしたまま、神妙そうに悩む。
豪快なおっさんであるが、このあたりは流石に長と言った所か。
「幸い俺らの集落は一番でけぇ集落だから半々に分けても問題はねぇな……」
「そうなんですか?」
「ああ、ヤパーテの長のリン殿がいるのもそういうことだ。俺らドワーフで106人でリン殿のヤパーテ氏族が84人だ。半々にちょうど分けれるし分けても問題はねぇだろう。使徒殿の精霊契約もこのへんにゃ及んでるしな」
「なるほど……ですが、街道が整備されても徒歩だと問題ですよね」
「フェルプールのメギ氏族に助けを求めるしかねぇな。連中は馬も育ててたはずだ」
「じゃあ、フェルプールも受け入れてから話を進めましょうか」
「おう。んじゃこっちは居残り組と出立組と分けてくるぜ」
ボルトスが頷き、その短い足を忙しなく動かしながら出立の準備をしてる人たちの所に向かった。
リンもその様子を見やり、わらわもその旨を伝えてくる、とだけ残し立ち去る。
その様子を見送っていると、フィルがくい、と聖耶の裾を引っ張る。
「どうかした?」
怪訝そうに、フィルを聖耶が見やれば、彼女は何も言わず聖耶の膝上にちょこん、と乗っかりそのままもたれかかってくる。
どうしようか一瞬悩んだが、好きにさせてやればいいか、と聖耶は思い、そっとその蒼い髪を撫ぜた。
「俺ぁこっちに残ることにした。俺が指揮した方が効率がいいからな。代わりに使徒殿の所にやるのはこいつらだ。ドワーフについてなんかあったらこいつらを頼ってくれぃ」
ボルトスが連れてきたのは、可愛らしいドワーフの娘――余談だが、彼女たちは、ノームと違い正真正銘のロリである。
幼い容貌に、その胸は生育途中なのか、つるぺたとか絶壁、と言うほどではないが、普通、と言うほどもなかった。
赤い髪を肩ほどで切っており、肌はプールや海で日焼けした程度の小麦色なのもあり、どこか快活さを思わせる。
「ルトは、ルトなのですよー。宜しくなのですよー、セイヤ様ー」
独特すぎる口調であった。なのです口調って狙いすぎだろ常識的に考えて。
顔芸だけは絶技の域に入っている聖耶は決して口にも顔にも出さずに普通に受け答えをした。
そして、もう一人。ボルトスよりはむきむきではなく、そのヒゲもボルトスのようにもじゃもっさりしたものではない。
だが、そのヒゲを見た瞬間、聖耶の背後に稲妻が走った。
「か……カイゼル髭……!!」
皆さんもご承知であろう。鼻の下の髭が曲線を描くあの独特の髭だ。
その呟きを聞いてたのかカイゼル髭のドワーフが頷く。
「我輩はカイゼルである。宜しく頼むぞ、使徒殿」
キャラが濃い!! やはり聖耶はそう思ったが顔にも口にも出さなかった。
名前もそのまんま過ぎるのだが、聖耶は衝撃のカイゼル髭を見て、その独特な口調のせいで全く気にしてなかった。
「カイゼルの奴ぁ、俺らん中じゃあ一番頭が回る。使徒殿の作りたい"カガクギジュツ"って奴もどうにかしてくれると思うぜ」
「ふひょひょひょひょ……まだ見ぬ知識が我輩を呼んでいるのであ~る……」
大丈夫なのか、こいつと言う不安しか覚えなかった聖耶。
隣のフィルとゴンを見やると、やはり同じだったのかどこか不安げにしている。
「ヤパーテからはわらわ達が行くこととなっておる。残す連中はボルトス殿に預けるからの。好きに使ってやってよいぞ」
「あんたらにゃ世話になりまくってるからな。その力を使徒殿の為に役立ててくれよリン殿」
「あいわかった」
そんな会話を眺めていると、フィルが聖耶の腕に抱きついてくる。
なんだ、と思いながらフィルを見下ろすと、彼女の視線はルトとリンに向いていた。
はて、なんでそんなに警戒しているのか、と聖耶は疑問しか覚えなかった。
聖耶は、フィルとカリンに思われてることを自覚はしているものの、朴念仁であった。
直接的に告げられれば解るのだが、エルフィが好意的に見ていることを知らない。
フィルが一度、そのことを告げたのだが、それはフィルの勘違いであろう、と後ほどに切って捨てたのだ。
そして、フィルは聖耶が女を何故か次々と釣り上げてくることを知っていた。
何故か、聖耶は美少女や美女を惹きつける。その手のフェロモンでも放っているかの如く。
顔は確かにそこそこであるが世の中のイケメンには勝てないし、言動や信念、心に強い何かがある訳でもない。
所謂、ニコポ、ナデポの如き特殊な何かを身につけているかの如く惹きつけるのだ。
「じゃあ行きましょうか」
「おう、使徒殿。次会う時にはなんか持ってきてくれよな」
「酒とかがいいですか?」
聖耶の中ではドワーフは大酒飲みの酒豪のイメージがある。
大体の創作物では、そのように扱われている為だ。
「酒も嬉しいが、使徒殿の言う"カガクギジュツ"の機械が一番の土産になるな!」
が、この世界では大酒飲みではあるが、それ以上に芸術家であり職人であり研究者であるようだった。
それに、はい、今度は持ってきますね、と聖耶は頷きを返しながら氏族を連れて出立するのであった。
最強の精霊魔法の使い手。ノーム最強の戦士。古代魔法の使い手複数に、ドワーフ装備が加わり最強に見える。
が、実際それらが生かされることはなかった。ガードレールが半端なかったのだ。
ゴブリンがキィキィ言いつつ粗末な剣でガードレールをごんごん殴る姿が見えたが、切れたり折れたりするどころか傷すらつかなかった。
一体何の金属で出来ているんだ、これと思ったが、その疑問はルトが解決してくれた。
「金剛神鉄なのですよー」
なんだ、それ、と聞き返すと東のほうではヒヒイロカネと呼ばれ、人間たちにはオリハルコンと呼ばれているものと言うことを聞き出した。
世界最強のガードレールの降臨である。オリハルコンの無駄遣いだ。
こんな所に使うぐらいなら城壁の表面にでも貼り付けてやろうか、とも思い立ったぐらいである。
が、この世界のオリハルコンはあまり凄くなかった。
物理的強度で言えば世界最強を誇るのだが、魔力との親和性が高すぎるせいで魔法・魔術を吸収するのだ。
あらゆる魔法を吸収する……とここまで聞けば物魔最強の金属に聞こえる。
が、吸収した魔力が霧散しきる前に魔法・魔術を撃ち続けると、許容量をオーバーして罅割れて破砕すると言う性質を持つ。
こうしたガードレールに使ったり、魔物との個人戦闘で使う分には許容量を上回るほどの攻撃を受けることはあまり多くないが、戦争ともなると話は変わってくる。
数度、攻撃を加えればそれがオリハルコンであることは解るのだから、一点に目掛けて魔法・魔術を集中すれば砕くのは容易なのだ。
なお、魔物との戦いでも知性が人間並みにある魔物ともなるとそのような戦法も取ってくる。
「物魔最強の金属なんてのはないか……」
「あるのですよー」
あるらしい。話を聞くとグリム神鋼と呼ばれる伝説の鋼らしく、あらゆる金属よりも硬く、あらゆる魔力を受け付けない最強の金属だ。
かつてはドワーフが持っていたエウシュリミッツなる剣に使われていたが、今現在は人間に奪われ神殿に神剣として奉られているそうだ。
が、この金属も欠点がある。それはあらゆる魔力を受け付けない、と言う点だ。
これは、魔力で構成されたもの全てを無に還すと言う性質なのだ。
つまり、攻撃であれ治癒であれ強化であれ弱体であれ、それが魔力で構成されたもの……魔法や魔術、それどころか魔力を瞬間的に爆破して行う技スキルですら無差別に無効化する。
物理・魔法共に強度のある装甲材なんて良いものはないのである。
ルトやリンたちと実のある話をしつつ、カイゼルに科学技術を問われながら進む一行を、どこか不満そうにフィルが見ていた。