「……うーむ……」
にょきにょき、と生育しつつある果実の樹を見つつ、聖耶は悩んでいた。
物質生成設置と言う能力はありとあらゆる能力の中でも特に優れた性能を持っているだろう。
だが、懸念事項と言う物は大量にある。
「どうなさいましたか、セイヤ様」
カリンが、主である聖耶の背に向けて語りかける。
このオートマタの存在意義は、聖耶の補助であり補佐することである。
主である聖耶の懸念事項の全てとまではいかないが、ある程度は解消する義務があった。
「俺って戦えるの?」
そう、聖耶の懸念事項はここにある。
一般的な小市民である聖耶は、剣道やら柔道やらの武術を嗜んだ記憶はない。
それに、実際の命のやり取りともなるとスポーツの延長線上にある程度の武術を学んだ所で使えるかもわからない。
そもそも、身体機能が隔絶していた場合はどうにもならないのないない尽くしである。
「では、そのあたりもご説明致します。まずはステータスウィンドウをオープンしてください」
先ほど、領土情報をオープンした時と同じ感覚で聖耶はウィンドウを開く。
そこにはこのように記述されていた。
名前 :セイヤ=ノグゥツィ
性別 :男性
年齢 :25
STR:13(E)
AGI:13(E)
VIT:13(E)
INT:100(B)
MND:5(F)
DEX:15(D)
MGC:255(EX)
「INTとMGCだけとんでもねえ!! っつーかステータス低っ!! 納得出来るけど!!」
「ついでに成人男性の平均は15(D)になります」
「平均以下多っ!! 納得出来るけど!!」
何故、平均以下のステータスが多いのか。
それは単純に野口 聖耶が現代日本に生きる現代人だからである。
トラクターやコンバインなど便利な道具もなく、己の身一つで開墾を行い、農業をするヴェルゲグリムの一般男性と比べて、各種身体能力が劣るのはごくごく普通である。
農業と言うのは重労働なのだ。それを行っているだけである程度は鍛えられてしまうものである。
むしろ、そう言った重労働や、鍛錬を行っていない聖耶がそれに匹敵しうる性能を有する方が変である。
MND……精神性が低いのは、単純に彼がヘタレだとかそういう意味ではない。こちらの世界の基準であるからだ。
平和で平穏な現代社会の日本で育った聖耶の精神性は哀しいほどに日本人である。
日本人の多くは豚や牛の屠殺作業などを行えはしないだろう。むしろ直視出来る人間も多くはないのではないか?
だが、こちらの世界では殺人なんて言うものは日常茶飯事である。殺さなければ殺されるなんて言う場面は多々ありすぎる。
殺人が忌避され、犯罪とされており、殺人はいけないものですよ、と言う教育を施されている日本人の聖耶にとってこの世界の精神性を求めることが出来ないのは普通だ。
「で、なんでINTとMGCだけ高いの?」
INT……知性が高いのは、やはりそれも現代日本で育った聖耶だからこそだ。
そもそも、ヴェルゲグリムの一般人は識字率は高くない。むしろ低いとも言える。
都市に住むものならば、ある程度の読み書きは出来るが、地方の村・集落ともなるとほぼ皆無と言える。
聖耶はこちらの文字……グリム語の読み書きは出来ないが、発した言葉・書いた文字が自動的にグリム語となり、話された言葉・見た文字が日本語に自動的に翻訳されるので、読み書きは"ある意味"出来るとも言える。
それでも、これほどに高くなるのはヴェルゲグリムにとっては異常であるが、これも現代日本人である聖耶ならば普通である。
算術……要するに算数のことだが、これらはヴェルゲグリムにとっては高度な教育に当たる。
足し算・引き算が出来るだけで破格の知性を誇るとも言える世界なのだ。むしろ掛け算割り算が存在しない。
それらを義務教育で終えた挙句、三流とは言え、高校・大学と進学している聖耶はこの世界においては賢者と呼べるレベルである。
故に異常に高いINTの数値となっているのだ。
MGC……魔力が高いのは単純に、聖耶がそういう魂の一欠けらから構成された為である。それ以上の理由はない。
「ついでに聞いておくけど255(EX)ってどのぐらい?」
「神位と呼ばれる魔獣の最上級で200(EX)が最大です。この世界としては200を超えることはグリム以外ありえませんし、人間や亜人では精々150(A)が最大でしょう」
「魔力だけは世界神に匹敵!! とにかく俺が戦えないってことは解った」
「はい。ですが、セイヤ様にも戦う手段はあります」
カリンの説明は続く。
曰く、ステータスポイントを得ることでステータスを伸ばすことが出来るらしい。
例えば、STRを鍛えるには筋力を鍛える運動を、AGIならばランニングや短距離走、VITはそれらの運動を行っていれば体力が増強されるわけなので勝手に増えるらしい。
そう言ったステータスに関連のある行動を行えばステータスポイントが得られ、そしてステータスが上昇するとのことだ。
が、聖耶にはさらなる例外があった。
「セイヤ様は鍛錬や勉強以外にもステータスを伸ばす方法があります」
「ほほう、その方法とは?」
「領土の発展と性行為です」
「前者はともかく、後者はただのエロゲーじゃねえか!!」
後者は突っ込み所しかなかった。
兎にも角にも、聖耶は領土を発展させることにより、知性と魔力以外に割り振ることが可能なステータスポイントを得られる。
また、性行為を行うことにより、やはり、知性や魔力以外のステータスポイントを得られ、さらに対象の持つ技術スキルを幾つか得られるそうだ。
何故、知性と魔力以外のステータスが得られるか、と言うと単純に魔力はステータスがカウントストップしているからである。
知性に関しては如何なる手段を用いても勉学以外では伸ばせない仕様らしい。
「スキルってなんぞ」
「ご説明しておりませんでしたね、申し訳ありません」
スキルとは、技術に関する習熟度を表すステータスである。
例えば剣を振るうものは剣術スキルを持つし、魔法を扱うものは魔法スキルを持つし、魔術を扱うものは魔術スキルを持つ。
こちらもステータスと同じでEX・A・B・C・D・E・Fの位階があり、基本的に最高はAまでとのことらしい。
なお、修練することによって位階を伸ばせるものと、伸ばせないものがあり、伸ばせるものを技術スキルと呼ぶ。
伸ばせないものは固有スキルと呼ばれ、固有スキルの位階はその能力がどれだけ強力か、あるいは希少であるかを示す。
「俺のスキルウィンドウオープン」
聖耶が命じると、聖耶のスキルウィンドウが表示される。
固有スキル:物質生成設置(EX)
固有スキル:不老(EX)
固有スキル:超再生能力(EX)
固有スキル:性魔法(EX)
固有スキル:全魔法(EX)
固有スキル:全魔術(EX)
固有スキル:能力・技術習熟速度アップ(A)
「物質生成設置と不老と超再生能力以外について教えてプリーズ」
「畏まりました。セイヤ様」
性魔法。単純にこれは性行為によってステータスを得られたり、相手のスキルを入手したりする魔法のことらしい。
ただ、他にも相手の快楽を増加させたり、魅了したりもできる。出来れば後者は使いたくないところである。
全魔法。これは現存する全ての魔法を使用することが出来るらしい。むしろ作ることすら可能とのことだ。
全魔術も同じように現存する全ての魔術が使用・創造が出来るらしい。
なお、この二つは単純に、物質生成設置の能力がそれらの能力を含んでいたから習得できているだけらしく、どのようなものが存在するかを理解してないのは、その為であるとか。
能力・技術習熟速度アップとは、そのままでステータスポイントや、技術スキルの成長速度があがるらしい。Aともなるとかなりの速度であがるとか。
「つまる所、俺は常人より育つのが異常に早いと」
「そういうことになります」
「魔法と魔術って何?」
「はい、ご説明致します」
この世界では、先に魔法が存在していたらしい。
そして、魔法を扱えるのは亜人だけだったそうだ。
エルフは、精霊魔法と呼ばれる魔法を用いる。
これは、よくある精霊と契約を交わすもの、ではなく、土地や自然と契約することにより、土地や自然に宿る魔力を用いて、時にはその土地や自然を制御して何らかの現象を発生させるものらしい。
その性質上、エルフは契約した土地に縛られ、それ以外の土地では弱体化が著しいとか。
ただし、契約した土地にいる限り、エルフはこの世界において最強の攻撃力と防御力を誇る。
次にドワーフの扱う冶金魔法である。
これらは、鉄鉱石から鉄を取り出したり、加熱して溶解させたりなど基本的に製鉄に関連する魔法だ。
ただし、冶金魔法ではないとろくな精錬も行えない金属も多種存在するようで、この世界においてもドワーフの鍛えた武具は一級品だ。
その他にも鉱脈をダウジングしたりするなどの金属に関連した魔法が多いようだ。
フェルプールが扱う魔法は獣化魔法と言う。
狼男のように二足歩行する半獣になる半獣化、完全な獣の姿と化す完全獣化などの奥義とも言える魔法がある。
その他の魔法は身体強化や五感などの感覚を強化する魔法などと基本的に戦闘能力を強化する魔法だ。
それ故にこの世界の獣人はやたらめったに強い戦闘民族である。
なお、この世界の獣人は猫耳猫尻尾などの所謂ケモミミーズであり、遊牧民族とのことだ。
ノームは特に行使する魔法と言う魔法はないが、ノーム独特の能力があり、それが魔法と言う認識をされている。
それらは通称、自然魔法と呼ばれている。言葉だけで見るならば精霊魔法と似たようなものに思えるが実は全然違う。
彼らは、"なんとなく"で天候を完全に予測したりすることが出来る。
つまり、彼らは感覚的に自然に関する事項を完全予測することが出来るのだ。
なお、ノームと言うのは、羊や山羊のようなねじれた角を側頭部につけた小柄な種族で農耕民族とか。
そして、エルダーである。
彼らは古代に存在していた文明から生まれた人工的な種族らしい。
古代文明が滅びた理由は、エルダーにもわからないらしいが、兎にも角にも彼らの存在から高度な古代文明が存在していたことが明らかにされている。
グリムあたりに聞けば解りそうなものだが、割愛しておこう。
彼らの用いる古代魔法とは、古代に存在していた強力な魔法だ。
その汎用性は多岐に及び、時には理不尽さすら覚える魔法すらある。
例えば、水生成と言う古代魔法は、何も無い所から水を作り上げることが出来る。
水浄化なんて魔法は、水を完全に真水化してしまうのだ。ついでに純水ではなく、真水なので飲料出来る。
水浄化が理不尽さを覚える点としては、泥を大量に含んだ泥水であっても、泥の質量もろとも真水に変換してしまうのだ。
「なるほど。……あれ、俺ってそれら全部使えるんだから、普通に戦闘できね?」
「使えば戦闘行為を行えるでしょうが、長時間の戦闘行為に耐える体力とそこから来るストレスに耐える精神性をセイヤ様は持ち合わせていませんし、魔法頼りの強引な戦闘方法になります。剣や弓などの戦闘技術がありませんから」
「納得した。で、魔術って言うのは?」
「はい、魔術は、人間が作り上げた魔法の劣化型にして魔法の進化系です」
「劣化してるのに進化系?」
「はい、ご説明致します」
魔術とは、亜人に対抗する為に人間が作り上げた魔法の模倣のことだ。
魔法の模倣である為に、エルフの使うような強固な破壊力・防御力を持つわけではない。
ドワーフのようにあらゆる金属を精製・精錬することも出来ず、フェルプールのように一騎当千のような身体強化も出来ず、ノームのように完全な自然予測も行えなければ、エルダーのように物理法則に喧嘩を売る理不尽さもない。
故に、魔法の劣化である。
だが、魔法は発展性が全くないのだ。
彼らの用いる魔法と言うものは、それ以上が存在しないし、それ以上を作り上げることが出来ない。
唯一、可能性があるのが古代魔法であるが、古代魔法の技術はすでに絶えて久しい。
だが、魔術は進化の余地を大量に残している。日々、魔術は進化していっているのだ。
今すぐに魔法を越えるわけではないが、数千と言う単位で時間をかければ、魔法すら凌駕する可能性を秘めている。
故に、魔法の進化系とも呼べる。
「把握した。そんで俺は、魔法の創造すら出来ると」
「そういう意味では、あらゆる魔法・魔術の頂点に立つお方となります」
「ご理解頂けたのならば、幸いです。セイヤ様、果実の樹が生育したようです」
「……あれぇ?! もう12時間経ったの!? そういや、なんかお腹も減ってる!!」
「はい。それでは果実を収穫しましょう」
「ああ、ちょっと物質生成しとく」
「畏まりました。収穫作業は行っておきます」
カリンはそっと頭を恭しく下げて部屋から出て行く。
その様を見送れば、聖耶は作業を始める。
「えーと……これがこの家の周りの俯瞰図か」
聖耶は、周りの地形を眺めていた。
所謂、オブジェクト設置画面と言うものなのだが、高高度からの衛星画像のように周りを見ることも出来る。
それ所か、特定地域をズームアップし、リアルタイムでどうなっているかも見ることが出来るのだ。
そして、見ていて解った事がある。
まず、北側に高い山があると言うことである。
どうやら、鉱脈もあるようで将来的にはドワーフが活躍してくれることになるだろう。
そして、西側には山脈が連なっている。
こちらの山脈には鉱脈はないが、森林が生い茂り、川が流れている。
その川は、規模は中規模程度であり、水運に用いるには十二分に大きい。あえて欠点をあげるならば、この家からは遠いと言うことである。
聖耶に治水の専門的知識はないので、ここまで水をひいてくるのは無謀にも程がある。
そして、南側と東側には草原が広がっている。
「んー……亜人が迫害されてるってことは戦争も想定しないとな……」
俯瞰図を眺めながら、聖耶はぽちぽち、と指定しながらオブジェクトを作り上げる。
家の北側に井戸を、空いている西側の土地に畑設置のための土壌改善を行う。
そして、井戸と土壌改善地、井戸を覆うように柵を設置していく。
最後に柵の内側に設置するものは……。
「想像次第で何でも出来るのなら、これも出来るはずだ……!!」
設置するのは、トーチカである。
そして、トーチカに備え付けるのは、設置型重機関砲。
弾丸は魔力を用いて発射する魔力式重機関砲である。
これは、弾丸や矢などを生成できないと言う物質生成設置の裏をかいた手段である。
弾丸を用意できないのならば、魔力で弾丸を撃てるようにすればいい。
これならば自前で用意しているのだから、問題なく設置出来るはずである。
「……お。問題なく設置できた」
ゴゴゴゴゴ、と言う音をあげつつ、地面から生えるように伸びていく井戸を見つつ、聖耶は内心、うわぁ、と思っていた。
ある意味気持ち悪い光景である。
「セイヤ様、表にトーチカが出来上がっているようですが」
カリンが、その手に持った袋に大量の果実を詰め込んで戻ってきた。
どうやら、カリンには聖耶と同じ知識なりなんなりが与えられているようだ。
「ああ……トーチカに魔力式の重機関砲をおいてみたんだけど」
「なるほど。それならば、弾丸や矢などを用意出来ないと言うデメリットを打ち消せますね。ですが、あれを使えるのはセイヤ様だけかと思われますが」
「え? なんで?」
魔力で弾丸を装填するソレである。
つまり、魔力がある者ならば誰でも使えるのだ。
「この手の武器は多大に魔力を消費します。つまり、これを十全を使用出来るだけの魔力をお持ちなのはこの世界ではセイヤ様だけです」
「なんてこった……まぁいいけど。家の自衛武器だし」
「そうですね。常人ならば数秒で魔力枯渇するような欠陥兵器でありますが」
「毒舌!?」
がびーん、と効果音を響きそうな顔をする聖耶に、無表情で淡々としたオートマタメイド。
二人の建国記は、まだまだ先は長い。