「……うん、どっからどう見てもブローニングM2だ」
聖耶は出来上がったトーチカに備え付けられた重機関砲を見て呟いた。
重機関砲を設置したトーチカを設置する、と言う指定だけでトーチカを作り上げてしまった彼であるが、そこに設置されていたのは紛れも無くブローニングM2であった。
「この手の装備を作った場合、細かい指定が無い場合セイヤ様の世界で著名な物が自動的に選択されます」
「チート過ぎる!! そういえば地下水脈があるかも調べてないのに井戸が普通に使えたのはなんで?」
「古代魔法の水生成と水浄化の魔法術式が井戸の底に刻まれており、常時発動しています。便利ですね」
「便利とかどうとかのレベルじゃねぇ?! 近代設備も古代魔法で補えてしまう!?」
「古代魔法を刻み込み、常時発動型にするだけの魔力があれば可能です」
「どういう事?」
「普通にそんなことをしても耐用年数はそんなに長くありません。水浄化の水筒がありますがこちらは耐用年数数ヶ月前後の癖に5万白金貨になります」
「……えーと、幾ら?」
「セイヤ様に解りやすく言えばドリームジャンボ宝くじの一等及び前後賞を含めたお値段となります」
「解りやすいけどもっと解りやすく言えよ!?」
詰まるところ、3億円である。
「で、あの井戸の耐用年数は?」
「多分数百年前後ではないかと。神器ですね。井戸ですが」
「無限の水製(アンリミテッドウォーターワークス)……だと……」
「固有結界(リアリティ・マーブル)ではありませんが」
「さて、どうでもいい話はおいといて今日は畑を耕そうと思う」
土壌改善の施された土地を見やる聖耶。
それを見て怪訝そうに見やるのはカリンである。
「土壌改善と言う前提を終えたのですし、畑設置で良いのでは?」
「え?」
カリンの指摘に忙しなく物質生成設置のウィンドウを開く。
そして、そこにあったのは今までになかった「畑設置」「農園設置」などなどである。
「なんで果実の樹はあってこれらはねえんだよ!?」
「あの果実の樹は、こちらの世界では「どこにでも生える」……それこそ砂漠のような環境ですら生える為にグリムの樹と呼ばれ、重宝されています」
「チート過ぎるなその樹木」
「その分、生育数が少なく、また、種がならないので増えませんし増やせません。また、実を取り尽せば枯れて消滅すると言う性質を持ちます。故にグリムの樹は国家などの大規模な組織に管理されているのが常です」
「それを幾らでも生やせる俺。チートおつ」
「素晴らしいまでにチートですね、セイヤ様」
「清清しいまでにチートだよ。とりあえず畑と農園設置しておこう。……今気になったけどこれらって何が生えるんだ」
聖耶の疑問はそこであった。
この手のゲームでは畑を作ると勝手に食糧と言う資源アイテムが増えるだけである。
世界観的には多分、小麦やじゃがいもなのだろう、と言う予測はつけど、実際の内容までは解らない。
挙句、設置しても世話をする必要もある。それはそれで構わないのだが、その度にグリムの樹の実で過ごすのも億劫である。
まして、取り尽せば消滅してしまう樹木だ。幾らでも生やせるとは言えなくなる度に生やすのも手間である。
12時間待つだけで食糧確保が出来るのを手間と言うべきなのかは解らないが。
それにグリムの樹の性質上、秘匿した方が良いものでもある。
何せこれがある、とわかれば国家の手が伸びるのは間違いない。
今は力を溜め込みたいのが実状なのだ。亜人国家を作り上げるのが目的にしろ、礎すら出来ていない状態で相対するのは少々不味い。
「セイヤ様の想像次第です。ただし、水田ではない為に稲は不可能でしょう」
「……想像次第か……ここは一つ、青狸式チートアイテムが一つを」
「畑のレストランですか。不可能ではありませんが」
「出来るの?! できちゃうの!?」
「グルメテーブル掛けは不可能です」
「基準がわかんねえ!?」
解らない人の為に説明するが、これらは某有名青狸ロボットの大長編で出てきた道具である。
畑のレストランとは缶詰を畑に埋めることで一日後には、巨大な食用大根が出来上がる。
そして、その大根の中には缶詰のラベルと同じ食事が入っていると言うチートアイテムである。
グルメテーブル掛けは、テーブル掛けのような様相をした道具である。
そのテーブル掛けを敷き、食物を指定すれば指定した食物が出てくると言うチートアイテムだ。
どちらも食糧系の道具としてはチートを行き過ぎたバランスブレイカーと言える。
「グルメテーブル掛けは畑ではなく、オブジェクトの内装物なのでこちらには設置出来ません」
「家の中なら出来るの!?」
「可能です」
どうやら可能らしかった。
あまりの能力のチートっぷりに自堕落になってしまいそうだ、と聖耶は思った。
気をしっかり引き締めないと青狸道具一式で国家が埋まってしまいそうであったからだ。
「……まあいいや。どうせここを使うのは俺とカリンだけだろうし。畑のレストラン式でいいか」
「そうですね。必要がなくなれば撤去してしまえばいいだけですし」
「あまりにチート過ぎるから土地が発展したら消した方がいいな。通常の畑の場合どうなる?」
「種などを用意する必要はありませんが、生育するには世話をする必要があります」
「把握した。じゃあ畑のレストラン1、通常の畑2、農園2でいこう」
現状は、畑を世話して地味に育てるような余裕はないし、人を受け入れても暫くはこれに頼ることになるだろう。
少なくとも半年。人を受け入れて農作物が育ち、人々が自らで食糧供給出来るようになるまでは。
そんな軽口を叩きあいながら、万能農園、通称・畑のレストランを設置していく。
これとは別個に通常の畑も設置しながら、こっちは自力で育てることを決めた。
どうでもいいことであるがこの場合、缶詰の過程が省略される訳なので中身に何が入っているかわからない博打になることに聖耶は気づいていなかった。
カリンは気づいていたがあえて指摘はしなかった。
「セイヤ様」
「もりもり大根らしき物体が育っていく様を見るのは何かキモいな……どうかした?」
「半径1km以内に侵入者ありです。西側の山脈地帯のようです」
「あー……早速トーチカの出番か?」
「使えるのですか? トーチカは塹壕の一種だったかと思うのですが」
「旋廻機能を埋め込んでおいた!! チートを使えばこんなもんさ!」
「理解しました。流石セイヤ様です」
「突っ込みなし!?」
侵入者どうのこうのと緊迫した雰囲気のはずなのに、そんな雰囲気は欠片もなかった。
当然である。チート能力を過信しているわけではないが、仮称・ブローニングM2魔法機関砲がある以上、並みなものでは太刀打ちは不可能である。
少女は走る。
息を切らしながら走って、走って、走り続ける。後ろから激しい罵声と怒号が響く。
白みがかった長いプラチナブロンドは泥に塗れていた。
彼女の背にある矢筒には、すでに矢はなかった。
手には、弓を携えたまま少女は走り続けた。その全身に裂傷を残し、血を滲ませたまま。
ふと、視界が開ける。
そこにあったのは、家であった。
柵があり、畑があり、井戸がある家。
しかし、あえて特筆するならば、変な小山があることだ。
白金の少女は、不味いと思った。
何故ならば、彼女の耳は長く尖っていたからだ。
そう、彼女は亜人であった。エルフと言う名の。
そして、亜人は軽視され、迫害されるものである。
住む人間が亜人であるならば、助かる可能性は高い。
しかし、人間であったならば、非常に危険だ。
付け加えるならば、亜人は数が少なく、また互いに協力しあって生きている。そうでなければ人に駆逐されるからだ。
こんな辺鄙なところに単独で住まいを立てる。それは間違いなく人間の行いだ。
彼女は今正に、前門の虎、後門の狼の状況であった。
後ろから響く怒号に、少女は反射的に前に踏み出してしまう。
エルフの少女は、前門の虎を選んだ。
何故ならば、後者は捕まればまず間違いなく慰み者にされ、売られ、屈辱的な一生を味わい、終えることになるのは明らかであるからだ。
だが、前者ならば家があった、と言うだけである。
もしかしたら変な亜人が住んでいるかもしれない。
もしかしたらちょうど留守で誰もいないかもしれない。
少ない可能性ではあるが、確実な終わりよりも、曖昧な終わりを少女は選んだのだ。
「エルフの方でしたか」
逃げ込んだ先で少女の思考は終わる。
そこにいたのは黒髪のメイドであり、そして、その出で立ちは明らかに人間のものであった。
エルフの少女は、全て終わったと判断した。
契約した土地でもなく、武器も尽き、体力の限界であった少女に最早抗う術はなかったからだ。
身体から力が抜け、倒れこむ少女。しかし、その体は大地に落ちなかった。
何故ならば黒髪のメイド――カリンが抱きとめたからである。
「セイヤ様。対象は人間10。いずれも軽装です。私はこの方の手当てを致します」
「大丈夫だ、問題ない」
「それは所謂フラグと言うものでは」
エルフの少女は状況が理解出来ていない。
抱きとめられた理由もわからないし、黒髪のメイドは少女を手当てすると言う。
変な小山の中に潜み、変な棒を構える男も明らかに人間である。
なのに、敵意も殺意も、そして下卑た欲望も欠片も向けて来ない。
解らない。解らない。解らない。それがエルフの少女の思考だった。
そして彼女はそっと意識を手放した。少女の体力の限界が訪れたのだ。
聖耶は森を睨んでいた。
そして、聖耶は捉えた。山賊のような容貌の男たちがこちらに向かってくるのを。
木々に遮られて全貌は見えないが、数は10人。
問題は――なかった。
「ハロー。ガイズ、そしてさようならだ」
重機関砲が魔力の火を噴いた。
自動車のエンジンブロックや、現代建造物の外壁をもろともしない破壊力を持つソレである。
木々の抵抗なぞさしたものではない。人体に撃てばミンチになりえる尋常じゃない破壊力を秘めたソレが森林と男たちを蹂躙していく。
勝負なんて十数秒もあれば片がついてしまった。
「…………あっけないな」
あまりにもあっけなかった。
しかし、聖耶は多少のだるさを感じていた。
人を殺傷したとかそういう精神的疲弊から来ているものではない。
「……なるほどねぇ、"常人"には、使えない、か」
そう、たった十数秒で魔力をかなり消耗したのだ。
神にも匹敵しうる魔力を持った聖耶でこのだるさである。
常人にはまず間違いなく運用は不可能だろうし、聖耶ですら数分の使用で魔力を根こそぎ持っていかれる事は間違いなかった。
最も、性能を考慮すれば長くても数十秒もあれば大抵の決着はつくであろうから、カリンが"使用出来る"と称したのはあながち間違いではない。間違いではないが。
「こりゃあ十全に使用出来るとは言い難いな。確かに欠陥兵器だわこりゃ」
自衛手段以上になりえないことを確認できた事に一定の満足を覚えた聖耶は、トーチカから出て、家の中に行ったカリンとエルフの少女の様子を見に、足を進めるのであった。