「…………」
起きたら昼過ぎだった。
何を言っているかわからねぇと思うが以下省略。
そんな気分だったから頭を抱えているわけではない。
聖耶は激しく自己嫌悪に陥っていた。幾ら乞われて理性がぷっつんしたからと言っても朝まではねぇよ、と嫌悪していた。
しかも起きた時には聖耶は行為を致した部屋ではなく、聖耶の寝室にいたのだ。
挙句の果て慌てて戻ってみれば、すでに清掃が完了していた。挙句の果てに自分の衣服まできちんと取り替えられていた。
犯しに犯した挙句、後始末を全部されてしまっていた。自己嫌悪に陥るのも無理はない。
「セイヤ様」
びっくーん、と効果音が出そうな程に彼の体が飛び跳ねた。
今最も会いたくない相手ナンバー1である少女・カリンである。
ぎぎぎぎぎ、と軋む音をあげ、聖耶は振り返る。
「……? どうかなさいましたか」
そこには普段と変わらぬカリンがいた。
無表情に小さく小首を傾げる黒髪の少女。
気にもしてない様子で、安堵すると同時に落胆もしたりする。
「……昨夜の事でしたら、御気になさらず。……その、私も良かったですし」
最後あたりは小声であったが、聖耶の耳はしっかり捉えていた。
しかも、いつも無表情な少女が恥ずかしそうに頬を染めているのだ。
これに萌えないものはいないだろう。ギャップ萌え最高!!
聖耶の心はすでに電波をゆんゆん受信して訳のわからないことになっていた。
「それよりもセイヤ様、ステータスの更新をなさった方が……」
「……建前ではあるけど主目的を忘れていた!?」
そう、カリンとの性交渉の理由は、建前ではあるがステータスの強化である。
カリンからすれば、想いを通わせることが主目的であるが。
行為を致したことへの高揚感とか、やりすぎたことに対する罪悪感でいっぱいだった聖耶はすっかり忘れていたのだ。
いそいそとステータスウィンドウを展開して、聖耶は目が飛び出そうなほどに驚いた。
「ステータスポイント179ってなんぞ」
「前回確認した時から建築した建造行為が15、エルフの民64人の保護で64。……わ、私との性交渉が……その、20回……一回5ポイントですので、合計100ポイント。それらを合わせて179ポイントです」
一瞬言葉につまり恥ずかしがった所も聖耶には高ポイントである。
こんな美人で可愛い子と良い関係になれたと言うだけで聖耶は天に昇りそうであり、グリム神に大いに感謝し、グリム神へ入信しかけた程である。
とにもかくにも179ポイントである。ぶっちゃけ多すぎである。
「一応聞いておくけど平均的な戦士ってどのぐらい?」
「そうですね……STR30(D)、AGI20(D)、VIT30(D)、INT20(D)、MND30(D)、DEX30(D)、MGCは後天的に伸ばすことは難しいので、人次第と言ったところでしょうか」
「STRに17、AGI7、VITに17、MNDに15、DEXに15にとりあえず振って……まだ108P余るぞ」
「その後はセイヤ様のしたいようになされば宜しいかと」
「OK! STRに20P、AGIに50P、VITに8P、MNDに10P、DEXに20Pだ!!」
結果として聖耶の能力は以下のようになる。
名前 :セイヤ=ノグゥツィ
性別 :男性
年齢 :25
STR:50(B)
AGI:70(B)
VIT:38(D)
INT:100(B)
MND:40(D)
DEX:50(B)
MGC:255(EX)
「……何故AGIを高めになさったのでしょうか?」
「……こう、あれだ。剣聖(ソードマスター)とかって憧れるよね」
剣聖。剣士の最高峰の称号とされる事が多いソレである。
そして、聖耶のイメージでは、縮地や見えない剣閃などのイメージがあったのだ。
故に、速度特化。VITが低めなのも当たらなければどうと言うことはない、そんなイメージだったからだ。
「今のセイヤ様ですと、熟練の戦士程度ですね」
「OH……ついでに過去あるいは現在の剣聖ってどのぐらいなの」
「現在ですと16代目剣聖がSTR70(B)、AGI80(B)、VIT60(B)、INT56(B)、MND70(B)、DEX70(B)、MGC32(D)ですね」
「激しく劣っているのは解った」
「そのうち追いつけますよ」
この調子でステータスポイントが入るのならば、勝手にいつの日か超えているだろう。
そのうち追いつける、と言うのもあながち嘘ではない。しかもその日はそんなに遠くはない。
スキルウィンドウを開いて、またしても聖耶は噴出しかけた。
『NEWスキル!!』
固有スキル:武器の達人(EX)
固有スキル:無音暗殺術(EX)
『固有スキル:武器の達人を得た為に全ての武器戦闘技術スキルが統合されます』
『固有スキル:無音暗殺術を得た為に全ての隠行技術スキルが統合されます』
「達人はともかく、無音暗殺術って何?!」
「無音暗殺術(サイレントキリング)です。あらゆる隠行スキルを習得し、Aランクにした際に得られるスキルですね」
「カリン、そんなの持ってたの!?」
「はい」
とにもかくにも、これで聖耶は前線に立てるようになった。
副作用で暗殺者の真似事どころか暗殺すら出来るようになったが。
「そういえばセイヤ様、リングウェイン様がお会いになりたいそうです」
「先にそっち済ませようよ?!」
ステータス更新なんかよりも大切な事項を今更伝えられた聖耶は、いそいそとリングウェインのいる長屋に向かう事となった。
「つまり、農作業がしたいと」
「はい。ノームには劣りますが、自活できる程度には我々にも出来ますので」
リングウェインの話はこうだ。
住処を貰い、挙句食糧まで恵んでもらうのは流石にどうかと思ったので、自活出来る程度にはなっておきたい、との事だ。
確かに現状は、中身に料理が詰まった謎の大根、通称・畑のレストランで食糧を補っている。
エルフの民は、グリムの信者であるからグリムの使徒ならばこのような事も出来ると考えながらも、グリムの使徒のお手を煩わせる訳にもいかない、と考えているのだ。
実際には、一日で大量になる挙句世話らしい世話もしていない謎の物質なので、手を煩わせてなどいないのだが。
「それは、問題ないけど。……ああ、リングさんって他の亜人の居場所とか知らないかな?」
亜人保護が聖耶の使命であるが、その亜人がどこにいるかも解っていないのだ。
エルフだって実際ほぼ偶然に保護できたようなものである。最も、準備を入念に終えてから探しに出るつもりではあったのだが。
「そうですね、北のウェインス山にドワーフのグウェンテ氏族が、東のアリスト草原にフェルプールのメギ氏族、西のクレイン山脈を超えた先にノームのウェーク氏族が、そしてその各々にエルダーのヤパーテ氏族がついています」
「……割と集中してんだな、このへん」
「正確には、エルフかエルダーがいる所に亜人は身を寄せ合うのですよ」
精霊魔法を持ちいることで特定地域においては、全種族最強を誇るエルフ。
そのエルフの庇護下にいれば、人間から身を守ることは容易、とまで言わないが単氏族でうろつくよりは確実性が増す。
精霊魔法ほど、絶対的ではないが古代魔法もその強力さでは追随を許さない。
結界や幻覚魔法などで人間を惑わせ、弾くには精霊魔法よりも使い勝手は良い。
如何に一騎当千を誇るフェルプールでも、数に任せた攻撃には敗走をせざるを得ないのだ。
まして人間と言うのは、亜人の使う魔法の良い所取りをした魔術を用いて戦えるのだから。
効果が劣化していようが、その汎用性はあらゆる魔法を上回る。
故に、亜人たちはエルフとエルダーのいる辺りに必然的に集まることとなる。
その方が、いざと言う時の保護を頼みやすいからである。
無論、エルフやエルダーたちも人の脅威さを知っているし、同じ境遇である亜人たちの保護は買って出ている。
見下したりするようなエルフたちは皆無である。むしろ、そんなことをすれば自分たちを狩り、見下す人間と同格に落ちぶれることを理解しているからだ。
それは、亜人たちの共通見解であり、亜人たちは、だからこそ相互補助しあうのだ。
「エルダーが三氏族に散ってるのはなんで?」
「古代魔法が使えるからですよ。エルフの隠れ里まで逃げおおせる為に彼らはその魔法を使い、支援するのです」
「……となると、余計に不味いな」
そう、エルフの隠れ里の情報は行商人たちに漏れていたのだ。
つまり、亜人たちがここ周辺に集中していることも人間たちは感づいている可能性が高い。
そうなると早々に保護に打って出なければ先に壊滅する可能性が高い。
「どこから保護するべきだと思う?」
「そうですね……私としてはノームから保護するべきだと思いますよ」
「ふむ、なんで?」
「フェルプールは遊牧種族ですからね。草原を転々と移動して回るのですよ。エルダーもついていますから、一番見つかりにくいです。ドワーフのいるウェインス山には、ここ……つまりセイヤ様の土地を通らねばなりません。セイヤ様の契約した土地ですから侵入者がいれば土地が教えてくれます」
つまる所、見つかり難いから危険度が割と低めなフェルプール。
捕縛したりするためには最大脅威のセイヤフィールドならぬ聖耶の契約範囲を通過しなければならないドワーフ。
それに反して契約範囲外の土地に住むノーム。
しかも、フェルプールは身体強化魔法による高い戦闘能力を持ち、ドワーフは自らの種族が鍛え上げた強力な武具があり、それらにさらにエルダーの古代魔法が加わった高い戦闘能力があるのだ。
ノームには、それらはない。彼らにある魔法は自然の驚異から自らの身を護る為の直感と言うに等しい魔法だ。
単純に考えて、一番の鴨である。
「……ふむ。じゃあノームを保護しようか」
単純に、今一番危険だから、と言うのもあるし、聖耶にとって必要な技術を持つ種族でもあった。
今、聖耶の土地に必要なのは、戦闘力でもなんでもなく、この地に根付けるだけの地盤が必要だ。
要するに、畑のレストランやらグリムの樹なんてチート食糧に頼らなくても良いだけの食料自給率を確保したいのだ。
「では、ノームたちの所までは私が案内しましょう。その方が話も通じやすいでしょうし」
聖耶の外見はあくまで人間である。
その身に神の如き魔力を秘めていようとも、一見した限りではただの人間。つまり警戒されやすいのだ。
リングウェインが間に入ってくれるならば、その問題も多少は緩和するだろうのでこの提案は聖耶には有難かった。
「俺がいない間の村の護りはどうしようかな……」
「それでしたらエルフィに任せましょう。セイヤ様の精霊契約にエルフィの血を混ぜればエルフィにもある程度この地に力を及ぼせるようになりますので」
これを精霊契約の拡大と言う。
未だに精霊契約の破棄を行っていないヤの氏族であるが、実は聖耶の契約はヤの氏族の契約範囲を丸々飲み込んでいた。
ここに、ヤの氏族が契約を交えれば、ヤの氏族は聖耶の契約範囲内でも精霊魔法を行使できるようになる。
ただし、それは借り受けただけの力なので本来の契約した地で用いるものとは、比べようもないぐらいに衰えた力であるが、無いよりはマシであるし、そんな状態でも精霊魔法は圧倒的なポテンシャルを持つのだ。
「じゃあ、その契約が終わり次第向かおうか」
「はい、解りました。セイヤ様」
こうして、ノームの保護の為に計画は動き始めた。
なお、契約の拡大を行う際に聖耶がエルフィに契約しよう、などと口走った為に盛大にエルフィに殴り飛ばされていた。
エルフ相手に契約をしよう、と言うのは結婚しようと同義であるとカリンに説かれて改めて精霊契約の拡大をしよう、と言う意味だったことを伝え、エルフィは落ち着いたのだが。