「人間が想像できることは人間が必ず実現できる」
月世界旅行や海底二万マイルなど執筆したジュール・ヴェルヌが父親に送った手紙の一節。確かに吸血鬼と元・月兎人も居るのだから大抵の事は現実になるのだろう。あながち間違いではない。
「ゆにちゃーん、おねがい! 先っちょだけ。先っちょだけだから!」
「言い方に語弊を感じるけど駄目だから! これ私のだから!」
ソフトクリームをつまみ食いしようとする餅月さんを必死に阻止する彼女は一見年端もいかない女の子。だが彼女の正体は吸血鬼。
「ちやほやされたい」がために事務所に所属する彼女、『赤月ゆに』ともう一人のタレント『餅月ひまり』、そして腰を痛めた社長に代わって社長代行になった私は休暇にとある海沿いの街へ訪れていた。
山あいに囲まれた坂の街でありながら至る所に猫が居る事から猫の街とも呼ばれる港町。坂道を上ると塀の軒先には丸くなった猫が欠伸をしている風景に心が癒やされる。
私たち三人は行先を決めずにぶらぶらしてはオシャレな雑貨屋や喫茶店に顔を出す、そんな休日の一幕。
そうしてしばらく街を巡っていると民家の隙間から小高い山の上にある小さな神社が顔を出した。
上った先からの街の景色はさぞかし綺麗であろう。
ウキウキしながら石段へ向かい登り始め、半分ほど上ったところで二人がちゃんと付いて来てるのか後ろを振り向いた。
「二人とも、山の上からの景色は最高ですっ……えっ…?」
途端、私自身の不注意で足を取られる。
餅月さんと談笑する赤月さんの姿がスローモーションで視界に入ったと思うと天地が逆さまになり背中に強い衝撃。
そのまま階段に打ち付けられると赤月さんを巻き込んで一緒に転げ落ちる。
とっさに身を徹するように彼女に抱きつくが、私たち2人は重力の赴くまま階段の下まで転げ落ち、そのまま意識を手放した。
「…… ───!… ────!」
意識が朦朧とする中、餅月さんの声が微かに聞こえる。
冷たい石畳の感触。吹き抜ける風。
そして身体を揺さぶり起こそうとしてくれるひまりさんの暖かな手の感覚にゆっくりと目を開く。
「……んっ……?」
「……──ちゃん! ゆにちゃん!」
目の前には額に汗を流しながら覗き込むひまりさんの顔。
よほど心配だったのであろう。意識を取り戻した私の顔を見て、不安に駆られていた彼女の表情から安堵のため息が漏れる。
あぁ、そうだ。私は階段から転げ落ちたのか。
となるとゆにさんは大丈夫だろうか。
身体中がズキズキと痛む中なんとか身体を起こし、なんとか立ち上がろうとすると涙目の餅月さんが抱きついて涙を滝のように流しながらダミ声でこう言った。
「ゆ゛に゛ちゃ゛~ん゛。心配した゛よ゛ぉ゛~!!!」
はて、彼女は何を言っているのだろう?
「社長と一緒に落ちてきたときはビックリしたよー。でも無事でよかった」
彼女の口ぶりはまるでゆにさんに喋り掛けてるよう。
しかし彼女の目線は私の眼に注がれている。
「社長もついさっき目を覚まして無事だよ。怪我がなくてよかったー。でもさっきから自分の手を見つめて喋らないんだ」
「あの……ひまりさん……?」
「んっ、どうしたの? ゆにちゃん?」
「ゆにさんって、私は……」
その時気付いた。
私の目線がいつもより低いこと。そして身体全体が軽い事に。
ゆっくりと目線を下に降ろすとそこには赤と黒を基調とした服に膝上まで伸びたスカート。そしてニーソックスに包まれた細い足の先にはハイヒール。
視界の端では金髪の長い髪がチラチラと揺れ視界に入る。
思わず手に取り、引っ張ってみると自分の頭も引っ張られて首を傾げた姿勢に。まさかと思い、恐る恐る両手で頭に触れると短く束ねた二房の束が手の中で踊る。
そんな筈は……と身体中をペタペタと触わるが、そこには何時ものごつごつとした身体ではなく女性らしく丸みを帯びた柔らかな身体。
喉元を触ってもそこには隆起した喉仏はなく、胸を触っても慎ましい胸が軽い力で反発する。
そしてスカートという無防備な衣装に身を包んだ太ももの合間には慣れ親しんだ突起が喪失し薄い布でピッタリと貼り付く感触。太ももに挟まれ、谷間が出来た股間はスカート越しからでも何も付いていないことを見せつけられる。
正直混乱している。
しかし状況証拠からすると私は『赤月ゆに』
となると私の後ろに居る私。それはつまり……
「……赤月さん、もしかして……」
「……社長。これって……」
「「私たち、入れ替わってる~~~!!!」」
***
「へー。つまり今の『ゆにちゃん』は社長で、今の『社長』がゆにちゃんなんだね。となると入れ替わったって事?」
「恐らくそうだと思う。一足先に目を覚まして色々身体のことをチェックしたけど人間の男性の身体、それも社長の姿見だし。社長はどう? 違和感ない?」
「女性の身体になったと言う違和感はすさまじいけど転んだ事に関してはまぁなんとか……。それこそ赤月さんは大丈夫ですか? 私の身体の方が怪我酷いと思うのですが」
「それは大丈夫。吸血鬼だから回復も早いし」
そう言ってサムズアップする『社長』
あの後、現状を確認をするために早急に宿へチェックインすると作戦会議。餅月さんと赤月さんが使う予定だった少し大きめの部屋で三人がテーブルを囲む。
最初は正座で話をしていたが次第に足がしびれ始めたので、畳にお尻を付けると今自分が女なのだと再認識。
履き慣れないスカートという布きれ一枚を両手で太ももに押し付け、もじもじと恥ずかしながら下着を隠す姿に餅月さんは笑い、赤月さんからは苦笑される。
股を広げる事などしなければ側から見えはしないと言われても、そんなこと男であった私が知るよしもない。解せぬ。
何故女性はこんな防御力の低い衣服に身を纏うのであろうかとしみじみ。
きっと男になってしまった赤月さんも同じような感情を抱いているだろう。しかし彼女(彼?)自身は気にする素振りはない。
「千年以上生きてきたからね。入れ替わったのは初めてだけど男性のフリして社会に溶け込んだ事もあるからこれぐらいならまぁ」
「吸血鬼すごぃ。でも今は入れ替わったから社長が吸血鬼になったんじゃないの?」
「種族としてのラベルは魂に刻まれるからね。怪我が早く治ったのはそのお陰。なので社長は気をつけるように。今の社長はただの人間の女の子なんだから」
「ぜ、善処します……」
「まぁまぁ、ひまりがいるから大丈夫だよ」
私の肩を叩き、今度は餅月さんがサムズアップする。
確かにこれは私だけの問題ではない。この身体はゆにさんの物。
タレントでもある彼女の身体は私以上に丁寧に扱わなくてはならない。
そうしてしばらく互いの身辺に関するすり合わせを行った後、私たちは一度解散する流れとなった。赤月さんの方は元に戻るために色々調べてくれるらしい。
餅は餅屋とはこのような事を言うのであろう。お言葉に甘え、今日はひっそりと過ごそう。
「それじゃ社長のことはひまりがお世話するから頑張ってねー」
「えっ、部屋は別々に……」
「いくら私であれ、社長の姿をしてる以上ひまりちゃんと同室は色々問題あると思うけど……?」
「そう言うことだからよろしくね。あっ、あと……ひまり……変な事はしないようにね?」
「わははは。大丈夫。大丈夫。変な事はしないよ。『社長』にはね……」
***
「こんな汚いところ触るの辞めて下さい!」
「へー。社長はゆにちゃんの身体を汚いって思ってるんだー。ひっどいなー」
壁に押し付けられ、上から覗き込むように見下ろす餅月さん。
赤月さんが居なくなって直ぐに私は部屋の隅に追いやられる。
突然の出来事で理解が追いつかない私は成されるがまま両手を壁に押し付けられると、片方の手でスカートの中を弄られた。
何時もと違って彼女の姿が一回り大きい。なんとか抜けだそうと力を入れるが彼女の手はうんともすんとも動かず、股の合間に足を入れられてるのもあって身動きが取れない。
爪を立て、クロッチ越しを下から上にゆっくりと這わせながら首元に顔を近づけ、歯を立て、軽く甘噛み。鼻息が耳に掛かりこちょばゆく感じてしまう。
そのまま首筋から耳たぶの側まで舌を這わせ、もう片方の手は二本指でやや膨隆した部位をゆっくりと前後に動かした。
ぞくぞくした感覚がじわじわと身体全体に伝わり、染み渡る。
次第に呼吸が荒くなり、私らしくない可愛らしい声が漏れ出す。
「い、いやそんな訳じゃなくて……こう、不衛生なところなので……んっ…!」
「不衛生なところって何? ちゃんと言ってごらん? そしたら手を止めてあげてもいいけどなー」
今の彼女は意地悪な時の餅月さん。
私が何も出来ないことを見透かして迫り来る策士。
自社のタレントに押し倒されるとしても、まさかこのように自分が女の子、それも赤月ゆにとして押し倒されるとは誰が予想出来るであろうか。
ゾクゾクとした感覚に身震いする。
全身が温かくなり、少しずつ、少しずつ快感に変わる。
男の時とは違い、一過性の局部から感じる快感ではなく、身体の内側からゆっくりと全身に駆け巡る快感に身体を委ねつつある。
脚に力が入らず、内股で身体を支え項垂れる。
「えっ……えっちなところ……触るの……ぁ…」
「だーめ。お・ま・ん・こって、言って♡」
「おっ…お……おまんこ…さ触るの……やめて下さぃ……」
「はーい。上手に言えました」
途端に早くなる股間への愛撫。
下着の布越しを餅月さんは今まで以上に強く押し滑らせると手の平の主根を小さく隆起したクリトリスへ押し付けた。
ゾクゾクと身体中が震え、今まで体験したことにない快感。
小さな突起全てがおちんぽみたいなモノであり、快楽が集約され局部で堪えきれない気持ちよさが全身に漏れ出す。
駄目と言う理性とキモチイイと言う本能がせめぎ合う。
倫理観と自尊心が快感によってかき混ぜられる。
餅月さんによって乱される。
顔を赤くし、蕩けた目をした姿は誰が見ても男だと思う人は居ない。
今の自分は抗うことすら出来ない女の子だと分らせられる。吸血鬼ですらない、ただの女の子。
「いやー、ゆにちゃんが絶対にしない表情と台詞でひまり大興奮だよ。社長もまんざらじゃないでしょ?」
「そ、そんな事ない……ひゃ!」
「嘘ついたらだめだぞぉー」
餅月さんは舌先で耳筋を舐めると、息を吹きかけ舌先を耳の穴に這わす。
さながら自然のASMR。
身震いに似たゾワゾワとした感覚が全身を駆け巡る。
すると彼女は私の胸元の大きなファスナーに手を掛け、ゆっくりと下に降ろすと黒いワンピースに包まれたささやかな胸が露わになった。
そのままそっと胸の周りに指を這わせると下着の上からでも感じる人肌に滑らかな曲線が男の時には感じる事がないおっぱいと言う名の胸を強調させる。
「そんなに顔をトロけさせてえっちなゆにちゃんだなぁ。ねぇ、ゆにちゃん」
「へっ…? いやっ……っ!?」
「良ーい? 今のあなたはゆにちゃんなの。社長なんかじゃない。『赤月ゆに』なの」
「へ?…… あへ?」
「うーん……分かってくれないのかなー?」
途端、おまんこを触る餅月さんの手が太ももに触れたかと思うと下着の隙間に細い指が直接割れ目に沿って直接触れられた。途端にビクッと身体が跳ねる。
爪を立てないよう、愛液でしっとりと濡れた指の腹で責め立てられ、思わず顔が緩み、今まで以上に呼吸が乱れる。すると彼女は私の唇に口づけし、そのまま舌で口内を犯し始めた。
舌の裏やら歯の裏側、歯茎の隙間まで。
溢れた唾液が口端から溢れだし、煌めく糸筋となってこぼれ落ちる。そして股からも堪えきれず溢れ出た愛液がぽたぽたと滴り落ちて水音を奏でた。
堪えきれず、思わず座り込む。
抗うだけの力は無く、ただただ絶えず責められる快楽に耐える時。
『私は男であり、女なんかではない。赤月ゆにではなく一般人男性でしかない』
そんな今にも崩れ落ちそうなちっぽけなプライド。
しかし目の前の彼女は目線を合わせながらにっこりと私に諭す。
『あなたは赤月ゆに。吸血鬼なんかじゃないただの女の子』だと。
ワンピースを捲り上げ、スカートの端を押し付けられる。なすがまま胸元でスカートをたくし上げる事で露わになる肌白いお腹と黒の下着で覆われたおまんこが。
そのまま彼女は糸を引く私の下着をゆっくりと脱がした。
あぁ、そうか。私は女の子なのか。
何も付いていない股間。小さく揃えられた金髪の陰毛。
ぷっくりと膨らんだ恥丘の合間からテカテカと光る粘液。
そしてヒクヒクと痙攣するおまんこ。
それを見せ付けられた途端、私の中の何かが崩れる。
男としてのプライドが。社会的な立場が。
そんなモノ考えられない。
今はただ、ひまりさんを受け入れたい。慰めて貰いたい。
女の子を知りたい。私は彼女に懇願する。
「ひまりさん……私に女の子を教えて……下さい……!」
「いいよ、ゆにちゃん♡」
法悦した表情の目の前の彼女はにやりと笑みを浮かべると、中指を割れ目の隙間から中へ入れて、奥までゆっくりと挿入する。
途端に今まで感じた事のない未知の感覚。中のヒダヒダがかき分けられ、ぐにょぐにょとうねりを上げながら彼女の手を包み込む。
そんな彼女はゆっくりと指の腹を内側に押し付けながら滑らせ、手前へ奥へと抽挿を繰り返す。
私の中に私のモノではない指が入ってくる感覚に最初は戸惑うが途端にそのような流暢な事は言っていられなくなった。
押し付けられた指がとある一箇所に差し掛かった時、今までとは類を見ない快感が全身を電流のように走ったのだ。
「あっ……っ……んっ……!」
思わず声が漏れる。全身が快楽を譲受する。
全身の感度が研ぎ澄まされ、肌に触れる服の擦れる感覚でさえ、気持ちよさに変わる。
ひまりさんは執拗に膣内の一部分を責めながら私に抱きつくと、身体を密着させながら唇と唇を重ね合せた。
私はただ彼女が成されるがまま、受け入れる。女の子を受け入れる。
快感の波が次第に大きく、早く襲いかかる。気持ち良いが積み重なる。
気持ち良い。気持ちいい。キモチイイ。
目の焦点がブレる。力が抜ける。悦びしか感じなくなる。
「あっ……あぁ……ああぁ……ああああ!!!」
「ほーら、女の子でイっちゃえ♡!」
「んっっ──────っ♡!♡!♡!!!」
全身が溶ける。悦楽の海に投げ出される。
頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
男の時なんて比にもならない多幸感に満たされる。
────あぁ、これが女の子……
エクスタシーの頂点に立った私の視界はゆっくりとホワイトアウトし、気が遠くなる。周りの声が遠くなる。
玄関で呆然と立ち尽くす『私』と慌てふためくひまりさんの後ろ姿を最後に私は気を失った。
***
その後、目を覚ますと私は布団の上で寝かされており、部屋の隅ではボコボコになったひまりさんがギャグ漫画のような涙を流しながら正座でお縄に掛かっていた。
テーブルでは『私』がにこやかにお茶していたが、明らかに目は笑っていない。
「おはよう社長。いや、『ゆに』ちゃん?」
「お、オハヨウゴザイマス……」
「さっきはひまりちゃんと盛り合ってたみたいだね。どうだった、私の身体は?」
「あっ、えっと……キモチヨカッタデス……」
「「「・・・・・・」」」
「なにが気持ちよかったんだぁー!!! こうなったら私とセックスしろー!!!」
「いや、流石に自分自身とはちょっと……」
「ゆにちゃん、流石に自分自身を襲うのはちょっとどうかと……」
「なんでそこで結託するの! 元に戻るには仕方ないんだよ!エロ漫画でもよくあるじゃん! 入れ替わった者同士がセックスして元に戻るやつ!」
ヴェルヌさん、いくら人の想像が現実になると言っても加減というモノがあると思う。
この後、赤月さんとセックスするが上手くいかず、暫く誰にも悟られないよう入れ替わったまま生活していたら配信業が板に付いてしまったり、新人ちゃんにバレないよう四苦八苦したり、バレた社長から羨ましがられたりするのはまた別のお話である。
元ネタは社長のツイッター