ギリシア神話に登場する美少年。自分自身を愛した者であり、ナルシシズムの語源となる。
この小説は日々の生活に疲れを感じている主人公がとあるファンシーショップで店員さんと出会い、新しい自分を見つけ出す話
何て事のない日曜の昼下がり。
ふとイラストを描くときに使用するコピックが一本きれているのに気づき私は新宿の世界堂まで足を運んでいた。
その時の私は冬の同人誌即売会に出す新刊のネタに行き詰まりを感じており気分転換も含めて、わざわざ電車を乗り継ぎ東京でも大都会の新宿へと向かったのである。
電車に揺られながら窓の外に見える混沌とした町並みが目にはいる。
犇めくようにビルや住宅が立ち並び、電信柱がその一つ一つを繋いでいく。
その光景を見ながらふと今の情報化社会における人の繋がり、ネットワークにおける常時接続の人間関係が頭のなかで思い浮かんだ。
その事を思いだしながら吊り下げに体重を掛け、ため息をつく自分は回りの人から見ると酷く滑稽に見えただろう。
メールに届くサークルでの合同コンパの誘い。
大学に入学し早3年が経とうとしているが大学生のノリの良い人間関係には未だに慣れることはない。
枯れているのか、いやはや回りのテンションが高いのか、どちらにしても人間関係を作る上で円滑に進めるためにはサブカルチャー、つまり一般的にオタク趣味と言うのは受け入れられず只ひた隠しをする毎日を過ごしていた。
決して仮面を被っているわけではない。自分の中の多面の中の一面を見せていないだけだ。
例えるなら月。
太陽に照らされ地球から顔を除かせる表の面と地球からは決して見ることの出来ない月の裏側。
たかがオタク趣味に深く考えすぎだと自分でも思ったりする。
しかしながら私は怖かった。
何事のない平穏な毎日。荒立てる事もせずただ流されるままカースト上位のメンバーに引っ付き過ごす大学生活。それが平和に過ごす最適な方法と自負していた。
そんな毎日からの解放。夏休みというバカンス。
しかしながらそのメールは会社における休日出勤と同じように自分自身を苦しめる。
そして電車は新宿駅に停車。
ホームから無数の人達が流れる水のように階段へ流れ、そのままダンジョンの中へ消えていく。
私もその一つとして流れていった。
運命の出会いはその日の帰り。
わざわざ遠出して新宿まで来たのだからと町を徘徊中、ビルの三階にある一件のアパレルショップの看板がふと目に入ったのだ。
そこは所謂ファンシーショップであった。
といっても子供向けのキャラクターショップではない。客層が処女と女装(男性)が大半であろうロリータファッション専門のお店である。
といっても私自身ロリータファッションと言うとアニメや漫画におけるフリルが沢山ついたゴシック調のドレス、いわばゴスロリぐらいしか知識は持っておらずどちらにしても女装趣味のない自分には全く無縁の存在であった。
日光に照らされむわむわした暑さを醸し出すアスファルトの上で汗を拭いながらつっ立っていた私は暑さから逃れるようその店に入ってみることにした。
押し引きドアが開いた先のビルの中はヒンヤリと冷房が効いており、また時代の経過を感じられるエレベーターには1Fから5Fまでの店舗が掠れた字でエレベーター利用者に懸命に伝えている。
そのまま3Fと表示されているボタンを軽く押し込むとドアは自動でしまり私自身を興味と未知の世界まで連れていくのであった。
チンという音と共に開かれるドア。
そのドアの先には店内を所狭しに沢山の洋服がひしめき合いながらハンガーに吊るされており、ただただ圧巻のと言う言葉が前に出るような光景であった。
女性の洋服には無縁の生活を送っていた自分である。これがどんなドレスや洋服などか知るよしもない。しかしながら多種多様な洋服に私自身圧巻され動けないのである。
そうして奥の方には古洒落たレジカウンターとヘッドセットや靴、アクセサリーなどの小物売り場などが目にはいる。
私はこのままエレベーターの中で佇む訳もいかず、ドアに急かされる様にお店の中へ入っていったのであった。
「いらっしゃいませ。」
入店してすぐ、洋服の棚の間から一人の店員が顔を出す。
瞳を前髪で半分隠しカチューシャを付けた彼女は店員さんであろう入店してきた私に挨拶を交す。そんな彼女に軽く介錯る。彼女は接客のためなのであろう、畳んでいた洋服を棚にしまうとパタパタと私の所に向かってきた。
「今日はどのような物をお探しでしょうか?」
そう訪ねる彼女を見て私は驚いた。
てっきりファンシーショップと言うことで店員さんも何かしらのロリータファッションに身を包み接客していると思いきや彼女は揺ったりとした服に身を包み、肩からストールを巻いた一見大人しい文学少女のような姿をしていたのである。
年は20代前半、もしかしたら同い年かもしれない。どちらかと言うとアパレルショップより古本屋が似合いそうな彼女は笑顔で私に接する。
「いや、私は服を買いに来たわけでなく興味本位で…。迷惑でしたか?」
「いえいえ、こちらこそスミマセン。男性のお客さんも少なくないのでてっきりご趣味の方だと思ってしまいました。」
そう言って深々と謝る彼女。
一見おとなしそうな彼女であるが実際はごく普通に接客しておりやはりイメージとはそぐわない彼女であった。
「いえいえ、気にしていませんよ。しかし男性のお客さんも多いのですか?」
「はい。このようなお店にはやはり一定の年齢の方には受け入れられるものでもありませんから。必然的にお若い方か男性に絞られていますね。」
確かにいい年したおばさんが着るには敷居が高いだろう。ふと回りの洋服に目を向ける。
『お姫様のお茶会ワンピース』『薔薇レースの袖上げブラウス』『ラブリーベリーヘッドドレス』…どれも敷居の高いものばかりであった。
私は店員さんに断りを入れて店の中を見て回る。
ワンピースやブラウス、ゴシック調のドレスや浴衣など多種多様な洋服が目には入る。
そうこう見て回っているうちにふと気づく。
「以外と普通の服も有るんですね。」
「はい、あくまでここはファンシーショップなのでけっしてドレスのような敷居の高いものばかりでは有りません。例えばこちらのランダムドットのワンピースなどはファンシー柄でありながら普段着としてもお使いになることが出来ます。」
そう言って一着のワンピースを紹介する。
成る程、確かにこのようなファッションだと上手く日常に溶け込むことが出来るだろう。
そうして私はお店を回りながら時には店員さんに訪ね、詳しく説明して貰いながらネタを集めてまわった。
一通り店内を見て回り疲れきった私は古洒落たレジの横アンティーク調の椅子にもたれ掛かり、つかの間の休息に入っていた。
「沢山お洋服があってビックリしたでしょう。お茶を用意しました。」
「あぁ、ありがとう。しかし本当に色々な種類があるんだな。」
そう言って受け取ったお茶を啜る。店内は外とは違い冷房で効いており暖かいお茶が身体中に染み渡る。
その間に私は彼女と雑談に花を咲かせる。
「ここはファンシーショップですからね。世間一般ではファンシーショップのイメージはそれこそ不思議の国のアリスなどのゴシックですが実際の所はいろんな種類があって私はそれぞれの個性にあったファッションに身を包むのが一番だと思っています。」
「店員さんはファンシー趣味はお持ちで?」
「さぁどうでしょう?そんな事を言うお客様は今日実際に触れてみて興味をお持ちになられたのではないでしょうか?」
質問を質問で返す彼女。その言葉に私はドキリと心を見透かされているような気がした。
ここ最近行き詰まりを感じる毎日。
そんな時自分が自分以外の別の存在になれたらどんなに幸せだろうか。その選択肢の一つが今ここに提示されている。
「いやいや、私は男ですし。さすがに似合いませんよ。」
「そんな事ありませんよ。私でさえどうかと思われるような男性がここの商品を購入されたことなど何時の事です。お客様も大丈夫ですよ。」
「そりゃ自分が女だったら一回は着てみたいとは思いますが私は男です。さすがに女装趣味はありません。」
キッパリと断る自分。
興味がないとは言い切れないがわざわざ女装してもこのようなファッションが似合うとは到底受け入れられないし、他の女装している男性みたいに回りの目を気にしない高度なテクニックは持ち合わせていない。
只でさえ人波荒立てぬようにひっそりと暮らしている自分である。ここで女装と言う選択肢は無かった。
すると彼女はこう言い切った。
「それならば女の子だったら良いんですね。」
その時の彼女の笑顔は決して営業のための作られた笑顔ではなく本心からの玩具が見つかった無垢な子供のような笑顔でありその途端、私は急激に眠気に襲われ椅子に寄り掛かり意識を手放そうとなった。
そして瞳を閉じる瞬間、私は彼女の前髪に隠されたすべてを見透かし、覗きこむような瞳が目にはいったのである。
どのくらいの間眠っていたんのだろうか。ふと目が覚めると見知らぬ天井が目にはいる。
ムクリと体を起き上がらせ回りを見渡す。
鈍く黒光りしたオーク材の床の上に大きなクローゼット。その横には死角となって詳しくは見えないが大きな鏡が付いた化粧台がちらりと目にはいる。そして自分が横たわっていたベット。
生活感の感じられない部屋の中に私一人ポツリとベットの上に体を起こしていた。
白いシーツは糊が効いておりピシッっとベットを整える。その中で自分を中心にシーツはうねりを上げ自分の両手に繋がっていた。
部屋は適度に冷房が効いておりクローゼットの横には外出時に着用していた洋服一式がオープンラックに掛けられていた。自分はそのまま体を起こしベットから立ち上がろうとする。
その時ふと視界が狭いことに気づく。
具体的に言うとベットから立ち上がろうとシーツをめくったときだ。
両手で掴んでいたシーツを離すと何時もよりも視界にはいる肌色の面積が多いのだ。
ハッとなりシーツを捲る。
視界に写ったのは女性の全裸の下半身だった。いやこの説明は正しくないだろう。性格には自分の体が女性の体になっているのが目に入ったのだ。
視界の下部を隠す胸に女性特有の細い足。
両手を見ると足同様に細い腕。
もちろん無駄毛など生えておらずスッキリとしている。
そして目に引くのは毛でおおわれた自分の股間。
ついさっきまでそこにはおおわれた毛の先に男根が男の象徴としてそびえ立っていたが今は見る影も残しておらずただただ何も付いていない股間が目にはいるだけだった。
その真実に呆然とする私はフラフラと立ち上がり邪魔な前髪を横に流しながら死角となっていた化粧台の前まで全裸で歩いていった。
そして私はもう一度衝撃を受ける。
なんと私はあの店員とそっくりそのままの姿になっていたのだ。
瞳が隠れるぐらいの前髪は横に流してあるが目、鼻、口、耳などの顔のパーツは彼女そっくりで女性特有のなで肩に世間一般では大きい分類に入る二つの乳房。
先端にはさくらんぼ色のぷっくらした突起が片方づつ付いており小さく自己主張しているようだった。
私は両手で鏡の縁を持ち愕然とする。さっきまではいったい自分自身に何が起こっているのかわからなかったがこう鏡の前で現在の自分について現実を見せつけられて信じられない気持ちで一杯であった。
ふらふらとベットに戻る。
悪い夢は夢の世界。これは一夜の悪い夢。二度寝をして忘れてしまおう。そう言ってベットの中へ戻っていく。
そしてうねりを描くシーツにくくまりながらこの一時の夢から時離れようともう一度夢の世界へ旅だったのである。
「起きてください。」
「・・・」
「起きてくださいってば。」
「・・・」
掛け布団越しでわしゃわしゃシーツと一緒に体を揺さぶられる。
これは悪い夢だ。妙にリアルな明晰夢。きっとこの悪夢は一晩過ぎると一夜の幻として消え去るのだろうそうつらつらと現実から目を背けていた。しかしながら現実は変わらないようだ。
「起きてくださいよ。そう現実逃避しても現状は変わりませんよ。大体その一糸纏わぬあられもない裸体のままでいいんですか。」
眠りに落ちる前、ファンシーショップにいた店員さんの声が先程から繰り返し耳に入る。それが今この状況を現実だと認識させていた。これは起きるしか選択肢は残されていないのだろう。
いやいやながらムクリと体を起こす。
前を隠すように両手で持ったベットのシーツがあられもない自分の裸体を隠す。
目の前にいる店員。
目、鼻、口などの顔のパーツは鏡の前で確認した自分自身と全くの同じでありその他もろもろ今、目の前でにこやかな笑顔を浮かべる彼女と瓜二つであった。
鏡写しのドッペルゲンガー。
表現するならばその言葉であろう。
そんな現在の自分の状況に自分自身のキャパシティが耐えられる訳もなかった。
「いったいこれはどう言うことなんだ。私自身に何をした!」
強く彼女を問い詰める。
この状況を作り出したのは彼女しか考えられないからの発言であり半場脅すように強い言葉で問い詰めた。ここで自分の声が女性特有の高い声になっていたがここでは関係ない話である。
しかしながら彼女は私の質問に答える事はなかった。
「良かったですねお客様。念願の女性の身体、自分以外の存在で御座います。世間一般では美少女に分類されるその身体、折角ならいろんなお洋服で着飾ってみませんか?」
彼女は私にそう提案をする。その時チラリと前髪に隠れた片目が目に入った。
確かにそれは私自身ファンシーショップで話した発言である。
『自分が女の子なら着てみたい。』
確かに私はそう発言した。
成る程。
こんな機会は一生に一度も経験することない素晴らしい提案であろう。私は彼女の提案に大きく首を縦に振る。
すると彼女はよほど嬉しいのか立ち上がると鼻唄を歌いながらクルクルとターンを描き、ベットの前にある大きなクローゼットへ向かっていった。
そしてその大きなクローゼットが開かれるとそこには沢山のファンシーショップに取り揃えられた色とりどりのお洋服がところ狭しとハンガーに掛けられたのである。
私はベットの上で座り込む。
彼女はその色とりどりのお花畑みたいなクローゼットから何着も、何着も引っ張り出してはベットの上で大きく広げ一着一着を吟味する。
その間、男の時は外すものであったブラがまさか付ける側になるとはおもわず彼女に一つ一つ教わりながら下着一式を着用。
彼女が言うにはこのスタンダードなフルバックショーツは淡い紫の生地に小さくフリルが付いておりブラもそれに合わせたセットにしてあるらしい。
そうこうしている内に彼女は選び終えたのか数点のお洋服を私に差し出す。
彼女による私と彼女のファッションショーである。
ベビーピンクに大小さまざまな水玉模様のワンピースに三段ティアードのサーキュラーになっているスカート。
その姿はロカビリーな少女を連想させ、後ろに結んだポニーテールに使われている同じ柄のハンカチはロケンロールな気分を味わいさせる。
ファンシーショップの店内で紹介されたランダムドットのワンピース。
大きな黒渕のサングラスを頭にかけ黒のヒールで組み合わせたファッションはさっきとは真逆の大人っぽくクールにそれでありながら無邪気で活発な印象を与えさせた。
まるで不思議の国のアリスから飛び出してきたような俗に言うお茶会ワンピース。
ブルーのギンガムチックにエプロンをあしらった愛らしいデザイン。白黒のボーダーソックスに頭のリボンがまるで絵本の中から飛び出してきた印象を受ける。
そうして何十着の洋服が彼女の手によって私自身を着せ替え人形のように私自身の姿を変える。
ワンピース一式に始まりロリータファッションにおける甘ロリ、ゴスロリ、和ロリなど一着事に写り代わり行く姿に自分もそして彼女も楽しんでいった。
いや正確には彼女の場合、違っていただろう。
彼女は可愛く見せている自分自身に欲情していたのである。その目は決して私に向けられている訳ではなかった。
何十回目かの着替えた終えた時、服を脱いでいた私を彼女は持ち抱えうつ伏せにベットの上に転がした。その時に履いていた黒の靴が転げ落ちる。
彼女の指が私を締め付けていたコルセットの背面のグログランリボンを解き、一つ一つ穴から外していく。すべてをはずし終えると彼女は私を起こし、そのまま彼女自身もベットの上に座り込むと後ろから抱きつくようにお腹を擦り始めた。
腰に回された彼女の両手がそのまま上の方へ滑らすと何一つ隠されず露になった両方の胸をなで回す。
この時の私は退避と歓喜の両方を持ち合わせていた。
彼女に言われた女性の身体。
着飾るだけでは勿体ない。女性の快楽。
男性には感じることのない独自の快感。
そこに胸を踊らせ彼女の次の行動を待ちわびる。
しかしながらそこで男性としての思考がそれを邪魔してしまう。
ここでもう一つの思考が言い返す。
誰が自分の事に恥ずかしいと感じるだろうか。
自分が自分に攻められる。
一種の自慰。
それに退避感など待ち合わせるわけがない。
抱きつかれた背中には感じるものはなにもない。代わり生暖かい彼女のものがおしりの所へ押し当てられる。
彼女の両手で撫で回された快感で私の乳首は勃ってしまう。それを彼女の唾液で濡らした指で撫でられ、摘まれ、爪で弾かれ脚の力がだんだんと抜けていくのが感じられる。
「続きをしたい?」
「・・・」
「返事は?」
乳首を弄くりながら彼女はうしろから耳元に囁く。
そして彼女は中指と人差し指を口のなかに押し込む。その二本指をゆっくりと舌の上で撫で回し、爪で上顎をこする。引き抜かれた時には私自身の唾液によって糸を引きテラテラと乱反射を起こし輝くいやらしく欲情的な二本指となっていた。
「どうして欲しいの、言ってごらん?」
そう言って彼女は私の耳を舐める。
耐えきれず私は下腹部に手を回す。しかしその手は彼女の手によってあっけなく振り払われた。
彼女の両目が私の眼を見透かすように見つめる。
まるで彼女は自分が考え、何をしたいか。すべてが見透かされているように感じました。
「気持ちよくさせて…」
「何処を?」
「…ここ」
彼女はその言葉を聞くと同時にその欲情的な指を含んだ手を下腹部を再度滑らせるとそのまま粘液に包まれ柔らかく膨らんだ陰核を撫で上げる。
あぁ、とか弱く女性特有の細く弱々しい声が私自身の口から漏れる。男性と時には感じることのない快感が一点に凝縮された感覚は自分が今、女だと自覚するには十分であった。
ベットの上には私を攻める『彼』と攻められる私しかいませんでした。
快楽の頂点に達しベットの上にた折れ込む自分。
そこに『彼女だと思っていた彼』が両手で私の顔を包みこみます。
上から降りてきた唇に私の薄い唇が触れ合いキスをする。
舌が唇を滑り、大きな手が首もとから胸元へ滑り、もう一度露になった胸を包む。
固くなっていた私の乳首は悦びを感じ激しく自己主張を始めていました。
彼が巻いていたストールはベットの枕元に放り出され、身体を隠すように着ていたゆったりとしたお洋服はベットから滑り落ちる。
かれはそのままその自己主張された私の乳首に応じるように、先端を爪で弾き、柔らかな指の腹で摘まみ、余った指で挟んだ指の間から顔を出している小さな赤い花を擦りました。
「ああぁぁ」
もう一度感じる快楽。
されど二度目の快楽は先程と違いさらにさらにと求めるように彼へとすがる。
脚の間からは生暖かい蜜が再度溢れだし、感じ、身体を震わせるたびに湿った音を響き渡らせました。
やがてその音も次第に大きくなっていくと彼は膝を離し、突起した私の鎖骨に噛みつき、優しく舐める。
「脚を開いて」
「イヤ…だ」
「いいのかい。そんな事言って」
そう言って彼はまた両目で私を見つめる。
ファンシーショップでお茶を貰ったときも、ベットの上で何が起こったのか説明してもらう時も、彼が後ろから抱きついた時も、彼は隠れた前髪の隙間から私を見つめてくる。
あぁ、私はあなた。あなたは私。男のあなた。女のあなた。女のあなたは私自身。同じ男でありながら貴方の心の女へと成り変わる。
自分自身を愛するのは当たり前。
彼は探していたのだ。女の貴女を。それがなぜ私なの。そんなの知るよしもない。
今ここにあるのはその事実。疲れきった自分が新しい『私』へ成り代わる。
彼はもう一度私に質問を掛けてきました。
「これが欲しいんだろう。だったら脚を開きなよ。」
そう言う彼の股間には自分の陰核を数倍にも大きくしたような太く大きい真っ赤に充血させた陰茎が目に入り、それはいつの間にか包皮は剥け、亀頭は露出させていました。
私はゴクリと唾を飲み込みます。
私に付いていたはずのその性器に嫌悪感はありません。むしろからだの奥底が彼のあそこを求めているのが実感しました。
そして彼は私の膣口の前に押し当てるとゆっくりと私の中へ陰茎を押し進めます。肉を掻き分け進める肉棒。不思議と痛みを感じることもなく彼を私は受け入れました。
亀頭が収まるぐらい入れた後もう一度私は彼と唇を交わす。舌と舌が混ざり合い唾液の音が甘美に部屋中に響き渡ります。
互いにペッティングをしながら彼が残りの肉棒を私の中へ突き進める。
処女の証である処女膜が破られながらも痛みはあまり感じることがなくただ自分の艶やかな股に赤い鮮血が流れるのみ。
彼はそのまま私の腰に手を回し身体を少し浮かすと前後に身体を動かしはじめました。
このセックスに愛があるか。
あるのは自己愛のみ。
それはそうです。あくまで二人は同じ存在ですから。
しかしながら女の私は全くの他人、それも男の記憶を持っています。
その男に上書きされるようにインストールされた今の自意識は彼と同じ存在で在ること認め、女で在ること認めそれを確認するかのように今の行動があるのです。
まあ快楽に貪り付いているのには否定しませんが。
そうつらつらと考えながらも身体は正直であり、快感に身を捩らせ甘く艶かしい喘ぎ声がキス同様に二人きりの空間に響き渡ります。
ふと過ぎ行く男の時の残留意識。
その事を思い出さないよう快感に全身を委ね彼に抱きつく事により虚しさを解消させる。
そして膣内の彼の肉棒がさらに固くなり尿道が太くなるのが感じられます。
その数秒後、彼は私の中で射精し、熱くドロドロとした精液を私の中でぶちまけました。
その時、私も膣内の締め付けが強くなるのを感じ決して男が感じる事のできない強い快楽の波、オーガニズムに襲われます。
その後、快楽と疲れが入り交じりあい疲れ果てた私は彼の目の前でそのまま眠りに落ちました。
その後の話を少ししておきましょう。
私は彼と一緒にファンシーショップで働いています。
彼は普段からファンシーなファッションを身に纏い自分自身に欲情していました。それが彼が求める可愛らしい自分であるから。そんなとき深層心理で変身願望を持った私が来店したわけです。
そこに目をつけた彼は愛すべき自分でありながら自分でない存在に思い付きとっさに私で試したそうです。
え、一体どうやってかって?
そんな事私の知るよしも有りません。
あくまで私は彼でありながら彼ではないのですから。
彼になぜ私を女にしたのか聞こうなどこれっぽちも考えた事もありません。私は彼に何も不満を持つことなんかありませんからね。同じ自分の事ですし。
自分自身に欲情する彼自身が別の自分に欲情するため作り上げた私は彼が愛する少女趣味の服に身を包みます。
まるでお人形のような整ったの顔の横には、光を反射しながらまっすぐに黒い紙が下ろされておりその反射はまるで天使の輪を連想さます。
フリルやレースのあしらわれた服にヘッドドレスを付け、黒地に白レースのスカートに黒や白のブラウスを合わせたその服は俗にいうゴシック・ロリータ、ゴスロリでありその服に身を包んだ私はエレベーターの前で待機します。
フロア表記が1F、2F、3Fと移り変わりチンとエレベーターからこのフロアに到着したベルが鳴る。そしてエレベーターから数人のお客様が顔を出しました。
わたしは御来店されたお客様に礼儀正しくご挨拶をする。
「ようこそいらっしゃいました。ここはファンシーショップ『ナルキッソス』。貴方が貴方を愛する最高の一つをあなたへ。」
宮木あや子の『官能と少女』という短編集に収録されている「コンクパール」にインスパイアされた作品です。