※この作品はR-18です。

東方嫁探訪   作:一ノ瀬 崇

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第一幕
何処だ此処。そして出逢った美しき波斯人。


 

 

「そんな……そんな、バカな……っ!!」

 

 

 まさか、とは思いつつも。

 嫌な予感はずっと首筋の辺りに張り付いていた。

 何度も注意を向けて思考を巡らせた。

 間違い等、起こる筈が無かった。

 だが……認めざるを得ない、恐れていた事が現実になってしまった。

 

 

「何処だここ……」

 

 

 そう。

 迷子である。

 困惑とちょっとばかりの自嘲と共に俯く。

 力無くだらりと下がった右手には、郷から京への地図が握られている。

 何度も読み返して少しくしゃくしゃになってはいるが、読み難かったり不鮮明だったりする箇所は一切無い。

 つまり、俺が地図を読み違えたのだろう。

 がっくりと肩を落として如何したもんかと思案していると、背後から人の気配が近付いてきた。

 

 

「あの……如何かしました?」

 

 

 波一つ無い水面の様に澄んだ声色。

 落ち着きの中に一滴の艶を垂らした、とでも表現しようか。

 そんな女性の声に振り向く。

 瞬間、俺は固まった。

 

 

「えっと……もしもし?」

 

 

 鳶色の上衣と紫陽花色の小袖。

 一見すると地味に思えるその色彩の上に、太陽の如き輝きが有る。

 さらさらと流れ行く金髪のショートボブの合間から、やや尖って見える耳が覗いている。

 何より特徴的なのは、その瞳。

 宝石をそのまま埋め込んだかの様にきらきらと目映く美しい、此方を向いた緑眼。

 色白の肌はきめ細かく、白磁の壺と見間違う程だ。

 日本人離れした容姿だが、文句の付け所が無い。

 一言で言えば、美人。

 欲望を言うなら、嫁にしたい。

 そんな女性を前に、俺が言う事は唯一つ。

 

 

「ノー! ノー! アイアムジャパン!!」

「え、あ……あの、日本語で大丈夫ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 トチ狂った俺を宥めて、彼女は茶屋へと案内してくれた。

 くっ、まさか今になって外国人恐怖症が出るとは。

 同じ金髪でも嫁さん連中は平気なんだがなぁ。

 

 

「はい、お茶とお団子貰って来ましたよ」

 

 

 先程の女性が両手に皿とお茶を持ってやってくる。

 随分と器用らしい。

 

 

「有難う、お代は後で俺が纏めて払って置くよ」

「悪いですよ」

「綺麗な女性の前なんだ、格好付けさせてくれないか?」

「まぁ、お上手ですね」

 

 

 たおやかに微笑みながら隣へ腰を下ろす女性。

 一挙一動が艶やかと言うか、絵画を動かしている様な、そんな美しさが有る。

 っと、見惚れてないでお茶を頂くとするか。

 少し熱いくらいのお茶を一口飲み、草団子を食む。

 素朴な味わいだが、ついつい手が伸びる味だ。

 同じ事を思ったのか早くも二本目を掴んだ彼女がくすりと笑う。

 

 

「いけません、止まらなくなってしまいます」

「お代は気にしなくても良いが、食べ過ぎると晩御飯が入らなくなりそうだな」

「流石にお団子だけで済ませては身体に悪そうですね」

「夜中に起き出して鯖でも焼くか……出火と間違われそうだな」

「ご近所への謝罪回りで顔からも出火してしまいそう」

「ははは、そっちの火消しは骨が折れそうだ」

 

 

 軽妙な会話を楽しんでいた所で、ふとまだ名乗って居なかった事に気付く。

 

 

「そう言えば名乗って居なかったな。俺は望月契、好きに呼んでくれ」

「あ、私ったら名乗りもせずご馳走になってしまって。水橋と申します。下の名は無いのですが、皆様からはパルスィ、と」

「宜しくな、パルスィ。……しかし珍しい名前だな、パルスィ、パルスィ……ん? もしかしてペルシャか?」

 

 

 串を爪楊枝に見立てて口の端に立てながら、遠い記憶を辿っていく。

 確かペルシャの人をパルスィだかパルシだか呼んでいた筈だ。

 そんな俺の呟きに、パルスィは軽く目を見開いた。

 

 

「ご存知なのですか? この国の人は海の外へ出る事が無いと聞いていたのですが」

「ん、あぁ……ちょっと珍しい経験をしていてな。色々と聞き齧ったんだ」

 

 

 旅行じゃなくタイムスリップだけどな。

 いや、一応にとりの転移でルーマニアとかは旅したんだっけか。

 どっちにしても飛ばされた訳だが。

 そんな俺の思考を読める筈もなく、パルスィは頻りに頷いていた。

 

 

「ケイさんは博識なんですね。さっきもブリテン周辺の言葉を口にされてましたし」

「いや、咄嗟に出たんだが多分文法も単語も間違ってる。勉強は苦手でなぁ」

「ふふ、それでも出てくるのは凄いですよ。私だったら何も言えずに固まってしまいそう」

「パルスィの彫像なら是非持って帰りたい所だな。一日中眺めていられる」

「あら、もしかして私口説かれてしまってます?」

 

 

 少し首を傾げて微笑んでくる。

 柔らかな雰囲気につい引き込まれていた様だ。

 いかんいかん、パルスィが絶世の美女だからと言って、こうもはしゃいでしまうとは。

 

 

「迷惑だったか?」

「いいえ、ケイさんみたいな素敵な方なら大歓迎です。でも残念」

「先にパルスィの心を射止めた幸せな奴が?」

 

 

 くそっ、何て羨ましい。

 しかし見る目は有るじゃないか、末長く爆発しろ。

 呪詛でも撒き散らしそうな程に歯噛みする俺を見て楽しそうに笑ったパルスィが、ぱたぱたと右手を振る。

 

 

「外れです。でも三日後には祝言を挙げる事になっています」

「……ん? 相手は居るのに外れ……あぁ、家の取り決めか?」

「当たりです。見ての通り私は外来人なのですけど、数年前に水橋家の当主……義理の父に拾われまして」

「拾われた?」

「ええ、恐らくは航海の途中で船が沈み、奇跡的に私が流れ着いたのだと。私自身は死に掛けていた所為か、自分に関する記憶が消えてしまいました」

「成程なぁ。記憶を無くすと不安なんだよな、自分が何処に居ても邪魔なんじゃないかって思い出して」

「ケイさんも記憶を?」

「今は何とか思い出したけどな」

「ふふ、お揃いですね」

 

 

 眩しい笑顔を向けてくる。

 やめろよ、好きになっちゃうだろ。

 俺ってこんなにチョロかったっけ、と自問自答している間にパルスィは二人分のお茶と団子のお代わりを注文していた。

 届いた団子を一串食べてから、また会話を続ける。

 

 

「それで自分を波斯人、ペルシャの人だと説明しようとしたらパルスィと言う名前だと認知されてしまいまして」

「下の名前が無いって言うのはそれでか」

「今ではパルスィでも良いかなって。心はすっかり日本の人ですし」

「お茶と団子もお気に入りみたいだしな」

「あっ……も、もう。余りからかっては駄目ですよ?」

 

 

 少し膨れて見せる。

 そんな様子も可愛いと感じるのは、程好く篭絡されている証左だろうか。

 

 

 ────ケイ? 

 

 

 突然脳裏に笑顔のルーミアが過る。

 あっ、はい。

 お痛はしません。

 

 

「如何かしました?」

「いや、何でもない。ちょっと団子の欠片が喉にぴたっと貼り付いてな」

「ふふ、きっと天罰ですよ」

「これだけの美人を前にして反応しない奴は男色家に違いない。……そう言えば祝言を挙げると言ってたが」

 

 

 先を促す様に振ってみたが、パルスィは俯いてしまう。

 ……これは地雷を踏んだか? 

 

 

「悪い、答えにくい話題だったか」

「いえ、大丈夫です。……事の始まりは先月、義理の父が亡くなった事なんです」

「それは……お悔やみ申し上げる。きっと素晴らしい人格者だったんだろうな」

「ええ、身内の贔屓目ですが、とても立派な人でした。妻と子を流行り病で亡くした所で私を拾い、実の子の様に可愛がってくれて……。でも先月、その父も流行り病で逝ってしまいました」

 

 

 そこで区切り、手元のお茶をくいと飲み干す。

 そしてまた、訥々と語り始めた。

 

 

「家長を失った水橋家に、叔父を名乗る方が現れました。変わらず面倒を見ると言っていましたが、如何やら本心は別の所に有るらしく」

「別の所?」

「上司に当たる方の息子との縁談を持ってきたんです。恐らくは出世の為の政略結婚でしょう。飲むのなら水橋家はそのまま私が使って良い、と。住んだ時間は短くとも、あの家には父との楽しかった思い出が沢山残っています。私に否と言える筈も有りませんでした」

 

 

 パルスィの話を聞き終え、何とも苦い思いが込み上げてくる。

 平成の世ならいざ知らずこの時代では政略結婚等珍しくも無いのだろう。

 家柄が相手を選ぶ程だ、庶民で無ければ恋愛結婚も出来ないのが当たり前。

 

 

「相手はどんな男なんだ?」

「それが叔父は会ってみてのお楽しみにしておけ、と言って教えてくれず終いでして」

「見合いでも無ければそんなもんか……」

 

 

 頷きつつも、俺の首筋にチリっと焦げ付く様な感覚が走る。

 会わせない理由か。

 相手が面倒だと会いたがらないか、それとも。

 

 

 ──会わせたくない、か? 

 

 

 仮に会わせてみて相手が嫌がれば叔父とやらの出世は危ぶまれる。

 覚えを目出度くするのに差し出した娘を先方が気に入らないと言えば全てがご破算だろう。

 だがこれ程の器量の娘を否と言う男は居ないと思うんだが。

 ちらりと、横目でパルスィを見る。

 実に可愛らしい。

 不思議と、何とか助けになってやりたいと思わせる雰囲気が有る。

 ……っと、いかんいかん。

 また見惚れてしまっていたな。

 軽く頭を振って思考を元に戻す。

 他に、パルスィと相手を会わせたくない理由。

 有り得そうなのは、パルスィが嫌がる可能性か。

 家の為と或る程度は割り切っているであろう娘が、それでも相手を嫌がったら如何なるか。

 先方の面目は丸潰れ、叔父とやらも今後その上司の元では余程の成果を上げねば評価はされないだろう。

 それを恐れて、否応の問答が既に手遅れな状態になるまでは当人同士を会わせない。

 理由としてはこっちが妥当かもしれんな。

 となれば、パルスィが相手方の情報を多く持っている筈も無い。

 その辺の事情に詳しく、ぺらぺらと喋ってくれそうな奴を探すか。

 と、そこまで考えた所で緑の瞳がじっと此方を見ているのに気付いた。

 

 

「考え事はお済みですか?」

「あぁ、悪い。ちょっと考え込んでいた」

「もう、口説いた人を放っておくなんて駄目ですよ? ほら、次はケイさんの事を教えてくださいな」

「俺の事を?」

「私ばっかり話していたら不公平じゃないですか。早く話さないと私の晩御飯がお団子になっちゃいますよ?」

「ははは、そんなに可愛らしく脅されてしまってはこっちの負けだな。それじゃあ、先ずは何から話そうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、少々お待ちください」

「ほいよ」

 

 

 恭しく頭を下げて部屋を後にした使用人を見送り、座椅子に座ってのんびりとお茶を頂く。

 楽しい語らいを終えた俺は、パルスィに案内して貰って何とか見覚えの有る通りに辿り着いた。

 お礼を述べると「またお話を聞かせてくれたら、今回の貸しは無しにしますよ」と言う何とも可愛らしい取引を持ち掛けられた。

 勿論二つ返事で了承した。

 つくづく出逢いの遅さが悔やまれるな。

 姿が見えなくなるまで見送ろうとしたが、お互いに同じ事を思っていたらしく見詰め合ったまま中々動き出さないと言う、恋愛ドラマか何かみたいなやり取りをして漸く本来の目的地である藤原家へとやって来た。

 顔馴染みの使用人に迷って遅れたと言ったら随分と不思議な顔をされた。

 解りやすい地図が有る上に暫く此処を拠点にしていたからな。

 内緒にしておいてくれよ、と先程持たせた菓子折りが使用人部屋に届いたのか、遠くから歓声が僅かに聞こえてくる。

 それから暫くして、とたとた廊下を渡る音が響いてきた。

 襖がからりと開き、見覚えの有る男が姿を見せる。

 

 

「にょっす、望月君」

「何で会う度に珍妙な進化をし続けるんだ……」

「ふふふ、如何だいこの姿は。もう弛んでいるとは言わせないよ?」

 

 

 ノリノリでポージングを決める不比等。

 藤色の単に包まれたボディは、何故か筋肉モリモリマッチョマンになっていた。

 変化が激し過ぎてキモイ。

 

 

「いやね、前に望月君から特製の味噌を貰ったじゃない? あれで肉を調理するとこれがまた美味しくてねぇ。最初は付き合いでやってる鷹狩りで獲った鷹とかを使ってたんだけど、兎や猪のが美味しいと聞いてからはちょくちょく山に入っては獲物を鍋にしていてね。強力な弓を引いたり山道を駆け回っている内にムキムキになっちゃってさぁ」

「やる事が極端過ぎる……」

「一緒に山に入った使用人達もムキムキになっちゃって、今では京一番の私兵隊って呼ばれる様に」

「それで妙にガタイの良い奴が増えてたのか」

 

 

 頭痛を押さえながら何とも言えない顔を向ける。

 視線に気付いた不比等は、ニカリと笑ってポーズを取る。

 ちょーうぜぇ。

 

 

「まぁ、それは置いといてだ。ちょいと尋ねたい事が有るんだが」

「スリーサイズは秘密だよ?」

「何が悲しくて不比等のスリーサイズ何か聞くか!」

 

 

 久し振りに全力で突っ込んでしまった。

 やはり不比等相手だとペースが狂いっぱなしだ。

 

 

「そうじゃなくて、水橋家の事で聞きたいんだよ。パルスィって呼ばれてる美人が居るだろ?」

 

 

 そう口にした途端、不比等の表情が消える。

 何だ何だ、水橋家は政治絡みで厄介事でも有るのか? 

 がっしりと両手で俺の肩を掴み、重々しく口を開く。

 

 

「また嫁さんを増やすんだね……望月君のリア充め! 爆発しろ!」

「既に爆発したんだよなぁ。その爆発で不比等に助けて貰った訳だが」

「私とは遊びだったのね、ヒドイワ!」

「遊びですらねぇよ! と言うか裏声使うんじゃねぇ!」

「ま、冗談は置いといて」

「切り替え早過ぎて付いていけてねぇよ!」

 

 

 くつくつと笑いを噛み殺しながら離れる不比等。

 此処まで遊ばれるのも新鮮と言えば新鮮だ。

 

 

「あぁもう、情報持ってるんならキリキリ吐けよ」

「すっかりやさぐれてしまって。一体誰がこんな酷い仕打ちを」

「お前だよ!」

「そうだったそうだった、あはははは。で、水橋家についてだっけ?」

 

 

 うんざり顔で頷きを返すと、不比等は俺の背後の箪笥から書類を取り出す。

 ……そんな近くに情報転がっていたのか。

 幾つかの書類をぺらぺらと捲り、やがて目当てのものを見付けた様子で語り出した。

 

 

「あったあった。水橋家は豪族に列なる家系で、元々の地位は低かったんだけど治水関係の実務で幾つか功を挙げてね。今では名家として数えられる様になったんだけれど、先月に不審死で家長不在となっているね」

「不審死?」

 

 

 パルスィの話では流行り病で亡くなったと聞いたんだが。

 その辺を問い質すと、不比等は多少苦い顔で答えた。

 

 

「彼が亡くなったのは、とある豪族達の宴会中でね。僕は生憎と参加していなかったから後で報告を受けたんだよ。聞いた所では、酒を飲んでいて急に倒れたらしい。元々酒には強かったらしいし、その時も無理な飲み方はしていなかったと信頼出来る人から証言は貰っているよ」

「アルコール中毒では無さそうか……」

「食事や酒に毒が入っていたのかと調べてみた結果、何も異常は発見されなかった」

「調べるって言っても、流石にはっきりと解る訳じゃ無いだろう?」

「いや、一つだけはっきりと識別出来る方法が有ったのさ。同じものを食べる、と言う方法でね」

「そりゃあ……また、随分な方法だな」

「毒味役を名乗り出たのは宴会を企画した一人の豪族だった。まぁ、毒だと解ったらこの宴会を開いた本人が一番疑われるからね」

「確かにな。で、結果毒が混入された形跡は無かったと」

「当人は今もぴんぴんしているよ。原因は解らず、取り敢えずは病としておこうと決まった様だね。調べようにも同じものを食べて無事な人が居る以上、他に考えられる死因も解らないしねぇ」

 

 

 確かに不審死ではある。

 だが亡くなったのが昨日今日ではなく先月だとすると、最早如何しようも無い。

 流石の永琳も焼き上げられた骨の検死は難しいだろう。

 

 

「で、今の水橋家の後見人は?」

「弟に当たる比佐壁守田だね。入り婿だから名前は変わってるけど」

「聞いた事が無いな」

「僕も詳しくは知らないね。如何やら彼らの祖父の代で親交が深かったとか。まぁ、その辺は如何でも良いか。それで、彼が取り入ろうと躍起になってる相手だけど、実は望月君も会った事が有る人だよ」

「なぬ?」

 

 

 突然の言葉に思わず聞き返す。

 俺にそんなお偉方の知り合い居たっけか? 

 頭の上に疑問符を浮かべていると、不比等が答えをくれた。

 

 

「ほら、前に輝夜ちゃんに会いに行った時、望月君の隣に座ってた大柄な人だよ」

「あぁ! あのぐふぐふ笑ってた気持ち悪いオッサンか!」

「ぶふっ」

 

 

 理解と共に出た言葉に不比等が噴き出す。

 そう言えばこっそり耳打ちしてた時もピクピクと口の端を震わせて笑ってたっけな。

 

 

「あー、おかしい。あれだけ有能な御仁でさえ、望月君に掛かれば気持ち悪いオッサンになるかぁ」

「だって隣でずっとぐふぐふ言ってるんだぜ。と言うか不比等も見惚れて無かったか?」

「書類や役人の男連中を相手にする毎日で、あれ程の美少女を見る機会なんて無いからねぇ。いやはや、良い目の保養になったよ」

「まぁ良いや。で、あのオッサンが偉いんだっけか?」

「名を多治比嶋。解り易く言うならとても偉い人だよ」

「あのオッサンがねぇ、人は見た目に寄らないもんだ」

「ハーレムキングの望月君には言われたくないだろうね」

「何でそんな言葉知ってるんだよ」

「紫ちゃんが色々教えてくれてるよ。茶飲み友達だからね」

 

 

 どや顔で胸を張る不比等。

 まさか紫の交遊関係が此処まで広いとは……いや、不思議でも無いか。

 一度迷いの竹林で会ったらしいし、妹紅の父親だから話し易いだろうしな。

 

 

「で、此処からが重要な所。彼には七人の子が居るんだけど、この末っ子がまた厄介でね。他の兄弟達は政務に打ち込む勤勉な若者なんだけど、末っ子だけは家庭環境の所為か酷く粗野な性格らしい」

「甘やかされたクソガキか」

「女癖は悪い、金遣いは荒い、その癖自己顕示欲が強くて権力を渇望してる。彼も末っ子の扱いには手を焼いていてね。自分が幾ら言っても耳を貸さないと嘆いていたよ。そこへ比佐壁氏が話を持って行った訳だ。彼も嫁を貰えば多少やんちゃは収まるだろうと考えたらしく、これを承諾した。そんな所かな」

 

 

 ふむぅ、と腕を組んで考えてみる。

 予想通り相手の男は相当酷い奴らしい。

 だが会わせなかった理由としては上で勝手に取り決められていたので当事者達に話が届いていないだけの様にも感じる。

 中々難しい所だ。

 なまじパルスィに肩入れしている分、公平な視点から見る事が出来ては居ないが、それでも現状であれこれ動き回るには少しばかり理由が弱い。

 

 

「これで水橋のおやっさんが毒殺された、とかなら話は早いんだがな」

「証拠が無いからね。それに、実際に結婚してみたら上手く行く可能性だって有る訳だ」

「人の心ばっかりは一か零かに振り分けられないからなぁ」

「ま、何か有っても望月君が何とかするんでしょ?」

「勿論」

「ブレないよねぇ。あ、そうだ」

 

 

 唐突に不比等が声を上げる。

 

 

「そんなリア充の望月君に、新しい嫁さん候補が増えるかもよ」

「……なぬ?」

 

 

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