都でやる事を終えた俺は阿礼、紫、パルスィ、華扇を伴って家路に着く。
元々暇潰しを兼ねた近況報告くらいしか用事は無かったから、実質パルスィ関連の騒動が今回の旅のメインだったな。
件の久守への威し付けもとい嫌がらせだが、その日の深夜に紫と二人で行ってきたらしい。
先ず紫が枕元で銅を燃やし緑色の炎を出して東河まで誘導、到着した所で久守を取り囲む様に炎を浮かべ動けなくした後パルスィが正面からゆっくりと歩み寄る。
後数歩まで迫った所で炎を消して暗闇に紛れて背後に回り、逃げ帰ろうと振り返った所で視線を合わせる、と言う演出をしたらしい。
流石は紫と言った所か、発想が素晴らしい。
前情報無しでやられたら俺でも悲鳴を上げるかもしれん。
当然久守も悲鳴を上げて這う這うの体で逃げ惑ったらしく、それを見送った二人は戻ってからも暫くは笑いが止まらなかったとの事。
芯の強い女性陣だ。
パルスィ暗殺やその他の罪に関しての実務的な事は不比等に丸投げし、水橋家のごたごたはこれで一先ず終わりとなる。
然程何かを成し遂げた記憶も無いが、まぁそれくらいが一番良いのかも知れない。
幾ら俺でも出歩く度にイベントが発生する筈も無いだろう。
「フラグ塗れなんだよねぇ」
「ふらぐ、ですか?」
「気にしなくて良い」
パルスィや阿礼にも色々と怪しげな現代語の習得をさせるべきか、させないべきか。
華扇は現代語を通り越して中二病を発症しているから問題は無いが、意思疎通には若干の手間が掛かる。
その辺は紫に任せ……いや、それはそれで妙な事になりそうな気がする。
「しかし、話には聞いていたけれど……随分山の奥に有るんだね?」
額に汗を滲ませながら肩で息を吐く阿礼。
根が張り出していたり石が埋まっていたりと、山歩きに慣れていない子女には大変な道だ。
そろそろ頃合いか、と背負っていた風呂敷の荷を左手に回し屈んで背中を向ける。
「もう少しだ。ほら、乗って良いぞ」
「あー……誘惑に負けてしまう……」
「多少揺れるぞ、しっかり手を回して捕まってろよ」
ぽふりと覆い被さって来た小さな身体を背負う。
汗を吸った小紋の重さを感じるが、阿礼だけならもっと軽く思えるだろう。
ふと視線に気付くと、前を歩いていた紫とパルスィが羨ましそうに振り返っていた。
「阿礼良いなー」
「良いですよねー」
「前見て歩かないと二人共危ないぞ」
「はぁーい」
「大丈夫ですよ。何だか身体がいつも以上に元気みたいで。不思議と疲れも出てないんです」
「おにいさんの血液を直でイっちゃってるからねー、多分普通の人間じゃなくなってると思うよ。詳しくは永琳さん、郷のお医者さんに診てもらったら解るかな?」
「あら、それは大変。でしたらケイさんに責任を取って頂かないといけませんね……?」
「隙有らばおにいさんに迫って行くスタイル」
何とも愉しげに笑うパルスィだが、言葉通り疲れている様子は無い。
血を取り込んだ事で変異したのかそれとも栄養ドリンク的な効果が出ているのか、はたまたその両方か。
レミフラ姉妹よりも余程吸血鬼染みた力になってそうだ。
その内眷属化が出来たりしてな。
そんな事を考えていると左手に持った風呂敷を漁られる感覚に気付く。
見れば華扇が竹の皮の包みを取り出していた。
包帯の巻かれた右手には同じ様な包みが既に三つぶら下がっている。
「もう四つ目か」
「美味しくて止められないわ」
「つっても、郷に着いて暫くしたら晩御飯だぞ」
「今日はパルスィさんと阿礼ちゃんの歓迎も兼ねて鴨鍋だよー」
「鴨鍋! それを聞いたら益々お腹が空いてきたわ!」
「華扇もわんぱく枠だよなぁ」
包みを開けて中のおにぎりへ早速かぶり付いている。
今朝方作って置いたものだ。
中身は紫のリクエストで昆布の佃煮。
余ったら晩御飯に回すかルーミアへのお土産にでもする心積だったが、この分だと全部無くなりそうだな。
「ん? 道が……」
思わずと言った様子で声を上げたのは阿礼。
視線の先、丘を越えた辺りからそれまでの獣道とは打って変わって整備された石畳の道が続いている。
郷への道路だ。
左右には背の低い樫の木が立ち並んでおり、地面には所々に木漏れ日が差し込んでいる。
鬼の連中に酒樽を二十と、つまみのちゃんちゃん焼きを出したら一週間程で完成した。
相変わらずあの連中の大工技術は良い意味で解らん。
先に駆け出した紫が石畳の上に飛び乗り、くるりと振り返って両手を広げる。
「ようこそ、幻想郷へ!」
「おぉー」
「此処が噂の!」
「と言っても入り口も入り口、端っこの境界部分なんだけどね」
満面の笑みで胸を張る紫。
小鼻もぴすぴすと得意気だ。
それを受けてパルスィがやんややんやと手を叩いて囃し立てる。
阿礼も感嘆の声を漏らして身を乗り出した。
とは言え此処は端も端。
幻想郷の素晴らしさを感じるにはまだまだ序の口だ。
霧に煙る事の多い湖が、晴れた日に見せる優美な水鏡。
楢の木の間に聳える紅き西洋建築の館。
守矢神社から見渡す郷と山々の風景。
何れも他の風光明媚な観光地に劣らぬ雄大な景色だ。
是非ともその美しさを魂に刻み付けてもらいたい。
そんな風に思っていると、四つ目のおにぎりを食べ終えた華扇が指先に付いた米粒を舐め取りながら言う。
「時間はいっぱい有るんだしゆっくり堪能すると良いわ。住めば都って言うし」
「華扇は食べ物以外も少しは堪能しろよ」
「ふふん、ちゃんと風景も雅に堪能してるわ。ケイさんとは違って歌も詠めますし」
「ぐぬぬ」
得意気に鼻を鳴らす華扇。
確かに俺に和歌は詠めない、それは認めよう。
だが華扇に負けたとなると悔しい。
尻でも張ってお仕置きとは名ばかりの憂さ晴らし兼セクハラでもしたい所だが、生憎と両手は塞がっている為唸るくらいしか出来ない。
「よし、後で揉み拉く」
「何を!?」
真っ赤になって胸を隠す様に腕を回すが、狙いは胸だけでは無い。
胸の形ではルーミア、柔らかさではミスティア、感度ではぬえに軍配が上がるが華扇の真の実力は尻に有る。
形、張り、感度、質感、叩いた時の音。
全てに於いてトップを独走するのが華扇の尻だ。
それまで胸一辺倒だった性癖に尻と言う風穴を開けたのは記憶に新しい。
そんな俺の邪な視線に狼狽える姿に多少溜飲を下げていると、背中に溜息を吐かれた。
「本当にやんちゃと言うか腕白と言うか、何だろうね」
「性欲魔神と言う事で一つ」
「おいこら紫」
「それだ」
「阿礼も納得すんな!」
「くふふっ、今から夜が楽しみですね」
「パルスィが予想以上に積極的で戸惑いを禁じ得ない」
「おにぎりまだ有る? ケイさん」
「全部食ったらルーミアにぺちぺち叩かれるぞ」
賑やかに騒ぎつつ石畳を進む。
均整の取れたとまでは行かないが目立った凹凸も無く歩き易く仕上げられている為、それまでの山道と比べて格段に足が楽だ。
因みに飛んで移動する事はルーミアを筆頭に多数の嫁さんから禁止を言い渡されている。
確実に迷うから、と言うのがその理由だ。
慣れた道だけ飛んでそれ以外は歩けば大丈夫だろうと高を括っていた俺だが、その自信は先日に敢えなく打ち砕かれている。
まさか不比等の所へ行って迷子になるとは思わなかった。
京に辿り着いたからと適当にぷらぷら歩いていただけで迷子になるとは、果たして何が悪かったのか。
方向音痴だなんだと揶揄される度に憤慨していた頃が懐かしい、帰ったら益々一人で出歩かせてもらえなくなるかも知れん。
とは言え、そう悪い事ばかりでも無い。
「如何かしましたか、ケイさん」
「今日もパルスィは綺麗だな」
「くふふ、ケイさんったら。そんなに私を喜ばせて如何する心積ですか?」
迷ったからこそ、パルスィと巡り逢えた。
奇縁と呼べる程に紆余曲折有った道程だが、それでも十二分に良い結果を得られた。
漫然と迷っているのではない。
言うなれば新たなる出逢いが俺を誘っているのだ。
俺は悪くない。
と、言う事にしておこう。
「お、見えてきたぞ」
何か察したらしき紫のジト目を振り切り、緩やかな上り坂を越えると遠くに郷の入り口が見えてくる。
外周には野生動物避けの柵を巡らせてある。
時折迷い出る猪や鹿を追い返す為のものだ。
南西には守矢神社と山、北には諏訪湖、東には諏訪湖から流れてくる川が有り、偶に諏訪子も流れてくる。
川を越えて更に北東へ進めば紅魔館が見えてくる。
山に登れば直ぐに解る程度には目立つな。
逆に北西に進めば移住してきた幽香の庭園に行き着く。
最近酪農分野にも手を広げた通称ゆうかりんランドは、郷の食の半分以上を支えていると言っても過言ではない。
「あの柵は……動物避けかい?」
「あぁ、三箇所有る郷の入り口以外は全て覆ってある。一昨年だったか、でかい猪が山から下りて来て郷の作物を食い荒らした挙句人に襲い掛かってきた事が有ってな」
「えっ、何それ私知らない」
「華扇が郷に遊びに来る前だからな。駆け付けた神奈子が直ぐ様鎮圧した。怪我人らしい怪我人も出なかったから良かったが、流石にそのままって訳にも行かないから柵を立てた」
「随分高いですね? ケイさんの背丈よりも高いみたいですが」
「あぁ、猪の飛び上がる力ってのは意外と強くてな。阿礼くらいの大きさの柵だと飛び越えて来るんだ」
「そんなに高く! いやはや、野生の獣とは凄いものだね。今はもう?」
「あぁ。柵を設置して以来、郷に迷い込んで来る事は無くなったな」
今は定期的に山狩りに出向いて間引いているから、郷や社に近付く獣は居なくなった様に思う。
特に熊は徹底的に駆除した。
北海道と違って羆ではないから幾分気は楽だが熊に変わりは無い。
登別の牧場以外に生息する熊は全て潜在的な脅威でしかないので共存は無理だしな。
この時代では正しく生存競争だ。
そんな事を考えながら歩いていると、門前の辺りに差し掛かった所で風を感じた。
と言っても別に中二病が再燃した訳じゃない。
指向性を持った風が額を撫で行き、一拍遅れて黒い翼を持った幼女が飛び込んで来たのだ。
「契さーん!」
「おっと」
胸元に返る柔らかい感触。
生憎と両手は背中の阿礼を支えるのに使っているので抱き止めてはやれないが、飛び込んで来た当人は気にした様子もなく楽しげに頬を擦り寄せている。
深いスリットが扇情的なお手製の天狗装束を着込んだ黒髪の幼女。
この数年で少しばかりの成長を遂げた文だ。
とは言ってもまだまだちびっこ。
将来の成長に期待が高まる可愛い幼女だ。
「お帰りなさい、契さん! 紫ちゃんもお疲れ様!」
「ただいま、文」
「やほやほー」
「文ちゃんこんにちは」
「こんにちは、元気な娘ですね」
「やぁ、こんにちは」
「こんにちは!」
胸元から離れた文はしっかりと挨拶を返してから首を傾げる。
神出鬼没な紫は別にしても、華扇が居るのは割と珍しい。
更には見知らぬ二人も追加とあって、頭の上にハテナが浮かんで見える程の傾げ具合。
「まぁ、自己紹介は後でな。文は先に近場の皆に声を掛けてきてくれるか?」
「おまかせです!」
「紫はいつもの様に文が捕まえられそうに無い連中を頼む」
「はいはーい、紫ちゃんにおまかせ」
ばさり、と小さな羽を広げて飛んでいく文。
今日は黒の紐パンか、色気が有って実に素晴らしい。
やはり幼女は黒の紐下着が最高だな。
スク水や白のワンピースに麦わら帽子何かも良いが、黒の、特にマイクロビキニやローライズの破壊力には及ばない。
そんな俺の邪念を感じ取ってか、紫は脛にげしっと一撃蹴りを見舞ってからスキマを通って行った。
幽香達農園組と鬼の連中、古明地家に旧命蓮寺組らへんが紫の担当だ。
家に戻って一っ風呂浴びた頃には丁度集まって来るだろう。
脛に響く鈍い痛みに中々良い蹴りを放つじゃないかと感心しつつ、三人を引き連れ門を潜り一路我が家へ。
途中俺を見付けて手を振るちびっこ達や店の奴等に挨拶を返しながら歩いていると、頭の上から感嘆の息が漏れた。
「いやはや、此処まで人と神との距離が近いとは」
「それだけケイさんが民の皆さんに慕われていると言う事ですね、素晴らしいと思いますよ」
「変に構えなくても良いのは有難い所ね」
三者三様の反応を見せる少女達。
驚きを抱えてはいる様だが、何れにしても好意的に受け取られているのは有難い。
郷の特色や地理、これまでの歴史や開催している祭や地酒等について説明をしながら歩いていくと、漸く懐かしの我が家が見えてくる。
と言っても一月も離れて居なかったと思うが、それはそれとして置いておこう。
望月神社の鳥居を潜れば綺麗に舗装された参道と手水舎が有り、正面に拝殿、右手に社務所が有る。
今日はぬえと響子が詰めていた様で、此方を見付けて元気良く手を振っている。
二人共に巫女服を着ており、実に可愛らしい。
それに手を振り返しつつ拝殿奥の母家へ向かう途中、不意にパルスィの足が止まる。
「ん、如何した?」
声を掛けてみるがパルスィは黙ったまま、真っ直ぐに拝殿の左奥を見ている。
釣られて目を向けると、こじんまりとした離れ座敷が見える。
あぁ、と納得しつつも鋭敏な感覚を持った彼女へ感心の声を上げる。
「成程、パルスィは気付くか」
「あの離れがどうかしたのかい?」
「……いえ、此処に在ると言う事は、悪いものでは無いのですね」
「ははー、初見で見抜いちゃう?」
同じく感心する華扇と、頭に疑問符を浮かべる阿礼。
パルスィは暫し考え込む様にしていたが、直ぐに納得した様子で警戒を解いた。
まぁ阿礼が気付かなくとも無理は無い。
最初から聞き及んでいたルーミア、神奈子、諏訪子、紫を除けば勇儀、萃香、華扇、美鈴、輝夜、永琳、幽香、チルノくらいしかその違和感と言うか異様さに気付けなかったからな。
パルスィがそれに気付いたと言う事は、能力の高さや感覚の鋭さが嫁さん達の中でも上位に分類されると言う事だろう。
郷の防衛戦力が益々高まった気もするが、その辺は紫に全部丸投げしておこう。
「あれはちょっとした仕掛け……と言うか術が施された所でな。利用する時になったら詳しく教えよう。どうせこの場で聞いても理解は出来んだろうし」
「ふむん。まぁ、面白そうだとだけ覚えて置くとしようか。それはそうと、そろそろ降ろして貰って良いかな」
「ほいよ」
阿礼を降ろして玄関の方へ向かうと、丁度誰かが出て来る所で引き戸がからからと音を立てて開いた。
現れたのは青い髪に蒼いふっくらリボンを付けた活発そうな幼女。
その後ろには五人程幼女達が列を成しており、皆で何処かへ向かう途中だったらしき事が見て取れる。
が、彼女達の目標は俺だったらしい。
「ケイだー!!」
「え、契さん?」
先頭の幼女の声を皮切りに声が重なって行く。
そう感じたのも束の間、次の瞬間には腹部へと衝撃が走っていた。
「ケイー♪」
「契さん!」
「お兄様ー♪」
幼女達が次から次へと飛び付いて来た。
一人二人ならまだしも、六人続けての襲撃には流石に耐え切れず背中から倒れ込む。
両手両足胴体首筋と一気に取り付かれる。
これが怪物ならホラー一直線だが、見目麗しい愛する幼女達なので微笑ましさしかない。
とは言っても一応叱っておく事は忘れない。
「こらこら、危ないから飛び付いて来たら駄目だと言ってるだろ」
「えへへ、ごめんなさい。でもケイの顔を見たら好きって気持ちが抑えられなくなっちゃって」
「私もー」
「右に同じく」
幼女達の楽しげな声。
反省はしている様だがそれ以上に嬉しさを感じているのが伝わってくるので、中々心を鬼に出来ない。
まぁ、萃香を筆頭に鬼は情の厚い奴等ばかりなので、この郷に於いてはこの慣用句が微妙に通じないのだが。
「ともあれ一旦退いて、皆を居間に集めて置いてくれ。その後紹介と宴会を始めるぞ」
『はーい♪』
六人の声が重なり、わらわらと家に戻っていく。
やれやれ、元気が良すぎるのも困りものだな。
そんな事を考えながら埃を払って起き上がると阿礼とパルスィは呆気に取られた様子で目を丸くしていた。
皆の元気さを身を以て体験した事の有る華扇は相変わらずねと苦笑いである。
「契、今の娘達は?」
「後で自己紹介してくれると思うが、ざっくり言って皆俺の嫁だな」
「……いや、うん。慣れた。慣れた事にする」
「……くふふっ、流石はケイさんですねぇ」
「順応が早いわねぇ」
多少の困惑は有った様だが割とあっさり受け入れた二人。
思い切りの良さに華扇は感心した様子で腕を組んで頷いていた。
気を取り直して家に上がる。
玄関に活けてあるのは幽香の所から貰ってきた季節の花だ。
白い十字の花弁が可愛らしい。
「玄関先に花を飾っているとは風流だね」
「あら、本当。何の花でしょうか」
「そりゃ大根だな」
「え」
ロマンチックの欠片も無い正体。
基本的に花が咲く前に収穫して食べるから、大根の花を見た事が無いのも当然だろう。
畑弄りをする奴以外は目にする事も無いしな。
予想外の答えに、阿礼は何とも言えなさそうな顔で口をもごもごさせている。
パルスィは興味深げに花を覗き込んでいて、華扇は台所から漂ってくる匂いに意識を持っていかれている。
お前ついさっきまでおにぎり四つも食ってただろ。
纏まりの無い三人を連れて廊下を歩き、一際大きな襖を開ける。
宴会用の大広間。
そこには俺が縁を結んだ娘が勢揃いしていた。
そして始まる大宴会。
食べる組と談笑する組とひたすら飲み続ける組に分かれてのどんちゃん騒ぎだ。
初めの内に嫁が増えた事を報告しパルスィと阿礼の自己紹介を終え、序でにおにぎりを全部平らげた事が発覚し華扇がルーミアにぺちぺちされた。
「しかしどれも非常に美味しい。これは太ってしまわないか、実に恐ろしいな」
「解ります。ご飯の誘惑が強すぎるんですよね……」
一口食べる度に目を輝かせる阿礼に頷きを返しているのは星だ。
彼女も家に身を寄せる様になってから、暫くは料理の美味しさに打ち拉がれていたからな。
最初は使っている食材や調理法が違うからだと自分を納得させようとしていたので、ちょっとした意地悪がてら精進料理を振る舞ってやった。
一輪も腕は悪くないが食道楽を追求する為に磨き上げられた俺とルーミアの料理に宿る、旨さと言う暴力には敵わない。
結果は見ての通り、食事を何よりの娯楽とする虎っ娘が一人誕生した。
寺回りの因縁は別にしても、最早毘沙門天の代理としての威厳は欠片も無い。
「くっ、相変わらずの美味しさ……!」
「まだまだこの味は出せないわね」
蒟蒻と蕗と蒲鉾の煮物を食べながら自分が作ったのと何が違うのかと首を捻る一輪。
我らがキャプテン村紗は筍ご飯をお代わりしながら出汁の分量を推量している。
俺もルーミアも最近は割と感覚で入れてる所が有るから、具体的にどれくらいかと聴かれると案外困るんだよな。
人に教えるのなら、目安の量がはっきりしていた方が絶対に良いのは間違いないんだが。
そんな風に食事を楽しんでいる面々を眺める俺はと言うと、全身を固められ一切の身動きが取れずにいた。
理由は幸せそうに抱き付いて来ている幼女達だ。
「うふふー♪」
誰ともなく楽しげな鼻歌を紡ぐ。
今俺の体にはチルノ、大ちゃん、さとり、こいし、レミリア、フラン、ぬえ、響子、文と言った我が郷が誇る精鋭の幼女達に加えて新たに二人の強力な幼女が居る。
名を、望月茜と望月灯と言う。
二人とも俺の娘だ。
茜が産まれて直ぐにルーミアが灯を孕んだので、二人の歳の差は一年も無い。
茜が三歳、灯は二歳。
やんちゃ盛りで中々目が離せない。
とは言っても、大半はルーミアを始めとした嫁さん達が代わる代わる面倒を見てくれている。
特に育児経験済みのルーミア、神奈子、諏訪子の三人は頼もしさが違う。
実際、俺が居ない状態で確りと鼎を育て上げてくれたのは他でもない三人だからな。
(……そう言えば今年はまだ墓参りに行ってないな)
明日辺りにでも、線香を上げに行こうか。
そんなしんみりとし始めた俺を案じてか、膝の上に乗っていた灯が小さな手を伸ばしてきた。
温かい手が頬をぐいっと押し上げる。
「う? とーたん」
「どうした、灯」
息を溜めて頬をぽこぽこ膨れさせてみせると、灯は楽しそうに笑いながら紅葉をスタンプしてくる。
ぺちんぺちんと景気の良い音を鳴らしていると、反対側の膝から忍び笑いが漏れる。
「灯ちゃんは元気づけてくれてるんですよ♪ ねー灯ちゃん♪」
「う!」
思わずマンボと返したくなるような声を上げて茜の言葉を肯定する灯。
仲の良い姉妹だが、その見た目は割と違う。
茜は艶やかな黒髪に、所々緑髪が混じっている。
目は母親譲りの紅い瞳で、悪戯を思い付いた時に細まる雰囲気はもうルーミアそっくりだ。
灯は麗らかな金髪で、一目でルーミアの血を引いているとよく解る。
目は俺と同じ黒。
何処までも吸い込まれて行きそうな深い輝きがある。
二人とも将来は美人さん間違いなしだな。
服は俺の小紋と同じ生地を使って縫ったものを着ている。
お揃いで気恥ずかしくもあるが、当人始め嫁さん達にも好評らしく皆同じ小紋を箪笥にストックしてある。
「しかし……こうして見ると壮観と言う他有りませんね」
「私の予想だとまだまだ増えていくわね」
衝撃を受けている様子のパルスィにはルーミア、諏訪子、神奈子が付いている。
郷の説明に加え、嫁さん同士の取り決めなんかも伝えている様だ。
「喧嘩になったりはしないんですか? 例えば、そう、契さんを独り占めしたくなったり」
「あー……昼間と言うか軽めのイチャイチャなら解らんでもないかな」
「夜の方の意味だとしたら……私は勘弁願いたい所だな」
「あら……何故です?」
「まぁ後で解るよ、嫌と言う程」
「ケロ子は丸三日は駄目になってたものねぇ」
「ルー子が強靭過ぎるの。三ヶ月ぶっ通しで抱かれ続けた挙げ句、中断理由が灯を孕んだからってだけで出て来た時は余裕綽々だったじゃん」
「まだ七年は行けたわ」
「こっちだと四十二時間半くらいか」
「一時間半で孕み胎になって出て来たルー子を見て霊霞は卒倒しそうになってたけどね」
耳を向けて聴いているが、パルスィにはちんぷんかんぷんだろう。
謎の鍵を握るのは離れ座敷。
先程ちらりと見掛けたアレは、俺が初めてルーミアと出逢った時に見付けた、丸太で組まれた小屋だ。
元は山中に在ったあの小屋を萃香達鬼の手を借りて、うちの神社の敷地に持って来たのが三年前。
思い出深い小屋を捨て置くには惜しいと、只の記念の心算で建て替えたのだが……これが予想を超えた結果を齎した。
当初から人の手が入った様子も無いのに保存食や毛布が置かれていたり、それらが劣化した様子も無かったりと不思議な所は幾つも有った。
それがうちの敷地に来て、怪異と呼んで差し支えない程の能力を身に付けた。
あの離れ座敷の内と外では、流れる時間が違うのだ。
紫が小首を傾げていたので原理や理由は全くの不明だが、離れ座敷内での一日が、外での一分に相当する。
中で三日過ごした場合、外では三分しか経ってないと言う事だ。
直接害を及ぼす効果では無いし活用方法も多そうなので、取り壊さずそのままにしてある。
念の為俺かルーミアが一緒に居ない限りは立ち入りが出来ない様な結解を紫に張ってもらっているので、誰かが迷い込んだりはしない筈だ。
そしてそんな不思議空間でやる事と言えば当然、ヤる事だ。
がんがん増えていく嫁さん達が順繰り回しているとは言っても、俺が一晩に抱ける人数には限りが有る。
気分的には全員抱きたいのだが、生憎と息子は一人っ子だ。
まぁチンポが五本も六本も生えてるのも怖いが。
なので必然、一度抱いた嫁さんとは暫くご無沙汰となってしまう。
俺はほぼ毎日フル稼働、嫁さん達は数週間に一度だけ。
これでは双方にストレスが溜まってしまう。
何かいい解決法は無いかと思っていた所に現れたのが、この離れだった。
当面の安全性が確保されてしまえば、後はもう篭ってヤリまくる以外に無い。
俺は一人の嫁さんを相手にじっくり楽しめるし、嫁さんも数日に渡って独り占め出来ると大層お喜びだった。
俺が羽目を外してハメまくった所為で、性的にタフじゃない嫁さん達は次回以降尻込みしてしまったが。
ちなみに、臆する事無くパスした嫁さん達の番を譲ってもらって抱かれに来るのはルーミア、チルノ、妹紅、萃香、響子の五人だ。
ルーミア以外は割と意外な面々かもしれないな、特に響子。
「契は相変わらずの幼女磁石だねぇ」
ご機嫌に盃を傾けて笑う萃香。
そう言えば、茜が生まれた辺りで呼び方が元の契呼びに戻った。
赤ん坊を見て当人の中で何かが晴れたらしい。
詳しくは聴いていないが、元気になったのならそれで良い。
ご主人様呼びも中々に面白かったが、やはり萃香はへべれけ幼女の方が可愛いからな。
そんな感じでいつの間にかお馴染みの瓢箪を片手に、暇さえ有れば呑む様になった。
今までの禁酒を洗い流す様に。
「何だったら混ざるか?」
「私は空いた時間で抱き着くから良いのさ。……離れ座敷でね」
頬に酒のものとは違う朱を差して笑う。
余談だが、進んで抱かれに来る中で一番最初にダウンするのは萃香だ。
鬼なのに案外スタミナが無いのと、感度が高過ぎるのが要因かもしれない。
俺監修の夜伽ランキングだと、スタミナ一位は今の所チルノだ。
その後ろに響子、妹紅、萃香と続く。
ルーミアとはイチャイチャが優先して獣みたいに貪り合う事がほぼ無いからまだしっかりと計測出来ていないので、今の所はランキング外だ。
感度部門ではほぼ横並びと言って良いが、やはり萃香がわずかに抜きん出る。
視線を合わせただけでイクのは流石に如何だろうと悩みもしたものだ。
此方もルーミアは計測不可。
より深く心を交わしたからなのか、イク時は常に同時となっている。
早いのも遅いのも自由自在、寧ろ俺の方が快楽をコントロールされている可能性すら有る。
一体何処まで伸びるんだルーミア。
今となっては一方的にアヘアヘさせる自信が無い。
互いの弱点を知り尽くしたからこその紳士協定と言うか、互いへの手加減が生まれている状況だ。
やはり郷で一番強いだけの事は有る。
遠い目をしているとまた灯がほっぺたをむにむにしてきたので、一先ずとっ散らかった思考を追いやって意識を戻す。
「と言うかアレだ」
「んぅ?」
「流石に暑い」
「あせだく!」
何が琴線に触れたのか更にテンション高く胸板をぺちぺちしてくる灯。
取り敢えず皆に離れてもらって身体を伸ばすと、間接がばきぼき鳴り響く。
やっぱ十一人は多いな。
次からは夜伽だけじゃなくトーテムポールも順番性にするべきか、と頭を悩ませているとねっとりと絡み付く様な視線に気付く。
「成程……離れ座敷にそんな秘密が……」
丁度話を聞いたらしいパルスィが、緑色の瞳を向けて来ていた。
どろりと軟体が粘り付く様な視線。
数度感じて分かったが、これは如何やらパルスィが俺へ向ける情欲の感触らしい。
こんな風に感じるのはルーミアが何かしら俺にメッとする時くらいだが、もしかしたらそれと同じくらいの強度の感情を宿しているのかもしれない。
(……存外、良い嫁さんを見付けたのかもしれんな)
向きは如何あれその強さは本物。
俺が思う以上に、パルスィは愛の深い女なのかもしれん。
それを確かめる機会は、この後にやってくる。
宴会が終わり片付けを済ませたら、離れ座敷へと向かうとしよう。
都へ行っている間は性欲処理出来なかったからな、今日の俺は我慢が出来ん可能性が有る。
青娥?
アレは……妖魔退治の一環なのでノーカンだ。