「お、おい…………」
いきなり相模が動いたかと思うと、俺の胸に顔を埋めるように抱きついてきた。
顔の置く位置はちょうど心臓の部分であり、バックンバックン言っている激しい鼓動が絶対聞こえている状態。
なんかすげーはずかしいんだけど。
「………ごめん………なさいっ」
やっと開かれた唇は、さらに震えていて、声はかすれていた。
「あの時は、あんたがいなかったら、ぐずっ………うちの高校生活は終わってた………。うち、バカだから…………あんたの意図に気づいてなくて、うぅ……あんたを、ひどい目にあわせた。ほんとはうちが背負うはずだったものを、あんたに背負わせちゃった…………。だから、ごめんなさい……………」
じんわりと俺のワイシャツを伝って相模の熱を感じた。
ーーああ、こいつは気づいたんだ。俺がやったことも自分がやったことも全部。
なら俺がここで言うセリフは、言わなければならないセリフはなんだ?
こういう場合は優しい言葉をかければ大抵は心が落ち着く。それはあの葉山隼人を見ていれば、容易に想像できる。だけど、全てを知ってしまったこいつにかけるべきセリフはそれじゃないと、俺はそう思う。
だったらーー
「お前、なに勘違いしてんだ。あれは別にお前を助けるためにやったことじゃない。あの時のお前を見ていると無性に腹が立ったから、思ったことをそのまま突きつけてやっただけだ。それに葉山が反応して掴みかかっただけだし、それが転じてお前は標的にされなかっただけだ。そういうのは全部葉山に言ってやれ」
客観的に見ればこれが事実だ。そして俺の感情としても間違ってはいない。
「うん、そう言うと思った」
だけど、その言葉はすでに相模の中では想像されていたようだった。
さらに力を込めて俺に抱きついてくる。
「でも、それでも言っておきたかった。あんたはうちのことなんか嫌いだろうけど、それでもこれだけは言わなきゃと思って………ぐすっ………」
「お前やっぱバカだわ。好きな奴といえば戸塚と小町だし、嫌いな奴なんてよっぽどの奴じゃなきゃいねぇよ。それに最近じゃ、奉仕部のやつらが妙に抱きついてくるからな。変な空気になるわ、由比ヶ浜なんかは発情したりするわで大変なんだぞ。反面お前らはそんな俺に超日常を感じさせる要因なんだ。嫌う理由はない」
やっべ、なんかしおらしい相模を見てたら、オートでお兄ちゃんスキルが発揮されちゃってるよ。なに相模の頭を優しく撫でてるんだよ。バカじゃねーの?! バカじゃねーの?!
「なにそれ……………あんたってどうしようもないお人好しだよね」
「そう感じるんだったら、頭を割いて脳を医者に診てもらえ」
「うん、でもなんか……………ありがと」
未だ顔は俺の胸に押し当ててはいるが、その声は明るいいつもの調子に戻っていた。
まずいな………。
これは非常にまずい。
明るくなったのは相模だけではなかった。
女の子独特の甘い匂いに当てられ、俺の息子さんも明るくなってしまった。
ヤバい、さすがにこれはヤバい。
話でもしてこいつの気をそらさなければ………。
「結局、人は本質なところは変わんねぇんだろうな。お前なんて結局臆病風に吹かれてそれに抗うように強がって」
「なっ!? き、気づいてたのっ!?」
「そりゃな。今の話を踏まえれば容易に想像がつく。あーだからお前よく突っかかってくるようになったのか。なるほどなるほど」
「ちょ、ばっ、な、なに言ってくれちゃってんのよ。変な言いがかりはやめなさいよ。うちはそんなこと全くーーッッッ!?」
「お、おま、暴れんなって………ってなんかすごい惚けた顔してんぞ」
「ちょ、ばか、うごくなぁ。それ以上うごいちゃ…………」
え?
なんでこんな生々しい声を出しちゃってんの?
というかさっきから布越しの股間に湿っぽいぬくもりを感じるんですけど?
小町じゃあるまいし、履いてないなんてことはないだろうけど。
まさか、な………。
「イッッッ!?」
もぞもぞと体を動かして確認しようとした矢先。
相模が果てた。
……………………………。
相模が果てた?
……………………………。
うん、相模が果てた。
「あっ、だめ、いま、こすったらぁ……………また、きちゃう」
いや、相模さん?
動いてるのあなたですからね。
俺、上に乗っかられて身動き取ろうとしたけど取れませんでしたからね?
「ひきがやの、ばかぁぁぁぁああああああああああああああああああっっっ」
ここがカラオケ店で本当に良かったと思う。
結局、あれから一曲も歌わず、時間も二時間弱残して退出した。滞在時間二時間もない。元が取れてないんじゃ……………、まああのままいても居心地悪いだけだし?
あれ? そういや、こいつの誕生日を祝うために俺は駆り出されたんじゃなかったのか?
それが、なんであんなことになっちまったんだ?
いや、もういい。考えないように。相模も思い出したくないだろうし。人前で三回(あれからもう一回)も絶頂に達したなんて口にも出したくないだろうからな。俺も口が裂けても人には言えねーよ。
「ううっ…………比企谷に見られた………鬼畜の比企谷に貞操を奪われた………」
「いや、そこまでしてねーからな。しかもどっちかっつーと、勝手に動いて果てたのお前の方だからな」
言ってから気づいた。
口が裂けたら普通に声に出してた。
だめじゃん俺。
それから仕方がないので、なりたけに連れて行った。最初こそ渋っていたが、いざ口にしてみたら表情がパッと明るくなって、それを俺に見られたと思ってまた顔が赤くなっていた。なんか一人百面相みたいで面白かった。
「たまにはラーメンもいいかもね。あ、でもたまにだからね。あんなの女子にはカロリーとかめっちゃきついんだから」
え?
なにそれ。
また連れてけってこと?
んなわけねーよな。相模だし。一色じゃあるまいし。
「ここまででいいよ」
そう言った相模を見上げると、どうやら駅に着いたらしい。
ああ、なんかどっと疲れた。
「それじゃ、またね」
またね、か。
そういや、雪ノ下もいつだったかそんなことを口走ってたな。
あの小さな手の振りからはギャップがあって可愛かったのはここだけの秘密だ。
「はあーやっと帰れる」
でも帰るとなー。
小町が、なー。
「おかえり、お兄ちゃんっ」
玄関のドアを開けて早々、小町が抱きついてきた。つい反射で受け止めてしまったが、背中に回した右手に伝わる熱がなんか直接的だった。と思ったら背中ががっぽり空いたワンピースを着ていた。
うん、ブラしてないね。それとこの左手の柔らかい感触。パンツすら履いてないね。
俺の妹はいつの間にこんな変態的になってしまったのだろうか。
とりあえず、相模のせいで掻き立てられた性の衝動をマッサージと称して、小町の胸や尻を揉むことで発散した。五回くらいは絶頂に達していたかもしれない。終わった頃にはカーペットがすごいことになっていた。
そして変わって月曜日。
俺は相模にも由比ヶ浜と、なんなら小町や一色と色違いの首につけるアクセサリー(決して首輪と言ってはいけない)を誕生日プレゼントとして渡した。色は赤。ちなみに由比ヶ浜はピンクで小町が黄色、一色は黒。
すごく顔を赤く染め上げたのは言うまでもない。
でも、素直に受け取ったのには驚きだったけど…………。
そのまま俺は相模に拉致られ、屋上へと続く踊り場へと連れてこられた。そして、アクセサリーを自分で首に巻きつけると、スカートを捲くってこう言ってきた。
「この前のもっかいして」