翌日。
事情を知った小町は昨日よりもさらに激しい起こし方をしてきた。とりあえず、五回くらい指で遊んでやった。
どこか不貞腐れる小町に見送られ、駅へとやってくるとすでに陽乃さんが待っていた。
出勤ラッシュで人がごった返しているはずなのに、白地のノースリーブのワンピースを着た陽乃さんを一目で見つけてしまった。我ながら変な能力を身につけてしまったと思う。
「ひゃっはろー、比企谷くん」
「うす」
なんでこんな時間から会わなければならないんだろうか。
現在の時刻は八時前。超ピークの時間帯。
「で、こんな朝早くから、何をしようって言うんですか。この時間帯じゃ、まだどこも店開いてないっすよ」
平日だから大体の店が開くのは十時以降だろう。
それまでの二時間、何をしようってんだよ、この人は。
「そりゃ、駅集合にしたんだから電車乗るに決まってんでしょ。ほら、いくよ。今日は一日比企谷くんで楽しませてもらうんだから」
そう言うと腕を掴まれ、引きずられるように改札をくぐらされた。
人混みをかき分けるように腕を引かれてホームへと出てくるとちょうど電車が来た。
「さー、乗るわよ」
人の流れに身を任せて電車に乗り込む。
ほんとにどこに行こうってんだよ。
「………朝のラッシュって結構ヤバいですね」
「まあ、社会に出れば、こんなもんなんじゃ、ないかな」
背中を中年のおじさんに押され、左右からももみくちゃにされ、結構な勢いで人酔いしてきた。ただ、陽乃さんも朝のラッシュは経験が少ないらしく、どこか嫌そうな空気を出している。
「……うわっ!?」
「きゃぁっ!?」
急カーブにより人の波が背中を打ち付け、陽乃さんを図らず壁ドンする形になってしまった。
どうしよう………。
なんか色々とヤバいような気がする。
何がヤバいって、今日の陽乃さんはすごくいい匂いがするのだ。たぶん香水とかの匂いではない。これは彼女本来が持つ体臭、謂わばフェロモンのようなもの。
俺を見上げてくる陽乃さんは段々と頰を紅潮させていく。
つられて俺も体が熱くなってくる。
「ね、ねぇ………その、さ。脚を………退けてもらえない、かなー」
「あっ、」
言われて自分の足に目をやると右脚が陽乃さんの両脚の間に滑り込んでいた。壁ドンした際にでも挟まったのだろうか。
で、もう一つ陽乃さんを見て気がついた。
この白いワンピース、前が全部ボタンで止められてるじゃねーか。
上から下まで全部。そう全部。
ああ、いかんいかん。それ以上は想像したら殺される。目の前の人かはたまたその妹にか。どちらにしろこんなやましいことを考えてしまったのがバレてしまえば、殺されるのは確実だ。
「い、いやその、これは不可抗力と言いますか」
脚をどけながらそう言うと、聞いてはいけないものを口にされた気がする。
「今日の目的としてはあってはいるんだけど、いきなりはお姉さんもちょっと心の準備が……………」
ん?
「え? あの、今日の目的って………?」
「………こんな混雑した時間に態々電車に乗ったのよ。しかもこんな格好までしてるんだからやることはひとつじゃない」
んん?
「え、あ、や、え?」
俺が今日の目的に対してたじろいでいると、
「んー? どうしたの、その顔ー。真っ赤だよー。…………触ってみる?」
空いている俺の左手を掴むと自らの胸へと運んでいく。
「い、いや、さすがにまずいでしょ。こんな人がいっぱいいるところでもし見つかったりしたら………」
「へー、さすがは比企谷くんだねー。こんな美人なお姉さんと密着してるっていうのにまだ理性を保てるんだー。普通だったら我を忘れて襲ってくるところなんだけど」
「いっぱいいっぱいなんですから、これ以上煽らないでください」
「うりうりー」
「あ、こらっ、あんたバカなんですかっ。こんなところでヤバいですって」
陽乃さんは胸を押し当てるように俺に抱きついてきた。
しかも俺の顔がちょうど彼女の項のところに持っていかれてしまい、否応なく彼女の甘い香りを嗅がされることになった。
「今日の君には拒否権はないんだぞ☆」
「横暴だ…………」
そして、我慢して数十秒後、一つ目の駅に止まった。
俺隊がいるところとは反対のドアが開き、おじさんたちが降りていく。
やっと密着が解放されたと思ったのもつかの間、降りた人以上に乗ってきて、思いっきり押しつぶされてしまった。
反射的に陽乃さんを庇うように両手で壁ドンをしてしまい、彼女の壁役になってしまった。
ああ、だめだ。
この状態じゃ、絶対に何かされる。
「ねえ、今ここで私が何をしても私に触れる気はないの?」
ニヤリと。
不敵な笑みを浮かべる陽乃さんがそこにいた。
ちろっと見せる舌が実に意地の悪さを膨らませてくる。
「な、ないですからっ。とにかく! こんな不慣れな状況では何もしないでくださいっ! なんだかんだで結構きついんですから、この体勢」
「へー、こんな不慣れな状況じゃなきゃいいんだ」
なんか言ってからしまったと思ってしまった。
だが、もう遅い。
「ふーん、それはいいこと聞いちゃった。うーん、だったら君には何もしないよ、君には」
大事なことなので二回言いました、みたいに言わないでもらえますかね。
陽乃さんは楽しそうに笑みを浮かべて、妖しい色を出してくる。
その口に人差し指を当てるのとか、絶対俺の理性を狩りにきてるだろ。
そして、彼女の手は口からするりするりと下に下がっていき。
止めたのは太ももの位置。
「え? ちょ、なにし…………」
思わず絶句してしまった。
あろうことかこんな人ごみの中でワンピースのボタンを一つずつ、下から外しだしたのだ。
ゆっくりと。
そう、とてもゆっくりと。
俺の欲望を掻き立てるように。
一つ外れたかと思うと、白く細い、だけどしっかりと肉のついた太ももが少しだけ見えてくる。
これが観れるのが俺だけだと思うと、なんだか彼女に対してのあらゆる俺の欲望が顔を見せ始める。
無言でゆっくりと二つ目のボタンに手をかける。
じっと見つめてくる目は、なんだか今朝の小町と重なって見えた。
……………。
え?
それはそれでヤバくね?
「…………ねぇ、……………ほんとに触らないの?」
心成しか彼女の呼吸が荒くなってきているような……………。
って、それよりもそれ以上ボタンを外したら下着が見えるって。
「………………」
「………………」
ガタンゴトンガタンゴトンという電車の規則的な音だけが俺の、俺たちの耳を通っていく。
そして、再度ふわっとした感覚に襲われた。
カーブだ。
カーブによって俺の重心は後ろに倒れ、ドアから手が離れていくのが分かる。
つられて陽乃さんも「きゃっ!?」と驚いて俺に抱きついてきた。
二重の体重が俺の体にかかってくるが、なんとか踏みとどまると、気づけば陽乃さんのことを抱きとめていた。
右手は耳の横を通して頭を掴み、左手は締まった腰に……………あれ? これ尻の方か? なんか腰にしては柔らかいような………。
「ひ、比企谷………くん……に、抱きし…………」
直後。
後ろにいたおじさんが体勢を立て直し、俺の背中を押してくる。
突然のことで俺はバランスを崩してしまい、陽乃さんの右肩に顔を置くように強く、彼女のことを抱きしめてしまった。
しかもまた右脚が彼女の両脚の間に挟まり、ボタンを二つ開けたことでさらに脚が奥に入るというコンボ付きで。
「………………ごめんね」
ポツリと。
そうこぼしたように聞こえたかと思うと、彼女の腰が前後にわずかに動き始める。
右の膝上くらいには幾ばくかの湿り気を感じ、同時に彼女が俺の腰に両手を回して強く抱きしめ返してきた。
そして。
首横に持ってこられた鼻が俺の匂いを嗅いでくる。
「あ、の………陽乃さん? もしかしてですけど…………」
さすがにこんな人ごみの中で聞かれたくもないし気づかれたくもないので、彼女の耳元に口先を持っていき、
「……発情、してます?」
そっと囁いた。
すると彼女は背筋を反り返るのを必死に抵抗するように、さらに俺を強く抱きしめ、目を瞬かせた。
右膝に伝わる感触はまさに洪水。
「間もなくーー」
アナウンスがもうすぐ次の駅に止まることを知らせてくる。
その数秒後にはブレーキがかかり、振動が体全体に伝わって来る。
慣性に抗うように俺の脚に力も加わりーーー
「あっ…………んんんッッッ!!?」
ーーー陽乃さんは声を必死になって抑え、大きく仰け反った。
プシュー、という音とともにこちらのドアが開いていく。
微動に震える彼女を連れ、俺は電車を降りた。
そろそろR-18をつけないとですね。
次かその次くらいの内容次第でつけるかもしれないので、一般の方になかったらR-18の方で探してください。
まだ、本番は迎えないと思いますけど………。
念のための予告でした。