※この作品はR-18です。

ハリーポッターと逆行少女の受難   作:色慾

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超見切り発車です。誤字脱字は多いかもしれない。そして各キャラクターが原作から乖離したご都合展開かもしれない。何でもありな方のみどうぞ。


受難の始まり
王の名


万物は流転し、生命は繁栄す。

 

頭上に広がるのはどこまでも続く紺碧の空である。眩い陽光に目を細め、足元に広がる「世界」を観る。

 

豊かな草原と鬱蒼とした森。獣たちが駆け巡り、餌を食み、狩り、追われ、生き、死ぬ。森の奥にある断崖には波が押し寄せ、濃紺の海がどこまでも深い色を投影している。浮かんでは沈む泡の様に。魚影は現れては消え、時折甲高い声を上げた海鳥がきゅうこうかする。

 

まごう事なき美しい世界である。だが、故に彼は孤高であり、ただ誰にも理解されずにそこに在る。自分でもないのに妙な寂寞感が込み上がる。思わず、抱きよせる様にその名前を呟いた。

 

『το ‘αγιον φλοξ』

 

 

 

隠して視界は明滅し、セブルス・スネイプは長い夢から醒めた。残業続きの彼にとっては、珍しくスッキリした目覚めだった。そして瞬き一つ分遅れて、驚愕する。目の前に、真っ白な獣の顔が迫っていた。

 

「は?」

 

白虎、と言うのだろうか。東洋の神獣として伝えられるソレは純白の毛並みに太陽の光を反射させ、漆黒の縞模様を光沢に波打たせながら、ただ愛しげにスネイプの頬を舐めた。いや、まて、ソレはおかしい。今己がいるのは地下室だし、こやつが眩い光を放つとしたらこやつ自身が発光体でなければおかしい。しかも、先ほど己の口をついて出た声色は明らかに慣れ親しんだ成年男性のものではなく、少し懐かしさのある少女のものだ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 

なんとか巨体を押しのけ、左腕をかざす。それは、節張った男のものではなく、皺一つない少女の繊細な指である。スネイプーーと言っても今は偽名ではなく本名のセシリアの方ではあるがーーは、ばっとベッドから飛び起き、ダボダボのローブに足を取られながら、なんとか姿見の前へ進んだ。はずみで蹴飛ばしてしまった獣が恨みがましい唸り声を上げたが、なぜか怖くなかった。

 

「は?え、どうしてっ」

 

何度もペタペタと頬をつねったり、触ったりする。鏡の中の己は、同年代に比べて体の小さな、11歳頃の女の子になっていた。あの、リリーと道をわかたれる前の自分が、寸分違わず映っていた。

 

「えっ、これ、ぼく?なんで、ぼく…どうしよう、どうしよう…」

 

思考まで退行しているのか、セシリアは落ち着きなく部屋中を歩き回り、遂には呆然と床に座り込んだ。白い巨体がそっと寄り添う。オロオロと視線を彷徨わせてから、セシリは本能が告げるまま、目の前の唯一の温もりに抱きつき、ぶるぶると身を震わせた。

 

「どうしよう、ぼく、は…」

 

セシリアの額を愛しそうに舐めて、獣は歓喜の咆哮を上げた。ダンブルドアら教員が部屋へ突入したのは、丁度その時だった。

 

「おお、陛下。まさかこの老体、御降誕を見えるとは思わなかったですぞい」

 

「陛下、めでたや、めでたや」

 

まず先頭のダンブルドアが入室するなり、膝を折り、白虎に大仰な礼をとった。続いてフリットウィックが歓喜の声を上げ、マグゴナガルも慌ててそれに倣った。

 

「いやはやセブルス…いや、セシリア。その姿を見るのは久しいのう。疑問は山ほどあるじゃろうが、ほっほ、陛下、花嫁殿は、この老体に任せてくれますかな、儂はこれでも、今代の『導き手』ですゆえ」

 

虎は大欠伸一つをして、光の粒となってかき失せた。ダンブルドアは杖の一振りでセシリアの服のサイズを直すと、新学期の準備があると言って退室したフリットウィックを除いた面々に紅茶を出した。

 

「新学期開始前なのが幸いしたのう。さて、どこから説明するべきやら…ミネルバ、お主がこの姿のセシリアを見るのは初めてかの?」

 

「ええ、本当に彼女がセブルスなのですか?一体、どうやって」

 

「ほっほっほっ、それは本人に説明してもらったほうが良さそうじゃ、良いかの、セシリアや?」

 

「どうせもうばれたことだ。ぼくは確かに女として生まれたが、リリーを守れるほど強くなりたいと願った。そして、女としての歳月を代償に男性の体を手に入れるべく、魔法薬を服用し続けた。まあその願いは、果たされることはなかったが」

 

最後の言葉は、自嘲が込められたものだった。マグゴナガルは突然の告白に暫く目を瞠ったが、やがてなんとか折り合いをつけたのか、一つ頷いた。

 

「分かりました。セブルス、いえ、セシリア。しかしそれは禁術ではありませんか?一時的な変身術ならともかく薬品で体そのものを変質させるなど。自然の摂理に逆らい、禁忌に触れるなどと…」

 

「じゃが、セシリアはそれを成し遂げた。儂も最初に知った時は驚いがの。他ならぬ本人の固い意志じゃ」

 

「それが、寿命を縮める結果を招いても、己の幸せを犠牲にするものでも、ですか?」

 

「そんなもの、とうに放り出してやった」

 

マグゴナガルは答えず、たった一人の友を想う彼女の胸中を察して、静かに抱き寄せた。セシリアはされるがまま目を閉じ、そして静かにダンブルドアに問うた。

 

「なぜ僕はこの姿に?そして、あれは一体なんですか?」

 

「そうじゃの、吟遊詩人ビードルの物語は知っておるな?」

 

「ええ、一通りは」

 

「毛だらけ心臓の魔法戦士という極めて残酷な寓話があったがの、あれば教訓を持たせるためビードルが改訂したものじゃ。あれの元となる口伝の物語は寧ろより悲恋と呼ぶに相応しいものじゃった。

 

『かつて天地が分かたれて間もなくの頃、人は知恵を得たばかりで、善悪の区別も曖昧に生きていた。あらゆる種族は混沌の中、互いに語り、分かち合って生きてきた。それらを見守る自然の化身は、1匹の獣の王であった。

 

獣は繰り返される生の営みを眺め、時に導き時に災害を持って試練を与えた。そして種族はそれぞれの長所と短所をしかるべきところで発揮し、繁栄した。だが獣は孤独だった。全てを手に入れながら、孤高の王として永久の生を強いられた彼は、番がいなかったのだ。

 

見守る必要がなくなった、知恵と愛の溢れた世界を獣はただ彷徨い歩き、やがて衰弱した。ある日獣の王は清浄な泉のほとりに辿り着いた。そこには一人の娘がいた。娘は問うた。

 

「あら?どこか加減が悪いの?」

 

自らの足で立ち、営みを繰り返す種族の大半は王のことなど忘れてしまったのだ。王は答えず、気怠げに目を開いて、娘を一瞥しただけだった。娘は泉の水を汲んでは、必死に獣に飲ませ、どうにか生き永らえようとさせた。どうしてか、惹かれるものがあったのだ。

 

獣は娘に求婚し、娘はこれを受け入れた。獣は心優しい娘に新たな知恵を授け、簡単な魔法を使えるようにした。だが幸せは長続きしなかった。不思議な力を使う娘は人の群れから追い出され、獣と共に荒野を彷徨い歩いた。人はやはり弱く、娘は直亡くなってしまった。

 

王は嘆き、娘の胸を割いた。己の心臓を与えてまで、娘を生き返らせようとしたのだ。しかしそれは叶わず、娘は戻らなかった。ただ、死ぬことすら許されない獣が、孤独に取り残された。

 

天災は大地を駆け巡り、多くの生き物が犠牲となった。人も多く亡くなったが、娘の魔法を目の当たりにした者たちが、藁にもすがる思いでそれを真似、我が身を守ることができた。力に目覚めた者たちは、やがて魔法族となった』

 

長くなったのう。この伝説が、全ての発端じゃ。一部の古い魔法族の家に伝わる言伝か、異種族に教えてもらわねば知ることのない失われた物語じゃよ」

 

「まさか…あやつがその『獣の王』と言うのか?」

 

「その真逆じゃよ。物語には後日談があってな、一度愛を知った王は娘を諦められんかった。娘を丁重に埋葬し、再び生命を導く任に戻っても、その墓を度々訪れた。獣は千年に一度自らの命を絶ち、再び降誕する事にした。その度にまた恋をし、花嫁をして迎えるためじゃ。それが原初の花嫁と同じ魂を持つ者かは定かではないが、千年に一度の御降誕で、必ず花嫁は選ばれる。混乱してるじゃろうが、セシリア、お主は王に選ばれたのじゃ」

 

スネイプは絶句した。自ら禁忌に身を落としてまで求めた男という性をあっさりと奪われ、その上一方的に見初められるなどと。

 

「ぼくは、花嫁になることなど、望んでは…大体間違いではないのか?何を根拠にほくが選ばれたなどと」

 

「名を呼んだじゃろ?王を顕現させるのも、その名を呼べるのも、花嫁だけじゃ。安心せい、王は無理強いはせんよ。いずれにせよ、めでたい限りじゃ」

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