※この作品はR-18です。

ハリーポッターと逆行少女の受難   作:色慾

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南瓜と饗宴b

「たっ大変です!地下にトトト、トロールが!トロールが!!」

 

血色を変えて大広間に駆け込み、直後ばたりと気絶したクィレル先生を見て、学生らは皆恐慌した。トロールは知能は低いが硬い表皮と大きな体を持ち、まだ魔法が思うように使えない子供達にとっては大きな脅威だ。

 

「静まれい!!!」

 

騒然とした空気をダンブルドアの大声が一掃する。適切な避難指示に安堵する生徒が多い一方で、ハリーとロンだけは同じことに思い至って、互いに真っ青な顔を見合わせた。

 

「ま、まずいよハリー、地下にはだって…助けに行かなきゃ!」

 

「待て!」

 

珍しくハリーが声を荒げる。脂汗をかきながら、声を抑えて耳打ちをする。

 

「僕らが行ったところで返り討ちにされる可能性が高い」

 

「そんな事言ってる場合か!」

 

「そんなことは知ってるよ!だから、行くにしても直ぐに先生方を呼べるようにしなきゃ!前回も、前々回も感情で動いて失敗したんだ、今回同じことあったら、本当に2人を死なせるかもしれない」

 

「……ごめん。君、今使える呪文は?」

 

「ほとんど無い。いきなり攻撃するのは難しい」

 

「じゃあ何か考えないと。僕らでも使えるもの…せいぜい浮遊呪文で物を落とすくらいか。クソ!それじゃ役に立たないよ!」

 

「じゃあ囮になってトロールをどっか閉じ込めるしかない。あいつ鈍いんだろ?そうだ…4階!」

 

「三頭犬のところか!あそこなら確かに避難先の寮からも遠い。でも扉はどうする?」

 

「アロホモラならあのあとこっそり練習した。隊列を抜けよう、ロン」

 

地下への階段に差し掛かったところで、2人は監督生であるパーシーの目を盗んでこっそりと抜け出した。途端、耳障りなトロールの叫びが聞こえる。自然と、走る足が早まる。

 

「先生へはどうする?」

 

「ジョージとフレッドが昔教えてくれたいたずらの呪文で、壁に文字を書いておく。光る文字だから直ぐ目立つし、簡単には消せない。できるか分からないけどやってみるよ」

 

「分かった。グッドラック!」

 

「君もね」

 

ハリーの突き出した拳にロンが自分の拳をぶつける。震える足を 咤して、2人は声のする方へ向かった。

 

 

 

 

地下女子トイレでは、完全にパニック状態となったハーマイオニーの方を抱きながら、セシリアが1人化け物と対峙していた。4階の仕掛けにはセシリアも関わっているため、元凶は直ぐに想像がついた。

 

「チッーー」

 

出口を塞ぐデカ物を眺め、思う。これは…これじゃあ予定と違う!三頭犬の時のようにヘリオスの助けを借りればどうにかなるかもしれないが、ヘリオスの爆炎では範囲が広すぎる。落ちた瓦礫に下敷きになって化け物ともろ共死ぬのが関の山だ。力任せに棍棒を振り回し、踏み場の無いここでは分が悪い。ならば攻撃呪文か?ダメだ。この杖では、そんなことはできない。

 

「蔦よ育て(アドレスケレ・ヘデラ)!!」

 

セシリアの呼びかけの通り、異臭を放つ薄汚い肌に、無数の蔦がまとわりつき、大きく成長しながら怪物を縛り上げる。狂ったような叫びをあげて、無作為に棍棒が振り回される。それをスローモーションのように感じながら、ハーマイオニーの肩を押して、セシリアは瓦礫を踏み越えて出口へと向かう。だが、一歩遅かった。蔦を振り払った棍棒が瓦礫に当たり、セシリアの足に破片が落とされる。堪らずハーマイオニーが悲鳴をあげ、ギョロギョロと動く単眼が2人を捉える。ここまでか……!セシリアは咄嗟にハーマイオニーの頭を抱え込み、その上に覆い被さった。

 

「「ウィンゴーディアム・レヴィオーサ!!」」

 

息を合わせた少年2人の朗々とした声が響き、戸惑う化け物の得物を奪う。鈍器は直ぐさま持ち主の頭に落とされ、塵芥を巻き上げる。

 

「やったか!?」

 

「油断するな!相手はサイクロプスだ!!」

 

ハーマイオニーを庇ったまま、セシリアは精一杯声を張り上げた。同じ知能の低い魔法生物だが、ドローに比べて小さな分、2倍もの膂力と素早さを誇る生物種だ。未だ舞い続ける埃の中から、素早く敵を探す単眼が覗く。

 

「なんだって!?」

 

「そんなの、聞いてないぞ!!」

 

武器を奪われたサイクロプスはますます激昂して、セシリアの仕掛けた蔦を寸断して抜け出す。入口の少年たちは額に脂汗を浮かべ、子供特有の俊敏さで、なんとか避けたようだ。涎を垂らしながら迫り来る怪物に、ハリーとロンがそれぞれ瓦礫を壁のように積み上げ、盾代わりにする。だが、それも化け物の腕力によって、瞬時に木っ端微塵となった。

 

「目だ!目を狙え!!弾丸をイメージしろ、ハリー!お前ならできる!!」

 

セシリアの叫びを聞き、ハリーはハッとした。相手は単眼だ。弱点である目を潰せば、確かに。

 

「頼みがある、ロン。1分だけあいつを引きつけてくれ」

 

「任せろ!君の背中は僕が守る!」

 

軽口を叩いて、ロンが次々と瓦礫やら廊下の飾りやらを投げかける。震える杖の先で狙いを定めて、ハリーは深呼吸した。あの異様なまでに厳しかった制御の特訓は無駄では無い。セシリアは弾丸と言った。物量はなくていい。必要なのは正確にあの一点を貫く事だ。

 

「レダクト!!!」

 

果たして、閃光は寸分の狂いもなかった。レーザーのように細くそして堅牢な魔法の塊が一直線にサイクロプスの目を砕く。化け物の悲鳴が聞こえる。もんどり打って倒れた巨体は、もがきながら立ち上がろうとする。その脇を通って、少年たちが少女たちと合流した。

 

「アドレスケレ・マキシマ!オーキデウス!!」

 

すかさず再び成長させられた蔦が先程よりも素早くサイクロプスを縛り上げ、続いて白い花を咲かす。花弁の間から吐き出された花粉に触れた途端、怪物はあれだけの痛みにかかわらず、深い眠りへと沈んだ。

 

「これはダチュラと言って麻酔の原料ともなる花だ。マグル界では種子を主に利用するが、魔法界に自生するものは一定条件を満たすとああやって強い催眠物質を放つ。間違っても触れてくれるなよ?一生起きられなくなるぞ」

 

それぞれセシリアとハーマイオニーに肩を貸していたハリーとロンは、その言葉を聞いて、生唾を飲み込んだ。正直、サイクロプスよりもセシリアが怖い。そんなことを言いつつも、ちゃっかりと持ち歩いていた竜革の手袋と試験管でサイクロプスの体表の粘液や爪や皮膚を採取していたからだ。

 

「君って時々クレイジーだよね」

 

「何か言ったか?ポッター」

 

漸く廊下に出ると、此方へかけてくる教師たちに出くわした。ボロボロの4人と、倒されたサイクロプスを見咎めて、マグゴナガルが思わず叫ぶ。

 

「これは一体!貴方達なぜここにいるのです!」

 

「わ、私のせいです!」

 

沈黙を守っていたハーマイオニーが大声を出した。ハリーとロンが驚く中、ハーマイオニーが切れ切れに言葉を紡ぐ。

 

「トロールのことは本で読んでいたので、た、退治できると思って。でも、まさかーーと、ともかく3人がいなければ、私は、私は今頃……」

 

「貴方には失望しました、グレンジャー。もっと分別あると思ってましたよ。グリフィンドール20点減点」

 

悔しそうにハーマイオニーが唇を噛む。

 

「貴方達がサイクロプスを倒したのですか?壁の落書きも?」

 

「はい。先生方を待っている時間がなく、その、すでに悲鳴を聞こえたのでーー」

 

「だから目印だけ残して、足止めしに来ました。注意をそらそうと思って」

 

「素晴らしい連携です。運が味方したとはいえ、中々出来るものではありません。ポッター、ウィーズリー、プリンス、貴方方3人には1人10点ずつ差し上げましょう。さ、そのまま保健室へいってらっしゃい」

 

「プリンスは後日私の部屋へ。約束していた本をお貸しします」

 

「ええ」

 

 

 

保健室に着いて、4人は漸く人心地ついた。トロールよりも凶暴なサイクロプスとああやって対峙するハメにとは、夢にも思って居なかった。実際、マダム・ポンフリーは傷だらけの彼らを見て、悲鳴をあげたほどだ。

 

「まあ、何はともあれ、生還おめでとう」

 

ハリーとロンがお互い肩を叩き合い、健闘を讃えあった。

 

「見事な連携だったな。正直うまく射抜くとは思わなかった」

 

「ロンのおかげさ。相棒が背中を守ってくれなかったら、あんなに集中できなかった」

 

褒められて、ロンが顔を真っ赤にする。そして、真面目な顔でハーマイオニーと向かい合い、ロンがおずおずと切り出す。

 

「今朝は、と言うかいつも悪かった。君の言うことは正しいのに…」

 

「ううん、此方こそ。いつも突っかかってごめんなさい」

 

謝り合戦になった2人は、顔を見合わせ、笑った。

 

「そう言えば、セシリア、さっき初めて僕のファーストネームを呼んでくれたよね?」

 

「気のせいだ」

 

「気のせいでもいいからさ、今後もハリーって呼んでよ」

 

「……善処する」

 

苦々しく答えたセシリアにハーマイオニーが吹き出し、話題を変える。

 

「私も気になってることがあるんだけど、セシリアどうしてあの時、攻撃呪文を使わなかったの?貴方なら出来るんじゃない?」

 

「それは…」

 

好奇心に満ちた子供達の顔を1人ずつ見てから、セシリアが溜息をつく。

 

「君らには言っても良いか。まあ、他の人には秘密だが」

 

すっと白魚のような手を差し出し、左手薬指のリングを見せる。

 

「実は近頃杖を変えたんだ。変えたというか、ぼくの今の杖は僕の夫が作ったもので…」

 

「えっ、君結婚してたの!?」

 

「ちょっとロン、静かに!」

 

予想通り、ロンが喚き、ハーマイオニーも驚きを隠せない。ハリーに至っては衝撃のあまり石化している。

 

「まあともあれ、この指輪がこのように杖の役割を果たす」

 

瞠目する面々に構わず、握る仕草をする。それだけで、純白の美しい杖が、セシリアの左手に収まった。

 

「オリバンダー翁によると、この杖は非常に珍しい生物の一部で作られていて、闇の魔法を一切拒絶するが、その他の魔法特に白魔法には最適らしい。だから、ほら、

 

ーー裂けよ(ディフィンド)!」

 

試しに、ハリーに向けて呪文を唱えるも、反応はなく、代わりにハリーの周りで白百合が花開いただけだった。

 

「逆に、こうしてーー癒えよ(エピスキー)。これはとても効く」

 

治癒呪文を使うと、確かに戦闘時にできたロンとハリーの傷が、瞬時に癒えた。

 

「おったまげー!」

 

「すごいわ!普通ヒーラーでも同時に2人に簡単なものとはいえ治癒呪文を使えないのに!」

 

「そういう事だ」

 

なおもハーマイオニーがセシリアに好奇心の赴くままに質問を浴びせかけるが、ハリーはもう聞いていなかった。既婚という二文字が頭を占領する。あのセシリアが、すでに結婚している。婚約ですらないなんて。訳のわからない怒りに、ハリーは1人震えた。

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