あの後ネビルにカエルを引き渡し、3人はローブに着替えた。ハーマイオニーは終始少し気まずそうにしていたが、それでもセシリアが態度を変えずに接したら、すぐにいつもの調子を取り戻した。中々立ち直りの早い娘である。少し微笑ましく感じながら、セシリアは2回目の学生生活も悪くないように思えてきた。
よる、ホグワーツ特急がプラットホームに滑り込むと、新入生は半巨人の番人、ハグリットに導かれ、4人一組で小舟に乗り込んだ。一体何年ぶりの光景か、暗い湖の向こう側に眩いホグワーツ城が出現する光景は、相変わらず荘厳だった。思わず学生たちの歓声が上がる。きっと将来の夢に胸を膨らませているのだろう。希望に満ちた彼らの横顔を見ていると、セシリアは急に自分がとてつもなく老いたような心持ちとなった。
「静粛に。さあ、ついていらっしゃい」
城門で新入生を待ち構えていたのは、背の高い厳格そうな女性教授のマグゴナガルだった。大広間に入る前に、新入生たちはまず狭い教室に詰め込まれた。注意を聞き、慌てて身だしなみを整える人が多い中、セシリアだけは落ち着いて手櫛で髪を整えただけだった。片側の髪をかき上げ、自分が送った百合の飾りで髪を留めたのを目敏く見つけて、マグゴナガルは彼女にこっそりウィンクをした。
マグゴナガルが教室を出て行くと、新入生たちの注意は組み分けの方法に移ったようだ。背後でウィーズリーがとても痛い方法だと聞いたと騒ぎ、ポッターが青ざめている。大方、例の双子が脅しでもしたのだろう。一方、傍らのハーマイオニーはブツブツと覚えた呪文を暗唱して、ネビルは今にも泡を吐きそうな表情だ。
「ハーミー、ネビル、試験はない。安心しろ」
小声でそう告げて、セシリアは2人を正気に戻した。控えめだがよく通るセシリアの声は落ち着いていて、強く主張しなくても相手に聞い入らせる何かがあった。
「でも、じゃあどうやって…」
「分からない。けど、マグゴナガル先生が言った寮紹介を思い出してごらん。明らかに知識よりも才能や性格によって違っていただろ?だから、きっと試験があっても簡単な性格の傾向とかを見るものだとぼくは思う」
「確かに、そう考えると一理あるわね」
その時、悲鳴があがり、新入生たちの注意はすっかり侵入してきたゴーストたちに注がれていた。ゴーストたちは各寮に所属し、学生生活を助けてくれるとのことだ。ほとんど首なしニックの首が取れかかって、生徒たちが再度喧しい悲鳴を上げたところで、マグゴナガルが戻ってきた。組み分け帽子はすでに広間中央の椅子に鎮座している。幾度となく目の当たりにしたその光景を、セシリアは無感動に眺めた。
「ハーマイオニー・グレンジャー!」
列車で知り合った子供達の中で、最初に呼ばれたのはハーマイオニーだった。期待と緊張半分の表情で一度セシリアを振り返り、壇上の椅子へと進む。程なくして、帽子は高らかにグリフィンドールと叫んだ。
「ネビル・ロングボトム!」
終始晴れやかな表情で自信に満ちていたハーマイオニーとは対照的に、ネビルはおどおどと先に進んだ。そして無事両親と同じグリフィンドールに組み分けされると、ほっと安心したような表情で、獅子の寮のテーブルへ向かった。
「ドラコ・マルフォイ!」
マルフォイはやはりと言うかスリザリンだった。帽子を被り切らないうちでの決断だった。ふと、自分はどの寮に導かれるのだろうかと考えた。性質はやはり変わらずスリザリンだろうか?そんな思考も、すぐに中断される。
「ハリー・ポッター!」
その瞬間、すべての音が消えた。誰もが生き残った英雄に視線を注ぐ中、ハリーはロンに背中を押され、少し居心地悪そうに椅子へと進んだ。帽子はかなり悩んでいるようだった。翡翠の瞳に思わず在りし日の親友を重ねる。あの時同じ寮となっていれば、少しは変わっていただろうか?そして、すぐにその考えを打ち消して自嘲する。そんな事はない。選んだのは全て自分だというのに……。
「グリフィンドール!!」
両親と同じ寮となって一安心したハリーを迎えるグリフィンドール寮席は、一際大きな歓声を上げた。ウィーズリー兄弟が、ポッターを取ったぞなどと大きく囃し立てている。まだリリーの面影がある少年だが、直にあの傲慢な父親のようになるだろう」
「セシリア・プリンス!」
壇上に進み出た瞬間、近くの生徒と教員席から息を呑んだ音が聞こえた。自他とともに大声を出さずとも人を黙らせる才能があると自認するセシリアだったが、皆の様子に訝しげに片眉を上げつつも、組み分け帽子を被ったのであった。
「おお、君か!これはこれは、まだ浅からぬ縁が。1度目の学生生活はどうだったかな?おや、学生時代から閉心術の名手だとは思っていたが、ここまで強固とは。何か希望はあるかね?」
「別にどこでもいい。今ぼくにあるのは在りし日に果たせなかった責務だけだ」
「ううむ、難儀な。過去に囚われず、未来に向き合う勇気が手に入らんことを……グリフィンドール!!」
歓声をあげるグリフィンドールのテーブルを向かうと、ハーマイオニーが興奮したように隣の空席を勧め、そして斜め向かいのネビルがはにかみながら手を振ってくれた。
「あなたと同じ寮に慣れて嬉しわ、セシリア!てっきりレイブンクローに行ってしまうかと思ったから、離れ離れにならなくて本当に良かった!」
「それはぼくのセリフだよハーミー、君こそレイブンクローに行くものだと…まあ、その正義感の強さからして、納得できるものもあるが」
やがてロンもグリフィンドールに組み分けされ、セシリアの向かい側に座った。最後の生徒が終わるのを待って、ダンブルドアが手を叩くと、目の前の大皿に一気にたくさんの料理が現れた。ホグワーツの天井に施された魔法について熱く語るハーマイオニーに適度に相槌を打ちながら、セシリアは料理に舌鼓を打った。
宴もたけなわというところで、ロンの隣に座っていたポッターが急に傷跡を抑えた。痛みに細められた眼差しの先には教員席があった。つられてセシリアも教員席に目を向ける。今年変わった教員といえば、クィレルと自分の代わりを引き受けたスラグホーンだったが……。ローブの下に隠していたヘリオスがセシリアの腕の中からひょっこりと顔を出し、恐ろしい唸り声を上げた。
「お前もあれだと思うか?」
宥めるように喉の下を掻き、ローストビーフを一切れ与えると、ヘリオスは甘えるように手にすり寄ってきた。ヘリオスのお腹を触りながら再び教員席に目を向けるが、クィレルの瞳にちらついた赤い光はすでに消え失せていた。
「さて、諸君。よく飲み、よく食べたじゃろう?それでは新しい学期に入る前に幾つかの注意を……」
ダンブルドアの声が取り留めのない思考と共に霞の中へと消え失せる。ふと、クィレルとポッターが炎に閉ざされた部屋に居る光景が脳裏に浮かんだ。クィレルはもがき、ポッターが鏡の前で呆然と立ち尽くしている。エメラルドの瞳が真紅に変わろうとして……。
「…シリア、セシリア!」
「ハーミー、聞こえている」
「なにぼうっとしてるのよ?就寝時間よ?」
「あ、ああ」
辛うじてそれだけ答え、セシリアはハーマイオニーの後を追った。懐に抱えたヘリオスの体温が、先ほどの白昼夢をいくらか慰めてくれた。