前回伊8号の受難と書きながら、そこに至るまでの鎮守府内の状況を書いている内に、羽黒や足柄のキャラクターを表現したくなり、肝心の伊8号の受難が描けませんでした。
そして今回も天龍遠征隊の日常を描こうとしたら、伊8号とゴーヤがインガングルマを食べるに至る状況で一杯一杯になってしまいました。
某海域
潜水艦二隻と駆逐艦三隻を引き連れた軽巡の艦娘である天龍はギラつく陽光を苦とせず順調に航海を続けていた。
――本日天気は晴朗なれど、龍田の心中は穏やかならず、か。
特に敵影も見えないため、天龍は双眼鏡を下ろして姉妹艦の龍田を思いやった。天龍は潜水艦を引き連れて遠征に出ようとした時の龍田の顔を思い出そうとしても、その時の顔が思い出せなかった。いや、遠征艦隊の補給と編成を行っている時点で、既に龍田の顔や目に異常があった筈ではないのか。もし気付けていたら龍田も一緒に遠征に……。
天龍の思考は次第に深みに沈んでいく。
――あいつは未だに自分に責任がない過去に囚われている。かと思うと長門や大和、金剛や島風のようにまるで過去を引きずっていない艦娘がいる。またトラウマこそ無いものの、慢心を恐れたり謎の声を聞き取る赤城や五航戦に妙にトゲトゲしい加賀もいる。どうして龍田がそんな思いを背負わないといけない。理不尽じゃないか。
天龍の思いは形を変えて愚痴になった。
「いったい、俺たち艦娘って何なんだろうな」
「え、何か言いましたか、天さん」
「時雨。その天さんってのは止めろよ。何かなぁ」
「ボクにとっては天さんは天さんですよ」
えへっと笑う時雨の笑顔を見ていると癒やされる。そんな中、まるで意に介さず我が道を往く秋雲が口を開いた。
「天さん……。そうか、天さんはいきなり片腕を失って相手の強さを計るかませ犬に。そう言えば天さんの片目は・・・・・・。ふっふーん、またネタがでっきたー♪」
気功砲しか武器がない噛ませ犬扱いされた天龍は額に青筋を浮かべた。
「よっこらしょっと」
笑顔のまま天龍は無造作に鞘に納めた刀で秋雲の足を払った。
「うひゃぁぁっ」
海面に頭から突っ込んだ秋雲の水玉パンツがタイツ越しに見えた。
「あー、天龍さん。その辺で勘弁してあげてください」
潮が笑いながらフォローに入る。いや、仕上げに入る。足を払われてひっくり返った秋雲の足を、潮と時雨が片足ずつ掴んで、田舎を舞台にしたある古典ミステリーのように秋雲の顔を水面下に固定し続けている。
「がぼごぼぼあががぼぼぼぼぼっ、ゆるっ、ひてがぼぼぼぼぼ。しぐっ、がぼっ」
逆さ吊りにされた秋雲の悲鳴を無視して、時雨と潮は笑顔で海面に入れっぱなしにする。逆さであるため、鼻から流入する塩水は脳天を殴られるように苦しく感じる。
それをわかって行う時雨と潮の笑顔を見て、天龍はふと姉妹艦の笑顔を思い出した。
「ガボッ、ごぼぼぼぼぼっ、げほぐぼぼぼぼぼっ」
流石に同僚だから秋雲の生命を危険に晒すはずは無いのだが、水中から浮き上がる泡の量が尋常ではない。
「あ、おい、時雨、潮。その辺で勘弁してやってくれ。俺はもう気にしてないから」
「うしっ、おがっ、もががががっ、ひぬ、ひぬ、マジでひぬっぼかががががっ」
秋雲の苦悶の結果、彼女はタイツ越しに黄色い液体を噴水のように吹き出した。
「もしかして、秋雲・・・・・・呼びましたか?」
「潮。呼吸は、いつかは止むものさ。もうこの辺にしておく?」
ビクッビクッと痙攣し始めた秋雲の足を気にせずに日常の会話を行う時雨。
潮は返事として秋雲の足を離し、時雨もそれに従った。天龍は思った。
――提督、ぜってーに潮と時雨の暗黒面は知らないだろうし、こいつらがそれを見せる日は来ないだろう。俺が喋らなければ。
天龍は晴れた陽の下でどす黒い行いを愉しむ部下二人の笑顔に戦慄した。
時雨と潮が離した秋雲の足が水しぶきを上げた。
艤装の方が重いため、必死で水を掻いて顔を出した秋雲が咳き込みながら呼吸を取り戻す。
疲れ果てて海面に横たわっている秋雲の姿は半ば土左衛門だった。
――運が悪かったな、秋雲。
敢えて秋雲に謝罪を求めない時雨と潮が、遠征組なのに何故か他の艦娘に比べてレベルが高い理由が天龍には何となく見えた気がした。
「大丈夫か、秋雲」
助け起こそうとする天龍。
そんなとき、水中から泡が大量に上がってきた。
「総員!」
笑顔を消して臨戦態勢を取ったが、水面から出た顔がゴーヤであることに気付き、天龍は肩の力を抜いた。
「海の中からこんにちは~。海の中はいいよねー。あー、天龍さん。聞いて聞いて、ゴーヤと8ちゃんで美味しそうなお魚を……あれ?」
チアノーゼを起こしている秋雲の土左衛門姿を見てゴーヤが青ざめる。
「もしかしてゴーヤ、空気読めてなかったでちか?」
今日の晩飯を準備してくれたゴーヤを気遣い天龍は笑う。
「いや、助かったぜ、いろんな意味で。で、何を見つけたんだ?」
「それはでちね」
泡がもう一つ上がり、水中から伊八号、自称8ちゃんが現れた。
「ぐーてんたーぐ。みんなみんな、見て、このお魚。あれ? へるぶすとが死にかけてる。どうしたの?」
ついついドイツ語で言いたがるアハトこと伊8号が、秋雲をドイツ読みで呼ぶ。水面下に沈んでいる魚影を見ると、かなりの大物だった。
「ううん、何でもないよー。8ちゃん、美味しそうなお魚だね。ボク、その魚初めて見るけど脂が乗って美味しそうだね」
8ちゃんが取ってきた魚を時雨が誉める。潮も近寄って眺める。こうしていれば可愛い妹分なのだが。天龍がそう思いながら時雨れたちの輪に加わる。
ゴーヤたちの獲物の体長は二メートル近くあり、目がギラギラと光っている点をのぞくと鯖ともスズキとも言える魚だった。
「ほーっ、立派だなぁ。8ちゃん、こいつはどうやって捕まえたんだ?」
「うん、ゴーヤと一緒に深海警備をしてる時に襲い掛かってきたから、酸素魚雷の時限信管をいじってを着弾前に破裂させてやっつけたんです」
確かに魚雷の直撃を食らえば飛散は免れないが、とっさの判断で臨機応変な対応が取れるゴーヤたちならではの戦法と言えた。
「ゴーヤの魚雷さんはお利口さんだけど、8ちゃんのもお利口さんなのでち」
「へへ、ゴーヤ。アハトは照れるなぁ」
ゴーヤたちが魚雷を破裂させたと言うが深海だったのと、秋雲が暴れていたから天龍たちは気付けなかったようだ。
「そうか、じゃあ今日の晩飯は決まりだな。ゴクローさん。今日のMVPは8ちゃんとゴーヤに決まりだな。ご褒美に得物は多めに食べたらいいぜ」
「じゃ、お魚は私が捌くね。あとゴーヤ、8ちゃん。せっかく取ってきてくれたのに悪いけど、潮は今ダイエット中だからちょっと遠慮しておくね。私ももう少し痩せたら8ちゃんたちみたいな水着、着れるのになぁ」
「なら、潮も提督にゴーヤみたいな水着を買って貰ったらいいでち。バレンタインのお返しって言えば買ってくれるでち」
「おっ、潮。お前提督にチョコを贈ったのか。隅に置けねぇなぁ」
「そうそう、潮ったらエプロン姿で一生懸命湯煎してたんだよ」
「やだ、天さん。んもぅ、時雨ったら内緒にしててねって言ったでしょ」
「アハトも贈れば良かったかなー」
仲良く談笑している輪に秋雲がようやく混ざった。
「あ、あの~、チョコの話は置いといて。私、その魚について言いたいことが」
時折咳き込みながら、鼻水を垂らした秋雲が時雨と潮を怯えた目で見ながら挙手をする。
「なあに、秋雲。心配しないでも秋雲の食べる分はきちんと僕たちが準備しておくよ」
「い、いや~、私もちょっとダイエットしてるから、食べなくてもいいかな、ハハハ」
いつもなら特に遠慮せずに食べたがる秋雲に天龍は違和感を抱いたが、特に気にはしなかった。
「ゴーヤ、これ、食べごたえがあって美味しそうだね~」
「だね~。たっぷり脂が乗って美味しそうでち~」
8ちゃんとゴーヤが顔を見合わせて幸せそうに笑い、時雨や天龍、潮も釣られて楽しそうに笑う。
ただ一人、ヒクついた笑顔を浮かべる秋雲がそこにいた。
ゴーヤと8ちゃんはきづいていないが、彼女たちが取ってきた魚は、深海魚のインガングルマ、通称バラムツや脂マグロと言われている、沖縄でも通人しか食べないとされている禁断の非食用魚であった。
趣味がら、秋雲はその魚の知識があった。だが秋雲は皆にバラムツの危険性を訴えようとしたが、迂闊な冗談を放った事によって生命の危険を味わった彼女は、敢えて強く訴えはしなかった。その事により、この遠征隊はとんでもない事態を味わうことになった。
後に秋雲が記した日記にはこう書かれていた。
『インガングルマを艦娘が食べた場合のデータは存在しない。今回は図らずもそのデータと悲劇が同時に記録されることになった。早い話が尻肉をいくら締めても油状になった排泄物が相当時間漏れ続けることになる。特に潜水艦だと、外装が水着なので他の艦娘に比べてとても薄いため垂れ流し続けることになる』
結局、原稿用紙9枚分位書いてしまった。
もう少し小分けにして毎日連載にしたかったけど、現実は忙しいので2日に一度が限界かもしれない。
出来るだけ頑張りますけどね。
しかし今までは特に推敲とかをする癖がキチンと付いてなかったので、面倒だけどブラッシュアップのためには必要だな、と思いましたです。推敲したら確実に室は向上しましたし、誤字脱字も見つかるし。