そういう輩に与えられるのは、後悔と苦痛。後は価値も意味も無い、ただ絶対的な“死”のみだ――
――数ヶ月前――アイズロスト大陸極北 シュネーベル
「――今日の成果はどんなもんだ?」
「鹿を数頭って所か」
「少ねぇな……。誰が乱獲しやがった……」
森の入り口から、二人の男の声が聞こえてきた。
狩りに出ていた、猟師の一部が戻ってきたのか。
永久凍土、豪雪。雪が消えなければ、気温が零を上回る事も無いシュネーベルにとって、普通の雪国以上に蛋白質や脂肪分、ビタミンの類いは重要。
それらを得るには、草食動物の血肉を利用するのが一般的であり、今回の狩猟による成果は今一つだった事を踏まえると、死活問題になる可能性がある。
「乱獲ねぇ……。こっから一番近い集落は
「…………
“Yuti”とはアイズロスト大陸の極北域の源住人種で、寒さに非常に強く、脚力を含む身体能力に優れる。
一方で“Human”は別の大陸の源住人種で、個体数は最も多く、繁殖力に優れるものの、身体機能が他人種に比べて極端に低く、簡単に死ぬ。
だから、男達は部外者による乱獲ではない、と見ているらしい。
正しい見解ではあると思う。だが、固定観念とも言える。
固定観念が絶対悪だとは言わないが、時として柔軟性も持つべきではなかろうか。
私はそう思いながら、男達を眺めている。
仕事のノルマも、趣味も一段落がついて暇になったから、時間潰しに人間観察。
(……暫くは、倹約が必要)
キビヤックの備蓄はどの程度あったか。
思案。
……10㎏単位で備蓄があった。
1ヶ月半は余裕で保つ。
問題は水の方。……濾過装置、増設しないと……。
(……でも、材料あったかな?)
……。
無い。
空を一瞥。
曇天。
いつも通りの空模様。
次に腕に巻いた時計を一瞥。
昼過ぎ程度。
時間も充分。
(……出掛けよう。材料集めに)
そう、結論付けた直後、
「――だろうな。だとしたら、少なぇ理由は――」
立話を続けていた二人組の片割れが言葉を詰まらせる。
頭が爆ぜ、肉片と鮮血の噴水と化したせいだ。
確認するまでもなく、絶命。
「敵襲っ!?何処か――」
続けて、もう一人も後追うように絶命。
「正面だ!戦闘用意」
「「「「Ja!!」」」」
攻撃位置を特定した村人が指示を促し、全員が得物を手に取る。
勿論、私も。
森の入口を睨み、“敵”の出方を伺う。
しかし、攻撃は来ず、“敵”はゆっくり歩いてきた。
「おうおう……すげぇ出迎えだなー」
大柄だが痩身の男。
数十人の殺気を向けられた上でも、余裕綽々の表情と口調。
「ま、俺を楽しませられるかは…………疑問だが、な!」
シュネーベルに脚を踏み入れた瞬間、男は動く。
腰のホルスターから、二本の棍棒に似た何かを引き抜かれる。
「生殺与奪を楽しむなっ!」
「くたばれ、部外者っ!!」
最前衛にいた仲間が得物を振り絞り、突貫。
「まぁ、焦るなよ」
棍棒が仲間に向けられ、先端が閃光を発すると――
突貫した仲間達は鮮血を撒き散らして絶命。
「すぐに
続けて、連続的な閃光。
一人、二人と物言わぬ骸へと変わっていく中、私は家屋の裏に隠れる。
(火薬っ……アレは駆動棍?)
男の武装は火薬を使用して、飛翔体を飛ばす武装。私の得物に似た物に見えるが、より“射出”に特化している。
ならば、刺突と斬撃用途に重点をおく、駆動槍は分が悪い。
手にしていた得物を折り畳み、代わりに二振りの射出機能付き棍棒――駆動棍を抜く。
「……どうすんだよ。とんでもねぇ奴が来ちまった」
「殺るしかねぇだろ。近付ければこっちのもんだ」
同じく、家屋の裏に隠れる仲間達は対策を練っている。
だが、彼らの対策は気休めにすらならないだろう。
先程の連続使用速度から考えるに、近付く前に駆動棍の餌食になるだけ。
(かといって、長弓や弩持ちは既に死亡……私も何処までやれるか……)
隠れたまま、様子を窺う。
「どうしたよ、雪人ってのこんなカスばかりか?」
周囲を見回す男。
手には、マチェーテ程度の駆動棍。
見慣れない武装を警戒するのは当然だが、対応する前に畳み掛けられてしまえば、士気が瓦解するのもある意味では道理。
それを“カス”と評し、挑発した所で、乗ってくるのは阿呆だけ。
仲間達は阿呆ではなかった。故に、家屋の裏で好機を待つ。
――しかし、その選択は間違いだった。
「返事も無しか。……しゃらくせぇ」
男が吐き捨てるように言い、別の駆動棍を構える。
構える先は、仲間が隠れている家屋。
「吹っ飛びな!」
閃光。
爆音。
嫌な予感がし、距離を取る。
数瞬後、家屋に飛翔体が着弾し――炸裂。
仲間もろとも、家屋を瓦礫と火炎の山に変えた。
爆薬か。
面倒な物を!
手にしていた二振りの駆動棍を握り直し、私は男へと向き直る。
「テメェは動きが違うな?……楽しませてくれよ」
男の方も私を確認し、先程握っていた駆動棍に持ち替える。
互いに睨み合う。
射出速度から考えて、一瞬の油断が命取り。
どう出るか。それが重要。
僅かな隙も見逃すな。
自分に言い聞かせるように思った直後、
「案山子なら南の方でやりなぁっ!」
男の駆動棍が閃光を発し――
「――――舐めるなっ!!」
白と灰が私を出迎えた。
死んでいない。
身体に異常も無い。
辺りを見回す。
雪を被った針葉樹と、雪。
どう見ても、シュネーベルではない。
「…………夢」
先程までの光景は夢だった。
胸糞悪い、正真正銘の悪夢。
私が彷徨う理由。
(仮眠はおしまい。……移動しよう)
立ち上がり、脇に置かれたリュックを背負う。
基本的に、自分以外は敵だ。この世界――シュトラーフでは。
だから、移動するべく、一歩踏み出そうとして――止まる。
(…………賊。数は4。……何処でも湧く、蛆か何かか?)
僅かな足音と声から、盗賊被れを捕捉したから。
断片的に聞き取れた単語から、見つかっており、私を捕らえて性的玩具として売り捌くつもりらしい。
金を稼ぐ簡単な手段の一つが、女性を捕らえて“調教”し、牝奴隷に仕立て上げて売り捌く事。
本来ならば、私はそういう連中に狙われても臓器だけ抜き取られ、残りは狼の餌にでもされる筈だが、今回は小児性愛者――一般に、ロリータコンプレックス。即ち、ロリコンの買い手がいる事になる。
(…………最近はツイてない……)
嘆息。
逃げても無駄だろうから、殺る方が良い。
腰のホルスターから、二本の金属棍棒を抜く。
グリップに付いた、突起に指を掛ける。
こちらに向かってくる賊の一人に、棍棒の先を向け――突起を弾く。
軽い音。
圧縮されていた空気が開放され、棍棒から直径40㎜程の石柱が“射出”された。
数瞬後、石柱は賊の一人に直撃。
右の眼球を抉りつつ、眼窩から大脳に食い込み、頭蓋にぶつかって破砕。脳髄全体を抉る。
一人、絶命。
残り三人。
間髪入れずに、もう一方の棍棒からも、石柱を撃ち出す。
炸裂。
飛翔。
直撃。
今度は、胸部中央。
皮膚を貫き、肋骨の先を掠りながら、心臓を貫徹。
脊髄にぶつかり、破砕して肺と内臓を抉って、ショック死。
残り二人。
(得物はダガー)
一人が、腕を振りかぶる。
投擲の動作。
でも、遅い。
既に私は移動しつつ、三発目を撃っていたから。
投擲直前に石柱は直撃。首筋。
骨に当たり、砕けた破片が皮膚と肉を抉り、頚動脈も切り裂く。
出血死。
残り一人。
距離は50m程度。
駆動棍の突起を弾こうとして、サイドステップ。
頭部の過去位置を通過するダガー。
反撃として、一回突起を弾く。
炸裂。
直撃。
しかし、右上腕。
致命傷足り得ない。
なら、構え直して更に2回、弾く。
一本は右胸部。肋骨を掠りながら、右肺を抉る。
二発目は、左頬。頬骨に直撃して砕け、破片が顔面全体を抉り、両目を失明させた。
まだ、致命傷ではないが、比嘉の距離は20m程度に縮まっている。
三回弾く。
直撃。左胸部、腹部、右側頭部。
左肺、腹筋、頭部側面を破片が抉る。
右肺を抉られていた為、呼吸困難兼大量出血していた事もあり、程無く最後の一人も、酸素を求めてもがきながら出血死。
殲滅完了。
「……
物言わぬ死体に吐き捨て、それらに近付く。
少しはマシな物資を持っていると良いけれど――
以上、Blood.Ⅱでした。
今回は悪夢という体を利用した主人公の回想。
男の武装を主人公は“駆動棍”と呼びましたが、お気づきでしょう。
アレは銃火器です。より正確には、自動拳銃と擲弾筒です。
本作は創作界隈ではよく起こる『刀剣、徒手空拳》銃火器』という個人的には『寝言は寝て言いな』的構図とは真逆にしてあります。
銃火器相手に刀剣で勝つ事は、余程頭を使わない限り“不可能”という風に。
本来は局地戦でも無い限り銃火器相手に刀剣で勝つ事は不可能ですから。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――