気紛れは不都合を呼び寄せる。
世界に裏切られる者は、そう言う。
彼ら彼女らにとって、世界そのものは悪意の塊である。
盗賊の身ぐるみを剥ぎ取り、物資を回収した私は、次の街へと辿り着いていた。
(……
立て看板には、そう記されている。
移民――温人が築いた街の一つか。
記憶を掘り返し、該当する街は――ある。
снеговик。
移住した温人が雪人と共に拓いた街。
確か、ここの主要産業は――第2次産業。
主に、装身具等の工芸品が有名だったか。
正直、どうでも良い物だ。
私には必要無い物だし。
(……一先ず、換金所を探そう)
剥ぎ取ったブツを金に変え、街を出るとしよう。
そうと決まれば、案内板と睨み合い。
が、張り合い無く目的地は見つかる。
移動開始。
程なくして換金所に着く。
何処の街もそうなのだが、換金所には、柄の悪い塵のような人間が集まりやすい。
合法、非合法問わず、“物”の換金が行われるからね。
(……尤も、合法、非合法の区別なんて本当は無いのだけど)
実力者が勝手に、自分にとって都合良く設けた“規則”上で決まっているモノだから。
邪な視線を送るゴロツキを無視して、カウンターへ。
剥ぎ取り物のうち、食糧と屑鉄以外を提出。
「換金をお願い」
「畏まりました。……こちらが控えの番号札になります。計算が終了次第、お呼びしますので、少々お待ちください」
物を受取り、代わりに渡される番号札。
描かれた数字は23。現在の数字は19。
確かに、少しのようだ。
近くの壁に寄り掛かり、待つ事にすると、邪な視線が再び注がれる。
今日は下衆しかいないらしい。
おそらく、純粋に“物”を換金しているのは私だけか。
なら、警戒しておこう。嫌な予感がする。
視線を寄越すだけで、行動に移さない臆病者を心の中で罵りつつ、待つ。
「20番でお待ちの方――」
「はい」
次の番号に移り、手早く済まされる手続き。
洩れ聴こえた額はそこそこ。
砂糖かな?
私としては、モルヒネの方が必要だと思うが。
鎮痛剤等は戦闘を行う都合上、必須と言える物。
“砂糖”はただの現実逃避剤。
自分にとっての不都合から一時的に逃げる為の手段に過ぎず、大概は自己の破滅を促進する。
金の無駄遣い。
「――3番の方――23番でお待ちの方――」
私の番が来た。
「250Eisになります」
提示された額は意外と高額。
少しはマシな物があったのだろうか?
何はともあれ、硬貨を受取り、懐へ。
「またのご来店をお待ちしております」
決まりを聞き流し、出ようとした、その時だった。
「ほら、歩けよ」
「っ!?」
見るからに賊といった風貌の男が入ってくる。
続いて、引き摺られるように、入ってきたのは、頭陀袋を被った少女。
後手に回された両手に軽合金製の手錠がかけられ、両足首にも同じく足枷。
「~っ!~~っ!!」
声のくぐもり具合からすると、口腔一杯に丸めた布でも詰められて、舌を抑えられ、猿轡でもされているのだろう。
(完全に口を封じるならば、布などを詰めた上で唇を縫い合わせ、ダクトテープでも貼るべきだけど……私には関係無い)
第一、男が換金所に少女を連れ込む理由と、少女のその後を考えれば、この案は使うべきではない。
早く出よう。
要らぬとばっちりを受けたくはない。
男から視線を逸らし、出入り口へと向かうが――
「待ちな、嬢ちゃん」
肩を掴まれる。
下衆が。
「俺と来ないか?たっぷり良い思いさせてや――」
下衆の言葉に耳を傾ける暇は無い。
肩に置かれた手を振り払い様に、腕へとマチェーテを突き立てる。
分厚い刀身は男の腕を易々と貫き、骨も砕く。
「ぐっ……ァアァァァァッ!?」
絶叫。
喧しい雑音。
突き立てたマチェーテを引き抜き、足払いを仕掛ける。
男があっさりと転倒。
すかさず、首を踏み抜いてやる。
床に落とした硝子細工か何かのように、男の頸椎が砕け散り、絶命。
この程度で死ぬという事は、温人か。
でしゃばるから、死ぬというのに……。
何故、学習しないのだろう?
嘆息しつつ、店内を見回すが、店員以外誰もいない。
本当に臆病者しか居なかったらしい。
「……この死体、幾らで引き取る?」
換金所的にも、広場の中央に死体を放置する利点は何もないだろう。
こっちとしても、私一人で掃除するのは面倒だ。丸ごと金に変える方が早い。
「…………しめて、50Eisぐらいですね」
予想はしていたが、安い。
「構わない」
交渉成立。
大柄な男が奥から出てきて、死体を運んでいく。
幸いというべきか、床に付着した血痕はさほど大きくないようだ。
「……御客様。そちらの女性はどうします?」
「……託児所にでも投げ込んで」
もしくは、刑務所にでも。
枷の類を外される様子を確認せず、私は退出しようとした。
しかし、
「待って!」
背後から呼び止められた。
今しがた、自由になった少女に。
「……」
無視して、歩き出す。
「待って、って言ったよね!」
すると肩を掴まれ、無理矢理止められる。
視界の端に映るのは、病的に白い指先。
雪人特有の肌色。
悪意は無かった為、何とか腕を切り落とさずに済んだ。
運が良かったね、貴女は。
「……待つ理由が無い」
「私には待たせる理由があるの。お礼を言うべき立場だから」
お礼?
自己防衛のついでに助かっただけだろうに。言う必要があるのか。
先程の様子では、報酬も用意できそうに無いけど?
「礼もいらない。邪魔だから」
手を振り払う。
「まだ、私の用事は済んでいません」
今度は腕を掴まれる。
「礼儀を欠くなんて、人間として失格ですから」
さも当然のように、少女は言う。
……何処まで私を怒らせたいのか。
「人間自体が、そもそも世界の汚点。その考えは改めた方が良い」
聖人は狩られるだけ。
悪行に手を染めずに生きていける者などいない。
「……貴女こそ、そんな哀しい考え方を止めるべきだと思いますよ。だから、言わせてください。……助けてくれて、ありがとうございます」
「……気は済んだ?」
嫌気を隠さず、告げる。
「…………」
少女は暫し沈黙し、
「いいえ。まだです」
と、答えた。
「貴女は孤独に囚われている気がします」
「……馴れ合いなら結構」
私の旅は、孤独で良いのだから。
「孤独は寂しいものでしょう?……だから、一緒に来ませんか?」
「必要無い」
腕を振り解く。
哀しみを背負う存在は個人で充分だ。
当然、復讐に人生を捧げるのも。
「なら、貴女に付いていきます。……私も“一人”になりましたから」
聞いてもいない情報。
だが、予想の範囲内。
人身売買に於いて、口封じが行われないなんて事は有り得ない。
少女の身寄りは根刮ぎ彼の世に送られたとみて良い。
(……邪魔物はいない方が良いけれど……)
少女は意地でもついてきそうだ。
労力は少ない方がいい。
「……好きにすれば」
だから、投げやり気味に言葉を返した――
――以上、Blood.Ⅲでした。
今話の執筆は、苛立ちが共にありました。
無論、作中の少女についてです。自然とキーを叩けたのですが、文字を打つほど、苛立ちが増していく。
そもそもの執筆意欲が怒りだった事にも起因しますが。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――