人に限らず、邪魔な存在は多数ある。
だが、そこから有益な存在となるものは少ない。
即ち、この世は邪魔者で溢れている。
――当然の事だが、金を浪費する事態に遭遇する。
少女の衣装代他、諸々だ。
とはいえ、衣装は何処ぞのクソ野郎の衣服を借用したので解決。
散々渋っていたが、知った事ではない。嫌なら其処らのクソ野郎に股を開けば良い。金はすぐに貯まる。
……という点はともかく、食料については…………基本、自給自足。
故に、必要なのは…………武装だ。
「本当に必要なんですか?武器なんて、無くなるべき物じゃないですか」
「……」
私は少女を連れ、刃物屋に向かう。
馬鹿丸出しの世迷言を無視して。
“武力”を持たぬ者に生きる資格は無い。
それがシュトラーフの規則の一つ。
世界を否定するのは、死期を早めるだけ。
「……着いた。入るよ」
入店。
「あまり予算は無い。物は私が見繕う。……だから、貴女は何もしないで」
返答も待たない。
時間が惜しい。
商品と値段を流し見し、定まる。
SUS-440ステンレス鋼製の刀身を持つ、やや小型のセレーション付きダガーナイフ。
「店主。……ダガーナイフを一本」
「あぁ?ダガーナイフ一本だとっ……。しけた注文してんじゃ――」
「――物を売る気が無いなら、店なんて構えないで」
反論を遮りつつ、代金をカウンターに置いて、ナイフを取る。
そのまま入口へ。
嫌な予感がする。
何時ものパターンならば、流血沙汰は避けられない。
「出るよ」
少女に声をかけ、ダガーナイフを渡す。
店を出ると――
(……やっぱりね)
嘆息。
数人の男に囲まれたから。
この店の用心棒――というよりは、暴力団の類だろうか?
ならば、店主が私の注文にキレた理由も想像できる。
ショバ代だ。
偽りの用心棒としての役割を高額で請け負い、金だけむしり取って傍観する。
力で捩じ伏せ、他者を良いように使う、シュトラーフという世界の体現者。……の、中で最も弱い集団。
「困るなぁ、嬢ちゃんたちぃ?お兄さん達はオジサンに店を賃貸してるんだから、いっぱいお金を落としていってくれなくちゃ。……“公共の福祉”に反する行為だぜ」
男の一人が、軽い調子で言う。
反吐が出る。
何が“公共の福祉”だ。
初等教育で習い、中等教育で否定される、価値の薄い概念をほざいて。
ようは、『有り金と身ぐるみを差し出せ』という事でしかない。
まぁ、追加で、『お兄さん達、溜まっているんだ。世話もお願いしようか?』という要求も付随するだろう。
……救いようはない。救えると思える方が阿呆。
とはいえ…………邪魔な事、障害である事は揺るがない、という事実があるならば充分だ。
取るべき手段は自ずと決まるから。
「……下がっていて」
少女に言い、腰のホルスターに手をかける。
「こういう場合の対処法は一つだから」
駆動棍二本を抜き、コッキング。
「抵抗する気かよ……メンドくせぇな」
「俺は後ろの嬢ちゃんが残ってりゃ、なんでもいいぜ」
「馬鹿野郎。両方あるから良いんだよ。片方じゃ、すぐに飽きちまうだろ?」
「……下らねぇ」
意図を察した男達は殺気と共に、各々の得物を抜く。
(ナックルダスター、ククリナイフ、コンバットアクス、他は……サバイバルナイフか)
一部、阿呆な武装の奴がいる。
殺るのは簡単そうだ。
各ホルスターに指す、武装も確認。
間合い的に、駆動槍は使えない。使う必要も無いけれど。
使えるのは駆動棍、マチェーテ、ブッシュ・ダガーあたり。
充分。
後ろの
思考を止め、私は男達を見据える。
さて、どう出るのやら――
彼女は棍棒を抜き、男達と対峙する。
その瞬間から放たれる冷たい感覚。
殺気、というモノだろうか?
ともかく、今の彼女に近付いたら、殺されそうな気がしたのだ。
だから、私は今し方渡された“ダガーナイフ”というらしい、鞘入りの刃物を抱き締め、後退。
直後、彼女は動き出した。
滑るように前進し、手近な男の腹部を殴打。更に、破裂音と共に鮮血が舞い、男の背から石の杭が飛び出す。
だが、まだ死んではいないらしく、空いた手で握る棍棒で首筋を薙ぎ払い、破砕音を伴い、弾け飛ぶ頭部。
考えるまでもなく、即死。
理解しているであろう彼女は、死体を蹴り飛ばし、反動で後退。
再び破裂音。
今度は複数。
鮮血の噴水も複数。
何れもが頭部からで、即死。
生きている男は3人。
僅か数十秒で、この有り様。
彼女は、一体どんな生き方をしてきたのだろう?
容赦無く命を刈り取り、躊躇無く捨てている。
生死そのものに興味を示さぬように。
(……人形みたいな人)
私が抱いた感想は、“人形”だった。
それも、空想の世界にしかいない、
与えられた命令に一切の疑問を抱かず、ただ淡々と遂行する。
彼女はそんな、人形なのだろうか?
(なら、私を助けてくれなかった筈だけど……)
あのまま、お金と引き換えにどうなっていたのか。……想像したくない。
ともかく、彼女にも人としての感情はある筈。
ならば、武力に訴えなくても良いだろうに。
力に頼らずとも、言葉で分かり合える――
私は思う。
力を力で捩じ伏せる、騒がしいだけがシュトラーフの真理ではないと。
もっと、誰もが
……という具合に、思考に耽りかけた事が間違いだった。
「クソッ!何なんだよ、この餓鬼はっ!!」
「勝ち目がねぇじゃ……………ん?」
焦りを隠さない二人の男が、私を視認。
「「なら、鈍そうなこっちを使えば良いか!」」
狙いが変わった。
「体の良さそうな、身体してるしなぁ!」
「さぞ、良い思いをさせてくれる筈だぜぇ!」
欲望剥き出しの視線が身体中を撫で回す。
生物の三大欲求は――って、違う。
避けないと。
視認は出来てる。
でも、信号が伝わる前。
最悪を悟っているが故に、体感時間が思考的にのみ、引き延ばされている。
(避けられない?)
何か、解決策は――
――手に握り締めた刃物?
いいや、これは使ってはならない。私が私を捨てる事に繋がる!
そうこう考える内に比嘉の距離が縮まっていき、残り1m程度。
私は身体を動かせていない。
立ち竦んでいるだけ。
受け入れるしか無いのか?
諦めの思考に陥り始め――
――二つの破裂音。
視界が赤く塗り潰される。
「油断禁物」
遅れて、彼女の声が耳に届く。
同時に、視界を染めるものが男の鮮血だと理解し、拭う。
「ありがとう、ございます」
「……あぁいう場合は後退するか、体当たりの要領で腹部を抉る等が取るべき行動」
お礼が無視され、代わりに醒めた口調で言われる。
「腹部を抉り取れれば、横隔膜が機能しなくなり、窒息死に追いやれるから」
物騒な助言を。
「まぁ、もがかれても面倒だから、心臓や頸動脈を裂いても良いけれど」
教師が、生徒に教えるような言い方。
彼女が先程の私と同じ状況に立たされたならば、迷い無く、言葉通りの事をするのだろう。
「……それが、貴女の処世術ですか?」
思考力を取り戻し、言葉を返す。
理解したくない助言だと伝えるべく、言葉を紡ごうとしたが、
「理解したくないなら、しなくていい。その代わり、世界に呑まれるだけだから」
紡ぐ前に、遮られた。
聞く耳を持たないらしい。
何故?
理由すら教えてくれない。
いや、教えるほど親しくないのだから当然だろうけど。
お互い、名前さえ知らない間柄なのだから。
「…………この町ですべき事は済んだ。……出るよ」
口をつぐんだ事で、反論する気が無くなった、と解釈したらしい彼女は踵を返し、町の出口へ向かって歩きだす。
その小さな背中を見据え、思う。
(彼女の価値観を変えさせたい)
武力だけが世界の真理じゃない、と教えてあげたい。
だから、私も歩き出す。
彼女を追って――
――以上、Blood.Ⅳでした。
今回はそれぞれの視点で書きましたが、やはり腹立たしい、新規加入の少女視点。
基本的に、現実主義者ばかりを書いているせいですね。夢想家というのは、苛々します。
尚、今更ですが、今作は9割方の話で、流血を伴うようなプロットになっております。血生臭く、救いなど無い生地獄がシュトラーフなのです。
……というか、シュトラーフとはドイツ語の“Schlacht”のもじり。元の意味は“戦闘”。
名は体を表す、ということです。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――