※この作品はR-18です。

Blood Edge Survivor   作:空薬莢

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悪意は何の前触れもなく、降り注ぐ。
きっとそれは、神の暇潰しだろう。
清き存在なんて、幻想だ――





Blood.Ⅴ ~忘れ得ぬ憤怒 後編~

翌日――

「ま、まだ移動するんですかぁ……」

私の背後で、少女の情けない声が響く。

たかが半日間、60㎞程度の獣道で根を上げるとは。

温人ならば解らなくはないが……雪人で、となれば、運動不足に他ならない。

(元々の身体を見れば、当然かな)

雪人の特徴を差し引いて考えても、少女の身体は綺麗過ぎた。

ろくに外の世界を知らずに生きてきた、或いは、両親に大切にされ過ぎた証拠。

ひいては、それなり以上に良(・)い(・)身(・)分(・)だったという事。

(……反吐が出る)

そんな奴が、私についてくる理由――と、考えられるもの――に。

幻想と現実の区別をつけられないが故の妄言。

夢想家の妄言は、現実主義者にとって、両生類の糞にも劣る価値しかない。

無意味なモノに存在する権利は無く、淘汰される。

沸々と、怒りが募る中、歩みを進める。

目的地はまだまだ先だ。

少女の泣言を無視し、ただ進む。

今日は運が良いから。

普通なら野性動物なり、盗賊なりに出会す筈なのに、それらの気配が一切無い。

こんな幸運を見逃せる筈が無い。見逃すのは、現場を知らない無知だけ。

思考のループ。

単純な行動の弊害か。

嫌な弊害。

こういう思考は、得てして、ロクな事にならない。

現にバテ気味になっている少女を一瞥した私は、

(次の街で売り捌いてやろうか?)

なんて、思う。

均整の取れたこの少女は、充分に男性受けする。

今後の目的上、金は幾らあっても良いのだ。

私は資金得て、少女は(生物として最低限の)安定した生活が保証される。

少女の方は、性的玩具となるだろうが、知った事では――いや、待て。

(都合良く行く筈がない)

売人は私も、売り捌こうとする筈だ。

必然的に、血が流れ、得るモノは端金に成り下がるだろう。

無利益だという事実は、想像し難くない。

……思考中断。

気分が沈むだけだ。

何か、気を紛らわせる方法は……。

周辺確認。代わり映えのしない、白き樹海。

空を仰ぎ見る。やや沈みかけの太陽。

(もうすぐ夜か……)

昨日、《снеговик》を出てから、歩き続けている。

栄養補給は歩きながらの携行糧食。

私としては、夕食も同様で良いけれど――

もう一度、背後を一瞥。

俯き加減、足取りは重く、一歩も小さい。

少女の方は、限界が近そうだ。

売るにしろ、連れていくにしろ、この体たらくでは厳しい。

(仕方無い。今日はこの辺りで野宿しよう)

手頃な場所を探し、数十m程進み、やや開けた場所で立ち止まる。

「今日はここで休むよ」

「はぁ……はぁ……分かり、ました……」

荒い息を吐き、少女は近くの樹に背中を預け、座り込む。

(暫くは大丈夫かな。……まぁ、早く終わらせよう)

腰の鞘からマチェーテを抜き――跳躍。

木々の枝を伐採。

次いで、枝を一ヵ所に纏めて着火。木に背中を預けつつ、背嚢を降ろす。

直後、

「何処に行くつもりなんですか……」

落ち着いたらしい少女が話しかけてきた。

「《Разрушенный киль(砕けた竜骨)》」

「……普通に街道があるじゃないですか」

「彼処は追い剥ぎの狩場」

アイズロスト大陸の街道は、何処も治安が悪く、要心棒無しの通行は自殺行為。

とはいえ、現在私達が利用しているルートも、盗賊や野性動物に出会す可能性はあるのだが。

「そうですか。…………なら、アレは必然だったと……」

少女が頭を垂れ、呟く。

(街道を移動中に襲撃された、という感じかな。……珍しくもない)

が、当事者にとってはそうでも無いのだろう。……ましてや、箱入りの方々にとっては。

(……現実を理解しろ)

内心で言い、背嚢から二本の携行糧食を取り出し、少女に一本を投げ渡す。

「明日は早い。……それを収めたら、寝た方が良い」

「……はい」

活力の無い声を聴きながら、私は携行糧食を完食し、眠りにつく。

そして、またあの夢を見る事になる。

前回の……忌まわしく悪夢の続きを――

 

 

――数ヶ月前――アイズロスト大陸極北 シュネーベル

閃光を知覚すると共に、私は横に跳んでいた。

跳びつつ、両手に握る駆動棍の引鉄を弾く。

圧縮空気が、石の楔を打ち出し――男へと向かう。

「良い反応だ。流石は雪人(Yuti)」

軽い調子で避けられ、反撃と言わんばかりに、返される鉛の礫。

(射出ペースが速い。あの駆動棍が……火薬式だから?)

軌(・)跡(・)、(・)射(・)出(・)体(・)が(・)見(・)え(・)る(・)故(・)に(・)、(・)避(・)け(・)ら(・)れ(・)る(・)が、厄介。

第一、相手も私と同じように、見切れるだろう。

(接近戦を仕掛ける?)

格闘戦向けじゃない駆動棍。

相手側の膂力にもよるが、近接格闘戦に持ち込めば……多少はやり易くなるだろう。

ナイフ等を抜く前に殺れるかは、別問題として。

「どうした?避けてばっかりじゃねぇか。もっと撃ってこいよ!」

挑発。

「……」

乗るつもりは無い。

「敵には沈黙、か。いいぜ――」

男が嗤う。

私の行動を予期していたように。

新たな駆動棍が抜かれ、

「無理矢理、喋らせてやるよ!」

閃光。

反射的にサイドステップ。

「っ……!」

右腕に痛みが奔り、鮮血と袖の破片が舞う。

(複数の射出体を同時に打ち出すもの……)

鳥獣用にうってつけだろう、もの。……同時に、対人戦でも有用。

(やりづらい……)

腕の肉が少し削がれた程度で済んだだけ、御の字。

まだ、力も入る。

が、出血がある以上、長時間の戦闘はこちらが不利。

(早く、ケリをつけないと……)

駆動棍を握り直す。

脚に力を込め――解放。

「来いよ!」

爆発音。

サイドステップ。

着地。

急制動。

再加速。

牽制がわりに、駆動棍を双射。

全て避けられ、再び鉛の雨。

今度は姿勢を低く、スライディング。

同時に、双射。

当たらない。

でも、既に格闘戦の間合いだ。

左手で制動をかけつつ、残る右手の駆動棍を速射。

放たれる石の楔は、やはり当たらず、右手の駆動棍に込めていた射出体は打ち止め。

なら――本当に肉弾戦を仕掛けるだけ。

立ち上がる力を利用し、後ろ蹴り。

「あっぶね」

バックステップで避けられた。

見え透いていたか?

身体を捻りつつ、追撃として左手の駆動棍を速射。

全て、見切られている。

想定内。

体勢が正常化。

地を蹴り、男との距離を詰める。

懐に入り込む。

左の駆動棍を腹部めがけ、横薙ぎ。

スウェー。

続けて、袈裟斬りの如く叩き付けるが――外れ。

まだまだ。

即座に顎を狙って、振り上げ。

スウェー。

想定内。

男の体勢が正常化する前に、捻りを加えた、突きを叩き込む。

「ぐっ……!?」

直撃。

反射的に、引鉄に指がかかるが――既に右は打ち止め。

故に、左の駆動棍の引鉄を引こうとして、腹部に違和感。

「腰が入って無かったぜ?」

衝撃。

「ぐ……はっ!?」

血を吐き、宙を舞う。

数瞬の浮遊感。

振り上げられた、男の右脚。

「っあ!!」

腹部に踵落としが叩き込まれ、地面にめり込み……再吐血。

「詰み、だな?」

額に、駆動棍が押し付けられた。

「やれやれ。……ここも屑ばかりだったが、お前だけは見込み、ありそうだぜ?……ま、今は雛鳥って所だが……なっ!」

爆発音。

「く、ぁあっ!?」

右腕上腕を抉られた。

「良い声で鳴くなぁ。……今度、たっぷり聴きてぇとこだ」

「今、度……?」

痛みに耐え、聞き返す。

「そ、今度。気が変わってな。……お前は殺さねぇし、糞共の慰み物にもしねぇ。…………で、だ」

おどけた調子で言い、男はより強く駆動棍を押し付けると、

「ルーディ・E・マラディア。それが俺の名だ。お前は?」

自ら名乗り、姓名を問う。

「……」

答える理由は無い為、沈黙を保つと、

「答えろよ」

「くあっ!?」

左腕上腕に鉛の球を叩き込まれる。

「次は両足だ。……さ、お前の名前は?」

再び問う男――マラディア――の眼は、笑っていない。

言わなければ、殺すという無言の圧力。

まだ、死にたくはないが、今の私に反撃の手立ては無い。

答えるしか、選択肢はなさそうだ。

「…………イルマーティ」

故に、苗字だけを答えた。

「イルマーティ……か」

額の圧力が弱まり、マラディアは立ち上がる。

そして――

「俺が憎けりゃ、また会いに来な。…………楽しみにしてるぜ、シ(・)ル(・)ヴ(・)ィ(・)ア(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)」

軽い調子で吐き捨て、去っていく。

「ぐ………ま、待てっ……」

絞り出すように、言葉を紡ぐが、マラディアには届かない。

既に、彼の姿は見えなくなっていたから。

「…………何故……」

何故、私の名前を知っていた!

苗字しか答えていない筈なのに!

湧き出た疑問。

しかし、答えてくれるものはいない。

この場にいるのは、私だけだから。

(…………疑問は、後で考えよう)

今は…………治療が先だから――

 

 




――というわけで判明する主人公の名前。
名前と苗字、それぞれ元ネタがありますが、名前の方は18禁ゲーのキャラ、苗字はとある軍人からです。こっちのヒントは…………(・x・)かな。ほぼ答えだけど。因みに、実在した人物ですからね?

今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――
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