第11話 過去はいつまでも・・・ ~バック~
逃げたはずの過去、物語は破れたページで終わり、後悔の空白だけが残りのノートを埋め尽くすはずだった。しかし、消え去ったはずの道化は再び姿を表した。
「・・・もう離さないよ」
「藍・・・なのか?」
私はその姿にかつての恋人を想起する。都合の良い許しへの期待と、罪悪感への罰の感情が、同時に頭をよぎる。しかし、相手がそのどちらでもない事はすぐにわかった。
「もう、あそこまでしてボクのこと見分けられなくなっちゃったの?ボクだよボク!ずっと探したんだよ!」
『彼女』は不機嫌そうに頬を膨らませる。整った中性的な顔つきで、一見性別は判然としないが、濡れた体は細見ながらも女性らしいラインが見えた。足元には大きなボストンバックが置かれている。
「久しぶり、元気にしてた?・・・って、何で戸を閉めるの?開けてよ!」
「何しに来た蒼!さっさと帰れこの腐れビッチ」
私は戸を閉めようとするが、蒼は鞄を挟み込んで押し合いになる。夜中なのに戸をドンドン叩いて蒼は大声を出した。
「ねぇ!入れてよ!ボクがこんなびしょ濡れになって会いに来たんだよ!」
「うっさい、こんな夜中に騒ぎやがって、隣が起きたらどうするんだ!さっさと帰らないと警察呼ぶぞ」
私は戸に挟まった鞄を蹴りだすと鍵を閉めた。蒼はまだ諦めないのか、扉の外で懇願する。
「うえぇえん。ほんとに助けてよ!今寮を追い出されて寝る所ないの。お金もないし、ケータイの充電も切れちゃったし、友達の家もあらかた回っちゃって、君しか頼れる相手がいないんだよ・・・だから入れてよ!ねぇ・・・」
ついにすすり泣きまで始めた親友に、私の心もさすがに居た堪れなくなった。嘘を付いている様子もないし、女を外置いたまま放置したなんて噂が立つのはこちらとしても拙い。何より、恨みこそあれど彼女が『親友』であることはあの日からずっと変わらない。
「はぁ、取り敢えず入れよ」
ため息を付きながら、私はしぶしぶ親友を迎え入れた。
「ほら、食えよ。あり合わせだけど」
「あっ、ありがとう」
キャミソール一枚で姿で髪を拭く蒼に、彼女がシャワーを浴びている間に作った炒飯を出す。本当は明日の朝食にするつもりだったのだが、彼女はそれをおいしそうに食べる。
「いただきまーす。はむっ・・・これすんごい!ここ数日まともなもの食べてなかったから・・・涙が出そう」
蒼はややオーバーなリアクションをとって喜ぶ。その姿はかつての親友のそれと変わらない。とはいえ、表情に出すのは恥ずかしいので、私はそっけなく返す。
「そりゃ良かったな。早く食って寝てくれ。もう夜も遅いんだ」
「なんだよ、そのいいかた。でも、君って昔から素直じゃないけど、宿題も写させてくれたり、なんやかんやで便利でいい奴だよね」
「当たり前だろ。『親友』なんだから」
「えへへ。照れちゃって。そういうところかわいいぞー。うりうり」
蒼がにやけながら肘でぐりぐりとつついてきた。こういう事、昔は蒼によくしていたが、自分がされるとむずがゆい。
「お前にされたってうれしくねーよ。さ、早く寝ろ」
「お皿洗い手伝おうよ」
「いい。適当につっこんどけ。お前のせいでとんだ夜更かしだ。早く寝たい」
「ボクが来るまで起きてたくせにボクのせいにするの?ひっどいなー」
「あー、もうその手には乗らないぞ。おまえとの喧嘩は疲れるんだ」
私はちゃぶ台の上の皿を回収しようとかがんだ。蒼と目が合う。整った顔は面影を残しつつも大人びている。藍もこんな風に成長しているのだろうか?
「ごちそうさま。おいしかったよ」
蒼は微笑む。その表情を見て私はドクンと心臓が鳴る。藍を思い出していたせいか?或いは、すでに男を知っている彼女の艶やかさからか?気恥ずかしくなった私は蒼から目線をそらす。
「礼はいい。どうせ明日の俺の昼飯は帰ってこないからな。金もないんだろ?」
「まぁ・・・ね」
「はぁ。朝になったら即つまみ出すからな」
「えぇ!?同棲させてくれないの?」
「何当然のように居座ろうとしてんだ!いくら幼なじみつったって金もない奴に居候させるか!」
「家賃はバイトの給料が入ったら払うからさ。ね?お願い!」
「だーめーだ!」
やはり蒼と話すと喧嘩になる。5年たっても相変わらず面の皮の厚さは同じらしい。そう思っていると、蒼は突然神妙な面持ちになった。
「おい、なんだよ急にかしこまって」
蒼はこっちが目を合わせると、急に目をそらして恥ずかしがるそぶりを見せた。妙にもったいぶった態度は私の目を彼女の唇へと向けさせる。
「じゃあ、さ・・・体で払うってのは、だめ?」
首をやや傾けてこっちを誘うように目を細める。シャワーの熱がまだ残ってほのかに薄桃色の肩を寄せる。恥じ入る仕草と対照的にその瞳は獲物を見る目だった。
「・・・その冗談。笑えないぞ」
「冗談じゃないよ。だってボク、君の彼女だもん」
その言葉で皿が手から落ちる。
「俺の恋人は藍だけだ。今すぐ出てけ!」
私は蒼の持ってきたボストンバッグを投げつけて玄関を指した。
「なんだよ急に。ボクだって君とエッチしたじゃん」
「あれはお前が無理矢理に!」
「君だってあんなにがっついてたくせに」
「五月蠅い!お前が!お前さえ居なければ!」
整理しようとした記憶がわき上がり私は蒼につかみかかる。
「俺は藍が好だったが、3人で親友の関係も続けるつもりだった。なのに俺たちをお前が独占しようとしたせいで、俺は藍を捨てなけりゃならなくなったんだ!」
5年間胸の中にこもっていた恨みをはき出す。私は親友の距離感に居心地の良さを感じていたのだ。激昂している私の話を蒼は聞かない。
「藍は君が勝手に勝手に捨てたんじゃないか。君こそ、ボクの事なんか考えずに、ボクを仲間はずれにしてボクには藍はおもちゃじゃないから姉貴面するななんて、君のほうがよっぽど独占欲が強いくせに!君が逃げ出したのだって、その事に負い目を感じていたからなんでしょう?」
「・・・・・・」
私の怒りと裏返しの感情。逃げたのは欲望をむさぼる関係への嫌悪だけではなかった。自分は求めていた距離感が違っただけで、やろうとしたことは蒼と同じ。橙花が『クズい』と言っていたのは、こういったエゴが見えたからなのだろうと5年越しに気づかされた。それを蒼に指摘され、私は返す言葉がなかった。
「ボクの事見下してたことはムカつくけど、ボクだって馬鹿あの頃は馬鹿だったし、ちゃんとボクのこと考えてくれてたのはわかってる。君がクズなら、ボクだってクズだもん。藍とも仲悪くなって、家から飛び出したボクも。だからさ、似たもの同士同じクズなら、ボクのこと抱いてもいいよね?」
いつの間にか立場が逆転し、蒼が私の頬をなでて私を見下ろしていた。5年間逡巡するだけだった私と違い、彼女は成長していたのだ。
「・・・わかった。だが、お前を恋人とは認めない」
「いいよ。今は藍の代わりでもなんでも。君は絶対ボクのものになるから」
「いつから俺がここに住んでるっていつ知ったんだ?」
「去年の秋っ・・・かな。ちょっと水泳サークルの用事で君の大学に行ったときに・・・うちってプールそっちの大学に借りて、ひゃっ!?・・・それでお昼食べてたらたまたま・・・ふぁあ?!」
布団の上に蒼を寝かせ、前戯をしながらこの5年のことを話す。蒼は今、私が通っている大学とほど近い同系列の短大に通っているらしい。
「こっちの大学に行くのにママと喧嘩して・・・ひゃう!・・・あんまり帰ってないから。生活費も自分で稼いで・・・ぁあ・・・そこ、ダメ!」
あの後蒼の母親も再婚したそうだが、家庭環境は相変わらずで、お嬢様学校への進学を蹴って家を飛び出した。だから寮を追い出されても実家の支援を受けられなく、前々から目をつけていた私を頼ったそうだ。
「藍とは連絡は取ってるのか?あのあと橙花とも・・・」
さらに情報を聞き出そうとするが、蒼は私の服の裾を引っ張った。顔が赤く上気しているし、膣口をいじっていた私の右手にドロドロと愛液が絡みついている。どうやら体の準備ができあがったらしい。
「もう・・・我慢できない。はやく・・・挿れて」
蒼は息を荒くして言う。快活な少女の声でなく、オスを誘う牝鹿の声だ。5年の歳月を経て、声と、あの媚びるような視線はさらに艶をましていた。私は望み通りにいきり立つ逸物を彼女の前に露わにした。
「挿れるぞ・・・」
蒼の膣にペニスをあてがいゆっくりと挿入していく。
「あぁあ!5年ぶりの君のおちんちん入ってくぅ!」
「うるせぇ。隣が起きるだろう!」
嬌声をあげる蒼を黙らせると、私は向かい合っていた蒼を後ろに向かせてバック位置から突き始める。
「あぁう・・・ひゃぁ!?何でバックなの?」
「体で払うんだろう?こっちのほうが動きやすい」
壁に手をついてもだえる蒼。5年前はこっちが乗られていたので、そのお返しだ。支配している気分に浸りつつ間抜けにさらしている尻穴を指でつく。
「や!?おしり、いじらないで!」
「相変わらず体は貧相だな」
「今度は乳首も・・・あひぃ。おかしくなりゅぅうう!」
右手で胸を触り、左手で尻穴をいじる。全身を犯されている蒼は、さらに顔をこっちに向けてキスを求めてきた。
「あぁ・・・ああぅ・・・もうイキそうなの!きしゅ頂戴!恋人きしゅして」
目にハートを浮かべて、口からよだれを垂らしながら迫る蒼。しかし、それには答えてやらない。
「だめだ。まだお前は恋人じゃない!」
「あぁ・・・そんなっ・・・激しく突かないで・・・」
最後のプライドでキスを拒絶すると、ラストスパートを掛ける。パンパンと激しく腰を突いて、蒼を一気に絶頂までもっていく。
「やだやだ・・・だめぇ・・・イっちゃう!キスもらう前にイっちゃうぅぅううう!」
蒼は大きくのけぞって絶頂を迎える。私は膣が絞まる前に素早くペニスを抜き取り、外に出した。5年ぶりのセックスに2人とも体を重ねたままベッドに転げ落ち、息を荒くする。
「はぁ・・・はぁ。ちゃんとナカに出してよ」
「だめだ。既成事実を作る算段なんだろう?」
「もちろん♪君なら、きっと責任とるから」
笑顔でそう言う彼女に私は呆れる。蒼は布団の上で私の方へと向き直ると、笑顔を向けた。
「ねぇ、がんばったから。ご褒美のキスして」
「その手には乗らないぞ」
「じゃあ、ぎゅってして。『親友』の時もしてくれたじゃん」
「・・・・・・」
蒼に言質をとられないようにしないと。そう思いながら、彼女を抱き寄せてそのまま眠りについた。
かわいい男の娘かと思った?残念!蒼ちゃんでした!
とりあえず始まった大学篇第1話ですが、いかがだったでしょうか?
今回は、10話のオチの真相と続編、そして作者の文章力のせいで第1章に伝えられなかった蒼と主人公のすれ違いの補足説明となりました。
この小説、第1話が主藍の男の娘ものBLを押し出していたのですが、作者は実のところ3Pものが書きたかったノンケため、毎回BL要素を入れるのに苦労したことから、2章は蒼と主人公のほのぼのだらだらセックスものにしようと言うことでそのさわりとして起稿しました次第です。
ここだけの話、ホモセのある5話と9話が異常に伸びてたまげたなぁ・・・と感じていました。読者はホモ、はっきりわかんだね
そちら方面で期待されていた方には申し訳ないですが、2章はこんな感じでふつうのシチュエーションエッチをいろいろやっていきたいと思っています。次回以降はストックをためているのでないため、気まぐれ更新になりますが、ストーリーらしいストーリーもしばらくないので、たまに更新されていたら遊びに来る程度でよろしくお願いします。