次の日曜日、藍と私は図書館で勉強していた。かつてはマメに勉強して成績もいい方であった私と、もともと優等生な藍は、対照的に勉強が嫌いな蒼のためにテスト前は勉強会を開いていた。この日も蒼のために勉強会を開くことにしていたのだが、肝心の蒼が『別の友達の勉強会に行く』と言って断ったため、仕方なく2人で日曜の図書館にいた。
「蒼の奴、勉強会とか言って絶対に遊んでる」
「そうかも、知れないけど・・・」
「まぁ、どうせテストが帰ってくる前に引っ越すなら、もう成績なんて気にしなくてもいいんだろうけどさ・・・あ、ここ教えて」
「えっと、そこの式は・・・」
こうして勉強を進めるが、基本よく勉強している2人である。しばらくすると課題も復習も終わってすっかり暇になり、漫画や小説を持ってきて読書タイムになる。無言で向かい合ったまま、パラパラとページをめくる音だけが図書館に響く。
「・・・・・・」
ぱら
「・・・・・・」
ペラぺら
「・・・・・・なぁ」
「何?・・・ん」
人目を忍んで、出し抜けに唇を奪う。
「ん・・・だめだよ・・・誰かに見られちゃう」
「大丈夫。手持ち無沙汰だし、そろそろ出よう・・・折角の日曜日だし」
「うん」
私達は荷物と借りる本をまとめて貸出カウンターに並んだ。その時、藍が何やら花柄の少女漫画を持っているのに気がついた。
「その漫画、藍の?」
「うんん。お姉ちゃんが読むの。幼なじみの男の子に片思いする話」
「へぇ・・・蒼もそんなの読むのか」
少年漫画ばかり持っている印象の蒼が、以外と女の子らしい趣味を持っていたことに驚きつつ、一方で歳相応の女の子なんだなと感心した。
「喫茶店に行って、いつもの服屋さんに行くよ」
「デートみたいだね?」
「実際そのつもりだよ。周りだって、そう思ってるかもしれない」
双子ということもあってか、藍と蒼はお揃いの服を買ってもらうことが多く、ユニセックスなデザインの服を着ていて、女の子っぽい容姿や仕草も相まって端から見て彼の性別を判断することは困難だろう。藍が手を繋いできた。それも普通のつなぎ方ではなく、指と指を絡めた、所謂恋人つなぎだ。
「誰かに見られるかもしれない」
「大丈夫。みんな私達のこと知ってるから」
「でも、本当のことは知らない・・・だろう?」
「うん」
今更手を繋いでるところをクラスメイトに見られたって、いつもの事だと流されるだろう。だが、まさか私達が本当に恋人同士とは思うまい。
駅前の商店街を歩いて、デパートに入る。中規模ながら安価な服屋や喫茶店などの娯楽が一通り入ったデパートは、中学生が時間をつぶすにはちょうどいい場所だった。
「最近は藍のスカート姿、見てないな・・・」
昔は藍が女の子っぽいこともあって、蒼が着たがらない女物の服をよく着せられていた。そのせいか、藍は基本女装を嫌がらないのだが、最近はそういった姿を見たことがなかった。
「お母さんが、もう大人なんだからって」
「勿体無いよ。折角可愛いのに」
「お姉ちゃんも同じ事言ってた」
「ははっ、だろうな」
そう言ってふと目をやると、レディース売り場に秋ものの新作ワンピースが目に入る。
「久々に見てみたいな・・・藍の女装」
「うん!君が見たいなら、私も・・・したいな」
私たちはレディースの売り場に入り、似合いそうな服を見繕う。店員も藍のことを女の子だと思って、帽子やカーディガンなども勧めてきたので、それも受け取って試着室に入れた。
待っている間、次にどこを回ろうかと考えをめぐらす。日曜日ということもあって誰かと鉢合わせするかもしれない・・・そう思っていると、ちょっとした悪戯が思いついた。店員の目が向いていないことを確認すると私は試着室の仕切りを空けた。まだ着替えていた藍が困惑して私をみる。
「きゃっ!?どうしたの」
「静かに・・・蒼が来てる」
私は試着室に入り込んでカーテンを閉める。狭い部屋に、男が2人。藍は服がはだけて白くて細い肩が露出している。
「どうして隠れるの?お姉ちゃんになら、別に・・・ん・・・」
私は無理やり藍の唇を奪う。戸惑う藍に有無を言わさず舌を入れて淫らなディープキスをした。舌を離すと、頬を真っ赤にした藍がまつげのかかるほどの距離にいる。突然強引にキスされたせいか、涙目でこちらを見つめて言った。
「ぁあ・・・ゃ・・・どうしてこんな・・・きゃぁ!?」
藍に質問する間も与えず、はだけて露出した肩をつかんで藍に体を密着させた。耳元に息を吹きかけ、耳をなめると、藍の体が跳ね上がる。
「ぁぅ・・・ゃあっ・・・やめて・・・こわい」
嗜虐心をそそる震え声が聞こえる。藍がどんな顔をしてるのか、見なくてもわかった。怯える藍の姿はそれだけでも欲望を満たすのに十分である。藍が泣き出して騒ぎになる危険もあるが、私は藍の耳に止めの言葉をささやいた。
「もし騒いだら、蒼や店員さんが気づいちゃうかもよ・・・こんな姿見られたらどう思うかな?」
「っ!?」
体が密着しているので、心臓の動機が激しくなっているのが手に取るようにわかる。私は藍が大人しくなると、すぐさま耳責めを再開した。
「ゃ・・だめぇ・・・・」
「いいのか?声抑えないと・・・ほぉら、足音迫ってる。もしかしたら気づかれたかも・・・」
「んんっ・・・ぁ・・・んんんんんんんん!」
都合よくよってきた足音を利用して煽りつつ、耳責めは続ける。藍は口を手で塞いで必死に耐える。耳は唾液でぬれているにもかかわらず熱いぐらいに茹で上がって、こちらの耳にも熱いと息がかかった。足音が隣の試着室に入って途切れると、私は耳責めをやめて、藍に向き合ってキスをした。
「今までのは冗談・・・ごめんな。ちょっと悪戯したくなっちゃって」
「えっ・・・そんな。ひどいよ・・・」
十分に楽しんだ私はそう言って気前よく服を着せたままレジに向かった。
それから最上階の喫茶店に入り一休みした。間抜けなことに見栄を張って服を買ったせいで資金が足りず、藍に奢ってもらうことになってしまった。
「ごめんな、奢ってもらって」
「いいよ、服ももらっちゃったし・・・ひどい目にあったけど」
「ごめん、ちょっと悪戯したくなっちゃって。蒼が来てるってのも冗談だよ」
「えっ、そんな。もっとひどいよ」
そういって涙目になる藍。騙すのはいくら何でもやりすぎたと思い、自分のケーキを差し出す。
「意地悪したのは悪かった。ケーキやるから機嫌直して。それと、そのワンピース、かわいいぞ」
買ってそのまま着ていたワンピースを褒めると、顔を真っ赤にして恥じらう。蒼といい、この双子はかなりちょろい。
「・・・ずるいよ。そんなこと言うなんて。じゃあ、イチゴだけ貰っていい?」
「お姫様のご慈悲にあずかれるなら、わが身の半分でも」
大袈裟におだてるが、もともとは藍の奢りである。しかし謙虚な藍はそれすらうれしかったらしい、イチゴをフォークで突き刺して口へと運んだ。
「うん。じゃあ、いただきます」
藍の女の子っぽさは容姿や温厚そうなたれ目によるところが大きいが、独特の色気を作り出しているのはあの唇だろう。イチゴを食べるとき、小さな唇がイチゴに触れて入っていく。イチゴを食べているだけだが、それだけで妖艶さが伝わってついつい見とれてしまう。
「どうしたの?・・・そんなに見つめて」
「いや、なんだか、最近の藍って、色気があるなぁって思って」
あの日からだろうか、キスをするとき、藍が着せ替え人形のようなかわいさではなく、ドキドキして、体の下あたりが熱くなるような感覚を覚えるようになった。キスも、フレンチキスより唾液を交換し合うようなディープなものが増えた、と自覚している。
「そうなんだ。でも、最近キスするたびに胸が締め付けられてる感じがするの」
「きっと、別れたくないお互いの気持ちが強くなってるからだろうな」
「うん。ずっとこんな日が続けばいいのに」
ほんの少しだけしんみりする。しかし寂しいと同時に、お互いの思いの強さを確認できたことの嬉しさもあった。私も藍も、この時は2人の未来に前向きな展望を持って疑わなかった。
「・・・そろそろ出ようか」
「うん」
喫茶店を出て、エスカレータを降りる。1階まで降りると、すぐ横のエレベーターの扉が開いて人が現れた。
(あれは確か・・・橙花に黒子か?)
この2人は、蒼と同じクラスに所属していた女子だった。橙花は成績優秀で活発、おまけに容姿スタイルもよく、男子人気も高いことで有名な少女であったが、蒼とは仲が悪かった(負けず嫌いな蒼が一方的にライバル視していた)。黒子は対照的に物静かな性格で図書委員であり、勉強で図書室にいることの多い私や藍とも顔見知りであった。他に誰かいるようだが、2人の後ろに隠れて誰かわからなかった。別に親しいわけでもないのでそのまま通り過ぎようとしたが、驚いたことに橙花の方からこちらに話しかけてきた。
「ねぇ!藍君!それと・・・君だよね?私は2組の橙花っていうんだ。はじめまして」
初対面でいきなり名前を当てられて私は驚く。藍はちょっとした有名人だから知られていてもおかしくないが、私はあまり目立つほうでもないのだ。しかし、橙花の意識はどちらかというと美人の藍より私に向けられていた。
「そんな堅くならなくてもいいよ。私も君のことは黒子から聞いたぐらいだから。ちょっと早いけど手間が省けたわ。ねぇ、蒼ちゃん」
「!?」
黒子に手を引かれ、背後に隠れていた少女が姿を現した。健康的な手足が見えるワンピース(しかも私が藍に買ったものの色違い)にサンダルを履き、活発そうな帽子からはみ出た短い青髪をかわいらしくヘアピンでとめて、メイクもした蒼が恥ずかしそうにこちらを見ていた。