「やぁ・・・き、奇遇だね」
「お、おう・・・」
信じられない光景だった。あの蒼が制服以外のスカートをはいて化粧をしていたのだから。別に似合わないわけではない。顔は藍とよく似て整っているから、むしろ10人いれば10人が振り向く美少女である。普段の蒼を知っている私は違和感しか感じなかったが。
「・・・おい、悪友。き、気でも狂ったか?」
「そ、そんなわけないだろう。み、見るなって・・・第一、期末前なのにどうしてここにいるんだよぉ」
蒼は黒子の後ろに隠れて言う。着ている本人が恥ずかしがっていてはせっかくの服も形無しだ。
「勉強してたら時間余ったから、暇つぶしに。ていうか、何遊んでんだよ!」
私は蒼の肩を掴もうとしたが、橙花がそれを止めた。
「蒼ちゃんには蒼ちゃんの事情があったの。私たちはそれを手伝ってるの」
「事情って」
「女の子の秘密」
「なんだよそれ・・・」
橙花の言ったことは私にはまったく理解できなった。そうこうしていると、今まで黙っていた黒子が藍を指して言った。
「それはともかく、藍さんにスカート履かしてるのは君の趣味なのかい?」
この一言で私へと向けられる視線が一気に厳しくなる。周囲の温度が4度は下がったように私は感じた。普段ならうっかり女装デート中に誰かに出くわしても蒼と誤魔化すのだが、現に蒼が目の前にいる状況でそれはできない。
「そ、その・・・普段着てる服が家になかったから、仕方なくお母さんのを借りて・・・」
「でもそのワンピ先週発売の新作だよ。現にさっき蒼が買ったやつの色違いだし。そういえば僕達が店に入ったとき、試着室が一つ閉まってたけど」
「・・・・・・」
どうやら出まかせのつもりで言った足音は本当に蒼たちのものだったようだ。私も藍も顔を真っ赤にする。男二人で出かけて相手に女装させたとなれば、交際を疑われても仕方ない。最悪あれを聞かれている可能性がある。絶体絶命のピンチだ。
「えっと、これは私の・・・」
「いいじゃないか!藍には男物よりこっちが似合うし、かわいいから!」
私は自棄になって言った。藍の趣味などと言って彼のイメージを下げるわけにはいかない。沈黙が空間を包む。
「・・・確かにそうだね!男の子でかわいいなら問題ないよね」
「橙花?一体どうしちゃったの?」
「・・・そうだよね。ボクなんかより藍のほうが似合うよね」
「蒼、君はもうちょっと自信をもって!騙されちゃダメだ!」
「黒子ちゃんは、橙花ちゃんに合わせてスカートにするよりショートパンツが似合うとおもうな」
「藍まで!?僕は別に橙花に合わせてるわけじゃ・・・」
黒子は顔を赤くして反論するが、たしかに藍の見立て通りだとおもう。もうなんだかわからなくなってきたがうまく誤魔化すことに成功した。とにかく勉強会をさぼった蒼に腹の立っていた私は蒼を引っ張り出して両手で顔をホールドした。蒼は顔を真っ赤にして帽子で顔を覆った。帽子も引っぺがすと、顔を真っ赤にして目を逸らした。
「な、なにするんだよ!」
「蒼。遊びたいのはわかるが嘘をついて勉強会をさぼったのは友達として見過ごせない。今からでも勉強するか?」
「いやだ。第一、ここまでしたのは君の・・・」
「あ?」
「ひぅ・・・」
つい説教口調で言ってしまった。蒼は驚いて身を縮こまらせる。元々身長差のある上に身をかがめたせいで、ワンピースの隙間から蒼のわずかながらに女性らしい膨らみと、胴から腰にかけての曲線が見えた。ちっとも女っ気がないと思っていた蒼の体に見えた、異性としての象徴に私はなぜか目が離せなくなった。そうこうしているうちに側で見ていた橙花がこちらを睨んで批難する。
「女の子の顔つかむなんて最低!」
蒼のことが放っておけないせいもあるが、周りから見ればこっちが悪役にしか見えないだろう。更には藍まで私を止めにかかった。
「あんまりお姉ちゃんをいじめないで。私が後で見ておくから」
「・・・っ、藍まで。あぁ。わかったよ」
藍に言われてようやく手を放した。蒼は潤んだ目でこちらをにらんだ。
「悪かった。ほんとにお前は放っておけないんだ」
「いいよ。ボクがいけないんだ。嘘ついてゴメン」
涙を垂らして謝る蒼に、藍にしてやったように頬を拭おうとしてハッとなった。蒼が急にしおらしくなった親友に藍の姿を見せてしまったのだ。こんなのは蒼じゃない。親友の違和感に胸騒ぎを感じた。
「今泣いたんだから、テスト前に泣きつくのはよしてくれよ」
「だ、誰が泣くもんか!」
「泣きつかなきゃ噛み付いてでも教えるって言っただけさ」
「噛みつかない!もう!君なんかに頼るもんか!でも、今度の数学の課題は写させてよ!」
蒼は図々しくも頼みこみ、周りの皆も笑う。自分のよく知る悪友の姿に安心して、同時にこうしていられるのもあと少しだと気づいてしんみりする。そうこうしているうちが橙花は蒼に小さく耳打ちする。どうやら姦し3人娘には予定があるらしい。
「じゃあ、私たちはこれから別の用事があるから、またね」
橙花はそう言うと蒼を連れて立ち去って行った。