「みんな!早く早く!一番乗り、私がとっちゃうぞ!」
「はぁ。慌てたって遊園地は逃げたりはしないぜ。こっちはこれからチケット買うんだぞ」
ところどころ錆び付いたゲート前で騒ぐ蒼を注意しつつ、私は券売機でチケットを購入する。橙花と黒子の分も必要かと思ったが2人は事前に購入していたらしく、結局私だけが券売機に並ぶこととなった。
「おっそーい!もう待ちくたびれちゃった」
「うっさい、こういうのももう最後なんだ、形は大事にしないと。な、藍」
「うん!手、繋いで」
「3」
「2」
「1」
3人で手をつないでゲートを踏み越える。先に入った黒子が写真を撮ってくれた。
「夢の国へようこそ、色男さん」
「ありがとう、黒子。黒子も、橙花と1枚撮ったらどうだ?」
「僕は・・・その、えっと」
「いいから、並んじゃいなよ!ほら!」
「え?!」
「じゃあ行くよ。はい、チーズ!」
顔を真っ赤にして頬を抑える黒子と、ノリノリの橙花の奇妙なツーショットがとれた。それから、遊園地の風景をカメラに収める。前来た時よりいくらか寂れたが、それでもカップルや小さな子供の姿もみられる。平日の遊園地のような寂しさもなく、尚且つ混雑もしてない。最近はカップル層を狙ったアトラクションに力を入れているらしいから、デートには最適だろう。
「じゃあ、早速あれに乗りたいな!早くこうよ!」
興奮が冷めないのか、私の腕をつかんでアトラクションを指さす蒼に、チョップをかます。
「たわけ、また迷子になりたいのか?今日は予定表を組んでるから、それ通りに回るぞ!」
これは5人で遊びに行っているのと同時に、藍との最後のデートなのだ、入念に作られたタイムテーブルには従ってもらわなければ困る。
そのはずだったのだが・・・
「さて、早速だがジェットコースターだ」
ジェットコースターに並ぶ。遊園地の2つあるうちの1つだ。席は2列。当然藍を隣に座らせるつもりでいたのだが、橙花がそれを止める。
「席順はくじで決めよう!」
「は?お前何言って・・・」
「折角みんなで来てるんだから、いろんな人と一緒じゃないとね!ほら、時間ないからみんな引いて!」
橙花が取り出したくじを引く。私が最初に、次が蒼、黒子、藍の順だ。
「俺は・・・なんだ、蒼かよ」
「失礼だな!さ、はっ、早く座ろう」
「おう」
晴天の霹靂である。まぁ、一回だけならいいだろう。
「お、おい」
「ん?何?」
「そ、その・・・スカートなのに、大丈夫なのか?」
この日の蒼はあのワンピースを着ていた。一番女の子らしい橙花ですら今日はジーンズだったのに。藍にも着て来て欲しかったのだが汚してしまったらしく藍は落ち着いたクロップドパンツである。
「はっ、な、何言ってるの?まさか、見る気じゃないよね・・・」
「んなわけねーよ。ったく、藍なら兎も角、お前が着るとキモいんだよ」
「なにそれ、超ムカつく!・・・でも、ぁいのかわりなら・・・」
「おい」
「何?」
「そろそろ・・・落ちるぞ」
「え?ぎゃああああああああああああああああああああ」
不本意だが、一回だけなら問題無いだろう・・・そう思っていたのだが・・・
メリーゴーランド
「おぉ!また蒼ちゃんだね!」
「まじかよ・・・無難に馬車に乗ろうぜ」
「えー!馬に乗ろうよ」
「あれ1人乗りだろう」
「いいじゃん!2人乗りしようよ!」
「はぁ、仕方ないな・・・」
私たちは馬にまたがる。蒼が胴に手を回してきた。
「あんまり体押し付けんなよ・・・」
抱きつかれると落ち着かない。周囲の目もあるし・・・
「じゃぁ、藍くんは私達と馬車に乗ろうね」
そんな2人達を他所に橙花は3人で馬車に乗る。黒子はカメラを持って馬車から身を乗り出してこちらを写す。この日黒子はずっとカメラ持っていた。
「お前ら!」
「じゃぁ、お二人さん。楽しんで」
「うぉ!動き出したね」
「こっ、こら!密着するんじゃない」
「無理無理!振り落とされちゃうもん!」
ボート
「まったまた蒼ちゃんだね!」
「もう3回連続だし、もっかい引き直そうぜ」
「だーめ!公正なくじの結果だもん!」
「男とボートで2人きりなんて橙花が危ないし、僕も嫌だ」
「黒子、お前俺をなんだと思ってる・・・」
仕方なく私と蒼は手こぎボートに乗る。もちろん漕ぐのは私だ。
「はぁ、何でお前なんかと・・・」
「そんなにボクのこと嫌いなの?」
「黒子は暗にお前は女じゃないって言ってるのとおんなじだぜ」
「君は、他だったら・・・その?襲ったりするの?」
蒼は身を乗り出して聞いてきた。船が大きく揺れる。
「お、おい!暴れるな!少なくともお前の前でそんなことしないって」
「ボクの知らないところで彼女作ってるってこと!?」
「違う!違うって!だから落ち着け・・・」
ボートが大きく揺れて、ついに転覆した。
「おわぁ!?やば、俺泳げな・・・ブクブク」
「!?・・・掴まって!死んじゃやだよ!」
「2人共!大丈夫?」
スワンボートで合流した藍達に救出されて事なきを得た。その様子はバッチリカメラで撮影された。あれは一生ものの恥だ。
転覆で予定を一時中断して、休憩所で服を乾かす。藍達に温かい飲み物を買いに行ってもらっている間、蒼と再び2人きりになる。
「ふぅ、死ぬかと思った」
「ごめん・・・泳げないの忘れてた」
「謝るなよ。お前が助けてくれたおかげでなんとかなったし。何でムキになってたのかは気になるけど」
その質問に蒼は答えなかった。
「・・・まぁいいか。ワンピース、台無しになっちまったな」
濡れたワンピースは蒼の身体にぴったり張り付き、薄っすらと下着のラインすらのぞかせて、目のやり場に困る状態になっていた。
「うん、ヌレヌレのスケスケ。周りの目がきついよ」
「気になるなら俺の上着、着とけよ」
私は上着を脱いで着せようとした。蒼は上着を持つ私の手を掴んだ。
「それじゃあ君が寒そう。もっと近くによって・・・」
「お、おう」
蒼は私の右腕を引き寄せて、背中合わせに暖を取る。背中越しに生々しい熱が伝わってきた。
「お、お姉ちゃん?」
「おぉー!お二人さん熱い!」
「これなら珈琲もいらなそうだ」
休憩所に戻ってきた3人にこの様子を見られてしまった。
「ひゃっ!?橙花、いつからそこにいたの?」
「ついさっきだよ。大丈夫、カメラは黒子がバッチリ撮っておいたから。蒼ちゃんの勇姿は永久保存するね」
「わー!わー!やーめーて!」
その後も行く先々のくじ引きで蒼と一緒になりお化け屋敷では臆病な蒼にずっと密着されるはめになった。
「わぁっ!?もぉぉおやぁぁだぁあああ!」
「おい、こら!?くっつくな!」
自分だって平気なわけではないが、密着するたびに蒼の小さくて柔らかいところや、生乾きの服から身体のライン、下着の感触までも伝わってきて心臓に悪い。なまじ藍にそっくりなだけに、藍の事も意識して二重の意味で私の精神を追い詰める。早く藍に会わないと何とかなってしまいそうだった。どうにかしてお化け屋敷を出ると、橙花たちが待っていた。
「2人ともお疲れさま。蒼ちゃんの声、外からも聞こえてたけど、大丈夫だった?」
「まったくひどい目にあった。くっつかれてかなわん」
「そうなんだ。私もびっくりしちゃって藍君に飛びついちゃった」
藍に飛びつく真似をする橙花に蒼が頬を膨らませて「橙花。藍はボクのなんだからね、勝手に触らないでよ」と藍に抱き着く。困惑する藍を挟んでにらみ合う2人を私と黒子はあきれて見ていた。
「やれやれ、黒子は加わらなくていいのか?ずっとカメラ持ってて大変だろう?」
「別に・・・騒がしいのは苦手だけど、橙花が一緒にいればいいし」
黒子は臆面もなく本音を口に出す。短い付き合いで分かったことだが、こいつは基本橙花以外への関心が低いらしい。今日の事も橙花に付き合ってきただけのようだ。
「お前なぁ。そういう身も蓋もないことあんまり人前で言うなよ」
「そういう君は、いい加減本音を出したほうがいいんじゃないか?一体どっちが本命なんだ?」
「?」
「はぁ・・・まったく、お似合いの2人だね」
黒子はそう呟いた。まさか藍のことを知られたか?と勘繰るが、どうにも意図がわからなかった。
「蒼に当たりたくないなら次のくじは先の欠けているのを引くといい。そのほうがボクの助かる」
それだけ言うと黒子はそっぽ向いてしまった。休憩をはさんで、次はいよいよ最後のアトラクションである観覧車だ。黒子の言っていたとおりにくじを引くと、藍と一緒になった。思わぬ僥倖である。
「やっと一緒になれたね」
「あぁ。黒子に感謝しないと」
ゴンドラに乗り込み、2人きりになったのを楽しむ。
「やっぱり、細工がしてあったのかな?」
「たぶんな。橙花からそれらしいアプローチは?」
考えられるとしたら、橙花が藍に気があるに違いない。それが私の結論だった。学校一の美少女の橙花に、それに見劣りしない美少年(美少女)の藍はお似合いの2人だし、目をつけられたら自分などひとたまりもないだろう。黒子もそれが気に入らないのかもしれない。しかし、藍はあっさりそれを否定した。
「全然。それより、お姉ちゃんとは楽しかった?」
藍はめずらしく興味津々といった感じで聞いてきた。
「ま、まぁ・・・あいつとああやってバカやるのも今日が最後だとおもうと、寂しいな。最近、蒼の奴、急に変わっちゃって。離婚がショックだったこともあるだろうけど、よく見ると、体も女っぽくなってて・・・あいつ、俺たちと別のものになっちまったのかなって」
「・・・・・・」
「でもさ、全部そうじゃないんだ。変わっているところもあるけど、蒼は蒼なんだって・・・そんな蒼も、悪くないかなって」
長く付き合っていれば、変わっていくこともあるだろう。実際、この短い期間で自分も藍も変わった気がする。結局心の持ちようの問題なのだ。藍は、肯定も否定もせずに黙って聞いていた。
「藍?」
「そろそろだね」
藍が言う。私たちのゴンドラが頂点に来ていた。蒼たちは先にゴンドラに乗ったため、ここから先は私たちが見えない。せっかくのデートの山場なのに、例え姉であってもほかの女の話をされて流石の藍も妬いているのかもしれない。そんな感情まで抱くようになった藍の成長が私はひたすらうれしかった。
「そうだな、じゃあ、ここで・・・」
私達は残りの時間をキスに費やした。予定外のことだらけであったが、終わり良ければ全て良し。実際には、本命はもっと後なのだが・・・