──ゆんゆん視点──
「兄さん、見て。カエル肉が凄く安いよ」
「そうかぁ? 他の店とそんな変わらねぇだろ」
アクセルの街に並ぶ露店。行商人なんだろうか、普段は見ないそのお店ではいろいろな食材が安くで売られていた。
「確かに実際に売られている値段は変わらないけど、重さに対する単価が違うんだよ」
「んな細けーこと気にすんなよ。金ならあるんだから美味しそうなの適当に買えばいいだろうが」
「もう……、確かに余裕はあるけど、そんなだから兄さんはすぐ金欠になってたんだよ」
本当、お兄ちゃんは仕方ないんだから。やっぱり私がついてないとダメだよね。
「お、嬢ちゃんしっかりしてるねぇ。そろそろ次の街に行くところでね。保存の効かないものやカエル肉とか他の街じゃ売れにくい食材を中心に安くしてるよ」
「そうなんですか。だから品質もよさそうなのにこんなに安いんですね」
そういう理由なら魔法で誤魔化してるとかそういうのもなさそうだ。一応紅魔族である私の目を欺ける魔法はそうそうないとは思うんだけど。
「ということで、兄さん。今日の夜ご飯はカエル肉のから揚げでいい?」
「好きにしろよ。お前の料理に外れはねぇんだから」
「それじゃ、決まりで。おじさん、このカエル肉を8塊下さい」
「はいよ」
包んでもらった肉を受け取って買い物袋に入れる。ロリーサちゃんやリリスさんの分はいらないとはいえ、城に住んでる人の分となると結構な量になるなぁ。
「ほれ、袋は俺が持ってやるからよこせ」
「え? いいの? この街随一のろくでなしの名を欲しいままにしている兄さんがそんな気の利いたことを言うなんて信じられないんだけど……」
何か裏がありそう。
「お前は本当に人見知りしない相手には口が悪いな……。俺だってかのj…………お前にくらいはかっこつけるっての」
「私にかっこつけても意味ないと思うんだけどなぁ……」
嬉しいのは嬉しいけど。
「お二人さん、仲いいね。幼馴染の恋人同士と見た」
「こ、こここ…恋人!? ち、違いますよ! 私とお兄ちゃ……兄さんは正真正銘実の兄妹です!」
わ、私とお兄ちゃんが恋人同士なんてありえない。血の繋がってる兄妹でそんなこと許されるはずがないんだから。
……、で、でも、周りから見たらそう見えるんだ。
「なーに、にやけてんだよ毒舌ぼっち。買い物終わったんならさっさと帰るぞ」
「にやけてなんかいないし、毒舌でもぼっちでもないから! あ、帰る前に八百屋さんもよるからね!」
そりゃ、友達は少ないかもしれないけど、ゼロじゃないし……いつもお兄ちゃんは傍にいてくれたから。
毒舌なのはめぐみんとかお兄ちゃんが非常識なだけで私は悪くない。
にやけてたのは……うん。否定しきれないかもしれないけど。
「めんどくせぇなぁ……リリスに任せりゃ買い出しも料理もしてくれんだろうに」
「リリスさんに任せっきりというのはちょっと不安だし……私だって兄さんとかハーちゃんに料理食べてもらいたいんだよ」
いろいろあって空飛ぶお城へ引っ越した私たち。何故かサキュバスクイーンなリリスさんがそのお城でメイドさんのようなことをやっている。お世話になっているのは確かなんだけど、悪魔らしい悪魔なリリスさんに頼りきりという状況はちょっとだけ怖かった。
でも……あれ? 私ってなんでリリスさんの事知ってたんだっけ? 地獄で会ったのは覚えているんだけど、そもそもなんで地獄に行ったのかとかが思い出せない。お兄ちゃんが一緒だったのも覚えているんだけど、兄妹二人で地獄に何しに行ったんだっけ。
「何悩んでんだ?」
「えっと……なんだか記憶におかしいところがあって……」
なんだろう、リリスさんの事だけじゃなく、すごく大切なことを忘れている気がする。
「あー……まぁ、気にすんな。そのうち治る」
「だと、いいんだけど……」
「それに、何か忘れてたりしてようがお前はお前だ。俺にとってドラゴンにも負けないくらい大切な奴だ」
この街随一のろくでなしで、世界一のドラゴン馬鹿なお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんがそう言うということは……。
「って、なんだよ、ゆんゆん。いきなり腕に抱きついてきて」
「べっつにー。……問題はないでしょ? 兄妹なんだから」
この行動に理由はないけれど。でもこれくらい理由がなくても許されるはずだ。
だって、私とダスト兄さんは実の兄妹なんだから。
「お、ダストにゆんゆんちゃんじゃないか。今日もダストを殺したいくらいに仲がいいねぇ。どうだい? アイス買ってかないかい?」
八百屋さんでの買い物を済ませ。なんとなく腕を組みながら帰り道を歩く私たちに顔なじみのアイスクリーム屋さんが声をかけてくる。
「おいこら、おっさん。いきなり物騒なこと言ってんじゃねぇよ」
「うるさいチンピラ。お前みたいなろくでなしにゆんゆんちゃんはもったいないとこの街の住人はみんな思ってんだ」
「俺も思わないでもないけど、客商売なら思っても言うんじゃねぇよ!」
もったいないも何も兄妹なんだから仕方ないと思うんだけどなぁ……。それにお兄ちゃんは確かにろくでなしだけど、すごく強いし、ちゃんといいところもある。
「えっと……アイスクリーム二つください。ところてんスライム味とネロイド味で」
「お前、アイス二つも食うとか太るぞ……、いやお前の場合全部胸に行くから問題ねぇのか」
「一つは兄さんの分! というか妹にセクハラはやめてっていつも言ってるよね!?」
「記憶にねぇなぁ。てか、別に俺はいらないんだが」
「だって、一人で食べたら一つの味しか楽しめないじゃない」
それに比べて二人で食べたら二つの味を楽しめる。
「兄さん……妹……。おいダスト。お前まさかゆんゆんちゃんとおかしなプレイをしてんじゃ……」
「あーあー……おかしいな、いきなり耳が遠くなったぜ」
? いきなり耳をふさいでお兄ちゃんは何をしてるんだろう? 別に都合の悪いこと言われてないよね?
「ゆんゆんちゃん、やっぱりこいつはとんでもないろくでなしだ。今すぐ縁を切った方がいい」
「あはは……兄さんが筋金入りのろくでなしのチンピラさんなのは確かですけど、これでも唯一の兄ですから」
だから、お兄ちゃんが大切な人を見つけるまでは一緒にいないといけない。
「ゆんゆんちゃん……。おい、ダスト。こんな馬鹿なプレイに付き合ってくれる子他にはいないぞ。ちゃんと大事にしてあげろ」
「別に俺だけがやりたかったわけじゃねぇんだがなぁ……。ま、心配しなくてもこいつは大事にしてやるよ。俺流だけどな」
ところで、さっきから店主さんが言ってる『プレイ』ってなんのことだろう? その言葉を聞くと何かを思い出しそうになるんだけど。
「ま、ゆんゆんちゃんが納得してるなら周りがとやかく言うことじゃないか。ダストの頭に隕石が落ちること祈りながら黙って見守るよ」
「欠片も黙ってねぇからな! いい加減にしねぇとリリスに頼んで例の店出禁にするぞ!」
「土下座して謝るんでそれだけは許してください」
冬将軍も文句なしで許しそうな見事な土下座だけど、店先でされるのは凄くシュールだなぁ──
「──って、土下座はやめてください! ほら、周りから何事かと凄い見られて……!」
「止めないでくれゆんゆんちゃん! これは男の死活問題なんだ!」
「なんでいきなりそんな話になってるんですか!?」
例の店っていったいなんなの!?
「ほら! 兄さんもつまらないことで怒ってないで、止めてくださいよ!」
「あー……しょうがねぇなぁ。アイス一つ分まけてくれりゃ許してやらんこともないぜ?」
「ぐっ……ダストのくせに妥当なところを……。これで無理難題吹っ掛けてくればゆんゆんちゃんが味方してくれて有耶無耶に出来ただろうに……」
「なんか言ったかおっさん? こっちはどっちでもいいんだぜ?」
「勉強させてもらいますよ、お客さん!」
押し付けるようにしてアイスクリーム二つを渡す店主さん。
「最初からそう素直にしときゃよかったのにな…………って、なんだ、ゆんゆん。そのジト目は」
「うん、やっぱり兄さんはろくでなしだなぁ……って」
一昔前に比べたら大分ましになったけど。それでもやっぱりお兄ちゃんはろくでなしのチンピラさんだ。これで隣国の英雄だったって言うんだから信じられない。
(…………あれ? なんで私のお兄ちゃんが隣国の英雄だったの?)
私はベルゼルグに住む紅魔族で、お兄ちゃんもそうであるはずなのに。
「ゆんゆん? なにボーっとしてんだ? もしかしてアイス二つともタダにしてもらいたいのか?」
「ち、違うから! だから店主さんに本気で交渉し始めるのはやめて!」
一つだけでも申し訳ないのに…………今後も利用させてもらうのを考えたら流石にこれ以上値引き交渉はされても困る。
「さっきはもっと節約しろとか言ってたくせに」
「節約は大事だけどそれ以上に人付き合いというか常識は大事にしてよ……」
本当お兄ちゃんは極端なんだから。
──ダスト視点──
(やっぱ、他人と触れ合えば触れ合うほど違和感は出てくるか)
度々悩む様子を見せるゆんゆんを見ながら俺はそう思う。
ゆんゆんに同意の元、自分が俺の妹であるという催眠をかけたが、このままじゃ違和感から催眠が解けてしまうかもしれない。
もう少し兄妹デートを楽しみたかったが予定を早めて地獄のリリスの店に向かった方がいいかもしれないな。
「兄さん? 難しい顔をしてどうしたの? 似合わないよ?」
「別に何でもねー……って似合わないってなんだ似合わないって。本当お前は一言多いよな」
関係性こそ誤認させているが、それ以外は何も変えていない。つまり、今のゆんゆんはもしも兄がいた場合の本当の姿なんだろう。
…………、まぁ、
「それ、兄さんが言う? 兄さんだって余計な一言言って私やリーンさん怒らせてるじゃない」
「否定はしねぇが、お前よりはマシだっての」
「いやいや、兄さんの方が私より酷いよ」
「いやいや…………って、言い争っても仕方ねぇか」
どうせこいつが折れることはないんだから。
普段は引っ込み思案な癖にこういうとこじゃ絶対言い分を曲げないってんだからめんどくせぇ。
「それで? 結局兄さんは何を悩んでるの?」
「だから、なんでもねーって」
「そう? まぁ、兄さんがそう言うならこれ以上は聞かないけど…………どうしようもなくなったらちゃんと相談してよ? その…………たった二人の兄妹なんだからさ」
「…………ま、気が向いたらな」
なんて、あと一日もしないうちに影も形もなくなる悩みを相談することなんてねーだろうが。
そもそも相談したら全部台無しだし。終わるまで話すなんてことはありえない。
「──って、なんだよ、ゆんゆん。そんなに俺の事見つめて」
なんか俺の方をジーっと見つめてくるゆんゆん。
相談しないことがそんな気に入らないのか? でも、さっきまでの感じとも違うしマジでなんだ──
「──はむっ! んー……やっぱりこっちの方もおいしい」
「おまっ! 俺の分勝手に食ってんじゃねーよ!」
俺の食べかけのアイスを容赦なく半分以上一口で奪っていくゆんゆん。別に甘いものが特別に好きって訳じゃないが自分のもんを勝手に取られるのは気にいらない。
「んぐ……だって、美味しそうだったから仕方ないよね? そもそも二つ頼んだのってこうするためだったし」
そういや、なんかそんなこと言ってたな。
「だとしても、勝手に食うことはねーだろ」
一言いいさえすれば普通に食わせてやるのに。
「もー……兄さんってそんな細かい事気にするからモテないんだよ?」
「別に今更モテたいなんて思ってねえよ」
どっかの最弱職見てるとハーレムが羨ましいなんて気持ち吹っ飛ぶし。実際に彼女が出来て今、俺にはゆんゆんだけで手一杯だしな。
「? いつも彼女欲しい彼女欲しいうるさいくらいなのに…………熱でもあるの?」
「本気で心配そうな顔して熱測ってんじゃねぇ!」
ゆんゆんの手がひんやりして柔らかくて気持ちいけど。表情がむかつく。
「熱はないみたいだけど…………そんなにカリカリしなくてもいいのに」
「誰のせいでカリカリしてると思ってんだ」
別に本気で怒ってるとかはねぇが。というか毒舌ぼっちのこいつのいちいち本気で腹立てたらやってらんねぇし。
「もー…………じゃあ、私のアイス少し食べる?」
「既にコーンしか残ってねぇのを不服そうに差し出してくんじゃねぇよ。いや、くれるってんなら貰うが」
「それじゃ、あーん──」
ゆんゆんは一口大より小さなコーンを俺の口へと近づけてきて、
「──はむぅ…………んー、やっぱりこっちも美味しいね」
俺が口を開けたところで
「…………おい」
「ふぅ、ごちそうさま。ん? 兄さん、そっちもいらないなら私が食べようか?」
「……………………」
欠片もこいつ悪びれてねぇな。普段のゆんゆんなら同じ行動をすることはあっても少しはうしろめたさ的なものを匂わすんだが、兄妹だと思ってるからかそこら辺の遠慮が全くない。
ま、そっちがその気ならこっちも遠慮なくやれるから別にいいけどな。
「ひゃぅっ!? に、ににに兄さん!? 何してるの!?」
「──ん。ん? 何ってお前の耳を噛んでるだけだが?」
「何が
顔を真っ赤にして叫ぶゆんゆん。
「だって仕方ないだろ? お前の耳がなんか美味しそうだったからな」
「うー……意趣返しのつもり? だとしてもこれは……んんっ♡」
不服そうなゆんゆんの綺麗な耳を俺は甘噛みする。文句を言おうとする度に強く甘噛み、少しずつ激しくしていく。
「やぁっ♡ 周り……見られ……ぁっ…♡」
「心配すんな。近くにゃガキしかいねぇよ」
それも女だけだ。
「そう…いう……問題、じゃ…あぁん♡……」
「じゃ、どういう問題なんだ?」
「だって……私たち兄だ…やぁ、だめぇ♡ した、いれちゃぁ♡」
「別に、これくらい兄妹のスキンシップの範疇だろ」
「そんなわけないからね! もう、本当だめぇ……♡」
ダメとか言いながら完全に顔がとろけてんだよなぁ。これで男が止めるわけがない。
「なぁ、ゆんゆん。俺にこうされるの嫌か? 本当に嫌だったら止めてやるよ」
ゆんゆんの誤認させられた関係性からくる常識はこの行為に拒否感を覚えさせるだろう。
だが、本当のゆんゆん…………何もいじらられていない想いはこの行為を受け入れてくれる…………はずだ。
…………受け入れるよな? もっと凄いことしてるんだし耳を甘噛みしたりするくらい。
「…………、いや、……だよ」
「…………、そうか」
んー、子ども作るとかなら近親のタブーが強くなって嫌がるかもとは思ったが、これくらいでもダメか。
それともいつものゆんゆんも実は嫌がってて、我慢してたとか──
「たとえ、女の子だけだとしても…………私のこんな姿、お兄ちゃん以外に見せたくないよ」
…………………………
「──って、わわっ!? いきなり手を引いてどうしたの?」
「なんでもねーよ。早く帰りたくなっただけだ」
荷物をさっさと城に降ろして一秒でも早くリリスの店に行く。
兄妹デートも悪くなかったが…………あんな可愛いこと言われたら、悠長なことしている気分は吹っ飛んでいた。