※この作品はR-18です。

山城嫁提督がだらだら書く、艦これの妄想置場   作:もののけティラミス

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戦艦長門と提督はおしゃべりがしたかった

「提督、これが今日の報告書だ。前作戦に取り逃がした奴らを数隻沈めた。午前2時56分戦闘開始。敵艦隊は戦艦ル級2隻、内一隻は中破状態と判定―」

 そうやって彼女は、持ち前の凜とした声で提督である私に昨夜の出撃の報告をする。

 戦艦の艦娘は、容姿、声質、共に非常に女性らしく、それこそこの世のものとは思えないほどの美しさである。

 我が艦隊には、扶桑、山城、そして、今私に報告をしている長門が戦艦の艦娘として所属している。

 内一隻は航空戦艦だが、それは隅に置いておく。

「なるほど。川内が悔しがりそうな夜戦だったな」

「ふっ、そうだな。私としてはなるべく夜戦は避けたいものであるが。手負いの獣はなにをするかわからない」

「あら、敵方としても、いくら砲を重ねても近づいてくる貴女の姿を見たら、悪夢だと思いたくなるでしょうに」

 秘書官である扶桑がそう長門に返す。

 この2人は、服装こそ大きく違うが、容姿はとても似ている。

 艶やかで両ひじを超える長さの黒髪、見るものを引きつける豊満な胸部、引き締まった腰回り、そこから伸びる美しく、程よく肉のついた長い両足。

 ここにも多くの艦娘が所属しているが、彼女たちに対抗できる大人らしい魅惑的な艦娘は、赤城くらいであろう。

「では、これから明日までの間、長門の休養の時間とする。明日は、山城の補佐として秘書艦として働いてもらう。報告ご苦労、下がっていいぞ」

「了解した。では、また明日」

 そう言って回れ右をする長門。その動きに呼応して、彼女の短いスカートがふわりと舞い上がる。無論その機能をきちんと保っているのだが。

「失礼します」

 長門はそう律儀に言って、執務室を後にする。

 彼女の退室後、扶桑が話し始める。

「さすが長門さんですね。的確に敵戦力を把握、それからの完璧な指示、かつ自ら率先しての撃破。羨ましい限りですわ」

「私としては、説明が端的かつわかりやすいことも評価の点に入れたいね」

「確かに、最上にも見習ってもらわなければ、ですね」

 その言葉の内に苦笑いを隠そうとしない扶桑。こうして付き合っていてわかったことだが、彼女は親しいものに対しての評価には容赦がない。

「まぁ、人にも艦娘にも適材適所があるということだ」

 彼女がこうして笑っているのも、私がこうして最上をかばっているのも、全ては長門の前に報告に来た最上の報告が発端だ。

 彼女の報告は、長門のように事実と結果をいうのではなく、その時自分がその時々どう思ったや、敵はどう思っていただろうかなど、報告の段階では必要のないあまりにも主観的すぎる情報が多く存在していた。

 アレから必要な情報を聞き分けるのはなかなか骨のいる作業だった。今度から、最上が出撃するときは、報告が上手い奴と共に来るように仕向けようと私は密かに心に誓った。

「それはそうと、長門さんまで秘書官につけるとは珍しいですね。彼女をつけなければならないほどお仕事が滞っていないと思いますな」

 扶桑の疑問は自然なものだ。通常、私が秘書官につけるのは扶桑型の2人だけだからだ。

 しかし、それには明確な意図があった。

「長門を秘書官にしたのには二つ理由がある」

「二つ…ですか?」

「その通りだ。その口ぶりからすると何か思い当たるがあるようだな」

「一つだけならありますわ」

「言ってみろ」

 扶桑が自分の考えを話す。

「わかりました。私が思うに、長門さんを提督の眼に映るところにいてほしいと考えているのだと考えます。理由としましては、彼女の最近の自由時間の使い方で疲労が取れているように思えないからです。だから、提督は自らの目の届く範囲に彼女をとどめることで、彼女の身体的行動を制限しようとしている。こんな考えでしょうか?」

 流石だなと、私は思う。

「まさにその通りだ。彼女は時間さえあれば演習場やトレーニング部屋にいるようではないか。祥鳳が起きた頃には既に起きていて、電たちが帰って来る時間まで起きているそうじゃないか。あれは本当に休んでいるのかわからん」

  私自身は執務室を日中出回ることは少ない。しかし、彼女の休日の過ごし方のことを聞くと大方の艦娘は先ほど私が言ったように過ごしていると返して来る。

 もちろん、メンタル面ではそれで休まっているのかもしれないが、艦娘の身体と言っても、ある程度は休ませなければならない。

「だから、明日はその体を休める意味で、私の目の届くところにいてもらうと思ってな」

「なるほど、考えた通りの理由でしたわ。では、後もう一つの理由はなんなのでしょうか?」

「思い当たるものはないか?」

 私がそう返す。彼女は少し考えたそぶりを見せてからわからないとの旨を、首を振ることで表す。長く美しい髪がそれに呼応して優雅に波打つ。

「ははっ。なに、そう難しいものではないんだよ」

 私は、どこか子供が悪戯を思いついたかのような笑いをする。

「難しい理由ではない?」

「そうそう」

「なら、余計に検討がつきませんわ。理由をお聞かせ願えますか、提督?」

「なーに、簡単なことさ」

 そう、これただの俺のワガママ。

 

「俺が長門とゆっくり話したいだけだよ」

 

 

 

「というわけでかけてくれ」

 私がそう言った時の彼女の顔を私は、これからずっと忘れないであろう。

 彼女は、約束であった10時よりも5分早くに執務室へやって来た。彼女がやってきた時、私は応接用のソファーに腰をかけていた。

 迎え合わせにされた二人掛けのソファーの間にはガラスでできている机がおかれている。これは、来客用の応接スペースで、常に執務室の角に用意されている。

 そして、入試と同時に彼女が今日の自分の仕事はなんなのか聞いて来たので、私は

「私…いや、俺と話すことが今日の仕事である」

と言ってやった。そして冒頭のセリフに続く。

 言われた彼女はというと、あの戦艦長門が、戦闘中は誰よりも恐ろしく恐怖されているあの勇ましく、凛々しく、そして美しい彼女のその顔が、鳩が豆鉄砲を食ったように、驚きと疑問の表情を隠すことなく面へ出していた。

 私と隣にいた山城は互いに顔を見合わせ、思わず吹き出してしまった。

「…いったいどういうことだ?」

  長門が、今度は怒気をふくんだ声音で尋ねる。

「まぁまぁ、とりあえず座りなさいって」

 彼女は、納得がいっていない様子であったが私と対岸の、机を挟んだ反対側へ腰を下ろす。

「さて、ちょうどいい時間だ。長門は紅茶とコーヒー、どちらの方がお好みかな?」

「…紅茶で」

「よし、なら用意しよう」

 私が腰上げようとするのを隣に座っていた山城が止める。

「いえ、それなら私がやります」

「なら、まかせる」

 山城はそのまま、執務室に併設されている給湯室へ消える。

「さて、山城が紅茶を作ってくれている間になぜ私が君を呼んだのかを話そう」

「ぜひ、そうしてほしい」

 未だに苛立ちが消えていない様子だ。語気が荒い。

「実は、私の業務の内に艦娘の健康管理というものがあるんだ。そのため、艦娘の様子を気にかけることもわたしの業務の一つであるわけだが、数人、気になったものがいたんだ」

「そのうちの一人が私、と?」

 さすが長門。頭の回転が早い。

「そういうことだ。念のため、お前の休日の過ごし方を私に教えてくれ」

「過ごし方と言われても、普通に過ごしているとしか…」

 長門は、心底不思議そうな表情をする。自分の行動に何の疑問も持っていないようだ。

「このあいだの休み、朝起きてから順番に何をしていたか思い出して見なさい」

「ああ、あの日は、朝起きてからランニングをして艤装の点検をしたな。その後朝食を取り、トレーニングルームに行ったな」

「それで?」

 私は彼女の話に相槌を打つ。ここまでは、私が聞いたものと同じだ。

「そこから、昼食を食べて、同日非番であった木曽と島風、赤城に頼んで演習をしてもらった。その後、彼女たち別れ、夕食を食べ、風呂に入り、すぐ寝たな。何か変なところでもあったか?」

 そう、これなのだ。

「長門。念のためにその前の休日もどのように過ごしていたか教えてくれないか?」

「その前と言っても、特には昨日と変わりないのだが…」

 そうであろうな。

「長門。休日の過ごし方はそれぞれだと思うし、私も特に干渉したいわけではない。だが、私は、どうしても昨日のように休日を過ごしていることを見逃すことはできない」

「どういうことだ?私の休日の過ごし方に何か問題があったか?」

「違う。お前の休日の過ごし方の問題点は、休日の過ごし方が何も変化していないことだ」

 長門がこの鎮守府に来たのは、今から約2年と半年前。その頃から、彼女の休日の過ごし方は、毎年来るある1日を除いて全く変化していないのだ。

 私がそのことを伝えた。だが、長門はいまいち思い当たらないようだ。彼女の言い分はこうだ。

「なぜ、休日の過ごし方が同じだといけないのか?赤城や隼鷹、それに山城だってそうだろうに。休日にやっていることは、食べる、飲む、山城場合は扶桑にくっつくであると思うが」

 それに対して、

「あら、私はそれ以外にも散歩や読書なども行いますよ」

と、給湯室から戻ってきた山城が答える。

「はい、これ。現地の方々がくれたフルーツティーです」

 そう言って、お盆から私の前には二つ、長門の前には一つのティーカップを置く。そして、ティーポットから順々に紅茶を注いでいく。言われた通りのフルーツティーらしく、甘い優雅な匂いが執務室を包む。

「提督、角砂糖はどうされますか?」

「砂糖一つ、いや、二つにしようか。香りが甘いからちょうどいいであろう」

 彼女は、私の言った通り、角砂糖を2つ入れる。

「長門さんはいかがされますか?」

「私は…」

「いつも通り、5つぐらい入れてあげればいいんじゃないかな?」

「なっ!?」

 長門が驚きの声をあげる。

「そうですね。今月はまだ角砂糖に余裕はありますから遠慮せずに」

 私たち二人の言葉に長門は口をパクパクさせている。

 それもそうだろう。彼女自身は甘党であることを隠しているつもりなのだから。

「ど、どうしてそれを…」

 長門がやっとの思いでひねり出した言葉がこれだ。

「そんなに驚かなくていいだろうに。それで、砂糖はいくつ入れて欲しいんだ?」

「あっ、で、では、4つ、いや今更見栄を張っても仕方ない。5つ入れてくれ」

「わかりました」

 山城は、一つ一つ角砂糖を入れていき、かるくかき混ぜた後に長門の前に差し出す。

 そして、自らのものには一つ、白い立方体を入れる。

「ん?今日は砂糖が少なめなのだな?」

「今日のお茶請けはこれのつもりでしたので」

 そう言って、彼女は大量のクッキーが乗せられた皿を机の真ん中よりも少し右寄り、つまり山城側におく。

 お茶請けとしては多すぎる量に長門は、少し引いている。眉間にしわがよるほどに引いている。まぁ、無理もない。

「またそれかぁ…。ほんっとに好きだな」

「ええ。せっかく明石にバージョンアップしていただきましたから、使わなければ損という物です」

 彼女がそうどこか誇らしげに言うのは、明石特製全自動クッキーメイカーver.2.5のことだ。過去の無尽蔵にクッキーを作り続けたと言う事件のこともあり、これの存在を知っているものからはクッキーという存在自体がPDSDの素となっている。しかし彼女だけは他の艦娘達とは違い、山城はどうやらこれのつくるクッキーが口にとてもあったらしく、あの事件後もよく利用していた。そして最近、明石をせっついて様々な種類が作れるようにバージョンアップしてもらったようだ。それがあまりにもうれしかったのか、一時期はお茶請けといったらこれのつくるクッキーであると言うほどの入れ込みようであった。

 私としてもお茶請けとして出された多量のそれらに対し、当初は長門と同じ反応であったが。

「では、いただきます。…ンンッー!」

 毎度毎度、このクッキー食べるたびにその美味しさに顔が緩む彼女が見られるのだ。以前のとは違い特に害もないので、彼女のしたいようにさせている。

「では、私たちも頂こうか、長門。紅茶が冷めてしまう」

 未だ呆気にとられていた長門は、私の言葉に気を取り戻し、ああ、といってカップに口を近づける。

 私は、自分のものを飲むふりをして、長門がそれを飲む様子をじっくりと見る。

 長門は、まず、香りを楽しんだ後、ゆっくりと、砂糖がたっぷりと入った甘い紅茶を口に含む。

「…美味しいな」

 そういった彼女の顔は、先ほどまでの眉間にしわを寄せたものでも、間抜けなものでもなく、一人の女性としての優しく、暖かく、柔らかい顔つきになっていた。

 私はそれを確認して、改めて自らのものを飲む。飲む前から感じていたフルーティーな香りは、口に含むことでさらに強まり、山城の言った通り、その香りとマッチした程よい甘さが私を満足させる。

「確かにこれはいいな」

 しばらくの間、私たち三人は、机の上に置かれた彼らに、五感の全てを注いで楽しむ。

 最初は訝しんでいたクッキーも、長門が一口食べると、それまでの不安が払拭されたようで、山城には負けるが、美味しく、味わっているようであった。

 そんな優雅な時間が少し続いたが、それだけでは少し味気ない。そう思い始めた時、長門が口を開く。

「さて、では、私の休日に文句を言われた理由をお聞かせ願おうか」

 言葉こそ棘があるが、実際のそれは先ほどまでに比べたらなんと柔らかいものか。

 そのため、私はとても口が開きやすく、いつものように遠回りすることなく、真っ直ぐに彼女に言葉を捧げる。

「先ほども言ったが、別に長門の過ごし方が悪いと言っているわけではない。ただ、休日の過ごし方もどこか義務的に、同じような生活を送ろうとしていたから心配になっただけだ」

 私は、間に呼吸を置きながらこう続ける。

「私たちにとって、休日は素晴らしいものだ。好き嫌いに関わらず同じことを繰り返していては疲れてしまうからな」

「そこで休日に自分の好きなことであったり、普段できないことをして、いつもの自分と違うことをやって見るのだ。そうして、固まり始めた心身を和らげ、また仕事に熱が入れられる」

「私はそう考えていたから、ここの奴らに休日をできうる限り与えられるように組んでいるつもりだ」

「そして、彼女たちは思い思いにそれらを楽しんでいるようだ。さっき長門があげた者だと、赤城は、食べるだけでなく、自らも料理を作っている。たまに失敗したものを私や他の艦娘に食べさせにくるが、それが彼女なりの他人との付き合い方なのだろう」

「隼鷹もそうだ。酒を朝から堂々と飲めると言って酒瓶は絶対手放さないが、それでも術式の修練や艦載機の整備、新たな式神を作り出すなど、案外行っていることは真面目なものが多い。その傍、釣りであったり音楽を聞いたりときには弾いたり、多趣味な面も持ち合わせてはいるがな」

「山城については、本人から聞いた方がいいだろう」

「そこで私にフりますか?」

 齧りかけのクッキーを持ちながら私を半目で睨みつけてくる山城。

「なに、休みの日の過ごし方を話すだけだろう」

 キッと睨みつけながら彼女は言う。

「休みの日の過ごし方だなんて言われても…。私は赤城や隼鷹のように特別なにかを行っているわけではないですよ?」

「いや、私も興味がある。ぜひ教えて欲しい」

 長門のこの一言は、山城には効いたようだ。彼女はなんだかんだ他人に頼まれると弱い。

「長門がそう言うなら仕方ありませんね…。このあいだの休みは、最上や三隈、満潮と遊んでいましたね。オセロであったりチェスであったり…ああ、軍人将棋は盛り上がりましたね。三隈の強いこと強いこと」

 そうやって楽しそうに休日の話をする山城。

 その姿をこちらも楽しそうに聞く長門。

 話しはなお続く。

「―それで、結局じゃんけんで勝敗を決めるのですから、ねぇ?」

「なんだそれは、それでは今までの勝負の意味がないではないか」

 長門がそれはもう楽しそうに山城に話しかける。

「まさに、その通りです。そんな不毛な休日を過ごしましたね」

 そう言っている彼女の顔は、優しさに包まれている。

 山城の話が終わるとともに、長門が何か得心を持ったように、自嘲気味に笑う。

「なるほどな。そのように他の艦娘が過ごしている中だと私は確かに異質な過ごし方だったな」

「そう言うことだ」

 私は再び紅茶を含む。

「今の話、特に山城のだな、それを聞いてどう思う?そして私が言いたいこともわかるだろう?」

「ああ、なんとなくだがわかったよ」

 長門が話始める。

「山城の話を聞いて、私は心底楽しそうだなと思った。あの山城がそんなに嬉しそうな顔をして話すのだ。良い休日を過ごしていたのだとすぐに理解できたよ」

「まって、そんなに嬉しそうに話していたかしら?」

「ああ、駆逐艦たちに見せたら山城のイメージが一変するだろうと思うほどにな」

 山城がうぅ…と呻きながら両手で顔を隠す。

 それを見て、私と長門は、目線だけで会話する。声に出さなくても、分かり合えることはあるのだ。

 長門は続きを話す。

「話を戻して、そんな自由気ままに休日を過ごす彼女たちに比べ、私と言ったら筋トレや演習やら毎回同じ行動で休日を終えていて、それで本当に休みを楽しめているのか、そう問いたいであろう?」

「そう言うことだ」

 戦艦長門。彼女は諸事情があって、私の指揮下に入る艦娘の中で、一番古く建造された艦娘である。

 それは、艦娘の中での最年長を指し、特異な過去もあって、彼女の経験というものは他の艦娘から一線を画していると言える。

 そのため、彼女自身の経験の量は、私の艦隊の中に居る艦娘の中でも随一だ。

 それに加え、彼女の特に秀でて入るところは相手が何を意図して言葉を発しているかを素早く正確に察することができる点だ。

 彼女は、他人の言葉聞いて、最後までそれが到達することがないままに、その意を汲み取ることができる。そういう点では艦隊の旗艦に据えるのは、彼女本来の性質から言えば外れている。

 彼女はその性質から、私としては非常に話しやすい存在である。

 しかし、こうして話をする時間はあの日以来全くと言っていいほど取れなかった。

 だからこそ、私は今日と言う日を楽しみにしていたし、公務を離れた今回の会談は、とても楽しみにしていた。

 彼女のことだ、今までのこの会話で私の真意をすでに察していることであろう。だからこそ、

「なら、せっかくこのような場を設けさせてもらったのだ。提督が私に素晴らしく楽しい休日を提供してくれることを期待させてもらおうか」

 などと、彼女は悪戯な笑みを浮かべて言ってのけるのだ。

 

 

 

 私たち3人の歓談は、昼食を挟んでも続けられた。あるのかないのかわからない内容を話していたが、三人ともがその時を楽しんでいたことは確実であろう。しかし、沖に出ていた木曽からの通信により、その楽しい時間は終わりを告げることとなる。

 彼女の無線越しの声は、明らかに普通ではなく、焦っている様子を表していた。

「こちら提督。どうした、木曽」

「ヒトフタフタサンに扶桑さんの偵察機から敵艦隊発見の報を受けた。その、敵艦隊の編成が空母4隻、戦艦2隻、軽巡2隻駆逐4隻の連合艦隊編成をとっている。内空母2隻と戦艦1隻はエリート以上の模様。無視したいところだがこの進行ルートはそっちに向かっているものと考えられる。できるだけ接敵は避けているが、放火を交えるのも時間の問題だ!支給応援を頼む」

「了解。至急そちらに増援を送る。ナの3まで後退して合流、その後、敵連合艦隊の迎撃及び殲滅を行え。合流するまでに敵艦隊に捕捉されたら全力で逃げろ」

「了解、指定地区まで移動する」

 木曽からの連絡はそこで途切れる。

「と、言うわけで楽しいおしゃべりもここまでだ」

 私は館内放送のスイッチを入れる。

「緊急事態発生。赤城、雲龍、最上、五十鈴、時雨は、山城を旗艦に出撃!他艦娘も順次指示を出す。総員、指示があるまで待機せよ」

 それを言い終え、私はスイッチを切る。

「山城、貴官を連合艦隊旗艦に任命、速やかに出撃後、木曽たちと合流し、陣形を整えた後、敵艦隊に当たってくれ」

「今作戦上、わたしの高速化が必要と判断します。許可を」

「そうだな。明石にはこちらから通達する。お前は艦隊をまとめてくれ」

「了解。航空戦艦山城、連合艦隊旗艦の任を預かります。必ずや提督に勝利を」

 先ほどまでクッキーを頬張っていた小動物のような姿は、今の彼女には見られなかった。

 彼女は、執務室を後にする。

 それを確認することなく、私は工廠への連絡スイッチを押す。

「明石。山城の装備に高速化を付与してくれ」

『それはよろしいのですが、何を下ろしますか?』

「徹甲弾でいい。やつには瑞雲の方が重要だ」

『了解しました。山城さんが来るまでに仕上げます』

 明石との通信が切れる。

 私は、もう一人の戦艦。こちらを真摯にみつめる長門への指示を下す。

「長門、お前代理秘書艦に改めて任命する。ここで私の補佐に回れ」

「了解」

 彼女も腰掛けていたソファーから立ち上がり、敬礼をして述べる。

「まず、他方面からも敵艦隊がやって来ている可能性がある。それに備えた警備隊を配備する必要があるだろう。その人選に取り掛かるぞ」

 主力空母群、それに、連合艦隊ときたら、本格的な攻勢の可能性が考えられる。もし、そうであるならば早めに手を打っておかなければならない。

「なら、高練度の艦娘たちを中心に、一昨日、昨日、今日、そして明日の勤務時間から、比較的余裕のある者をリストアップし、こちらで振り分けよう」

 長門問いかけに無言で頷く。リストはすぐに彼女が作ってくれるであろう。

 その間に、私は相手の出方を考えよう。そして、この戦闘の意味を。

「さて、やるとしましょうかね」

 私は執務机の上に置いてあった帽子を深くかぶり、思考の海に身を投げはじめる。

 

 

 

「艦隊、無事戻りました」

 山城達が帰投した時には、既に日は暮れ、今日は走り去り、明日が顔を見せていた。

 そして、戦闘経過等の報告をする時には、既に明日になっていた。

 山城と、大破した木曽に変わり、第二艦隊代理旗艦島風並びに扶桑、そして秘書官代理を務める長門が執務室に揃う。

「戦闘経過については島風が報告します」

 山城の言葉に島風が飛び上がるように反応する。

「は、はいっ!第2艦隊を木曽から…木曾さんからお預かりいたしました、り、臨時旗艦を務めました」

 あまりの緊張ぶりに、彼女の口は震えている。

 私はそんな彼女の状態に内心笑ってしまった。彼女のこのようなところは駆逐艦らしい。

「そんなに緊張しなくていい。いつも通りの私に接している様に話してくれ。ここで大事なのは形式や風紀じゃない」

 戦艦3人の前で一応ここのトップである私に報告するとあって、島風は完全に緊張している。そんな島風に対して、先ほどの言葉に続いて、今大事なのは事実を知り情報を共有することだから島風の話しやすい様に話してほしい、と私は言う。

 彼女はそれでもなにかを躊躇った様子であったが、山城が島風に何かを耳打ちし、それが決め手となったのか、彼女本来の言葉で戦闘の経過を話し始める。

 彼女の話はこうだ。扶桑の偵察機が敵艦隊を発見、その後すぐ木曽が私に連絡、指示を受けたのち、後退しつつ合流ポイントへ。そこで山城達と合流。敵艦隊に既に敵偵察機で見つかっていたようで、正面からの艦隊決戦を行うことに。さらに詳しい戦闘の経過はここでは省くとして、結果、こちらの被害は敵艦載機が殺到した雲龍を庇う形で赤城が中破、夜戦時に追撃に出た敵艦隊の砲撃を一身に受けた木曽が大破。しかし、木曽の明確な指示の甲斐あって、敵艦隊は一隻残らず全滅。戦闘中に敵偵察機が離脱した形跡もないとのことだ。

「なるほど…」

 戦闘の経過自体は、特に不明な点はない。普通の戦闘だ。

「島風、夜戦で追撃した敵はなんであった?」

「エリートの空母ヲ級2隻と軽巡ト級、駆逐イ級改が2隻だったよ」

「そうか」

 ここにも特に違和感はない。

「山城はどうだ?島風の報告の他に何かあるか?」

「ありません。彼女の戦闘経過に異議を唱える余地は存在しません」

 きっぱりと言う山城。彼女がそう言うのなら、島風の報告以上の情報はもうないのであろう。

「わかった。島風」

「はいっ!」

 私の呼びかけに話していた時から崩れていない姿勢をさらに正す島風。

「哨戒、戦闘並びに報告、ご苦労であった」

 ここで一呼吸おく。

「山城に口を出させない報告は見事であったよ。これからもこのような機会があるかもしれないけど、今日みたいに報告すれば大丈夫だ。自分に自信を持て。そして、今日はお疲れ様」

 また一呼吸。

「駆逐艦島風、現時刻から、2日の休息を命ずる。退室してよし!」

「はいっ!!」

 島風は、嬉しそうにそう答える。

「失礼します」

 そう言って、彼女はここを後にする。

 これで、執務室には、戦艦3隻と私が残されることとなる。

 私が口火を切る。

「戦闘の経過はわかった。島風や山城の様子からも、いたって普通の戦闘なわけだ」

 ここで一呼吸、そして、

「そこに、私はこの戦闘に対しての違和感が生まれた」

と、続けた。

「違和感とは、なんでしょうか?」

 扶桑が疑問をぶつけてくる。

「戦闘自体は、なんてことのない普通の戦闘だ。なら、深海棲艦は、なんの目的があってあの艦隊をここは遣わしただ。これがわからない」

「なるほど、相手側の意図が見えないのですね」

 扶桑の言葉が、この場を設けた最大の理由である。

「そう。元々、木曽たちは、近海の警備のため、山城たちは木曽たちの応援のため、と普通ならば出撃をすることに必ず理由があるんだ。奴らにしてもそうだ。大体は威力偵察が主だと思うが、それを行うために、連合艦隊でやってくることは、あったであろうか。もし、仮に威力偵察だとしたら、なぜ、夜戦になるまで引き上げなかったのか。敵方の攻勢であったなら、他の場所にも奴らがいたはずなのにどうして見つからない」

「しかし、幾ら別艦隊に探させてもそのような報告はなく、蛮少佐の鎮守府へも攻撃は確認できなかった。これらからも、敵艦隊の今回の動きには理由が不明確である、ということか」

 長門が私に続いてそうまとめてくれる。

「蛮少佐にも連絡したのですね」

 扶桑が問いかける。

「一応な。しかしあちらさんは、敵艦隊の痕跡すら見つからなかったそうだ。これを考えるに、今回の狙いはこことも考えられたのだが」

「それでは、別働隊がいなかったのはなぜか、と言うことになるのですね」

 今度は山城。

「そうなんだよなぁ」

 いったい、今回の出撃で敵がしたかったことはなんなのか。その意図が全くわからない。

「とりあえず、私の感じた違和感の説明は終えた。他に何かあるものはいるか?」

 3人とも、首を横に降る。特に無いようだ。

 私は、いつの間にか力が入っていた身体をほぐすように姿勢を崩す。そして、彼女たちに指示を出す。

「ん。現在時刻をもって、長門の秘書官代理の業務を解除。これから12時間の休息後に近海警備を行ってもらう。扶桑は、明日08.00から秘書官に復帰してもらう。山城はこのままこの部屋に残ってくれ。以上、解散」

 私の号令とともに3人が一斉に起立、敬礼を行い、山城以外の二人は、執務室をあとにする。

 執務室には残されたのは、私と山城二人になる。

 山城は、敬礼をとくと、応接用のソファーに座る。反対に、私は椅子から立ち上がり、山城の隣に座りなおす。

 先に口火を切るのは山城であった。

「お疲れ様でした。何か入れましょうか?」

「いや、少し話したら寝ようと思っている。それよりもだ」

 私は、両ひじを両膝にのせ、両手を合わせ、その上にひたいを乗せる。

「今回ばかりは全くわからん。今までのものが100%わかってきたわけでも無いが、理由となる合理的なものがあった。しかし、今回は全く思いつかん」

 敵の狙いがわからなく、あれこれと予防策を考えることしかできない自分に歯がゆさを感じる。

 そんな私の隣で、いつのまに持ってきたのか、クッキーを頬張りながら、

「敵が何を考えているかわからないなんて今に始まったことじゃないでしょうに」

と、山城が言う。

「そうは言っても…」

「敵になんの意図があったとしても、こちら側は、私たちを適切に運用し続けていれば負けることなどありません。情にほだされて無茶な作戦を立てるだとか、駒を切ることに躊躇があっては、こちらは負けますよ」

 なんでもないかのように言う山城。駒の正体を良くわかっているのだから本当にたちの悪いことだ。

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ」

 かつて彼女が私の代わりに立案、実行した作戦を思い出す。

「アレは私が彼女たちへのお願いしたものですから、自主的に行なったのは彼女たちです。貴方と違って上官命令として行なったものではありません」

「俺はあの時、お前に全権を委ねていたはずだが?」

「生憎、艦娘に人権はありません。人権がなければ階級も何も関係ありませんわ」

「お前なぁ」

 一歩も引かない彼女である。だがそんな彼女と話していると、先ほどまで私を包み込んでいた暗い気持ちは彼女の声と暖かさに追いやられどこかへ行ってしまう。

 私と彼女との会話はその後、場所を移した仮眠室の布団で私が眠りに落ちるまで続いた。

 

 

 

 それから数日後。

 あの日以来、深海棲艦が連合艦隊を組んで出撃してきたという報告はどこからも届いておらず、我々もその例に埋もれなかった。

 私はそのことを訝しながらも、特段の警戒をする必要性を感じなく無くなっていた。

 それにはこのようなわけがあった。先週電報である報告が届き、昨夜電たちが護衛し運び出した物資のことだ。

 今、私の机の上にはそれに関連した資料が揃えられている。

「戦艦長門、提督のお呼び出しにより参上した」

 ノック音ののち、凛とした声か執務室に聞こえる。

「入れ。待っていたぞ」

「失礼する」

 声の主は長門である。私が呼びつけた。

「本来休みなのに召喚してすまない」

「なに、前々に言ってくれたおかげで予定は開けておいた」

 長門は、あの日以来彼女の休日の過ごし方に変化を生じさせていた。

 具体的にいうと、筋トレや演習の時間をどうやってかしらないが短縮し、演習に付き合ってくれたものと食事や遊戯に勤しむようになっていた。

 そして、彼女に私は助けられている。

 なぜなら、彼女は自分のような過ごし方をしていた艦娘とそのようなことを行い始めたからである。

 私は長門へしたような話を他の艦娘たちとも行うつもりであったが、その手間を彼女が省いてくれた。

 正直な話、長門との会談後、私の業務量は大本営から通達された次作戦の準備の為に増加していた。

 実際あの日は敵の来襲がなければずっと話していただろうし、他の艦娘たちのために私は午後の時間を費やすつもりでもあった。その、費やされるはずであった午後を使用できるようになったのは非常に大きかった。

 そのことへの謝意というわけでもないのだが、彼女に関わることで大本営からある書類が届いたとき、何よりも先にそれを進めた。そして、それに必要な物資も昨夜、電たちが護衛をしてくれ、無事到着した。

 そう、準備は整ったのだ。

「さて、戦艦長門。私は君に一つ質問をしたい」

 私は彼女がどう答えるかを知っている。

「君は、強くなりたいか」

 私はこの問いを長門に問いかける。

 長門は、私の問いを受けて一瞬驚いたようであったがそれを改めて

「無論だ」

と短く、しかし堂々と答えた。

 私はそうか、と言ってある紙束を見せる。

「戦艦長門。大本営から君への新たな改装案とその許可証が送られてきた。改装後の能力についてはこれにまとめてある」

 私はそのまま持っていた紙束を彼女に渡す。

 彼女は、それを真剣な表情で読む。

「艤装全体の底上げに加え、装備範囲の拡大、特に大発動艇が装備可能になると。…私に駆逐艦になれと?」

 長門が不敵な笑みを浮かべる。

「遠征を任せるには燃費は悪いがな」

「ははっ。違いない。でだ、提督はこれを私に見せてどうするつもりだ?」

「分かっていることをわざわざ聞くな」

「それもそうだな」

 長門は見ていた自身の改装に関する資料を私に返し、姿勢を正す。

 それに対して、私も椅子から立ち上がり姿勢を正す。そして、彼女に尋ねる。

「戦艦長門」

「はっ!」

「貴官はこの改装案を受ける気はあるか?」

「はい。この長門、我が国…いえ、提督と艦隊の力になりたいと常々思っておりました!この改装案は私が追い求めていたものであり、これを受けるは艦娘としての名誉でもあります!私はこの改装、ぜひ受けたいものと謹んで進言いたします」

「了解。明石、夕張」

「「はいっ!」」

 同室に控えていた二人が私に向き直る。

「貴官二人で長門の新たな改装を命ずる。長門の意思と意見を聞き入れ、彼女のための新たな艤装を作り出せ!」

「必ずや良いものを作り上げます」

「改装案以上のスペックを出すことをお約束します!」

 明石と夕張が順に答える。二人の目はやる気にギラギラとやる気に満ち溢れている。

「うむ。では、これより貴官ら工廠に赴き早速長門改二への改装に取りかかれ」

「了解」

 三人はそう返事をし、執務室を後にする。

 彼女たちの気配が離れることを確認して私は椅子へ腰を下ろす。

「全く、小芝居が過ぎるのではないですか?」

 私の隣、秘書艦である山城が言う。

「一応それっぽくしたほうが雰囲気出るだろ。事実、あの三人もノリノリであったではないか。長門のあの顔を見たろ。新しいおもちゃを買ってもらえる子供と同じ顔だったぞ」

「生憎、私は人間の子供など知りませんので」

「駆逐の子たちでイメージはつくだろう」

「さぁ?私が知る駆逐艦は限られていますので」

「お前なぁ」

 私の言葉には決して同意をしない、彼女の私の秘書艦としての役割がそこにはあった。

 …正直、こんなところまで反対しなくてもよいのではないかと思うのであるが。

「そんなことより早く今日の分を始めますよ。午後は彼女のテストを見たいのでしょう?」

「そうだな」

 私は、私の隣にいる彼女の顔を見る。

「今日も一日頼むよ」

 彼女もまた、私の顔を見る。そして

「任されました」

と短く答えるのであった。

 




 長門改二記念。
 戦前日本の顔であった彼女に、私は多大な敬意と謝意を述べたい。
 そしてこう続けるのだ。これからもよろしく、と

 作者用時系列メモ
 山城提督ケッコンカッコカリ済
 山城返事済
 H済
 事件後、某戦い前
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