森の奥から、ぱしゃぱしゃという水音が聞こえてくる。
薔薇の花びらが浮かぶ湯に身を浸していたユディトは水滴のついた睫毛を
しっとり濡れた長い豊かな髪で縁取られた顔は美しい。だが、まだ幼い。この美貌が完全に花開くには、あと数年はかかるだろう。しかし、あどけなさの残る顔は、咲き初めた薔薇のつぼみにも似た初々しさを宿し、いっそこのまま刻が止まってしまえばいいとさえ思わせる。
メイドが大きな銀製の水差しに入れられた湯を、ユディトの肌にそそぐ。湯気とともに甘やかな香気が立ちのぼり、ユディトはうっとりする。
メイドは後ろ足だけですらりと立った白いネコたちだ。それぞれがお揃いの黒いドレスを着て、白いエプロンをつけている。
浴槽の傍らで、メイド猫の一人が下着を入れたバスケットを持っている。その隣にはビスチェとパニエ、さらにその横にはレースとリボンをたっぷり使った純白のドレスといったように着用する順番に衣裳を揃え、待機している。
「ねえ、この前プレゼントしてもらった口紅をつけて」
着付けを終え化粧をしてもらいながら、ユディトはリクエストする。
これからはこれを付けなさいと贈られた真紅のルージュは、幼いユディトの容貌にそこだけは大人の色香を与えてくれる。
メイドたちは頷くものの、一言も喋らない。だからといって気を悪くしたりはしない。生まれたときから世話をしてくれる彼女たちはこれまで一度も口をきいたことがないのだ。
仕上げにグロスをつけてもらい、結髪もすませたユディトは鏡に眺め入った。
いとけない少女の清純さに、ほんのり漂う成熟した女性の妖艶さ。ユディトのご主人さまが愛してやまない美がそこにあった。
花園に囲まれた庭で、メイド猫たちが午後のお茶の支度をしている。その近くでは更紗を敷いた上で、ユディトが別のメイドたちとトランプ遊びをしていた。
「お嬢さま、お嬢さま」
「旦那さまがお見えでございますよ」
三十代後半とおぼしき三揃えのスーツ姿の紳士が歩いてくる。彼の髪はユディトの髪が紅いのと対照的に白く、後頭部で一括りにされている。右目は黒い眼帯で覆われているが、もう片方の青い目は優しい。端整な顔には温かい微笑みが浮かんでいる。
ユディトはカードを放り出して、紳士に飛びついた。
「ダガール!」
「いい子にしていたかい」
ダガールもユディトを抱き返してくる。
詰め襟の長い制服を着た黒いウサギの従者が、リボンのかけられた箱の山をかかえて後から付き従ってきた。ダガールは毎回たくさんの贈り物をくれる。美しいドレスや靴、宝石類。きれいな絵本に、ぬいぐるみの数々。ダガールはひとつずつ箱の包みを解かせてはユディトを喜ばせた。
「すてき」
「気に入ったかい」
「とっても」
ユディトはダガールの首に腕を回し、頬に接吻した。
お茶会の用意が整ったので、二人は手をつなぎながら歩いていった。
真っ白なテーブルクロスに色彩豊かな皿が並べられ、たくさんのお菓子が盛りつけられている。
パステルカラーのマカロン、レース模様のアイシングをつけたカップケーキ、苺とラズベリーを使った宝石のようなタルト。
楽しそうに笑いながら、ユディトは白い歯でマカロンをかじっている。
ダガールが小皿に入れられた淡紅色の砂糖菓子を摘み、口に含ませてくれた。薔薇の芳香が広がる。ダガールは微笑み、ユディトの頭をなでた。
「いい子だね」
ダガールは彼の好みに淹れられた紅茶に口をつけている。眼差しは絶えずユディトにそそがれていた。ユディトの頬が熱くなる。好きな人に見つめられているからだ。
ダガールの手が、ユディトの手に重ねられる。ぞくりとするような快感が走り抜ける。おもわず目を閉じる。
「奥で休もうか」
「うん」
ダガールはユディトをお姫様だっこして連れていく。
白い大理石の
支柱には淡紅色のつる薔薇があふれんばかりに咲いていて、馨しい薫りを放っている。花嫁の
ダガールがユディトを絹のシーツに横たえた。
長い紅い髪がベッドいっぱいに広がった。
ダガールを見上げながら、幼いときベッドの中で絵本を読んでもらったことを憶い出した。
あの頃、この人は私のパパだった。でも、いまは違う。いまの私はこの人の恋人なのだ。
ダガールはこの上もなく大切なものを扱う手つきでユディトの衣裳を脱がしていく。シルクで幾重にもくるまれた中から、真珠色の肌があらわれる。
少女期を脱しきらない肉付きの薄い身体つき。やや小ぶりな胸のふくらみ。
ダガールも衣服を脱ぎ、ユディトを抱き締めた。
「ユディト。美しいユディト。私だけの宝物」
身体じゅうにキスの雨を降らせ、たくさんの甘い言葉をささやいてくる。ダガールがユディトの太股に手をすべらせ、脚を開かせようとする。ユディトはあわてて、その手を押さえた。
「あッ……だめ。だめよ、ダガール」
「ユディト。この前にも教えてあげただろう。私たちのあいだで拒絶は許されないんだ」
「だって……だって羞ずかしい」
ダガールは優しい、しかし容赦ない力で下肢を開かせてしまう。
「綺麗だ、ユディト」
可愛らしいピンク色の花芽に口をつけられる。巧みな舌使いにたちまち昇りつめていく。ユディトは官能の歓びに身を慄わせた。
「あッ……いく、いっちゃう」
美しい蘭の花は愛する人のために咲き、甘い蜜を滴らせはじめていた。ダガールが蜜の潤いに助けを借りて、ゆっくりとその暗がりに分け入ってくる。
「……ああッ」
森の中にユディトの嬌声が響いた。