いつも松莉のことを思い浮かべるだけでビンビンなのに。
今日に限ってショボーンとは…。
普通の男なら己の不甲斐なさに涙のひとつも溢れるところだが、そこはカラ松、
「まったく、シャイなマイサンだぜ」
気にする風もない。
家の中なのに、しかもパジャマなのにサングラスをかけて、誰もいない廊下でポーズを取る。
たくさん愛して、幸せそうに応えてくれた。それで十分じゃないか…。
もし次があるなら、今度こそ頑張ってもらおう。
「頼むぜマイサン」
パジャマのズボンの上から軽く握ってやり、それからカラ松は自分たちの部屋にこっそり戻った。
もう真夜中だ、兄弟たちはいつもの布団でぐっすり眠っている。
…いや、一人足りない。
いつも隣に寝ているはずの、四男の姿がなかった。
トイレだろうと気にも留めず、カラ松は布団の端を一人分空けて潜り込む。一瞬後にはもう眠りに落ちてしまっていた。
「うえっ⁉︎」
真に驚いたとき、人は「キャーッ!」なんて綺麗な悲鳴など上げられないものだと知った。
低い、ひしゃげた声を出したきり、固まってしまう。
クローゼットに潜んでいた大きな猫は、のそりと這い出てきた。
右手に大人のオモチャを、左手にはクローゼットに収めてあった松莉のスカートを握って二本足で立っている。それは実は猫にあらず、4番目の兄、一松だった。
ひどく暗い目で射抜かれて、松莉は体中の血が引いていくような感覚に襲われた。体が震え、冷たい汗が出る。気がつけばはっ、はっと浅い呼吸をしていた。
「…あ…」
全裸だということを思い出し、しゃがみ込んで体をかばうと、頭の上からぼそぼそとした声が降ってきた。
「何今更隠してんの…大丈夫だよ俺もちんこ出してるし」
低い、感情のこもらない声に反射的に目を上げる。確かに下半身だけ裸という変質者スタイルだと分かって顔を逸らした。
いつからクローゼットに…まさか…いやどう考えたって、カラ松兄さんとの一部始終は見られていたに違いない。
「松莉のスカート汚しちゃったよ、ゴミの精液かかったせいで、可愛いスカートもゴミになっちゃったね…」
紺色のミニスカートにまだらに広がった白っぽいシミは、薄暗い中でも見て取れた。
兄がこのクローゼットに隠れて、何をしていたのかが生々しく伝わってくる。松莉は自分で自分を抱くようにして身を震わした。
その仕草が何かを刺激したか、一松は奇妙に引きつった笑みを作った。スカートを床にぱさりと落とし、今度は右手に握ったものを突き付ける。
「こんなの隠し持ってんだ…ちんこなら…1本は役立たずだから、まあ5本はあるのにさ…まだ足りないって…?」
ぴと、とそのグロテスクな張り型をほっぺにくっつけてくる。冷たさとぬるりとした感触に顔を歪めた。おまけに生臭い臭いがする。
「やだっ…」
顔を背けて逃れるが、兄もしつこくくっつけてくる。松莉の頬が一松の体液で汚されてゆく。
「なんで? 今これを使いたいからここ開けたんでしょ? クソ松の野郎が最後までやってくれなかったから」
「……」
唇を噛んで睨み上げる。
「どうして、覗きなんか…」
「俺はここでお前の服に埋もれてただけだよ。そうしたらクソ松とイチャつき始めやがったから、出るに出られないし…だから出してた。3回」
意味不明なことを言ってひひひと笑った。
「ほら、来なよハニー」
わざとそんな呼び方をして、ぐいと腕を引っ張ってくる。
痛いというのも聞かずに力任せにベッドに押し込まれた。
「これ、欲しかったんだろ?」
脚を開かされ、バイブでつつかれる。
「ほらよ…」
ぐちゅ、と音がして、ねじ込まれた。ぬるりとした冷たい感触に身震いする。
「いやぁ…気持ち悪いっ…」
「そりゃあ気持ち悪いよ…ゴミの精液まみれなんだから…気持ち悪いよなぁ…でも…」
バイブのスイッチを入れる。ブルブル震え出したそれは、松莉の中のスポットを刺激してきた。
「すぐ気持ち良くなる…」
「あ…っ!」
さっきで十分すぎるほど蕩かされたそこは、一松の言う通り、冷たい器具すら受け入れもう感じ始めている。
「こっちも舐めてよ…」
硬いものの先っぽを唇にあてがわれるが、それもぬるぬるとした液体を纏っている。とても舐めるなんて気にはなれず、松莉は首を振って拒否した。
もしかして無理矢理させられるかも、と身構えたが、4番目の兄はそうはせず、代わりに松莉の手にそれを握らせた。ぬるぬるがやはり気持ち悪いが、舐めるよりマシだ。
「なんであのとき、クソ松の奴を縛ったか…前に松莉、聞いてきたよな…」
一松の言葉はだしぬけに放たれたため、聞きこぼすところだった。
体の中で震える器具に身をよじらせながら、低く聞き取りにくい声に耳を傾ける。
「今なんとなく、思った…俺にそんな願望があったからかもって…」
兄はゆっくり、自分で腰を動かして、松莉の手の中で刺激を得ようとしていた。
「兄弟にヤラれてるお前を見て、嫉妬で死にそうになるんだ…」
口を歪めて笑っている。
その苦しみが愉悦かのように。
あの日、一松はその役割をカラ松に押し付けたのだろうか。
次兄の歌詞を借りるなら、6倍じゃなくて、6分の1なのだから…。
「なんて…ほんとはただ単に、クソ松なんかにいい思いなんかさせたくないだけだけど」
付け加えるように言い捨てると、バイブを操作して、振動を強くした。
快楽にわなないて、嬌声を上げる。反射的に手を握りこんだら、一松兄さんもあぁ、と短く声を出した。
「あ…あーっ…」
今日はまだ触れられていなかった松莉の奥の方がびくびく喜んでいる。
このまままた、駆け上がるようにイッてしまいそう…。
「違うだろ松莉…」
ぼそ、呟くと、いきなりスイッチを切ってしまい、一松は無機的な張り型を妹の体内からずるりと引きずり出した。
お互いの体液が混じり合ってぬらぬらといやらしく光るさまが興奮を煽るのか、はぁはぁ言いながらそれをべろりとひと舐めする。
「違うって、何…一松兄さん…」
中断されて体がどうにも収まらない。松莉が恨めしそうに見上げると、一松は感情の読み取れないいつもの半目で妹を見下ろし返した。
「…独り言」
無造作にバイブを置くと、上に体を重ねてくる。ガチガチのものは手から引き抜かれたが、松莉の太ももに押し付けられた。
「さっきはクソ松にこうされて…」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ、ビクリ反応してしまう。
次兄の施してくれた丁寧な愛撫は、耳をすっかり直接的な性感帯に仕立ててくれていたのだ。加えて、たった今イキそうだったのにイけなかった体が、少しの刺激でも増幅させて全身を痺れさせる。
そこに耳朶を甘噛みされたり、舌でなぞられたりするからたまらず、松莉は一松兄さんにしがみついて身悶えた。
「…そんなに、いいんだ…」
耳から口を離して、兄はこちらの顔を見たようだった。
「でもやっぱ違う…」
「…さっきから、何が違うって…?」
「松莉に言っておくけど、一番養われたい願望強いのはクソ松だからな…」
質問には答えずに全く別のことを話し出す。隣に寄り添うようにし、右手で松莉の胸を揉みながら。
「誰かお前に言った奴いなかった? 結婚しようって」
確かに心当たりはある。二人ほど。
口にしなくとも、一松には分かっているらしい。
「そりゃ離したくないさお前のこと。身内だから楽だし、セックスできるし、身の回りの世話もしてくれるだろうし。ガキの頃から争奪戦さ…松莉を手に入れられるなら、みんな手段は選ばない…甘い言葉言って、気持ち良くしてやるのだって…」
耳に直に吹き込まれる言葉は快感に化けてしまうから、内容が素通りしそうになる。
なんとかしがみついて留めようとするが、一松はいつにもない饒舌さで更に続けるのだった。
「お前は大学卒業して、そつなく就職していい男捕まえて結婚するつもりなんだろうが…御愁傷様…俺たちクズの6つ子の下に生まれて来ちまって…」
のそ、と動き、松莉の上に四つん這いになって、暗い光を帯びた目で見下ろしてきた。
「松莉は、逃げられないんだよ…俺たちから」
『逃げないで僕のそばから…ひとりにしないで』
急に意識のピントが合って、松莉ははっとしたように一松兄さんを見た。
エスパーニャンコはもうどこにもいないのに。今、確かにハッキリと聞こえた。
4番目の兄の、本当の気持ちが。
「…一松兄さん…」
腕を伸ばして、ボサボサの髪を撫でた。
「松莉…」
ふいに兄は顔を歪めた。今にも泣きそうに見えた。
「松莉、さっきはもっと、幸せそうな優しい可愛い顔してた…。なんで、なんで僕にはあの顔見せてくれないの…」
あぁそうか。しきりに違うと言っていたのはこれか…。
何と答えたものかと思っていると、一松は目を伏せた。
「あ、そりゃそうだよね、クズの中でも一番クズの僕なんかに、あんな天使みたいな顔、見せるわけないよね…クソよりクズの、燃えないゴミだからね」
ブツブツと自虐を始める。時折エキセントリックに笑うから、松莉は恐怖を感じてしまう。
4番目の兄は急に松莉の隣に座り込むと、パジャマの上を脱ぎ捨て全裸になり、狭い隙間に仰向けになった。
「僕のちんこ使っていいよ。クズで悪いけど、こんなのよりはマシでしょ…」
そこに転がっていたバイブを持って軽く振りながらまた暗く笑う。
「…ん…」
松莉は素直に兄に跨った。
自分の体が未だくすぶっているからというのもあるが、何とか兄さんの気持ちを少しでも立て直してあげられればと思ったのだ。
もしかしてこれも四男の策略なのかも知れない。しかし松莉にとってはもはやどちらでも良いことだった。
自分で腰を沈めることで一松を迎え入れる。熱くて圧迫してくるほど硬く大きくて、待ち望んでいた快感が電気のように全身を駆け巡った。
「ふぁ…あっ、あ、一松兄さん…」
自分で動く。どんどん淫らに大胆に腰が動いてゆく。
「あ、気持ちいいとこに当たってるよぉ…」
「いい眺め、松莉…」
動きに合わせてぶるぶる揺れる乳房をニヤニヤしながら見上げて、腰に両手を添えてやる。下から突いてやると、もっと激しく揺れた。
「あ、あっ、あっ…」
動きを合わせるようにリズミカルに突きながら、一松は今までにないほど乱れてゆく妹を目の当たりにしていた。
それはさっきまで羨ましくて仕方がなかった天使のような表情よりも、自分に向けられるものとしては相応しい気がして、満足を覚えていたのだった。
「一松兄さんーイッちゃいそ…!」
「自分で腰振って、勝手にイッちまえ、見ててやるから…ほら…!」
「あ、あー…っ!」
自ら昇り詰めるために思い切り淫らに暴れ、最後は上体を弓なりにして到達した。それまで抑えられてきた分を解き放ったかのような激しさだった。
兄の体の上に倒れこむように横たわる。すぐに体を入れ替えられ、正常位になって一松が動き始めた。自らの満足を得るべく、強い抽送を繰り返す。ガンガン打ち付けられるような感覚は、松莉には少し怖かったが、同時にすぐに次の波を運んでくる。
「あっ、いやっ松莉また…」
「連続イキかぁ? ほんとエロい体だな…」
激しく動きながらの兄の声は荒い吐息交じりで、色っぽかった。
「エロい松莉…俺…すき…」
「一松兄さん…っ…」
好き、と、言ったのだろうか?
何も確かめる暇もない。
松莉の敏感な身体はまたも絶頂を迎え、同時に4番目の兄も、熱いものを放ったのだった。
「…結局、クソ松はクソ童貞のままってわけか…」
ティッシュで綺麗に拭いながら、口の中で呟くのは次兄のこと。さっきカラ松といたときの態度や言葉の端々で、真実が伝わったのだろう。
「そんなことより一松兄さん…」
松莉も淫らの跡を始末して、パジャマを身に着けながら四男の顔を覗き込むようにしてみる。
「さっき、松莉のこと、好きって言った…?」
ついニヤニヤしながら聞いてみたが、
「…好きだぜ子猫ちゃん。マイハニー」
完全に無表情棒読みで返された。
一松もパジャマを着ると、残されていたバイブを拾ってそれもティッシュで拭き始めた。俺の方がでかい。などと呟きながら。
「言ったろ…ガキの頃から争奪戦が続いてるんだよ。俺たち6人全員参加のな」
「……」
実の兄妹なんだけど…などというのも今更だ。実の兄妹にあるまじきことをしておきながら。
「ほら。こんなの使わなくても、いつでもシてやるけど」
綺麗にしたバイブを手渡される。そのセリフも何だか聞いたことがある。
隠し場所は変えておこう…。
「そうだ、もう松莉の部屋に勝手に入らないでよ。スカートも後で新しいの買ってもらうからね」
「戻るのだるい。泊まっていっていい?」
全然聞いてない。背中を向けてベッドに丸まった兄を軽く叩いた。
「ダメ、ちゃんと戻って」
「へいへい…ダーリンにバレたくないんだろ」
それも確かにその通りだ。次男とあれだけ幸せな時間を過ごしたというのに、その後満足できなくて四男を連れ込んだとしか思えない状況をわざわざ作りたくない。
優しい次兄のことだ、それすらきっと許してくれるのだろうけど。
先日の5番目の兄のように、朝いないと思ったら妹の部屋に泊まってた、と皆に知れた後のゴタゴタもごめんだった。
そういうわけで、一松兄さんには帰ってもらうことにした。いやむしろ、勝手に入り込んでいたのだから当然のことだが。
兄は何も言わず、ただ最後に噛み付くようなキスだけ残して、静かに出て行った。
中から鍵をかけ、松莉はぐったりした体をベッドに横たえる。
ーガキの頃から争奪戦ー
ーずっと仲良く暮らそうね。好きだよ。ぼく松莉と結婚するよー
ーお前が楽しいかどうか、お前が幸せかどうか。これに尽きるからだよー
ーお兄ちゃんのお嫁さんになってよー
兄たちの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
いずれは離れなきゃならないはずなのに、兄たちは離してくれないのだろうか。
ー松莉は、逃げられないんだよ…俺たちからー
さっきの四男の言葉が蘇る。エコーがかかった低い声が松莉の心に絡みついて離れない。
恐ろしさと同じくらいの甘美さでもって、がんじがらめにされてゆくのを自覚しながら、6つ子たちの妹は眠りに落ちた。
END