「松莉ちゃん、バイトの時間まで一緒に出掛けない?」
部屋を訪れると妹はベッドに横になっていたが、顔をこちらに向けて弱々しい笑顔を見せた。
「ごめんトド松兄さん、ちょっと…気分が乗らなくて」
やんわり断られてもいつものことなのでダメージもないが、それよりもトド松は妹の顔色が良くないことが気になった。
「松莉ちゃん、調子が悪いの?」
「松莉は女の子の日なんだよ」
いつの間にか来ていたおそ松が、背後から口を挟んできた。
「しばらくできないから残念だなー」
「おそ松兄さんとは一生しない!」
鼻の下をこすってデリカシーのないことを平気で言う長兄に噛み付くが、やっぱ機嫌悪いのな、と流されたのでまたまた腹が立つ。
「松莉ちゃん、女の子じゃない日もあるの⁉︎ すっげー! ぼく毎日男の子だよ!」
目をキラキラさせて五男が飛び込んできた。
「十四松、松莉は体調が悪いんだよ」
チョロ松が止めようとする。知らないうちに兄弟が勢揃いしていることに、トド松も驚く。
「松莉ちゃん病気⁉︎ じゃあ僕が治してあげるよ!」
早くも分裂を始めた五男を、ほかの兄弟たちは全力で止めた。
「ウイルスとかそういうんじゃないから!」
「松莉が十四松化とか、絶対見たくない!」
どうにかこうにか元の一人の十四松に押し戻す。あまりの騒がしさにーいつものことなのだが、今日は本当に気に障ってしまうのでー、松莉は皆に背を向けるように、壁に向かいタオルケットを引き上げた。
「…ごめん、休みたいの、ひとりにしてちょうだい…」
「うん、ごめんね松莉ちゃん、ゆっくり休んでね…」
六男は兄たちを押しやりながら、松莉の部屋のドアをそっと閉めた。
『ほら、兄さんたちが騒ぐから!』
『誰のせいだよ』
『そもそもおそ松兄さんがデリカシーないこと言うから!』
ケンカの声が遠ざかってゆく。
松莉はため息をつきながら目を閉じた。
体を丸めると少しは楽なようだ。
兄たちには悪いが、ダメな日もある。そして、そんなことも全部正直にぶつけられるのもきょうだいこその良さだと思っているのだった。
今度、トド松兄さんとお茶でも飲みに出かけよう。
おそ松兄さんには一生しない、なんて言ったけど、多分そうはならないだろう。
十四松兄さんには、誰かが教えておいてくれたらいいんだけど…。
ふと目が覚めたら、下腹と背中が温かい。いや、背後に完全に人の気配がする。
少し驚いたが、怒りは湧かなかった。勝手に入り込まれるのは今に始まったことではない。鍵をかけないで寝てしまったのは、こちらの落ち度だ。
「誰…?」
「ぼく、十四松だよ」
いつもよりずっと小さな声で返事をしてくれたけど、耳元に声が当たったのでびくりとしてしまった。あの日以来、敏感になりすぎてしまって困る。
「おへその下をあっためればいいって聞いたんだ」
下腹には十四松兄さんの手がぴたりと当てられている。添い寝して温めていてくれたのだろう。そういえば、痛みがだいぶ落ち着いた気がする。
「あったかい…ありがとう」
大きな手の上に自分の手を重ねた。手の甲も温かい。熱いくらいだ。
「あはぁ、松莉ちゃん喜んでくれた!」
見なくても十四松兄さんがどんな顔をしているのかよく分かる。
自分のことを思って、考えてしてくれたことだと思うと嬉しい。
嬉しいのだが…お尻のところに、硬くて熱いものの感触が…。
「十四松兄さん…当たってる…」
「タッティ!」
十四松は遠慮して腰を引いた。
「大丈夫、松莉ちゃんが女の子のときは、えっちができないっておそ松兄さんが言ってたから、ぼく我慢するよ」
「あ、ありがと…」
優しくて可愛い十四松兄さん。こうして背中を向けていないで、体を反転させたいのは山々だが、せっかくしてくれている我慢が効かなくなっても困るので、松莉は松莉で我慢して体勢をキープすることにした。
「松莉ちゃんが元気なくなったら、いつでもぼくがハッスルハッスルしてあげる。大好きな松莉ちゃんには、いつも元気でいて欲しいっす!」
耳元で話すのはやめて欲しい、ゾクゾクが全身を走る。
でも嬉しいことを言ってもらったので、松莉は重ねた手に少し力を加えた。
「ありがとうね十四松兄さん…。明日には大丈夫だと思うから、一緒に野球しようね」
「うん! 野球しよう! あ、まだ時間あるから、もう一眠りしていいよー」
そっと、お腹を撫でさすってくれる。
それが心地よくて、言われるまま目を閉じた。
END