「ねぇ母さん、味どうかな?」
「どれどれ…」
大鍋に作った煮物の味見をお願いすると、母は小皿で煮汁を啜り、左手でOKサインを出してくれた。
松莉はやった、と笑顔を見せる。時間が空いているときはこうして食事の支度を手伝っているのだ。何しろ食卓につく人口が多い(食い扶持は稼がないくせに)ため、毎食毎食、母は大変だろうから。
「あー美味いね、松莉はいいお嫁さんになるよ」
いつの間にか長兄まで味見係となっていた。
「コラおそ松、つまみ食いしないの!」
母に怒られて首をすくめる。これが20年近く変わらない光景だというところが松野家の問題である。
「はー腹減ったぁー」
居間に戻るため松莉の後ろを通る瞬間、長兄は妹のお尻を撫でた。
ビクッとして、しかし母がいる前で何も言えず、せめてロクデナシの兄を睨みつける。
おそ松は全く悪びれず、ニヒヒ、と笑って行ってしまった。
次の日、トイレに行きたい松莉は、トイレから出てきたおそ松と廊下でバッタリ会った。
昨日のこともあるので、警戒してしまい、壁に背中をつけて横歩きですれ違おうと作戦を立てる。
「何してんだよ松莉ぃ。あ、これか?」
壁に張り付いた妹の顔の横に手をつく。
「壁ドン」
にっと笑って、接近しようとしてくるから、空いている側から脱出を試みる。
「逃げることないだろ」
ふざけた声音のまま、もう片方の手も壁につき、松莉を閉じ込めた。睨み上げているのに意にも介していない。
「お兄ちゃんをそんな目で見ないの…」
屈んで、キスをしようとしてくる。思い切り顔を逸らしたのに、両手で頬を挟むようにして前を向かされ、強引にキスされた。
「あー可愛いなぁ松莉!」
たまらないように抱きついてくる。可愛がられるのは嬉しいが、好きに扱われるのは不本意でしかない。松莉は長兄の腕の中で暴れた。
「おそ松兄さん、やめてよ! チョロ松兄さんを呼ぶよ!」
3番目の兄がいたはずだ。
拘束が緩んだので、ようやく抜け出す。
「何だよそんなに嫌がらなくたって」
「バカッ!」
兄の顔も見ずに、逃げるように二階に上がった。
兄たちの部屋を覗くと、やはりチョロ松だけがいた。シコ松中ではなく、ソファに座って雑誌を広げていたが、松莉を見るとすぐにわきに押しやってしまう。
他の兄たちは出掛けているらしい。
「松莉、今日はバイトあるの?」
「うん、夕方から」
隣に来るよう促され、松莉は素直にソファに座ると、3番目の兄と他愛ないが楽しいお喋りに興じた。
そうしているうち、長男も来て、松莉を挟むようにソファに腰を下ろす。
一人じゃないし何もしてこないだろうと思っていたのは甘かった。おそ松はそろそろ手を伸ばし、ショートパンツから伸びる松莉の太ももに触れてきたのだ。
「だから、やめてって!」
バシッと払い落とす。
「怒るよおそ松兄さん!」
「何してんだよおそ松兄さん…」
チョロ松も呆れている。おそ松は人差し指をつつき合わせるようにしながら目を落とした。
「溜まっちゃってて…松莉可愛いし…」
なぜか前屈みになり股間に両手を当てる。
「だからって勝手に触らないでよ!」
「いいじゃん減るもんじゃないんだし」
急に開き直った。
「だいたい、セックスはするのに触っちゃダメっておかしくない? いいじゃんちょっと触るくらい、俺は兄ちゃんだぞ!」
こんなことで兄の権力をかさに着ようとしている長兄に、松莉もチョロ松も開いた口が塞がらない。
「チョロ松だって本当は触りたいくせに、いい子ぶるなよこのチョロシコスキー」
なぜか矛先が向いてきた。チョロ松は口をますますへの字にする。
「いやみんなが好き勝手に触ってたら松莉の身が持たないだろ。だいたい普通は兄妹でそんなことしないんだから、オープンにしちゃダメ」
「ちぇー」
子供みたいに口を尖らす上の兄に対し、松莉はやや声を和らげた。
「私だって、おそ松兄さんの顔見るたびに何かされるんじゃないかって警戒するなんて、嫌なんだから」
「避けられるよ松莉に。最終的には嫌われちゃうかもよー?」
三男の一言はさすがに効いたようで、おそ松は急に松莉に取りすがってきた。
「松莉、まっまさか、兄ちゃんを嫌いになったりしないよな?」
「おそ松兄さんったら」
焦りようが可愛くて、頭をぽんぽんしてあげる。
「ちゃんと言うこと聞いてくれたら、嫌わないよ」
「わ、分かった…」
こくこく、頷く。ようやくこのワガママ長男にも、理解してもらえただろうか。
「夕方からバイトなんだろ? それまでちょっと昼寝しない?」
その後は三人で普通に話をしていたが、思い立つや否やおそ松は立ち上がり、押入れを開けた。
「チョロ松手伝ってー」
「布団敷くの?」
「松莉もたまには俺たちの布団で寝てみればいいよ」
六人用の巨大な布団が手際よく敷かれる。枕は、いつも6つのところを半分の3つだ。中央に寄せて並べた。
「兄さんたちと、一つの布団でお昼寝…?」
絶対変なことするでしょ、の牽制の目を向けながら、その実松莉はちょっとわくわくしていた。
この布団、確かに寝てみたかった。ハタチ過ぎても兄たちが仲良く6人で寝ている特注品。
「真ん中においで、松莉っ」
もう横になって、枕をぽんぽん叩いている。長兄の笑顔に誘われるように、松莉も潜り込んだ。反対側の隣に三男も入ってきて、長い掛け布団をちゃんとかける。
「これ、6人だと狭くない? 寝返り打てないでしょ」
3人なら楽々でも、大の男6人では厳しそうだ。
「まあねー。狭いから俺、毎晩松莉の部屋に泊めてもらっちゃおうかなー」
「お断りですー」
適当なことを言うおそ松の方を向くと、意外にすぐ近くに顔があるのでビックリする。
ちらっと反対側を見る。チョロ松も横向きでこっちに接近していて、にこにこしていた。大好きなアイドル、にゃーちゃんのことを話すときのような嬉しそうな顔をしている。
どちらかを向くと反対から苦情が来そうなので、顔を真っ直ぐにして天井を見た。
息をすると男の匂いがした。布団からか、兄たちからか。
松莉はこの匂いが好きだった。
そしてこれは、松莉をその気にさせる媚薬のようなものでもあった。
無言で手を握られても、ムラムラしていた松莉は何も言わなかった。その手をおそ松兄さんの下半身に導かれ、勃起したものを握らされても、黙って受け入れた。
兄はいつの間にかズボンを脱いでいたので、パンツの上から握ったり、軽くしごいてあげたりすると、息を荒くして抱きついてきた。
「あ、何かしてる…ズルいよ…」
さすがにチョロ松も気付いて、反対側から抱きついてくる。服の上から体のラインをなぞるように触ってきて、こちらの反応を見ながら手を服の裾から侵入させ、ブラの上から胸を包み込むように手を置いた。
「松莉…」
切なそうな声を出して、腰を擦り付けてくる。
「松莉…もっと…」
おそ松にねだられて、ちょっと強めにしごいてあげると、声が大きくなり、それに煽られるようにチョロ松も強く擦り付けてくる。二人の吐息が重なるように部屋に満ちていく。
「松莉…挿れていい?」
「早いよおそ松兄さん…私まだ全然気持ち良くなってない」
今までのこともあるので、突っぱねてやると、おそ松は松莉越しに弟に声をかけた。
「チョロ松、松莉を気持ちよくしてやってよ。そしたら俺挿れるから」
「「おそ松兄さん!」」
あまりの身勝手さに、声がきれいに重なった。
「おそ松兄さん、彼女ができたとき、そんなんだとフラれるよ。自分だけ気持ちよければいいなんて」
「えーどうせ彼女なんて出来ないよ」
説教を始めた妹にキスをして黙らせる。そのまま髪を撫でてきながら、一番上の兄は笑った。
「俺、松莉がいるからいいよ。時々松莉で抜ければそれで」
「うわー言ってることクズだよおそ松兄さん」
「だから何でお前そんないい子ぶんの⁉︎ 同じでしょ⁉︎」
チョロ松とケンカが始まった。ムラムラが吹っ飛んでしまい、松莉は布団に潜り込んでしまう。
本当に清々しいほどクズな兄だ。正直すぎるのもどうかと思う。
「俺長男だから、ゆくゆくこの家俺のだから!」
ばさっと掛け布団をめくって、その長男がまた抱きついてくる。
「松莉もずーっとこの家にいればいいんだ、お兄ちゃんのお嫁さんになってよ。事実婚だけど」
「だから何言ってんのおそ松兄さん…」
松莉より先にチョロ松のツッコミが入る。
そういえば、十四松兄さんも似たようなことを言っていたなぁと松莉が思っていると、下の玄関が開く音と『ただいま』と低い声が聞こえた。
「あっカラ松兄さんが帰ってきたみたい」
どうしよう、と一瞬焦るが、まだ何もしていないのだった。とりあえず服の裾を下ろしておく。
「…松莉、4Pでもいい?」
階段を上ってくる音がする。確実にこの部屋に来る。
「よくないっ、もう終わりっ!」
みんなはそうは思っていないだろうが、実はカラ松は童貞なのだ。いきなり4Pなどハードルが高すぎる。
「ちぇーっ。ヤれなかったじゃん、チョロ松のせいで」
「僕のせいじゃないだろ、おそ松兄さんがワガママなのが悪い!」
「なにー⁉︎」
また松莉を挟んでケンカが始まったところで、次男がふすまを開けた。
「お、おお」
なぜか顔の前に腕を掲げてガードしている。また見てはいけない場面に遭遇したと思ったのだろう。最近そんなことばかりの次男には妥当な反応だった。
「カラ松兄さん、お帰りなさい」
松莉の声に、どうやら大丈夫そうだと悟ったか、手を柱についていつものカッコつけポーズに収まった。
「どうしたブラザーアンドシスター、布団なんか敷いて」
「昼寝しようと思って。カラ松兄さんも一緒に寝よう」
あえて無邪気を装うと、
「そうだな、少し疲れたから、俺も寝かせてもらおう」
この暑いのにちゃんと着込んでいるジャケットを脱いで、サングラスも外しながら布団に近付く。
「カラ松兄さん、松莉の隣に来て」
おそ松を思い切り押しのけてスペースを作る。長男が何か文句を言おうとするより先に、次男が体を滑り込ませてきた。
「…緊張して眠れないな、リトルシスターの隣じゃあ…」
「じゃあ場所代われよ。ってか汗臭っ。革ジャンなんか着るなよ」
「いいのっさっきまでおそ松兄さんだったんだから、今度はカラ松兄さんが隣!」
チョロ松は、内心ずっと隣でラッキーとガッツポーズを作っている。
「じゃあ、この前カラ松と朝帰りしてたから、今度俺と泊まりね」
「ヤダっ」
前戯もしない人と泊まりなんて、地獄でしかない。どうせホテル代もないだろうし。
「あ、カラ松兄さんもう寝てる。緊張して眠れないとか言ってたくせに」
チョロ松が言うので見てみると、確かに天井の方を真っ直ぐ向いてもう寝ている。松莉も倣って目を閉じた。
おそ松は汗臭いと言ったけれど、松莉はこれが大好き。息を深く吸って、うっとりする。
「松莉は俺に厳しいよなぁー、カラ松には甘いのに」
おそ松のぼやきに、そりゃそうでしょ、と心の中で返して、そーっと、布団の中で手を伸ばす。
次兄の腕に触れたので、そのまま手首をそっと握った。
それだけで、胸の鼓動が激しくなった。
「ただいマッスルマッスルー!」
「松莉ちゃーん」
三人揃って帰ってきた弟たちは、布団で寝ている兄たちと妹を発見して顔を見合わせると、速やかにそれぞれ動いた。
トド松はチョロ松を端に引っ張り、一松はカラ松とおそ松をまとめて蹴り飛ばして、松莉の両側に潜り込んだのである。
遅れた十四松は、松莉の上に乗っかろうとしたが、トド松に止められた。
「後で交代してあげるから」
と言い含められ、トド松の隣で待機することになった。
かくしてただでさえ余裕のない布団に7人がひしめき合って、松莉のバイトの時間まで、平和な昼寝の時間が続いたのであった。
END
ホントおそ松兄さんって自分勝手でダメな男…。
多分この夜にはおそ松兄さんが夜這いをかけてくるのではないかと。