ベート・ローガは好かれると同時、弄ばれているようです。 作:飛鳥
「__ほんっとぉよぉ、彼奴等手加減も何も考えてねぇんだっ」
「は、はぁ……」
ここはならずものの街【リヴィラ】の一角にある、とある酒場。
その中で【凶狼】ことベートは、真っ白な処女雪色の髪の兎__ベルに愚痴をこぼし続けていた。
聞くに耐えない愚痴__少々逃げ出したくなるような内容に、ベルは手に持つジョッキを傾けることはなく、ただ苦笑していた。
稀に出てくる「アイズ」の名前にぴく、と小さく反応しながら、酔いが周り赤くなった青年の顔を見て、話を聞く。
やがてその話は、根本的な内容へと移り変わっていった。
「そもそもっ、何が楽しくて俺みてぇな奴にやるんだよ!?男神の言うそういう奴は、大抵女じゃねぇかよ!」
ふざけんなっ、とバンバン机を叩くベートに、あはは……と笑いながら、ふとベルは、【ロキ・ファミリア】の面々に同意する理由を、彼女等がこの狼を弄ぶ理由を、見付けてしまった。
あ……この人__。
「何見てんだ、兎野郎?」
幼子が拗ねるような表情で、此方の深紅の瞳を覗いてくる。
赤く染まった頬と、酒のせいか薄く水膜が張った琥珀の目。
何時もの鋭い雰囲気と相まって、随分とそれは艶やかで、何より__。
「……おい?」
__可愛い、と思えた。
可笑しいと思うことだって出来た。
彼が奢ってくれた酒を飲み干せば、きっと酔った勢いだったと自分を納得させられる。
けど、それはなんだか、気が引けた。
「……マジで聞いてんのか、兎野郎??」
「はい、大丈夫ですよ?」
一方的な情事の愚痴を聞かされたせいか、酷く好奇心が沸き上がって仕方がない。
自分の返事に柔く笑う彼の表情がどう変わるのか、見たくて仕方が無くなった。
「そぉかよ。……お前は、純粋だなぁ……」
「へっ??」
嬉しそうに、しみじみと呟かれた言葉に妙な声を出したのは、言葉と同時に彼が髪に手を伸ばしたからだ。
小さなテーブルの対面に座るベートは、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜながら、「この髪と一緒で、真っ白だ」と笑った。
「彼奴等がお前みてぇだったら、俺も此処までなってねぇっての……」
長い溜め息。
それはベートのものでも、ベルのものでもあった。
……この人はきっと無自覚だ。何より、僕がこんなこと考えてる何て、思っても居ないだろう。
けど、だけれども。
まるで、まるでその言葉は__!!
「……それは、僕なら、僕だったら、抱かれても良いってことですか??」
「……ぁあ?」
すっとんきょうなその声に、罪悪感を覚えて、ベルは目を伏せながら言葉を続けた。
「け、決して僕もアイズさん達みたいなことしたいって訳じゃなくてっ!その、ベートさんの言い方が、そう聞こえるって言うか……」
しどろもどろな言い訳に、羞恥で耳が熱くなる。
けど、確かに答えを求めて、兎は視線を持ち上げた。
「……自分で何言ってんのか、わかってんのか?」
そんな彼に向けられたのは、何処か不思議そうな、狼の表情で。
嗚呼だから。そんな顔は止めてください。
我慢が。我慢をする意味が、分からなく成ります。
「……ベートさん、一回ここ、出ましょう?少し、飲み過ぎですよ」
そう言って、ほぼ無理矢理彼の手からジョッキを取り、立ち上がらせる。
会計が済むと、少々熱い彼の手を引いて、一つの宿屋へと向かった。