ドロシーがネッサローズの城から逃げ出してから3日が経つ。
2人はまだ山道を歩いていた。マンチキンが東の国ということなので、そこから抜け出すために太陽を見ながら西へ西へと向かう。
ネッサローズの手の者は少なくなってきたが、深い山林は野生の魔物も生息している。襲い来る魔物を撃退しつつ山道を進む日々。
昼下がり、ドロシーとチップは一休みして昼食を摂っていた。
ARM集めの旅のなかで溜め込んでいた保存食、ARM回収が終わった後処分しなくて本当に良かったとドロシーは思う。
「美味しい?チップ。」
「うん!すごく美味しいよ、お姉ちゃん!」
花のようなあどけない笑顔で応えるチップ。
その無垢さに思わずキュンとしてしまう。弟を持つ姉の気持ちはこのようなものかとドロシーは思う。
やはり、当然だが、異性としては見れない。まだ10歳かそこらなのだ。
それだけに、毎日行っている“オマジナイ”の際は思考を切り替え、作業のようなものとして割り切ることにしていた。
チップは本来性行為など早すぎるし、ドロシーにもギンタという想い人がいる。
これは治療行為、“オマジナイ”であると、チップだけでなく自分自身にも言い聞かせるのが常だった。
(そう…これはオマジナイ…この子を助ける為なんだから仕方ないんだ…!)
そんなことを考えていると、隣にいたはずのチップがいないことに気づく。
「お姉ちゃーん!」
声はドロシーの上空から聞こえた。
チップの小さな身体は棘まみれの蔦によって空高く持ち上げられていた。
蔦の主はドロシーの背後に潜んでいた。巨大な薔薇のような花の周囲に無数の蔦が蠢いている。植物の姿をした獄鬼だ。
「この…チップを離せ!ゼピュロスブルーム!!」
ドロシーの箒から風が巻き起こり、鎌鼬となって薔薇の獄鬼に向かっていく。一本一本の強度は強くなく、風の刃は簡単に蔦を切り刻む。
「っ…?」
ドロシーの連撃が止まる。薔薇の獄鬼が、拘束しているチップを自分とドロシーの間に移動させたのだ。
これではチップに刃が当たってしまう。
形勢は逆転し、防戦一方になる。
無数の触手の中、殆どが刺を持つ硬質の茨だが、20本に1本程の割合でぬるぬるした太い触手が混じっている。
どのような機能があるか知らないが、柔らかい分茨状の触手よりも斬り裂き易い。
(雑魚キャラ…って奴なのかな…)
しかしこう無尽蔵に触手があると切っても切ってもきりがない。
ぬるぬるの触手の一本がドロシーの防御を掻い潜り、目の前に現れる。
「しまっ…」
その先端は4つに割れ、口のようになってドロシーの右乳房に吸い付く。
「こんの…エロ獄鬼!」
手で掴んで振り払おうとするが力強く吸い付いて離れない。
仕方ないとダガーARMで切断しようとしたところ…
「んぁっんっ!?」
吸引が始まった。服越しに乳首を吸われる感覚に上ずった声を出し、ダガーを取り落とす。
更に驚いたことに、魔力が吸われている。魔力が体外に排出される度に多少の性的快感を伴うのはこの獄鬼の特性なのだろうか。
だが吸われる魔力は少量ずつのようだ。少し驚いてしまったがいくらでもやりようはある…
しかし、その一瞬の隙が命取りであった。
「きゃっ!?」
背後から触手が絡みつき、ドロシーの身体をひっぱる。
バランスを崩し、尻もちをついてしまう。彼女の身体を受け止めたのは大地ではなかった。
ドロシーの身体は獄鬼の本体…薔薇の花弁の中に埋没していた。
花弁といってもぬるぬるした肉厚のそれであり、逃れようと暴れても手足は分厚い花弁に埋もれるだけ。周囲の触手達も拘束を手伝っている。
「くそ…」
焦りの色を見せるドロシーに、薔薇の魔物は追撃を開始する。
「うわあああーーーっ!!」
ドロシーの身体を茨の鞭が襲い、衣服を剥いでいく。やがて両乳房が丸見えになり…
「ひゃん!?」
先ほどの吸引触手が露わになった乳首に吸い付く。
「ぅああああああんっ!!」
先ほどとは比べ物にならないスピードで魔力が吸われていく。服という障害物がない分ダイレクトに魔力を吸えるのだろう。
乳首を強く吸われる経験などなかったドロシーは、たまに行う自慰行為で乳首を刺激する際以上の快楽に目を白黒させる。
「あっ…ん…やだぁっ…!」
チップが見てるのに…
そう思って自分の上空で拘束されてるチップを目で追うと、そこにはスカートをずらされ、露出したペニスを吸引触手で吸い上げられている少年の姿があった。
「うあああーーっ!お姉ちゃん…怖いよぉ…」
「チップ!! っきゃ?」
ドロシーの視界を遮るように吸引触手がもう1本、ドロシーの前に現れる。それは薔薇の花弁の中に埋もれて大股開きをしているドロシーの股間を捉えていた。
「だめ…そこは…」
周囲の触手がスカートを乱暴に捲ると、ドロシーの秘所が露わになる。
触手は腰回りをがっちり掴み、膣からも魔力吸収を行う。
「う…ぁ…ひゃああーーーっ!?」
瞬間、股間に電撃が走ったような衝撃を受ける。魔力吸収の際の快感だけでなく、クリトリスへかけられる強引な陰圧。それもドロシーにとって初めての感覚であり、まだ辛うじて魔力が残っているドロシーからARMとシンクロするための集中力を奪うことは容易かった。
「あああ、あっ……あんっ!」
頭が真っ白になる。拘束から逃れないといけないのに、チップを助けないといけないのに、何も考えることができない。
「はあはあっ………ああぁ……♥はあぁうん……♥」
快感から逃れるためか、それとももっと得ようとしているのか。ドロシーの腰は円を描くように揺れる。その度に吸引による陰圧は瞬間的に高まり、彼女の身体に甘い電撃が駆け巡る。
「うぁ…お姉ちゃん…ぼく…もう…」
チップも股間への触手のバキュームにもう限界だった。ドロシーの口腔とは違う、激しい搾精行為に、彼のペニスは射精の準備を行う。
「うわああああーーーっ!」
「あひぃっ!!ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙ーーーーー♥♥♥」
少年と魔女は同時に絶頂を迎える。チップのペニスを咥えていた触手は放たれた精もごくごくと吸収し、自分の糧とする。
薔薇の獄鬼はドロシーの魔力を完全に吸い尽くすと、拘束を緩める。
この獄鬼、吸魔茨は大多数の獄鬼とは異なり、捕食や繁殖の為に他の生物を襲うことはない。
魔力を持つ生物から魔力を吸収して生きる獄鬼である。大抵魔力を奪う対象は他の獄鬼なのだが、人里近くに生息する吸魔茨の場合は稀に現れる魔法使いを襲うこともある。
その為、満腹になるまで魔力を吸った吸魔茨はドロシーとチップを開放し、遠くに去っていった。
「お姉ちゃん…?」
チップが身体の怠さを覚えつつも起き上がる。
「あ…は♥ ん…」
ドロシーは仰向けになった蛙のような姿勢で放心していた。露出した乳首はビンビンに勃り、外気に大きく晒された股は愛液でぐっしょりと濡れている。
快楽の渦から開放され、少しずつ正気を取り戻してきたドロシーはチップの視線に気づき、晒された恥部を隠そうとするが、身体に力が入らない。
「う…しばらく動けないかも…チップ、恥ずかしいからあっち向いてて…」
チップはどぎまぎしながらドロシーに背を向けると、その眼に新たな獄鬼の姿が飛び込んでくる。
「え…うそ…」
チップと同じくらいの背丈、焦げた緑の肌、ギョロッとした眼、異様に高い華に禿げた頭。30程の子鬼の群れがドロシーとチップを取り囲んでいた。
チップの正面に立つ子鬼達は、彼の後ろで倒れているドロシーを嬉しそうに凝視する。
大きく投げ出された脚の中心でひくついている女性器は、今すぐ挿入れてくださいと言わんばかりに愛液で濡れそぼっている。
「な…新たな獄鬼!?」
ドロシーも遅れて気づくがまだ身体が動かない。せめて股を閉じようとするが、それすらも叶わない。
この地域の吸魔茨と子鬼には片利の共生関係があった。
吸魔茨に吸われた直後の生き物はしばらくの間動けない。子鬼は吸魔茨の食べ残しを「いただく」ことを生態としていた。
それが雄であれば捕食し、雌ならば繁殖の道具とする。
今回の食べ残しは肉の柔らかそうな子供の雄と、母胎としては申し分ない膨らんだ乳房と尻を持つ雌。鴨が葱を背負ってきたようなご馳走に、子鬼達は口からは涎を、股間からは先走り液を垂れ流しながら下卑た歓声をあげる。
「ド、ドロシーお姉ちゃんに手ぇ出すな!」
チップは念動力で朽木や岩を動かし、木偶人形を作り出す。しかしあり合わせの材料では強力な守護者は作れず、人形は頼りなくふらふらと立っている。子鬼を3,4体も倒せれば良い所だろう。
「チップ…だめ…逃げてぇ!」
チップはそれに応えない。彼の足はがくがくと震えている。逃げ出したい恐怖に必死に耐え、ドロシーを護ろうとしている。
こんなもの怖くないとばかりに、子鬼の群れは一斉にドロシー達に飛びかかる。
これまでか…襲い来るであろう陵辱の光景を脳裏に浮かべて目を閉じるも、一向に自分の身体には下衆の手が伸びてこない。
瞑った目を恐る恐る開いてみる。
子鬼達は空中で静止していた。まるで見えない何かに阻まれているかのように固定されている。
それも束の間、空気を裂く音と共に子鬼達は一塊に纏められ、玉状に集まる。
「これは…」
糸だった。目を凝らさないと見えない程の細い糸が子鬼の群れを絡めとり、縛り上げたのである。
夕陽を浴びてキラキラ輝く糸。その先には若い女性がいた。黒いタンクトップに、ショートパンツという軽装。何束もの糸は指ぬきグローブを装着した両手から伸びている。
「もう大丈夫よ。」
女性は栗色の短髪を揺らしながらドロシー達に向き直る。
「あんたは…ネッサローズの追っ手じゃないの…?」
明らかに異能の力を使用している女性に、ドロシーは警戒を緩めない。
「私はコッローディ。エスメラルダ退魔隊、北東支部所属の魔導師。"糸の魔女"コッローディよ。」
「糸の…魔女…」
「貴方達は見たところ、東の魔女の支配に耐えられなくなって、決死の山越え、といったところかしら?」
「ん、まあそんなトコね。」
間違ってはいない。自分が別の世界から来たなどの情報は伏せ、話を合わせる。
「私はドロシー。この子はチップっていうの。助けてくれてありがとう。」
「あ、ありがとう…」
チップもドロシーに続いてぺこりと頭を下げる。
「ボウヤ、小さいのに勇敢ね。それにあの魔法、私も相手の身体に糸を仕込んで操ることができるんだけど、無機物をあんなに滑らかに、生きてるかのように動かすなんて凄いわ。」
コッローディと名乗る女性は手から出す糸を収縮させ、子鬼が逃げられないようきつく縛りながらチップに笑顔で話しかける。
「貴女も、少しは魔法を使えるみたいだけど、無茶するわ。今だって私がいなかったらどうなってたか…」
自らのあられもない姿への彼女からの視線に、ドロシーはバツが悪そうに露出した両胸を押さえる。
「でももう大丈夫!まだエスメラルダでもギリキンでもないけれど、マンチキンの領域でもない。3つの国の緩衝地域よ。
数は本国に比べたらうんと少ないけど私達エスメラルダの退魔隊・警邏隊も定期巡回してる。マンチキンの奴らもここまでは亡命者を追ってくるのは難しいはずよ。」
「え、エスメラルダ!?亡命者!? え~っと…とりあえずマンチキンの国境は抜けてきたってことでいいのかしら?」
コッローディはきょとんとした顔でドロシーを見つめる。
「可哀想に、外の世界のことを全然知らないのね… 仕方ない。一から説明してあげるわ。この世界のこと。」
どうやら自分達がいたマンチキンはその存在を周辺国に良しとされていないようだった。
このオズの国は周囲を死の砂漠に囲まれた陸の孤島であり、5つの小国に分かれている。ここまではボクにも聞いた話だ。
彼女の話では中央国、エスメラルダおよび南部のカドリングこそが”正当な”統治が行われている国だという。
それぞれ東、西のマンチキン、ウィンキーは深い森や険しい山によって中央部と地形的に阻まれているのをいいことに獄鬼が蔓延り、あろうことか獄鬼に寝返った悪の魔女達が人民を支配している。
北部のギリキンは数年前そこを支配していた悪の魔女が死にはしたものの、魔女の眷属が彷徨いていたり野生の獄鬼の数が多かったりして統治は進んでいないという。
「貴女のいる国や魔法使い達はまともみたいね。ちょっと安心」
「ええ、この魔法の力は人々を獄鬼から護る守護者として神に選ばれた証なのよ。
…それなのに逆に獄鬼とつるんで力なき民衆を虐げるなんて…
…許せないっ…!」
言い終わると同時にコッローディの拳に力が入り、子鬼達を拘束していた糸が収縮を始める。
硬く細い糸は子鬼達の肌に食い込み、肉を裂き、骨を割り、やがて彼らを血塗れの肉塊に変えてしまった。
「ひっ!」
相手が獄鬼とはいえ凄惨な光景に身をすくませるチップ。
同じく軽く引いていたドロシーはチップの肩を寄せつつ、糸使いの魔女との会話を繋ぐ。
「なるほどぉ、ネッサローズみたいなののほうが異端なのね。」
「そう!貴女の魔法の力だって、獄鬼共を屠るためにあるのよ!
…そうだ、貴女達も身寄りがないならエスメラルダに来て、そこの退魔隊に入らない?」
「ええっ、私みたいなどこの馬の骨ともわからない人間が入っていいの?」
突然の勧誘に狼狽しながら答える。
「そんなこと問題にならないわ!武装した非魔導師の集まりである警邏隊と違って、
魔導師で構成された退魔隊はいつでも人材不足だもの。魔法が使えさえすれば受け入れてくれるはずよ。」
「悪いけど遠慮しとくよ。軍隊みたいなかたっ苦しいところは性に合わないんだ」
「そっかぁ、後輩ができると思ったのに残念。いずれにせよここはまだ“正しい魔法使い”が治める領域と“悪の魔法使い”が治める領域の中間地点。無法地帯とも云えるわ。」
今ドロシー達がいる場所はあくまで中立区。エスメラルダの退魔部隊による獄鬼からの庇護は届かないのが現状のようだ。
「魔法を使える者は少ないから仕方ないのよね。あたしも普段はエスメラルダで獄鬼を倒す仕事をしているもの。 本っ当、あたしがたまたま通りかかったのは運が良かったのよ?」
「貴女はここで何を?」
「ちょっとした調査を上から命じられてね。早く貴方達を本国に送ってあげたいのだけど、それを片付けてからじゃないと帰れないなぁ…」
「調査かぁ。獄鬼と戦うだけじゃないのね。退魔師って大変ね。」
「うん、東の魔女と西の魔女は恐怖で国民を押さえつけてるんだけどね、
中には獄鬼を崇拝して、自発的に魔物に服従する人々もいるみたいなんだ。本国のほうもあまり実態が掴めてなくて、ここ中立区北東部にも集会所があるって情報が入ったから潜入調査を命じられたってわけ。
東西の魔女と根っこが繋がってるのかどうかとか、神導器との関わりはあるかとか。」
「神導器?」
「マジックアイテムみたいなものね。ほら、魔法って完全に生まれ持ったものじゃない?」
コッローディは指先から魔法の糸を出してみながら解説する。
「その人が魔法を使えるか使えないか、使えるならどんな魔法を使えるかは生まれた時に決まっていて、それは死ぬまで変わらない。 …でもね、世の中には道具そのものに魔法が込められているアイテムがあるの。」
それを聞いてドロシーの眼が見開かれる。道具に魔法が宿っている、ARMのことではないか。
「魔法の才能のあるなしに関わらず、それに込められている特定の魔法を使える秘宝、それを神導器っていうのよ。」
「それ、どこで手に入るの?」
「あっはっは! そんな簡単に手に入るものじゃないわよ。
全部で12個12種類。太古の昔、オズの国ができたときに神がオズの初代国王に授けたものと伝えられているの。
分解ができない程強固で誰もその構造を解明できず、複製品は今に至るまで作られていないの。 全ての神導器に共通して白い光の珠が埋め込まれていて、それに神からの力が宿っているから自分の魔力を消費せずに魔法の力を行使できるそうよ」
話を聞いてみるとARMとは少し違った性質のもののようだ。
ARMの発動には術者の魔力が不可欠。神導器とやらはそれすらも必要なく、魔力切れを気にせず無尽蔵に魔法を使える。ARMの完全上位互換のような存在だ。
コッローディ曰く、今はその半数以上が盗み出されてどこにあるかもわからない状態だという。
だが、その神導器の1つをドロシーは既に見たことがある。
ネッサローズの使用していた、何でも軽々と斬れてしまう大斧。柄の部分に白い珠が埋め込まれていた。12個ある神導器の1つだったのだ。
「気をつけてね。神導器ってやつ、ネッサローズも持ってるって聞いたわ」
当人と直接戦ったと言えば怪しまれる。伝聞という体でコッローディに伝える。
「それにあたし達なら送ってくれなくて大丈夫。ここから近い町を教えてくれればいいからさ」
「本当~?貴方達、さっきピンチだったじゃない」
「う、それはその…油断してたし、魔力を回復すれば…」
回復の手段のことは口が裂けても言えず、ドロシーは口をごにょごにょさせる。
「まあ、ここから街までは獄鬼も少ないし大丈夫かな。
あっちのほうにもう少し進んだら街道が見えてくるから、日の沈む方向に進めば町があるわ。
何度もいうけどまだ本国までは遠いからね?その街もガラの悪い連中がいっぱいいるの」
「ええ、気をつけるわ。ありがとう。貴女も気をつけて」
ドロシーとチップは通りがかりの魔女と別れ、街に向かって足を踏み出した。
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ドロシーの純潔が散らされてから数日経った夜、マンチキン中央部、東の魔女の城の王室で、ネッサローズは1人苛立っていた。
桃色の髪をした風を操る魔女の襲撃に遭い、この世に二つとない秘宝を奪われてしまった。
一刻も早く取り戻したいが、体質の都合上、自ら捜索に出ることが躊躇われる。
ネッサローズの弱点、それは陽の光。以前、彼女が強力な力を得る対価としてこのような身体になってしまったのだ。
城を遠く離れて遠征する際、日中を過ごす安全なねぐらがある場所があるとも限らない。戦闘が長引くなどのイレギュラーが起きて、気づいたら夜明け、ということもあるかも知れない。
そんな弱点を補完してくれたのが彼女の所有する秘宝であった。
移動靴ヨルシッパ。空間移動の魔法の才がない者でも、そもそも魔力が使えない非魔法使いであっても、それを履いた者が一度でも訪れた場所であればどこにでも一瞬で連れて行ってくれる魔法の靴。
遠方に用事がある場合、ネッサローズはそれを用いて夜明けの1刻前には必ず自分の城に戻るようにしていた。
あれがないと自分の行動は大きく制限されてしまう。なんとしても桃色の髪の魔女から取り返さなくてはいけない。
以前捕らえた際は持っていないようだったが、きっとヨルシッパで遠方に跳び、隠したのであろう。自分の箒を取り戻すのにのこのこやってきたことへの疑問は残るが、靴がなくなった夜に城を破壊したのは紛れも無くあの女。
今度捕らえたら死んだほうがましと思う程の拷問と屈辱を与え、靴の在り処を吐いてもらおう。
そう思っていたところに手下の猿が悪い知らせを持ってきた。
桃色の髪の魔女はマンチキンの国境を超えたという。
癇癪を起こし、手から放った雷で一瞬のうちに猿を消し炭に変えてしまう。
姉からの借り物だが構わない。数ばかり多くて役に立ちやしない。
遠方で仕事をしている自分の直属の部下にも連絡を回しはしたが、彼らに命じている仕事のほうが優先度は高い。たまたま彼らがいる場所を通ってくれればいいが、それも望めまい。
「…しかたない。お姉ちゃんに手伝ってもらおう…」
ネッサローズは苛立った声で侍女の1人を呼ぶ。
彼女の魔法は念話。自分と他人とで思念での会話をするだけでなく、他人と他人とを繋ぐこともできる。
マンチキンでは魔法の力を持つ子供が産まれると必ず領主であるネッサローズに報告する義務が課されている。自分を脅かす力を持つ者を把握し、その芽を潰すか、自分の配下として仕えさせるための法令であった。
彼女もまたその制度によりネッサローズの目に止まり、配下として教育を受けた魔女の1人だった。
オズの国の反対側、西部ギリキンにいる自分の姉との思考の接続が完了する。
「お姉ちゃん?ひっさしぶりぃ~」
侍女を呼ぶ時とは正反対の猫なで声。対する彼女の姉はそれに負けない程の甘い声で応じる。
「あらあらネッサローズちゃん、どうしたの?猿達の追加がいるの?」
「それもだけどぉ…変なやつに襲われちゃってぇ、…ヨルシッパ、取られちゃったぁ…」
バツが悪そうに姉に告げるが、口調だけである。この世に1つとしてない秘宝を取られてしまったことへの、姉からの叱責はないことはわかっている。
「あらあらあら!なんてこと!お怪我はなかったの?」
おろおろして真っ先に妹自身の安否を心配する。西の魔女は大変な妹煩悩だった。
「平気平気!あいつてんで弱かったんだもん!でも逃げられちゃったのぉ…ヨルシッパないと困るよぉ…」
ドロシー達への態度からは想像できない程の甘え声で姉に泣きついてみる。
「許せないわ…あたしのネッサローズちゃんになんてこと…相手は?どんな奴なの?」
「えっとね、ピンク髪の三つ編みで、服は真っ黒の女なの。ドロシーって名前だったかなぁ。」
「そうか…安心してねネッサローズちゃん。すぐにお姉ちゃんが貴女の靴を取り返してあげるからね。 …何ボサッとしてんだ!動け愚図共!」
業火が畝る音と共に思考の接続が切れる。
「うふふ…お姉ちゃんホント扱いやすい♥」
ネッサローズはほくそ笑みながら侍女を下げる。とりあえずの連絡はしたが、ドロシーのいる場所は自分の領土でも姉の領土でもない。部下を送り込むことも難しいだろう。
「あーあ、お暇なあたしはあの女をいたぶる方法でも考えてるかなあ」