日が昇り、二人は森を抜けるため歩を進める。太陽が天辺まで昇る少し前、チップは木々の密度がまばらになっていることに気づく。
「街だよ!お姉ちゃん!」
森の出口は小高い丘になっており、2人の眼下には美しい町並みが広がっていた。前回の街と同じく、獄鬼の襲撃を防ぐための砦に囲まれている。
「チップ、頑張ったね。」
2人共昨日から森を歩いていてクタクタだ。この丘を下ればすぐに街に着く。
さあもう少し頑張ろう、と歩きだろうとしたドロシーは、自分たちに注がれる視線に気づく。
森の境目、まばらに生える木々の間に、その者はいた。
フードを深くまで被った小柄な人物。背格好からして老婆のようだった。
老婆はドロシーに気づかれたことを悟ると、身を翻して逃げ出そうとする。
「あ、こら!」
ドロシーが追ってくるのを横目で見ると老婆は立ち止まり、掌を地面に押し当てる。
地面がムクムクと複数の柱状に隆起する。土柱は更に形を変え、人の形をとり…
最終的に、裸の人間が6体生成される。
能面のような無表情、特徴のない顔、中性的な体型、股間にはその性を示すものが何もついていない。
「…!! あの時の土人形…!」
それを創りだした目の前の老婆こそが、畏鬼教と手を組んで、ギンタという人物を探そうとした張本人。魔女、モンビだ。
「待ちなさい!」
更に足を早めて追ってくるドロシーから護るかのように、6体の土人形たちが立ちはだかる。
ガーディアンARM、リングアーマーを顕現させて土人形をなぎ倒すが、数が多くて倒しきるのに時間がかかる。6体を土塊に戻した頃には、モンビはかなり遠くまで逃げていた。
すぐに走りだそうとするドロシーだが…
「待ってぇ…お姉ちゃん…」
チップがよたよたとついてくる。昨日の朝から歩き通しだったのだ。11歳の子供の体力では、これ以上走らせることは酷だ。
仕方がない。ドロシー自身も体力を消耗している。
ここは一端身を引き、目の前の街へ入ることにした。
―――――――――――――――――――――――――――――
街の前に着く。獄鬼を防ぐための砦は2人の前にそびえ立ち、陽に照らされていた。
ドロシーは自分が持っているこの世界の通貨を確認する。前の街でスり、宿代にしたものの残りだ。
「まあ、一晩分くらいは持つのかな…」
ドロシーが街の門を叩こうとする前に、門のほうが先に開いた。
「魔女様!」
中から鉄鎧に身を包んだ兵士達に囲まれる。
「え、ええ。確かに魔女だけど…」
「お待ちしておりました!」「長旅でお疲れでしょう。」「さあさあ、領主様も首を長くしております」
あれよあれよという間に、ドロシーとチップは兵士たちに連れられ、街中央の大きな館へと案内される。
そして通された大部屋には多数の兵士が並び、その先には長く柔らかい黒髪を湛えた美男子が椅子に鎮座していた。
「このザフィーロの街の領主、チュリオブド様でございます。」
「お初にお目にかかる。エスメラルダの魔女殿」
領主、チュリオブドはにこやかにドロシーに笑いかける。
「このような田舎の街までよくぞいらした。この度は…」
「あ、あのっ!私、魔女ではあるけどエスメラルダから派遣された魔女じゃないわよ?私の名前はドロシー。この子はチップ」
流れ者を迎えるには丁寧すぎる出迎えに、ドロシーは領主に対して訂正する。
「む、エスメラルダの魔女ではない?」
領主は兵士達をちらと見る。
ドロシー達を連れてきた兵士たちがしまった、という顔をする。
人違いでここまで連れて来られたようだ。
「いや、失礼した。旅の方でしたか。」
深々と頭を下げ、非礼を詫びる領主。
「私の街、ザフィーロの近くでは最近人攫いが多発しておりましてな。どうやら畏鬼教という、獄鬼を信望する組織の動きがこの近辺でも活発になってきているようでして。獄鬼の生贄としてザフィーロの罪なき民が攫われているそうなのです」
「私、ここに来る途中に会いました。信者の1人と魔物、あと畏鬼教に協力している魔女に」
ドロシーが答える。
「なんと!畏鬼教に襲われて無事で街まで辿りつけたとは、ドロシー殿達もお強いのですね。」
領主はドロシーの無事を喜ぶと、再び困った顔で事情の説明を再開する。
「やがてザフィーロの街の外にある洞窟が彼らのシナゴーグ-畏鬼教の集会所ですな-として使われていることがわかりました。最初は彼ら兵士団もそこへ討伐隊を送り込んでいたのです」
「人間の信徒には対抗できたのです。 ですが…」
領主の右隣で立っている兵士長が続ける。
「彼らを守護する獄鬼の強固な鱗やヌルヌルした皮には我らの剣や弓は通らず…」
「返り討ちというわけよ。全く、私がいなかったらこの街の兵士はもう全滅しているわ」
兵士長の言葉を遮ったのは領主の左隣で、小椅子に座っていた老婆だ。白髪を上品に束ね、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「ああ、紹介を忘れましたな。」
領主が老婆のほうを指しながらドロシー達に向かって言う。
「この方はイブノムという魔女です。私の側近魔導師として働いてもらっている」
「4年前にこの街に流れ着いてね。チュリオブド様に拾って貰ったの。本当にありがたいことだわ」
「それこちらの台詞ですよ、イブノム。貴女の癒やしの魔法のおかげでどれだけの民が救われたかわからない」
どんな怪我も、イブノムが手を当てると数刻で治ってしまうのですよ、と領主はドロシーに補足する。
「失礼、話が逸れましたな。」
領主は改めてドロシー達に向き直る。
「我々ではどうにもならないということで、エスメラルダへ応援を呼んだのです。 数日置いて、返事が来ました。マンチキンの畏鬼教の調査をしている魔女に、調査が終了し次第向かわせる、と。」
「その伝書が来たのが5日前!」
ため息をつく兵士長。
「エスメラルダのほうでも魔導師の仕事は多すぎてきりがないとはいえ、いくらなんでも遅すぎる… と思っていたところにドロシー殿達がいらっしゃったのです。」
人違えを弁解するかのように兵士長は説明する。
「そういうわけだったの。ごめんなさい、変に期待させてしまって。」
この街で宿でも探して泊まります、と伝えて席を立とうとしたドロシーを領主が制止する。
「とんでもない!それに我らは客人を無碍に扱ったりは致しません。まして無礼を働いてしまった償いもしなくてはいけない。ドロシー殿、チップ殿、是非我が館にお泊まりください。」
随分人のいい領主だ。路銀の残りも不安だったので、ドロシーは領主の提案を快く受ける。
「ささ、では客室へ… チップ殿、どうされました?」
兵士長は顔を紅く染めたチップを心配する。足もともおぼつかなく、呼吸も乱れている。
例の発作だ。
「あ、その、この子はちょっと病気で。“薬”があるので一度部屋に戻って飲ませればいいから…」
精液を出させる、とは口が裂けても言えずに、適当な嘘をついて部屋に向かおうと兵士長を促すドロシーだが…
「どれどれ、私に見せてみて。」
イブノムがずいと身を乗り出してチップの額に手を触れる。
ポウ…とイブノムの手が光り、手を離す。
「どう?お嬢ちゃん。」
苦しそうに目を細めていたチップだが、数秒置いてハッとしたように表情を変える。
「あ…苦しくない…苦しくないよ!おばあちゃん!」
「ほ、本当なの!?チップ!!」
ドロシーも思わず叫んでしまう。彼女のホーリーARM、癒しの天使は何の効果も無かったから、治癒魔法の類は意味が無いだろうと思っていたのだ。こうもあっさり治してしまうとは…
「何か、熱のような、エネルギーのようなものがこの子の身体から生み出されているようね。それが彼の身体には耐えられなくて暴走しているみたい」
イブノムは分析する。
「私の腕なら発作を治めるのは簡単だけど、時間を置けばまた発作は現れるわ。いつまでも私がつきっきりでいるわけにもいかないからねえ…」
そうだ、と老婆はポンと手を叩く。
「私の故郷、ギリキンに行けば本格的な治療ができるわよ。エネルギーが暴走する度に治める対処療法なんかじゃない、エネルギーの生産そのものがこの子の体内で行われないようにできるわ」
まさかこんなに早く解決法が見つかるとは思わなかった。
是非お願いします、とイブノムにお願いするドロシー。
「ただね、あまり悠長にしてはいられないよ。今すぐ行かなきゃならない。 大白鳥に引かせた車で飛んでいくわ。貴方、準備をお願いできる?この子、チップちゃんを先に車に乗せてあげて」
傍らにいた兵士の1人は、イブノムに頼まれるとすぐにチップを抱えて部屋を出る。
「それでね、ドロシーちゃん。」
イブノムはドロシーに向き直る。
「大白鳥の車は2人乗りなの。速度は出るから、チップちゃんを早く治療するにはそれが一番なのよ。 だから、心配だろうけど貴女はお留守番。それでいいわね?」
てっきり自分も同行するつもりでいたドロシーは拍子抜けしたが、仕方がないと思い了承する。
「ドロシー殿、心配はありません。イブノムなら間違いなくチップ殿を治すことができますよ。」
領主もにこやかに言う。
「さ、そうと決まれば私もギリキンへ行く準備をしなきゃね。 ドロシーちゃん、ついでに客室へ案内するわ。」
そう言ってイブノムはドロシーと共に領主の部屋を出る。
残された領主、チュリオブドは兵士長に話しかける。
「ふう、ドロシー殿達のお役に立てられるようで何よりだ。 …しかしエスメラルダから派遣されてくる筈の魔女様は何をされているのだろうな…糸を操る魔法を使われる方と聞いているが…」
――――――――――――――――――――――――
「さ、ここが客室よ。 でも…」
イブノムはいたずらっぽくドロシーに笑いかける。
「折角珍しいお客さんだから、貴女とお話したいわ。どう?私の部屋で。」
大白鳥の車が手配されるまでまだ少し時間がかかるようなので、それまでイブノムの部屋で話し相手になってほしいという提案だ。
「ええ、私なんかでよければ…」
そういってドロシーはイブノムの部屋に連れて行かれる。
「美男子でしょう。うちの領主様。」
お茶をドロシーに出しながら、イブノムは話しかける。
「ギリキンのお姫様、オーリン様との婚約が決まっていたのだけどね、突然姿を消してしまわれて。そりゃあチュリオブド様は悲しんだわぁ。 今や街中の女が気を引こうとしているけど、全部断っているみたい。」
「貴女は、恋人はいるの?」
「いやあ…その…片想いというか…」
顔を紅くしながら答えるが、同時に大事なことを思い出す。
「そ、そうだ!イブノムさん! 畏鬼教に協力している魔女、モンビがギンタっていう男の子を探しているみたいなんですけど、何か知りませんか!?」
「いいえ、畏鬼教に魔女の協力者がいることも、ギンタという子を探していることも、初耳よ」
「そうですか…」
藁をも掴む思いで訊いたが、やはりがっかりしてしまう。
「その子が貴女の想い人で、行方を探しているのかな?」
「えっと…行方はわかっているんです。とても遠いところにいるんです。…別の世界に…」
そこまで言ってハッとなり、ドロシーは口を押さえる。
「…ここでもない、メルヘヴンでもない場所、ということね?」
予想だにしないイブノムの言葉に、心臓が飛び出そうになる。
「ご存知なんですか?この世界の他にある、別の世界のこと…メルヘブンのこと…」
「ええ、ええ、知ってるよ。貴女が指にはめているそれ、ARMでしょう?」
イブノムはドロシーの手を指さす。
「私は何度も覗いてきたからねえ」
そう言うと、老婆はパチンと指を鳴らすと、虚空から大小の美しい宝石に飾られた大きな額縁が姿を現す。
「私の秘密の神導器、遠視額装ミラーシュよ。」
自分がこんな秘宝を所持しているなんてことは内緒よ、とばかりに口に人差し指を当ててみせる。領主にも秘密のようで、ドロシーにだけ特別に見せるのだという。
「千里眼の魔法がかけられているの。」
何もはまっていない額縁からはただ部屋の壁が透けて見えるばかりであったが、老婆が再度指を鳴らすと、額縁の中の色が歪み始め、一瞬淡い光を放ったかと思うと、白塗りの綺麗な館が映し出される。
「この館を空から見た風景。他にも森の中火の中湖の中、どこだって覗けるの。 …別次元にある世界の様子もね。貴方の故郷、メルヘヴンもよく覗いていたのよ。」
「そうだ、貴方の知っているギンタが彼の故郷の世界にいるかどうか、確かめてみる?」
「! お、お願いします!」
額縁に映る館の映像が消え、やたらと角ばった建物―“ビル”といったっけ―が立ち並ぶ町並みが広がる。
以前ドロシーも作り物の世界ではあるが行ったことがある、ギンタンの住む町、トーキョーだ。
ある1軒の家に近づく。遠視額装の視点は2階の窓から中に侵入し…
「!!」
声を失うドロシー。そこには懐かしい少年の姿があった。
「ギンタン…」
懐かしい少年の姿に目が潤む。
モンビが捜索しているギンタという人物は名前だけ同じの別人なのだろう。
彼がこの世界に来ていないことは少し残念だったが、久々に想い人の少年の顔を見れた喜びのほうが強かった。
ギンタはベッドの上に四つん這いになっているようだった。
これがギンタンの部屋?ぬいぐるみもあるし随分女の子っぽい内装だ。
ギンタを下から煽る視点から、上から俯瞰で見る視点に切り替わる。
部屋にはギンタ以外にもう一人いた。彼とベッドの間にいたので先ほどの視点では映らなかったのだ。
彼が押し倒しているのは黒髪をショートカットにした少女…
「小雪ちゃん…」
ギンタンの幼なじみ、スノウの素体、小雪だった。
ドロシーの頭のなかに不穏な思いがよぎったが、目は画面に釘付けになる。
『小雪…怖かったらその…やめても…』
少女はいっぱいいっぱいな状態のギンタの唇に人差し指を当てる。
『彼女の部屋に来て、ここまでしておいてそのセリフ? ……最後までしよう?ギンタ…』
『小雪…』
ゆっくりと目を閉じる小雪。ギンタは生唾を飲み、唇を重ねていく。
「っ…」
呆然と目の前の光景を見つめるドロシー。
ぎこちない愛撫の中、お互いの服を脱がしていく2人。セーラー服、シャツ、スカート、スボン、ブラ、パンツ…やがてお互い一糸まとわぬ姿になる。
お互い生まれたままの姿で、互いの身体を愛撫する。小雪ちゃんの小ぶりな胸にギンタンの手が触れると、彼女の身体はビクンと跳ねる。
ぎこちない愛撫が終わると、ギンタンはいきり立っている自分の分身に何か薄膜状のものを装着する。きっとあの世界の避妊具なのだろう。あの装着物が精液を受け止め、膣内へ流れるのを防ぐのだ。
『小雪…いくぞ…』
『来て…ギンタ…』
ゆっくり、2人の性器の距離がゼロに近づいていき…
「もう止めて…映さなくていい…」
そう力なく訴えるが、彼女の両目は額縁が映し出す光景に釘付けになっていた。
『あ…つぅ…』『小雪…』『いいの、大丈夫。動いて…』
画面は変わらず、見たくもない光景は流れたままだ。
『ううっ…ギンタ…私、幸せだよぉ…』『大好きだぞ、小雪…』
互いをいたわりながらも、15歳の性欲の赴くまま2人は激しく身体を絡め合う。
「う…く…」
頭をかかえ、耳を塞ぐドロシー。
『うっ…小雪!』『ギンタ!』
2人の動きは頂点に達し、ギンタは小雪と繋がったままドクドクと精を吐き出す…
セックスの後の余韻に浸る2人の姿が消え、額縁はイブノムの部屋の壁を映すのみとなった。
「ドロシーちゃん、辛いものを見せてしまったね」
イブノムがドロシーを心配そうに見つめながら、言葉を掛ける。
「年をとるとなかなか神導器の操作もおぼつかなくて、映像を切るのが遅くなってしまったよ」
コンコン、とイブノムの部屋を叩く音がする。チップを護送する準備ができたようだ。
申し訳なさそうにイブノムは席を立つ。
「ごめんね、メルヘヴンからのお客さんである貴女ともっとお話がしたかったのに、こんなことになってしまって」
「ううん、私が頼んだことだもの。イブノムさんが謝ることなんてないよ」
無理に笑顔を作るが、彼女の顔からは失望の感情が全く隠せていなかった。
「チップ君は私がしっかり面倒を見るわ。エネルギーを生み出してしまう体質を治したらすぐに戻ってきます。その…元気を出して、ね。」
ギイ…と扉が閉まり、部屋にはドロシーだけが残された。
遅れて彼女もゆらりと立ち上がり、ふらふらと部屋を後にする。
「ドロシー殿!…顔色が悪いですぞ、どうされましたかな?」
廊下で、先ほど領主の部屋にいた兵士長と一緒になる。
「ううん、旅の疲れが出ちゃっただけ。貴方は随分忙しそうだけど?」
「ええ、先ほど別の客人が現れましてな、腕の立つ魔導師様だそうで、畏鬼教のことを相談したら是非協力したいと申し出てくれまして。討伐隊を結成して本日の夕刻に彼らの根城である地底湖の洞窟に乗り込むつもりであります。」
「そう…」
頑張ってくださいね、と言葉をかけ、ドタドタと兵士詰所に向かう兵士長を見送る。
それからドロシーは来客用の個室に入り、ベッドに身を投げ出す。
「そう…なんだ…小雪ちゃんと…付き合ってるんだ… よかったね…ギンタン…」
天井のほうを向きながらそう呟いてみる。
不思議と涙は出ない。心にぽっかり穴が空いているようだ。
『いつか会えるよね…』
ギンタが逆門番ピエロに消えていく中、メルヘヴンの空で彼女はそう呟いた。
でも心の何処かでわかっていた。そんなことはきっとないだろうと。
わかっていた筈なのに…私は心の何処かで諦めきれていなかったのだ。
これからどうしよう、と自問し、すぐに答えが出る。
オスカーを倒す。カルデアを裏切り、ARMを外部に普及させようとする、まるでディアナのようなことを企んでいるあの男を。
愛しい人を想う気持ちが消えて心に空いた穴を、カルデアの魔女としての使命でいっぱいにしてどうにか満たす。
ドロシーは今、1年前ギンタと出会う前の彼女自身と同じ心境に戻りつつあった。
「悪名高い魔女」と周囲に揶揄されていた頃の彼女に。
「暴れたいな」
誰もいない部屋で、そう呟く。そして先ほどの兵士長の言葉を思い出す。
『討伐隊を結成して本日夕方畏鬼教の根城に乗り込むつもりであります』
窓の外を見るとザフィーロの街が一望できる。領主の家を囲むように賑わう街と、それを守るように建てられた砦。
砦とドロシーが通ってきた森との間にある大きな洞穴。兵士長の話によるとそれが畏鬼教の根城である地底湖に繋がっているという。
陽はまだ高い。お昼を少し過ぎた頃だ。
「おや、ドロシー殿、外出ですかな。」
「綺麗な街だから、ちょっと散歩してきます。」
そう言って館を出るドロシーだが、彼女の足は街の外へ真っ直ぐ向かっていた。
畏鬼教…討伐隊…くだらない。
畏鬼教の集会なんて、私が、メルヘヴン最強の魔女である私が、討伐隊なんかが来る前に、
1人でぶっ潰してやる。