オーリンと別れて街道を急ぐこと数刻、彼女の言っていたとおり、ドロシーの目の前には巨大な柵がそびえ立っていた。ギリキン―エスメラルダ間の緩衝地帯と、ギリキンを隔てている。
柵の間に挟まれるように石造りの施設がある。検問だ。
検問の扉を開き中に入ると広い部屋があった。入り口近くには長椅子があり、来訪者が腰を下ろしている。
奥側には扉があるが、そこは武装した2人の門番によって厳重に封鎖されている。
ドロシーは門番達に話しかける。
「ねえ、向こう側に、ギリキンに行きたいんだけど…」
「ギリキンは現在王政が崩壊しており、獄鬼が蔓延っている危険地帯です。許可を得た者でないと入れません」
「そんな!私にはあっちに用事が…」
「どのような、用事ですか?獄鬼退治などでしたら依頼書の提出を。
…それとも獄鬼そのものに会いに行くのですかな?」
正当な理由なしに好き好んで立ち入ろうとするものには獄鬼の味方…すなわち畏鬼教信徒やネッサローズのような邪悪な魔女である疑いがかけられるということを暗に仄めかされる。
門番の断固とした態度に押され、すごすごと検問入り口の長椅子に座るドロシー。
どうやって検問を抜けよう。
メルヘヴンではこういう時、ゼピュロスブルームで飛行して門を超えていた。
飛行機能が壊れていなければ…と心のなかで愚痴を吐く。
「よう、お嬢ちゃん。お困りのようだな。」
そんなドロシーに声をかける人物が現れる。禿げた頭に脂ぎった顔の中年男性だ。
背は低く、比較的豪華な服に身を包んでいる。
「俺の名はアーテンボロー、この辺の獄鬼討伐を請け負っているフリーの退魔師だ。何だって獄鬼がうじゃうじゃいるギリキンなんぞに行きたいんだ?」
「本当はエスメラルダを目指すつもりだったんだけど、ちょっと用事ができてね。ギリキンに会いたい奴がいるんだ。」
「そうなのか。でも許可証がないとこの検問は通れないぜ?
俺はギリキンで獄鬼退治の依頼が来てるもんでな、通過できるってわけだ。」
アーテンボローは許可証をヒラつかせながら無駄に大きな声でそう説明し、隣に座っている男も怪訝そうに彼のほうをチラチラ見る。
困った顔のドロシーを見て、アーテンボローは提案する。
「なあ嬢ちゃん、俺の助手ってことにして口裏を合わせてくれれば、この検問を越えられるかもしれないぜ?どうだ。」
「本当?悪いけど、お願いしてもいいかしら。私は…ベル。ベルっていうの。よろしく。」
思わず偽名を使う。メルヘヴンで仲が良かった妖精の女の子の名前を拝借した。
「よっし、決まりだ。待ってな嬢ちゃん、今奴らに話しをつけてくる。」
そう言うと、アーテンボローは門番のところへ向かう。
「あの娘は俺の助手だ。一緒に通してやってくれねえか?」
「書類にはそのようなことは書かれておりませんが」
門番達は何かを期待するような目で睨め上げる。
アーテンボローもその意味を察すると、指でOKの印を作る。
(あまりやりすぎるなよ)
ニヤニヤ顔の門番達にそう囁く。
彼らは、門番達はエスメラルダより派遣されてきた憲兵である。
数年前に北の魔女モンビがギリキン王家を襲撃して以来、ギリキンはほぼ無政府状態と化していた。
エスメラルダの魔導師達は東西の邪悪な魔女の動きを牽制するので手一杯であり、ギリキンの復興にまわせる人員などなかったのだ。
ギリキンの善良な住民はエスメラルダとの緩衝地帯に移住させ、ギリキンへの道は封鎖されることとなった。
彼ら門番の役割は獄鬼をエスメラルダ側に入れないこと。獄鬼に与する意図を持った人間をギリキンに入れないことだ。
先ほど突っぱねた桜色の髪の少女。門番の勘では恐らく獄鬼側の人物ではない。
しかし万が一ということがあるので許可証のない者を通すわけにはいかない。
ただ、今しがた猛毒の魔導師・アーテンボローのお墨付きがでた。もし彼女が獄鬼側の人間だったとしても彼の責任だ。
特例を通す上での「役得」も許可された。適度に悪戯していいということだ。
まだ17,18の小娘にしてはなかなか良い身体をしている。門番は長椅子に腰掛けているドロシーのドレスを押し上げる豊満な胸を、スリットから覗く肉付きの良い太ももを見てそう思う。
「ベル様、アーテンボロー様の助手として特別にギリキンへの入国を許可します。」
座っているドロシーの元に2人の門番が近づき、そう伝える。
「これから怪しい物を所持していないかの検査をさせていただきます。あちらの部屋へどうぞ。」
もう1人の門番が部屋の向こうにある扉を指さす。
「ええ、わかったわ。」
促されるまま、ドロシーは奥の部屋に通される。
部屋の向こう側にはまた扉がある。身体検査を通過すればその扉を通ってギリキン側へ行けるということのようだ。
「それでは、検査を始めます。」
門番が2人、それぞれ彼女の前後に立つ。
ボディタッチで検査していくのだ。
ドロシーの背後にいる門番の両手がドロシーの腰に伸び、服の上から撫でるように動いていく。
「腰、異常なし。」
続いて掌は下に下がっていき…
(う…お尻触られてる… それにこの動き…)
背後の門番はドロシーの尻を触っている。その動きは触るというよりは揉むのほうが正しい。
「ふむ…ここは怪しいな。おい、前からも調べろ。」
するとドロシーの前にいる門番がドロシーのドレスのスリットを捲る。
「ちょ…やりすぎ…」
「いいえ、全身を調べさせていただきますよ。特にスカートの内側に何かを隠すのは常套手段ですから。」
そう言うと門番はしゃがみ、彼女のスカートの中に頭を突っ込む。
「な、何を…きゃ?」
ドロシーの背後にいる門番の手が尻から胸元に伸びる。服の上からでもはっきりと美しい形がわかる美乳に、門番の掌が触れた。
「こ…こらっ!」
「女性はこういうところにも物を隠しますから。念入りに調べます。」
服には皺が寄り、ドロシーの乳は簡単に形を変える。
恥ずかしさに顔が紅くなる。こいつら、明らかに邪な目的で身体検査をしている。
だがドロシーは耐えた。こんなところで騒ぎを起こすわけにはいかない。この世界で自分は異邦人なのだ。後ろ盾のない状況で、国に仕える兵士とトラブルは起こせない。
「ふむ…スカートの内側、異常なし。」
ゆっくり太ももを撫で回しながら、前にいる門番は言う。
「次は…」
彼の手がドロシーの股間に近づき、割れ目を指でなぞる。
「そ、そこは…」
「女性はここによく隠し物をするものですから…」
そう言いながら、彼女の膣に指を入れてくる。
「ふむ…何もない。それではもっと奥は…」
さらに指が奥まで侵入してくる。太く、乾いた指がヌルヌルした彼女の膣内を掻き混ぜていく…
もう我慢の限界だ。
「いい加減にしろっ!!」
背後の門番に肘鉄を、前の門番の膝蹴りを食らわせる。
「っく!」「ぎゃあ!」
膝蹴りを顔面に喰らった門番は鼻からドクドクと血が滴る。
肘鉄を喰らった門番はみぞおちに命中したようで、うずくまって耐えている。
(ヤバ…)
余計なトラブルを起こさないように耐えていたというのに、結局やってしまった。
「も、もう身体検査は終わりでいいわよね?行かせてもらうわ。」
悶絶している門番を尻目に、そそくさと検査室を出てギリキン側の検問へ出る。
「おう、終わったか嬢ちゃん…」
「急いで!」
待っていたアーテンボローに向かって、焦り気味に声をかけるドロシー。
検問の出口に差し掛かったころ、さっきの門番2人がドロシーを追って追いかけてくる。
アーテンボローを急かし、走り続ける。
――――――――――――――――
走ること数分、どうにか撒けたようだ。
「ハア…ハア…揉め事起こすなって言ったろう?」
「ごめん…でもあいつらが巫山戯たことしてくるから…」
その“巫山戯たこと”を取引の条件にしたのは他でもないアーテンボローだ。
上辺だけの追求はここまでにし、仕事の話に切り替える。
「さ、依頼の場所はあっちだ。ついて来いよ嬢ちゃん。」
「え?助手の“ふり”をすればいいだけって…」
「おいおい、この俺様が自分の得にもならないことをするわけがねえだろうが!俺は検問を通過させてやった。あんたは見返りに俺の仕事を手伝う。」
アーテンボローは手に腰を当てながらそう言う。
「うっ…」
今この瞬間にモンビがチップにどんな酷いことをしているかもわからない状況。
一刻も早くモンビの居所に行きたかったドロシーは眉を顰める。
「それに…お嬢ちゃんはギリキンでの用事を済ませた後は来た道を戻ってエスメラルダに行きたいんだろう? …ここを出る時も検問を通過する必要がある。」
痛いところを突かれた。チップを助けた後はエスメラルダに行くつもりだ。
中央部エスメラルダと南部カドリングは良い魔法使い、良い魔女による正当な統治がなされているという話である。
オスカーを止めるなら善良な魔法使い達に協力を仰ぎたい。
それにチップの安全を考えると治安の良い場所にいてもらうのがいい。
チップの体質もそこにいる治癒の魔法使いに頼めば改善が見込めるかもしれない。
チップを助けた後にエスメラルダに行くには来た道を戻り、この検問を通過して緩衝地帯を南下していく必要がある。検問を通過する為にはここでアーテンボローを振り切ることはできない。
ドロシーは観念してアーテンボローの獄鬼討伐を手伝うことにした。
「…わかったわ。それで、依頼っていうのは何なの?」
「話がわかるじゃねえか。 獄鬼退治が終わったらお嬢ちゃんは自由に行動していい。それが終わったら俺と合流して検問を抜ける。これでいいな。」
続いてアーテンボローは依頼内容の説明をする。
「あそこに湯気が出ているところがあるだろう。」
彼が指さした先には、白い湯気がもくもくと上がっていた。
「ちょっと前は名のしれた温泉地だったんだが、数年前に湯源でナメクジの獄鬼が大量発生して、そのまま居ついちまったんだ。」
当時は北の魔女、モンビによる襲撃でギリキンの王政が崩壊したばかり。
魔導師達は事態の収拾に忙しく、この小さな温泉地の獄鬼を倒す余裕などなく、放置されていたという。
「わかったわ。さっさと退治しちゃいましょう。」
ドロシーがそう言うと、2人は温泉地に向かって歩を進めた。
温泉地の存在はオーリンから聴いていた。そこを更に突っ切って進めばモンビが昔使っていた城がある。ドロシーはそこを目指していた。
余計な時間を食ってしまうのはうんざりだが、行って戻る必要はなさそうなのは不幸中の幸いだった。
「そら、ここだ。」
「うわ…気持ち悪…」
そこは確かに温泉だった。
湧き出る湯、微かな硫黄の匂いと共に吹き出す蒸気。
しかしそこには先客がいた。
大量の巨大な蛞蝓が温泉に浸かり、ひしめいている。
湯の色は濁っており、粘性もあるようだ。
「こいつらのお陰で温泉はドロドロ。魔導師の支援を受けられなかった住民どもは泣く泣くこの村を手放して隣町に移り住んでる。 …そこをこのアーテンボロー様が一肌脱ごうってわけだ。」
「でも随分のろいじゃない。魔導師でなくても倒せそうなもんだけど…」
蛞蝓達はドロシー達には見向きもせず、のそのそと湯の中を進んだり苔を食んだりしている。
「一応肉食だからな。それに見た目よりタフだし、数も多い。 ついでに言えばこいつらは痺蛞蝓って呼ばれててな、ちょっとピリっとくる。人間が喰らってもどうってことはないが、気分のいいもんじゃねえ。」
弱い電気で小動物を捕まえ、捕食するための能力らしい。
「さ、始めようぜ!」
アーテンボローは両手をぎゅっと握りしめると、そこから濁った黄色の粘液が湧き出てくる。
見るからに猛毒だ。
「おりゃっ!」
毒液を纏った手を払い、蛞蝓達に振りかける。
毒液がついた蛞蝓達は苦しそうにのたうった後、動かなくなる。
「随分効率悪いわね…」
ドロシーが呆れたように言う。
「しょーがねえだろうよ…ここいらの獄鬼討伐担当は俺しかいねえんだから。
痺蛞蝓の弱点は乾燥。火や光の魔法が使える魔法使いがいれば適任なんだが…」
コッローディも言っていたが、この世界では魔法を使える人間は少数派のようだ。
それ故、アーテンボローのような性格に難のある男でも人々から需要があるというわけだ。
「終わるまで帰さねえぞ嬢ちゃん。さ、二手に分かれようぜ。俺はあっち。嬢ちゃんはあっち」
さっさと終わらせてチップを助けに行かないといけないのに、この男に期待していては日が暮れてしまう。
自分1人で蛞蝓の殆どを片付ける勢いで行こう。そう思ってドロシーは早速討伐の準備に移る。
「あ、そうだ。こいつらの親玉がいるからそいつに出会ったら急いで逃げ…」
そう言いながら振り返るともうドロシーの姿はなかった。
やれやれと言った調子で、アーテンボローも蛞蝓に毒液を振りまいていく。
「ゼピュロスブルーム!」
大量の蛞蝓を風で温泉のお湯ごと巻き上げ、一箇所にまとめ…
「ブリキン!」
一瞬だけ出したブリキンで潰す。それを繰り返す。これで3セット目だ。
さて、次は…
周囲を見回すと、大きく湯気を上げている場所がある。特別広い温泉があるようだ。
きっと蛞蝓も大量にいるのだろう。ドロシーは湯気の方向ヘ向かう。
案の定、そこには巨大な湯だまりができていた。湯気で向こう側の景色が見えない程の大きさだ。
蛞蝓達も大量にいる。随分小さい個体が多い。生まれたばかりなのだろうか。
ゼピュロスブルームで蛞蝓達を巻き上げながらドロシーは考える。
生まれたばかりの蛞蝓がいっぱいいるということは、この辺りは卵をまとめて温めておく場所なのだろうか…
そんなことを考えているドロシーの背後から、ねっとりした女の声がする。
「だあれぇ…私の子どもたちに非道いことする奴は」
一瞬こんなところに人間がいるのかと思った。
だが、彼女の眼前には、自分の3倍はありそうな巨体を持った蛞蝓…
その上半身は屹立し、腕や顔、乳房がついていた。人のような顔もついている。
流暢な人語を喋る、知能の高い獄鬼は何度か見たことがある。
バラムという、透明になれるトカゲのような獄鬼。
クィベリオンという、巨大な水蛇のような獄鬼。
いずれも他の獄鬼よりも強く、自らを“上級”の獄鬼と名乗っていた。
「あらあらあら…いっぱい殺してくれちゃって… また雄の動物を捕まえていっぱい産まないと…」
蛞蝓女は巨体をグネグネ揺らしながら子蛞蝓達の死体を見下ろす。
「貴女で4人目よぉ…私の子どもたちにおイタした魔女や魔法使いは。私はただ此処でいっぱい繁殖したいだけなのに、どうして放っておいてくれないのかしらぁ…」
子供を大量に殺された割に随分と反応が軽い。子を殺めたことそのものよりも、数を減らされたことに怒っている様子だ。その辺りの価値観は獄鬼故ということか。
「ここは元々人間の住んでいた場所だよ。あんたらは元いたところにでも帰んな。」
「あらぁ…私がこの場所が気に入ったんだからここで暮らすのぉ…それでいいでしょう?」
身体中からドロドロの粘液を垂れ流しながらそう言う。獄鬼らしく人間の都合などお構いなしということだ。
それに同じ上級の獄鬼でもウィッカにいた獄鬼とは違い、本能のままに生きているような印象を受ける。
「あんたは知能が高い獄鬼のくせに人間を利用したりはしないのね。」
蛞蝓女は何のことか考えているのか少し沈黙し、答える。
「利用?…ああ、しゅーきょー…?とかいうので人間達を煽動するやつぅ?ウィッカっていうんだっけ。」
「そういう面倒くさいことしてるのは両生・爬虫類型の獄鬼ぐらいよぉ。
人間なんて唯の餌と、繁殖の道具よ。あたしら蟲型の獄鬼はそう考えてるわ。人型の獄鬼みたいに魔女や魔法使いをこちら側に引き込むようなこともしないのぉ。」
そう言って、丸石のような歯を見せて微笑する。人間とは違う異形の歯だ。
「『各々好きに喰らい、繁殖せよ。さすれば策を弄さずとも我らは繁栄する』それが我ら蟲型獄鬼の長、ガゥフ・ブラグ様が我々に下した唯一の命令。
だから私もいっぱい食べて、子ども達を産んで…それを邪魔する奴はぁ…殺しちゃうのぉ。」
同時に蛞蝓女はその巨大な掌を上げると、ドロシーに向かって振り下ろす。
緩慢な動きなのでドロシーは簡単に回避する。掌は地面に叩きつけられ、掌と大地が粘液の膜を作る。
「私もあんたに恨みはないんだけど、急いでるんでね。やる気なら倒れてもらうよ」
ドロシーは西風の箒をかまえ、大風を起こす。
蛞蝓女はすこしたじろいだが、今のドロシーの出力ではその巨体はびくともしない。
「それなら…っ フライングレオ!」
有翼の獅子が出現し、蛞蝓女に襲いかかる。
身体のサイズではフライングレオ側に分がある。レオは蛞蝓女の肩に牙を立てるが…
蛞蝓女は片腕で簡単にレオを引き剥がし、ドロシーに投げつける。
「ぐっ!!」
レオをARMに戻すのが遅れ、飛んでくるレオの爪が身体にかすってしまった。
ドロシーは衝撃で地面をバウンドしながら吹き飛ぶ。
強い。言葉を流暢に喋れる上級の獄鬼とはカメレオンのような獄鬼、水蛇のような獄鬼の2体と戦ってきたが、彼らに比べて随分とタフだ。
「くす…ウィッカの上級獄鬼と戦ったみたいだけどぉ…一緒にされちゃうのは腹たっちゃうなぁ」
蛞蝓女は手を振るうと粘液が伸びるように垂れ、ドロシーの脚に絡みつく。
レオをぶつけられてぐったりしたドロシーの身体は絡め取られ、蛞蝓女の身体―腹部にあたる場所に載せられる。
ドロシーの両手はズブズブと粘液塗れの肉体に沈み込み、いくら暴れても抜けない。
脱出を試みるドロシーを見つめ、女蛞蝓は話しかける。
「さっきさあ。人型の獄鬼みたいに魔女や魔法使いを仲間にすることはないって言ったけど…」
粘液塗れの手でドロシーの身体を弄り始める。
「よっぽど気に入った子がいれば“堕として”眷属にしちゃうこともあるかなあ。あんたはいい線行ってるわ。」
蛞蝓女はドロシーの豊満な胸をたぷたぷと揺すりながらそう言う。レオの爪が当たってしまい、彼女の左胸は少し露出していた。
「…でも残念。私は雌だから女である貴女を眷属にしてあげる儀式はできないの」
堕とす?眷属…?何を言っているんだ…
「…雌の獄鬼にとって人間の女は餌にしかならないのよね…おいで、子どもたち」
「!!」
拘束されているドロシーの身体に小さな―それでも握りこぶし程もあるサイズの―蛞蝓達が群がる。
「安心しなさい。この子達も私とおんなじ。みんな雌だから貴女を苗床にはできないわ。」
ねっとりとした口調で蛞蝓女は言う。
「それにまだ生まれたばかりだから人の肉を食べたりはできないの。」
確かに、温泉入口に犇めいていた蛞蝓達のサイズが人間大だったのに対し、蛞蝓女の秘部から出てくる蛞蝓達は握りこぶし程の大きさだ。
「まずは貴女の垢とか汗とかを子どもたちに食べてもらって、綺麗になった貴女を私が食べてあげるわ。」
「冗談じゃないよっ!」
蛞蝓女の言うとおり、子蛞蝓達はドロシーの肌に吸い付いて、肌を舐っている。
幼体とはいえ、普通の蛞蝓よりも遥かに巨大なサイズ。それらに纏わりつかれるドロシーは嫌悪の表情を露わにする。
子蛞蝓達はドロシーの顔、手足のみならず、服の中に侵入することを試みる。
ドレスの首元から、袖口から、破れた胸元から、そしてパックリと空いたスリットスカートから。
「く…舐めるな…」
魔力がなくなっても単純なウェポンARMなら出せる。手が蛞蝓女に飲み込まれている状態でリングダガーを出現させようとさせるが…
「ひあああぁぁっ!?」
身体に力が入らない。
服の中を通って乳首に到達した子蛞蝓が発電したのだ。
「く…この…あああああんっ!!!」
今度はドロシーのクリトリスから刺激が走る。
ドロシーの愛液が余程美味いのか、秘部に纏わりついた子蛞蝓達は、我先にとドロシーの膣内に入り込もうとする。
「だ、ダメぇ!入っちゃ…」
必死に下半身に力を入れ、抵抗するが、子蛞蝓達の発電によって快感の声をあげてしまう。
「うふふ、この子たちは女の蜜も大好きなの…っ!?」
蛞蝓女の拘束が弛まる。
「嬢ちゃん!今だ!」
アーテンボローが蛞蝓女の横っ腹に毒を纏った手刀を突き刺している。
ドロシーは急いで蛞蝓女から離れ、纏わりついている子蛞蝓を手を振り払う。
蛞蝓女は急いでその場を後にする2人の人間を、じっと見つめる。
「あの人間…」
―――――――――――――――――――
「…ふう、ここまで来れば大丈夫だろ。」
あの場からちょっと離れただけなのにアーテンボローは足を止めてそう言う。
「もっと離れようよ。いくらナメクジだからって油断してたら追いつかれちゃうよ?」
露出した左胸を手で押さえながら不安そうに言うドロシーに、アーテンボローはにんまりとした顔を向ける。
「さっきも言ったろ?痺蛞蝓どもは乾燥が大の苦手なんだ。」
「カンカンに陽が差している昼間は、こいつらは水辺近くにしかいることができない。沼、川、そしてこの温泉」
ドロシー達はいるのは温泉から少し離れた場所。なるほど、それならばナメクジの獄鬼達は追ってこれない。
「親玉…上級の獄鬼、女郎蛞蝓がいるのは聞いているが、簡単だ。 温泉の端っこでナメクジ共をプチプチ殺っていく。上級種が来たら乾燥地帯まですたこら逃げる。これを繰り返せばいい。」
随分情けない作戦を自慢気に語るアーテンボローだが、確かにそれなら確実だ。
しかし時間がかかる。自分はモンビの棲家に急いでチップを助けなければいけないのに…
「さ、少し疲れた。休憩してから討伐を再開しようぜ。」
事実、ドロシーも先の戦闘で魔力を消耗していた。休まないと攻撃が出せない。
アーテンボローの提案に従い、ドロシーは開けた芝生の上で休憩することにした。
「雌の獄鬼もいるのね…」
アーテンボローに分けてもらった携帯食をつまみながらドロシーは言う。
「ああ。めったにいるもんじゃないがな。」
「雌がいるんなら獄鬼同士で交尾できないの?」
「それができるなら獄鬼共の人間への被害も少なくなってるだろうよ。」
俺ら魔導師の食い扶持が減っちまう、とアーテンボローは下卑た声で笑う。
先ほど助けてくれた恩もあるし気のいい面もあるが、性根は下劣なようだ。
それにさっきから自分の胸に視線が刺さっているのがわかる。魔女服の破れた部分は修復中で、下乳がまだ覗いている状態だ。
ドロシーは手で胸を隠して、アーテンボローの説明の続きを聴く。
「雄の獄鬼は雌の動物の子宮を借り腹にすることで増える。雌の獄鬼は雄の動物の精液を取り入れることで子供を生む。雄の獄鬼からは雄の獄鬼しか、雌の獄鬼からは雌の獄鬼しか生まれない。 この世の常識だぜ」
獄鬼には雌雄が一応ある。獄鬼の生態はわからないことだらけだ。
それに蛞蝓女の話していた内容…
言葉をうまく喋れない下級獄鬼は食欲と繁殖以外何も考えていない。
だが言葉を流暢に話せる上級の獄鬼達の行動は一枚岩ではないらしい。
獄鬼には人型・蟲型・両生・爬虫類型がいる。そういえば植物型もいた。
それぞれに上級の獄鬼がおり、更に上級な獄鬼の思想の元に行動している。
両性・爬虫類型はウィッカという畏鬼教で人間を煽動して、効率的に餌や苗床にする。
蟲型はただひたすら犯し、食うという思想のようだ。
人型は… …何と言ってたっけ… 堕とすとか眷属とか…どういうことだろう… 畏鬼教の信徒のにするのとは違うのだろうか…
ドロシーはふと空を見上げる。
「…ねえ、水辺以外はナメクジの獄鬼は移動できないって言ってたけど…」
ぽつ ぽつ と、いつのまにか灰色の雲に覆われていた空から水滴が落ちてくる。
「雨だったら…?」
「…かなりヤバイ…」
女郎蛞蝓のいた場所とは反対の方向に向かって、がむしゃらに走るアーテンボローの後を、ドロシーは追いかける。
「おいおいおい聞いてねえぞ!さっきまであんなに晴れてたのに!だからこの仕事引き受けたのに!」
先ほどの余裕綽々な態度とは一変、激しく動揺している。気の弱い男だ。
「どこか!隠れる場所!」
「隠れる?逃げればいいじゃない!」
「このへんは痺蛞蝓の生息地のど真ん中だ!どこに逃げても囲まれる!
隠れて雨が上がるのを待つんだ!」
思ったよりもピンチのようだ。ドロシーはあたりを見回す。
木の上…無理だ。見つかる。川…温泉とは別に川も流れているのか…水辺は論外だ。
どこか…どこか隠れる場所は…
「あ、あれ!小屋がある!」
ドロシーが指差す先には木造の掘っ立て小屋。部屋が1つあるくらいの小さな小屋だ。
「でかした嬢ちゃん!」
魔女と魔導師は、ずぶ濡れになりながら小屋に駆けて行った。