「なんとか見つかったわね…隠れるところ…」
「ああ…ここで雨があがるのを待とう。」
ドロシーは入り口の内鍵をしっかりと閉める。
ここは湯番小屋のようだ。温泉の湯の管理をするための小屋で、その為の道具や資料などが置いてある。
もう少し進めば廃村と化した温泉街があるようだが、そこはもう痺蛞蝓達がうじゃうじゃいるだろうというのがアーテンボローの意見だった。
ドロシーは肌寒さにブルっと震える。
ずぶ濡れだ。
このままでは熱と一緒に体力がどんどん奪われる。
いつ獄鬼が襲ってくるかわからないこの状況で、体調を崩すわけにはいかない。
各自服を脱ぎ、濡れた身体を拭いて、びしょびしょの服を絞って乾かすべきだ。
1部屋だけの小屋だが、形がL字状になっている。
アーテンボローには入り口近くの角にいることを約束させ、ドロシーは奥側の角で服を脱ぎ始める。
三つ編みを解き、ブーツを脱ぎ、帽子を脱ぎ、手袋を外す。
最後にワンピースになっているドレスを脱ぐと、彼女は一糸纏わぬ姿となる。
服を絞り、椅子にかけて乾かす。
部屋の構造的にお互いの姿が見えないとはいえ、居心地が悪い。
壁には隙間があり、風も吹いてきて暖かいとはいえない。
「こっち来ないでよ。」
見られていないとはいえ、胸や股間をつい手で隠しながら、ドロシーは部屋の向こうのアーテンボローに言う。
「わかってんよ」
とアーテンボロー。
「まったく散々だ!こんなことならザフィーロの畏鬼教退治の依頼にしときゃあ良かった!」
同じく服を脱ぎながらアーテンボローは愚痴をこぼす。
「畏鬼教…」
畏鬼教といえば、集会所で信徒が何か意味不明なことを言っていた。
「ねえ、サバトって何?」
ドロシーは部屋の向こうのアーテンボローに質問する。
「ん?」
「い、いや、畏鬼教の人間がね、言ってたんだけどさ。サバトっていうのがもうすぐ起きるみたいだから、何かなーって思って。」
折角この世界の魔法使いと知り合ったのだ。獄鬼や畏鬼教についての情報はなるべく多く得ておきたい。
アーテンボローはしばし沈黙した後、口を開く。
「獄鬼はどこから来ると思う?」
ドロシーは言葉に詰まった。獄鬼は他の生物を苗床にして繁殖するが、そういう答えではないのだろうか。
「地獄からだよ。」
「地獄…畏鬼教の人間もそんなこと言ってた…」
「地獄っていう地下世界への入り口がそこかしこの地中に空いてるんだ。このオズの国には」
だから畏鬼教の集会所は地中に近いところ、洞窟などが多い。とアーテンボローは補足する。
なるほど、ドロシーが壊滅させた畏鬼教の集会所も地底湖にあった。
アーテンボローは続ける。
「地獄にはもっと強い獄鬼がいるみたいだぜ。だがそいつらはこの世界には来れない。弱い獄鬼だけが入り口を通ってこの世界に入って来られる」
彼曰く、網みたいなものらしい。網の目より大きな魚は行く手を阻まれるが、小さい魚は網を抜けられる、という理解でいいそうだ。
「サバトってのはその穴が大きく開く日だ。だから開獄日って別名もある。
網の目が大きくなるようなもんで、上級の獄鬼が地上に顕現できるようになる。
普通の人間にとっては天災。獄鬼や畏鬼教の人間にとってはお祭りだ。」
「怖い日ね…」
透明になれる蜥蜴の獄鬼、巨大な水蛇の獄鬼、そして雌型の蛞蝓の獄鬼。
いわゆる上級の獄鬼と、ドロシーは通算で3度闘ったことになる。
あっさり倒せたものも、苦戦を強いられたものもいた。
彼らよりも更に強い獄鬼が存在し、このオズの国に現れる日がある…
(用心しないといけないわね…)
「その日は俺は魔導師休業だ。あんな化け物勝てねえよ。一般人共は家に篭って震えてろって話だ」
折角強力な魔法を持っているのに残念な男だ。そうドロシーが思った瞬間…
「ひぐっ!?」
ドロシーは突然身体を仰け反らせる。
全身を甘い電気が走ったのだ。
比喩ではなく…本物の電気…
「あ…は…」
非常に弱い電気だが、身体の“中”から広がるそれは、立っていられなくなる程の衝撃を彼女に与える。
ドロシーは堪らずお腹を抑えてへたり込んでしまう。
「どうした?嬢ちゃん。」
「だ、大丈夫…来なくていい…」
身体の中で、何かが蠢いている。
(さっきのナメクジ…1匹?2匹?…私の中に入ってた…)
恐る恐る膣内に指を入れると奥にブヨブヨしたものが触れる。それの纏うヌメヌメは明らかに自分の愛液よりも粘度が高い。
「あ…ん…」
くちゅくちゅと掻き回し、なんとか蛞蝓の身体を摘もうとする。
周囲に淫靡な水音が響く。
尻尾を掴んだ。
そのまま引きずり出そうとするが蛞蝓側も無抵抗ではない。
こぶし大の太さの蛞蝓が膣の中で暴れる。
柔らかく弾力がありぬめった肉塊がその粘液を潤滑油に激しくのたうつたびに、ドロシーの膣内が蛞蝓のザラザラした皮に擦り上げられる。
「ああああん!」
もう半分ほどが膣外に出ているが、蛞蝓も膣壁に吸い付いているようで、引っ張っても引っ張ってもなかなか取れてくれない。
「ひぁ♥あひぃ♥」
その度に膣が強く刺激され、放電による甘い電気も加わってドロシーは声をあげてしまう。
ドロシーが負けじと引っ張る力を強めると、蛞蝓は抵抗するように電撃を強める。
「ああああああっ!!」
膣内での放電が彼女の膀胱を直接刺激する。同時に彼女の股間からチョロチョロと水音が聞こえてくる。
「あ…は…抜けた…」
最後の抵抗で力尽き、子蛞蝓はようやくドロシーの膣から離れる。子蛞蝓は怯えたように部屋の隅で縮こまり、震えている。
さっきの喘ぎ声のことをアーテンボローに弁明しなければ…と思っていたドロシーだが、板壁の隙間から見えた光景に目を奪われる。
「来た!」
板の隙間に目をくっつけ、外の様子を観察する。
蛞蝓の大群がぞろぞろと行進している。その中心にいるのは、あの女郎蛞蝓だ。
「ほ、本当か?」
アーテンボローもドロシーのところにやってきて、ドロシーの後ろから穴を見ようとする。
蛞蝓の様子を伺うのに集中しているドロシーは彼が近くにやってきたのに気づかない。
彼も純粋に蛞蝓の動向を知りたくてドロシーの近くにやってきたが、すぐに一糸まとわぬ彼女の姿に気づく。
「進路的にはこの小屋を通過して行きそうね…じっとしてればやり過ごせるかも…」
無意識にであろうが、こちらに向かってクネクネと左右にくねる尻。
細身の身体でありながら腰は安産型で迫力があると同時に、雪のように白く美しい。
その中央からは薄紅色の秘裂が丸見えになっている。
周囲は粘液で怪しく光っており、ついさっき壁越しに聞こえた喘ぎ声が彼女の自慰によるものだと断定するには充分だった。
よく見れば彼女の足もとには水たまりができている。
隣に全裸の男がいるというのに、失禁するまで自慰に励んでいたというのか…
アーテンボローは、自分の一物が硬く反り返っていくのがわかった。ゆっくりと頭をもたげていく亀頭が目の前でくねっている秘裂に今にも接触しそうだ。
股間に何か熱いものが触れる感触と同時に、ドロシーは胸と腰に脂ぎった手が伸びるのを感じた。
「ッ!?」
いつのまにか背後にいたアーテンボローが胸を乱暴に揉み、片方の手で尻を、腰を、太ももをまさぐっている。
「ちょっと!あんた今の状況わかってんの?」
「あんな声聴かされてよ……我慢できるわけねえだろうが…」
ハアハアと息を切らしてドロシーの柔らかい身体を味わうアーテンボロー。
「んぅ…静かにしないとここにいるのバレちゃうんだってば…バカ…」
アーテンボローの指にクチュクチュと膣を擦られ、嬌声が出てしまいそうなのを必死に我慢する。
「だったらおとなしくするしかねえよなあ?いいだろ?あんたもこのエロい身体持て余してるんだろう?」
「何考えてるのよ。そんなわけないでしょ…」
「さっきあんなに激しく自分を慰めてたじゃねえか。誘ってたんだろ?俺が満足させてやるよ。」
「あ、あれは違…」
膣内にいた獄鬼を引きずり出す作業が、オナニーをしていると捉えられてしまったようだ。
背後から自分に密着する中年男性の身体は気持ち悪いの1言だった。
たるんだ腹が自分の背中にぴったりと張り付き、自分を羽交い締めにする腕もタプタプしている。
しかし自分の股間の下に擦り付けられるそれだけは、とても熱く、固かった。
アーテンボローも考えなしなわけではなかった。もしこの小娘が暴れ、外にいる蛞蝓達がこちらに気づいたとしても、自分だけは助かる。
毒を出して、全身に纏えばいい。
ナメクジ共は自分を拘束することはできず、逃げる自分を追いかける程の素早さもない。
彼らに気づかれても、死ぬのはこの女だけだ。
「や…馬鹿…」
下手に暴れては外にいる蛞蝓達に気づかれてしまう。
だが、このままでは…
ドロシーは地底湖で受けた陵辱の記憶を思い起こす。
自分の大切な処に、愛してもいない男のモノを迎え入れる苦痛、恥辱…
あんなこと、二度とごめんだ。
「ねえ…その…」
外にいる獄鬼に気付かれぬよう、小声でアーテンボローに提案する。
「口でなら…してもいいから…」
ドロシーは振り返り、腰をかがめてアーテンボローの股間に顔を近づける。
だらしのない腹の下から、赤黒い亀頭が顔を覗かせる。陰茎はブヨブヨとした包皮に包まれ、飛び出した腹に埋もれて少ししか見えない。
その醜悪さに思わず顔を離してしまうが、壁を背にしているので頭を壁にぶつけそうになる。
音をたてるわけにはいかない。落ち着きを取り戻すために2、3度深呼吸する。
チップのよりは一回り大きいものの、オスカーに比べると半分以下だ。あっちのほうが規格外なのだろうか。
「ほら、早くしてくれよ。」
「わかってるわよ…だから静かにして…」
ドロシーが拒めばきっとこの男は本当に後先考えずに騒ぎたて、蛞蝓を呼ぶだろう。
かといって身体を重ねるなんて死んでもごめんだ。
口でなんとか射精させれば落ち着いてくれるかもしれない。
そう、チップにいつもしていたみたいに…
オスカーに無理やり突っ込まれたのを除けば、口でペニスを慰めるのはチップに次いで2人目だ。
当然だが彼のそれとは随分形が違う。
萎びていて変な臭いがする。亀頭だけは妙に大きい。硬さも少し柔らかめだ。
恐る恐る、それに舌を這わせる。
苦い。酷い臭いがする。
なるべく臭気を吸わないよう、目をつぶりながら息を止め、亀頭全体を口に含む。
オスカーの時のような顎が外れそうな太さとは程遠く、苦しくはない。しかし30は歳が離れているであろう中年の陰茎を慰める行為への不快感がドロシーを襲う。
敵の眼と鼻の先でフェラチオをするのは初めてじゃなかったな、とドロシーは思い出す。
畏鬼教の信徒から隠れながらチップから魔力をもらう為に、音を立てないように射精に導いたっけ…
あの時はチュパチュパ音が出ないよう、吸い上げるようにして刺激を与えていた。
そのことを思い出し、ドロシーは今含んでいる亀頭に唇を密着させ、口腔の空気を抜くようにして吸い上げる。
すると、ペニスが一瞬大きく膨らんだような感触と共に…
「~~~!!!」
ドク…ドク…と苦い液体がドロシーの舌上に注がれる。
ペニスを口から出して精液を吐き出したいが、アーテンボローは彼女の頭をがっしりと掴んで押さえつけている。これでは吐き出すことが出来ない。
精液は重力に従って彼女の喉へ降りていく。むせこんでしまいそうだが、音は立てられない。
(くそ…)
そう思いながら、ドロシーは精液を嚥下していく。
だが、アーテンボローの手はドロシーを押さえつけたままだ。
上目遣いに彼の顔を見ると、アーテンボローはニヤリと笑って言う。
「掃除だよ。舌を使って綺麗にするんだ。」
屈辱に真っ赤になる。今すぐこの陰茎を噛み切ってやりたい。しかしこの状況ではアーテンボローの言うことに従う他ない。
目に涙を浮かべながらドロシーは精液塗れの亀頭に舌を這わせ、ザーメンをこそぎ取るように舐めていく。
そうしてようやくアーテンボローはドロシーの口からペニスを引き出す。
今すぐにでも喉奥に指を突っ込んで精液を吐き出したいが、大きな音は立てられない。
ともあれこれで治まってくれたか…とアーテンボローの顔を見上げると同時、彼はドロシーを押し倒していた。
「ちょっと…今出したばっかりでしょう?」
「これくらいで収まりが着く程歳とっちゃあいねえよ。」
そう言って精液塗れの亀頭をドロシーの中にねじ込もうとする。
蛞蝓の残していった粘液は潤滑油代わりになっているが、男性経験がまだ2回-うち1回は一晩中かけた濃厚なものだったが-のドロシーの膣はなかなか侵入を受け入れない。
今ここで暴れたら折角屈辱に耐えて口奉仕した苦労が水の泡になってしまう。
しかし目の前で中年男性の亀頭が自分の秘部の上を滑る光景を見た瞬間、ドロシーは嫌悪感に耐え切れなくなりアーテンボローを押しのけようとする。
しかし彼は既にドロシーの身体を組み敷いており、ドロシーの抵抗虚しく彼女の秘裂を捉えた亀頭はどんどん奥へ飲み込まれていく…
亀頭が完全にドロシーの膣内に隠れた瞬間、彼らの隣の壁がミシミシと音を立て破れる。
壁を力づくで破壊した犯人は、大量にいる自分の“子どもたち”を従えながらドロシー達を見下ろす。
「やっと見つけたぁ♥」
女郎蛞蝓が嬉しそうに微笑む。
「く…」
部屋の隅にいた子蛞蝓がキイキイと鳴きながら女郎蛞蝓の元へすり寄る。
「教えてくれて、ありがとうね。」
やられた。痺蛞蝓は自らの発する微弱な電気を介して仲間と通信できるのだ。
ドロシー達が必死に声を殺して隠れても意味はなかった…
「お、お前の狙いはこいつだろ?ほら!」
「な?この野郎…」
とっさにドロシーを盾にするアーテンボロー。どこまでも下衆な男だ。
女郎蛞蝓はその手をずるりと長く伸ばす。その手が掴んだのは、ドロシーではなく、アーテンボローだった。
「おい!?なんで俺…」
「脂ぎってて…ネトネトした気質…それに毒の魔法…貴女、私と相性ばっちりよ。人間の言葉でいえば、『一目惚れ』ってやつ?」
女郎蛞蝓はもう片方の手で、射精したばかりの彼のペニスを拭い、指先についた精液を舐めとる。
「うふ…良い子が作れそう」
アーテンボローは出せる限りの毒を噴出するが、女郎蛞蝓は動じない。
「さっきは“びっくり”しちゃったぁ」
粘液が毒を中和するのか、それとも上級獄鬼の体力とはこれ程のものなのか。
女郎蛞蝓は赤子をあやすかのようにアーテンボローを抱く。
「でも私の子どもたちは痛がっちゃうからぁ、ちょっとおとなしくしててねえ。」
すると女郎蛞蝓はドロシーをそうしたように、自らの身体にアーテンボローの身体を沈み込める。
「離せ!この化物!」
懸命に毒を放出しながら抵抗するアーテンボロー。しかしすぐにその身体は沈み込み、肩から上だけを女郎蛞蝓の腹部を出すだけとなってしまう。
「…ああ、貴女。」
今度はドロシーに視線がいく。
「今素敵な雄を見つけちゃった幸せで胸がいっぱいなの♥ だから今貴女にはそんなに興味がないわぁ。」
女郎蛞蝓は、まるで恋する乙女のように両手を頬に当て、身をくねらせる。その度に粘液がビチャビチャと周囲に飛散する。
「…だから子どもたち、あなた達が食べていいわよ。」
痺蛞蝓達がドロシーを囲う。先ほどドロシーの身体を弄ったような生まれたばかりの子蛞蝓とは違う、もう少し成長した個体…
人を食える大きさに成長している個体だ。丸石のような歯でドロシーの肉を削ろうと近寄ってくる。
どうにか逃げ出そうとするが、大雨でぬかるんだ地面に足を取られ、転んでしまう。
起き上がろうとするドロシーの足先に、1体の蛞蝓が食らいつく。
「う…この…離せ!」
食われていないほうの足で蛞蝓を蹴るがびくともせず、そのままゆっくり、だが確実に飲み込んでいく。いくら踏ん張っても抜くことができない。
足首、ふくらはぎ、膝…どんどん飲みこまれていく。
肉を裂き、骨を砕く牙があるわけではない。ざらざらした口腔と、消化液で、肉を何度も舐って獲物を消化していくのだ。
「冗談じゃないわ…化物に食われるなんてごめんだよ…!」
どうやって脱出しよう…そうドロシーが考えていると…
突如、一面が炎に包まれる。土砂降りの雨を物ともしない火力の炎が現れた。
ドロシーに纏わりついていた蛞蝓は狂ったように身を捩らせ始め、ドロシーはなんとか拘束を逃れる。
男が、5人か6人。火球を出して蛞蝓達を一掃している。
さらに詳しく状況を確認しようとするドロシーの肩に、ふわりと暖かい布がかけられる。
「大丈夫ですか?お嬢さん。」
黒衣の男が裸のドロシーに布をかけてやる。
脂ぎった髪もまた黒く、鉤鼻が特徴的な顔だ。この集団のリーダー格のようである。
それ以外の男たちは皆炎球を出し、蛞蝓達と戦っている。
「我々が来たからにはもう安心ですよ。」
「ええ…ありがと…」
この世界に来てから下卑た人間にばかり会っていたので警戒していたが、紳士的な対応にドロシーは心を緩める。
男たちが放つ火球は蛞蝓達を次々に屠っていく。
都合よく炎の魔法が使える魔導師が通りかかってくれるとは運がいい。
しかしふと疑問が生まれる。
(ん?魔導師ってただでさえ数が少ないらしいのに、炎の魔法が使える人ばっかり何人もいるものなの…?)
彼らをじっとよく見る。
(…違う。あれは…ARMだ。)
男達の指には指輪がついており、火球を発する度に指輪が光を発する。
恐らくフレイムボールというARMだろう。
ウォーゲームの第一戦で仮面の男が使用していた、下級のネイチャーARMだ。
彼らにARMを与えたのは、オスカーか、その仲間。
この地も既にオスカーの息がかかっているということだ。
「……」
あの時の陵辱を思い出し、思わず自分の肩を抱いてしまう。
「怖かったでしょう。ですがもう大丈夫。邪悪な化物には、我々が鉄槌を下します。」
ドロシーの行動を勘違いした男は、彼女をねぎらう言葉をかける。
「マルキス様!上級の獄鬼です!」
部下の1人が女郎蛞蝓を指さす。アーテンボローはまだ捕まっている。
「あれは私がやろう。」
黒衣の男が杖を取り出し、蛞蝓女のほうへ歩いて行く。
杖の先端には丸い宝石が付いている。
あれもARMかと思いきやその宝石の色は透明で、中に意味不明な文字が刻まれている。
神導器の特徴だ。
「応援か?助かるぜ。」
男はまるでアーテンボローが存在していないかのように蛞蝓女に対してまっすぐ杖を向けたのち、杖先を地面に突き立てる。
「おい…おい…」
大地が軋むような声をあげると共に地面から鉄の槍が伸び、アーテンボローごと蛞蝓女を串刺しにする。
「ぐぁぁぁ!!」
鉄の槍が貫通した肩を抑えながら、アーテンボローは苦痛の悲鳴をあげる。
蛞蝓女は多少痛むようだが、平然としている。
「…粘液が邪魔して刃が深くまで刺さらない…か。少し相性が悪かったな。」
4本、5本…男の足もとから更に多くの鉄槍が出現し、アーテンボローと蛞蝓女に狙いを定める。
「お…おいこら!この化け物を殺るんなら俺を助けてからにしろよぉ!」
黒衣の男はまるで今気づいたかのようにアーテンボローの方を向く。
「我々は人間の味方…」
「そう!そうだろ?だからはやく…」
「身体から毒液を出すような化け物を、人間とは呼ばぬ」
「そんな…思い出したぞ!お前は魔女嫌いのマルキ…」
言い終わらぬうちに、無数の鉄槍が大地より伸び、アーテンボローと蛞蝓女を襲う。
蛞蝓女は粘液に塗れた腕で槍を掴みとると、身体を震わせる。
「…むう!」
地中で鉄の槍と繋がっている操鉄杖を通り、女郎蛞蝓の発電した電気はマルキスを襲う。
感電して動けないでいるマルキスをその巨大な尻尾で薙ごうとする蛞蝓女の背中に火球が当たる。
「マルキス様!援護致します!」
マルキスの引き連れていた部下の1人だ。
蛞蝓女は苛々したかのように眉をひそめる。
「…もう…その気になれば貴女達なんて皆殺しなんだけど…」
蛞蝓女は必死に自らの身体から逃れようとするアーテンボローを見下ろす。
「この子に流れ弾が当たっちゃうのはイヤなのよねぇ。」
すると蛞蝓の獄鬼は粘液をマルキス達に飛ばす。
彼らがうろたえた隙に身を翻し、崖から川に飛び込もうとする。
雨で増水した川は轟々と流れ、飛び込んだ者をあっという間に下流へ押し流すだろう。
「おい!助け!助けてくれえ!」
どれだけ抵抗しても蛞蝓女の拘束から逃れられないアーテンボローの懇願を完全に無視し、
マルキスは鉄の槍を無数に出現させ、蛞蝓女の背中を突き刺す。
だが、槍が蛞蝓女を崖から押し出す形になり、1匹と1人は激流へと落ちていく。
「あああああ!!!嫌だあああああ!!!」
「そんなにつれなくしないでよぉ。さ、私といっぱい子作りしましょう♥ 貴女を堕とすまで、絶対に離さないんだから。」
「…逃がしたか。」
黒衣の男は残念そうに呟く。
「あの…あの男は…」
流石に気の毒だ。アーテンボローの身を案じるドロシーだが…
「獄鬼も、魔法使いも一緒です。生まれながらに世の理から外れた力を持つ存在…獄鬼と何が違うのですか」
鉤鼻の男は憎しみに満ちた目でそう答える。
「奴らを駆逐して、魔法を“技術”として管理できるようになれば…」
鉤鼻の男は部下の持つARMを指指す。
「貴女のような、魔法を持たない人でも安心して暮らせる世界ができますよ。」
にっこりと、心からの慈愛に満ちた表情でドロシーに言う。
何の抵抗もできずに蛞蝓に食われかけていたことから、ドロシーが魔法を使えないと判断したらしい。事実、ドロシーもARMがなければ魔法は使えない。
まともかと思いきや、随分歪んだ思想を持っている人物のようだ。
持って生まれた魔法の有無で、アーテンボローのような下衆がそれなりの社会的地位を持って威張り散らせるのは確かに理不尽ではあるが…
魔法を使えない不満を持つ人間にARMを与える。オスカーの計画は上手く進んでいるようだ。
「と、とにかくっ、助けてくれてありがとう!」
「お、お嬢さん!」
ドロシーは半壊した小屋にある自分の服を持って、逃げるようにその場を後にする。
オスカーがどこにいるかわからない。今近くにいなくても、オスカーと連絡を取り合っているであろう彼らと長く話してはいられない。
服を着て、身なりを整えている頃には、もう夕方になっていた。
廃村になった温泉街は抜けた。その先には…苔むした古城があった。
オーリンの言ったとおりだ。そこが、モンビが拠点としていた城。
モンビがイブノムとして身を隠していた時期からは打ち捨てられ寂れている。
奴が何か企んでいるなら、自分の城に戻ってくるだろう、というのがオーリンの予想だった。
「…チップ…」
肉体関係を不可抗力で持ってしまったとはいえ、特に特別な感情はない。
そういう感情ではなく、自分のせいで彼を目覚めさせてしまい、あげく邪悪な魔女に攫わせてしまったという責任が彼女を突き動かしていた。
(チップ…無事でいて…)
ドロシーは、古城に向かって足を踏み出す。
――――――――――――――――――――――――
(う… ここは…)
チップは服を脱がされ、生暖かい培養槽の中を揺蕩っていた。
培養槽の硝子越しに老婆がチップの身体をじろじろ観察している。
思い出した。巨大な白鳥が曳く馬車の中、自分はモンビと名乗る老婆の手を振りほどこうとした。
もみ合っているうちに馬車が着陸し…
どうにか転がり出た先に見えた光景は朽ち果てた古城。
そして一瞬後、土人形の無表情な顔と、振り下ろされる手刀…
自分はこの老婆に捕まってしまったのだ。
これからどうなってしまうだろう… ドロシーお姉ちゃん… 怖いよ…助けて…
思考がまとまらない。頭のなかに霞がかかっているようだ。自分が沈み込んでいるこの液体のせいだろうか。
生暖かくて、トロトロしていて、頭はぼーっとするのにちっとも落ち着かない。
この感覚… 初めてではない。
そうだ、ドロシーお姉ちゃんと会う前… 自分はここにいた…
別の名前で呼ばれていたし、それこそが自分だった… 確か…
「完全に男の身体に分化している…!」
モンビは癇癪を起こし、培養槽の開閉機構を乱暴に叩く。
同時に、培養槽の液体が排出され、チップはゲホゲホと咳込みながら自由を取り戻す。
「グリンダといいドロシーといい…小娘共のせいで計画が台無しだよ…」
モンビが忌々しげに吐き捨てる。
チップは速やかにモンビの従者である土人形達に囲まれ、彼らが持ってきた新しい服に着替えさせられる。
服は相変わらず女の子用だったが、チップの体格にぴったり合っていた。
「“完成”したときのお前の身体に合うように服まで用意していたのに… ああ憎らしい…」
モンビはふと自分の横に浮遊している遠視額装を覗き見る。
魔法の額縁に映るのはあちこち苔むした石造りの古城と、その入り口を慎重に進むのは1人の少女。
柔らかい桜色の髪は三つ編みに束ねられ、すらりとした身体は黒衣のドレスに包まれている。
「おや、噂をすれば…」