カルデアへ戻ったドロシーは目の前の光景に驚愕した。町は焼かれ、過去にチェスが襲撃してきた時の光景を蘇らせた。
「何よコレ…」
「ドロシー様!」
一人の傷だらけの魔導師がドロシーに声をかけた。年齢は15前後とみられ、恐らくこの場所を守る為に戦い傷ついたのであろう。
ドロシーは急いで駆け寄った。
「しっかり、何があったの?」
「黒い、ローブを羽織った男が…ガフッ!」
(黒いローブ、私を襲ったヤツの仲間か…それより、出血が酷い!)
「ドロシー様…」
「大丈夫、もう喋らないで!今、治療するから。」
ドロシーはホーリーARM、癒しの天使で魔導師の傷を治療する。
しかし、魔導師は続けた。
「聞いてください、この襲撃の主犯格は…オスカーです。」
「オスカー…」
私はその名前を聞いて驚きを隠す事が出来なかった。
カルデアでは下層の家出身でありながらも、天才的なARM彫金の腕を誇る男。
それだけの腕を持ちながら、ここ2年間姿を消していた。
しかし、何故今になって、何故故郷であるカルデアを…
「オスカーは何処に居るの?」
「カルデア…宮殿に、大ジジ様が危ない!」
「ドロシー様…申し訳ありません…侵入者を…止めることが出来なかった。」
悔しさのあまり、涙を流す魔導師を抱き起こし、優しく抱きしめるドロシー。
「よくやったよ。後は私に任せな。」
私は彼の治療を終えるとアンダータで急いでカルデア宮殿へ向かった。
広間には1人の老人が倒れていた。
「大ジジ様ッ!」
「ドロシー…!」
大ジジ様、カルデアの長老の怪我の様子を見ようと駆け寄るドロシーを、男の声が呼びかける。
「久しぶりだなドロシー。よく来てくれた。」
「オスカー…」
白いコートが特徴の独特の服装。後ろで束ねた銀の長い髪と眼鏡…間違いない、オスカーだ。
「何でこんな事を…!」
「そりゃあ、ドロシー。革命を起こすためさ。これはそのプランの一つに過ぎない。」
「革命…どういう事?」
その時、4人のローブを羽織った男達が姿を現した。
一人は先ほど交戦した長身で細身の男、大柄な男、そして小柄な男が2人。
「さて、そろそろ次のステージへ行こうか。ディメンションARM、逆門番ピエロ!」
逆門番ピエロ、異界の住人を呼び出す門番ピエロとは対極に、こちらから異界へ行く事が出来るARMだ。
カルデア宮殿最深部に封印されていたARMだが…あの時、通信ARMから聞こえた必要なものとはこのことだったのか。
「オスカー、どういうつもり? まさか…」
逆門番ピエロで行くことができる世界。それはギンタの住んでいる世界である。
「くくく、ギンタやダンナの居た世界を先に侵略するのも悪くないが、知ってるか? 『3つ目の世界』の存在を…」
「3つ目の世界?…」
今私達がいる世界、メルヘブン。ギンタが暮らす世界(トーキョーと、彼は言っていた)。
そのどれとも違う世界があることを示唆する言葉だった。
「そこで俺は“力”を得る。それを使い俺はこの腐ったカルデア人共に思い知らせてやるのさ。新の王は誰か、ってな。俺が支配する新たな世界が始まる。「鍵」も手に入れた。…いや、元々俺たちのものだったがな。」
「鍵…?」
よく見ると逆門番ピエロ以外にも何か手にしているようだ。布で梱包されていて何かは見えない。
とにかく、オスカーを行かせるわけにはいかない。
「行かせないッ!ゼピュロスブルーム!」
「オスカー様、私がやりますか?」
長身の男が尋ねる。
「いや、今のあいつの相手くらいならできる。お前はピエロを頼む。」
長身の男に門番ピエロを渡したオスカーはドロシーの行く手を塞ぐ。
オスカーの手から突風が起こりドロシーのゼピュロスブルームから発せられた風と相殺させる。
「くッ…ヤツも風属性のネイチャーARMを…?」
「先ほどのお前との交戦、アンダータの長距離移動、その様子だとホーリーARMで死にぞこないの世話でもやいていたみたいだな。満身創痍なのにここまでやってくるとはな。まあ、計画通り事が進んで助かった。」
「負ける…ものかァっ!!」
ドロシーの箒から更に強い風が吹き荒れる。その風はオスカーのものを押し返そうとしている。
「はあ… 本当に… いい女だなお前は… どうだ、俺と組む気はないか?勝ち馬につくのが賢い生き方だぜ?」
「こんな場面で勧誘?いい神経してるわ。あんた。」
「ハハッ…振られちまった。ふんっ!」
「きゃあああぁぁッ!」
オスカーの手から空気の塊が発射され、壁に思い切りドロシーの身体を叩きつける。
壁に張り付いたまま、ぐったりとするドロシー。砕けた壁の破片により全身はズタズタに切り裂かれていた。
服はズタボロに破れ、右の太ももと左の肩の傷が深く出血が酷い。
その傍らでは長身の男が逆門番ピエロを発動していた。
周囲は突然闇となり、巨大なピエロのガーディアンが姿を現しサイコロを振るう。
「トンネル開通デ~ス!ダイスの目は5、お入りくださ~い。」
丁度、奴らの人数と同じ。全員まんまと逃げることができるわけだ。ものすごい圧力で壁に張り付けにされながらドロシーはそれを見ているしかできない。
…しかし、ドロシーの予想に反し、ローブの男達の間にざわめきが走る。
「あー…まあ、6なんてそうそう出ねえわな。もっとも、俺的にはここまで来りゃ2以上ならどの目でも良かったんだけど」
仕方ないといった風に肩をすくめるオスカー。
「我が主は薄情ですな、我々はカルデア宮殿までで乗り捨てでも良いと?」
長身の黒マントは落ち着いているようだ。
「お、おいオスカー!俺は連れてくよな?」
焦ったように小柄な男がオスカーに詰め寄る。
「おい、抜けるとしたらお前だろ?俺より下の位のくせに。」
「るせえ!1年前の話だろうが!」
食って掛かる大柄な男に言い返す先ほどの小柄な男。
???数は5で調度良いではないか。
オスカー・長身の男・大柄な男・小柄な男2名。これで5人だ。
どうして揉めている?まるであの5人以外に連れて行くべき人間がいるかのような…
「オスカー様、そろそろ。」
長身の男は仲間の小競り合いなど意に介さない様子だ。
「ああ、そうだな。次この世界に帰ってくる時はカルデアの、メルヘヴンの終焉の時だ。」
「待て!オスカー!」
なんとか拘束から逃れようと身体に力を込めるドロシー。
「待て?…」
ドロシーにかかる力が消滅し、壁からずり落ちその場で崩れる。壁にはベットリと血が付いていた。オスカーがARMの発動をやめたのだ。
「…お前も来るんだよ。ドロシー。」
ぐったりした彼女の手を掴み、門番ピエロの方へ歩いて行く。
「え?」
「な、なあ!俺はまだまだ暴れてえんだ!俺を連れてくだろう?あんなチビじゃなく…」
「悪ぃな。定員オーバーってやつだ。おい」
詰め寄る大柄な男の顔を見ようともせず、オスカーは長身の男を顎で使う。
長身の男の腕から、肉でできたグロテスクな砲が伸び、大柄な男を撃ち抜く。
「が…は…」
彼の胸に巨大な風穴が開く。羽織っていたローブも脱げ、醜い顔と禿頭が露わになる。
「あいつは…!」
チェスの元ナイト、コウガ。ウォーゲームが終わった直後、カルデアを襲撃してきた奴らの1人だ。彼がいたから今回の襲撃もスムーズにできたのかもしれない。
「さて、行くぞ」
オスカーがドロシーの腕を掴み、逆門番ピエロまで引っ張っていく。
「おい、離せ!なんで私を連れていくんだ!」
先ほどのダメージが体中に響き、うまく抵抗できない。
「お前が必要だからさ」
ぐっと顔を近づけるオスカー。彼の端正な顔がアップになり、思わずドキっとしてしまうが、ドロシーは強気に嫌悪感をあらわす。
「ざ…けんなっ…」
「じゃじゃ馬なお前を時間をかけて籠絡する暇もなかったんでな、わざと部下にお前を襲わせ、逆門番ピエロのところまで誘導したってわけさ。さあ行こうぜ、“俺の”世界へ。」
「このっ…!離せ!」
こうして、私は逆門番ピエロの中に入った。
もし、オスカーが本当に別世界でARMを越える巨大な力を手に入れた場合、この世界はどうなってしまうのだろう。
チェスに襲撃され、オスカーに襲撃されたカルデア、しかし私は何も出来なかった。自分の故郷すら守れない悔しさが今になってこみ上げて来た。
今思えばメルの仲間が居なければディアナにたどり着けたかも解らない…
私はどれだけ無力なのだろう… せめて、私がオスカーを止めなきゃ…
もうこのまま異世界に飛ばされてしまう。ドロシーは覚悟を決めた。
オスカーが何を考えているか知らないが、必ずその野望を止める。カルデアを裏切った罪を償わせる。
扉の向こうの世界は、夜のようだった。妙な形の城も見える。
そして、この世界で、ドロシーが一生涯忘れられない程の物語が始まるのだった…