ドロシーは朽ち果てた城の門にたどり着いた。
門もほぼ崩壊し、門の意味をなしていない。
門をくぐり、閉ざされた城門を開けると荒れ放題に荒らされていた。入り口は大きな吹き抜けになっており、2階、3階、4階が垣間見える。入り口の奥のほうには2階へと続く階段が伸びている。
オーリンが言うことには、モンビはギリキンの王家を壊滅させたという。
それだけの大罪を犯したのであればエスメラルダの兵士に家探しされて当然だろう。だがその時にはモンビは既にこの根城から離れ、ザフィーロに潜伏していた、というわけだ。
破壊された家具の上に埃が積もり、蜘蛛の巣も張っている。
よく見ればところどころ埃が擦れている箇所がある。
つい最近誰かがここを訪れた証拠だ。
(モンビ…やっぱりここに来ているの…?それならチップがいる可能性も高い…!)
自分の当てが外れていないか心配だったドロシーは少し安心する。
モンビはチップを連れて行って何をするつもりなのだろう。
ドロシーはオーリンから聞かされていたモンビの情報をまとめてみる。
モンビはエスメラルダの王家に生まれた。お姫様中のお姫様だ。
だがある時を境に獄鬼に惹かれていき、遂には獄鬼に与する魔女となってしまう。
王家を飛び出た際に、エスメラルダの王である“オズの魔法使い”の管理する神導器を幾つか盗みだして獄鬼に与えた。
その後20数年の間、「反魂の魔女」として各地で暴虐の限りを尽くすが、30年ほど前から影を潜めるようになる。
そして4年前、若返りの神導器・ビスネを狙ってギリキンを襲撃…
「そう、4年前…」
ドロシーはオーリンとの会話を思い出す。
(どうしていきなりビスネを狙ったんだろう?)
「どういうこと?」
(モンビがビスネを狙い始めたのは4年前。もう既にモンビは60代なのよ。)
「そういえば不思議ね。もう少し前からビスネを欲しがってもいいのに。」
(これは予想なんだけど、モンビは他に若返りのアテがあったんじゃないかなあ。4年前にそれがおじゃんになったから、代わりにビスネを狙い始めた…とか。)
そんなことを思い出しながら1階の様子を見ていると、彼女の頭上から嗄れた声が聞こえる。
「よく来たね。私の城まで」
「イブノム…いや、モンビ!」
ドロシーの頭上、2階層上のバルコニーに老婆が立っている。
頬にある2つの黒子、腫れぼったい瞼は確かにザフィーロの町にいた癒やしの魔導師の特徴だ。
しかしあの時の穏やかな印象とは正反対だ。
綺麗に纏められていた白髪はざんばら髪となり、優しげな表情は今となっては邪悪そのものだ。
「それがあんたの本当の姿なんだね… チップを返しなさい!」
「おやおや、異世界でたまたま知り合って数日のガキに随分ご執心だねえ…それとも“運命”でも感じたかい?」
含むような言い方でそう問いかけるモンビは、ドロシーの反応を伺うかのようにニヤニヤしている。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないよ。 奥で隠れてりゃ私も諦めて城を出てったかもしれないのにわざわざ私の目の前に来てさ、ちょっと私のこと舐め過ぎじゃない?」
「チャンスをあげているんだよ。なんたってあのガキ―チペタリウス―を作ることができたのはあんたの姉のおかげでもあるからね。そのお礼とでも思っておくれ。」
「…!?今なんて…待ちなさい!」
ドロシーはモンビの足を狙って鎌鼬を繰り出すが、動揺から狙いが逸れてしまう。
破壊されたバルコニーの土煙に紛れるように、モンビは城の奥に逃げていく。
「はっはっは!気になるかい?なら追いかけてみな!追いかけっこだよ!」
「っ…この…」
上の階に進んでモンビを追いかけなければ。
モンビの逃げた先とは反対方向に2階へと続く階段が伸びている。
即方向転換して階段へ向かおうとするが…
「モモイロカミノマジョ…アシドメ…」「シマツ…スル…」
全裸の人間が5,6体。中性的な体つきに無表情な顔。
モンビの下僕、土人形がドロシーの前に立ちはだかる。
「邪魔だよ!」
ゼピュロスブルームの突風で彼らを横薙ぎに吹き飛ばし、階段を登る。
「マ…テ…」「シマツ…」「ニク…クイチギル…」
斬撃が効きにくい彼らとまともにやりあっていては魔力が持たない。
階段を登り切ると再度ゼピュロスブルームを振るい、階段を破壊する。
もうモンビは城の奥にいるだろう。ネッサローズの城ほど大きいわけではない。
虱潰しに走り回っているだけでも見つけられる可能性は高い。
―――――――――――――――――――――――――――――
ドロシーの心臓は先ほどから早鐘のように鳴っている。
単に走って息切れしているだけではない。彼女は激しく動揺していた。
「チップを”作った”?どういうことよ…それになんでディアナの名前が…」
モンビの子供? それならわざわざ作るという言い方はしない筈だ。
「どういうことよ…作ったって…」
誰もいない部屋の中、また呟く。
心臓はまだバクバク言っている。
深追いしてはいけない。この秘密を知ってはいけない。彼女の直感がそう警告しているかのようだった。
”作った”。”ディアナ”。2つの言葉の衝撃に頭が一杯になると同時に、別の言葉もドロシーの脳裏にこびりついていた。
『異世界でたまたま知り合って数日のガキに随分ご執心だねえ…それとも“運命”でも感じたかい?』
「そりゃあ不可抗力で色々あったけど…あんな小さい男の子にそんな感情あるわけないでしょ…封印解いちゃった責任があるんだから、信頼できる大人に安全を確保してもらえるまで一緒にいて守ってあげようと思っただけよ…」
本当にそうか、もう一人の自分が自問する。
ギンタのお陰で丸くなったとはいえ、自分はもう少し薄情な人間ではなかったか?
自分の身が危なくなるような場面でさえも、チップを見捨てようとは露ほども思わなかったのではないか?
今だって、少年1人の為にこんなところまで遠回りするよりも、オスカーを追うほうが優先度が高いのではいか?
「…放って置けないじゃない…あんな小さい子… それだけよ…」
自分を納得させるように、そう呟く。
”作った””ディアナ”””運命”。廊下を走っている間にも3つの言葉がぐるぐるとドロシーの頭を回っている。
突如、彼女の目の前の扉が開き、小部屋から4体の土人形が現れる。
後れを取って脚に攻撃を喰らってしまった。スカートの裾が少し引き裂かれる。
突風で土人形達を小部屋に向かって吹き飛ばして転ばせた後、リングアーマーを繰り出して素早く彼らの手足を潰す。
即座にゼピュロスブルームに切り替えて、潰れて土塊となった手足を部屋外に吹き飛ばす。
生命力が強くても無から再生するわけではない。こうすれば動けなくできる。
「焦っているね。その状態でもここまでやれるんだから大したもんだよ。ドロシー」
「…ッ!」
片言しか喋らない筈の土人形。その1体が突然流暢にしゃべりだす。
「モン…ビ…?」
「私は魂を操る魔女さ。一時的になら、自分の土人形に自分の魂を入れることができる。」
声こそ土人形の無機質な声だが、その口調は紛れもなくあの老婆のそれだ。
自分の身体は安全な所に隠して、土人形の身体を借りて私の焦る姿を見物しようという腹か。ふざけた女だ。
「チップを作ったってどういうことよ!?ディアナと何の関係があるの!?」
自分でもびっくりするほどの大声で目の前の土人形に恫喝する。
「くくく…やっぱりご執心…あの小僧に心惹かれてしまうのかい?」
無表情な筈の土人形の顔が、人を小馬鹿にしたような歪んだ笑顔を浮かべる。
「馬鹿にしないで!いくらなんでもあんな小さい子…」
「何度もあの小僧の精液をねだってゴクゴク飲んでいた癖にかい?」
顔が真っ赤になる。いつからかはわからないが遠視額装で見られていた…?
「…!あ…あれは…」
「魔力が得られるから。そうだろう? 無尽蔵のエネルギーを持つ最高傑作に作るはずだったからねえ。チペタリウスは」
「チップは…何者なの…」
「あんたの目の前にいる存在と同じ。私の創った土人形(ホムンクルス)さ。」
「!!…そうだろうと思ったよ。」
作ったという言い方、それにモンビの魔法。2つを合わせれば簡単に予想できる答えだ。
しかしそれでも信じられない。
チップが、今私が押さえつけている土人形と同じ?
こんな無表情で、冷たい身体をしたこいつらと?
「といっても擬似魂で簡単に量産できる上に死ぬと土塊に戻っちまうこいつらとは比べ物にならない特注品。
本物の人間の魂をベースに身体を作った、限りなく人間に近いホムンクルス。そいつに“あるもの”を埋め込んだ最高傑作さ」
「あるもの?」
きっとそれが、チップの身体からエネルギーが湧き出る秘密なのだろう。
―――――――――――――――――
「チペタリウスの凄さは…」
モンビの魂が入った土人形が口を開く。
「生きた肉体をエネルギータンクにできている点じゃあない」
土人形の口がにんまりする。
「無限だよ。あのガキの身体からは無限にエネルギーが溢れてくるんだ。
無尽蔵に溢れてくる力…何度使ってもエネルギー切れにならない… 似たようなものをあんたは知っている筈だ。」
エネルギー切れ、ドロシーがこの世界での戦闘で常に悩まされた件である。
何度でも魔法の力を振るえるARMがあれば…そう何度思ったことか…
そう考えてドロシーはハっと気づく。
「神導器…」
オズの国におけるARMのようなアイテム。ARMと違って使用者の魔力を必要とせず何度でも魔法を使える一方で、量産・複製ができず全部で十数種類しかない秘宝だ。
「そう、神導器さ。神導器にはARMのマジックストーンのように丸い石が埋まっている。誰でも想像がつく。その石が“核”。
その石の中に魔法があり、その魔法を動かす無限のエネルギーも詰まっている。」
土人形とドロシーの前にモンビの所有する遠視額装が出現する。
額装の上辺中央に埋まっている石は透明に輝きを放っている。
「あんた…まさか…神導器の核を取り出してチップに埋め込んだの?」
ドロシーの声が震える。
「惜しい。神導器は絶対に壊せない。分解することができない。だから埋まっている核も取り出せない」
「でもね、ある時私の前に現れたんだよ。アデュラーンを含めると全部で17種類しかないとされていた神導器の”核”を持った男がね」
「私はその男を倒し、それを奪った。他の神導器とは違って”核”だけだった。
その上、核には魔法も入っていない様子だった。神導器の核のもう一つの特徴である象形文字が刻まれていなかったからね。
だが、まだ入っていない魔法を動かす為の無限のエネルギーは、あるようだった。」
「それをチップに埋め込んだの… 人間と変わらない土人形を作って、神導器の核なんか埋め込んで、何がしたかったのよ!?」
「新しい肉体が欲しかったのさ。」
間髪を入れずに答える土人形の口元は真一文字に締まっている。
―――――――――――――――――――――――――
「私もね、何十年か前はそりゃあ若くて、美しく、魔法の力に溢れた完璧な魔女だった…」
モンビの魂が入った土人形は昔を懐かしむように宙を見上げながら手前味噌なことを言う。
「あのネッサローズやエルファバと同じ組織に属し、同じ方にお仕えしていたのさ…獄鬼の王、世界の真の支配者、ロークワット様に」
獄鬼の王、そんな言葉を何度か訊いた。
畏鬼教、ウィッカの教徒はそれをクィゲロウクという獄鬼だとしていたし、
ここに来るまでに会った虫型の獄鬼はガゥフ・ブラグという獄鬼を主としていた。
「えっと…クィゲロウク?とかガゥフ・ブラグ?じゃあなくて?」
「あんな蛙や蠅のような畜生と一緒にするでないわ!そいつらはそれぞれ両生・爬虫類型獄鬼、昆虫型獄鬼の上に君臨している猿山の大将!」
モンビの魂が入った土人形は怒りに顔を歪ませ肩を怒らせて捲し立てるが、少し落ち着いて息を整える。
「ロークワット様は人型の獄鬼の祖であり…全ての獄鬼の祖よ。」
「獄鬼の例に漏れずロークワット様も激しいお方で、私も何度も愛していただき、人間との戦いにおいても必要としていただけた…当時オズの魔法使いが管理していた神導器を3つも盗んできたときなんかは格別に愛して下さった…」
モンビの入った土人形は目をつぶり、うっとりと過去に想いをはせる。
「だが私が歳を重ねるにつれ、私は老いた。美貌も、魔法も、衰えを見せてきた… そして…」
「捨てられたの?獄鬼の王様とやらに…うぐっ!!」
ドロシーを拘束する土人形の腕に力が篭もる。モンビが命じたのだ。
「その通りさ…だが王女としての身分も棄てて彼に身も心も捧げた私に居場所などない…
ならどうすればあの方に再び愛していただける?」
「まさか…」
「そう。私は生命力を、魂を操る魔法を使える。新しい若い肉体を作って、その中に自分の魂を引っ越しさせればいいのさ」
「その肉体はどうやって作るか…今入っている肉体のような、土から作る粗造品なんて使えたもんじゃない…」
土人形は手足の切断された身体をもぞもぞと動かす。
切断面からは血肉ではなく、土と泥水がボソボソと崩れ落ちてくる。
「そこにヒントをくれたのが、あんたのお姉さん、ディアナだよ」
「!!…」
自分の姉の名前が出てきて、もっと話をよく聞こうと身を乗り出した瞬間、右腕に痛みが走る。
「ぐあっ…!」
「ひはははは!!油断はいけないねえ。」
土人形が更に3体、ドロシーのいる小部屋にやってきていた。
その内の1体が彼女の二の腕の肉を噛み千切ったのだ。流暢なしゃべり方で彼女を煽っている。
「く…別の個体に乗り移ったのね…」
今までドロシーと話していた土人形はウーウーと呻いて切断された手足をパタパタしている。
今は口から血を滴らせている土人形の中に、モンビがいる。
「魔力が上手く使えない世界でここまで戦えるなんて流石あんたはメルヘヴン最強の魔女だよ!でも心が弱い!姉の名を出したら簡単に隙を見せる!ははははは!!」
ドロシーを嘲笑するように、ドロシーを噛んだ土人形はドタドタと逃げていく。
残りの2体の土人形はドロシーに襲いかかる。
「くっそ…どこまでも人を馬鹿にしやがってあのババア…」
手早く2体の土人形を無力化し、右腕を押さえる。
血が止まらない。肉まで少し持って行かれたようだ。
癒やしの天使をフルパワーで使えばそれすら治せるが、貴重な魔力が余計減ってしまう…
「…まずいね…早くチップとモンビを見つけないと…」
――――――――――――――
ドロシーの二の腕を噛み千切った土人形は城内を暫く走り回った後、ある壁の前に立つ。
煉瓦でできた石壁。煉瓦の1つを押すと、壁の一部が凹み始め、人1人入れるほどの通路が出現する。
通路をくぐり抜けると蝋燭で照らされた大広間に出る。
奥のテーブルには白髪の老婆が突っ伏して気を失っている。
土人形が老婆の目の前に立つと、老婆はゆっくりと起き上がる。
「…アーアー。…ふう。いじめ甲斐のある娘だね。」
自分の魂が元の肉体に戻ったことを確認し、老婆は呟く。
「チ…チ…チノアジ…ニク…ニク…」
モンビの魂が抜けた土人形のほうは片言で呻き始める。
「欲しいものは手に入った。もう少し話を続けたり、いたぶってやりたいが、状況を見ていつでもドロンできるようにしておくかね」
「んー!んー!」
老婆の足もとでは、チップが手足を縛られ、猿轡を噛まされて横たわっている。
「ふん。お前の大好きなドロシーお姉ちゃんは来ないよ。」
モンビは横たわっているチップを蹴飛ばす。
「このミラーシュで小娘の様子を観察しているんだ」
遠視額装を目の前に出現させたモンビは、余裕の笑みでそう言う。
「あの女がもし私の土人形に負ければ奴の前に現れて存分にいたぶってやるし、もし万が一この部屋の存在に気づいた素振りを見せて近づいてこようものならその前にお前を連れておさらばさ」
彼らの頭の上で重低音が響き渡る。
「ほら、私達のいる階を通りすぎて、上の階で戦っているよ。もうARMを使う魔力もないようだ。ずっと箒を振り回して私のゾンビ達から逃げまわっているよ」
モンビが満足そうにほくそ笑む。
「パタパタ…パタパタ…」
土人形も上を見上げて相も変わらず意味もない言葉を片言で呟く。
――――――――――――――――
「あのババア…こんなこともできるのね…」
ドロシーの目の前では幾多もの動物がドロシーを狙っている。
腐りかけ、腐臭を放つ犬、目が崩れ落ちそうになっている馬…骨だけの大きな鳥や、兵士の死体もいる。
「土に魂を吹き込んで動かせるなら生き物の死体だって同じように動かせる…か。」
ドロシーはずっとゼピュロスブルームを振り回して屍達を牽制しながら走り回っていた。風を起こすこともしてない。
屍達の攻撃を掻い潜りながら、ドロシーは一瞬目をつぶる。
「…ここね。」
ドロシーが逃げまわっているうちに、いつの間にか部屋中の屍達は一箇所にまとまっていた。
「ブリキン!!」
彼らの頭上に巨大な岩石兵が出現し、まとめて踏み潰す。
岩石兵の勢いは止まらず、そのまま床を突き破って下の階の部屋に―モンビとチップのいる部屋に落ちていく―
「やっと見つけたわよ。モンビ。」
巨岩兵の姿は消え、ゼピュロスブルームの風で柔らかに着地したドロシーがモンビに言い放つ。
「ど…どうしてここが…」
ドロシーの指輪が光り、小さな鳥のガーディアンが姿を現す。
「ガーディアンARM、ウォッチングバード。短い距離だけど、遠視ができるのはあんただけじゃないんだよ」
「まさか…その鳥で私の乗り移った土人形をずっと追いかけて、この場所を見つけていた…?」
「遠視額装を覗きこむのに熱心で、自分の頭上にこの子がいることには気づかなかったかにゃ~?」
ドロシーは余裕顔でモンビを挑発する。土人形もゾンビも無力化した。残るは目の前のモンビだけだ。
「あんたは遠視の神導器を持っているからね。素直にその部屋に向かったらさっさか逃げちゃうと思ったから、上から入ることにしたわ」
ドロシーは指で大破した天井を指す。
「大変だったのよ?ガーディアンを出している間は他のARMを使えないから、あんた達の真上に辿り着くまでARMなしで逃げまわって…」
「そんな…味な真似をしおってこの小娘…」
モンビはその場にへたり込む。
「んんーー!!んんーー!!」
「チップ、怖い思いさせてごめんね。もう少しで助け…」
ドロシーの背中に衝撃が走る。誰かが蹴りを入れたのだ。
力こそ弱いが、敵を全員制圧したと思い油断していたドロシーを大きく転ばせるには充分だった。
地面に顔をつけたドロシーが起き上がろうとする前に、数体の土人形が駆け寄って手足を押さえつける。
「少しびっくりしたよ。」
ドロシーの背後から、モンビの声が響く。
「え…モンビが…2人…?」
白髪に頬の黒子、腫れぼったい目…老婆の姿がドロシーの前と後ろ、同時に存在していた。
「私の隠し芸さね。…ここまで使わせるとは、やはり大した魔女だよ。」
モンビはケタケタと笑う。
もう老いたとはいえ、この老婆は1人でギリキンを滅ぼし、獄鬼の王に使えていた大魔女なのだ。
あちらの方が一枚上手だった…
「私をちょっとは手こずらせたご褒美に、続きを話してやるよ。ドロシー。」