再びドロシーが目醒めると、ギンタとシズキは既に起床していた。
シズキはギンタともドロシーとも目を合わせようとしないで俯いている。
豚鬼の襲撃にあった上、奴らを倒した後も媚薬の効果が残っており3人で乱交したのだ。顔も合わせづらいだろう。
しかし、気まずい静寂を破ったのは当のシズキだった。
「ギンタさん…ドロシーさん…昨日は…ごめんなさい…」
シズキがぺこりと頭を下げる。
「私が採ってきた果物のせいで…本来負ける相手じゃない豚鬼なんかに…」
「シズキの所為じゃないさ。あんな効果がある果実があったなんて、誰にも予想できないよ」
「それに私…ギンタさんとも…」
シズキはギンタをちらりと見て顔を赤らめて俯く。
「そっ、それだって仕方ないわよ。あの苦しみは私だって知ってたんだから。…でも、あれっきりだからね」
あれは媚薬の実を食べて苦しむシズキと、ドロシーが相手をできない為に精液の放出ができなくて苦しむギンタ、2人を助けるための例外的な措置だ。
今後は、ギンタが発作を起こしてもドロシーが治める。皆までは云わなかったが、ドロシーはそう釘を差した。
「この子が助けてくれたんですよね、ありがとう、ジャックくん」
シズキが傍らで立っていたかぼちゃ人形―ジャックの手を取り、握手する。ギンタの起床と共に彼も動き出したようだ。
「ギンタン、この子、普段ギンタンが作ってる人形と違うわね」
「うん。強いし、速いし、細かく動ける。それに僕の命令とかなしで動いたりできるみたい」
かといって気の向くままに動くわけでもないようで、ジャックはギンタの命令を待つかのように彼の側でじっと立っている。
半自動で制御できる、ということだろうか。
「ギンタさんはいつもそこらの木屑や岩みたいなありあわせで人形を作って戦わせてましたよね。ひょっとしたら“ちゃんと作った”人形ならずっと強くなるんじゃないですか?」
「ちゃんと、かあ」
「ほら、この子顔がついてますし、そういうひと手間かかったもののほうが魂が入るのかも」
シズキの言うことは的を得ているのかもしれない。
ギンタの能力は、モンビの魔法の一部が彼の身体に入っていることによるものだ。「無機物に魂を吹き込む」という魔法が。
ギンタが手間をかけることで、より密度の高い魂が人形に注ぎ込まれるのかもしれない。
「それで、どうしよう、ジャックのこと」
「一緒についてきてもらおうか。今までの人形と違って、使い捨てにはできないわよね」
「私も賛成です!何しろ豚鬼の群れを1人で退治したんですから、頼りになりますよ」
斯くして、ドロシー達はジャックを同行させ、次の目的地へと出発した。
「ここね…」
3人(と1体)の目指していた目的地、ランゼス。
黄色い煉瓦の道が続く先に、その街はあった。
「大きな塀…」
獄鬼が徘徊するこの世界における集落の例に漏れず、ランゼスもまた巨大な塀に周囲を囲まれていた。石造りの塀は今までドロシーが訪れたどの街よりも高く、巨大だった。
日はとっくに暮れており、塀の向こうから漏れる街灯りが、この街の賑わいを現していた。
「こんな塀があったら、絶対に獄鬼は入ってこれないね」
「そして人間も、ね…」
ドロシーの言うとおり、この街ランゼスの強固な守りは人間が許可なく侵入するのを防ぐ意味も兼ねている。そうしないと、どんどん人が入り込み、逃げ込んでくるのだ。獄鬼からの絶対に近い安全地帯を求めて。
オズの国中には、中央都エスメラルダを中心に、黄色い煉瓦の道という獄鬼避けの道路が張り巡らされている。
四方に枝を巡らせる大樹に時折やたらと分岐が多い枝があるように、“黄色い煉瓦”が線でなく面になるほどに密集している箇所がある。
当然、人々はその上に街を作る。そしてその街は人々にとって獄鬼の脅威に対する“安全圏”となる。何しろ、獄鬼が嫌悪する黄色い煉瓦が一面に敷かれた街なのだから。
そういった街の価値は、特に開獄日になると跳ね上がる。
開獄日とは、地獄とオズの国との境界が緩まる日。地獄に棲む強力な獄鬼がオズ中の地面から“湧いて”出る日。
強力な獄鬼避けの効果を持つ黄色い煉瓦の道周囲からは、地獄との連絡口は開かない。
すなわち、黄色い煉瓦の密集地であるランゼスのような街にいれば、開獄日であっても獄鬼の襲撃からは逃れられるのだ。
ランゼスにかくまってもらおうとする者は周囲の村から大量にやってくる。その為、ランゼス側は滞在許可を有料にしている。
侵入者を防ぐ為に街をぐるっと囲む塀の中からは賑やかな喧騒が聞こえてくる。
外部の人間から徴収した滞在料で豊かになった街なのだろう。
「開獄日前の滞在料は…私達じゃ絶対払えません」
「でしょうね」
「だから、忍び込みます。一度入ってしまえば怪しまれることはありません。ランゼスの防壁は完璧なので、不法侵入者を疑うシステムはほとんどないんです」
「その完璧な防壁をどうやって抜けるの?」
ギンタが問う。
「水路です。ランゼスは大規模な治水工事をしていて、その地下には川の水を取り入れた水路が張り巡らされているんです」
シズキは、防壁を貫くように流れている川を指差す。
「あそこから入ります」
街の内部へと川の水を取り入れる穴がそこにはあるが、当然格子状の鉄柵が侵入者を阻んでいる。
「…どうやってよ」
「うーん…どうにか…」
そこから先は、何も考えていないようだ。
鉄格子の1本1本は人間1人分より太く、この頑丈さではシズキの怪力でも捻じ曲げることなどできない。ドロシーの扱う上級ARMのであればなんとかなるかもしれないが、破壊時の衝撃で警備兵がやってくるだろう。ドロシーは頭をかかえる。
「あ、見て!鉄柵が錆びてる!」
ギンタが言う。彼の言うとおり、等間隔で打ち付けられている鉄杭の1本がボロボロに腐食している。そこからならどうにか侵入できそうだ。
「流石ギンタさん!さ、行きますよドロシーさん!」
シズキが元気に地下水路へと侵入していく。
(この腐食、自然に起きたものじゃない…周りの鉄棒はピカピカなのに、1本だけ腐りきってるなんて…)
ギンタに手をひかれながら、沸いた疑問を振り払ってドロシーも続いて行った。
街中を巡る水をここから取り入れているだけあって、水路入り口はそれこそ滝のようになっていた。ランゼス地下空間に張り巡らされている水路へと供給される水と共に、ドロシー達は地下10mの底まで落ちていった。
どうにか溺れずに水の浅い場所までたどり着いた3人と1体は、互いの無事を確認した後、当てもなく地下水路を歩いていた。
水位は足首が浸かる程度で、ドロシー達が歩くたびに水音が水路内にチャプチャプと響いた。
「この街の地表には黄瓦っていう獄鬼避けの石がびっしり集まってるんだよね」
ギンタがシズキに質問する。
「ええ、そうですよ?」
「黄瓦は神導器の一部だから絶対に壊せないんでしょ?なんで黄瓦の下にこんな水路が掘れるの?」
「ああ、確かにランゼスは黄瓦が密集しているのですが、虫に食べられた葉っぱみたいにところどころ穴があるんです。そこから土を掘って、黄瓦層を抜けた深さに地下水路を掘ったんですよ」
シズキが解説する。幼いころ彼女も同じ疑問を抱き、同行していたコッローディに質問したのだ。
「私達は今、黄色い煉瓦の道の裏っかわを歩いてるわけだ…」
「絶対安全な空間ですよね、獄鬼が現れないんだから」
シズキはそう言って笑う。
「じゃあ僕らは黄瓦の穴ってところから地上に出られるんだね」
「そういう場所から地上に水を取り入れているんだろうから、水の流れる方向へ歩いていけば地上へ出られるってわけね」
「ええ。どうにか地上に出られたらまずは宿に泊まりましょう。街の東側に良い宿屋が…」
そう話しながら、ドロシー達は水の流れに従って地下水路を進んでいった。
歩いている中、違和感に気づいたのはギンタだった。
目の前を歩くドロシー、その頭上。石造りの天井が歪み、ミシミシと音を立てる。
「ドロシーおねえちゃん!!」
「え?…うわわわっ!!!」
激しい音とともに、天井が崩落する。
シズキとギンタが次に目を開けたとき、ドロシーのいたところには瓦礫の山があった。
「おねえちゃんっ!」「ドロシーさん!」
「ギンタン、シズキ!私は大丈夫!」
瓦礫の向こうからドロシーの声が聞こえる。ギンタの注意のお陰でどうにか崩落から逃れることが出来たようだ。
「よかった…!怪我してない?」
ギンタは瓦礫を回りこんでドロシーの様子を見ようとしたが、できなかった。
崩れてきた天井は、水路を完全に塞いでいた。
「私は平気!…それより、この道の崩れ方、自然に崩れたものじゃない!」
ドロシーが叫ぶ。
「まるで私達を分断するかのような…」
「私達以外に誰かいる、ってことですか?」
シズキの側にいたギンタが、バッと背後を振りかえる。
「シズキさん!誰か追ってきてる!」
「ドロシーさん!私達のほうに敵が!」
瓦礫越しのドロシーに向けてシズキが叫ぶ。
「シズキ!ギンタン!私はいいから逃げて!」
「わかりました!下水を抜けた先、街の中で合流しましょう!さっき私が話した宿屋で!」
追ってくる敵に聞こえても構わないよう、わざと合流地をぼかして言う。
「わかったわ、気をつけて!」
バシャバシャと水を蹴る音が聞こえる。シズキとギンタは追っ手を撒くためにこの場を離れたのだ。
ドロシーは瓦礫越しにギンタとシズキの無事を祈り、自らも出口を求めて歩き出した。
ギンタが聞きとった足音は、崩落地の手前の十字路、その奥から聞こえた。
足音が聞こえた方向とは反対方向へ、シズキとギンタ、およびジャックが走る。
「おねえちゃん…大丈夫かな…」
「…大丈夫、ドロシーさんは強いです。信じましょう。それより、追っ手は私達の側にいる…んぐぁ!」
T字に分岐した通路をシズキが走りぬけようとした矢先、反対の分岐路からシズキの鳩尾に棒状のものが突き入れられる。刃物ではないようだが、人体の急所を突かれたシズキはその場に崩れ落ち、意識を断つ。
「…まず1人…」
女性の声。若い声だ。
暗くてよく見えないが、背丈はシズキとドロシーの中間ほどだ。
手には、シズキをノックダウンさせた武器を握っている。長剣だ。柄の部分でシズキを気絶させたのだ。
「安心してください。峰打ち、もとい柄打ちです。貴方達は何者ですか?ここが立ち入り禁止区域であるとわかって侵入しているのですか?」
女性は、剣を向けながらギンタ達へと近づく。
「何処から侵入したのですか?地下水路への入り口は通常施錠されるランゼスの治水施設にしかありません。そこ以外の地中には不壊の黄瓦層があるので、侵入などできない筈…」
女性が近づいてくると、彼女の姿がより鮮明になってくる。
修道女のような衣服を纏った、金髪の少女だ。
長い睫毛とくりっとした薄緑色の目がかわいらしいが、表情は真剣そのものだ。
長剣を携えてギンタを見据える。
「私はキサラ。エスメラルダ王国直属部隊…あっ気軽に名乗っちゃいけないんだった」
途中で気付いたかのように口をもごもごさせる。
「とにかく、ここは許可無く立ち入って良い場所ではありません。…そんなに身構えないで。おとなしくしてくれれば…」
「おねえさんが…水路を崩したの?」
ギンタが問いかける。
「ん、崩落があったのですか?私は何も…」
突如、ジャックがレイピアを抜き、キサラに斬りかかる。
キサラもその剣撃に対応するが、ジャックのほうが優勢のようだ。
ジャックのひょろ長い手と刺突剣の相性は良く、圧倒的な間合いの広さでキサラを追い詰める。
「ああ…もう!」
キサラは踵を返して撤退する。
ギンタが安心したのもつかの間、ジャックはキサラを追って走りだす。
「ジャック!?」
ジャックなりにギンタ達を守りたくて危害を加える相手を排除しようとしているのだろう。
自分の意識を超えて自律で動いてくれるのはいいけど言うことをきかないことがあるのは困るな、そう思いながら、ギンタはシズキを抱えてジャックを追う。
「あのカボチャくん、何者?剣術なら私も自信あったのに…」
キサラと名乗った少女はカボチャ頭の剣士から逃走し、地下水路を走り抜ける。
獄鬼ではないはずだ。ここは獄鬼避けの黄瓦が密集する街の地下水道。獄鬼が活動的に動けるはずがない。
「全く、こういう場所での戦闘こそヨハンさんが適任なのにな…」
キサラという少女は、そうぼやいた。
ドロシーは水路を反響して伝わる、謎の敵とギンタ達とが交戦する音を聞いて彼らの身を案じながら、1人水路を進む。
足首まで浸かる程度の浅さの水路が闇の向こうまで伸びている。
とりあえず水の流れに従って、あてもなく歩くしかない。上へ行く道があればそれを選択する、程度だろう。
果たして自分は水路を抜けて街中へ出ることができるだろうか。
シズキの話では、絶対に壊せない黄瓦の層にところどころ開いている穴が、地下水路と地上との連絡口とのこと。そういう場所は大体警備の目があるだろう。
どうしたものか…そんなことを考えていると、闇の向こうに人影のようなものが見える。
水路の向こうではまだギンタ達が交戦する音が響き渡っている。
敵は1人ではなかった、ということだろうか。
「誰?」
ドロシーは人影に問いかける。
「ドロシーさん、お待ちしていましたよ。いずれこの街を通るだろうと思って前もって侵入しようとしていたのですが、まさか水路内で会えるとはね。お仲間とは分断させていただきましたよ」
自分を知っている?それに、先ほどの崩落は彼が起こしたもののようだ。
ドロシーは警戒しながら人影に近づく。
身長からして成人男性。漆黒でボロボロのローブに身を包んでおり、顔も仮面で隠れている。その仮面の独特な模様に、憶えがあった。
「もしかしてアンタ…ウォーゲームにいた…」
「ええ、2ndバトルで貴女に敗北した、マイラです」
知っている人物であることには安心したが、不審な点が残る。
ドロシーはマイラに勝利しただけでない。殺したのだ。ガーディアンARM、トトに喰わせるという形で。
「へえ…生きてたんだ…あんたがオズの国へやってきたオスカーの仲間、その3人目ってわけね。吸水口の鉄柵が腐食してたのも、水路の崩落もあんたの仕業ってわけか」
トトが咀嚼した上、胃袋に収まった人間が生きているはずがない。そう理解しながらもマイラに言葉を投げる。
「鉄柵を溶かしたのは私ですが…オスカー?なんですその人物は?」
マイラは首をかしげる。
「私は確かに死にました。ええ、貴女の操る大狼の生臭い口の中でね」
仮面の男はそう言って、拳を握りしめる。
「私は蘇ったのですよ。反魂の魔女、モンビ様の手によって」
(モンビ…)
予想外の名前にドロシーは驚く。
メルヘヴンの人間であるから、てっきりオスカーの仲間かとばかり思っていた。
ドロシーと共にメルヘヴンからオズの国へと渡ってきた、オスカーの手下。
カペル、ギロムに次ぐ3人目かと思っていた。
「モンビ様は血を媒介に、血の持ち主が今まで殺した人間の魂を呼び寄せることができるのです」
ドロシーの目が驚愕に見開かれる。
ドロシーがモンビにとどめを刺そうとしたとき、モンビの周囲に怨嗟に満ちた声が聴こえてきた。ギンタには聞こえなかったその声は、今までドロシーが殺した人間のものだったのだ。
「そして、肉もある場合には、肉片を核にしてこの世に再び命を授けることも可能なのですよ」
確かに、モンビの城でドロシーは土人形に肩を食いちぎられた。
今思えば不自然な行動だった。深手を負ったドロシーをそのまま襲うこともできたろうに、肩を食いちぎった土人形は速やかにその場から逃走したのだから。
あれはドロシーを攻撃することを目的としたのではない。ドロシーの肉片を確保するための行動だったのだ。
その時の肉片を元に、マイラを再生した。
マイラだけではない。今までドロシーが殺した人物…スノウの城で、ギンタを助ける為に倒したチェスのポーン兵達。
ギリキンの国境で再びドロシーの目の前に現れた彼らは、モンビが再生したものだったのだ。
「蘇った私にモンビ様は言いました。“ギンタ”を追い、自分の処まで連れてこい、と」
やはりモンビの狙いはギンタか…そうドロシーは思った。モンビの転生先として造られたギンタの体内には、モンビの所有していた神導器の核が埋め込まれているのだ。
「びっくりしましたよ。チームメルのリーダーの複製がこの異世界にいるだなんて…」
マイラは宙を見上げて笑う。
「私がそれを許すと思う?」
ドロシーは指につけているARMに意識を集中させ、いつでも起動できるようにする。
「モンビ様は言っていました。この世界はメルヘヴンの人間がARMを使うのに適した環境でないと…だが我々は、オズの国の魔力を吸いながら再生した為、このオズの国でも普通にARMを行使することが可能です。この意味がわかりますか?」
ドロシーは答えない。だか彼女の首筋には、冷や汗が一筋流れていた。
「ビショップクラスの私が!かつてナイトクラスの強さを振るって私を殺した貴女を!一方的に蹂躙できるということですよ!」
「バーカ。調子乗んじゃないよ。あんたがあの馬鹿でかくてキモいガーディアン出す前に風で喉を掻っ切ってやる」
ARMも発動させないで自慢気に長話。格下にありがちな愚行だ。ドロシーは既にゼピュロスブルームを構え、マイラが妙な動きをすれば即座に攻撃に移れるようにしている。
「攻撃?ククク…もう始まっているのですよ、私の攻撃は。とっくの昔からね」
ドロシーの背後、この街に流れる下水が、チャプンと音を立てる。
ドロシーの足元から、ゆっくりと水色の粘液の柱が伸びる。
「!!後ろ!?」
円柱の先が膨らみ、花が開くように分裂する。粘液で形成された触手のそれぞれがドロシーに向かっていく。
間一髪でそれを避け、マイラに背を向けて走る。
あの水色の粘液はマイラがウォーゲームで使用していたガーディアンARM、バキュア。
ゲル状の身体を持つガーディアンだ。
(油断した…)
ドロシーは自らの慢心を反省する。
この場に縦横無尽に伸びている水路。その中にバキュアは既に配置されていたのだ。流体の身体は容易に水路の中に身を隠すことができる。
(まずいな…結構不利だ)
ウォーゲームで彼と戦ったときは、ドロシーの圧倒的勝利だった。
トトを召喚し、バキュアを喰わせた。それだけのシンプルな勝利。
今はその手は使えない。オズの国の魔力と適合しない今のドロシーでは、トトのような強力なARMは数秒程度しか顕現させられない。
それに2ndバトルの戦場は広い砂漠であった。今闘っている場所は狭い下水道。
トトの巨体を下水道に出現させても彼は身動きが取れないだろう。下水道に無様に挟まっているうちにトトの巨体にバキュアがまとわりつき、崩壊させていく画が想像できる。
正直、前回ドロシーが完勝できたのは、ウォーゲームというルールのおかげでもあった。
広い砂漠で相手と距離を取った状態で相対し、審判の掛け声とともにARMを発動させる。このルール下でマイラがバキュアを出したところで、ドロシーが後出しでより強力なARMを使えば彼女の勝ちとなる。
バキュアはそういう“スポーツじみた”決闘の場には向かない。
閉所での奇襲でこそ真価を発揮できる類のARMだ。
トトが使えない狭い通路。下水という流体状のガーディアンを隠しやすい場所。奇襲。
この場所で戦うということがマイラを、バキュアを、何倍も手強い相手にしていた。
(ガーディアンARMを出している間、術者は自由に動けない…屈辱だけど今は逃げさせてもらうよ…)
「どこへ逃げようと言うのですか?」
「!?」
ドロシーの背後からマイラが“水の上を走って”追ってくる。
否、マイラはバキュアの身体に乗って、そのままバキュアを移動させているのだ。なるほど、これならガーディアン発動中でも本人の移動は可能となる。
「勝った気になってんじゃないわよ。ゼピュロス…」
風の刃を放とうとした瞬間、何かがドロシーの足首を掴み、彼女は派手に転倒する。
水しぶきと共に、ドロシーは下水道の水路に尻もちをついた。
「った…」
自分の足首を掴んでいたものを手で探る。水の中でブヨブヨした物体が足首に絡みついている。バキュアだ。
「おっと、“そこにも”バキュアが伸びてましたか」
追いついたマイラが不敵に笑う。
「マイラはこの水路の至る所に自らの身体を伸ばしているのです。ここら一体は殆どバキュアがいると思って良いでしょう」
マイラが解説している間にもバキュアはドロシーの身体に覆いかぶさろうとする。
(まずい…)
ドロシーはウォーゲームで、リングアーマーがバキュアに囚われたときのことを思い出す。
リングアーマーの鉄の身体がバキュアに包まれた瞬間、ぐしゃぐしゃに捩じ切られた。
バキュアは包んだ対象を崩壊させる能力があるのだ。
「エア…ハンマー!!」
ドロシーは即座に自分の足元でエアハンマーを発動させる。その場で水柱が爆発し、ドロシーの身体が吹き飛んで水路の壁に叩きつけられる。自らもダメージを負ったが、バキュアの拘束から逃れることはできた。
「このっ!!」
爆発の勢いでドロシーはマイラに近づき、鋭い蹴りを放つ。
「ッ!!ピンチから即反撃に移るとは…流石私を殺した女…」
右半身をしたたかに蹴られたマイラはよろけるが、不敵に笑っている。
「それにしても、眼福ですよ」
仮面の目の部分に空いた穴から、下品な視線を感じる。
体勢を整えたドロシーは、身体から立ち上る焦げたような臭いに気づく。
「きゃあ!!」
自分の身体を確認してみると、ドレスのあちこちがグズグズに融けたようになっている。
スカートが裂けたように融けてスリットが2つになってしまっているし、臍も見えている。
極めつけに、ドロシーの豊かな胸が丸出しになってしまっている。
「バキュアの能力は包んだものを崩壊させるだけではありません。触れただけで相手を溶かすこともできるのです。」
知らなかった。ウォーゲームで瞬殺だった分、バキュアへの情報不足が仇となった。
「それに、溶かす対象は自在に変えられるのですよ。今は溶かす対象を衣服のみにしています」
「な…くあっ!!」
羞恥のあまり、背後から伸びるバキュアへの対応が遅れた。ドロシーは再びバキュアに身体を拘束される。
彼女の斜め後ろに粘液の柱が立ち上る。
柱の中心には、目。無機質かつ血走った目。バキュアの本体だ。
逃げようにも、両足首が粘液に捕らわれている。流体状の身体のくせに内側から力がかかっているかのように、足は完全に動きを封じられている。両手も腰の横でぴったりと固定されている。
「もう一度…エアハンマー!!」
ARMは発動しなかった。
「バキュアの身体に触れたARMは発動することはできませんよ」
成る程、ドロシーの両手はバキュアにすっぽり包まれている。
ドロシーに抵抗の手段はないということだ。
「甚振りなさい。バキュア」
マイラの命令に従い、バキュアの身体から触手のような手のような粘液が伸びる。
それはドロシーの両乳房を揉み、またあるものはドロシーのスリットの隙間から入り込み彼女の秘裂をグチュグチュと弄る。
「ん…く…あんっ!」
液体と個体の中間のような物体が、自分のデリケートな部分を愛撫していく。
「くくく…良い格好ですね」
マイラはドロシーの目の前に陣取り、ドロシーの豊かな胸が好き放題に捏ねられている様や、股をクチュクチュと愛撫される度に両手足を拘束されたままのドロシーが悶える様を見物する。
「やっ…あ…見るな…見るなぁ…!」
「んぶっ!」
粘液の触手がドロシーの口の中に突っ込まれる。
“硬さを持つ流体”は噛みちぎることも吐出すこともできず、ドロシーの口内はバキュアを受け入れるしかない。
下半身への愛撫も激しさを増し、ついに膣内に入り込む。
「んんんんっ!」
ドロシーの身体が快楽に耐え切れずビクンと跳ねた。
軽い絶頂の後、ドロシーは自分のドレスの布面積が更に狭くなっていることに気づく。
バキュアはドロシーの全身を愛撫しながらも、少しづつ彼女の衣服を溶かしているのだ。
パフスリーブが溶け、両肩が露わになる。
ぷるんと露出した両胸を囲う布も溶けていき、鎖骨が顔を出す。
腰回りの布が侵食され、Vラインが見えてくる。背中、尻を覆う黒が少しづつなくなっていき、白い肌が晒されていく。
突如、バキュアの拘束が弱まり、“ただのヌルヌルした液体”になる。
ドロシーはマイラから、バキュアから距離を取った。
「…どうして、拘束を解いたのよ…」
一度捕らえたのに拘束を解くとは。完全に舐められている。
「貴女の姿を見てみたくてね、ククク、いい格好ですよ」
「!?…やっ!!」
ドロシーは自分の姿を確認すると、思わず高い声を出して自らの身体を隠そうとする。
全身を愛撫していたバキュアは、ドロシーの衣服を殆ど溶かしきっていた。
帽子、手袋、ブーツは形を保っているが、ドレスはほぼ全て溶け去っている。
襟元の布と、お腹を隠していた布が残っているのみだ。
「っ…そもそも…バキュアが私を包んだ時点で私を殺せてたわよね!?」
片手で胸を隠し、もう片手で溶け残っていた布を股間にやりながらドロシーはマイラに問う。
「舐めないで…女をいたぶるのが趣味ってわけ?」
「ええ、いたぶる為ですよ。ウォーゲーム前に暴れていた時も、町娘を裸にひん剥いて遊んでいました」
「最低…」
「モンビ様は言っていました。狙うのはギンタ。ドロシーは…好きにしていい、と」
仮面に空いた穴の向こうで、瞳の小さい白目がちな目がにたりと笑う。
「私を殺した相手を簡単に殺すはずがないでしょう。女に生まれたことを後悔するほど甚振ってから、殺します」
仮面に空いている穴から覗く血走った目。そこから放たれる憎しみの炎にドロシーの背筋が凍る。
ドロシーはマイラに背を向けて駆け出す。
全裸に近い格好で、胸を押さえながら地下水道を走る。
その姿は、“最強の魔女”とは程遠い。
まるで、狐から逃げる兎のように、か弱く、無防備な姿だった。
惨めだ。ほぼ裸で、自分を追う者から逃げるなんて…
背を向けて、ドロシーはマイラから逃げる。
マイラからは、ドロシーが白い尻を左右に揺らしながら走っている姿が見えることだろう。
それでも、こうするより他に選択肢がない。恥辱に頬を染めながら走るドロシーに、マイラに乗って滑るように進むマイラはあっけなく追いつく。
「く…」
水色の粘液がドロシーの両足首を掴むと、彼女の足はどう頑張っても動かすことができなくなった。
「また捕まえました」
再び動きを封じられたドロシーの前に、マイラは余裕たっぷりの態度で現れる。
ドロシーの下半身―臍から下はバキュアにどっぷりと包まれており、正座の形で固定されている。
「舐めるな、とおっしゃっていましたね。確かに、クイーンを倒すような魔女にビショップである私がキャッチ&リリースするような真似はおこがましい…」
ドロシーの右足首が、ぎゅうと万力に締め付けられているかのように力をかけられる。
「きゃあああああああ!!!」
ゴキ、と音がした。ドロシーの右足首が脱臼した音だ。
「こうすればいいですかね?」
マイラがせせら笑う。包み込んだものを崩壊させるバキュアの特性だ。
「さらに言えばバキュアが溶解させる対象、今は衣服のみにしていますが…」
突如、ドロシーは左足首に焼けるような痛みを感じる。
「ぐあああああっ!」
「普通に人体も溶かせます」
バキュアの粘液が再びドロシーの膣内に入り込む。グチュグチュと愛撫するが、その意味を理解しているドロシーは快楽に喘いでいる精神的余裕などない。
「子宮を内側から溶かすこともできますよ。癒やしの天使程度のホーリーARMで治すことができる怪我かどうか、試してみますか?」
ドロシーの顔が青ざめる。涙を浮かべて目を見開く。
「ふふふ、冗談ですよ。良い子にしていればそんなことしません。そう、従順な良い子でいればね…」
マイラがローブの隙間から硬く勃起した陰茎を取り出し、跪いたドロシーの頬に亀頭を擦り付ける。
「舐めなさい」
冷たい声で、マイラが言い放つ。
(チェスでも殺しちゃダメだ)
ウォーゲームでマイラに勝ったドロシーへギンタが投げかけた言葉が彼女の頭の中でリフレインする。
暗い下水道の中。ドロシーが一度殺した男による、彼女への復讐の時間が始まった。
ランゼスの地下水道、ドロシー達とは少し離れたところで、キサラと名乗る少女はかぼちゃ頭の剣士の剣撃をなんとか避けながら逃走していた。
主を守ろうと懸命にキサラへ斬りかかるジャックを、ギンタが追う。
気絶したシズキを背負いながらなのでなかなか追いつかない。
走るキサラ。追うジャック。それを追うギンタとシズキ。
4人の視界が段々と明るくなってくる。キサラが向かう先から光が漏れている。
(外だ…)
ギンタは思った。
キサラは外へ―地上への出口へと走っていたのだ。
ジャックでは相手にならないと思い、逃げることにしたのだろう。
ジャックが命令を無視して張り切ったお陰で相手に逃走を選ばせ、すんなり出口を見つけることができた。
キサラが光の向こうへと飛び出す。
続いてジャック、ギンタ、シズキ。
水路を飛び出したギンタの脚は、空を蹴った。
ギンタの眼下には巨大な水槽が広がっており、水槽の縁から伸びる無数の管が水を飲み込んでいた。
採水の為の施設だろうか。
川の水は地下水道を通って、ランゼス内の各地点にある地上―黄瓦層―との連絡口まで運ばれ、更にそこにある配水施設から街中に水が配られる、といったところか。
突入時と同じく滝から落ちることになるが、下は水槽なので怪我はしないだろう。
ふとキサラを見る。ギンタ達より数瞬先に飛び出たキサラはまだ落下する途中だが、右掌をまっすぐこちらに向けている。
「今です!」
キサラの手から冷気が放たれ、排水口から吐き出される水を一瞬で氷漬けにする。
排水と一緒に落ちているギンタ達は、足元が凍りついてしまいその場に固定される。
「氷?あの人、魔女だったの!?」
「…ふう、これで一丁上がり、と」
次いで自分の落下地点を凍らせ、綺麗に氷上へ着地したキサラは、頭上で動揺しているギンタ達を見て、そう呟く。
「見廻りはするものですねえ…まさかこんなところに入れる人がいるとは…」
「キサラ様!」
この配水施設の管理者だろうか、壮年の男がキサラの元へ駆け寄る。
「侵入者ですか!?」
「はい。見回り中に見つけました」
「そんな…私が勤めてから侵入者など一度も…」
「とりあえず、身柄は私達で預かります。ヨハンさんに連絡を」
どうにか氷から抜けようとするギンタ達をよそに、キサラと名乗った魔女は周囲の男達への指示を続けていた。
―ランゼス 地下水路内―
ピチャ… じゅぷ…
水路を流れる水音にまじり、微かな粘音が水路内に響く。
そこでは、裸の少女が、突き出された肉棒を頬張っていた。
「…くふぅ…いいですよ。小娘のくせに上手いじゃないですか。相当咥え慣れていますね」
黒いローブと仮面を纏った男が、満足そうに言う。
少女は応えず、涙を流して男を睨みながら口奉仕を続ける。
少女、ドロシーは目の前の男、マイラに逆らえなかった。
彼女の下半身は、緑色のゲル塊にどっぷり浸かっている。マイラが使役するゲル状生命体、バキュアだ。
マイラの命令1つで、ドロシーの足も、性器も、内蔵も、溶解させ、崩壊させられる。
詰みだ。
ドロシーは、マイラの要求に応える以外に生き延びる術はない。
メルヘヴンでの“ナイト級の魔女”と“ポーン上がりのビショップ”の力関係は逆転。
ドロシーは命乞いをする為に、ひさまずいてマイラのペニスを口で奉仕していた。
「ああ…いいですよ…もう射精しろうです…うっ…」
ドロシーの口いっぱいに、苦く粘つく液体が放たれる。
「飲みなさい」
ドロシーが睨みつけた瞬間彼女の太ももがほのかに熱くなる。
「んむー!!」
バキュアの性質が一瞬だけ酸になった。マイラの脅しは成功し、ドロシーは目から涙を伝えながら、精液を飲み干す。
「さて…次はこっちのほうを味見しますかね…」
「きゃ!」
ドロシーを包むバキュアが変形し、彼女を仰向けに寝かせる。
水路の石畳との間にバキュアの身体があったので痛みはなかったが、バキュアに腕を取られて起き上がることができない。
「まさか…嫌…」
マイラの意図を察し、拒絶の言葉を出すドロシー。太もも同士をぴったりと閉じ、その意思を示す。
「バキュア、開かせなさい」
バキュアの身体の一部がドロシーの両脚に絡みつき、閉じた股をゆっくりと開いていく。
ほぼ裸の状態で、両乳房も、秘裂も、惜しげもなく目の前のマイラに晒すポーズを無理矢理取らされる。
「ふふふ…良い眺めです」
「や、絶対…それだけは…」
ドロシーの言葉を無視し、マイラは射精したばかりのペニスを彼女の秘裂に押し当てる。
ぬぷ…
「う…ぐ…やぁ…」
あっけなく、ドロシーの女の子の部分は下種の生殖器を受け入れ、飲み込んでしまった。
硬く勃起したペニスの存在を、膣内で感じてしまう。
「おおお…これは…」
マイラが呻く。
「入れただけで膣内全体が吸い付いて…うねって搾り取ってくる……こんな名器、なかなかいませんよ」
ドロシーは応えず、屈辱の涙を流して目を逸らす。
メルヘヴンでは格下だった雑魚に辱められるなんて、悪夢のようだった。
「はあ…そうだ…この胸…!」
マイラがドロシーの乳房をぎゅうと握りしめる。柔らかく大きな乳肉は、土気色の手の中で自在に形を変える。
「この尻…太腿…」
腰を打ち付けながら、そう呟く。
「2ndバトルで初めて貴女を見てから、こうしたくてたまらなかった!お高くとまったドレスの中にこんな男好きする肉体を隠し持って!」
暴力的なピストンでドロシーの膣内を味わいながら叫ぶ。
「あの時もこうするつもりだった…こうして、バキュアで裸にして…仲間たちが見るなか…いや、メルヘヴン中に中継されながら、貴女を犯してやろうと思っていた!」
「う…ふぐっ…」
静かに嗚咽するドロシーに怒鳴りながら、彼女の膣奥まで肉棒を突き刺していく。
「はあ…もう…出そうだ…受け取れ…」
「や…お願い…外に…」
「う…ぐうッ…!」
マイラの呻きと共に溢れる、自分の中の生ぬるい感覚…何度も何度も経験しているこの感覚。
自分の大事なところで、反吐が出そうな男の精子が泳ぎ回っている。
「…こっちも良かったですよ、ドロシー」
ゆっくりとマイラがペニスを引き抜くと、遅れてドロシーの奥から精液がとろりと逆流してくる。
「さあ、まだまだこれからですよ。こんなものじゃ足りない…思いきり辱めてから、殺してあげます…」
チェスの駒、ビショップクラス。マイラの復讐は、始まったばかりだった。