この数日、魔女の使い魔の目を掻い潜りつつ、チップを守りながら野生の魔物と闘い、町を目指して森の中を歩いて行く日々だった。
「ねえチップ、貴女は魔法とか使えるの?不思議な力とか。」
旅を始めてすぐの頃、ボクの言っていた魔女の説明を思い出してドロシーは少女に尋ねてみた。封印されているくらいだから、何かしら強力な魔法を使えるのだろう。正直なところ、そのスーパーパワーで孤立無援なドロシーの現状を打破してくれるかもしれない…という打算も含んでの封印解除でもあった。しかし…
「う~~~~ん…」
試しにその辺の落ち葉に手をかざすチップ。落ち葉がもそもそと動き出す。
それだけ。
「念動力…ってやつ?しかも結構弱め…」
「うう…私じゃお姉ちゃんみたいにすごい風とか鎧とか出せないよ…お姉ちゃんが戦うときお荷物になっちゃう…」
しゅんとしてしまうチップ。
「そ、そんなに落ち込まないで!私みたいに戦える女のほうが少ないって!
前にいたところじゃ『悪名高い魔女』なんて言われて怖がられちゃってさ。女は愛嬌よ!」慌ててドロシーがフォローする。
しかし、戦えない少女を守りながら戦うには今のドロシーは弱体化しすぎている。なんとか身を守るくらいはできるようにしてやれないものだろうか。
「それに私なんてこのARMがないと魔法なんて使えないんだから、チップのほうがすごいよ。そうだ、私のARM、使ってみない?もし私が貴女を守りきれなくても少しは抵抗できるように、ね♪」
そう言って騎士甲冑を模した指輪を少女に渡す。リングアーマー。鋼の騎士人形を召喚して戦わせるARMだ。ガーディアンARMの中では必要魔力は最低クラス。念動力が使えるのであれば発動くらいはできるだろう。
「指にはめて、指の熱を指輪に通すようなイメージで」
「う~~~ん………ッ…」
かわいらしく力む少女。
「………」
「あれ~…?」
反応はない。魔力さえあれば簡単に顕現できる低級ARMの筈なのだが…この世界の人々はARMを使えないのだろうか。
少女の手を握ってみるドロシー。彼女の身体に魔力が流れているか確かめる。
「ど、ドロシーお姉ちゃん…?」
慌てるチップをよそに彼女は顔をしかめる。
魔力量、ゼロ。
全く流れていない。これではARMを使うことなど無理だ。
大体のことを察したらしく、悲しげに俯くチップ。
「だ、大丈夫よ!女の子一人くらい、ドロシーちゃんががっちり守ってみせる!」
「わ、わっ!」
チップを胸に抱きしめながら慰めの言葉をかけるドロシー。
(…でも魔力がないならなんで触れずに物を動かせるんだろう?
そういえば私の知る魔力は流れていなかったけど、今まで感じたことのない、熱さ みたいなのがあったような…?)
そうこうしているうちに少し開けた空間に出る。背の高い樹木が覆うようにその空間を閉ざしているので空飛ぶ猿からは見つかりにくいだろう。
「あ、泉だ!泉だよチップ!私いつからお風呂入ってないかな…ここで身体きれいにしようよ!」
茂みの向こうに澄んだ水の泉がある。小さな泉だが、少女2人が身体を清めるには充分な広さの泉だ。
「本当だ…じゃあドロシーお姉ちゃんが先に」
「えー一緒に入ろうよー」
ふてくされたような顔をしてみるドロシー。
「うう…恥ずかしいよ…」
「照れ屋なんだから…わかったわよお。じゃあチップが先に入ってらっしゃい♪」
1人になったことを確認してから少女は服を脱ぐ。幼さの残る顔に、透き通るような肌、柔らかい金髪のロングヘアー。一般的な価値観と照らしあわせても、美少女と言える風貌だ。更に用心深く周囲を見回した後、泉に浸かる。
「ふう…」
沐浴は彼女にとって初めてのことで、なるほど、気持ちのよいものだった。ドロシーお姉ちゃんと入りたかったが、最近の身体の変化で悩んでいたチップはドロシーに身体を見せることに抵抗があったのだ。
澄んだ水に身体を浸し、リラックスしていたのも束の間…
「チップ♪」
「ぅわっ!?」
背後からのドロシーの声に振り向くと、そこには一糸まとわぬドロシーの裸体が眼前に飛び込んできた。
しみひとつない肌に豊かな胸。くびれた腰。すらりとした脚。そして、成熟した肉体に反して毛1本ない秘部。恐らく体質だろうか。いつも三つ編みにしていた髪は解けていてストレートヘアになっている。
チップは一瞬だったがドロシーの生まれたままの姿を見てしまった。すぐに目をそらしたものの、脳裏に完全に焼き付いてしまい。忘れたくても忘れられなかった。
「ちょ…ちょっと!…私の後って言ったじゃない!」
「何恥ずかしがってんのよ!これからしばらく一緒に過ごすんだから女同士裸の付き合いしましよ♪」
と言うや否やチップを押し倒すドロシー。
「わ…ちょっ!?」
チップは真っ赤になって抵抗する。
(柔らかいな~ スノウにもこうして抱きついたことあったっけ。私も負けてないけど若い子の肌はすべすべね~)
メルヘヴンで共に戦った年下の少女のことを思い出しながら、ドロシーはふざけて目の前の少女の身体をまさぐる。
(あれ…?なんかふにふにしたものが私のおヘソに当たってる?
……だんだん硬く…大きくなって…)
「…」
ゆっくりと、密着していた身体を離す。その「少女」の股間からは、10cm程の可愛らしい棒状のものが生えていた…
「え…ええええええーーーっ!?」
「ひゃあぁぁああぁぁっ!?」
「お、男の子だったの!?な、なんで女の子の恰好してるのよ?っていうか初めて会ったときに確認したら…その…」
反射的に胸と下腹部を手で隠しながら叫ぶドロシー。
「わかんないよぉ…なんか最近、お姉ちゃんといるのが恥ずかしくなるときがあって、気づいたらこんなのが生えてきて…これ何?」
「は、生えてきた?えっと、それはね…ええと…おちんちん…って言うんだよ?」
真っ赤になって、あさっての方向を向きながら説明するドロシー。
「おちんちん…」
「と、とにかく、男の子…だったんだ…ごめん…ね… …モー!こんな綺麗なお姉さんと裸で抱きつくなんてめったにできないんだぞ♪…ははは…」
冗談めかして笑うドロシーだが内心彼女自身も動揺していた。彼女は同年代の女性よりはスタイルも良く、男好きする身体を持ち合わせていた。そんな自分のキャラクターをわきまえた上で、好意を寄せていた少年、ギンタにはちょっぴりエッチなお姉さんとしてアプローチをかけていた。
しかし実際の本人は経験豊富というわけではなく、ギンタとは結局キス止まり、つまり今でも処女である。男性の『あの』部分など見たこともなかった。
(生えてきたって…ああ、勃起ってこういうことなのかな…?
ああいう形してるんだ…ちょっとかわいかったかな…なんて…)
無理矢理こじつけて納得するドロシー。
てっきり女の子だと思って疑わなかった。それほどチップは端正な顔立ちをしていた。女装していれば男だと思う者は少ないだろう。改めて目の前の「少年」を見つめる。目は緑色、身長は150cm程か、ドロシーより頭1つ分小さい。彼の髪は薄い金色で、彼女が愛し、そして遥か遠くの世界に帰ってしまった少年を思い出してしまう。
「…あの…ドロシーお姉ちゃん…」
「は、はい!?」
素っ頓狂な声をあげるドロシー。
「服、着ない…?やっぱり恥ずかしい…」
真っ赤になって言う少年。そんな少年を可愛いと思いつつも、そうねとドロシーも恥ずかしそうに返す。
色々と複雑な事情があるのだろう。
しかし安全な場所で眠っていた彼女、もとい彼を目覚めさせ、自分の問題に巻き込んでしまったことにドロシーは責任を感じていた。
安全な場所にたどり着くまで、それまでは彼を護りながら一緒に行動しよう。そう決めたドロシーであった。
朝。森の中で少年は目を覚ます。春とはいえ森のなかでの野宿は肌寒い。
しかし顔には温かい感覚を覚える。
「~~ッ…!!」
目を開けてぎょっとする少年。温かい感触の正体は一緒に寝ていた魔女の胸だった。
ドロシーはチップを抱きしめ、自分の胸に少年の顔をうずめるようにして寝ていた。魔女服越しでも伝わる柔らかさと温かさ…そして香り立つ女性の匂いを感じてチップの心拍数は更に跳ね上がった。
「ちょ、ドロシーお姉ちゃん!」
思わず叫んでしまう。
「ひゃっ!びっくりした!なによチップ」
「な、なんでドロシーお姉ちゃんが隣に?」
「寒いかなーと思って♪もしかして恥ずかしいの~?チップのエッチ~♪」
ギンタにしていたように、少年をからかうドロシー。
ボディタッチの多い少々挑発的な態度。それは異性としての愛情というよりは一定以上の好意を持った少年への親しみを込めた表現のようなものだった。…ジャックのような生理的にキツい男に対してはその限りではなかったが…
真っ赤になるチップを見てドロシー自身も異世界で孤立無援な状況への緊張がほぐれていく気がした。彼に会っていなかったらきっと不安で押しつぶされていただろう。
(ありがとうね、チップ…)
彼女は少年を見て微笑んだ。
チップはドロシーと距離を置き、前かがみになってうずくまる。
(まただ…病気なのかな…)
(…おちんちん…が…ドロシーお姉ちゃんと初めて会って以来、たまにさっきみたいに硬くなって…おっぱいとか見ると…なんかドキドキする…)
彼の記憶では、自分の股間に“おちんちん”などなかった。
それがいつのまにか存在し、硬くなることがある。今まで経験していなかったことであると同時に、何故か恥ずかしく、ドロシーに相談できないでいた。
泉で見たドロシーの一糸まとわぬ姿を思い出してみる。すらりとした足、たわわに実り、綺麗な曲線を描く胸。
(…まだ大きくなってる…)
自分の胸のうちに溢れて滾る自分の想い。チップはその感情のはけ口を知らなかった。
ドロシーにこのことを質問するのもやはり気恥ずかしく、心の中にしまうチップ。
鬱蒼とした森を歩く2人。ふとドロシーの足が止まる。
「チップ。ちょっと隠れてて。」
「え?どうしたのお姉ちゃ…」
言い終わらないうちに2人の間に折られた大木が投げ込まれる。
「うわあああああっ!」
木を投げた主はドロシーの3倍はあろうかという大男。膝まで届く顎鬚を揺らしながらドロシー達を見下ろしている。
「見つけましたよ。桃色の髪の魔女。」
落ち着いた声でドロシーに話しかける。
「私はユープ。ネッサローズ様の下僕が1人。我等の主がお怒りです。私と城に来てもらいますよ」
「…嫌だって言ったら?」
チップが大木の影に隠れたのを確認して戦闘体制に移るドロシー。
「お嬢さんに乱暴をするのは気が引けますが…力ずくでも。」
言うやいなやドロシーに襲いかかる巨人。ドロシーに掴みかかろうとするが…
「やあああぁあッ!」
ドロシーは普段の可愛らしいソプラノ声とはギャップのある力強い掛け声をあげ、爆転をすると同時にサマーソルトキックをユープへお見舞いした。
巨人の手は虚空を掴み、逆に彼の顎にドロシーの強烈な蹴りがカウンターヒットする。
倒れないように踏ん張るユープ。そして、軽い身のこなしで着地するドロシー。
「ぐあッ!」
「女の子だからって舐めないことね。ドロシーちゃん結構強いんだから♪」
ゼピュロスブルームはない。この世界に来て魔力も落ちており、トトレベルのガーディアンも喚べるかわからない。だが、ここで捕まるわけにはいかない。
かなりのハンデだが、余裕のそぶりを見せるドロシー。
「失礼しました。『腕』も貴女を捕まえるには弱すぎたようだ。」
巨人の手が彼の身長と同じくらいに伸びる。腕から先には剛毛が生え、爪も伸び…
「猿の…手…?」
胴体はそのままに、腕だけ獣のような長い手に変化した。恐らくその形態で先程も大木を投げ飛ばしたのだろう。だとすると相当の怪力だ。
「魔法使い…ってやつ?」
「いかにも。巨人に生まれながら、魔法の才にも恵まれた、ネッサローズ様の側近。ユープ。所有しております魔法は身体の一部を動物に変化させる力でございます。」
「来なッ、バケモノ!」
ドロシーはウェポンARM,リングダガーを発動させる。唯の短剣を出現させるARMだ。
単純な分、魔力の消費はほぼないに等しい。
「フフフ、良い構えですね、行きますよ。」
猿の腕がドロシーを襲う。しかしドロシーも持ち前のしなやかな身のこなしで素早くかわす。鋭い爪は木々を引き裂き爪跡を残し、巨大な拳は地面を粉々に砕く。一発でもくらえばお陀仏だ。しかし、ドロシーはじっくり、じっくりとユープとの距離を詰める。
「この、こしゃくなぁぁあ!」
ユープが叫ぶ、しかしドロシーは相手の動きを正確に分析し腕の軌道を冷静に読む。
確かに一撃は大きいが、大振りで隙も大きい。小回りの利くナイフで戦うドロシーに分がある。懐に入り込めば、勝ちだ。
右のなぎ払い…左の振り下ろし…ドロシーはそれらを全て避ける。
「むうッ!」
「もらったッ!」
ユープの懐に入ったドロシー。しかし…
「えッ!?」
ドロシーの脚を第三の腕が掴む。そして、そのまま逆さにドロシーを吊るし上げる。
「フフ、猿の手は全部で四本あるんですよ。」
「この …うあぁッ!」
ドロシーの両手を別の腕が掴み、さらにもう片方の足を最後の一本が掴む。
「うぅッ!」
(しまった、身動きが…)
「さて、どうしましょうか?城まで運ぶのにおとなしくしていただけるよう、このまま引き裂いて差し上げましょうか?」
「うああああぁぁーーッ!!」
堪らず声を上げるドロシー。ユープは猿の腕でドロシーの手足を無理な力で左右に引っぱる。肩や股関節が今にも引きちぎられそうだ。激しい痛みがドロシーの肩、股間に走る。
意識が遠くなる…
負けるわけにはいかない。脱出する術…これしかないッ!
「ハァ…ハァ・・ガーディアンARM、ブリキン!」
ドロシーが腕輪状のARMを発動させると石の巨人が現れる。
「何、ぬうッ!」
激しい地鳴りと共に砂埃が立ち上る。すぐに姿を消すブリキン。やはり今の魔力では出す時間にも限界がある…
石の巨人が姿を消すと同時に砂埃の中から二人の人影…ユープもドロシーもボロボロだった。しかし、結果的に猿の腕から逃れる事の出来たドロシー。まさに肉を切らせ骨を断つ苦渋の選択の末に出した手段だった。
「しかし、貴女も無茶をしますね。立っいてるだけでも精一杯なんじゃないですか?」
「お互い様でしょ。痛みなんて、いくらでも我慢できる。私はオスカーに辿りつくまで負けるわけにはいかないんだッ!」
「オスカーとやらの前に我が主のところにいらしてくれると嬉しいのですがね」
ユープの腕がもとに戻り、新たにフクロウのような翼を背に生やし飛翔する。
そして、刃の様に鋭い羽根を飛ばす。ドロシーもその羽根を素早いステップでかわすが…
「んッ!」
全てはかわしきれず、鋭い羽根がドロシーの脚を切り裂く。
肩、わき腹、胸元、長いスリットに羽根が当たり服を剥ぎ取るかの様に破る。
衣服の左肩は胸の辺りまで大きく破れ、白い二の腕と大きく豊かな胸を露出する。
ドロシーは露出した胸を右手で隠し、羽根から身を守る為に木々の間に身を潜める。
(身体の一部を獣にする魔法…?まるでゴーストARMね…そしてこの世界の“魔法使い”は、ARMなしで、生まれ持った能力としてそんな芸当ができるわけだ…)
魔力もあと僅か。がむしゃらに攻撃しても無駄のようだ。
目を閉じて、ユープを倒す方法をじっと考える。
意を決し木々の間から飛び出すドロシー。上空からユープの激しい羽根の刃が降り注ぐが、身を転がしてそれをかわす。
消費した羽根をユープが再び生やす瞬間。ドロシーそれを狙っていた。
(隙が出来た、今だッ!)
ユープが再び羽根を飛ばそうとするが、ドロシーも魔力を最大限に練りこみ、取り出したARMに込める。
「いくよッ! デンジャラスストーム!」
「ぬうっ…」
道化師の笑顔が張り付いたデザインの風船。それが大量に出現し、ユープに襲い掛かる。間一髪で、その風船を払おうとするユープだが…
「そっちは囮!」
「むうっ!」
「くらいなッ! ウィンダールヴ!」
今度は多数の真空波がユープに襲い掛かる。凄まじい速さで放たれる風の刃を、ユープは避ける事が出来ない。
「ぐあぁぁああッ!」
ユープは胸を切り裂かれ、そのまま地上へ墜落する。血を大量に流しながら、口惜しそうに空を仰いでいる。もう長くはないだろう。そして、ドロシーも全ての力を使いきったのか、その場で膝をつく。
「勝負ありね。」
「くくく、まさか…年端もゆかぬ少女相手にこの私が…」
ユープはドロシーを見て、頬を緩めて笑う。
「魔法かと思いきや、何やら怪しげな道具を使って戦う…やはりあの箒は貴女のものなのですね…」
息も絶え絶えに巨人が呟く。
「箒?ゼピュロスブルームのこと!?」
「貴女が壊した我らが主の城に落ちていました…珍しいものなので今は主が保管しています…」
「ネッサローズの城にあるのね?」
「くく…そうです…大事なもののようですね…取り返したいなら主の城に行きなさい…そして主がのこのこ現れた貴女を…捕まえ…」
力尽きる巨人。最後までネッサローズに忠誠を尽くしていた。
巨人の死体を見下ろしながら、少し考えた後、ドロシーはチップへ振り返る。
「チップ…私、引き返す。ネッサローズの城に行って、私の箒を返してもらってくる」
「ええっ?お姉ちゃん、本気?お姉ちゃんを追っかけてる魔女の城に、自分から向かうってこと?」
「うん…」
「箒なしでも充分戦えてたじゃない!危ないよ!」
「ありがとう…でも、あれは… 姉の形見なんだ…」
ドロシーはそう言って、寂しげに笑う。
幼き日、ドロシーは初めて風の魔法を習得した日、ディアナが彼女に譲ったARMなのだ。
「あ…」
しまった、という顔をした後、少し考えこむ少年。
「ドロシーお姉ちゃん。僕もついてくよ」
いつしか、一人称が僕になっていたチップ。身体の変化と共に、男の子である自分を意識しているのであろう。
「チ…チップ?いいんだよ無理しないでも!このまま…」
「もう、ネッサローズの手下の猿達に一緒にいるのはバレてるよ。それならドロシーお姉ちゃんについてく」
(うう…でもこの子を1人にするよりは安全か…)
困った顔をしつつも納得するドロシー。
「わかった。もうしばらくよろしくね、チップ」
「こっちこそ。…あの…ドロシーお姉ちゃん…服…」
真っ赤な顔でドロシーを指さすチップ。
彼女の服はボロボロに破れ、左胸などは乳首が見えてもおかしくない程破れている。
「あっゴメンね。すぐ着替える!」
ドロシーも少し頬を染めて肌の見えているところを手で隠す。
さっきの戦い、怖くて見ているだけしかできなかった。でも、僕もこの人の力になりたい。
それは凛々しく戦う魔女への憧れか、彼女にも姉がいたことへの親近感か、或いは別の感情か。いずれにせよ少年は目の前の魔女と共に、恐ろしい魔女の城へ行くことを決意したのだった。