比企谷八幡は雪ノ下陽乃を受け入れる 作:氷結アイスブリザード
「どうぞ入ってください雪ノ下さん」
「…うん、お邪魔するね比企谷くん」
「もうすぐ小町も帰ってくると思うのでそこに座って待っていてください」
なぜこのような状況になったのか。それは八幡が偶然沈んだ表情でカフェに座っている雪ノ下陽乃を見かけたのが始まりだった。
一見普通の人が見たら問題ないように見えているが比企谷八幡は違った。初対面であの外面のいい強化外骨格の雪ノ下陽乃の仮面を見抜いた八幡には全くそうは見えなかった。
今にもはかなく消えてしまいそうなほど弱々しく見えたのだ。それはつまりそうなるほど陽乃が精神的に追い詰められ余裕がなく、いつもの完璧な仮面にズレが生じていたのだ。それでも九割以上の人間は見抜けないのだが…
はじめは気のせいだと思い気づかれる前に家に帰ろうと思っていた八幡だが、どこかのチャラ男が陽乃にナンパをしている場面を見て迷いが生じた。得意の人身掌握でうまくあしらって断るのだと思ったらそうならなかった。
必要以上相手を煽り、罵り、そして脅して恐怖を与え撃退したのだ。
それを見て八幡はらしくないと思った。陽乃ならあんな小物相手にそこまでしなくても簡単に追い返すのにわずかとはいえ本性を外に出すなんて…しかもこんな人がいる場所で
さすがに気のせいだと思うには無理があった。
気にはなったがこの人に関わっていいのか迷いが生じたが、あんなに悲しそうにたたずんでいる陽乃を見て八幡は今話さなかったらもう二度と会えなくなるような気がして声をかけたのだ。
一見いつもどおりに「ひゃっはろー!比企谷くん!君から話しかけるなんて珍しいね~♪ついにお姉さんの色気に負けたのかな?」と八幡に馴れ馴れしく話す陽乃だが、
やはり相当弱っているみたいで「元気がないですね…なんかあったんすか?」と、訪ねると陽乃は一瞬ビクッとした。
「………そうか…やっぱり比企谷くんにはわかちゃうんだね……」と、悲しそうに微笑んだ。
さすがに心配になって迎えを由比ヶ浜経由で雪ノ下を呼ぼうとした八幡だが、「それだけはやめて!雪乃ちゃんに言わないで!」と強く拒否されてしまい、だからといって放っておくこともできず家に誘ったのだ。
ボッチである自分が女の子を招き入れることは難易度が高いと思ったが、コミュ力が高く同性である小町なら話を聞いてあげられるだろうと
「今コーヒーいれますね、甘くても大丈夫ですか?」
「…うん…ありがとう…比企谷くん私は何でも大丈夫だから………」
実に弱々しく、そして物静かだ。いつも明るくテンションが高い外面のいい(仮面)陽乃とはまるで別人のようだった。もう見抜かれてるから外面の良さを無理に出す必要がないと判断したのか、それともいつもの強化外骨格を演じる気力すら残っていないからだろうか?
「ごめんね比企谷くん…迷惑かけて…」
「…別に気にしてないすっけど…それに陽乃さんの悩みを聞くのは小町なんで」
「私は比企谷くんに聞いてもらいたいんだけど…」
「俺ですか?俺みたいなボッチに雪ノ下さんの悩みを聞けるとは思えないすけど、同性でコミュ力のある小町の方が…」
「ううん…私は比企谷くんに聞いてもらいたいの…悩みは解決や解消されなくても…誰かに聞いてもらえるだけでも聞いてもらえた人は救われることもあるんだよ……」
あまりに小さく覇気のない声の陽乃に八幡は内心驚きを隠せない
これがいつも俺たちをいじり、困らせてきた雪ノ下陽乃なのかっと…
魔王と恐れていた雪ノ下陽乃だと
「……俺に雪ノ下さんの悩みをどうこうできるとは思えませんけど…まあ俺には言いふらす相手いないんである意味都合がいいかもしれませんね」
「あはは…あいかわらず比企谷くんはひねくれているな」
わずかに笑みに浮かべる陽乃。
それはいつもの作られたものではなく素の笑顔のようだった。
そのキレイな笑顔に不覚にも八幡は少しドキッとしてしまう
「気を遣わせてごめんね…比企谷くん…」
「いえ、これくらいは」
「………」
「………」
いつもは八幡の都合も考えず干渉してくる陽乃がこうして黙っているのはおかしい。予想以上に深刻な陽乃の精神状態に八幡は小町が早く帰ってきてくれることを願う
『~♪』
(メール…アマゾンかなにかか?)
そう思い軽い気持ちでメールを開く八幡。だがこれから彼はとてつもない窮地にたたされるのだ
『今日お父さんとお母さんとホテルのレストランで食事してきます。帰りは夜中ぐらいだからお兄ちゃんは適当に食べといてよ
お兄ちゃんの存在を忘れずにきちんとメールする小町的にポイント高ーい♪』
(めっちゃくちゃポイント低いぞ小町!なんでよりにもよって今日なんだよ!)
自宅とはいえ密室でお姉さんと二人きり。
しかもそれが同じ部活の雪ノ下の姉雪ノ下陽乃なのだ。
(雪ノ下にバレたらなにいわれるかわかったもんじゃねえ…最悪通報されかねん…
俺が女性の悩みを聞くなんてかなりムリゲーだろ!)
八幡は苦悩した
「今のメールもしかして小町ちゃん?」
「は、はい…そうです」
弱っていても勘の良さは相変わらずのようで八幡のメールの相手を一発で見抜く陽乃
そして内容も見ずメールの内容も言い当ててしまう
「……もしかして今日帰ってこないとか?」
「ま、まあ…そうみたいですね…」
「そっか………そうなんだ…」
それを聞いて陽乃は落胆する様子もない。そんな陽乃に八幡は不思議に思いながら問いかける
「…どうしますか?今日はやめて明日にでも…」
「……ううん、もう時間がないの……
だから比企谷くん………私の話を聞いてくれたらうれしいんだけど…」
(小町ちゃんには悪いけど私にはそっちの方が都合がいいの)
「……別にかまいませんけど…雪ノ下さんはいいんですか?こんなボッチ男と二人きりになっても?」
「うん。比企谷くんなら信頼できるし」
(…それって俺が理性に負けてそんなことする人間じゃないと信じているのか?それとも俺が女を襲う度胸がないと信じているのだろうか…たぶん後者だろうな)
「もちろん比企谷くんが弱っているお姉さんに手を出すような人じゃないと信じているからだよ」
「ナチュラルに心読まないでください」
「それに君の理性はSランクだからね」
「そういえば俺に理性の化物といったのは雪ノ下さんでしたね」
「うん…」
俯きながら陽乃は返事を返す。
八幡は急かさず陽乃の言葉をまつ
「………比企谷くん私が落ち込んでいたのは…結婚させられそうだからなの……」
「えっ?」
予想外の言葉に八幡は声をあげる
「なんでそんな急に…一体どうしてですか?」
八幡は雪ノ下から姉の結婚の話を聞いたことがなかった。
なので悩みの原因が結婚だと思いもしていなかったのだ
いまだに俯き状態で沈んだ表情をしている陽乃の顔が深刻さを物語っている
「させられそう…まさか親からムリヤリ好きでもない男と結婚するように言われたんですか?」
「そうなの………相手がものすごい財閥の長男で…私の事をかなり気に入っているらしくて………
お母さんもその人と結婚すれば雪ノ下家がますます繁栄するから…断る事は絶対許さないといってるくらい…なの…」
「……なんて母親だ」
自分の子を自分の都合のいい道具のように扱う雪ノ下母に怒りと嫌悪感を抱く八幡。
そういえば雪ノ下さんはもっとレベルの高い大学に行きたかったのに母親に反対されていく事ができなかったことを雪ノ下にいっていたことを八幡は思い出した
(自分の子供の人生をなんだと思ってやがるんだ!)
想像以上胸糞の悪い話に八幡は唇を噛む
「断ることはできないんですか?」
「…無理だね、ものすごい財閥の男だからどんな断り方をしてもカドがたつし…うまく断れたとしても母さんがそんなの絶対許さないからね…」
悲しげに震えた声でいう陽乃。
よく見ると小刻みに体が震えていて今にも泣きそうなほどつらい表情を浮かべていた
「…雪ノ下さん」
完璧超人と思っていた知り合いのあまりにはかなく弱った姿に八幡は陽乃の認識を変えた
(誰にだって悩みや苦悩はある。この人も例外ではなかったんだな…)
そして陽乃をここまで精神的に追い詰めた雪ノ下母に怒りを覚えた
「なにか…なにか方法はないんですか?他の誰かに相談したりとか、そうだ!葉山は…雪ノ下はこのこと知っているんですか?」
「…雪乃ちゃんは知らないけどいっても無理だよ。母さんが相手だし、嘘や虚言を吐かない雪乃ちゃんにはこういうこと全く向かないし……
母さんに正面からなんて自殺行為と同じだし……」
「………」
「隼人は知っているけど特に何もしないし」
「…使えねえな葉山」
正月の雪ノ下の時、今までの事を思い返して葉山が大して役にたったことがないことに気づき苦虫を潰したような表情をする八幡
そんな八幡に陽乃は顔をあげて自虐的な笑みを浮かべ話す
「いいよ比企谷くん、最初から隼人には期待してないから…それより君がせっかくいれたコーヒー飲まないとね………」
おぼつかない手付きでマッグカップに手を伸ばす陽乃
「キャッ!!」
「雪ノ下さん大丈夫ですか!?」
「これぐらい大丈夫だよ比企谷くん…それよりごめんね……せっかくいれてくれたコーヒーこぼしちゃって………」
「別にいいですよ、それより冷やさないと火傷で跡が…」
「もういいんだよ…………どうせ私は結婚させられちゃうんだし、どうなったて……」
「そんなことないです。少なくとも今にも消えそうな雪ノ下さんを他人事にするほど俺の性根は腐ってません」
テキパキと濡れタオルや氷の準備をする八幡
きっと小学時代辺りに妹の小町がジュースを零した時とかで手慣れているのかもしれない
「今日はほんと迷惑かけたね…ごめんね…比企谷くん……お礼にキスしてあげよっか♪」
「べべ別にそれ目的でしたわけではありませんので結構です!弱っている女性にキスを要求するなんてただのゲスになっちゃいますよ俺」
「お互いの同意なら問題ないんだけどな…」
「か、からかわないでください…とりあえずコーヒーかかった所冷やしてください。俺は見るわけには行かないのでちょっと席外しますね」
「別に比企谷くんになら見られてもいいんだけど…」
「ふ、風呂にお湯いれてきます」
「ほんと比企谷くんはウブなんだから…」
慌てて部屋から出て行った八幡を眺めながら陽乃は呟いた
「カマクラ…俺が服とか用意している間雪ノ下さんの相手をしてこい」
「ニャー」
「相当精神的に弱っているから優しく接しろ」
「ニャー!」
「飼い猫のカマクラです。好きなだけ撫でてやってください」
そういって立ち去る八幡
カマクラはのそのそ陽乃の前まで歩き立ち止まって見つめる
「カマクラちゃんっていうんだ。かわいいね!私、雪ノ下陽乃っていうんだ、よろしくね」
「ニャオーン」
「フフ…かわいいね、なでなでしちゃうよ」
「♪」
カマクラはゴロゴロ甘えてくるわけでもなく…避けたりするわけでもなく陽乃のそばにいてくれる
話かけられたら返事はするし、撫でられたら嫌がりもせず受け入れてくれる
今の陽乃にとって心地よかった
陽乃はしゃがみこみカマクラの頭を撫でる。撫でられているカマクラは気持ち良さそうに目を細め、鳴き声をあげた
「優しいね君も…やっぱりペットも飼い主に似るのかな?」
「ナーゴ」
「猫か…いいな……もし猫に生まれていたら比企谷くんのお家で平和で幸せに暮らせていたんだろうな………
比企谷くんが飼い主じゃなくて同じ猫でもいいな~カマクラちゃんと比企谷くんと一緒にいられて…猫だったら親の野心のため道具のように使われる事もなくいられたのにな…」ポロポロ
これから先訪れる避けられない自分の人生を思い出してしまったのだろう
陽乃は残りわずかな余命を告げられた患者のように希望を失いかけていた
「…………あれっ?」
ふっと、自分の頬に流れる感触に戸惑い手を当てると濡れていることに陽乃は気づいた
「な………み……だ…………ウソ…………なんで……もう…私から涙は失われていたはず…なのに……枯れていたはずなのに…どうして………」
陽乃が動揺するのも無理はなかった。陽乃は小学低学年以来一度も泣かなかったからだ。いや泣けなくなったといった方が正しいだろう
母親に逆らう事の無意味さ、逃れられぬ呪縛のように決められた運命を自覚し、絶望したあの日以来涙を流すこと…いや流せなくなっていたからだ
「あ、あはは……まだ私に涙を流すような感情が残っていたんだね………完全に冷酷になっていなかったんだ…」
陽乃は自虐的な笑みを浮かべながら脱力し座り込む
「ニャオー」ナデナデ
「慰めてくれるの…ありがとう」
カマクラのさするようなふれ方に慰めてくれているのだと陽乃は理解し、その優しさに癒やされ涙を流した
おそらく飼い主同様高い観察眼と動物の本能で自分がどんな人物か感づいているはずなのに…それでも慰めてくれたカマクラに陽乃は礼をいう
陽乃はカマクラをそっと抱きしめ泣きつづけるのだった
あれから少したったころ八幡はノックをして部屋に戻ってきた
「お風呂わきましたけど…っ!?」
「うん、ありがとう…ごめんね世話ばかりかけて…」
「……いえ」
部屋に入るとき八幡の視界を映ったもの、それは目の下を赤く染め、わずかに目が充血した雪ノ下陽乃の姿だった。
そんな光景に八幡は内心驚きを隠せなかった
(あの雪ノ下さんが泣いていたのか…ウソだろ…)
それは普段完璧超人だとか魔王とイメージしていた人物の想像つかない一面
(この人をここまで追い詰めるなんて…雪ノ下母は人間じゃねえ)
雪ノ下母の恐ろしさの知った八幡。だが今はそんなことよりも
(雪ノ下さんはいつも俺を困らせてくる厄介者で街中でできればエンカウントしたくない人上位…
だけど知ってる人がこんなこの世の終わりのような顔してるの見ていて正直いい気分はしねえよ)
雪ノ下母への怒りがそれを上回った
(いつも俺をないがしろして平気で旅行や食事に置いていく俺の母親がかわいく見えてくるな…)
雪ノ下母の胸糞悪さを押さえきれず下唇を噛む八幡
「ど、どうしたの比企谷くん…そんな怖い顔をして?」
「!?」
怯えた表情をわずかに浮かべている陽乃の言葉に八幡は思っていた事を顔に出していたことに気づく
「す、すいません…もしかして顔に出てましたか?」
「うん…意外だったよ、君がそんな表情出すなんて…」
「……すいません、雪ノ下さんの母親のやっていることが想像以上すごく胸糞悪くて怒気が漏れていたみたいですね」
「えっ…」
(比企谷くんもしかして私のために怒ってくれているの…今まで君を散々困らせてきた私のために…)
むしろざま~みろと思われても仕方のないことだと陽乃は思っていた。
だが目の前の男は自分のために怒ってくれていたのだ。それがとてもうれしかった
「君は本当に優しいね…」
「別に優しくないですよ…もしそうだったら長年ボッチやってません」
「優しいよ…私の本性を知っているのに私のために本気で怒ってくれているんだから…」
「そ、それは…別に普通じゃ…」
「普通じゃないよ。私の本性知った人達は怯えて二度と私に関わろうとしないから…」
「………」
「今日カフェで会った時だってそう……無視することだってできたのに自分から私に声かけてくれたし…」
「苦手な私相手に」
「…雪ノ下さん」
そこにはからかうような態度をした雪ノ下陽乃はいなかった。
とても弱々しく儚い雰囲気をした雪ノ下陽乃がいた。
そして、八幡に真摯な眼差しを向けていたため、いつものひぬくれた返しができなかった
「比企谷くん…」
「ちょ、ちょっと…ゆ、雪ノ下さん///」
陽乃はすっと近づき八幡に抱きついてきた
完全に不意をつかれた八幡はとても豊満な胸の感触と美女の香りにドキッとしてしまう
「お願い……しばらくこのまま…このままでいさせて」
「………わかりました」
今まで人生、陽乃は仮面をつけてきて弱音を出してこれなかったのだろう。
それは同時に縋る相手もいなかったことということだ。
さすがに今回は自分より恐ろしい母親が関わっている問題だったため独力でどうこうできるレベルではなかったため抑えきれなくなったのだろう
「うう…ヒック………比企谷くん…私………結婚なんて……したくない………よ…」
「雪ノ下さん、ここには俺しかいません…だから好きなだけ泣いていいですよ。
俺はプロボッチなので噂を広めるようなグループ交流なんてしませんから安心してください」
「陽乃って呼んで名字なんてイヤだよ…」
「…わかりました。陽乃さん、これでいいですか?」
「うん…ありがとう。うれしい…うれしいよ」ポロポロ
陽乃はうれしそうに微笑むと八幡の胸に顔を預けて心から泣いた。
ひねくれてはいるが心優しく、自分を拒絶しない、そしてお気に入りである八幡に。
八幡はただ優しく抱き止め陽乃の頭を優しく撫でた。
昔、幼い頃実の妹である小町にしてあげたように…
(あったかいなあ…)
雪ノ下家の環境で育った陽乃はこのような愛情や抱擁を経験したことがなかった。妹である雪ノ下雪乃も陽乃同様親からこのような抱擁を受けていないが、姉である陽乃が小さいころやっていたため陽乃と違って経験ある
だが上の兄姉が存在しない陽乃は経験してなかったのだ
(もっと早く比企谷くんに出会いたかったよ…長女ではなく次女に生まれていれば今ごろ私は比企谷くんと毎日いられたかもしれない…)
そう思った瞬間ここにいない溺愛してる妹に嫉妬心を抱いてしまった
(俺はこの人のこと魔王とかチートキャラとか決めつけていたけど…この人も女の子なんだ。かよわいとこがあってもおかしくないのに…なのに俺は勝手にレッテルをつけてしまっていた…)
(なにやってんだよ俺、勝手にレッテルやよく知りもしないで決めつけらる辛さは俺が一番よく知っていたはずなのに…)
八幡は陽乃が気がすむまで頭を撫で、抱擁続けた
「………」
カマクラはそんな二人の様子を邪魔にならないよう空気をよんで静かにただ見ていた
浴室
「湯加減はどうですか?」
「うん、ちょうどいいよ」
八幡に慰められた陽乃は八幡にすすめられ比企谷家の湯船に身を沈めていた。
律儀に覗きもせず脱衣場に母親の衣服を置いてる八幡に陽乃は楽しげに声をかける
「比企谷くん!一緒に入ろうよ♪」
「な、なにいってんですか!?あんたは!」
陽乃の爆弾発言に八幡は動揺し、顔を赤らませる
「どうせこのあと入るんだし、その方がてっとり早いよ。それにこんなキレイなお姉さんと一緒に混浴できるなんてなかなかないよ♪」
「そ、それはそうですけど…いくらなんでも無防備すぎでしょ。
ただでさえ男と女の二人きりなのにもし俺でなかったら、とっくに襲われてますよ」
「大丈夫大丈夫!私、比企谷くんのこと信頼してるから♪それに君となら全然OKだよ!むしろバッチコイだね♪」
「あ、あまり過剰な冗談はやめてください…たしかに俺は人一倍理性はありますがゲイじゃありませんからね。
人並みに女性に興味あるので…その」
「…冗談じゃないんだけどな」ボソッ
陽乃は残念そうに俯いて呟いた
「このあとどうしますか?」
「…うん………どうしよか?」
「いや聞いているのは俺なんですけど…」
「…とりあえず帰りたくない…かな…
どこかホテルか漫画喫茶にしばらく身を隠そうかなと思うよ……そう長くは逃げられないだろうけど…」
「えっ、友人とか頼れる知り合いの家に泊めてもらうとかできないんですか?」
陽乃の少し意外な言葉に疑問に思いながら八幡は言う
「無理だよ…ただでさえ精神的にまいっているのにいつものように仮面つけて相手がイメージしている雪ノ下陽乃を演じるなんてことしたくないし、もうやる気力も残ってないよ…
それにそれをやると結局私は雪ノ下家の長女雪ノ下陽乃って嫌でも意識してしまうから雪ノ下家の呪縛から私は逃れられないことができないと惨めな気持ちになるし……
それにもうとっくに手が回っていると思う…あの母さんが手を打たないわけないもの」
切羽詰まったような声で悲しげに語る陽乃
「…もし嫌でなければ少し家に泊まってもいいですよ」
「泊まってて………比企谷くんの家に?」
「はい。小町が聞いていたら絶対そうすると思いますし、両親も小町の言うことには反対しないでしょう…それに」
「それに?」
「俺もそんな状態の陽乃さんを帰させるなんて正直心配です。もし何かあったら罪悪感で一生後悔すると思うんですよ」
「比企谷くん…」
「既に本性を知ってる俺なら他の奴より気を遣わずすむから陽乃さんもこれ以上精神的負担にならないんじゃないですか?」
実に皮肉なことだ。昨日まではあれほど関わりたくないと思っていた人物を今は自分から関わろうとしている。
たかが一般人のボッチの存在である自分が雪ノ下陽乃のような高嶺の花を助けたいと思っている。
雪ノ下雪乃の姉とかそんなものは関係なく、今にも壊れそうで儚く消えそうな目の前の女性を心から守りたいと。
もちろん八幡は理解している。これは文化祭や修学旅行とはわけが違う。自分では解消できる規模の問題ではないことを。精々時間稼ぎしかできないことを…
それがわかっていても八幡は陽乃を見捨てることができなかった
「ありがとう…本当にありがとう…じゃあ、1日だけお願いしようかな……いいかな?」
「別に遠慮しなくていいですよ。うちは共働きだし、帰りも遅いので
だからもう泣かないでください」
「ごめんね…泣いてばかりで自分でもうまく感情がコントロールできないの…小さいころ以来泣けなくなっていたのに…」
弱々しい泣き声で感謝の気持ちを告げる陽乃の様子に八幡は自分の無力さを感じずにいられなかった
「…ねえ比企谷くん」
「気にしないでください…去年俺も泣いた顔と恥ずかしいセリフを家族以外に見せてしまって、その夜恥ずかしさのあまり家でのたうち回ったことあるんで」
「そっか…」
「はい」
「………」
「………」
二人の会話が止まり、静寂が訪れる。
しばらくお互い沈黙していたが何かを決心したのか陽乃が待機している八幡に声をかける
「ねえ比企谷くん…石けん取ってくれるかな?ちょっと見当たらなくて…」
「石けんですか?」
昨日見たときは十分あったはずだっと不思議に思いながら八幡は棚から新しいのを取り出す
風呂のドアを半分開け顔を赤ませながらそっぽ向いて石けんを握った右手だけ風呂場に出す
「ど、どぞ」
緊張の余りどもった声を出す八幡
その瞬間すごい力で右手を引っ張られ私服姿のまま八幡は風呂場に引きずりこまれた
「ちょ!い、いきなり何するんです…か///」
抗議の声をあげようとする八幡の視界に映ったのはタオルさえ身に着けていない雪ノ下陽乃の裸体だった。
多くの人が羨望するであろう立派なバスト。
かなりの巨乳でありながら美乳の属性をあわせ持ち、乳首はキレイなピンク色、少し小さめなかわいい乳首。
シミ一つないきめ細やかな肌にウエストは折れそうなほど細く、そして細くしなやかな美脚。
まるで芸術的なほど美しい肉体だった。
まるで美の女神のような雪ノ下陽乃の美しさに八幡は完全に目を奪われ思わず、ゴクッと喉を鳴らす
「お願い…比企谷くん」
絶世の美女である陽乃が恍惚な眼差しを向けながら八幡に美貌を近づけ囁く
「私を抱いて」
「な、なな…なにいっているんですか///」
陽乃のあまりの色っぽさにSランク相当の八幡の理性にヒビが入る
「私…結婚させられたら嫌でも夫婦間で好きでもない人としないといけなくなるの。だから、その前に比企谷くんに私の処女奪われたいの」
「な、なんで俺なんですか…陽乃さんならもっといい相手が…」
「私は比企谷くんがいいの!!」
「!?」
「他の人なんて絶対嫌!私は比企谷くんとやりたいの!」
陽乃の上気した顔と潤んだような瞳で視線に絡む。
さらにぬけるような白い肌はほんのり染まっている。
正面からこれほどの気持ちをぶつけられてはさすがの八幡も嘘だと思うことができない
「…どうしてそこまで俺に」
「好きだから」
「えっ?」
「私が比企谷くんのこと大好きだから!!」
「陽乃さんが…俺のことを………好き?」
確かに嫌われてはいないとは思っていたがまさか恋愛感情もたれていたとは全く思ってなかった八幡は今まで一番驚愕した
いつも会うと理由はわからないが妹である雪乃とくっつけたがるような発言をしていたからなおさらだ
「私、前にいったよね。雪乃ちゃんにあげるのはもったいないなって、あれ本音だったんだよ」
「マジですか?」
今まで気づかなかった陽乃の気持ちを今知り八幡はこれほどの美女に自分が好かれていたことの驚き、うれしさ、謎など複数の感情で頭の中をうまく処理しきれなかった
「私のこと初対面で仮面を見抜いてくれたし、本性を知った後も拒絶せず、距離もおかなかった」
「………」
「見ず知らずの人の犬を命懸けで助けたり、文化祭では学校中の嫌われ者になってまで他人を守った。これで好感もたない方がおかしいよね?」
「か、買いかぶりですよ…」
(この人俺のこと褒めすぎでしょ…っていうか、ここからじゃ陽乃さんの裸全部丸見えなんだよ!めちゃスタイル良くて辛抱たまらねえよ!俺の八幡爆発寸前なんですけど!)
「私を好きになる人達は仮面をつけた偽物の私であって、本物の私じゃない。本当の私を好きなわけじゃない、知ってさえいない」
雪ノ下家の長女として作られた外面のいい陽乃の仮面は多くの仲間(手駒)を手に入れてきた。
だが偽物で作られた関係のため心から気を許せる存在はいない
「………」
「でも君は違う。本当の私を見つけてくれた」
「陽乃さん…」
「君が私に苦手意識をもっているのはわかっている…だけど私のことが嫌いじゃなかったら今日だけ…今日だけでも私を愛してくれるかな?」
「たしかに俺はあなたに苦手意識をもっていました…でも今はほとんどありません。むしろ…あっ、いや…でもなぜ今日だけなんですか?」
「私の家のことで君にずっと迷惑かけたくないからね…それにそう決めておかないと私が比企谷くんから離れられなくなちゃうから…そうなったら絶対君に迷惑がかかる…」
「らしくないですよあ…なたが俺に遠慮するなんて」
「…うん…………そうだね…」
「でも君が言うほど遠慮してないよ。家に泊めてもらってるのに抱いてって、お願いしてるし、それに…」
陽乃は扇情的な顔を向け、おずおずと言ってきた
「私がキズモノになれば縁談もダメになると思うんだ…」
「なっ!そうなんすか?」
上流階級の事はよくわからないが中にはすごく厳しいしきたりがある家もあるのかっと八幡は思った
「でもなんでそれをもっと早くいってくれなかったんですか?」
「それは…比企谷くんを巻き込みたくなかったからだよ。比企谷くんだって初めては好きな恋人とやりたいと思っていたでしょ?
それにまるで私が結婚回避のため比企谷くんを利用してるみたいで嫌だから…私は比企谷くんが大好きなのにそう思われたくなかった………だから」
チュ
「えっ、ひ、比企谷くん///」
「可愛すぎですよ陽乃さん…さすがの俺もこれ以上もう我慢できません。陽乃さんみたいなものすごい美女にあんなこといわれたらなおさらです」
「ほんとにいいの…?」
「はい。これで陽乃さんが望まぬ結婚しなくてもよくなるし、俺も…」
「ありがとう比企谷くん私を受け入れてくれて…これでもう…」
陽乃はうれしそうに微笑み八幡を抱きしめ体を引き寄せる。
徐々に八幡の顔に近づけていく
八幡もまたその形のいい唇に自分の唇を近づけていく
次回八幡とはるのんがついに初体験
もちろん最後まできっちり
あとカマクラは空気の読める子