私の父はヒーローだった。
過去形で言うのは、私が物心つく前にヴィランとの戦いで命をおとしたから。
空手ヒーロー“改心ファイター”。
私の記憶の中にはいない人。
悪しき心、荒んだ心を改心させる、そんな『個性』を持っていたらしい。
だから母は、女手一つで私を育ててくれた。
18禁ヒーロー“ミッドナイト”は、母の学生時代からの親友で、ヒーローとして独立する前には、父と同じ事務所に所属していた。
そんな縁から、ミッドナイトとは交流が深く、私は幾度となく遊んでもらったし、母に言いづらい事の相談に乗ってもらったこともあった。
ミッドナイト、本名
ボンデージ姿と極薄タイツが
鞭を武器として操り、ヴィランを一息で眠らす『個性』眠り香を素肌から放出する。
現在はヒーローを目指す少年少女の登竜門、国立雄英高校ヒーロー科で教鞭を奮っている。
私は彼女の住むマンションでデリバリーのピザをご馳走になりながら、事態のあらましを語り終えていた。
『フム…。その子が妃美呼ちゃんの“個性”の影響下に有ることは間違いなさそうね。』
落ち着いたスーツ姿のメガネ美人。
長い黒髪の知的な女教師。
今の睡さんは、そんな印象だ。
『もともと、私自身の自覚の薄い“個性”ではあるんですけど、どうして石動さんだけにあんな事が…。』
石動さん
『原因は妃美呼ちゃんだとしても、おそらくそのお友達に素養が有ったのかもしれないわね。』
素養?何の?
『素養…ですか?』
『本人も気がついていなかった素養、Mと同性愛の気質が目覚めさせられた、とか。…ンで、目覚めさせた妃美呼ちゃんがご主人、いえ、女王様って認識になってるのかも、ね。』
えー、なにソレ。シャレになってないんですけど?
『もしそうだとすると、“個性”が制御できない私はどうすればいいんでしょう?』
て、ゆーか『個性』で人の精神に多大な影響を与えたってことは…犯罪?!
『焦らないで妃美呼ちゃん。あくまで妃美呼ちゃんへの態度が変化しただけで、なおかつ貴女の意思は介在してないのよ。…しばらくは観察ね。プロヒーローとして、貴女のお母さんの親友として力になるわ。』
『睡さん、ありがとうございます!』
石動さんの事は心配だけれど、私は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
『ただ、その石動さんのストレスを軽減する必要が有るわね。具体的には、今の状態が続くなら、妃美呼ちゃんが女王様として振る舞ってあげるのが一番かも。』
えー、やっぱりそーゆー話?!
…つらたん。
『あのー、私、経験が…』
あれ、睡さんの目付きが…気のせい、かな?
『仕方ないわねぇ…お姉さんがイロイロ教えてあげるわ♪』
テーブルの上を手早く片付けると、睡さんはクローゼットから
あー、これ、つまり、大人の。大人のオモチャだよね…。
未成年!中学生に!何をさせる気ですかミッドナイト!!!
私が何かいう前に、睡さんは立ち上がり
『私も準備してくるから、いい子で待っててね、女王様♪』
隣室へと行ってしまった。
きっと、
頼りになる。なるけど、こういう流れになるかー。
そして、数分後。
戻ってきた睡さんの服装は先程と変わらぬスーツ姿。
違いといえば、その左手首に、銀色に輝く手錠が掛けられていることだろうか。
『お待たせー。じゃあ、何より実践が一番の勉強だから…。』
何の使い方を説明してくれるのかなー。名前からかなー。
『私を好きにしていいわ。…いいえ、してください。可愛い女王様ぁ♪』
…へ? なんでそうなる?
私が唖然としていると、睡さんはハンカチを二枚取り出し、一枚づつ丸めて自分の口に押し込んでいた。
なにをしてるの?
続いて、テーブルの上に有った黒いガムテープを取り、適当な大きさにちぎり、閉ざした自分の唇の上にしっかりと貼り付ける。
『う、うんッ!むぅぅんッ!』
喋れなくなったのを確認するかのように言葉にならない声をあげ、睡さんはこちらに顔を向ける。
『ふうぅぅん♪むぐぅんぅんッ♪』
嬉しそうにもう一度声をあげ、そして彼女は…後ろ手に回した腕、右の手首にも手錠を掛けてしまった。
何これ?!なんで睡さん…ミッドナイトが目の前で自分を拘束してるの?
彼女はソファーに座ると、また言葉にならない甘い声をあげ、それを耳にしてようやく私は思い至っていた。
ミッドナイトが、すでに私の『個性』の影響下に有るということを。
母と同年代の美女が、
『うむぅぅぅん?むぅぐぐぅん♪』
身をくねらせるミッドナイト。仕草、表情の色香は私のような子供にもはっきりとわかる。
ドキドキする。
どうしたらいいのかわからないけど、そんなことしたことないけど、
でも、そもそもそーゆーことをしている場合では無いのだ。
ミッドナイトに聞かないと。どんな状態なのか。先程の会話から、私が彼女どうしてしまったのか、ミッドナイト本人の気持ちとか気分を確認しないといけない。
だから、まずは口のテープやハンカチを取らないと。
私はミッドナイトに近づいて、
『このままだと聞きたい事も聞けないから、コレ取りますよぉ。』
彼女の口のテープを剥がそうとする。
が、ミッドナイトが顔を左右に振って剥がさせようとしない。
えー…。何、このままがいーの?お姉さん。
いや、そういうわけにもいかないので。
『あー、また後でしてあげますからぁ。』
あ、おとなしくなった。
…なんか、誘導されてる?すでに。
ともかくテープを剥がす。けっこうな粘着力で、痛そう。続いて口の中のハンカチを取り出す。
唾液を吸って、重くなっていた。
テープはゴミ箱に。ハンカチはティッシュを敷いてからテーブルの上に。
『ふぅ…。ゴメンなさい、女王様ぁ。お手間とらせちゃって。』
口調は思ったよりしっかりしていた。
…瞳の輝きは妖しいが。
『睡さん、どんな気分ですか?さっき言っていたことが正しそう?』
私の声を聞いてミッドナイトは軽く身悶える。
『ええ。女王様…妃美呼ちゃんの声、姿。見聞きするだけで、思い出すだけで、体が熱くなるわ。今までそんな事をされたいと思わなかった事、縛られたい、口をふさがれたい、そういう欲求も同時に沸き上がってる。…正直、そこに違和感は全く無いの。』
努めて冷静に語ろうと努力してくれているのだろう。
『今、妃美呼ちゃんに質問されて、答えようとしているから考えることができたみたい。命令されたがってるわ、私。たぶん、貴女の命令には逆らえない。』
やっぱり、私の『個性』が。
『あぁ、泣かないで妃美呼ちゃん。大丈夫、さっきまでの気持ちも覚えてる。私は貴女の味方よ。これが無くたって、ね。』
睡さん…ありがとう。
『妃美呼ちゃんは周りの好意に溺れないようにしてきたでしょう?だから、きっと大丈夫。コレが貴女にとって良くないというなら、解決策を探しましょう、いっしょに。だから、貴女のフォローをしながら、
よかった。本当によかった。
『うん、わかった。ありがとう、睡さん。…じゃあ、ミッドナイト。命令します。普段の生活は普段通りに送って、送らせて。そして、私が引き起こしている私達のトラブルの解決法を、いっしょに探して? 』
ミッドナイトは艶然と微笑んで
『かしこまりました。私の愛しい女王様♪』
…前途多難だけど、これで希望が…
『それでぇ、ちょっとだけ可愛がってほしいんですけどぉ。ダメかしら?ヤリ方教えるから、イかせてほしいなぁ。』
ですよねーッ! 耳が腐りそうな言葉を可愛くおねだりするミッドナイトさん!
『手錠とか、したままじゃないとダメ?』
ハードルやっぱり高いし。
『女王様のお望みとあらば。外してくださいな。』
おお、よかった。このあと、ナニをどうするにしても、少しでもヤバイシチュエーションの緩和とか回避とか…。
『鍵はどこにあるの?』
ミッドナイトは腰をくねらせると、足を大きく開いた。
スカートの下の…股間を強調するように突き出す。
『ま、まさか…。』
ミッドナイトは自分の唇を舐めて、
『ええ、そのまさか、ですわ女王様♪ あと…私、興奮すると大きな声が出ちゃうみたいなの。女王様が鍵を探す時に耳障りな声を聞かせる御無礼はしたくないですわぁ。』
私の『個性』関係無くない?!
ベースがそもそもドエロでしょう?このお姉さま!!!
…どうしよう?
健全ってなんだっけ?