健全が見当たらないぞー?あれー?
…えっと、自分の『個性』についての責任とか、これからお世話になるにあたっての御礼的なアレ、みたいな事、だったわけ、だから。
ミッドナイトに『気持ちよく』なってもらったなら、今晩はそれ以上の事は無くていいわけで。
ミッドナイトの“大切なところ”から手錠のカギを取り出してから、私は考えを整理していた。
取り出す時にミッドナイトは、その、とても…気持ち良かったみたいで、“イク”っていう、それになったみたいだったし。
心配して覗き込んだ時に、キスを、口をふさいだガムテープ越しにされた時はびっくりしたけど、私は、ミッドナイトにそーゆー事を、今晩はされたいわけじゃないから。
ミッドナイトが満足してくれてるなら、拘束を解いて、家に帰ろう。
落ち着いて考えがまとまったので、私はソファーに身を預けているミッドナイト、香山睡さんの側に寄った。
『ミッドナイト?…鍵を取るとき、気持ち良かった?』
そう訊ねると、彼女はこくこくと頷いて、
『うむぅん♪』
可愛い声で鳴いた。
『じゃあ、今晩はここまでってことで、ね。』
後ろ手に腕を拘束している手錠をはずす。
彼女は腕が自由になると、唇をふさいだガムテープを剥がし、口の中のハンカチを取り出した。
『ふーっ、スッゴい良かったわ、女王様ぁ♪ 意識とんじゃったもの。』
瞳を輝かせ、満足そうに笑みを浮かべる睡さん。
『そ、それは何より。えーと、これからの事なんだけど。』
私は、私の『個性』の虜になった石動さんと『仲良く』やっていく為に相談に、場合によっては何かしら『手伝って』貰いたいことを改めて告げた。
『はぁい、お任せください女王様。』
身支度を整え(丁寧に手を洗うくらいだったけど)
思ったより遅くなってしまったので母にスマホで連絡し、安全のために睡さんと駅まで一緒に歩いていく事になった。
忘れ物無ーし。
玄関先で靴を履き終えると睡さんが私を抱き寄せて
『可愛い私の女王様。何が有っても私は貴女の味方よ。…貴女がその気になったら、私はたぶん逆らえないけど、
あぁ、私の『個性』で私の、えっと、その、“私のモノ”になってしまっても、睡さんは大切な母の友人で、私の事を心から案じてくれている素敵なヒーローに変わり無かった。…スッゴク嬉しい。
『ありがとう、睡さん。…でもぉ、道は今晩てってー的に踏み外した気がするけど?』
笑ってそう答えると
『あら、それは妃美呼ちゃんが可愛いすぎるからいけないのよ。』
そう言って顔を近づけてくる。あー、これは。
『大人のキスは駄ー目。』
自分から唇を触れさせて、素早く顔を引く。
『…これから帰るんだから、エッチな気分にされても困るもん。』
ちょっと残念そうな睡さん。
『…はぁい。じゃあ、次回の楽しみにするわね。』
マンションを出て、駅までのんびり歩く。
途中の話題は、前々から決めていた私の進路の事。
雄英高校“一般科”。絶大な人気を誇るヒーロー科は別格だが、一般科や経営科の人気も決して低くは無い。
模試の判定は充分な結果を出してはいたが、油断なく進みたいと思う。
父と母、そして睡さんの母校に通うために。
『頑張ってね妃美呼ちゃん。雄英に来てくれれば一緒に過ごせる時間の都合がつけやすいし。』
…校内でエッチな事をするつもりなのかな?まさか。
まさかねー。
駅で別れ、後は真っ直ぐ帰宅する。
…スゴい一日だった。いや、ほんとに。
母には進路のことで睡さんに相談に乗ってもらっていたと説明し、早々に風呂場に向かう。
ぽいぽいぽいと脱衣かごに脱いだ物を入れて、風呂に…入る前に姿見を見る。
小さくて、薄い体。ちょっとだけ、コンプレックス。
私よりかっこよかったり、女っぽいクラスメイトばっかり。…アイドル?マスコット?
石動さんは、お姫様。睡さんは女王様って呼んだけど。
ちょっぴりため息一つ。
あー、お風呂、お風呂。
…お風呂場で、ちょっと自分の体を確認して、モヤモヤしちゃったのは、だいたいミッドナイトのせい。
のぼせる前に上がって、リビングで母と
探偵ヒーローが、連続殺人事件の謎を解いていた。
人気のあるシリーズで、個性『悪魔』の持ち主である青年が、気高い悪の名に懸けて醜悪な犯罪を為したヴィランを追い詰めていくというものだ。
『
今日も決め台詞がかっこよかった。
翌日、ちょっと緊張しながら登校する。
いつもの時間の電車。いつもの車両。
同じクラスの
この辺りを縄張りとしている竜爪組のお嬢様。
『個性』“竜”を持つブロンドヘアーのクール美人さんだ。
たわいもないお喋りをしていると降車駅。
道行く沢山の生徒と挨拶をかわしながら教室へ。
『姫ちゃん今日もカワイイー。結婚してー。』
咲夜ちゃん…
私はにっこり笑って、
『ライバル蹴散らす一大キャンペーンを勝ち残ってくれたらねぇ♪』
ちょっと切れ味イマイチかなぁ?って自覚しながら切り返す。
そして、
『石動さん、おはよーッ。昨日はお邪魔しました。』
石動さんに向かって朝のご挨拶。彼女はいつもと変わらぬ笑みを浮かべて、
『姫ちゃんおはよッす!昨日はあンがとね。』
いつも通りのお返事。
昨日の事が、私の見た夢か何かじゃないかと思うほどにいつもと変わらなかった。
昼休み、私たちは移動教室などに使われる空き部屋に二人でいた。
早々に昼食を終え、石動さんを誘って二人きりになりたかったから。
『昨日は急に帰ってごめんねー。ちょっとびっくりしちゃったからぁ。』
私がそう謝ると石動さんは、
『あたしこそ、いきなりでお姫様にご迷惑じゃなかったかなって。…朝、なるべくいつも通りにして、お姫様からの声掛けをもらうのを待とうと思ってたから、嬉しいです!』
頬を赤らめて、モジモジと。あら可愛い。
『で、昨日の返事なんだけどー。』
石動さん、緊張してるみたい。私が切り出すと、真剣な顔で次の言葉を待ってる。
『了承です。ただ、
身を震わせる石動さん。あ、瞳うるうる。
『はい!承知しました!私はお姫様の…ウッ?!』
手を頭上に上げて、掌で石動さんの口を押さえる。
『声が大きいわ、誰かに聞かれたりしたら困っちゃう。…気を付けてね、花魅。』
こくこくと頷く石動さん。私は手を離して、
『でね、私ってば
腰に手を当てて、なるべくキリッとした感じで石動さんを見上げて。
『一緒に遊ぶときは仲良く。貴女より優先してるように見えても嫉妬はしない事。…私に可愛がって欲しい時は直接言いなさい。』
ここで念押し。
『いいこと、これは命令よ。…私の可愛い石動花魅。』
…レディコミから引っ張ってきた言い回しと演技、どうなったかな?
『はい。仰せのままに、あたしの大切なお姫様!』
こうかはばつぐんだ!!!
頬を上気させ、瞳を潤ませた石動さん。
罪悪感は有る。けれど、この『個性』のコントロールがかなわない以上は、私の虜になってしまった彼女の心の安定の為には、今はこうするしかない。
さて、問題は…午後の授業までに石動さんが落ち着くかどうかと、
演技のつもりだったのに、何かイロイロとヤバイ気分になってきている私自身のココロとカラダ、かな?
さて、次は三人で健全かな。