※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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今回のイベントの感想

アルトリアは勿論のこと、兄貴、エリちゃん派生増えすぎぃ!
クレオパトラさん、キャラ面白すぎぃ! あとくぎゅぅぅうう!!
でも、残念ながら、この作品ではクレオパトラは出てこない。キャラ的にド外道に着いてきてくれるわけないですわ、これは。

というわけで、師匠編の中編。参ったね、またエロにいけなかったぜ(テヘペロ


『苦労人が無茶をするのは何も効率の為だけではない。女好きなので女の為に無茶苦茶やらかすのもお手の物』

 

『死を望む女の欲望 中編』

 

 

 

 

 

「まさか、あそこまでとはなぁ。存外、影の国の女王もナイーブだ」

 

 

 十数時間前のスカサハの落ち込みようを思い出しながら、カルデアの廊下を行く虎太郎。

 ジャンヌによる説教の後、アルフレッドによって生体スキャンを受けた時点で、破けた心臓は治ったわけではなく、単に塞がっただけの状態であった。

 つまり、傷口が癒着したのではなく、別の何かで蓋をされたような状態だったわけだ。

 ともあれ、虎太郎の身体に刻まれた原初のルーンによって、傷は時間と共に徐々に塞がり、今現在では完治している。

 

 彼は両手にワインの酒瓶と安物の缶ビール、チーズやクラッカー、乾物等の入ったビニール袋を下げていた。

 何の事はない。酒盛りをしようという腹積もりだ。

 

 普段は漏らせない愚痴でも溢させれば、スカサハの気も多少は晴れるだろう。

 ケルト故に自由は自由であるが、常に支配者としての意識が先に立つ彼女のこと。

 同盟相手たるマスターであろうとも、その配下たるサーヴァント達であろうとも、目を掛けているマシュであれば尚の事、聞かせられない鬱屈した感情の一つもあるだろう。

 

 それを吐き出させる為にはアルコールが一番無難で手軽な方法だ。

 スカサハの好みそうなワイン程度の度数では、酔いの回りなど高が知れているものの、精神の緩みを引き起こすのは間違いない。

 

 後は飲み相手である自身の話術次第。あの落ち込みようで、それすらも必要ないかもしれない。

 そんなことを考えながら、廊下を進み、やがてスカサハの部屋の前にまで辿り着いた。

 

 カルデアのサーヴァントには、それぞれの個室が与えられている。

 各々の好みに合わせ、要望があればアルフレッドが家具や調度品を揃えていた。流石に配置や壁紙などは部屋の主に任せなければならないが。

 

 セキリティも完璧。

 サーヴァントであれば霊基や霊子構造を、人間であれば指紋声紋は当然として、果ては塩基配列、霊器属性、魔術回路の測定――虎太郎の場合は対魔粒子であるが――を行われる。

 門番はアルフレッドだ。万に一つの間違いもある筈もない。部屋の主の許可なくして他人が足を踏み入れられない。総責任者である虎太郎でも同じこと。

 

 元より押し入るつもりも忍び込むつもりもなかった虎太郎は、インターホンに指を伸ばしたが、タッチパネルを押すまでもなく部屋の扉が開いた。部屋の主(スカサハ)が入室を許可したのだ。

 彼女の能力を鑑みれば、鋼鉄の扉の向こうにある気配など簡単に察せてしまうだろう故、虎太郎に驚きはなかった。

 

 

「おじゃまさまー――――――――っとぉ……」

 

 

 スカサハの部屋に足を踏み入れた瞬間、虎太郎は唐突な眩暈を覚えた。同時に、自身の理性も急速に失われていくことも。

 常人ならば理性を消失させかねない。英雄であったとしても、色を好む故にケダモノに堕ちるであろう事態においても、単なる鋼の理性で堪えきる。

 

 

(こりゃ、何かの香か? 影の国、魔境の智慧で作られた、男を()()()にさせる香ね。いや、でもさぁ……)

 

 

 魔界の媚薬に比べれば可愛いもの。

 人体に与える後遺症を考慮していない分だけ、効能も比較にならないほどに高い毒物(びやく)だ。使用の代償は理性の完全な消失。即ち、廃人化である。

 この程度の激しい情欲が湧き出てくる感覚など、慣れ切っていた。

 こういう時の対処法は単純だ。見て見ぬ振りをすること。意識しながらも、頭の後ろ側の方に情欲を押しやってしまえばいい。

 

 部屋の光源は古ぼけたランタンだけ。

 橙色の炎の光がぼんやりと部屋を照らし、香炉から立ち上る煙が揺れている。

 

 家具や調度品は、虎太郎も知らない造りをしていたが、用途は理解できた。

 洋箪笥(クローゼット)(ラック)鏡台(ドレッサー)、天蓋付きの寝台(ベッド)

 全く同じ、というわけではないだろうが、もしかしたら、影の国にあるであろう、スカサハの寝室と似たような配置になっているのかもしれない。

 

 ――――部屋の主は、寝台の上で仰向けに寝そべっていた。

 

 臙脂色のブラとショーツ、その上から生地の薄いオープンフロントタイプのベビードールを身に纏っている。

 女神の如き、と形容せざるを得ない――事実として、女神に近い存在ではあるが――肢体をシースルーの布地で辛うじて隠したのみの姿。

 男なら誰であれ、焚かれている香の効果もあって、襲い掛からずにはいられないだろう。もっとも、その果てに待っているのは、魔槍による凄惨な制裁なのではあるが。

 

 

「ん、来たな。…………相も変わらず、大したものだ。この香に晒されて、理性を保てるとは、な」

 

 

 薄暗い部屋の中では、スカサハの表情は僅かしか窺い知れない。

 光量と光色の関係も相まって、僅かな笑みを浮かべていると分かる程度である。

 

 ジャンヌの肢体が健康美と女体本来の美しさを突き詰めたものとするならば、スカサハの肢体は正に妖しい美と艶で満ちていた。

 まるで食虫植物のようだ。破滅を予感させながらも、その妖しさと美しさの前には、破滅という代償すら安いと感じてしまうだろう。

 

 下着もベビードールも生地が余りに薄過ぎた。

 部屋がもう少し明るければ、その下に隠された乳首も陰毛も透けて見えてしまう。

 

 さしもの虎太郎も、生唾を飲み込むほどだ。

 好物を前にした犬が御預けを喰らったようなもの。

 あのスカサハが自分を誘う格好をしているなど、男にとって理性を蕩けさせるには十分過ぎる破壊力だ。

 

 ――だが、次の瞬間、虎太郎が浮かべたのは、申し訳なさそうな表情であった。

 

 

「……何だ、その顔は?」

 

「いや、あの、……その、ゴメン、オレが来たのは、さ……ホント、ゴメン」

 

 

 虎太郎は目を逸らしながら、両手を持ち上げビニール袋と中身を見せつけた。

 その中身を見て、スカサハは目を丸くし、虎太郎は冷や汗を掻く。

 

 “今夜一晩付き合ってくれ”

 

 虎太郎にしてみれば、今夜は酒盛りでもしようという意味しかなかった。

 だが、虎太郎を知る者からすれば、どうか。どう考えても、男女の営みを致そう、という意味にしか受け取れまい。カルデアのサーヴァント達は大半以上がそう考える。

 

 

『ま、マスター! わ、私という者があり――――いえ、そうではなく、そのような関係に簡単に、それも複数人と至るのはよろしくないと思います!』

 

『ジャンヌの嬢ちゃんの本音がポロっと漏れたのは兎も角として、大将、アンタ物好きすぎるだろ』

 

『ろ、ロビン――――!!』

 

『ロビンよ、全く同感だ。主殿も、女遊びは程々にせねば、後ろから刺されますぞ』

 

『ス、スルーっ……!?』

 

『いや、虎太郎に女遊びのつもりなど毛頭ない。困ったことに、全て本気の上に本心だ』

 

『あっはっは! いいんじゃないのかい? いい男には女が群がるもんさ!』

 

『―――――あらあら』

 

『マスター、ホントさいってーだね…………って、アン? なんか、ちょっと機嫌悪くない?』

 

『――――――チッ(イライラ』

 

『おっと、モードレッドの機嫌が加速度的に悪くなっていますね。レディ・沖田、後は任せました! 私もこうしてはいられませんので!』

 

『えっ。この状態のモードレッドさんを、私にどうしろと!? が、ガウェインさん、ガウェインさぁぁぁああぁぁっぁぁん!!』

 

『私もラグネルとイチャコラする使命がありますので! ラグネル! ラグネェェェエエエル!!』

 

『ぬぅ、此方も負けておられんな! シータ! シィィィィタァァアアアアアァっっ!!』

 

『あぁ! あの二人は! 私よりも(頭が)桜セイバーじゃないですか!!』

 

 

 と、こうなるのは目に見えている。仕方がないと言えば仕方がない。

 部屋の様子と、わざわざ香まで用意して雰囲気を作ったのだ、スカサハも同様である。

 

 虎太郎の様子から本来の意図を察したスカサハはベッドから起き上がると、無言のまま香炉に蓋をして鎮火させた。

 続き、背中を向けた状態のまま、パチンと指を鳴らし、部屋の扉を閉めてしまう。

 

 その無言の状態と背中に、言い知れぬ猛烈な不安を感じた虎太郎は、恐る恐る声をかける。

 

 

「あの、スカサハ……さん……?」

 

「……………………え」

 

「え? あの? 今、なんて……?」

 

「…………………なえ」

 

「え? え? お、俺の聞き間違えかな? おかしいな、俺の耳がおかしくなっちゃったかな?」

 

「私の槍で、記憶を失えぇぇえええぇぇぇえええええええええええええ――――っっっ!!!!」

 

「ホ、ホアアアアァアアァァアアっっ!!!(裏声」

 

 

 いきなり顕現した真紅の魔槍の柄頭が、虎太郎の側頭部を掠めていった。

 

 正に奇跡であった。

 その一撃をギリギリで回避した虎太郎が連想したのは、人間によるスリッパの一撃を辛うじて躱したゴキブリだった。それほどまでの力量差と奇跡であったのだ。

 

 

「ガアアァァアアア――――っっっ!!!」

 

「おち、おちつい――――イヤァァァアアアアァァアアアっっ!!」

 

 

 スカサハ、渾身の赤っ恥。スカサハ、全力の照れ隠しであった。

 それはそうである。普段アレだけ、虎太郎に抱かれることを嫌がっている素振りを見せていたというのに、これでは口だけだ、と証明されたようなものなのだから。

 

 顔を真っ赤にして、目をぐるぐるさせて襲い掛かってくるスカサハに、虎太郎は昼間の訓練よりも命の危機を感じたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「酒ッ! 飲まずにはいられないッ!!」

 

「いや、今回の件は俺が悪かったよ。カルナの一言足りないが移っちゃったかなぁ……? はは、は」

 

「笑うなぁっ!!」

 

「いってぇっ! え!? 何、今の威力!? チーズ投げた威力じゃねぇぞ、これ!!」

 

「これが我が魔槍術の真髄だ!!」

 

「そんなもんをチーズで使うの止めてくれない!?」

 

 

 スカサハの照れ隠し(もうこう)を潜り抜けた虎太郎は、どうにかこうにか落ち着かせ、何とか酒盛りを開始していた。

 今し方、額に激突したチーズの威力は、さながら野球の硬球を投げつけられたかのよう。脳がぐわんぐわんと揺れているが、こんな程度は日常茶飯事なので、虎太郎は全く気にしなかった。

 影の国に集ったケルトの勇士達ですら一握りしか習得できなかった魔槍術を、このように使われては彼等も浮かばれないが、開発者の使用法なので、だれも口を挟めまい。

 そもそも、スカサハの行動ややり方に口を挟めるのは、クー・フーリンや同格のフェルディア、後は怖いもの知らずのメイヴくらいのものだ。後の者は英雄であれ、恐れ戦いて何も言えない。

 

 スカサハの機嫌を窺いつつ、虎太郎はちびちびと缶ビールを舐めるように飲んでいた。

 酒が好きなわけではないが、嫌いでも飲めない訳でもない。ただ、どんな状況でアレ、飲む気にならないし、身体が受け付けないだけだ。

 そも、この男は猜疑心の塊。その偏執狂としか形容できない精神は身体にまで至り、人の手を加わったものを口にすること自体を拒んでいる。

 

 どのような毒が仕込まれているか分かったものではない。 

 

 頭の片隅に、常にその思考が存在している。

 とてもではないが、人間社会の中では生きてはいけない異常な精神だ。

 

 現代社会において、他人の手の加わっていないものなど存在しない。

 つまり、この世に存在する全てが、彼を苛む拷問器具も同然なのだ。

 それでも発狂しなかったのは、ひとえに強靭な理性と巧く自身の精神と折り合いをつけられる柔軟な思考があったから。

 

 その姿に、何か思うところがあったのか。

 それとも、酒で身体ではなく、心が酔ったのか。

 

 落ち着きを取り戻したスカサハは、ワイングラスを傾けながら、ポツリと漏らした。

 

 

「――――本気か?」

 

「あぁ? 何が……?」

 

「だから、あの話だ。その、私の願いの話だ」

 

「言っとくが、俺は殺す気ないからな。死ねるようにするだけだ」

 

 

 スカサハの願い。それは自らの死である。

 老いもせず。死にもせず。美しい死も、醜い死もない。

 かつての愛弟子は、余りにも美しく生きて死んだというに、自分自身はあらゆるものから取り残されて。

 全ては自身の行いの結果。後悔、と認めたくはないが、認めざるを得ない。そして、何よりも願っている。自身を殺して(救って)くれる何者かが現れることを。

 

 

「…………可能、かもしれん。お前の、その邪眼ならば」

 

「何だ。俺の両眼について、何か知っているのか?」

 

「知らん。魔界の者とは関わりが薄い。遥か昔に影の国に攻め入ってきた馬鹿どもを追い返してやった程度か」

 

「そりゃまた、アンタらしいっちゃアンタらしいな」

 

 

 魔界。この世界の隣に存在し、並行世界ともことなる世界。

 魔界は、魔術世界において、その存在が語られながらも、認められてはいないタブーだ。

 その理由は魔術世界における根幹を根底から覆しかねないからだ。

 

 魔術の基本である等価交換の法則を容易く引っ繰り返す魔界の魔術・魔法。

 魔術世界における“魔法”のいずれかが絡まなければ成立しないとされる死者の蘇生すら可能とする医療技術。

 既に世界の裏側へと消え去った竜種、幻想種に並ぶほどの力を持つ魔獣や異形の怪物ども。

 物理法則の安定によって消え去った神霊にも並ぶ力を持つ高位魔族。

 

 どれもこれもが魔術世界を馬鹿にしていると言っても差し支えない。

 特に魔術師達は忌み嫌っている。彼らが培ってきたもの、信じてきたものの全てが崩れかねないのだから。

 

 

「詳しくは分からんが、魔界の者どもは、其処に存在するだけでこの世界の法則を書き換えているのだろうな」

 

「そりゃ、固有結界のように?」

 

「性質としては、我々の知る“悪魔”に近いのかもしれん。存在が強大になればなるほど、自分に適した法則に書き換えねばならん故に、力の大半を失う」

 

「ふむ。確かに、高位魔族どもは魔界とは比べ物にならんほど弱体化している場合が大半だな」

 

「だが、その分だけこの世界の法則を無視した能力を容易く行使できる。それは最早、権能の行使にも等しい。故に、此方の魔術や武器による攻撃は効きが悪い」

 

 

 “権能”。

 

 物理法則が安定する以前。今より、およそ6000年以上も前の話。神霊が振るっていた、世界の法()()()力。

 時間流の操作、事象の変動、国造り、星造り。それらは、権能によるものだったとされている。

 

 英霊の持つ宝具の中にも、権能に相当するものはある。

 英雄王ギルガメッシュの持つ“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”、或いは権能一歩手前と言われるスカサハやクー・フーリンの“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”が代表的か。

 

 英霊の保有する宝具は、地域や時代によって、数も変われば威力も変わる。

 

 もし仮にギリシャにて聖杯戦争が開かれれば、最大の知名度補正を得たヘラクレスを召喚した者の勝利が確定する為、英霊同士の殺し合いではなく、魔術師同士の触媒の奪い合いに意味合いが変わってしまう。

 アキレウス、クー・フーリンのように、彼等の伝説がよく知られる地域で召喚された場合は、日本では得られなかった宝具を得る。

 

 或いは、地上とは異なる法則が支配する月の聖杯戦争においては――“天地乖離す開闢の星”は、あらゆる文明、知性体を飲み込む魔人ですら一撃の元に屠るであろう。

 

 多くの魔術が“こういう理屈で、こういうことができる”能力であるのならば、権能は“こういう権利があるので、そうする”能力なのだ。

 

 

「お前の邪眼は、その中でもとびきりだ。右は“簒奪”、左は“再現”といったところだな。ふざけているにもほどがある。その眼の前には、どのような英霊も――――いや、神霊ですら抗いようがないなどと」

 

「そいつはどうも。だが、コイツのお陰で、アンタを死ねるように出来るんだぜ? アンタは運が良いな」

 

「だが、お前にとっては不運でもある」

 

 

 ぞっとする声色に、虎太郎は思わず手にしていた缶を取りこぼしそうになった。

 

 それは死刑宣告にも等しかった。

 かつて、彼女が愛弟子の死を予言した時と同じように。

 お前には避けようのない死が待っている、と。

 

 

「あの“魔術王(ソロモン)”を討ち果たし、人理焼却の事案を解決すれば、私は消える。残された聖杯で、この私の存続を願っても意味がない」

 

「あー、厳密には、アンタは死んでいないからな。問題を解決すれば、影の国も元通り。英霊としてのアンタは存在しなくなるわけだ」

 

「その通りだ。此処での記憶は影の国に居る私に届くとでも思うか? いや、そもそも――――私本来の姿が、()()()()()()()()とでも思っているのか?」

 

 

 それ以上、スカサハは語らなかった。

 まるで、私が語るべきことではないと言わんばかりに。

 

 彼女の言葉が正しいのであれば、虎太郎は、彼女の不死性を奪えるだろう。

 だが、影の国の彼女は、此処に存在するスカサハとは元は同じであっても別存在に等しい。

 

 人理焼却という例外中の例外だからこそ召喚に応じられたが、後には記憶も残るかどうか。

 影の国の女王は長い歳月によって、その魂は死んでおり、性根は深淵の魔物と大差はない。近寄れば、どうなることか。

 影の国はケルトの勇士達ですら恐れ、あらゆる怪物が跋扈する魔境。英雄でもない身で、魔境に脚を踏み入れれば、どうなるか。

 

 ――何よりも、世界の外側に弾き出された影の国に、お前はどうやって至ろうというのか。

 

 彼は()()()()()()()()

 人として享受できる幸せを全て置き去りにして、振るう槍の如く英雄としての人生を一直線に掛け抜けた彼ですらが、寄り道が過ぎた。

 

 事の難度は、時が過ぎた故に難易度が跳ね上がっている。

 ケルトの大英雄。アルスター最強の戦士ですら為せなかった偉業に、至れる筈がない。

 

 だから、やめておけ、と彼女は暗にそう言っていた。

 

 

「ふーん、で?」

 

「…………お主、人の話を聞いていたか?」

 

「勿論、どうでもいい奴の言葉なら聞き流すが、どうでもよくない相手の言葉はちゃんと聞くよ、俺は。ただ、話を聞いても結論は何も変わらんね。隣、失礼」

 

「――――お、おい」

 

 

 床で胡坐をかいていた虎太郎は立ち上がると、ベッドに腰掛けていたスカサハの隣に腰を下ろす。

 

 聞くだけで恐ろしい話を聞かされてなお、虎太郎は揺るがない。

 元より、想定はしていたのだろう。スカサハの願いを叶える為には、どれほどの地獄を潜らねばならないかを。

 ここまで彼がスカサハに拘る理由は特にはない。他のサーヴァントと同じだ。協力の対価として、彼等彼女等の願いを叶える。真っ当なマスターとサーヴァントの関係を全うするだけの事。

 

 

「ちょいと耳を拝借。ぽしょぽしょぽしょ」

 

「…………………………………………」

 

「どうよ? 出来そうな気がしてきただろう?」

 

「………………………………………………………………お前は、馬鹿か」

 

 

 虎太郎が語ったのは、如何にして事を成し遂げるか、という案だ。それは余りにも荒唐無稽――ではなかった。

 理路整然として、運の要素に頼り、綱渡りに過ぎるものの、スカサハですらが、或いは、と考えるほどのものであったようだ。

 

 彼女が馬鹿だと評したのは、虎太郎の案に対してではなく、そんな案に思い至るまで考え抜いた虎太郎に対してだ。

 

 ――凡夫凡俗が考えて、考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。

 

 精神と魂を擦り切れるほど思考実験を繰り返さねば、その(こたえ)には至れまい。

 

 そんなものを、いずれ消え去るだけの身に過ぎない者に報酬を支払う為だけに行うなど、馬鹿げているにもほどがある。

 そもそもサーヴァントが彼に従っているのは、人理を守る為、世界を守る為に過ぎない。

 英雄として、かつて憧れたものを、かつて慈しんだものを、かつて残したものを守る為に戦っている時点で、報酬は支払われていると言っても過言ではない。

 

 スカサハも同じだ。聖杯への願いはあるが、得られなくとも構わない。ただ英霊として、ただサーヴァントして、自らの役割を果すまで。

 

 だのに、この男は律儀にも、自身の願いを本気で叶えようとしているのだから。

 

 

「正気を疑うな。ここまで律儀な馬鹿者だとは思わなかったぞ」

 

「完全に正気だろ。考えるのは正気の特権だ。アンタに協力を求めた責任と義務もあるしな」

 

「意外、と言えば意外だな。責任や義務など、お前が嫌いそうな言葉だ」

 

「勿論、そんなものは大嫌いだ。だがまあ、やりたくなくてもやらなきゃならないことくらいあるだろう」

 

 

 本当に嫌そうに、虎太郎は肩を竦めた。

 面倒を嫌い、効率を求める男には、責任や義務など重しにしかならない。

 だが、知っている。そういったものに骨を折らねば、いずれは全てを敵に回してしまうことを。

 

 それに何より――

 

 

「それにアンタ、可愛いしな。命かけるにゃ充分な理由だろ」

 

「…………………………」

 

 

 ――女好きを公言するなら、女の為に命くらいはかけねば。それだけの価値のある女だろう、アンタは。

 

 

「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが――――ここまでの大馬鹿者とは」

 

「安心してくれ、自覚はある。後、アンタを連れてこれれば、仕事も凄く楽になるって打算もある!」

 

「台無しだ、馬鹿者」

 

「おやおや? そうは言いつつも目を合わせてくれないのは何でかな? ん? 顔が赤くなっちゃったかな?」

 

「ええい! 人の顔を覗き込むな! 揶揄うな! 分かっていてやっているだろう、お主!」

 

「ええ、当然ですが、何か?」

 

「お主はぁっ……!」

 

 

 必死で顔を逸らすスカサハの顔を覗き込もうとする虎太郎であったが、彼女の手に押し退けられて阻まれてしまう。

 

 スカサハは、ド直球(ストレート)な言葉に弱い。

 心臓を貫く槍のように、真っ直ぐに求められると堪らなく心が震えてしまう。

 元々の性質だったのか。それとも長らく魂も精神も死んでいた反動なのか。

 華美な言葉で飾るよりも、語彙などなくとも本音本心を端的に伝える方が効果的だった。

 

 呆れるほど年を重ねた自分が、この程度の言葉で生娘のように赤くなるなど、と恥じらいから更なる朱に染まる。

 

 その時、キラリと虎太郎の両眼が邪念で煌めいた。好機、とばかりに。

 

 

「――――――おい」

 

「頃合と思ったんでね。あと、アンタを抱きたくなったんだが、駄目か?」

 

「駄目だ――――と言いたい所であるが、な」

 

 

 油断していたスカサハをベッドに押し倒した虎太郎は、答えの分かり切った問いをかけた。

 冷ややかな視線を向けていたスカサハであったが、不承不承とふてくされながらも、虎太郎の首に両手を回す。拒絶の意味である筈もない。

 

 

「こうまで求められては、断れん」

 

「嫌なら止めるけど?」

 

「私に言わせるな、馬鹿者っ」

 

「俺の性癖上、言わせたくなるもんで。駄目か?」

 

「その、聞き方は、卑怯、だぞ……」

 

「卑怯で結構。互いに気持ち良くならなきゃな。オレにも少しは付き合ってくれ」

 

「く、くぅっ――――――――――わ、私を、お前の(もの)に、しろ」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

「私は、嫉妬深いからな。他の女にかまけて、私を忽せにするなぞ、許さんからな」

 

「知ってるし、安心してくれ。俺は釣った魚にもたっぷり肥え太るくらいに餌はやる。だから、プライドの塊みたいなアンタの顔を、涙と涎でぐちゃぐちゃになるくらい抱かせて貰おうか」

 

「――……こ、このぉ、鬼畜めぇ♡」

 

 

 

 一度は燃え尽きた筈の欲望の炎が、激しく燃える。

 抑えきれぬ熱と期待は、彼女の身体を焼き尽くさんばかり。熱はそのまま、男の首に回した腕にまで伝わり、彼の欲望をも刺激する。

 

 やがて、二つの影は一つに重なる。

 

 ――――燃え盛るような熱い夜は、まだ、始まったばかりだ。

 

 




というわけで、魔界の独自設定お披露目&師匠完堕ち&御館様、こういう時にばっか無駄に男らしいの三本立てでした。

ぶっちゃけ、女に対しては御館様はケルトレベル。
まあ、御館様の場合は女を手に入れるために親をぶっ殺したりはしませんが、余計な恨みを買いそうなので。

あと魔界云々はもう、lilith世界と型月世界が違い過ぎるので、こんな感じに。
因みに魔界の方が人界よりも歴史が古いので、型月世界の方に来ると、それだけで天敵という感じ。自分ルールを押し付けてくるので、そういう設定でなきゃ対抗できねぇんだよ、lilithのキャラは! パワーインフレすげーな、おい。
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