「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」 作:HK416
はー、久方ぶりに時間があるー! 筆が乗ってる乗ってるよぉー!!
さて、次のイベントはCCCで確定。その前に、開幕直前キャンペーン、だと……?
これはガチャをしたくなるぅ! 英雄王欲しいよぉ! 全体宝具アーチャーの☆5が居ないのほぉ!
まあ、エミヤとアタランテで十分っちゃ十分だけど、あの対サーヴァント特攻は魅力なんだよなぁ。正月は武蔵ちゃんと師匠に全振りしたし。しかし、BBちゃんも欲しい! どうすべきか!
というわけで、今回は上乳上とのご対面です。どぞー。
『緊急事態だからこそ、現状把握を怠ってはならない。あと説教も』
聖槍ロンゴミニアドの光が島へと突き立てられてから三時間。
島の中心部から離れた虎太郎専用の水上コテージの前の砂浜に、カルデア一同が会していた。
この緊急事態である。
各個がバラバラに動くよりも、まずは頭の意思を汲んでから動くべきなので当然だ。何ら不思議はない。
ただ、不可議な点は一つだけ。
カルデアに召喚されたサーヴァント達の何名かが砂浜の上で正座をさせられていたからだ。
アーラシュを中心に、呪腕、静謐、百貌のハサン、ロビン、ジャック、ナーサリー、アタランテ、ヘラクレスの九名。
この九名が何をされているかと問われれば、説教を受けていた。
無論、説教をしているのは彼等の主たる虎太郎であるのだが――――表情が凄いことになっている。
「………………――――――」
一瞬、彼の素顔を知る人間であれば目が点となること請け合いだ。いや、そもそも人間と判断して貰えるかも怪しい。
額に第三の目が生まれ、額からは角が伸び、鮫のようなギザッ歯から猪の如き牙が伸び、耳は象を思わせる巨大さとなり、顎からは何故か象の鼻が伸びている。
最早、完全な異形である。
いや、人間の顔がこんな風になるわけないじゃないですか。きっと彼の怒りが幻像を象っているだけに違いない。もしくは、対魔粒子のせいだ。きっと、恐らく、メイビー。
そうでなければ、いくら魔族の血を引いているからって、こんな異形になれるわけがない。
「――――…………何か、申し開きはあるか?」
地獄の奥底で罪人を責め苛む石臼の拷問器具が鳴り響くような声色である。
ただの怒りでここまでの声が出るのか、と英霊達も冷や汗を掻かざるを得ない。
今の虎太郎なら、巌窟王だってクハハハハハハハ! と爆音上映で笑いながら召喚に応じてくれるに違いない。
彼が何をそれほどまでに怒り狂っているのか。
それはこの正座させられた九名が、昨日に行った魔猪狩りである。尤も、狩りは成功しなかったし、被害が出た訳でもない。
現状、目の前に現れた聖槍による危険性とは全く関係がないように思えるが、話を統合していけば、その魔猪が、聖槍の主が島に召喚されてしまった原因である可能性が非常に高かった。
が、そこはそれ。
虎太郎が怒り狂っているのはそこではない。
その獣が、こんな事態を引き起こすなど誰も予測できない。自身ですらそれぞれの話を統合して、ようやく見えてきたのだから。そこにはとても怒れない。
失敗も仕方がない。英霊とて失敗談はあるものだ。優れた力を持っていようとも、全能ではないのだから。そこにも怒らない。
彼が怒っているのは、ただ一点。サーヴァント達が報告・連絡・相談を怠った点である。
「い、いやぁ、た、大将、お、オレ等もですね? 大将に苦労を掛けまいとですね?」
「僭越ながら、主殿は休暇中の身なればこそ。日頃の疲れを癒して頂く為に、勝手な真似を……」
「ほう! オレのためにか! それはありがたいな!! いや、本気でな! ありがっとおぉっぉぉおおおおぉおぉぉおっっっっ!!!!」
(これは本気で感謝しているようだな)
(同時に本気で怒り狂ってるから全部台無しさね)
(………………尤もだ。もう一人の嵐の王よ)
感謝100%で構築された言葉を、怒り100%で構築された声で放つ。
口を開いたロビンと呪腕も、反省しつつも苦笑いである。
「まあいい! お前等は主犯格じゃないし、普段から問題児じゃないからこれで終わりだ! 次からちゃんとホウレンソウしろよな!!」
「はいよ、了解っとぉ」
「ハッ、胸に刻んでおきます故」
「承知しました、主よ……これでは我等も他人を
「狩人の面目丸潰れだ……はあ、悪かったとも」
「――――■■ッ」
「むぷー、おかーさん、うるさーい」
「むぷー、マスターの為に皆頑張っていたのに」
「返事は短くハキハキとぉおおおおお――――っっ!!!」
『――――はいッ!』
統一感などなくバラバラに、思い思いの言葉を口にする仲間達に怒号を飛ばし、無理矢理統一させる。
好き放題やらせているように見えて、好き放題にやっているように見えて、こういう所はきちんと締める男だ。この辺りに抜かりはない。
解放された七人は、ある者は頭を掻きながら、ある者は本気で反省しながら、ある者は落ち込みながら、ある者はぷりぷりと怒りながら立ち上がる。
さて、残されたのは二人。
虎太郎はその内の一人である静謐にギンと視線を向ける。その視線を受け、ひっ、と静謐は息を飲んだ。
そら、(元々気弱な静謐が、化け物そのもの顔で睨まれたら)そうなる。
「聞いたぞぉ~? 静謐ぅ~? アーラシュを止めようとしたんだってなぁ~?」
「は、はい、お、仰る通りです」
「偉い! いいぞぉ~、その判断!」
「ハッ、私は如何なる処罰をも――――…………はっ?」
元々、叱責は当然と考えていたのだろう。
魔猪を狩れなかった時点で、本人の言葉通り、如何なる処罰も受ける覚悟であったに違いない。
それ故、思いもよらない称賛の言葉に、静謐は喜びを覚えるよりも困惑の方が勝ってしまう。
可愛らしい少女の表情で、ぱくぱくと口を動かして何か言葉を捻り出そうとするが、とても声にならないようだ。
「だが! なんでそこで、自分の意見を通さねぇ!! 自分が正しいと思ったのなら、きちんと話し合いで納得するまで押し通さんか!! どうしてそこで諦めんだよぉぉおおおぉ―――――っっ!!!」
「ひ、ひぇ…………も、申し訳ございません。以後、気を付けますぅ……」
「よし! お前も分かってきたな! 失敗したら次に頑張ればいいんだ! それでいい、いいぞぉ~!!(裏声」
説教を受けているのか、叱咤激励されているのやら。
何だかよく分からない気分になったまま、肩を落として立ち上がり、とぼとぼと女性陣の方へと戻っていった。
静謐を迎えたのは、やっちゃったねと苦笑いを浮かべるブーディカとマリー。そして虎太郎の狂乱振りに頭を痛め、眉間を抑えるメディアであったそうな。
「さぁて、今回の主犯の番だぞぉ~? アーラシュくぅん……?」
「…………………………」
(アーラシュ殿、落ち着いておられますね)
(ゴールデン……! 流石は、戦いを終わらせる大英雄。ちっとやそっとじゃ揺らがねぇ……!)
虎太郎に視線を向けられたアーラシュは、説教が始まった当初から変わらぬ姿勢を貫いていた。
口元を真一文字に引き結び、瞳を閉じ、虎太郎の語る一言一句を聞き漏らすまいとしているかのようである。
そして、大きくうむと頷くと、すすすと上体を倒し――――
「済まなかった……!」
【えぇぇええぇぇぇぇ!!! 土下座ぁぁぁぁ?!?!】
東方の大英雄、まさかのDOGEZAである。
「止めろぉぉぉ!!! お前がオレに土下座するなぁぁぁ!! 居た堪れない気分になるだろうがぁぁぁぁあぁ!!!」
「え? いや、お前だってオレによくやるじゃないか。日本じゃ、これが謝罪の作法なんだろ?」
「このド天然がぁぁ!! それはそれとしてゴメンねぇ!! 誤解させちゃってぇ!!」
思わぬ天然振りを発揮するアーラシュに、虎太郎が謝る羽目になってしまうのであった。
「……ったくよぉ」
「悪かったな。もう少し早く片が付くと思ったんだが……」
「まあ、今回は相手が悪かった。それにお前ひとりで突っ走らなかっただけ良い傾向だ。それやられたら憤死してたわ」
「ハハ。最近は自分でも治ってきたかと思って、気が緩んでたみたいだな。報告、連絡、相談もキッチリ、だな」
「オレはお前と違って一人で何でもやろうなんざ思わん。任せる時は任せられる奴に任せる。余りオレに気を使うな」
「…………了解だ。失態は行動で雪がせてもらうさ」
降参だ、とばかりに両手を上げながらも、アーラシュの口元には涼やかな笑みが浮かんでいる。
彼が何を思ったのかは彼にしか分からないが、大きな納得と笑みと同様な涼やかな気分であろうことは間違いなかった。
「――――ふふ」
「……あぁ? 何だ、エウリュアレ? 何が可笑しい?」
「いいえ。別に、何も? ただ、相も変わらず苦労する星の下に生まれてきたマスターね、と思っただけよ」
「…………(ブチッ」
エウリュアレ。
ギリシャ神話に登場するゴルゴーン三姉妹の次姉に当たる。
彼の三姉妹は神話に語られる怪物――などではなく、元々はオリュンポスの神々よりも古い土着の神であり、地母神に当たる存在。
コアトル同様に、正真正銘の神霊だ。ただ、人々が想像する神らしい力は何一つ持ち合わせていない。彼女の神核は“永遠の偶像”を意味しているが故に。
不老不死、永遠ではあるが、誰かに守られねば生きていけないか弱い存在。ステータスを“強さ”や“スキル”ではなく、“可憐さ”に全振りした神霊と言えば分かり易いか。
だが、何の因果か。永遠の偶像である筈の彼女は、サーヴァントとなることで戦闘能力を獲得した。
それも対男性特化。男を魅了し、男を破滅させる側面が表に現れた結果だろう、というのがアルフレッドの推察だ。
そして、カルデアにおいて虎太郎と最も仲の悪いサーヴァントでもある。
エウリュアレも虎太郎を嫌っており、虎太郎もエウリュアレを嫌っている。
エウリュアレの側に立って彼女を弁護するのであれば、虎太郎の彼女の扱いが非常に悪いからとしか言えない。
どのレベルかと問われれば、黒髭よりも少しマシ程度としか答えようがない。事ある毎に泣かされているほどだ。
元より、人々に愛されるだけの女神であるエウリュアレにそんな扱いを耐えられる筈もない。今、苦労に喘ぐ虎太郎の姿を見れば、皮肉の一つも言いたくなるというもの。
虎太郎の側に立って弁護するのであれば、彼女の性格に難があるからとしか言えない。
彼女は人々に愛される女神であり、基本的に我儘で、自己中心的。人間が好きなのではなく、気に入った人間がジタバタするのを見るのが大好きな性悪女神など、虎太郎にしてみれば近寄りたくもない存在だ。
そんな存在など、本来なら考慮すらせずに即自害させる男であるが、アステリオスがいるから、という理由のみで、嫌々使っているだけなのだ。
元々、性格的な相性が良くない上に、顔を突き合わせる度に関係が拗れていくので、どんどん嫌い合っていく。
しかも、互いが完全に歩み寄るつもりが一切ないので、関係の改善の可能性は絶無なのであった。
「令呪を以て命ずる――――」
「あら、いやだ。気に入らない相手にはすぐそれだもの。本当に低俗で野蛮なマスターだこと。でもいいわ、自害させるならさせて頂戴。魔猪や聖槍の担い手との戦いなんて、御免だもの。一足先にカルデアに戻っているわ」
アステリオスとの関係を保つために、自分を本気で自害させるつもりがないことを分かっているからこその態度。
精々が今の霊基を放棄させて、カルデアに戻すことしかしない。カルデアにある霊基基点まで破壊するつもりはない、と高を括っていた。
だが、虎太郎の口から飛び出たのは、エウリュアレにとって想像を絶する一言であった。
「――――黒髭、ぺろぺろしろ(ニッコリ」
「うぉぉーー!! 拙者、今まで黙っておりましたが、思わぬ役得展開に大歓喜ですぞー! うぉぉー! エウリュアレたん! うぉぉーっ! ぺろぺろぺろぺろぺろーーーーーっ!!!」
「いやぁぁあぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁあぁ――――っ!!!!」
ひゅぽー! と蒸気を上げながら、舌を縦横無尽に動かしながら、エウリュアレに迫る黒髭。
女性陣はその悍ましさに鳥肌を立たせ、男性陣であってもドン引きの姿である。
一瞬で涙目になったエウリュアレは、周囲に助けを求めたが、全員が全員ともさっと目を逸らす。
別段、彼女が嫌われているわけではない。虎太郎との関係に比較して、他のサーヴァントとは上手くやっている方である。
ただ、周囲の心境にしてみれば、雉も鳴かねば撃たれまいにと言ったところだ。
虎太郎の性格を考えれば、泣かさせるのは目に見えていた自業自得――――と無理矢理納得する。詰まる所、今の黒髭に近づきたくすらないのであった。
最後に、エウリュアレは同じ神霊系サーヴァント、女神仲間であるコアトルに助けを求めるが――――
(諦めなさい。
――――生暖かい目で見守られるだけだった。
コアトルの本音も、黒髭に近寄りたくないからであったが、それは言わぬが花。凄いな黒髭、今のお前は神性すらも退けるぞ……!
だが、孤立無援のエウリュアレにも最後に残った味方はいる。
「………………うぅ」
「うぉぉー! アステリオス氏ー! 其処を退けー! いや、ホント、お願いぃぃぃ――――!」
そう、我らが天使アステリオスである。
純粋無垢なアステリオスが、嫌がるエウリュアレを見捨てる筈もなく、間に割って入る。
そうすれば、どうなるのか。
虎太郎の命令を思い出して欲しい。
『黒髭、ぺろぺろしろ』
で、ある。
誰を、とは一言も言っていない。何を、とも一言も言っていない。
今の黒髭は目の前にあるものをぺろぺろするだけ。汚物だろうが、魔神柱だろうが、舌を這わせるぺろぺろマシーンなのだ。
必然的に、割って入ったアステリオスが対象となる。
「…………うぅ、気持ち、悪い」
「ならば、其処を退くでござるよぉ、アステリオス氏ぃ! 拙者も男の腹筋などぺろぺろしたく――――あっ、なんか変な気分に」
「ダメだ……エウリュアレは、僕が守る……!」
「やだっ、アステリオス氏、すっごく漢前……!(キュン」
うーっ、梅干しでも口にしたかのような表情で、ただ耐えるアステリオス。
そんなアステリオスに乙女心を目覚めさせる最高に気持ち悪いぺろぺろマシーン黒髭。
大好きなエウリュアレの為に一歩も引かないアステリオス。暴力で物事を解決しようとしない穏やかなアステリオス。
最高に男の子で、最高に格好良いぞ! どっかの性悪女神とか、どっかの腐れド外道とは比較にならないぜ!
だが、そんなアステリオスを見て、黙っていない保護者もいるわけで……。
「死ねぃ、黒髭ぇっ―――――!」
「■■■■■―――――っ!!!」
無事、黒髭は大量の鏃で貫かれた上に、鉄塊によってミンチとなった。無論、どっちも宝具込みである。
「さて、話を続けるぞ……!」
「ええ。ええ。分かっていますとも、コタローは的確な行動に定評のあるマスターですからね。ですが、何も嫌がらせでもその的確さを発揮しなくても……(死んだ魚の目」
「え? 何か問題でも?(無関心」
「まあまあ。ジャンヌ、エウリュアレとアステリオスは哀れだと思うけど、さ。黒髭は間違いなくギルティ(輝く笑顔」
「さぁ、害獣駆除も終わりましたし、今度は魔猪の方を駆除しますわよ……!(輝く笑顔」
「………………………………ええ、そうですね!(開き直り」
馬鹿騒ぎが一息ついたメンバーは、顔を突き合わせて情報を整理する。
何はともあれ、まずは現状把握と情報整理。これを苦手とする英霊であっても、虎太郎の下に召喚された以上は嫌が応にでも参加させられる。
そして、顔を出さない者も皆無である。虎太郎の言葉、説得。更には実践によって、この二つを行ったと行わなかったとでは、戦いの難易度が激変することを叩き込まれたからだ。
まず、魔猪について。
アーラシュを筆頭とする九名は、それぞれの得意分野を生かして島に潜む魔猪を追った。
アーラシュは島で最も高い山の頂上に陣取り、千里眼で。
山の翁とロビンは、自らの脚で島を掛け回って。
アタランテを筆頭としたヘラクレス、ナーサリー、ジャックは獣狩りの知識を元に。
結果は惨敗。魔猪を狩るどころか、その影を踏むことすら出来なかった。
だが、決して無駄ではない。情報と言う無二の宝は手に入れていた。
「そもそもおかしいんですよ。アタランテとアーラシュの見立てじゃ、
「洞窟などもありましたが、それほどの巨躯が身を隠せるほどではありませなんだ」
「我等の叡智を使っても、島の地下に空洞や地底湖らしきものも確認できなかった。そもそも入る為の大穴もない」
「山の上から全体を俯瞰してみたが、木々の高さもそれほどじゃない。姿を消していても、動けば森の形が変わるが、それもなかった」
以上の点を以て、魔猪は姿を消せるのではなく、姿形を変えることで追跡を躱してみせたと結論付けられる。
多くの魔獣が持つ『変化』のスキルを持つことは間違いない。
「かなり賢くもある。蹄の跡を追っても泥の中や川へと入ったりと、匂いも足跡も丁寧に消している。まるで追う者の心理を知り尽くしているようだ」
獣にどれほどの自我があるのかは、不明だ。
だが、一体一体に個性は確実に現れる。鏃を向けられても果敢に向かってくるもの、興味を持つもの、恐怖を覚えるもの。反応はそれぞれ変わる。
加えて、変えようのない習性も存在している。兎には兎の、熊には熊の、猪には猪の、変えられない
アタランテの経験上、それは確かだった――――だったのだが、この魔猪にはそれらしさが一切存在していない。
「痕跡は確かに魔猪のそれだ――――――だが、私には、これが魔猪とは思えないな」
アタランテの言葉の矛盾、少ない情報から導き出される答えは一つ。
この魔猪は生まれながらに猪の形に生まれ落ちたのではなく、何か別の形――――人の追跡を知っているが故に、人から魔猪へと転じたものである可能性が極めて高いということ。
ならば、『変化』のスキルを持っていても不思議ではないだろう。
そして、次は聖槍と担い手について。
『昨夜の爆心地を計測した結果ですが、エルサレムで確認した時とは、威力も魔力濃度も絞られています。数値に換算しても宝具火力は1000から3000。サーヴァントとしておかしい所はありません』
「アルフレッドと同じ意見ね。確かに、恐ろしい威力ではあるけれど、アレなら私の魔術でも十分に威力を削げる。獅子王のそれと比べるのも馬鹿らしいわ」
「右に同じく。僕は三流魔術師だから魔術的な視点からモノは語れないけれど、獅子王のそれと昨夜のそれは、音が全く違っていた。まだまだ人間的な響きだったよ」
アルフレッドは、計測器による測定結果を。
メディアは、魔術的な観点による評価を。
アマデウスは音楽神の加護とも偽れる超絶の音感による体感を。
三名の結論は同じ。
昨夜、現れた光の柱は間違いなく聖槍によるものではあるが、獅子王によって放たれたものではない。
考えられるのは、死ぬべき時に死ねず、彷徨う亡霊の王となった獅子王ではなく、多くの悲しみと苦悩を背負いながらも、穏やかに破滅を受け入れた騎士王が召喚されたと見るべきだ。
それも、聖剣を主兵装とした騎士王ではなく、聖槍を主兵装とした騎士王のIFが。
これは不幸中の幸いだった。
獅子王でないのならば、同一の存在であっても話し合いの余地はある。
加えて言えば、聖槍の騎士王はあくまでも本来は召喚されえないIFの姿。聖剣の騎士王と記憶を共有していない可能性は極めて高い。
つまり、アーサー王自害事件は全く知らないのである。
交渉の余地あり。巧く立ち回れば戦力増強の可能性あり、と面倒事に間違いないが、至れり尽くせりでもある。
「……でも、分からないわ」
「マタ・ハリ、何がだ?」
「いえね。その魔猪と騎士王様に、一体どんな繋がりがあるのか、がよ」
「ああ、そういうことか。お前はアーサー王の伝説は詳しく知らないんだな。伝説に登場するんだよ、猪の怪物が。ガウェインとモードレッドにも確認を取った。その伝説は脚色された歴史ではなく、立派な史実だ。であれば、全ての筋が通る」
アーサー王は故国ブリテンを守る為に、多くの外敵や怪物と戦った王だ。
その中の一つに魔猪トゥルッフ・トゥルウィスが存在している。
かつて人の王であったが暴虐を尽くし、神罰によって猪へと変えられた男。
だが、猪の姿になってなお暴虐に陰りはなく、同じく猪へと姿を変えられた七人の息子と共に、アイルランドとブリテンを蹂躙した魔猪の王。
最後は、息子達を全て討たれ、自身もアーサー王の目的であった巨人の櫛と鋏を奪われ、戦意を喪失して海に去ったとされる。
人から獣となり、変化の能力を有する魔猪。
追う者の心理を知り尽くしたかのような足取り。
島の生物へと働いた貪食と虐殺。
そして、魔猪が島へと流れ着いてから、騎士王がサーヴァントとして召喚された事実。
人理定礎修復が干渉した後の特異点では時折、サーヴァントが召喚される。
大抵は、姿の殆どが崩れた、或いは影としてしか認識できないシャドウサーヴァントとして、ではあるが。
だが、条件を満たせば話は別。龍脈の付近であること、大気中に高濃度の魔力が含まれること――――
――――
状況証拠と条件。全てが整っている。虎太郎達の推察は全て正しいだろう。
「ところで、そのモードレッドとガウェインの姿が見えないじゃない。それにラーマもいないわよ。何処に行ったわけ?」
「ああ、それならね――――アレよ(溜め息」
マルタの口にした疑問に答えたのはカーミラであった。
彼女が顎で示した先には、確かにガウェインとラグネル、ラーマとシータの二組の夫婦が砂浜で抱き合っている。
「ラグネル。あぁ、ラグネル」
「シータ。なんて、愛おしいんだ」
「あ、あのガウェイン様。苦しくなるほど抱き締めて下さるのは嬉しいのですが、そのような場合では……」
「ラーマ様も……も、申し訳ありません。何とか何時ものラーマ様に戻しますから、もう少しお時間を……」
「いや、そのままでいいぞ、二人とも。脳みそ蕩けたバカ共は当てにしない。いざと言う時、夫のケツぶっ叩くことだけ考えておけ(虚無感」
「あの、先輩、そんな声色で言われても、お二人とも何の安心もできないと思いますぅ……」
幸せ過ぎて頭がパーになった夫の代わりに謝罪をする出来た嫁's。
貴重な戦力がずんどこ使えなくなっていく様に、虎太郎の目は昏く堕ち沈んで死んだ魚の目になった。毎度の事なので気にしてはいけない。
さて、馬鹿ップル二人はある程度予測は出来ていただろうが、モードレッドはどうなったのか。
かつて第六の特異点において、獅子王の所業に誰よりも怒りを覚えたのは、他ならぬ彼女だ。
騎士王が殉じた理想を見定めようと召喚に応じたモードレッドには、許せる筈もない。
島に現出した光の柱に、獅子王の影を見出したモードレッドは完全武装で先走ろうとしたのだが、ヘラクレスとコアトルによって取り押さえられる羽目となった。
そして、あの光の柱は獅子王によるものではなく、精神的にかつてモードレッドが憧れた騎士王に近しい存在によるものと分かるや否や――――
「もー、モードレットさぁん! いい加減に出て来てくださいよー」
「モ、モードレッドは只今整備ちゅー! 忙しくて誰にも会えねー! あー、蛮族退治の準備が大変だなー!」
「だーかーらー、蛮族なんてこの島にはいませんよぅ」
――――虎太郎のコテージに逃げ込んだ。
モードレッドはかつても今もアーサー王に対して、愛情とも憎悪とも付かぬ複雑な感情を抱いている。
ただ、かつてとの違いは、アーサー王の理想を僅かばかりでも理解したこと。
その所為で、かつての自身の所業を振り返り、とてもではないが合わせる顔がない。どうしようもなく会いたいのに、どうしようもなく会いたくないという、背反する思いを抱いていた。
という訳で、モードレッドは今や立派な引き籠り中なのであった。
「つーか、この部屋くっせぇ! 獣クセェっ! なんだよこれ、マスター、何喰ったんだ、何やったんだよこれぇ……!?」
「え? 何ってそりゃナニでしょうけど。マスターが食べたのは多分、スカサ――――いえ、何でもありません。というか、分からないんですかぁ?!」
「えっ?! 何が……?」
「……………………(プルプル」
「ねぇ、スカサハのおばあ――――」
(――――しッ! ジャック! そこはおば様よ!)
「んぐぐ――――おば様。大丈夫? 顔真っ赤だよ。あと、脚も内股で膝もガクガク」
「いや、ジャック、気にするな。その、なんだ…………そう、(女としての)鍛錬のし過ぎでな。うむ、些か以上にやり過ぎであったな!(早口」
お陰様で、この
モーさんは虎太郎の部屋の匂いに悲鳴を上げ、沖田はモーさんの無知っぷりに驚き、スカサハは二人の会話が耳に届いて顔が真っ赤になり、ジャックとナーサリーは紙一重で折檻を回避している。
協調性がないようである、あるようでない。いや、やっぱりちょっとある、が虎太郎のカルデアなのであった。
『それから聖槍の騎士王の召喚に合わせて、三つの霊基反応を確認しました。現在、解析中です』
「騎士王の召喚に合わせて…………なら、円卓の騎士である可能性が高いですね」
「だろうなぁ。さて、誰が来るか。嘆きのトリスタンか、憂いのランスロットか、銀の腕のベディヴィエールか。それともそれ以外の騎士か」
「どちらにせよ、話し合いの見込みは十分にありますね。トゥルッフ・トゥルウィスの討伐に協力し合えるかもしれませんし、そのまま契約を結んで頂けるかもしれません」
「ああ、そうだな。でもなぁ、円卓の騎士かぁ。数を揃えすぎると勝手に内部分裂しそうなんだよなぁ……」
「では、ランスロット卿だけは即座に座に還って頂きましょう! あの人のせいで円卓は割れたようなものなので!」
【ランスロットェ……】
「ぶふぅーーーーーーっっ!!!」
輝く笑顔でランスロットの処遇を決めるマシュ。
あんまりにもあんまりな扱いに、その場にいた虎太郎以外の全員が同情するのだった。
あと、全く話など聞いていなかったはずのガウェインは、ランスロットの扱いにだけは耳に入ったのか、思わず噴き出していた。
どこまで残念なイケメンになるつもりなのだ、ガラティーン卿。もとい、ガウェイン卿。
(あの光の柱、間違いなく騎士王と魔猪が交戦した証。他の三騎も騎士王側についているはず――――――放っておけば魔猪と戦わなくて済むな、これ。騎士王が倒してくれればの話だが)
【また絶対、あくどいこと考えてる……】
(あー、思ったよりも苦労しなくて済むかも……やったぜ!)
状況を整理し、自分が苦労しなくても済むと安堵の吐息を漏らす虎太郎。
だが、甘い。甘すぎる算段だ。虎太郎が望まなくとも、必死で回避しようとも、苦労の方から彼に正面衝突しに来るのが彼の運命である。
そもそも、休暇に選んだ特異点の島に、アーサー王伝説に登場する魔猪が流れ着く確率は、天文学的な数字だろう。
無論、虎太郎もその辺りは理解している。在り得ないことが起こるのが人生であり、自分の場合は特に起こりやすいと。
必死で考えないようにしているだけである。それを自覚してしまえば、それを認めてしまえば、とてもではないがやっていられない。
ともあれ、魔猪の討伐が確認されるまで無視を決め込む方針だ。
此方は魔術王との決戦を控えた身、余計な戦力と物資の消耗は避けるべき、という尤もらしい理由を添えて。
事実は単に面倒だからである。虎太郎の理想としては魔猪も騎士王も共倒れしてくれること。最も楽だから。
――――そんな思惑は、思いついてから三秒で粉砕されることになるのだが。
「――――――来たな」
「……来てるなぁ、これ」
「来て、おりますなぁ」
「ああ、来ておるな」
「来ていますね、ええ」
雷鳴の如き凄まじい轟音が遠方から近づいてきている。
明らかに巨大な何かが、木々を薙ぎ倒して前進する音である。
音だけでも分かる深い憎悪と猛る怒りを糧に、全てを薙ぎ倒さんとする意志。
いつもの五人が、溜め息交じりに呟きながら、虎太郎を見る。まるで、コイツのせいだ、と言わんばかりである。
虎太郎は青筋を立てながら、マシュは何とも言えない表情で笑いながら、音源の方向に視線を向けた。
砂浜に面し、島の中央部まで続く森の中。
山の影から現れた魔猪は、小山のような巨体で木々を薙ぎ倒しながら進んでいた。
視線は自らの鼻先に落とされ、時折、巨大な牙で地面を抉り上げ、土塊と共に木々を天高くに打ち上げている。
「目視で魔猪の姿を確認! アーラシュさんの推測通りの巨体です!」
「しかもアレ、誰か追ってるじゃねーか! お、おい、やめろ! こっちくんな! こっちくん――――こっちキターーーーーーッッッ!!!(甲高い悲鳴」
カルデア一同が集まった地点から500m先の砂浜に、四つの影と巨獣が躍り出た。
先頭を奔るは
獅子の意匠の施された兜を纏ってはいるが、身から発せられる清廉な雰囲気は遠目でも一目で彼女だと分かるほど。
その隣、ドゥン・スタリオンの
「ベディヴィエール卿……!」
――アーサー王の近衛。サー・ベディヴィエール。
彼の姿を確認したマシュの心底から嬉しそうな声で、彼の名を呼んだ。
エルサレムの特異点において、誰よりも彼に感情移入していたのはマシュだ。この反応も不思議ではない。
「いや、そっちの方は分かるんだが、後ろの二人は、何で来てんだ……?」
「………………そう言えば、輝く貌の死因は、確か魔猪に致命傷を負わされたから、ではなかったか」
「十中八九、それが原因であろうよ。そして、主の方も釣られて召喚されたか。最後は悲劇で締めくくられておるのに、仲の良い主従だな」
アーサー王とベディヴィエールにやや遅れて、追走しているのはディルムッド・オディナとフィン・マックールの二名。
三騎全てが円卓か、その関係者と踏んでいた虎太郎は肩透かしを喰らったが、驚きは余りない。
そもそも円卓の騎士の大半は、色々とやらかしてアーサー王に合わせる顔がないのである。
しかも、揃いも揃って根が真面目なものだから、余計に話が拗れる。
自分の失態や不徳を、少なくとも表向きには気にせずにアーサー王へと話しかけられるのは、グランドクソ野郎のマーリンくらいのものか。いや、彼であってすら、色々と後悔を抱えているのだが。
―――――
――――
―――
――
―
『アーサー王は理想の王様。だから、ド外道には普通にドン引きする』
「――――――くぅっ!」
「サー・ベディヴィエール! 怪我は!」
「委細問題なく! トゥルッフ・トゥルウィスの執念には、呆れ返るばかりですが……!」
密林から砂浜へと躍り出たアルトリアは、島の構造も分からないままに直感でドォン・スタリオンを繰る。
彼女が召喚されたのは昨夜。
サーヴァントとして現界するのは初めての経験であったが、英霊が現世へと召喚される可能性についての知識は座へと至った時点で手に入れている。動揺はなかった。
召喚時の引っ張られるような感覚から、何らかの触媒による召喚だと受け入れたが、視界を覆っていた白い光が晴れて目にしたモノに、彼女はようやく困惑を手にした。
周囲は見覚えのない木々や植物の生い茂る暗い真夜中の森。
自身を召喚した魔術師の姿も見えず、かと言って、
何一つ知らされないままに大海へと投げ出された気分になったアルトリアであったが、自身と同じく召喚された三名に動揺を押し隠した。
『此処は――――獅子っ?! …………いえ、大変な失礼を。我が王よ。サー・ベディヴィエール、此処に』
『ぬ…………おぉ、この清廉にして苛烈な気配! セイバーか! …………あ、いや、違うな。成程、こういった妙というものも在り得るか』
『おお、類を見ない名馬に、そして聖なる槍。誉れ高き騎士王か。ははは、同じランサーのクラスとなれば、技の一つも競いたくなるものだが――――』
『――――見つけた、見つけたぞ』
『どうやら、挨拶もそこそこに手を取り合わねばならぬかな、これは……?』
ベディヴィエール。ディルムッド・オディナ。フィン・マックール。
そして、木々を割って現れ、かつて打ち払った時とは比べ物にならないほど巨大に成長したトゥルッフ・トゥルウィス。
予想だにしていなかった強敵に、なし崩し的に戦闘となり、共闘した三名の稼いだ時間を代価に聖槍を解放し、トゥルッフ・トゥルウィスを何とか一度は追い払った。
その後、三名の話を聞きながらアルトリアは自らの置かれた現状を、ゆっくりとではあったが把握していった。
人理焼却、その原因となる特異点、魔術王。
特異点に召喚されるはぐれサーヴァント。
今、隣に立つベディヴィエールが、己の知る彼とは違う存在であることと彼の犯した罪。
聖槍ではなく、聖剣を携えた己の存在。
ベディヴィエールの罪、運命の悪戯によって聖槍に飲み込まれた獅子王の所業。
殊更、獅子王の行いと存在は、彼女の両肩に重く圧し掛かった。
何せ、自分の行きつく先を知ったようなもの。僅かなボタンの掛け違いで、英霊となった今でもそう成り果てる可能性が存在しているのだから。
とは言え、彼女に落ち沈んでいる時間など皆無であった。
トゥルッフ・トゥルウィスは、何度となく襲い掛かってきたのである。
変化の能力を存分に使い、不意を突いては離れるを繰り返してきた。
執念だけで千年以上もの時間を生き延び、神獣の域に至った彼は賢しく、執拗に、何度でも。貴様を殺すまでは、と。
この島に聖杯はなく、マスターも不在の状態。
召喚時に龍脈から吸い上げた魔力しかない彼女等ではジリ貧である。
宝具の解放は、即時消滅を意味する。それでもトゥルッフ・トゥルウィスは倒し切れるか分からない。
既に死した身とは言え、自身の詰めの甘さが招いた事態。あの魔猪を捨て置くわけにはいかなかった。
何か打つ手は、と四人で魔獣の強襲を躱し続けていたが、トゥルッフ・トゥルウィスは遂に最後の戦いを挑んできたのだった。
「はっはっは。いや参った、打つ手なしとはなぁ……!」
「笑っている場合ですか、フィン・マックール!」
「くっ、相手が魔猪でさえなければ……!」
「そうだな、ディルムッド。私も相手が美女であれば輝けるのだが。尤も、お前が持ち前の美貌と黒子で横から掻っ攫っていくのだろうがね。グラニアのように! グラニアのように!」
「我が君、今はその手の冗談は止めて頂きたい……!」
何処か緊張感に欠ける二人に、アルトリアは大きく溜め息を吐き、ベディヴィエールは苦笑いを浮かべる。
追い詰められていると言うのに、この二人はずっとこの調子だ。
それもむべなるかな。ディルムッドは年老いたフィンの嫉妬によって破滅し、フィンはディルムッドを見捨てたことで破滅を引き寄せた。
ただ、そんな過去を忘れ、真っ当な主従関係を築ければ、二人は満足なのである。ぶっちゃけ、トゥルッフ・トゥルウィスとか関係ないのだから。
「ん、アレは…………サーヴァント! それもアレだけの数が、これはまさか。ベディ――――」
「ほげぇぇええぇぇぇぇええぇっっ!!!! コタローーーーーーーーッ!!??」
「――――ッ?!(ビクゥッ」
ケルトの主従漫才から視線を外し、砂浜の遥か前方に発見したサーヴァントの一団に、アルトリアはベディヴィエールから伝え聞いた人理継続保障機関“カルデア”を連想する。
自らの部下に確認を取ろうとしたのだが、当のベディヴィエールは冷静沈着な彼からは考えられない濁声の悲鳴を上げていた。
余程のトラウマでも背負っているのか。彼の顔は蒼白、鼻水まで垂らしているではないか。
馬を繰りながらも、これは話にならないと判断したアルトリアは、カルデアを知っているディルムッドに視線を向けた。
「ディルム――――」
「貴様ァァァアアァァッッ!!! 此処で会ったが百年目ぇぇええぇぇぇええぇぇッッッ!!!」
「――――ッ!?(ビクゥッ」
のだが、当のディルムッドはサーヴァントの中に混じる人間を発見すると、血涙まで流して自らの憎悪を表現していた。
もう、背後から迫る魔猪のことなど頭にない様子。これでは言葉など届かないだろう。
アルトリアは困惑から、最も頼りにならないと思っていたフィンに視線を向ける。
「むぅ。マズい。拙いな。これは拙いぞぅ……!」
「ど、どういう意味ですか……!」
「毎度お馴染みのパターンということさ! まあ、何はともあれ、君は速度を上げたまえ! 私はダメそうだが、君達だけでも生き延びるんだ! 君の直感もそろそろそう告げる筈だがね!」
「――――ッ!」
フィンの言葉通り、アルトリアの直感は身の危険を映像として告げた。
自らでは次の瞬間に起きる出来事を止められないと判断したアルトリアは、非情に徹してドゥン・スタリオンの速度を上げる。
「そう、それでいい。では、ディルムッド、お前も生き延びて彼等の力となれ。我々が悪役など、一度で十分だからね――――――“
「ぐっふぉあぁああぁぁ――――っ!?!?」
フィンはディルムッドに餞別の言葉を贈ると、最短速度・最小威力で自らの宝具を発動させた。
“無敗の紫靫草”。零落した神霊アレーンを倒したとされるフィンの持つ魔法の槍。
その一撃は、彼の祖先である戦神ヌアザの司る“水”の激しい奔流を伴う。
水の奔流は、ディルムッドの背中に直撃し、アルトリア達よりも彼の身体を大きく前方へと弾き飛ばした。
フィンはディルムッドの身に然したるダメージがないことを確認すると、立ち止まって槍の柄頭を砂浜に突き立て――――
「ふむ、私にしては、よくやった方ではないかな、これは。ディルムッドを助けて消えるなど――――――」
――――背後から迫るトゥルッフ・トゥルウィスの牙の一撃を受けると同時に、砂浜から次々と立ち上る炎の柱に飲み込まれていった。
「ランサーが死んだ!(既視感」
「この人でなしぃぃいぃぃぃ!(絶叫&号泣」
その光景に、アルトリアは何処か別の時空の自分の記憶を受信し、ベディヴィエールは短いながらも共に戦った勇敢な仲間の死に、涙を流すのであった。
―――――
――――
―――
――
―
「――――――地雷大平原の術」
「何をやってるんですか、先輩ぃぃぃぃっ!!」
「いやね、
「つーか、フィンとディルムッドが出てきた時点で、こうなるって予測してやりましたよねぇ、大将っ!!」
「は? 当たり前やろ、そんなん。“
「この人類の悪性腫瘍!」
「この腐れ外道!」
「ふっ、聞こえんなぁ。残念な方のケルトはハイクも詠まずに死ね」
地雷起動用のPADを蔵の中へと仕舞い、マシュとロビンの罵倒を無視して取り出したのは拡声器であった。
『あーテステス、よし。ディルムッドくーん、君の親分死んじゃったけど、どうするー?』
「おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇ!! 一度ならず、二度までもぉぉぉおおぉぉおぉぉ!!」
『君の気持ちはよく分かるよぉ! でもね、これだけは言わせてくれ――――ディルムッドぉ、後ろ後ろぉ!』
「貴様の甘言になど―――――え? あ……」
アメリカの特異点での一件を記憶しているディルムッドは、虎太郎の言葉など右から左。寧ろ、憎しみばかりを募らせていた。虎太郎の所業を考えれば当然である。
だが、虎太郎憎しで、自らの主の別れの言葉すら聞き流してしまうのは如何なものか。そして、後ろから迫る敵の言葉まで頭から消え去ってしまうのも。
元々、感情的な男ではないにせよ、騎士道に固執する余り、重要なことを忘れて聖杯戦争で痛い目に合ってしまう男だ。仕方がないと言えば仕方がない。
そして、虎太郎を睨みつけていて奔ることすら忘れたディルムッドは、案の定、トゥルッフ・トゥルウィスに踏み潰されてしまった。
「ディルムッドが死んだ!(歓喜」
『この人でなしぃっ!』
厄介事が一つ減ったと虎太郎は笑顔を浮かべ、サーヴァント達は契約主の行いに戦慄の悲鳴を上げる。
勿論、虎太郎は何処吹く風である。悪びれるとか、誰かに同情するなどの心の反応は、彼からは根こそぎ抜け落ちている。
虎太郎は拡声器を捨て、ざくざくと砂浜を進んでいく。
もう既に、フィンとディルムッドのことなど、頭の中にはないだろう。
視線の先には、速度を落とし始めたアルトリアとベディヴィエールが居た。
「――――おい、二人とも、大丈夫か!」
「貴方が、カルデアのマスターですか。ベディヴィエールから事情は聞いています。しかし、ディルムッド・オディナとフィン・マックールは……」
「いやぁ、残念だったな、本当に!」
「まさかとは思いますが、あの爆発は貴方が……」
「何の事だか分からないよ!(すっとぼけ」
「う、嘘! 嘘です! 王よ、騙されないで下さい!」
「おぉっと、久し振りだなベディ。その様子じゃエルサレムの記憶もあると見える。折角再会したと思えば、開口一番でそれとは。でもよく考えて欲しい。あの炎、地面から出てただろ? 風魔の宝具じゃねぇ?」
「……………………」
「騙されないで下さい、ベディヴィエール殿! 僕ではないですから!!」
「嘘ではないですかぁ!!」
「嘘だけど?」
根が単純なのか。それともエルサレムでの一件で虎太郎に対して恩義を感じているからこそなのか。
一瞬だけ騙され、涙目になるベディヴィエール。流石は円卓一のヒロイン力の持ち主である。無意識の行動があざとい。
「談笑している場合ではありません。どうか力を貸して頂きたい。あれは私の不始末、まして、このまま捨て置けばどうなることか」
「勿論だ。だが、アンタたちは休んでいてくれていいぞ。見た所、もう少しで魔力切れだろ?」
「し、しかし……」
「分かっちゃいたが、こっちのアンタも真面目過ぎだな――――――行くぞ、お前等ぁ!
聖剣の騎士王と変わらぬ頑なさと真面目さに呆れながら、虎太郎はアルトリアに休むように告げる。
まるで、自分一人で何もかもを背負い込み、笑顔すら忘れてブリテンのために戦い続けた彼女を労うかのようだ。
アルトリアが再度何かを告げようとしたものの、虎太郎の号令にアマデウス、ロビン、アタランテ、アーラシュがそれぞれの武器を構えて前に出れば、閉口せざるを得ない。
「では何時も通り、僕は耳を」
「はいよぉ、オレは鼻ね」
「では、私は右だな」
「残った左をオレか」
「獣狩りの鉄則その一! まずは目と耳と鼻を封じろ!」
アマデウスが指揮棒を握ると、彼の魔力で構築された楽団員が姿を現した。
楽団員は一様に真っ白なタキシード姿の天使を象っている。但し、脚もなければ、首もない。
まるで己の音楽のためには、動く脚も考える頭も不要、楽器を爪弾く腕と指さえ在ればよいと言わんばかりの造形。
偉大な音楽家ではあるが人でなし、と言われる彼らしさが形になったかのようだ。
楽団員がアマデウスの振るう指揮棒に合わせるがまま、完璧の音調、完璧な旋律を奏でる。
アマデウスが操る音楽魔術は音を媒介として音を操る。此度、始動した魔術の効果は、集中と増幅。
集中は奏でた音に指向性を与え、方向を決定付け、増幅は文字通りに音量を上げるだけ。
如何な天才の奏でる音楽も、度が過ぎれば拷問に等しい。
音量は際限なく大きくなり、それが両耳に集中する。それは最早、音響兵器の領域である。
トゥルッフ・トゥルウィスの鼓膜は破れ、両耳から派手に血が吹き出るほどの
だが、止まりはしない。ようやく出会った怨敵を前にして、積もりに積もった怨念が、忘れようもない屈辱が、途方もない憤怒が、この程度で止まる訳もない。
三半規管へのダメージによる平衡感覚の喪失を、四足歩行という獣の特性で補い、僅かによろめくだけに収めてのけた。
「――――ぐぉおぉおおぉぉっ!!」
だが、次の瞬間に、魔猪の嗅覚と視覚は一瞬で奪われる。三騎のアーチャーによる一矢によるものだ。
ロビンは鏃に溜めた毒を魔猪の鼻の前で爆散させて鼻を潰し、名誉挽回と意気込んだアタランテとアーラシュは寸分の狂いもなく両目を射貫く。
これには流石のトゥルッフ・トゥルウィスも、猪突を緩めざるを得ない。
敵を追う為の器官を全て奪われた。これでは、殺したくて殺したくて仕方がない相手を追うことが出来ないではないか。
「獣狩りの鉄則その二! 次は四肢をぶっ潰す!」
「僕達の出番だねぇ! 分かるとも!」
「■■■■■■■■――――ッッ!!」
其処に、エルキドゥとヘラクレスが前に出た。
エルキドゥは自らを変容させ、掌から鎖を作り出し、先端をヘラクレスへと投げ渡す。
“変容”は自らの身体を自在に作り変えるスキル。
似て非なるスキル“変化”との最大の違いは、状況に応じてステータスを振り分け直せる点。
より強い力を望めば筋力に。より速く動きたければ敏捷に。より強固な盾が欲しければ耐久に。
今望むのは筋力だ。ヘラクレスに負けぬほどの絶大な筋力を。
筋力に全てを割り振ったエルキドゥは、手にした鎖をヘラクレスとともに引き合う。
ギチリと鎖が悲鳴を上げる。だが、千切れはしない。この鎖は如何なる神々をも縛る強固さを秘めている。
英霊中最高の腕力によって張り詰められた一本の鎖を、目も耳も鼻も潰された魔猪は避けることは叶わない。
如何な巨体と言えども、神話の中で神々に代わって世界を支えたとされるほどの腕力、それと同等の力を得た神造兵器に勝りようがない。
砂浜に凄まじい轟音と擦過音を轟かせながら、魔猪の巨躯が滑っていく。
当然、四肢による推進が失われれば、あとは摩擦による抵抗で止まるだけ。
何が起こったのか何一つ分からないまま、猪突する死はようやく停止した。
彼には既に疑問すらない。ただただ思い通りにならない己の境遇を憎み、自らを王として扱わなかった少女を憎み続ける。
――尤も、それは潰されたはずの五感ですら感じ取れる、二つの巨大な太陽を認識する前までであった。
「獣狩りの鉄則その三。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「本気で憐れんで上げるわ、トゥルッフ・トゥルウィス。もう休みなさい。憎み続けるのも、疲れるものよ――――――私は蛇! 私は炎!」
「――――
「これから毎日、焼き討ちしようぜ!」
コアトルが慈愛すら感じられる声色で魔猪に哀れみの言葉を伝え、自らの宝具を発動させる。
彼女の全身から風と炎が逆巻き、天上へと伸びていく竜巻と化した。
カルナの生み出す炎、虎太郎が(無意味に)放つ火炎放射器の炎すら巻き込んで、より熱く、より大きく、より高くまで。
炎の竜巻は、魔猪の巨体を焼きながら、ほぼ一瞬で天高くまで舞い上げる。
自らの宝具と権能で火の鳥と化して追い縋ったコアトルは、見る影もなく焼け焦げた魔猪の身体を両腕で掴み、流星の如く砂浜へ向けて急降下した。
「“
解放される真名。
数少ない彼の救いは、慈悲と慈愛に満ちた女神による最期であることだけだった。
「……………………これは酷い」
「よもや、これほどとは……」
ベディヴィエールは目頭を押さえながら、完全にオーバーキルされてしまったトゥルッフ・トゥルウィスを憐れんだ。
彼の優しさを考えれば、いくら王の御身を脅かした魔獣と言えど、複数のサーヴァントによる袋叩きは目も覆いたくもなるのも頷ける。
エルサレムでも毎度毎度こんな感じではあったが、暫らく見ない間に、とんでもない戦力まで補充されていて戦慄を隠せないようだ。
アルトリアもまた茫然としていた。
サーヴァントの特性を把握し、それぞれの役割分担を決めておき、効果的で合理的な戦術。
既にいくつもの特異点を攻略するだけの実力はあると聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかったようである。
「お二人とも、お怪我はありませんか!?」
「はい、問題ありません。マシュ殿、お久し振りですね。息災のようで何よりです。コタロウは相変わらずアレですが」
「は、はい、相変わらず先輩は誰にでも容赦がなく……と、兎も角、またお会いできて嬉しいです!」
「――――…………申し訳ありません。私の不始末を肩代わりさせてしまいました。謝罪と、そして感謝を」
「いえ、困った時はお互い様です。ベディヴィエール卿には、何度となく助けられましたから。これで少しでも恩を返せるのなら、嬉しいです」
近寄ってきた少女に、円卓の騎士で最も優れた人格の彼を思い出し、アルトリアは言葉を詰まらせながら感謝の言葉を口にする。
返ってきたのは、やはり彼によく似た言葉と笑顔。胸を締めつけられる郷愁を覚えながらも、獅子の兜の下でアルトリアは穏やかに微笑んでいた。
そして、感謝を伝えるべきもう一人の人物に、アルトリアはドゥン・スタリオンに跨ったまま向かっていく。
コアトルによる一撃。
砂浜に出来たクレーターの中心には、頭から突き刺さったままのトゥルッフ・トゥルウィスの遺体があった。
そして、虎太郎は恨み骨髄と言わんばかりに、まだ遺体に向かって火炎放射器で炎を撒き散らしている。
クレーターの上では太陽神の分霊と太陽神の息子が、片手で顔を覆って首を振るばかり。毎度の事ではあるが、この振る舞いには頭を痛める他ないようだ。
「………………あ、あの、どうか、その辺りで(震え声」
「え? そう? まだ足りない。足りなくない?」
声を掛けられ、虎太郎はアルトリアに視線を向けたものの、火炎放射器のトリガーから一時も指を放さない。燃料がなくなるまでやるつもりだ。
これには、聖槍の騎士王もドン引きして声を震わせ、敵ですらなかったトゥルッフ・トゥルウィスに同情せざるを得なかった。
はい、という訳で、ケルト主従また死ぬ&ブリテン主従戦慄&上乳上ドン引きの回でした。
上乳上の設定ですが、色々と独自のものですのであしからず。
ブリテンの破滅は自分の不徳と納得して受け入れているので聖杯も求めていないし、satyの経験も経ておりません。よって、シロウも関係ない感じ。
まあ、実際、青王と上乳上は座とかどうなってんのかよく分からんので、こんな感じで。つまり、何をしてもNTRじゃないってことやで(にっこり
もっとも、だいぶ先の話だろうけどなぁ!(ゲス顔