※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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CCCイベ、先が待ち遠し過ぎる。
ちらほらとあの最低最悪の宝具をブッパするエロ尼の気配を感じつつも、それぞれの謎の行動に目を引かれますねぇ。どうなってしまうのか。

そして、メルトリリスは性能的に微妙なのか。使った感じNP効率と星出しはそんなに悪くななかったけど、スキルが微妙い。そしてリップちゃんは大正義B宝具のバスターゴリラ、大した原作再現だ。鈴鹿御前は宝具後にクリティカルUP、賢王様とマーリンと組ませて星をポコジャカ出させる運用がいいかしら?

そして、ついにお迎えした英雄王の天地乖離す開闢の星の威力にビックリ。いくらサーヴァント特攻と言えど、全体宝具で単体宝具並みのダメージとか嘘やんって思ったけど、嘘じゃなかった。運営のヤケクソ強化というのにも納得。こんなん笑うわ!

というわけで、サマーバケーション編最終話。どぞー



『長期休暇中も一仕事するとか苦労人の鑑』

 

 

 

 

『名も無き島の浜辺にて』

 

 

 

 

 

「疲れましたー!」

 

「どうだどうだ、マスター! 泳げるようになったぞ、ざまぁみやがれ!」

 

「はいはい、ご苦労さんご苦労さん」

 

 

 モードレッドのカナヅチ改善を開始してから数時間。

 水への恐怖心をすっかり克服したモードレッドは、あっという間に泳げるようになってしまった。

 

 元々、一流の英雄だ。その身体能力や運動神経が悪い筈もない。

 水への恐怖心さえ克服してしまえば、後は存分に生まれ持った能力を発揮するだけのこと。

 今や、その実力たるや指導者である沖田や虎太郎すら凌駕するほどだ。これはケイも超える日は近いか。いや、それはないな。ない。

 

 三名は、砂浜に突き立てられたパラソルの日陰の中にレジャーシートを敷いて、寛いでいた。

 

 

「う~ん、少し頭がクラクラします。遊び過ぎたでしょうか」

 

「おいおい、大丈夫かよ。ほら、スポーツドリンク。水分補給しとけ、水分補給」

 

「ありがとうございます、モードレッドさん。……うっ……キンキンに冷えてやがりますね……ありがたい、涙が出ます……犯罪的です……うますぎる……んくんく……ぷはぁ……ッ!」

 

「お、沖田? 喜び過ぎじゃね?」

 

 

 ざわ……ざわ……し始めた沖田に、モードレッドは思わず瞼を擦る。沖田の鼻と顎が人を刺し殺せそうなほどに尖って見えたからだ。

 瞼を擦り、首を振ってみれば、何時もの沖田に戻っていた。一体、何の幻覚だったのか。

 

 勢いよくスポーツボトルの中身を飲み干した沖田は、口元を拭う。

 しかし、沖田の不調がどんなものであるにせよ、そう簡単に治るものではない。

 最近は血色の良かった顔色は蒼白く、病弱のスキルが発動しているようだ。

 

 

「どれ、熱はない。熱中症じゃない。となると、単なる脱水症状か」

 

「オレら、サーヴァントなんだけど、そんな風になるのか?」

 

「沖田はスキルで病弱を持ってるのを忘れたか。こうやって、何らかの病や不調として現れるらしいな。対処法も人間のそれと変わらん」

 

 

 “病弱”は天性の打たれ弱さ、虚弱体質を示すスキル。

 沖田は元々の体質のみならず、後世に語り継がれた逸話によって民衆が抱いた心象から、無辜の怪物に近い呪いを受けている。

 彼女の場合は目眩、頭痛、熱。酷い時は結核の末期症状が襲ってくる。薬の類は効かないが、症状を和らげる方法は変わらない。

 

 

「こ、この程度、なんてことは……」

 

「沖田ー、気持ちは分からないでもねーけどよぅ。そういうとこ直せよ。ほんと迷惑だぜ」

 

「全面的に同意だな。安心しろ、約束通りに最後まで戦わせてやる。但し、オレの命令を聞いている間だけだ。オレでも、新選組でも命令を聞かなければどうなるか、分かっているだろう?」

 

「……良くても切腹。悪ければ戦いにも出られずに冷や飯喰らいです」

 

(う~ん、間違っちゃいないんだけど、価値観狂ってんな、コイツ)

 

(武士とか幕末の連中は皆価値観狂ってるから)

 

(そういうマスターもな。日本人はどっか可笑しい。バーサーカーばっかだし)

 

 

 

 モードレッドは口にこそ出さなかったが、沖田の言葉に呆れていた。

 彼女の価値観からすれば、良い事と悪い事が逆なのだ。命令違反で腹を切るくらいなら、戦いにも出されずに冷や飯喰らいの方がマシだろう。

 

 最後まで戦って死んだモードレッド。

 病床に伏せり、戦うことなくこの世を去った沖田。

 次こそは、最後まで戦い抜く事。それが紛れもない沖田の願いであり、どうしたところで二人の価値観は交わらない。

 

 そもそも、将として戦場に立ったモードレッドと剣士としてしか戦場に立った事のない沖田とでは、戦いに対する視点に違いが生まれて当然だ。

 戦場の規模も、投入された兵士の数も異なっている。

 単なる時代の違いに過ぎない故に、安易にどちらが間違っているのかと語り合うことほど愚かなことはない。

 それぞれの時代、それぞれの国で、掲げた信念や価値が異なる故に、異なっていて当然なのだ。

 

 

「ほれ、休める時には休む。無茶と無理ばかりのオレが言うのも何だがな。少なくとも、オレは他人には迷惑をかけないぞ」

 

「わぷっ…………あ、アレ? あ、あぁぁ、ぁのマスター、これは俗に言う膝枕という奴なのでは」

 

「枕がないんでね。まあ、男の膝枕なんぞ嬉しくもないだろうが、そこは勘弁してくれ」

 

「い、いえ、このような……」

 

「いいから。黙って寝とけ。倒れられると面倒なんだよ」

 

 

 沖田の額に手を置くと、そのまま身体を横にさせる。頭は虎太郎の伸ばした片足に乗せられた。

 

 気恥ずかしさからか、沖田は頬を染めたが、虎太郎は気にした様子はまるでない。

 初めの内は抵抗を試みたものの、額を押さえられた沖田は為されるがまま。最終的に妙な安心感と心地良さに包まれて、抵抗する気力も奪われてしまう。

 頭を撫でる手は、遠い日、記憶にも残っていない筈の父親のそれを彷彿とさせて、全てを投げ出してしまうほどの眠気を誘ってきた。

 

 沖田が不調と疲れからうとうとし始めたのは良かったのだが、問題はモードレッドの方である。

 いじらしくも虎太郎に好意を向けるモードレッド。これを見て、普通でいられるはずもない。

 

 ピシャーンと雷打たれたかのような表情、或いはフレーメン反応状態の猫のような表情で、沖田を見ている。

 やがて、ぐぐぐと表情を歪めてソワソワし始め、何かを閃いたかのようにポンと手を打った。

 

 

「あ、あーぁ、なんかオレも寒気がしてきた気がするなー」

 

「……………………ふーん。じゃあ、オレの上着着ていいよ」

 

「あ、それから頭痛もしてきた。これはこのままじゃマズいよなぁー(チラッチラッ」

 

「……………………そうだね。じゃあ、モーさんも、どうぞ」

 

「ッシャ! ……じゃあお邪魔様ー、っと………………ふぉ、ふぉぉぉぉ」

 

(なんだ、この生き物は)

 

 

 モードレッドは沖田と同じように虎太郎の太腿を枕に寝転がる。

 すると、妙な奇声を上げて、キラキラと目を輝かせる。初めての感触からなのか、それとも単に嬉しいだけだったのか。

 

 叛逆の騎士の名を返上し、二心なく仕えてくれる彼女を労うように、虎太郎は頭を撫でた。

 彼女が本当に欲しかったものには到底及ばないが、感謝や称賛を込めた手付きにモードレッドはニッと笑ってみせる。

 誰が何と言おうと、本人がどれだけ否定しようとも、彼女は愛情に餓えている。

 父は王として在る余りに無関心。母は妄執に取り憑かれ、彼女を道具として扱うのみ。

 

 元々波長が合ったというのもあるだろうが、モードレッドが此処まで虎太郎を慕うのは、その辺りを察した上で接し続けたからに他ならない。

 有り体に言って、虎太郎はモードレッドの傷を利用しているのだが、モードレッドも十分に理解している。

 何せ、当人から明かしたことだ。感傷であろうが、トラウマであろうが利用できるものは何でも利用する男だ。

 他の者との違いは、自ら利用すると宣言し、明かすこと。無意識のまま操られるか、意識して操られるかでは心証がまるで違ってくる。

 

 何処までも卑劣で卑怯で恥知らず。だが、不思議と嫌いになれない。そんなラインを絶妙のバランス感覚で保ち続けるのである。

 

 安堵か、疲れか。

 モードレッドも沖田同様に、重くなった瞼を閉じると、鼾を掻きながら眠ってしまった。

 どうしてこう、妙なところで女子力が低くなるのか。

 

 

「――――全く、この素直さを大好きな父上の前で見せてやればいいものを」

 

 

 二人のお陰で動けなくなった虎太郎は、モードレットの心境を理解しながらも、一人ごちながらも苦笑する。

 

 この案件に関わると決めた当初、英霊達との関係はもっとビジネスライクになるだろうと踏んではいたが、蓋を開ければこの様である。苦笑の一つもしたくなろう。

 だが、考えていれば当然の事。英雄は人でありながら、人ではなくなってしまった者達の総称だ。感情の浮き沈み、悩みの重さも人並み外れている。

 それらを受け止め、解消することで、優れている力をより優れた形で発揮できるというのならば、面倒に変わりはないが苦労も対価と割り切れる。

 

 ――さて、此処でも一つ。面倒事を解消するとしましょうか。

 

 何をするでもなく、薄らぼんやりと青空を眺め続ける。

 虎太郎の予想では、そう時間のかからない内に、目的の人物は自分からやってくるだろう。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「お隣、よろしいですか……?」

 

「――――ああ、勿論」

 

 

 二人が夢の世界に堕ちてから、一時間。虎太郎が待っていた人物は、予想通りにやってきた。

 聖剣を握った彼女とは、よく似た別の人生を歩んだ存在。万に一つ、億に一つの可能性。聖槍を携えたアルトリア・ペンドラゴン。

 

 威厳に満ちた無表情を穏やかさで崩しながら、アルトリアは虎太郎の隣に腰を下ろすと眠るモードレッドに視線を向けた。

 その視線に込められる感情を読み取れるのは、虎太郎くらいのものだろう。何せ、アルトリア自身も言葉に出来なければ、判然としていない筈だ。

 

 

「…………驚きました」 

 

「あぁ? 何がぁ?」

 

「彼女が、このような穏やかな表情を見せることもあるのか、と……」

 

「……………………うぅ」

 

「………………」

 

 

 今のアルトリアの表情を見れば、モードレッドも同じ感想を抱くことだろう。

 王としての顔ではなく、個人としての顔は、驚くほどに暖かみに満ち、かつてキャメロットで見せた何らかの機構染みた冷徹さは微塵も感じられない。

 

 アルトリアはモードレッドに向かって手を伸ばしたが、彼女が眠ったまま寝返りを打つと其処で手は止まった。

 かつて、モードレッドに言い放った言葉を思い出したのか。それとも、モードレッドが言い放った言葉を思い出したのか。

 

 触れる為に伸ばした筈の手は、目的を果さずに膝の上へと戻されてしまう。

 

 

「別段、遠慮する必要もあるまいに。触りたきゃ触ればいいだろう」

 

「遠慮、という訳では、ありません。ただ…………」

 

「何だ。同情でもしてるのか?」

 

 

 虎太郎は心底から呆れた表情と視線をアルトリアに向ける。

 彼女が見せたのは、弱り切った笑み。今、彼女は自分自身のことすら分からないだろう。

 

 キャメロットの崩壊は約束されていた。

 どれだけアルトリアが理想の王(国の機構)として在り、手腕を振るおうとも、先王から溜め込んだツケは、離れていく民の心は、襲い来る無数の外敵は如何ともしがたい。

 確かに、最後の一押しを加えたのはモードレッドであるが、もしモードレッドが思い留まったとしても、自身の最期も、キャメロットの結末も変わらなかっただろう。

 

 それ故、モードレッドに対して無関心でなくなった今は、彼女に抱くのは憎しみではない。

 肉体的、精神的に成長し、視野が広がった彼女が抱いたの一種の哀れみだ。

 

 モルガンの性根はよく理解している。

 器がないにも拘わらずブリテンの王になるなどと嘯き、憎悪と妄執を重ねる邪悪な姉。そんな者が、我が子とは言え、まともな教育など施すわけもなく、ただただ道具として扱ったに違いない。

 今にして思い返せば、円卓の末席に名を連ねた頃のモードレッドの必死さと優秀さも、貴方の子だと明かしてもなお拒絶された果ての憎悪と凶行も――

 

 ――全ては、私に認められたかっただけなのか。 

 

 彼女は、そう考えずにはいられなかった。

 考えれば考えるほど、思えば思うほどに、自身の言動がモードレッドにとって、どれだけ残酷であったのかを思い知る。

 

 モードレッドが王の器になかったのは事実であり、政治的な理由から嫡子として認められなかったのも事実。

 だが――――だが、自身が僅かでも彼女に対して無関心でさえなければ、崩壊という結末は避けられなかったとしても、モードレッドの心くらいは救えたのではないか。

 

 

 『王は人の心が分からない』

 

 

 そんな言葉を吐き捨てて、キャメロットを去った騎士が居た。

 今ならば、アルトリアはその真意と意味が痛いほどに理解でき、どうしようもない倦怠感が全身を襲ってくる。

 

 しかし、思考が深く落ち沈んでいくのを遮るように、彼女の額が指で弾かれた。

 

 

「……っ、な、何を」

 

「いや、考え過ぎだと思ってな。どう考えてもアンタは被害者だろうに」

 

 

 虎太郎の呆れは、モードレッドへの同情に対してではなく、そんな余分なものまで背負おうとしているアルトリアの生真面目さに対して向けられたものだった。

 

 アルトリアは、少なくともモードレッドの一件に関しては間違いなく被害者である。

 確かに、彼女自身も悪手を打ったところもあるが、思い悩むレベルの事由ではなかった。何せ、言葉選びが悪かっただけであり、何より当時の情勢、王としての立場を鑑みれば当然のこと。

 

 寧ろ、悪かったのはモードレッドの方だ。

 自らの存在自体がキャメロットを揺るがしかねないのを理解していなかった。

 突然、何の心当たりもない不義の息子が目の前に現れた父親の、王の気持ちを考えなかった。

 王位を継承しなかったのは、モードレッドを嫌ってのことではなく、当人に王として必要な能力がなかったから。

 

 

「いつまで経っても円卓の末席だったのは、アンタの考える騎士として一皮剥けなかったから。王位を継がせなかったのは、優れた王としての能力がなかったから。王としてのアンタと個人としてのアンタを混同したのが一番悪い。当時のアンタに個人(プライベート)なんて一つもなかったのにな」

 

「…………しかし、それでは余りに」

 

「事実なんだから仕方がない。大体、モーさんもモーさんだ。自分の立場ってもんを弁えなかった。アンタと不仲だったモルガンとの間に生まれた子だぞ? アンタから王位を奪う為に生み出された子だぞ? そんなモノを愛する人間なんて居る訳ないじゃないか。王という機構であり続けたアンタに、人間らしい情など期待する方が間違っている」

 

「……意外ですね。モードレッドと貴方は、随分と仲が良いと聞きましたが」

 

「いや、勿論、仲良しこよしさ。それはそれとして、相手の悪い所や欠点を指摘して何が悪い」

 

 

 アルトリアの知るモードレッドの性格では、必ず何処かで破綻を来してしまう。

 

 良くも悪くも、モードレッドは子供だった。

 誰よりも感情に正直で、民を虐げる外敵には怒りを、虐げられた民の亡骸を前にして悲しみを。

 少なくとも円卓に名を連ねた当初は、そんな素直さはあったのだ。

 

 それ故に、この物言いはモードレッドにとって余りにもキツ過ぎる。

 事実であるが故に、怒り狂って斬り殺されていないのが不思議なことだ。

 

 

「ああ、そりゃあアレじゃないか? オレにも悪いところがあるからな」

 

「それは知っています(早口」

 

「そいつは結構。ほら、自分の悪いところを指摘されても、相手の悪い所を指摘して、何のかんので有耶無耶に終わる。適度に怒りを発散できるだろう? ふふふ、これぞ処世術よ」

 

「………………」

 

「いやはや全く。妙なところで似ているなアンタらは。異様なほど頑固で、根は真面目で、負けず嫌い。そりゃ上手くいかないわけですよ」

 

 

 そして何より、互いの立場に思いを馳せた後も、相手の気持ちを考え過ぎて、まともに話せなくなるところもよく似ている。

 

 似た者親子、と言わずに、似ているで留めたのは、アルトリアの気持ちを慮って言葉を選んだ。

 未だ、彼女はモードレッドを自らの子供などと思えていない。ここで、僅かな気持ちの揺らぎを生めれば、良い方向に勝手に転がっていく。

 

 この手の、自身に非のある人間や心に瑕のある人間の扱いは抜群に巧い。当人が、それを自覚している辺りが、更に悪辣さを加速させている。

 

 

「…………ならばこそ、私はモードレッドと対話を拒むべきでしょうね」

 

「それは、何故?」

 

「かつて、彼女が憧れた私と今此処に在る私は、余りにも掛け離れている」

 

 

 聖槍を持ち続けたことで、神の視点を得てしまった。

 未だ英霊の身であるが、性質は変化しつつある。行きつく果てに待っているのは、人を保存(まも)ろうとし、エルサレムで虐殺を行った、あの――――

 

 アルトリアは首を振り、邪念を振り払おうとしたが、振り切れない。

 別の可能性を歩んだ自身の気持ちが、痛いほどに理解できてしまう。それが否応なしに、己も変質してしまっていると自認せざるを得ない。

 

 何にせよ、モードレッドの求めているものを与えることは出来ない、と判断したのだろう。

 彼女の求めているものは、かつてのアルトリアが慈しんだものそのもの。不用意に、団欒の場に足を踏み入れるのも躊躇われる。

 

 

「頑なになるなよ。そもそも、その自覚がある時点で既に獅子王とは違う。踏み止まる心があるのなら十分だ。今、こうして話している時点で、アンタはまだ、何が美しく、何が尊いのかを理解している証左だろうに」

 

「………………」

 

「何より、モードレッドの事を考えられるのなら、心に余裕がある証拠だ。良い傾向だろう? あと、ガウェインの事でも動揺もしてたしな!」

 

「そ、それは言わないで下さい(震え声」

 

 

 冗談を交えながら、アルトリアに心に浮かんだ悪性腫瘍を一つ一つ潰していく。

 聖剣の騎士王では、こうも容易くはいかないであろう。潰すことさえ一苦労になる筈だ。

 だが、悩みと憂いはあろうとも、成長しているからこそ受け止められる強さがあり、思考も柔軟で視野も広いと虎太郎は結論していた。

 

 事実、アルトリアは弱々しいながらも笑っている。

 心には憂いが覆っていたが、折れてはいない。多くの迷いや苦悩と共に、彼女の人生は在った。

 ならば、このカルデアで召喚されても、同じように前に進むのみ。終わりが訪れるその時まで。

 

 

「ふふ。ベディヴィエールの言った通りですね」

 

「はん、口が悪い上に人の心に土足で上がり込んで、その上、フォローもない男だって?」

 

「それに関しては否定はしません。その上、大層なド外道だとも」

 

「成程、否定する要素が一つもないな」

 

「――――ですが、目をかけた者の思いや苦悩を決して嗤わない、決して見捨てないとも」

 

 

 そもそも、否定するまで他人に興味や関心を抱かないのだから当然だ。

 あくまでも第三者として、中立の立場から意見を口にするだけ。その上で、最終的に味方をするのは自身にとって有益である方、というだけの話。

 味方にしなかった方は、邪魔なだけなので言葉のナイフで滅多刺しにする辺りが酷い。

 

 エルサレムでは、ベディヴィエールに肩入れするのが、人理修復への最短コースだった。

 今回においては、モードレッドとアルトリアの瑕疵を指摘して、互いの望みを確認しただけだ。

 

 

「正直な所ですが、自分でも驚いています」

 

「――――何がだい?」

 

「遠目でしたが、貴方がたと遊んでいるモードレッドの笑っている顔を見たのです。その時、また無関心なままか、或いは恨みの一つでも沸いてくるかと思いましたが……」

 

「どうだった……?」

 

「ただ、良かった、と。それ以上のものは何も」

 

 

 明らかな安堵だったのだろう。

 事実として、彼女の浮かべている表情は酷く穏やかで、まるで躓いて転んだ子供が一人で立ち上がった姿を目にしたかのような暖かな喜びと慈しみに満ちている。

 それが、親としてのものかは分からない――――だが、それでも、モードレッドにとって、その一言がどれほどの喜びとどれほどの救いとなるのかは言うまでもないことだ。

 

 

「では、私はそろそろ――――」

 

「何だ、モーさんが起きるまで待たないのか?」

 

「そうしたいのは山々ですが、眠っているのを起こすのも気が引けます。元々、マスターと話すのも目的の一つでしたので。それに…………」

 

「それに? まだ何かあったか?」

 

「あのキャスターとアサシン――――ナーサリーとジャック、でしたか。あの二人のドゥン・スタリオンを見る目が、何やら怪しかったので」

 

「いや、流石にそれは、大丈夫、だと、思う。思いたい。きっと、多分、恐らく、メイビー………………いや、やっぱ見てきた方がいいよ、うん」

 

「そ、そうですか。では、また。私も、貴方達のように笑えるよう、練習をしておきますね」

 

 

 そそくさと僅かばかりに慌てた様子で、砂浜を進んでいく背中を見送って、虎太郎は苦笑を漏らす。

 笑う練習をしておく必要が、何処にあるというのか。彼女は確かに笑っていた。

 

 アルトリアの方には問題はない。

 懸念していた聖槍の浸食による獅子王染みた存在への変貌も、死して英霊の座へと至った彼女には杞憂に過ぎなかった。

 それにモードレッドの印象に関しても、それほど悪いものではないらしい。

 騎士としてはまだまだ、と思っているのだろうが、少なくともカルデアに来てからモードレッドはガウェインがちゃらんぽらんになったこともあって、日々成長しているのだから。

 

 差し当たっての問題は、ドゥン・スタリオンが馬刺しとして夕食に並ばないかどうかだけだ。

 流石の虎太郎も食べる気が起きない。言うなれば、タラスクをスッポン鍋にするかのような暴挙である。

 まあ、ドゥン・スタリオンはタラスクと同じで宝具扱いになる。膨大な魔力と時間があれば復活するであろう故に、動かないのだが。

 

 その時、虎太郎は視線をモードレッドに移し、その頭を撫でた。

 

 

「良かったなぁ、モーさん」

 

「…………うるせー」

 

 

 咽喉を鳴らしながら笑う虎太郎に背中を向けたまま、モードレッドから返答があった。

 どうやら、アルトリアが来た時点で目が覚めていたらしい。だが、何の覚悟もしていなかった彼女は起きる訳にもいかず、寝たふりをしていたようだ。

 

 

「ふん。好き放題言いやがって。お前、オレと父上のどっちの味方だよ」

 

「そら、勿論モーさんの味方だ。だが、味方だからと言って欠点を指摘しない理由にはならないだろ? ……結局の所、オレは部外者だしなぁ。当時の情勢や心情なんぞ体感や情報から予測するしかない。思った事を思ったまま、言いたい放題、言うだけしかできないさ」

 

「……ヤな奴」

 

 

 悪びれる様子もない虎太郎に、モードレッドは腹立ち紛れに膝を抓る。

 随分と可愛らしい抗議の仕方である。さして痛くもなければ、言葉にも力が籠っていない。

 

 

「………………でも、あんがとな、マスター」

 

 

 僅かに震えの混じった、余りにも短い感謝の言葉。

 それが何に対しての礼であったのかは、モードレッドにしか分からない。

 だが、虎太郎は全て分かっているのか、珍しく涼風のような笑みを浮かべて、無言で頭を撫で続けるだけだった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 地平線の彼方に太陽が飲み込まれようとする夕暮れ時。

 昼間、日差しによる暑さは鳴りを潜め、涼やかな潮風が火照った身体を冷ましていく。

 

 アルトリアは白い砂浜から夕日を眺めながら、未だ神には至らぬ己が身と心を噛み締めていた。

 視線の先にあったのは蒼天を赤橙(せきとう)に染め上げる夕日。胸を締めつけられるほどに美しく、そして懐かしい。

 

 かつてキャメロットの城壁で眺めた光景とよく似ていた。

 遠くでは勝利の凱歌を上げ、宴を始め、共に生きて故郷へ戻れた喜びの声が騎士達の口々から漏れる。今はそれが新たな仲間(サーヴァント)のものへと変わっただけ。

 皮肉なことに、かつても今も、アルトリアはその光景と喧噪を眺め、聞いているだけ、という点も全く同じだ。

 

 

「………………おや?」

 

「――――父、上」

 

「こうして顔を合わせるのは、久し振りですね」

 

「……お、おう」

 

 

 一人砂浜に佇むアルトリアに近づいてきたのは、言わずもがなモードレッド。

 ではあったのだが、表情も立ち振る舞いも、何時もの自信に満ち溢れた彼女は何処へ行ったのか。顔は泣き出しそうなほどに情けなく歪められ、両膝は今すぐにこの場から逃げ出したいとばかりにガクガクと震えていた。

 

 しかも、アルトリアの悪気のない一言も悪かった。

 何せ、二人が最後に顔を合わせたのは、互いの運命が交わり、終焉となったカムランの丘での戦いだ。モードレッドとしては、どんな顔をしていいのか分からない。

 

 

「……積る話もあるでしょう。座りましょうか」

 

「――――…………ん」

 

 

 暫らくの間、互いの顔を見つめ合ったまま、無言の時が流れた。

 空白の時間を打ち砕いたのは、やはり精神的に大人であるアルトリアの方だった。

 

 アルトリアに促されるまま、モードレッドは大した返事もなくその場に膝を抱えて座り込む。

 何処か拗ねたような、悪戯の見つかった子供のような仕草に、アルトリアは微笑ましいとばかりに笑みを浮かべる。

 砂浜へと腰を下ろした二人の距離は離れていた。かつての仲間にしては遠く、かと言って完全な他人としては近い。心の距離そのものを表しているかのよう。

 

 しかし、またしても長い沈黙が流れる。

 互いに相手が口火を切るのを待っていたのか、或いは言葉を選んでいたのか。ともあれ、次の切欠を作ったのは、意外にもモードレッドであった。

 

 

「は……へ……くしゅんっ!」

 

「…………モードレッド、此方へ。常夏の島ではありますが、日が暮れれば些か冷えますから」

 

「――い、いや、いいよ」

 

 

 可愛らしいくしゃみの後、自らの身体をかき抱いて掌で両腕を擦るモードレッドを見かね、アルトリアは声をかけた。

 モードレッドは気恥ずかしさ故か、負い目故なのか。喜びすらも投げ捨てて、折角の申し出を断ってしまう。

 

 だが、アルトリアがそれを許さなかった。

 モードレッドの肩を抱くと、そのまま自身のマントの中へと引き寄せる。

 緊張の余りに赤面し、硬直してしまったモードレッドではあるが、その温かさに変化はない。

 

 肌寒さに身を寄せ合い、影を重ねる姿は、本当に、何の変哲もない■■のようで。

 

 

「――――貴女の話を聞かせて下さい。歩んだ歴史は違えども、憎むにも、赦すにも、私は貴女を知らな過ぎた」

 

「オレも、父上の事を知りたい。オレの知っている父上でなくても、王としての貴方じゃなくて、ただの貴方の話を――――」

 

 

 これが第一歩。

 全てが終わってから千年以上の時間が経って、二人はようやく踏み出した。

 

 本来であれば、交わる事の有り得ない世界線を越えた邂逅。

 最後に行きつく場所は何処なのか、誰にも分からない。恐らくは、最高位の千里眼を持つ者ですら見通せまい。

 世界は常に分岐し、未来へ常に変動する。決まった結末は確かに存在するが、結末が変化するのも現在・現世においては確かな事実なのだから。

 

 

「――――よかったですね、モードレッド! お兄ちゃん感激です!」

 

「最近、行方不明になってたお兄ちゃんキャラが戻ってきやがった」

 

「いえ、既にガウェイン卿のキャラは行方不明かと」

 

 

 砂浜から僅かに離れた密林の中、二つの影を見守る男達が居た。

 感涙を流すガウェイン、呆れ顔の虎太郎、辟易としたベディヴィエールである。

 ガウェインはモードレッドの今後を心配して、ベディヴィエールは王と叛逆の騎士の間で諍いが発生しないかを憂いて。そして、虎太郎は二人が馬鹿をやらかさないかを監視する為に。

 

 何時までも二人が語らう姿を暖かな気持ちで眺めていたガウェインとベディヴィエールであったが、虎太郎に頭を(はた)かれて、森を進み始めた彼に続く。

 誰がどう考えたところで、これ以上の覗き見は無粋以外の何物でもない。

 

 

「――――コタロウは、こうなると?」

 

「まさか。こうなってくれた方が、オレの益になるとは思っていたが、最高の結果を引き寄せたのはあの二人が頑なな心を開いたからだよ」

 

「はっはっは。まあ、その頑なな心を解きほぐしたのは虎太郎なわけですが」

 

 

 まるで、初めから決められていたように、収まるべきところに収まった事態に、ベディヴィエールは当然の疑問を口にした。

 

 だが、虎太郎は偽りのない事実を口にする。

 どれだけ相手を理解していても、出来る事は精々が誘導が限界と断じる。

 人は支配できない生き物、という前提が彼にはある。どれだけ自分の思い通りになろうとも決して自身がやったなどとは思わない。ただ、運が良かったで片付ける。でもなければ、必ず油断と慢心が生まれるからだ。

 

 

「ガウェイン卿は怒りを覚えるかもしれませんが……コタロウ、貴方に感謝を。私も、王も、こうして笑うことが出来た」

 

「何だよ、突然。オレと戦うのは嫌だったんじゃないのかよ?」

 

「勿論、嫌ですとも。何をさせられるか分かったものではありませんし、胃に穴が開くこと請け合いですからね。ですが、貴方のお陰で特異点(エルサレム)での戦いを乗り切れた。こうして、生前からの夢を叶えることが出来ました。もっとも、私の仕えた王とはまた別ではありますが」

 

 

 ベディヴィエールは、そう言いながら微笑んだ。

 

 彼が生前抱いた願いは、彼の騎士王の笑顔を見ること。

 宮廷で孤立し、騎士達には疎んじられ、民には怖れられながらも、常に理想の王であり続けたアーサー王。

 王の笑顔を誰も見たことがない。常に公平無私であり続けなければならなかった王の、ただの人としての笑顔を見てみたかった。彼はその一心で近衛にまで上り詰めたようなものだ。

 

 だからこそ、こんなにも嬉しいことはない。

 このカルデアでは王としての仮面など被っていられないだろう。

 無論、多大な苦労、驚愕の事実、虎太郎のド外道振りを目の当たりにして胃を痛めることになるかもしれないが、その反動として日常を謳歌することが出来る。

 

 共に笑い、共に喜び、共に泣き、共に苦しみ――――そして再び、笑い合う。

 

 そんな当然の営みが、此処では許される。

 何せ、虎太郎がサーヴァントを英雄として敬ってもいなければ、かと言って道具として扱ってもいない。

 実に扱い辛く、恐ろしい力を秘めてはいるが、話の通じる相手と考えているからだろう。話の通じない相手は自害命令をするだけであるし。

 

 喜ばしい。実に喜ばしい。

 獅子王と成り果てた本来の王ですら、このように微笑む可能性があったと知れたが故に。

 救われることすら許されない、と己を責め続けるベディヴィエールにとって、あの光景はこれ以上ない光なのだ。

 

 

「む。心外ですよ、ベディヴィエール。私が怒りを抱く要素が何処にあるのですか」

 

「それは、その…………ガウェイン卿の場合は、王には王として在り続けて貰うことが望みではないですか。かつての悔恨を払拭する為には、そうでなければなりません」

 

「成程、それも尤もですね。ですが、そこはそれ。王が微笑まれるのであれば、私も同じように微笑むまでのこと。無論、王の騎士として、一振りの剣として在り続けるでしょうが、そこまで頭は固くありません」

 

「そうだね。今は頭ユルユルだからね。ラグネルのことで脳みそ蕩けちゃってるからね」

 

 

 ガウェインの変貌振りにベディヴィエールは度胆を抜かれたものだが、こうして話をしてみれば、これはこれで悪いものではないとさえ思えてくる。

 

 アルトリアとモードレッドがそうであったように、かつて円卓にも致命的な亀裂が走った。

 円卓の一人一人が王へと求めるモノの違い故、何を己が望みとしてかの差異故に、あの結末へと至ってしまった。

 

 もう二度と手を取り合うことは出来ないと、嘆きと共に幾度の夜を越えてきたか。

 再び出会おうとも、喜びも苦しみも分かち合うことは出来ないと、絶望と共に幾万もの道を越えてきたか。

 

 そんな苦悩も馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

 蓋を開けてみれば何の事はなない。事実は、単なるボタンの掛け違いだった。腹を割って話す。たったそれだけの簡単な行いが、何と難儀なことか。

 かつての後悔は払拭できずとも、今はこうして同じ間違いを繰り返すことなく、手を取り合い、背中を預け合える幸運は何物にも代えがたい。

 

 

「どうでしょう? ベディヴィエール、虎太郎、折角ですので祝杯でも一つ。今夜は男同士で飲み明かすのも悪くない」

 

「私は是非とも。コタロウは、どうです?」

 

「適量なら。だが、何に対しての祝杯だよ?」

 

 

 三人は、ほぼ同時に己の意見を口にする。

 

 

「まあ、余計なトラブルと苦労を見事に回避したことに対してだろうがな」

 

「当然、王が微笑まれたことに対してです」

 

「無論、モードレッドの明日が明るい事と我が妻ラグネルに対してですとも」

 

 

 三人とも思い思いの言葉を口にする。

 そして、コイツは何を言ってるんだ、と言わんばかりに顔を見合わせる。

 

 その後、ガウェインは二人の肩を抱いて太陽のような笑顔を浮かべ、ベディヴィエールは微妙な噛み合わなさに苦笑を漏らし、虎太郎は仕方がないとばかりに肩を竦めて失笑する。

 

 虎太郎前代未聞の長期休暇、最後の夜。

 酒を飲みながら、「オレのケツを舐めろ」を熱唱しつつラインダンスを踊る三人の姿が、演奏者であったアマデウスとその他宴に参加した男性陣によって目撃された。

 だが、誰も口を挟む者はおらず、女性陣も馬鹿騒ぎに呆れながらも自ら参加し、盛大な宴になったのは言うまでもないことだ。

 

 




というわけで、上乳上ビックリするぐらい大人&モーさん……よかったねぇ&野郎共で酒盛りENDでした。

三蔵ちゃんイベでも槍の方の父上とは相性が良かったので、こんな感じに。
実際に、他のイベントで上乳上とまでギスギスされたら目も当てられない。まあ、ええんじゃ、書きたいように書いてるだけだしな!

次回は、時間神殿ソロモン編。御館様のカルデアはどうなってしまうのか。待て、しかして希望せよ!
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