※この作品はR-18です。

「もしも苦労人がカルデアのマスターだったら」   作:HK416

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皆さん、CCCイベを楽しんでおられますかな。
自分は全力で楽しんでおります!(ガチャガチャ

さて、イベント本編最終章が開幕するまでの時間潰しとして書き上げましたので、お楽しみください!

色々とすっとばしていますがね! でもしょうがないんじゃ! 本編と全く同じじゃ面白くないし!




時間神殿ソロモン編
『終焉の時来たれり、其は全てを終わらすもの』


 

 休暇より二日。

 緩み切った身体と精神を立て直し、虎太郎達は最後の特異点へのレイシフトを決行した。

 

 既に、最後の特異点がどのようにして生み出されたのかはアルフレッドによって解析済み。

 正しい時間軸には存在せず、時間と隔絶した虚数空間の工房。その実態は固有結界。生前に於けるソロモン王の魔術回路を基盤にして造られた小宇宙。宇宙の極小モデルケース。 

 

 この特異点(くうかん)は、魔術王の魔力が続く限り存続し、配下である魔神柱もまた同様。

 厄介なのは、この固有結界――――敢えて呼び名を付けるのであれば、時間神殿ソロモンか――は魔術王と相互に作用しあっていることか。

 魔術王が存在している限り、この固有結界は決して消えず、また固有結界が存在している限り、魔術王と魔神柱もまた不滅。

 

 この事実は、ただでさえ絶望的な戦力差を更に広げるものだった。

 それでもカルデアに集ったサーヴァント達の顔に諦めはなく、怯えを見せるマシュも己を奮い立たせ、虎太郎は相も変わらず関心の無い様子。

 何にせよ、今更だったのだろう。魔術王の成し遂げた偉業を体験し、七つの特異点を越えた時点で彼の力の強大さは分かりきっている。希望がなくとも戦うのが人であり、英雄でもある。

 

 

「――――――臭ぇ」

 

 

 レイシフトに成功した虎太郎が放った第一声は、それだった。

 鼻につく嫌な臭い。第七の特異点(ウルク)にて嫌というほど嗅いだ臭いに、平衡感覚を取り戻した虎太郎は顔を顰めた。

 

 相手の霊基を感じ取る能力を彼は持ち合わせていない。

 長年の経験か、持ち前の猜疑心か、或いは特殊な感覚か。兎も角、空間に満ちる災厄の獣の霊基を感じ取っていることだけは確かであった。

 

 

「……っ、レイシフトに成功。他の皆さんも、無事ですね。しかし、今のイメージは一体――――」

 

 

 僅かに遅れ、マシュがレイシフトによって現れ、カルナ、スカサハ、ロビン、呪腕、ジャンヌの五騎のサーヴァントが後に続く。

 マシュを含め、大半の者が困惑の表情を浮かべている。普段通りの冷静さを保っていたのは、ある程度事態の絡繰りと魔術王の正体を察していた虎太郎、カルナ、スカサハの三名のみ。

 

 彼らが見たのは、何の意味もない憎悪だ。

 愚かな人類に対する憎しみ。何をしようとも最後には死ぬしかない人類に対する悪罵。そんなものを見続けなければならない自己の矛盾。

 空間に焼き付いた記憶そのものであると同時に、人理焼却へと至った理由そのものでもある。

 

 

『やはり、計器に狂いはありません。この特異点には、七つのクラスに該当しない霊基で満ちている。即ち――――』

 

 

 アルフレッドの計測結果を遮るように、宙域には何者かの拍手が響いた。

 

 時間神殿は七つの要所、一つの門、玉座にて構成される。

 要所は、エネルギーの収束点。宙域そのものに施された何らかの作用を引き起こすポイントであると同時に中継地点でもある。

 末端から中継地点を経由し、絶えず中心部である玉座へと送り込まれ、最早、計測不可能なほどの魔力が渦巻いている。

 

 そして、玉座への到達を阻むのが門。

 だが、門は塞がれている。どんな王城もそうであるように、門から玉座へと進む道を、がら空きにしておく道理なぞ何処にもない。

 道を開ける手段は一つ。七つの要所を押さえ、玉座への供給を断たねばならない。

 

 更には門番までもが待ち構えていた。

 

 その姿に、マシュは驚きながらも受け入れた。

 確かに死んだはずだ、などという言葉は、魔神柱と化した彼には当て嵌まらない。

 

 

「……レフ・ライノール教授!」

 

「やあ、久し振りというべきかな? だが、挨拶も必要なければ、これまでの苦労話も――」

 

「……虎太郎? 何を、し、て――――や、止めなさい!!」

 

「死ねぇぇええぇぇえぇいっっ!!!」

 

「――結構、って、へぇぇええぇぇぇぇぇッッ!?!?」

 

 

 拍手と共に満を持して登場したレフ。

 恐らくは虎太郎達がバカンスを楽しんでいる間も、カルデアの到来を待ち侘び、登場時の口上なんかを必死こいて考えていたであろうレフ。

 そんな彼に向かって、虎太郎は会話もせず、宣戦布告も無しに――――いきなり、Panzerfaust(パンツァーファウスト) 3をぶっぱした。

 

 Panzerfaust 3.

 RPG-7に並ぶ携帯対戦車兵器。PzF84、110mm個人携帯対戦車弾とも呼ばれる。用途も変わらない。

 敵に命中すると同時に弾頭内部の火薬に点火。火薬を包む金属を溶かし、前方に高速金属分子(メタルジェット)を噴出させ、戦車装甲やコンクリートを穿ち、燃料や砲弾、乗員に被害を与えることを目的とした兵器である。

 

 例え、敵が魔術師であれ、魔神柱であれ。防御方法が防御に適した魔術であれ、強固な肉体であれ、攻略法の基本は変わらない。即ち、敵の防御と肉体を破壊せしめるだけの火力を用意し、放つのみ。

 実際、それが合理的で最適解なのだ。無論、相性によるダメージの変化はあろうとも、基本はこれ。

 特別な能力に対して、相性の良い能力を用意して対抗するなぞ愚の骨頂。そんなに都合良く、相性が良いと断言できる能力は転がっていない。

 

 そんな面倒な真似をするくらいなら、真正面から正々堂々不意を突いて、能力(ぶき)を奪った方が早い。

 

 

「ぐっ。だが、こんな量産型の鉄屑如きで、我々を――――」

 

「げーっはっはっはっはっはっはっはっ――――ッ!!!!」

 

「――――――っ?!?!」

 

 

 爆炎の晴れた矢先、魔術によってか、魔神柱としての力によって生き延びたレフの眼前には、ゲス顔で飛来する虎太郎の姿があった。

 発射と同時にカルナに指示を出し、槍の上に乗ってホームランボールを放つようにフルスイングさせ、己自身を射出させていた。

 

 射出の勢いは遮るものがない以上、止められる筈もなく。

 速度全てを乗せた肘がレフの咽喉に突き刺さる。彼は確かに、自身の咽喉が潰れ、脛骨の圧し折れる音を聞いていた。

 

 虎太郎は地面へと叩き付けられる衝撃を、レフの身体をクッションにすることで相殺する。

 砂塵を巻き上げながら、地面を滑っていく。サーヴァントの腕力と技量で撃ち出されただけあり、30m以上も滑走し、ようやく止まった。

 

 

「――ぎ――――ざっ――――ま゛――」

 

「こんにちは、お邪魔します。死ねと言ったな、アレは嘘だ。オラッ! オラァッ! フンヌッ!!」

 

「ガっ、べっ、ぶばっ――――!!」

 

 

 マウントポジションを取った虎太郎は情け容赦なく、レフの顔面目掛けて拳を振り下ろす。

 鼻骨は圧し曲がり、歯は折れ飛び、血が飛び散る。最早、レフと判断できなくなるまで顔面が破壊されるまでに、都合十度の拳が叩き込まれたそうな。

 

 虎太郎はぴくぴくと痙攣を繰り返すばかりとなったレフの身体の上から降り、良い汗かいたとばかりに満面の笑みで立ち上がる。

 勿論、彼に加虐嗜好はない。いや、内包してはいるが表には出てこない。これだけ良い笑顔なのは、自分の仕事が楽になったからである。

 

 

「なっ、なっ、なっ、何をやってるんですか、先輩――――!」

 

「何って、レフをボコにしただけだけど。いや、レフも挨拶とか要らないって言ってたじゃん。オレはレフに付き合ってやっただけやで? オレは悪くない(ニッコリ」

 

「敵と言葉を交わす必要はないと言えばないが、な……」

 

「魔術王に対する宣戦布告も、特異点を攻略している以上はしたも同然。事実、倫敦で直接対面もしているが……」

 

「流石のオレでも引くわー。ドン引きだわー。得意満面で勝ち誇ってる相手に不意討ちかまして即半殺しとか引くわー」

 

「暗殺者の私が言うのは何ですが、此処は敵の舌戦に応じる場面では……」

 

「嫌だよ。どうせ自分が言いたいこと言うだけ言って、こっちの話聞かねーもんよ。時間の無駄だとは思わんかね? 有効ならば、どんなことでもするべきだね。なっ、ジャンヌ!」

 

「………………(サッ」←百年戦争中、当時は考えられなかった奇襲・夜襲・朝駆けを当たり前に行って、勝利のためにあらゆる手段を使った割りと過激な聖処女様

 

 

 仲間達の批難をにっこり笑顔で一蹴する。今の彼は大変気分が良い。

 

 もし、彼が魔術王であるのなら、レイシフト先を予測し、そこら中に罠を張り巡らせていた。

 或いは、特異点への侵入者の確認と同時に、最大火力を叩き込んで、一息で戦いを終わらせていた。

 無論、そういった対策の為に、防御・防衛に特化したマシュとジャンヌを同時に運用しているのではあるが。

 

 全く以て、舐め腐っているにも程がある。

 倫敦にて、第七の特異点を攻略した暁には“私が解決すべき案件”と確かに口にしたにも拘わらず、この様だ。

 

 虎太郎にしてみれば、楽でいいと笑うよりも、怒りすら通り越して呆れしか浮かんでこない。

 

 何も。何一つ、理解していない。現実を正しく把握していない。人間を正しく認識していない。

 これでは、幼少期に下らないと切って捨て、最早、関わりすらなくなった血縁上の父、ふうま弾正のような在り様ではないか。

 

 

「まあ、いいさ。思わぬ報酬もあった。これならいくらでもショートカットできる」

 

「先輩、それはどういう……?」

 

「門番から鍵を奪ったってこと。作戦変更だ。これよりオレ達は玉座に攻め入り、魔術王を討つ」

 

「……そういうことか」

 

「魔術王が可哀想になってきたぞ、私は……」

 

「いや、鍵っつったって、そんなもん……そんな、もん――――あ゛っ」

 

「そういうことですか、主殿ぉぉおおぉ――――ッ!?」

 

「効率主義にもほどがあります!」

 

「んー? 知らんなぁ、オレに出来ることをやって何が悪いのかなぁ?(ニッコリ」

 

 

 当初の作戦はこうだった。

 まず虎太郎を中心とした七名がレイシフトを行い、時間神殿にて魔神柱と戦闘を行い、簡易的ながら配置を確認。

 その後、ウルクでも使用した決戦術式“決戦だよ、全員集合!(パーティ・プロトコル)”を用いて、カルデアに存在する全ての戦力を投入。

 投入の仕方は酷く単純。アーラシュ、エルキドゥ、ドレイク、ケツァル・コアトル、アルトリア、ガウェインなど大火力宝具持ちを中心とした編成にて、魔神柱の目を引き付け、()()()()()()()()()()()()

 彼らが稼いだ時間を使い、アルフレッドが固有結界の構造を把握し、可能であれば破壊を、不可能であれば玉座への道だけでも切り開く。

 

 始めから、この手しかないと虎太郎は断じていた。

 全ては己の不徳とするところ。今以上に多くの戦力を用意できれば、()()()()に勝てただろう。

 だが、どうした所で相性の悪い英霊は存在する。特に、彼の場合はより顕著である。

 全ての戦力を投入をしたとしても三十八騎。内一騎は非戦闘要員であるラグネル。

 通常の聖杯戦争、聖杯大戦であるのならば破格の数字であるが、相手は七十二にも及ぶ魔神柱を従える魔術王。その上、魔神柱はただの一柱でサーヴァント数騎分の戦力だ。どう考えた所で戦力が足りない。

 

 だからこそ、粘るという選択肢しか残されていなかった。彼等が粘れば粘る分だけ、勝ちの目は跳ね上がる。

 

 だが、その全てが杞憂に終わった。

 レフ・ライノールが、レフ・ライノールとしての姿で現れた瞬間に。

 

 

「開けー、ゴマ!」

 

 

 虎太郎は玉座へと続く唯一の門の前に立つと、千夜一夜物語(アラビアンナイト)の一篇に登場する主人公(アリババ)のように、間抜けな呪文を口にした。

 すると、どうだ。玉座への道を阻んでいた時空の捩れ、滞留した魔力の淀みが消え失せ、玉座への道が開かれたではないか。

 

 そう、虎太郎はレフを殴った瞬間に奪っていた。魔神柱フラウロスとしての権限と力を。

 この領域において、自由に玉座を行き来できるのは魔神柱と魔術王のみ。人間であれ、英霊であれ、魔神柱の足止めを行い、七つの要所を制圧し続ける必要がある――いや、あった。

 

 だが、彼には邪眼“魔門”の力がある。

 今の彼は弐曲輪 虎太郎であると同時に、魔神柱フラウロスでもあるのだ。その権限を行使すれば、他の魔神柱と戦うまでもなく、要所を制圧するまでもなく、悠々と玉座まで向かうことが出来るのだ。

 

 

「よーし、行くぞー、お前等ー」

 

『決戦術式“決戦だよ、全員集合!(パーティ・プロトコル)”起動します。カルデアの守りと魔力供給はお任せを。皆様、虎太郎の畜生ぶりには辟易としていますでしょうが、存分に戦いますよう。……ですが、その前にカルデアで待機中の皆様を代表して一言だけ』

 

「この人類の悪性腫瘍!」

 

「この人非人」

 

「この性技魔神!」

 

「この腐れ外道!」

 

「この人格破綻者!」

 

「この強制自害魔!」

 

『このドライモンスター!』

 

「な~に罵声上げてんの~? 置いてくぞ~?」

 

 

 聞こえているだろうに、全ての悪罵を無視して、虎太郎は門を越える。

 マシュは茫然と、カルナは溜め息を吐き、スカサハは顔を引き攣らせ、ロビンは頭を抱え、呪腕は片手で顔を覆い、ジャンヌは思わず旗を振り上げて。六者六様の反応を見せながらも、虎太郎の後を追った。

 

 余りにも酷い一手である。

 恐らく、既に勝ちを確信して、ルンルン気分で魔神柱を配置した魔術王の思惑を一息で粉砕したようなものだ。

 相手が油断や隙を見せようものならば、どれだけ力量差があろうとも、戦力差があろうとも、的確に相手の急所を抉り取る。正に、真正面から正々堂々不意を突く、という言葉そのものだ。

 

 

「おいおいおいおい、大将! でも、大丈夫かよ! おい!」

 

「ロビンの言う通りですぞ! 貴方が魔神柱の力と権限を奪ったまではいい! ですが、それは魔術王の支配下に置かれたも同然ではないですか!」

 

「そうです! そもそもカルデアの全戦力でも魔神柱は抑えきれない! 今、私達が攻撃でもされようものなら、為す術は!」

 

「あー、そのこと? さっきから頭の中に他の魔神柱どもからひっきりなしにブーイングが轟いている。けど、何の問題もないんだなぁ、これが。アイツに聞いてるから」

 

「「「誰に!? 何を!?」」」

 

「モーツァルトに、魔神柱について」

 

「「「――――はぁっ?!」」」

 

「アイツ、何か知らねーけど、生前に魔神柱として覚醒する予定だったみたいだぜ?」

 

「「「はぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ――――っっ!?!?」」」

 

 

 虎太郎の言葉に、ロビンと呪腕とジャンヌは絶叫を上げる。当然だ、何も聞いていなかった。そして、虎太郎も聞かれなかったから何も答えていなかった。

 

 猜疑心の強い虎太郎が、安易に魔神柱の力なぞ奪う訳もない。

 魔術王から力を奪うのならばまだしも、その配下である魔神柱の力を奪ったところで、逆に支配されてしまいかねない危険性を考えない男ではない。

 

 その上で即断即行したのには訳がある。

 既に、魔神柱の力を奪ったところで何の問題もない確信は得ていたのだ。ある日、アマデウスと晩酌を共にし、酒に酔って漏らした彼の一言が切欠だった。

 

 

『いやぁ、実はさぁ。僕、どうやら生前、魔神柱になっていたかもしれないんだよねぇ』

 

『………………』

 

『OK、今のは僕が悪かった。酔いも冷めた。説明もするから無言で令呪を構えるのは止めてくれないか!』

 

 

 魔術王の人理焼却。それは三千年前から功名に張り巡らされた伏線によって成し遂げられた。

 時代を狂わせる聖杯を作り上げ、魔術王の意思によって魔神柱となる呪いを遺伝子に刻まれた魔術師を子孫として人類史の各所に散りばめ、必要な時代まで潜伏させ、七つの起爆点を作り上げたのだ。

 

 

『尤も、それを知ったのは僕の死後。英霊の座に至った時に知識として得たものだ。正直、どうしようもなかったのさ』

 

『其処の所は構わん。オレが知りたいのは、どうしてお前が魔神柱として覚醒しなかったかだ』

 

『僕はその時既に音楽に魂を売っていたし、何よりも魔神柱の絶対尊厳なんかよりも、素敵な奇跡(マリア)に出会っていたからね――――と、格好良いことを言えればいいんだけど、実際の所は魔術王にとって、もっと都合の良い誰かが居たんじゃないのかい?』

 

『…………いや、前者二つだろうよ。そう思っていた方が健全だ。意地があるもんなぁ、男の子には』

 

『はは、君のそういうところは嫌いじゃないよ。だが、僕のことから分かるように、奴は全能者を気取っているけれど、渡った糸は酷く細くて拙い。だからこその大偉業なのだろうね』

 

『遠大な計画ってのは破綻しやすい。そう考えると実際に人理焼却が成し遂げられた世界の方が少ないか。誰か一人の強固な意志さえあれば、破綻する可能性が高い』

 

『おめでとう、虎太郎! 君はまたしても最大の貧乏籤を引かされたわけだ!』

 

『う る せ ぇ !』

 

 

 アマデウスの身に起きた奇跡は、魔術王の憎悪にも劣らない強固な意志さえ持ち合わせていれば、支配を跳ね除けられる事実を示している。

 

 恐らくは、魔神柱の特性そのものが関係しているのだろう。

 

 魔神柱は七十二もの数があるにも拘わらず、持ち得る能力以外には個体差というものが存在しない。

 感情というものを必要とせず、人格というものを持ち得ず、個性というものを獲得していない七十二柱で一つとなる完成された魔術式。

 

 魔神柱の生態、魔術王が強固な支配をしていないことから示唆される事実は一つ。

 裏切りや離反、仲間割れというものをそもそも想定して設計されていないことである。

 

 感情と言うものを理解していないが故に裏切らない。

 人格と言うものを持ち得ないが故に離反しない。

 個性と言うものを獲得していない故に仲間割れを起こさない。

 

 人間とは隔絶した、全ての個体が同じ方向、同じ目的に向かって進む完璧な知性体と言えよう。

 なればこそ――――裏切りに対する報復という名の機能がなく、離反に対する説得という名の手段がなく、仲間割れに対する仲介という反応を持ち得ない。

 

 虎太郎が魔神柱の力と権限を奪い続ける限り、彼等は攻撃されることはないのである。

 

 

「というわけで、後は玉座まで一直線ってワケよ。オレ等はな」

 

「いや、待て。レフ・ライノールが死ねば、お前の能力の関係上、前提が崩れるではないか。それこそ今現在、レイ・フラノールは魔神柱ではないのだぞ?」

 

「突発的な好機だったが、正味問題ねー。オレが何でこんな絶望的な消耗戦で()()なんて言ったと思ってんだ。こっちの戦力だけで魔術王を倒すまで戦線が持つなんて考えちゃいねぇよ」

 

「既に、打開策を打ってあるということか」

 

「オレは何もしてねーし、しねーよ。だが、一言だけ言っておいてやる――――――馬鹿は来る! だからモーツァルト、ガンバ!」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「無茶を言わないでくれるかなぁ――――!!!」

 

「――――アマデウス!」

 

 

 虎太郎率いる本隊が、えっちらおっちら徒歩で玉座に向かっている最中、拠点の一つでアマデウスは悲鳴を上げた。

 

 拠点の名は溶鉱炉ナベリウス。

 ナベリウスを核に、ゼパル、ボディス、バティン、サレオス、プルソン、モラクス、イポス、アイムの九柱が複合した姿そのものであり、番人でもある。

 

 対する戦力は、アマデウス、マリー、マルタ、カーミラの四騎。

 その上、アマデウスは瀕死状態で保護したレフまで背負っていた。只でさえ心許ない戦力に加えて、足手纏いまでいる状態では、アマデウスが悲鳴を上げるのも無理はない。

 

 

「何なんだい、これは! 虎太郎にしても、アルフレッドにしても、稀に見るクソ采配だよ!」

 

「文句を垂れないでくださるかしら、アマデウス。そんなこと初めから分かり切ったことだったでしょうに」

 

「ああ、そうともカーミラ! でもね、ボクは攻撃を避けるので必死さ! 演奏をしている暇すらない! マルタは早く拘束具()を捨てて、素手で殴ってくれないかな?!」

 

「誰が殴るかぁ! 人の事なんだと思ってんのよぉ!」

 

「アマデウス、いい加減にしなさい! 皆、恐怖を押し殺して戦っているのよ!」

 

「そりゃあボクも同じさ! でもねぇ、これはいく――――――マリアっ!」

 

「きゃぁっ―――!?」

 

 

 次の瞬間、アマデウスとマリーの周囲を囲うように、地面から複数の触手が顔を出した。さながら鳥籠のようだ。

 ナベリウスの意図を読み取るのは容易い。このまま触手を捻じり、内部の二騎を捻じり潰す。

 

 カーミラよりも、マルタよりも、誰よりも先に動いたのはアマデウスであった。

 

 しかし、彼が自らを自称するように正真正銘の三流魔術師だ。彼はあくまでも音楽家。

 生前、音楽を極めんとする過程で魔術にも手を出したが、極めたとは言えない。持ち前の音感によって、何とか魔術を成立させているだけに過ぎない。

 

 だから、彼に出来たのは、最愛の女性を守ることのみ。

 鳥籠が閉じる寸前、マリーの身体を突き飛ばした。

 虎太郎の命令は粘ること。その果てに待つものが何であるのかまでは、彼には分からないが、この二つに何の矛盾もない。

 

 何にせよ、アマデウスは役割を果たし、自身のできる最大限の努力をした。

 マリーが生き残ることで、自分以外が生き延びる可能性は格段に上がる。彼女はサーヴァントでも上位に位置する防御性能を秘めているのだから。

 

 

(あー、これはダメだな。これじゃあ霊基の修復にも時間が掛かる。ま、ボクにしては頑張った方かな。マリー、虎太郎。悪いけど、ボクは一足先に休ませて貰うよ)

 

 

 あの抜け目のない男が、自分がリタイアした程度で、レフを守り切れなかった程度で、どうにかなる訳もない。

 

 そんな妙な信頼を抱きながら、次の瞬間には霊基(からだ)に押し寄せるであろう一瞬の痛みを覚悟し――――

 

 

「諦念も時に必要であることは認めるが――――――今この瞬間においては、余りにも早すぎるのではないか、異国の楽師よ」

 

 

 ――――耳にした声に、全てが杞憂であったことを悟る。

 

 檻の如くアマデウスの周囲を覆った触手は、一刀の下に斬り捨てられ、後も残らずに消滅する。

 

 

「貴方、は――――」

 

「何の冗談、かしら……?」

 

「汝等が契約者の求めに応じ、幽谷の淵より馳せ参じた」

 

「うっそ……アイツ、何処であんなのとコンタクト取ってんのよ……」

 

 

 全身を覆う黒鉄の鎧。

 彼の信仰そのものが染みついた大盾と大剣。

 見るも恐ろしい髑髏の意匠が施された兜。

 全身を包む死の気配――――否、人型の死そのもの。

 

 ウルクの死線を潜り抜けた彼等には忘れられよう筈もない最強の暗殺者。

 

 人類と人類の築いた文明を崩壊させる七つの人類悪を滅ぼすために召喚される、その時代最高峰の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。

 既に冠位は原初の海への手向けとしたが、その技量に、未だ些かの翳りもなく。

 

 

「山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

 その場の全員が戦いすら忘れ、死の化身に魅入られる。

 まるで時間そのものが停止してしまったかのようだ。何せ、あの魔神柱ですら、動きたくとも動けなかったのだから。

 

 余りにも圧倒的な死の具現。

 死の恐怖などない筈の魔神柱が、髑髏の奥に隠れた瞳に見据えられただけで全身を震わせていた。

 

 

「今暫らく、耐えるがいい。汝等の契約者曰く――――馬鹿は来る、と」

 

「……………………いや、馬鹿が来るどころか、来たのは貴方なんだけどな、この場合」

 

「まあ、アマデウス! 援軍に来て下さったのに、なんて失礼なこと!」

 

「良い、白百合の姫君。我には不要なれど、与えられた冠位の銘を独断で返上した挙句、あまつさえ僅かな縁を頼りに肩入れに来たのだ。見様によっては、我も愚か者の誹りは免れまい」

 

 

 ただただ茫然とする他なかったアマデウスは、思わず失礼極まる暴言を吐いたが、山の翁は気にした様子は一切見受けられない。

 

 

「見るがいい、魔神柱。この戦い、馳せ参じる者は少なくはないぞ」

 

「――――あれは、流星?」

 

「いや、これは――――」

 

『何だ、これは。神殿各地にて召喚術式の起動を確認。馬鹿な、在り得ない! 触媒も、召喚者もないままに何故このような!』

 

 

 宙域に瞬いてた星々は、幾条もの流星と化して、次々に神殿へと向かってくる。

 カルデアで行われる召喚式ではなく、獅子王が円卓を召喚したものとも違う。

 流星は、あくまでも彼ら自身の意思で、この宙域へと向かっている。

 

 共に戦った、敵対した、顔を合わせた。余りにも細い縁を辿り、多くの英霊達がこの宙域へと集い始めていた。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

『霊基反応、十、二十、三十――――まだ増えます。召喚術式が次々と起動。各拠点で交戦を開始。虎太郎、貴方の読み通りの展開です』

 

「だろうよ。純正の英霊であればあるほど、オレが先陣を切ってるこの戦い、首を突っ込まずにはいられないさ」

 

「凄い……若い方のメディアさんが言っていたのは、星を集めろとはこの事だったのでしょうか」

 

「……エジソンとブラヴァツキーも居るな。それにアルジュナも、か。これは負けられんな」

 

「李の小僧もいるな。それにオルタの方のセタンタに、あの毒婦の小娘まで。まあ、気持ちは分からんでもない」

 

「あぁ? あの雷はジェロニモのおっさんか? そんでこの銃声はキッドのガキか! よくやんなぁ、アイツ等!」

 

「あのピラミッドは間違いなく太陽王ですな。それに忘れようもない弦の音色は嘆きのトリスタン」

 

「オルレアンの反邪竜同盟も! それだけではありません、バーサーク・サーヴァントの(みな)まで……!」

 

 

 今や、この宙域には無数の英霊達が集っていた。

 人類の積み重ねてきた歴史が崩れ落ちようとする直前になって、己の信念や主張を曲げないままに英霊達も手を取り始めたのである。

 

 英雄も人間だった時代は、確かに存在する。

 まだ未熟だった時代、多くの出会いと経験を経て、彼等は英雄へと至った。

 英雄など所詮は時代の花。咲いては散る定め。だが、既に散った花で在る彼等であったとしても、見過ごせないものはある。

 

 何の事はない。

 時間神殿ソロモンは、正しい時間軸には存在せず、特異点であるが故に抑止力の影響を受けない。拙い縁を頼りに英霊が自ら召喚される、という事態が起こった所で何ら不思議はない。

 

 彼等の心にある思いは一つ――

 

 

『あんな男に、世界の行く末を任せてなるものか』

 

 

 ――である。

 

 それはそうだ。

 共に戦っていたにも拘わらず、酷い目にあった者も居た。敵対して、より無残にやられた者も居た。利用されるだけ利用される者も居た。しかも英雄が、だ。

 

 だからこそ――――英雄だからこそ、見過ごせない。

 信頼があったのではない。彼等にあったのは、英雄としての矜持。

 あんな男が身を削って戦っているというのに、英雄たるこの身が、どうして戦わずにいられよう。

 

 刺激された矜持は、戦わずに収まることはない。

 

 

(しかし、こうなるか。本来の予定じゃ、アルフレッドに魔力ぶん回させて、カルデア(こっち)の戦力の霊基修復させまくるゾンビ戦法も考えてたんだが、儲けもん儲けもん!)

 

 

 ――――どうやら、カルデアのサーヴァントは、この場に集った英霊達に感謝しなければならないようだ。

 

 虎太郎が元々想定していた作戦は、もっと酷いものだったのだから。

 

 

『――――緊急連絡。特異点の構造に変化を確認。八つ目の拠点が構築されました。溶鉱炉、情報室、観測所、管制塔、兵装舎、覗覚星、生命院に続き、廃棄孔を増築』

 

「なぁに、心配ない。暇人はまだいるさ」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「オレを暇人と呼ぶか。……ふん、間違ってはいないな。復讐すべき相手は既に無いにも拘わらず、未だ復讐者で在り続けるのであれば、暇人と言う他ない」

 

「あら? 貴方の復讐の対象は、貴方を陥れた小悪党ばかりではなく、遍く理不尽と悪意も含まれる。暇などないのではなくて? ねぇ、蛇身の女神様?」

 

「いえ、どうでしょう。虎太郎の場合は、復讐とか速やかに終わらせる方が建設的、とか言って復讐の相手を皆殺しにして、さっさと終わらせるタイプですので。復讐の対象が人間からそれ以外のモノに移ってしまった方に対しては、そんな評価しか下さないかと。それでも否定も嗤いもしませんが」

 

「あら、あらあら。復讐者(アヴェンジャー)のクラスなのに、随分と愛らしい声。何かの手違いかしら?」

 

「虎太郎の無茶の結果です。この姿のまま生き残るつもりはなかったのですが、このまま終わってしまったので、このままで来ました」

 

 

 怨念の黒炎と黒い外套姿の青年。巌窟王 エドモン・ダンテス。

 白無垢を思わせる着物を纏った貴人。両儀 式。

 黄金の翼、髪が蛇と化した蛇身。複合神性ゴルゴーンの姿をした“アナ”。

 

 それぞれ出会った場所、集った理由も異なるものの、一様に虎太郎との縁を頼りに此処へと集った者達である。

 

 他の拠点に比べ、数が余りにも少なすぎる。だが、侮るなかれ。

 

 世界で最も高名な復讐者。あらゆる怨念を背負う永遠の復讐鬼。

 己を夢と断じ、俗世との関わりを持たないと言えども「 」の一部。

 二人の姉を喰らい魔獣の母と成り果てながらも、本来に近い姿を取り戻した蛇の女神。

 

 

「ふふ、魔神を切るなんて初めて。ちょっとだけ、楽しくなってきたわ。こんな体験が出来るのなら、カルデアに喚んでくれてもよかったのに」

 

「ハッ。あの男が、制御を離れる可能性がある者を傍に置く筈もない。諦めろ、阿摩羅の体現。我が共犯者の望みは一つ。ならば、この身が果てるまで、魔神柱どもを狩り尽くす――――!」

 

(巌窟王さんノリノリです。セイバーの女性は本気で残念がってます。私の言えたことではないですけど、虎太郎の為にとか、ちょっと普通じゃありません)

 

 

 ――――こうして、廃棄孔の制圧が始まった。

 

 三騎が三騎ともに、自らの不利を承知の上で戦いだ。だが、巌窟王の言葉通り、彼等は霊基が砕け散るまで戦うだろう。

 

 勝てるかどうかなど、最初から興味がない。

 興味があるのは、虎太郎というマスターが、どのような結末を迎えるかのみ。

 カルデアに召喚されてはいないものの、彼等の出会いは非常に印象的だったようだ。思わず、その末路を眺めていたくなるほどに。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「特異点、中心部に到達。ここが――――」

 

「――――来たか。毎度毎度、飽きもせずに。心底から煩わしい。見苦しいにも程がある」

 

 

 神殿の中央部。

 白亜の玉座に鎮座するのは、魔術王ソロモン。

 この場全てに渦巻く魔力を従える様は神に匹敵する――――いや、人理焼却すら成し遂げた以上は、神をも超える、か。

 

 口にした言葉通り、ソロモンの表情は険しい。

 だが、それは自らの計画を邪魔された憤りと言うよりも寧ろ、自身の周りを跳ぶ蠅の鬱陶しさに表情を歪めているという程度のもの。

 

 事此処に至ってもなお、彼はカルデアを敵として認識はしていても、その力を認めてもいない。  

 

 

「遠方からの客人を持てなすのは王の歓びだが、生憎、私は人間嫌いでね」

 

「いや、そもそも歓待なんぞいらん。茶番は止めろ。オレはお前なんぞと長話をするつもりもなければ、価値も見い出せん。さっさと正体を現したらどうだ」

 

「フ、ハハ――――ははははははははは! 私はソロモンさ! 少なくともこの身体はな!」

 

「だろうよ。ソロモンの死後、その死体の内側に巣食った魔神ども。それがお前の正体だ」

 

 

 ほう、とソロモンの表情が変わる。ようやく理解できたのか、と言わんばかりに。

 

 虎太郎は、既にソロモンに関しての調査を一通り終えている。

 2004年、冬木にて行われたただ一度限りの聖杯戦争を調査する過程において、人格までをも調べ尽した。

 

 虎太郎が調査から見出したソロモンの性格は『無』としか言いようのないものだった。

 

 確かに、他国の王や臣下と接する為の人格はあっただろう。

 だが、伝承に語られる愛の多いものの、よく国を繁栄させ、よく民を治めた理想の王とは、虎太郎には感じられない。

 

 望まれるがままに王として振る舞い、頼られるままに王として生きる。

 数々の逸話も全てが無感動で“彼自身の意思”というものを全く感じられない。国を回し、民を治めるだけの王と言う名の歯車そのもの。

 これならば、アルトリアの方がまだ人間的だ。彼女の根底にあったのは、確かに人間的な暖かさだったのだから。

 

 考えてみれば、当然のこと。

 ソロモンは生まれた時から王として神に捧げられていた。

 人間らしい情動や生き方を学ぶことなど一度もなく、常に王で在り続けた。

 

 どんな英雄にも、幼少期、人間時代というものが存在し、それらを経て英雄へと至る。  

 彼にはそれらがなかったが故に、ソロモンの内面は無となってしまった。人間的な感動もなく、あらゆる感情を持つことさえ許されなかった非人間。

 

 だからこそ、可笑しい。そんなモノが、己の目的を持ち、人理焼却を実行するなど。

 

 考えられたのは二つ。

 

 一つはソロモンの別側面(オルタナティブ)

 アルトリア、クー・フーリンなどのように、何らかの影響によって本来の性格、気質、属性が反転した状態で現れたものという推測。

 

 だが、それは在り得ない。

 ゼロには何を乗算したところでゼロにしかならない。除算はそもそもできないだろう。

 

 ならば、残る可能性は加算か、減算しかない。

 即ち、何者かの意思がソロモンに介入したことによって、全く別の人格を得てしまった。或いはソロモンを乗っ取った可能性。

 

 だが、これも考え難い。

 ソロモンは人類に魔術を齎した魔術の王。

 生前せよ、死後にせよ、何らかの魔術を用いたにせよ、何らかの異能を用いたにせよ、彼ならば容易く対抗する術を導き出し、即座に実行したに違いない。

 

 彼に匹敵する魔術師は存在しない――――そう、人間の中には。

 

 其処でようやく思い至った。倫敦での対面を。

 あの魔術王は、相対した者の性質によって、言動も性格も変化していた。

 

 ならば何故、己の時はその動作、その性質が乱れなく表に現れなかったのか。

 考えれば単純なこと。弐曲輪 虎太郎に近しい人格のものを、彼はそもそも持ち合わせていなかっただけだろう。

 

 つまり、鏡のような性質とはまた別。あくまでも、彼は複数の人格を持ち合わせているだけ。

 そのような性質を持ち、魔術においてソロモンに匹敵し、更には人間でないモノ。

 

 該当するのは、ソロモンが使役したとされる七十二柱の魔神以外には存在しよう筈もない。

 

 

「くく、ふははははは! よろしい! 私は無能な王ではない。いかに人類が愚かであろうとも、賢しい者は正しく評価する」

 

 

 愛多き王。

 何処かで誰かが口にし、何時かに誰かが書き記し、後世へと残された評価とはかけ離れた表情で、魔術王は哄笑する。

 

 

「故に、その健闘を称え、我が真体拝謁の栄誉を与えよう!」

 

 

 宙域そのものが震え、人理焼却の証にして結果である光帯が輝きを増す。

 魔術王の呼びかけに応えるように、地面から魔神柱が現れ、玉座そのものを包み込んでいく。

 

 その過程で魔術王は消え失せた。

 ソロモンの遺体そのものも、内から喰い破られ、外からは押し潰され、完全にこの世から消失した。

 

 後に残るモノ、それは――

 

 

「最早、魔術王を騙る必要などない。我が名を称えるならば、こう称えよ。真の叡智に至るもの。その為に望まれたもの。人類史を糧に極点に旅立ち、新たな星を作るもの。七十二の呪いを束ね、一切の歴史を燃やすもの。即ち、人理焼却式――――」

 

 

 ――自らを、魔神王ゲーティアと名乗った。

 

 禍々しくも神々しい。人を象っていながらも遠く離れた、威容にして異様。

 ただの一声が大気を震わせ、ただの一歩が大地を揺らす。

 

 彼奴こそはビーストⅠ。

 グランドキャスターなぞ偽りの冠位。其は人類が生み出した、人類史をもっとも有効に悪用した大災害。

 

 

「テッメェ! ソロモンの皮をバリバリ破ったと思ったら、今度は全裸か! 汚い乳首をマシュとジャンヌに見せんじゃねぇよ! 怖がってんだろうが!」

 

「………………え? はい? 何の話です――」

 

「――――うるるる」

 

「何だその乳首は!! 早く隠せ!!」

 

「ふざけた乳首しやがって」

 

「…………大したものだよ、お主らは」

 

「ふむ。毎度のこととは言え、大したマイペースぶりだな。オレも人の事を言えた義理ではないが」

 

 

 だが、人類悪だろうが何だろうが、関係ないとばかりのこの態度である。

 全ては虎太郎の責任だ。マシュも呪腕もロビンも、虎太郎があんなんだからノっただけだ。

 ジャンヌは困惑、スカサハは呆れ、カルナは相変わらずのマイペースぶりである。

 

 

『…………………………………………茶番は終わりだ』

 

「その通りだよ、ゲーティア。お前の三千年に及ぶ研鑽と旅路という名の茶番劇は、此処で終わる」

 

『ぬかせ。最後には死で終わるしかない、死を克服できなかった生命体が何を囀る――――さあ、芥のように燃え尽きよ!』

 

 

 虎太郎は一歩も引かない。

 彼に付いてきた者達も同様だ。各々の武器を構え、穂先をゲーティアへと向けている。

 

 ――人理焼却を巡る、最後の戦いの火蓋は、こうして、斬って落とされた。

 

 光帯が回る。

 あれこそは、ゲーティアの宝具にして、無限に重ねた人類史そのもの。人類史全てを熱量に変換したものである。

 

 この熱量を上回るものは、神秘であれ、科学であれ、地球上に存在しない。

 放たれれば、全てが消滅する。これまで越えてきた全ての試練が、皆が尽くした死力が無駄になる。

 

 なのに―――

 

 

(撃ってこい、ゲーティア。お前の目論見が何であれ、成就はしない。その点、オレは仕事は九割は終わっている。だが、オレの勝ちには、その一撃が不可欠だ)

 

 

 ――――この場において、ただ一人だけが腹の底で嗤っていた。

 

 




というわけで、ぐだ男とは違って絆の力ではなく、あんなんに負けてられねぇと言わんばかりの負けん気で集った英雄達&レフをボコって魔神柱制圧戦丸々スルー&ラスボスを前にしても平常運転の一行、でした。

次回は、御館様が張った伏線が回収されることに! ……なるといいなぁ。

では、次回もお楽しみに!
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